説明

偏光フィルムの配置方法及び偏光プラスチックレンズの製造方法

【課題】偏光フィルムが丸まりにくく、偏光フィルムを内部に保持させる際の作業が簡単な偏光プラスチックレンズの製造方法及びそのようなレンズを製造するための偏光フィルムの配置方法を提供すること。
【解決手段】周縁に丸まり防止用の屈曲部を有する一軸延伸させた偏光フィルム35の裏面を吸着パッド9A,9Bによって吸着保持しながら屈曲部37をカットする。一方、第1のレンズ用モールドを底部として同モールドの周囲を間隔保持用モールドで包囲して天井側が開口された容器形状のモールドセットを別途用意する。そしてカットした偏光フィルム35を保持した吸着パッド9A,9Bを間隔保持用モールドの内周面に配設された上下一対の弾性挟持片によって周縁部を挟持させるようにし、吸着パッド9A,9Bの吸着状態を解除して偏光フィルム35を同間隔保持用モールド側に預けるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼鏡用レンズ、カメラ用レンズや液晶表示装置の画像表示体等に用いられる偏光プラスチックレンズの製造方法及びそのようなレンズを製造するための偏光フィルムの配置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から偏光フィルムが内部に保持された偏光プラスチックレンズが眼鏡用レンズ、カメラ用レンズあるいは液晶表示装置の画像表示体等に広く用いられている。このような偏光プラスチックレンズの製造方法の一例として例えば特許文献1を挙げる。特許文献1は眼鏡用偏光プラスチックレンズに関する技術であって、その図2に示すように偏光フィルムをモールドに保持させた状態でモールド内のキャビティに調合されたモノマー(重合原料)を充填し、加熱硬化させた後に脱型させるように製造するのが一般的である。このような製造方法によって特許文献1の図1に示すような偏光フィルムがレンズによって表裏からサンドイッチ状に挟まれた偏光プラスチックレンズが得られるようになっている。
【特許文献1】特開2005−99687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、一般に偏光フィルムは一軸延伸したプラスチックフィルムに偏光子を含浸させて偏光性を持たせるようにしているため、単独の偏光フィルムは延伸方向に沿って非常に丸まりやすい性質を有している。特に、眼鏡用偏光プラスチックレンズでは偏光フィルムをレンズカーブに沿わせるためにフィルムシートをプレス成形して球面形状に湾曲させた偏光フィルムを使用しているため丸まりやすい性質がより強く非常に扱いにくく、特許文献1の図2のように偏光フィルムをモールドにセットする作業が非常に面倒なものとなっている。例えばフィルムシートをプレス成形する際に周縁部分に屈曲部を形成する加工を施すことで丸まりを防止することも行われてはいるものの、それは主として運搬の際の便宜を考慮したものであって、偏光フィルムをモールドにセットする際には屈曲部は邪魔なので最終的にカットしなければならず、やはり偏光フィルムが丸まりやすいものとっていることには変わりはなかった。
そのため偏光フィルムをモールドにセットする際に偏光フィルムが丸まりにくく、作業効率のよい製造方法が求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、偏光フィルムが丸まりにくく、偏光フィルムを内部に保持させる際の作業が簡単な偏光プラスチックレンズの製造方法及びそのようなレンズを製造するための偏光フィルムの配置方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために第1の手段では、レンズの表裏いずれか一方の面を形成するための第1のレンズ用モールドと、いずれか他方の面を形成するための第2のレンズ用モールドとを所定間隔を空けて間隔保持用モールドに保持させてレンズ用モノマーを充填するためのキャビティを形成するようにしたモールドセットにおいて、同モールドセットのキャビティ内に一軸延伸した偏光フィルムを同両レンズ用モールドにそれぞれ対面させて配設するための偏光フィルムの配置方法であって、周縁に丸まり防止用の屈曲部を有する偏光フィルムの表裏いずれかの面を吸着パッドによって吸着保持しながら前記屈曲部をカットする一方、カットした同偏光フィルムを前記吸着パッドに保持させたまま前記間隔保持用モールドの内周面に配設された上下一対の弾性挟持片によって同偏光フィルムのカットされた周縁部を挟持させ、同挟持片に同偏光フィルムを挟持させた段階で前記吸着パッドの吸着状態を解除して同偏光フィルムを同間隔保持用モールド側に預け、次いで同吸着パッドを同偏光フィルムから離間させた後にモールドセットを組み立てるようにしたことをその要旨とする。
