説明

偏光性回折素子

【課題】光ディスクの情報の記録および再生時に安定した信号検出ができる光ヘッド装置を提供する。
【解決手段】半導体レーザ5からの出射光である第1の直線偏光の入射光に対しては3ビームの発生用回折格子として作用し、かつ光ディスク7からの反射戻り光である、第1の直線偏光と直交する偏光方向の第2の直線偏光の入射光に対しては光源から遠ざける回折格子として作用する複屈折性材料からなる偏光性回折素子1を作製して、この偏光性回折素子1を光ヘッド装置の光源5とビームスプリッタ4との間の光路中に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクなどの光記録媒体の情報の記録および再生に使用する光ヘッド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばCDやDVDのような光ディスク、または光磁気ディスクなどの光記録媒体(以下、これらをまとめて「光ディスク」という)の情報記録面上に情報を書き込んだり(以下、「記録」という)、または情報記録面上の情報を読み取ったり(以下、「再生」という)する光ヘッド装置が各種用いられている。
【0003】
図6は従来の光ヘッド装置の一例について概略を示す側面図である。半導体レーザ5からの出射光は、ビームスプリッタ4の半導体レーザ5側の表面に形成された反射膜(図示せず)により反射され、対物レンズ3により光ディスク7の情報記録面に集光される。ここで、反射膜は入射光の一部を透過し残りの光を反射する部分反射膜である。光ディスク7からの反射光は、再び対物レンズ3を透過し、一部の光がビームスプリッタ4を透過した後光検出器6の受光面に集光され、残りの光がビームスプリッタ4の反射膜により反射され戻り光となって半導体レーザ5の発光点に集光される。光検出器6において、受光した光が電気信号に変換され、この受光光量に応じた電気信号はアンプで増幅され、さらに自動ゲイン補正回路で適宜ゲインが補正されて信号レベルが一定範囲に調整されて出力される。
【0004】
なお、光ヘッド装置の構成として、ビームスプリッタ4と対物レンズ3との間にコリメートレンズを配置する場合や、ビームスプリッタ4と光検出器6との間にシリンドリカルレンズや凹レンズを配置する場合がある。また、CD用の波長790nm帯域の半導体レーザとDVD用の波長650nm帯域の半導体レーザとを2個用いた構成の光ヘッド装置などがある。
【0005】
このような光ヘッド装置において、光源として用いられる半導体レーザの発光点に光ディスクの情報記録面からの反射戻り光が入射すると半導体レーザの出射光強度が不安定になり、その結果正確な情報の記録および再生ができなくなる問題が生じる。この問題を解決するために、半導体レーザ用電源の駆動電流に数百MHzの高周波電流を重畳する回路を設けて、半導体レーザの発振モードをシングルモードからマルチモードに変えることにより戻り光と発振光との干渉を低減して出射光強度を安定化している。
【0006】
また、半導体レーザと対物レンズとの間も光路中に半導体レーザの発振波長に対して位相差がπ/2となる1/4波長板2を配置し、1/4波長板を往復した戻り光の偏光状態を発振光の偏光状態から変化させることにより、戻り光と発振光との干渉を低減することで出射光強度を安定化している。しかし、CD−RやCD−RWなどの光ディスクの情報記録面に高速で情報を記録するために半導体レーザの出射光を高出力化すると、半導体レーザの発光点への戻り光強度も増大し、半導体レーザの出射光強度が不安定になり安定した記録および再生ができなくなる問題が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の実情に鑑み、比較的高出力な半導体レーザを光源として用いる光ヘッド装置において、光ディスクの情報の記録および再生時に安定した信号検出ができる光ヘッド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光源と、前記光源からの出射光を光記録媒体に集光する対物レンズと、前記光記録媒体からの反射光を検出する光検出器と、前記光源からの出射光を前記対物レンズ側へ反射しかつ前記光記録媒体からの反射光の一部を前記光検出器側へ透過するとともに反射光の残りの部分を前記光源側へ反射するビームスプリッタとを備え、前記光記録媒体に情報の記録および再生を行う光ヘッド装置であって、前記光源と前記ビームスプリッタとの間の光路中に、複屈折性材料からなる下記の偏光性回折素子が設置されていることを特徴とする光ヘッド装置を提供する。