また、第2の手段では第1の手段に加え、前記第1のレンズ用モールドを底部として同モールドの周囲を前記間隔保持用モールドで包囲して天井側が開口された容器形状のモールドセットを構成し、カットした前記偏光フィルムを吸着保持した前記吸着パッドは相対的に同モールドの開口側から前記間隔保持用モールドに接近させて前記挟持片に同偏光フィルムに挟持させるようにしたことをその要旨とする。
また、第3の手段では一軸延伸した偏光フィルムをプラスチック内部に保持させた偏光プラスチックレンズの製造方法であって、周縁に丸まり防止用の屈曲部を有する一軸延伸させた偏光フィルムの表裏いずれかの面を吸着パッドによって吸着保持しながら前記屈曲部をカットする一方、レンズの表裏いずれか一方の面を形成するための第1のレンズ用モールドを底部として同モールドの周囲を間隔保持用モールドで包囲して天井側が開口された容器形状のモールドセットを構成し、カットした偏光フィルムを前記吸着パッドに保持させたまま相対的に同モールドの開口側から接近させて同モールドの表面と所定の間隔を空けた状態で前記間隔保持用モールドの内周面に配設された上下一対の弾性挟持片によって同偏光フィルムのカットされた周縁部を挟持させ、同挟持片に同偏光フィルムを挟持させた段階で前記吸着パッドの吸着状態を解除して同偏光フィルムを同間隔保持用モールド側に預け、次いで同吸着パッドを同偏光フィルムから離間させるとともにレンズの表裏いずれか他方の面を形成するための第2のレンズ用モールドを同偏光フィルムと所定の間隔を空けた状態で前記間隔保持用モールドの天井寄りにセットし、同偏光フィルムを間に挟んで前記第1及び第2のレンズ用モールドの間に形成される2つのキャビティ内に調整したモノマーを充填し、同モノマーを硬化させた後に同第1及び第2のレンズ用モールドを離型させるようにしたことをその要旨とする。
また、第4の手段では第3の手段に加え、前記吸着パッドは前記偏光フィルムを吸着保持したまま第1の位置から第2の位置に移動し、同偏光フィルムは第1の位置でカット処理されるとともに第2の位置でカット後の同偏光フィルムを前記弾性挟持片に保持させるようにしたことをその要旨とする。
また、第5の手段では第3又は第4の手段に加え、前記偏光フィルムの前記屈曲部のカット処理は、台座上にセットされた同偏光フィルムを前記吸着パッドで吸着保持した状態で同吸着パッドの外側部分をカット手段によってカットするようにしたことをその要旨とする。
また、第6の手段では第5の手段に加え、前記カット手段は前記偏光フィルムへの当接面が線状かつリング状に延出される発熱体であり、同発熱体によって同偏光フィルムの前記台座との間に挟持される部分を溶かしてカットすることをその要旨とする。
【0005】
上記手段によれば、まず屈曲部が形成された一軸延伸した偏光フィルムの表裏いずれかの面を吸着パッドによって吸着保持する。吸着パッドを偏光フィルムの表面に吸着させる吸着手段としては電動ポンプによる真空引きが制御しやすく吸着が確実であるので好ましい。このように偏光フィルムの表面を吸着保持することで屈曲部をカットしても残余部分が丸まることはなくなる。
屈曲部はなんらかのカット手段でカットできればよく、その手段は問わない。例えば、切刃のような刃物によって実際に切り裂いてもよく、レーザーカッター装置を使用してもよい。その場合には台座上にセットされた偏光フィルムを吸着パッドで吸着保持した状態で吸着パッドの外側部分をカット手段によってカットすることが好ましい。このようなカット方法であると偏光フィルムがしっかりと保持されているため、カットしやすくカットの乱れがなくなる。
更に、カット手段は偏光フィルムへの当接面が線状かつリング状に延出される発熱体であって、その発熱体によって偏光フィルムの台座との間に挟持される部分を溶かしてカットすることが好ましい。これによって偏光フィルムがしっかりと押さえつけられながら、なおかつ発熱体で一気に偏光フィルムが溶かされてカットされるため、迅速で正確なカッティングが実現できる。