偏光性回折素子:
前記光源からの出射光である第1の直線偏光が前記偏光性回折素子へ入射するときは、前記光記録媒体へ入射して信号検出するための3ビームの発生用回折格子として作用して、前記第1の直線偏光の50%以上を0次回折光として直進透過させ、また前記光記録媒体からの反射光であって前記第1の直線偏光と直交する偏光方向の第2の直線偏光が前記偏光性回折素子へ入射するときは、前記第2の直線偏光を光源から遠ざける回折格子として作用して、前記第2の直線偏光の90%以上を回折させる。
【0009】
また、前記偏光性回折素子は、常光屈折率nおよび異常光屈折率n(n≠n)を有する複屈折性材料を断面形状が段差dの周期的凹凸状となるよう加工され、その凹部に屈折率nの等方性屈折率透明材料が充填され、|n−n|×dが入射光の波長λの(m+1/2)倍である(mは0を含む正の整数)とともに、|n−n|×dが入射光の波長λの(k+1/4)倍から(k+1/12)倍まで(kは0を含む正の整数)の範囲にある上記の光ヘッド装置を提供する。さらに、前記偏光性回折素子に、または、前記偏光性回折素子と前記対物レンズとの間の光路中に、前記第1の直線偏光の入射光に対する透過光の位相差がπ/2の奇数倍となる位相板を配設し、前記第1の直線偏光の入射光が前記位相板を往復して透過することにより前記第2の直線偏光に変換される上記の光ヘッド装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明における偏光性回折素子を用いた光ヘッド装置において、半導体レーザの発光点への戻り光がなくなるため、半導体レーザの発振光強度が安定し、光ディスクの情報の記録および再生時に安定した信号検出ができる。また、部品点数の増加を招くことなく、光ディスクの情報を含む信号検出用の3ビームを発生する回折格子機能と、半導体レーザの発光点への戻り光を遮断する機能とを併せ持った偏光性回折素子からなる光ヘッド装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の光ヘッド装置の構成の一例を示す側面図。
【図2】本発明における偏光性回折素子の一例を示す図で、(a)第1の直線偏光が往路として入射した様子を示す側面図、(b)第2の直線偏光が復路として入射した様子を示す側面図。
【図3】本発明における偏光性回折素子の他の例を示す図で、(a)第1の直線偏光が往路として入射した様子を示す側面図、(b)第2の直線偏光が復路として入射した様子を示す側面図。
【図4】本発明における偏光性回折素子の別の例を示す図で、(a)第1の直線偏光が往路として入射した様子を示す側面図、(b)第2の直線偏光が復路として入射した様子を示す側面図。
【図5】本発明における偏光性回折素子のさらに別の例を示す図で、(a)第1の直線偏光が往路として入射した様子を示す側面図、(b)第2の直線偏光が復路として入射した様子を示す側面図。
【図6】従来の光ヘッド装置の構成の概略を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の光ヘッド装置の一例について概略を示す側面図である。第1の直線偏光を出射する光源である半導体レーザ5とビームスプリッタ4との光路中に偏光性回折素子1が設置されている以外は図6に示した従来の光ヘッド装置の構成と同じである。したがって、図6と同じ符号は同じ要素を示す。偏光性回折素子1は、光源(半導体レーザ)から出射する第1の直線偏光の入射光に対しては回折格子として作用せず入射光を透過し、かつ光記録媒体からの反射光であって、第1の直線偏光と直交する偏光方向の第2の直線偏光の入射光に対しては回折格子として作用し入射光を光源から遠ざけるように回折する。
【0013】
このような偏光性回折素子1が設置されているので、光ディスクにより反射され、さらにビームスプリッタ4に反射された第2の直線偏光は、回折されて半導体レーザに届かないので、半導体レーザの出射光強度が安定になり、その結果光ヘッド装置の正確な情報の記録および再生を行うことができる。ここで、入射光を半導体レーザから遠ざけるように回折する場合、半導体レーザに全く届かぬように避けてもよいが、半導体レーザの発光点を避けてもよい。ここでは、この場合も含んでいる。偏光性回折素子1は複屈折性材料からなり、複屈折性材料には光学結晶、高分子液晶などがある。生産性の容易さなどの観点から、高分子液晶を用いることが好ましい。