【0006】
一方、カットした偏光フィルムは吸着パッドに吸着させたまま間隔保持用モールドの内周面に形成された上下一対の弾性挟持片に挟持させる。弾性挟持片は接近する偏光フィルムの周縁に押動されて撓んでいき、偏光フィルムの進出に伴って下方に撓まされていた上側の挟持片が偏光フィルムの上方に自身の弾性によって復帰する。この作用によって偏光フィルムは上下の挟持片の間に保持されることなる。尚、ここで上下とは間隔保持用モールドの内周面に対する両挟持片の位置関係を分かりやすくするために上下と言っているに過ぎず、必ずしも間隔保持用モールドの内周面が垂直に立設されている場合のみをいうものではない。
主として作業の効率化から第1のレンズ用モールドを底部として同モールドの周囲を間隔保持用モールドで包囲して天井側が開口された容器形状のモールドセットを構成し、この状態で開口側から相対的にカットした偏光フィルムを保持した吸着パッドを接近させるようにすることが好ましい。
この段階で吸着パッドの吸着状態を解除して、吸着パッドを偏光フィルムから離間させる。この状態で第1又は/及び第2のレンズ用モールドを間隔保持用モールドに保持させてることで偏光フィルムを間に挟んだモールドセットが構築されることとなる。
そして偏光フィルムと第1及び第2のレンズ用モールドの間に形成される2つのキャビティ内に調整したモノマーを充填する。
このようにしてキャビティ内にモノマーが充填された第1及び第2のレンズ用モールドについてモノマーを硬化させる。硬化手段としては加熱処理による熱加熱、マイクロ波照射による誘電加熱、紫外線のような高エネルギー線の照射による光硬化等が挙げられる。モノマーが硬化した後は、定法に従って第1及び第2のレンズ用モールドを離型させて偏光プラスチックレンズを得る。得られた偏光プラスチックレンズはそのまま製品とすることも可能であり、さらに、周縁やレンズ表裏面を切削、あるいは研削することで所望の形状あるいは所望のレンズ特性の偏光プラスチックレンズを得るようにしてもよい。
偏光フィルムのカット処理とカット後の偏光フィルムを第1及び第2のレンズ用モールド間に配置する処理は同じ位置で行ってもよいが、異なる2つの位置でそれぞれ行うことが作業効率の点から好ましい。
【発明の効果】
【0007】
上記各請求項の発明では、偏光フィルムの屈折部をカットしても偏光フィルムは丸まってしまうことがなく原形を保つことが可能であり、なおかつ原形を保ったままモールドセットの内部に配置させることができるため、偏光フィルムをプラスチック内部に保持させた偏光プラスチックレンズを製造する際の製造工程が非常に効率化し、結果として偏光プラスチックレンズの製造コストの削減となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の具体的な実施例として偏光フィルムの配置方法及び眼鏡用偏光プラスチックレンズの製造方法を図面に基づいて説明する。
本実施例では図1に示すようなレンズ製造装置1によって上記発明が実現される。
レンズ製造装置1はベース2上に用意された2つの処理ステーション3,4を備えている。両処理ステーション3,4の間にはエアシリンダ装置5が配設されている。エアシリンダ装置5のロッド6は外部からの図示しないコンプレッサから供給されるエアのポート切り換えによって進退するとともに併設されたモータ7からの回転力をベルト8を介して伝達されることによって180°の振幅で回動するようになっている。
ロッド6の先端には天秤梁状に支持されたアーム3が固着されている。アーム3はロッド6の進退と回動に伴って上下方向に移動するとともにロッド6を中心に180°回動する。
アーム3の両端は下方に屈曲形成された屈曲部3aとされている。両屈曲部3aの先端位置にはそれぞれ吸着パッド9が取着されている。本実施例では図1において左方を第1の吸着パッド9Aとし、右方を第1の吸着パッド9Bとする。各吸着パッド9A,9Bにはそれぞれ熱カッター装置10が併設されている。図2及び図11に示すように、各吸着パッド9A,9Bは下方に向かって凸状に突出形成された当接面9aを備えている。吸着パッド9A,9Bは底面視において外郭円形形状(点対称形状)とされている。吸着パッド9A,9Bの内部には放射状に配設された吸引管11が配設されており、各吸引管11の先端の開口部11aは当接面9aの周縁寄りに開口されている。各吸引管11は吸着パッド9A,9B中央位置で接続されて主吸引管12を構成している。主吸引管12は屈曲部3a内部を通って電動ポンプ装置13に接続されている。
【0009】
吸着パッド9A,9Bを覆うように熱カッター装置10が配設されている。熱カッター装置10は吸着パッド9A,9B上に載置されたソレノイド装置15のロッド15aによって支持されるとともに屈曲部3aに対してソケット16を介して挿通されて上下方向にスライド移動可能とされている。熱カッター装置10は屈曲部3aに嵌合されたスライダ17とスライダ17の周囲に連結ビーム18を介してリング状に配設された発熱スカート19とから構成されている。発熱スカート19の下端は下方に向かって先細りとされたカット縁19aとされている。発熱スカート19内にはジュール熱によって発熱する発熱体20が内蔵されている。発熱スカート19は熱伝導性のよいアルミ合金のような金属合金製とされている。一方、発熱スカート19とスライダ17とを連結する連結ビーム18は熱伝導性の悪いチタン合金のような金属合金製とされている。
熱カッター装置10はソレノイド装置15の励磁・非励磁に伴うロッド15aの進退によって吸着パッド9A,9Bに対して上方の退避位置と下方の進出位置を取りうる。
【0010】
次に第1の処理ステーション3について説明する。図3に示すように、第1の処理ステーション3には第1及び第2の台座21,22が配設されている。両台座21,22はそれぞれリング状のブロック体であって、内部が肉のない中抜き状に構成されている。第1の台座21は上面に内側に傾斜した斜状の当接面21aが全周に渡って形成されている。第2の台座22は第1の台座21に隣接した外側位置に配設され、上方に突起したフランジ部22aを全周に備えている。
次に第2の処理ステーション4について説明する。図7に示すように、第2の処理ステーション4には第3及び第4の台座23,24が配設されている。第3の台座23は皿状のブロック体であって、その上面は凹状に構成されている。第4の台座24はリング状のブロック体であって、第3の台座23を取り巻くように配置されている。第3の台座23の上には第1のモールド25が載置される。第1のモールド25は表裏とも同じ曲率の球面から構成されたメニスカス形状のガラス製の円形板状体とされている。第1のモールド25の裏面(上側を向いた面)25aは成形されるプラスチックレンズの表面(物体側)を成形するための曲面とされる。
第1のモールド25と第4の台座24とによって全周に渡って構成される溝部26内にはシリコーン製の間隔保持用モールドとしての間隔保持リング27が嵌合されている。間隔保持リング27は第1のモールド25の全周を包囲するように配置される。図12に示すように、間隔保持リング27の内周面27aには上下一対のシリコーン製の挟持片28が内周面27aの周方向に沿って等間隔で植設されている。間隔保持リング27には内側に傾斜した斜状の載置面27bが全周に渡って形成されている。間隔保持リング27には図示しないモノマー注入孔が形成されている。
載置面27bには第2のモールド29が載置される。第2のモールド29は表裏とも同じ曲率の球面から構成されたメニスカス形状のガラス製の円形板状体とされている。第2のモールド29の裏面(下側を向いた面)29aは成形されるプラスチックレンズの裏面(眼球側)を成形するための曲面とされる。
第1のモールド25、第2のモールド29及び間隔保持リング27は常に第2の処理ステーション4内に同じものが配置されているのではなく、後述するカットした偏光フィルム35を挟持片28にセットされモノマーが注入された段階で第2の処理ステーション4から取り出されて次のモールド25,27,29がセットされることとなる。
上記アーム3両端にそれぞれ配設された第1及び第2の吸着パッド9A,9Bはこの2つの処理ステーション3,4の上方に配置されてアーム3と共に上下動して処理ステーション3,4に対して接離するとともにアーム3と共に回動(旋回)して両処理ステーション3,4間を交互に移動する。
【0011】
次にこのように構成されるレンズ製造装置1の電気的構成について簡単に説明する。本実施例における動作制御はシーケンサーによって実行させられるが、他の制御手段によって実行させることも可能である。