【0014】
図2は、本発明における偏光性回折素子の構成の一つの例を示す側面図である。偏光性回折素子である回折素子10は、透光性平面基板11の一方の面に、常光屈折率nおよび異常光屈折率n(n≠n)の複屈折性材料13を断面形状が段差dの周期的凹凸状となるよう加工し、その凹部に屈折率nの等方性屈折率透明材料14を充填する。そして、透光性平面基板11と、透光性平面基板12とで等方性屈折率透明材料14を挟み込んだ構造としている。透光性平面基板11および透光性平面基板12の空気との界面には反射防止膜が形成されていてもよい。
【0015】
ここで、例えば屈折率nが常光屈折率nと略等しい等方性屈折率透明材料14を用い、|n−n|×dが半導体レーザ5の発振波長λの(m+1/2)倍(mは0を含む正の整数)となる段差dとしている。ここでmは0、1または2であることが好ましい。3以上であると段差dの大きさが大きくなって、生産効率上好ましくない。mが0のときが最も生産効率がよく特に好ましい。
【0016】
このような構造の回折素子10を、図1の偏光性回折素子1として光ヘッド装置に搭載し、半導体レーザ5の出射光の第1の直線偏光が回折素子10に常光偏光(図2(a)中の◎)として入射するように配置する。このとき、複屈折性材料13の凹凸周期構造は,常光屈折率nと屈折率nとを略等しくしてあるため等方性屈折率層として作用し、第1の直線偏光の入射光は回折されることなく直進透過する。
【0017】
偏光性回折素子1(回折素子10)を透過した直線偏光は、光ディスク7で反射されるので、1/4波長板2を往復して透過し、第2の直線偏光の一部がビームスプリッタ4を透過して光検出器6に信号光として入射し、残りはビームスプリッタ4の反射膜(図示せず)で反射され偏光性回折素子1(回折素子10)に戻り光となって再入射する。このとき、戻り(復路)光の偏光方向が光ディスクへ向かう往路の直線偏光の偏光方向と直交する、第2の直線偏光である異常光直線偏光(図2(b)中の←→)となっているため、複屈折性材料13の凹凸周期構造は、位相差2π×(n−n)×d/λすなわち2π×λ×(m+1/2)/λで位相差π(m=0としてよい)の位相回折格子として作用する。そして、戻り光のほとんどは±1次以上の高次光として回折されるため、直進透過して半導体レーザ5の発光点に集光される戻り光はわずかとなる。
【0018】
また、複屈折性材料13の凹凸周期構造の格子ピッチPに応じて発生するQ次回折光の回折角度θは入射光の波長λに対して、sinθ=Qλ/Pの関係にある。ここで、Qは±1、±2、・・・の値をとる。半導体レーザ5の発光点に最も近い回折光は±1次回折光であるため、±1次回折光が半導体レーザ5の発振に影響しない領域、すなわち発光点と重ならない領域に回折されるように格子ピッチPを設定する。具体的には50μm以下の格子ピッチPとすることが好ましい。
【0019】
凹凸周期構造の格子パターンは格子を平面的に上から見ると通常直線状であるが、直線格子の格子方向が異なる領域に分割した分割パターンや、直線格子の代わりに曲線格子のホログラムパターンとしてもよい。その結果、高出力半導体レーザを光源として用いる光ヘッド装置において、半導体レーザの発光点に集光する戻り光はほとんどなくなり、上記のように半導体レーザの発振光強度が安定するため、光ディスクの情報の記録および再生時に安定した信号検出ができる。
【0020】
図3は、本発明における偏光性回折素子の構成の他の例を示す側面図である((a)第1の偏光が往路として入射した様子を示し、(b)第2の偏光が復路として入射した様子を示す。)。光ディスクにおける情報の再生のための信号検出法として、一般的に用いられている3ビームを使用する3ビーム法を適用するために、回折素子20において、透光性平面基板12の一方の面に光ディスクのトラッキングに用いるためのサブビームを発生する回折格子15が形成されている。回折格子15の回折効率は偏光方向に依存しない。他の構成は図2の回折素子10の構成と同じであり、その他の符号で図2と同じものは図2と同じ要素を示す。
【0021】