図13に示すように、中央処理装置(CPU)やメモリ等から構成されるシーケンサーのコントローラCにはエアシリンダ装置5用のコンプレッサのポート切り換えバルブ30、モータ7、電動ポンプ装置のポート切り換えバルブ31、ソレノイド装置15、発熱スカート19がそれぞれ接続されている。また、アーム3の上下位置を検出するためのエアシリンダ装置5に内蔵された第1及び第2の近接センサ32,33及びアーム3の回動位置を検出するためのモータ7に内蔵されたロータリエンコーダ34が接続されている。
シーケンサーはスタートスイッチの入力後、第1及び第2の近接センサ32,33からの出力信号及びロータリエンコーダ34の検出値に基づいて吸着パッド9A,9Bを上下動させるとともに2つの処理ステーション3,4を移動させ、更に内蔵されたタイマーによって経過時間のカウントを行い偏光フィルム35のカットとカットした偏光フィルム35のモールド27内へのセットを行う。
【0012】
次にこのようなレンズ製造装置1を使用したプラスチックレンズの製造方法について説明する。偏光フィルムがカットされて挟持片28に挟持されるまでは図14のフローチャートに基づいて説明する。
まず、図3に示すように、第1の処理ステーション3において作業者は第1及び第2の台座21,22上に偏光フィルム35をセットする。ここに本実施例に使用される偏光フィルム35は一軸延伸したPVA(ポリビニルアルコール)製フィルムを円形にカットし、周知のプレス手段によってプレスすることで球面形状の湾曲面36と丸まり防止用の屈曲部37を形成させたものである(図示では偏光フィルム35の断面部のみ表示)。この湾曲面36のカーブは製造される予定の眼鏡用偏光プラスチックレンズのベースカーブと略同じカーブとされている。また吸着パッド9A,9Bの当接面9aのカーブとも略同じカーブとされている。
スタートスイッチの入力によってシーケンサーのコントローラCは次のような制御を実行する。尚、スタート当初の原点位置として第1の吸着パッド9Aは第1の処理ステーション3の上方位置にあり、第2の吸着パッド9Bは第2の処理ステーション4の上方位置にある。つまり、エアシリンダ装置5のロッド6が上方に進出した状態となっている(アーム3が上方で停止状態)。以下、第1の吸着パッド9A側の挙動を中心に説明する。
【0013】
ステップS1において、コントローラCはエアシリンダ装置5のコンプレッサのポートを切り換え制御して上方に停止しているアーム3を下動させる。同時に発熱スカート19へ通電させて加熱を開始させる。コントローラCは第1の近接センサ31の検出信号に基づいてロッド6が所定の下動位置に達したと判断すると、ステップS2においてアーム3を停止させる。図4に示すようにこの位置は第1の吸着パッド9Aの当接面9aがセットした偏光フィルム35の湾曲面36にちょうど当接する位置となっている。このアーム3の停止と同時に電動ポンプ装置13のポートを第1の吸着パッド9A側に切り換え偏光フィルム35を第1の吸着パッド9Aに吸着保持させる。
次いで、ステップS3でコントローラCはソレノイド装置15を駆動させて図4の状態の熱カッター装置10を図5のように下動させる。すると加熱状態にある発熱スカート19のカット縁19aが偏光フィルム35の湾曲面36の屈曲部37寄り全周に当接して熱によって当接部部分を溶かし、屈曲部37側を切り離すこととなる。
次いで、ステップS4でコントローラCはソレノイド装置15を駆動させて熱カッター装置10を再び上動させるとともに、エアシリンダ装置5のコンプレッサのポートを切り換え制御してアーム3を上動させる。同時に発熱スカート19への通電を停止する。この際図6のようにカットされた偏光フィルム35はアーム3の上動とともに第1の吸着パッド9Aに吸着されて第1の処理ステーション3から取り出されることとなる。
尚、第1回目のルーチンにおいては第2の処理ステーション4側の第2の吸着パッド9Bは処理すべき偏光フィルム35を保持していないため、第2の吸着パッド9Bはアーム3の上下動に伴って単にデモンストレーション的に上下するだけとなる。
【0014】
次いで、コントローラCは第2の近接センサ32の検出信号に基づいてロッド6が所定の上動位置に達したと判断するとステップS5でアーム3を停止させる。これでアーム3は初期位置に復帰したこととなる。直ちにコントローラCはステップS6でモータ7を駆動させてアーム3を180°回動(旋回)させる。これによって第1の吸着パッド9Aは第2の処理ステーション4側に、第2の吸着パッド9Bは第1の処理ステーション3側に移動することとなる。この段階でコントローラCは所定時間をカウントし、(ここでは例えば5秒に設定する)次のステップS6に移行する。ここで所定時間をカウントするのは第1の処理ステーション3に次の偏光フィルム35をセットしたり、作業内容をチェックしたりする時間的余裕を作業者に与えるためである。
以下、第2の処理ステーション4側に移動した第1の吸着パッド9Aの挙動を続いて説明する。この挙動は第1の吸着パッド9Aが第1の処理ステーション4側にある場合の第2の吸着パッド9Bの挙動でもある。
コントローラCはステップS7で再びエアシリンダ装置5のコンプレッサのポートを切り換え制御して上方に停止しているアーム3を下動させる。
コントローラCは第1の近接センサ31の検出信号に基づいてロッド6が所定の下動位置に達したと判断すると、ステップS8においてアーム3を停止させる。このアーム3の停止と同時に電動ポンプ装置13のポートを第1の吸着パッド9A側に切り換え偏光フィルム35に対する第1の吸着パッド9Aの吸着保持を解除させる。この位置は図8に示すようにちょうど第1の吸着パッド9Aに吸着保持されたカット後の偏光フィルム35が第1のモールド25の裏面25aと所定距離を保った間隔保持リング27の挟持片28に挟持される位置となる。
偏光フィルム35の挟持片28による保持作用は次のように行われる。第1の吸着パッド9Aの下動に伴って上下一対の挟持片28は偏光フィルム35の周縁に押動されて下方に撓むこととなる。つまり偏光フィルム35が無理嵌め状に挟持片28を押し退けていくと考えることができる。偏光フィルム35が上側の挟持片28を押し退けてその下側に進出することで上側の挟持片28は自身の弾性で元の状態に復帰すると、その段階で偏光フィルム35は上下の挟持片28の間に保持されることなる。
【0015】
次いで、コントローラCはステップS9でエアシリンダ装置5のコンプレッサのポートを切り換え制御してアーム3を上動させる。この場合ではすでに偏光フィルム35は挟持片28によって保持されているため、第1の吸着パッド9Aのみがアーム3とともに上動することとなる。コントローラCは第2の近接センサ32の検出信号に基づいてロッド6が所定の上動位置に達したと判断するとステップS10でアーム3を停止させ、一回のルーチンが終了する。第1の吸着パッド9AがステップS7〜ステップS10を実行している間には第1の処理ステーション4側の第2の吸着パッド9BはステップS1〜ステップS6を実行することとなる。
以後はこの繰り返しとなる。つまり第1の吸着パッド9Aが第1の処理ステーション3側で上記ステップS1〜ステップS6を実行している際には、第2の処理ステーション3側では第2の吸着パッド9Bについて同時に上記ステップS7〜ステップS11が実行されることとなり、第1の吸着パッド9Aが第2の処理ステーション4側で上記ステップS7〜ステップS11を実行している際には、第1の処理ステーション3側では第2の吸着パッド9Bについて同時に上記ステップS1〜ステップS6が実行されることとなる。
【0016】
上記ステップS9でアーム3が上動すると同時に作業者は第2のモールド29を間隔保持リング27の載置面27bに載置する。これでモールドセットが組み立てられることとなる。モールドセット内には偏光フィルム35を間にして上下2つのキャビティC1,C2が形成されることとなる。
そして調合されたモノマーを減圧下で脱気処理した後、図示しないシリンジを使用して充填口となる間隔保持リング27のモノマー注入孔から定法に従って充填する。
そして、充填後、第2処理ステーション4からモールドセットを取り出して定法に従って加熱する。例えば本実施例では加熱炉に導入し、所定の加熱履歴で20時間の加熱を施すものとするが、マイクロ波発生装置に導入しマイクロ波照射による誘電加熱を行ってもよい。加熱処理後に各モールド25,27,29を離型した偏光プラスチックレンズを得る。
【0017】
このように構成することにより本実施例では次のような効果を奏する。
(1)一軸延伸していることから丸まってしまう偏光フィルム35をカットからモールドセット内へのセットまでの一連の作業でまったく丸まることなくスムーズに処理できるため、作業効率がアップする。
(2)既に第1のモールド25と間隔保持リング27がセットされており、偏光フィルム35が取り付けられてからは第2のモールド29を間隔保持リング27の載置面27bに載置するだけで、モールドセットが組み上がるため、作業者の作業が複雑化せずその後のモールドセットの加熱炉への移動も楽に行うことができる。