このような構造の回折素子20を、図1の偏光性回折素子1として光ヘッド装置に用いることにより、光ヘッド装置の部品点数および重量を増やすことなく光ディスクの情報の記録および再生時に安定した信号検出ができるので好ましい。すなわち、反射光の信号検出用の3ビームの発生素子として用いる、回折効率が偏光方向に依存しない回折格子が、偏光性回折素子にさらに形成されていることが好ましい。
【0022】
図4は本発明における偏光性回折素子の構成の別の例を示す側面図である((a)第1の偏光が往路として入射した様子を示し、(b)第2の偏光が復路として入射した様子を示す。)。図1の光ヘッド装置のビームスプリッタ4と対物レンズ3との間の光路中に配置された1/4波長板2の代わりに配置する。偏光性回折素子である回折素子30は、等方性屈折率透明材料14と透光性接着材17を用いて透光性平面基板11と透光性平面基板12との間に位相差がπ/2の奇数倍となる位相板16を挟み込んだ構成としている。他の構成は図3の回折素子20の構成と同じであり、その他の符号で図3と同じものは図3と同じ要素を示す。位相板16はポリカーボネート複屈折膜や高分子液晶などの位相差発生機能を有する有機薄膜位相板や水晶位相板が用いられる。
【0023】
このような構造の回折素子30を、図1の偏光性回折素子1として複屈折性材料13が半導体レーザ5側になるように配置することにより、光ヘッド装置の部品点数および重量が減少するとともに、光ディスクの信号の記録再生時に安定した信号検出ができるので好ましい。また、位相板を偏光性回折素子と対物レンズとの間の光路中に設置してもよい。
【0024】
図5は、本発明における偏光性回折素子の構成のさらに別の例を示す側面図である((a)第1の偏光が往路として入射した様子を示し、(b)第2の偏光が復路として入射した様子を示す。)。図4に示す偏光性の回折素子30では、複屈折性材料13を構成要素とする偏光性の回折格子と透光性平面基板12の一方の面に形成された回折格子15とが別々に形成されている。
【0025】
しかし、図5に示された回折素子40では複屈折性材料13を構成要素とする偏光性の回折格子のみであり、この回折格子40が図4の回折格子15の機能も果たす構成となっている。すなわち、図5(a)に示すように、第1の直線偏光は、0次回折光とともに、±1次回折光が発生し合計3ビームとなる。第1の直線偏光は、図5(b)に示すように、±1次回折光が発生し、この回折光は光源を避けるように(すなわち光源から遠ざけるように)偏向される。図5の符号で図4の符号と同じものは、図4と同じ要素を表わす。
【0026】
図5において、複屈折性材料13の常光屈折率nおよび異常光屈折率n(n≠n)が等方性屈折率透明材料14の屈折率nと異なり、|n−n|×dが半導体レーザの発振波長λの(m+1/2)倍(mは0を含む正の整数)となる段差dであるとともに、|n−n|×dが発振波長λの(k+1/4)倍から(k+1/12)倍のまでの範囲(kは0を含む整数)とすることが好ましい。ここでmとkは0、1または2であることが好ましい。3以上であると段差dの大きさが大きくなって、生産効率上好ましくない。mとkが0のときが最も生産効率がよく特に好ましい。
【0027】
このような構造の回折素子40を、図1の偏光性回折素子1として複屈折性材料13が半導体レーザ5側になるとともに、光ヘッド装置において半導体レーザ5の出射光の第1の直線偏光が複屈折性材料13に常光偏光として入射するように配置することが好ましい。この配置により、光ヘッド装置の部品点数および重量が減少するとともに、光ディスクの情報の記録および再生時に安定した信号検出ができる。
【0028】
このとき、往路において複屈折性材料13の凹凸周期構造は位相差が2π×(n−n)×d/λである、すなわち2π×λ×(k+1/4)/λから2π×λ×(k+1/12)/λまでであるから、位相差がπ/2からπ/6までの位相回折格子として作用するため(k=0としてよい)、回折効率の式から、50%から93%程度の0次回折光と20%から3%程度の±1次回折光が算出され、凹凸周期構造の格子ピッチを適宜設定することにより光ディスクの情報を含む信号検出用の3ビーム発生素子とすることができる。
【0029】