(3)アーム3のは第1及び第2の吸着パッド9A,9Bの2つのパッドが設けられているため、同時に偏光フィルム35のカットとカットした偏光フィルム35の取り付けの作業を平行して行うことができ、作業効率がアップする。
(4)発熱スカート19を下動させて偏光フィルム35の全周を一遍に円形にカットするようにしているため、カット作業を迅速に行うことができる。
【0018】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・上記実施例では第2の処理ステーション4でモノマーを注入したが、第2の処理ステーション4ではモノマーを注入は行わず、モールドセットが組み立てた段階でモールドセットを他の作業スペースへ移動させるようにしてもよい。つまり、第1及び第2の処理ステーション3,4では偏光フィルム35のカットとカットした偏光フィルム35の取り付けのみに特化した作業としてもよい。このようにすればモールドセットの組み立て作業のみをより迅速に行うことができることとなる。
・上記実施例では第2の処理ステーション4では図7に示すように第1のモールド25と間隔保持リング27を予めセットするようにしていたが、間隔保持リング27のみをセットするようにしてもよい。つまり、偏光フィルム35の取り付けのみを行うようにしてもよい。
・カットした偏光フィルム35ほ挟持する挟持片28は上記実施例では図12のように別体の片体が多数内周面27aの周方向に沿って等間隔で植設されるような構成であったが、内周面27aの周方向に沿ったスカート状の弾性部材に切れ目を入れるような構成で実現することも可能である。
・上記実施例では発熱スカート19で偏光フィルム35をカットするようにしたが、レーザー装置や実際の刃物からなるカッターでカットすることも可能である。
モールドセットはバラバラにならないようにクリップを使用して形状を保持するようにしてもよい。クリップの代わりにテープを使用することも可能である。
・上記実施例ではレンズ製造装置1はアーム3を上下動及び旋回させるような構成であったが、偏光フィルム35をカットした後にモールド側にセットすることができれば上記のような装置に限定されることはない。
・その他、本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例に使用されるレンズ製造装置の概略正面図。
【図2】アームに取り付けられた吸着パッドの簡略化した拡大正面図。
【図3】第1の処理ステーション内の第1及び第2の台座にカット前の偏光フィルムをセットする状態を説明する説明図。
【図4】第1及び第2の台座にセットした偏光フィルムに吸着パッドを当接させた状態を簡略化して説明する説明図。
【図5】第1及び第2の台座にセットした偏光フィルムを発熱スカートによってカットしている状態を簡略化して説明する説明図。
【図6】カットした偏光フィルムを吸着パッドによって吸着保持させた状態の簡略化した説明図。
【図7】第2の処理ステーション内に配設された第1のモールド、間隔保持リング、第3及び第4の台座の簡略化した断面図。
【図8】吸着パッドを下動させて間隔保持リングの挟持片に偏光フィルムを挟持させた状態を簡略化して説明する説明図。
【図9】間隔保持リングの挟持片に偏光フィルムを挟持させた状態を簡略化して説明する説明図。
【図10】図9の状態において第2のモールドをセットした状態の断面図。
【図11】吸着パッドの簡略化した平面図。
【図12】間隔保持リングの簡略化した平面図。
【図13】レンズ製造装置の電気的構成を説明するブロック図。
【図14】偏光フィルムがカットされて挟持片に挟持されるまでのルーチンを説明するフローチャート。
【符号の説明】
【0020】
9A,9B…吸着パッド、25…第1のレンズ用モールドとしての第1のモールド、27…間隔保持用モールドとしての間隔保持リング、28…弾性挟持片、29…第2のレンズ用モールド、35…偏光フィルム、37…屈曲部、C1,C2…キャビティ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズの表裏いずれか一方の面を形成するための第1のレンズ用モールドと、いずれか他方の面を形成するための第2のレンズ用モールドとを所定間隔を空けて間隔保持用モールドに保持させてレンズ用モノマーを充填するためのキャビティを形成するようにしたモールドセットにおいて、同モールドセットのキャビティ内に一軸延伸した偏光フィルムを同両レンズ用モールドにそれぞれ対面させて配設するための偏光フィルムの配置方法であって、
周縁に丸まり防止用の屈曲部を有する偏光フィルムの表裏いずれかの面を吸着パッドによって吸着保持しながら前記屈曲部をカットする一方、カットした同偏光フィルムを前記吸着パッドに保持させたまま前記間隔保持用モールドの内周面に配設された上下一対の弾性挟持片によって同偏光フィルムのカットされた周縁部を挟持させ、同挟持片に同偏光フィルムを挟持させた段階で前記吸着パッドの吸着状態を解除して同偏光フィルムを同間隔保持用モールド側に預け、次いで同吸着パッドを同偏光フィルムから離間させた後にモールドセットを組み立てるようにしたことを特徴とする偏光フィルムの配置方法。
【請求項2】
前記第1のレンズ用モールドを底部として同モールドの周囲を前記間隔保持用モールドで包囲して天井側が開口された容器形状のモールドセットを構成し、カットした前記偏光フィルムを吸着保持した前記吸着パッドは相対的に同モールドの開口側から前記間隔保持用モールドに接近させて前記挟持片に同偏光フィルムに挟持させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の偏光フィルムの配置方法。
【請求項3】
一軸延伸した偏光フィルムをプラスチック内部に保持させた偏光プラスチックレンズの製造方法であって、
周縁に丸まり防止用の屈曲部を有する一軸延伸させた偏光フィルムの表裏いずれかの面を吸着パッドによって吸着保持しながら前記屈曲部をカットする一方、レンズの表裏いずれか一方の面を形成するための第1のレンズ用モールドを底部として同モールドの周囲を間隔保持用モールドで包囲して天井側が開口された容器形状のモールドセットを構成し、カットした偏光フィルムを前記吸着パッドに保持させたまま相対的に同モールドの開口側から接近させて同モールドの表面と所定の間隔を空けた状態で前記間隔保持用モールドの内周面に配設された上下一対の弾性挟持片によって同偏光フィルムのカットされた周縁部を挟持させ、同挟持片に同偏光フィルムを挟持させた段階で前記吸着パッドの吸着状態を解除して同偏光フィルムを同間隔保持用モールド側に預け、次いで同吸着パッドを同偏光フィルムから離間させるとともにレンズの表裏いずれか他方の面を形成するための第2のレンズ用モールドを同偏光フィルムと所定の間隔を空けた状態で前記間隔保持用モールドの天井寄りにセットし、同偏光フィルムを間に挟んで前記第1及び第2のレンズ用モールドの間に形成される2つのキャビティ内に調整したモノマーを充填し、同モノマーを硬化させた後に同第1及び第2のレンズ用モールドを離型させるようにしたことを特徴とする偏光プラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
前記吸着パッドは前記偏光フィルムを吸着保持したまま第1の位置から第2の位置に移動し、同偏光フィルムは第1の位置でカット処理されるとともに第2の位置でカット後の同偏光フィルムを前記弾性挟持片に保持させることを特徴とする請求項3に記載の偏光プラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
前記偏光フィルムの前記屈曲部のカット処理は、台座上にセットされた同偏光フィルムを前記吸着パッドで吸着保持した状態で同吸着パッドの外側部分をカット手段によってカットすることを特徴とする請求項3又は4に記載の偏光プラスチックレンズの製造方法。
【請求項6】
前記カット手段は前記偏光フィルムへの当接面が線状かつリング状に延出される発熱体であり、同発熱体によって同偏光フィルムの前記台座との間に挟持される部分を溶かしてカットすることを特徴とする請求項5に記載の偏光プラスチックレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−103773(P2009−103773A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273355(P2007−273355)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(301074388)株式会社 サンルックス (12)
【Fターム(参考)】