複屈折性材料13を透過した0次回折光と±1次回折光の直線偏光は位相板16を透過した後円偏光となって回折素子40を出射し、光ディスクで反射して戻り光となって再び回折素子40に入射する。位相板16を透過した後、往路の入射常光偏光と直交する偏光方向を有する異常光偏光となって複屈折性材料13に入射する。このとき、複屈折性材料13の凹凸周期構造は位相差が2π×(n−n)×d/λ(すなわち2π×λ×(m+1/2)/λ)であり、位相差がπの位相回折格子として作用し、戻り光の大部分は±1次以上の高次回折光となるため、直進透過して半導体レーザの発光点に集光される戻り光はわずかとなる。ここで、m=0としてよい。
【0030】
このような構造の回折素子40を用いることにより、一つの偏光性回折格子のみで、光ディスクの情報を含む信号検出用の3ビームの発生素子としての機能と半導体レーザの発光点への戻り光を偏向する機能を同時に実現できる。その結果、上記のように光ヘッド装置の部品点数および重量が減少するとともに、光ディスクの情報の記録および再生時に安定した信号検出ができる。
【実施例】
【0031】
「例1」(参考例)
まず、本例の光ヘッド装置に用いられた回折素子について、図4を用いて説明する。一方の面に反射防止膜が形成された透光性平面基板11であるガラス基板の他方の面上に、複屈折性材料13として常光屈折率nが1.55および異常光屈折率nが1.70の高分子液晶層を形成し、フォトリソグラフィとエッチングの技術により直線状の格子ピッチが5μm、凹部の深さが2.6μmの凹凸周期構造を作製した。また、透光性平面基板12の外側の面にSiOの膜を厚さ0.24μmに成膜した後、フォトリソグラフィとエッチングの技術により格子ピッチが25μm、凹凸段差が0.24μmの回折格子15を作製し、その表面に反射防止膜を形成した。
【0032】
さらに、屈折率n=1.55の等方性屈折率透明材料14である均質屈折率透明樹脂を用いて、高分子液晶層の凹凸状に加工された凹部を充填した。また、ポリカーボネート複屈折膜製の1/4波長板16を、透光性平面基板11、12である2枚のガラス基板を用いて挟み込んで、均質屈折透明樹脂と同じ屈折率の透光性接着材17により接着し、回折素子30を作製した。ここで、ポリカーボネート複屈折膜製の1/4波長板16は、光ヘッド装置に用いられる、発振波長λが790nmである半導体レーザ5の入射直線偏光に対して、透過光の位相差がπ/2となるものを使用した。
【0033】
このような構造の回折素子30を、図1の偏光性回折素子1として光ヘッド装置に搭載し、半導体レーザ5から出射する直線偏光が高分子液晶層に常光偏光(第1の直線偏光)として入射するように配置した。このとき、回折素子30を透過する光は、高分子液晶層の凹凸周期構造による回折はしないが、回折格子15により0次回折光と±1次回折光が発生し、これらの光を光ディスクの情報を含む信号検出用の3ビームとして用いた。発生した回折光は、入射光に対しての約83%の0次回折光と約7%の±1次回折光であり、出射光は円偏光であった。
【0034】
さらに、ビームスプリッタ4の表面に形成された反射膜(図示せず)により、入射光の85%が反射され、対物レンズ3により光ディスクの情報記録面に集光し、情報記録面からの反射光となって発散した。この発散した反射光は、そのうちの15%の光が再び対物レンズ3によりビームスプリッタ4を透過し、光検出器6の受光面に集光され、残りの85%がビームスプリッタ4により反射され戻り光となって偏光性回折素子1(回折素子30)に入射した。
【0035】
偏光性回折素子1(回折素子30)に入射した光は1/4波長板16を透過して異常光偏光(第2の直線偏光)となって高分子液晶からなる回折格子に入射し、入射光の95%以上が±1次以上の高次回折光となって拡散され、半導体レーザ5の発光点に集光される光はほぼゼロとなった。その結果、高出力の半導体レーザを光源として用いる光ヘッド装置において、半導体レーザの発振光強度が安定し、光ディスクの情報の記録および再生時に安定した信号検出ができた。
【0036】
「例2」
まず、本例の光ヘッド装置に用いられた回折素子について、図5を用いて説明する。一方の面に反射防止膜が形成された透光性平面基板11であるガラス基板の他方の面上に、複屈折性材料13として常光屈折率nが1.55および異常光屈折率nが1.70の高分子液晶層を形成し、フォトリソグラフィとエッチングの技術により直線状の格子ピッチが25μm、凹部の深さが1.9μmの凹凸周期構造を作製した。透光性平面基板12の片面に反射防止膜を形成した。
【0037】
さらに、屈折率n=1.49の等方性屈折率透明材料14である均質屈折率透明樹脂を用いて、高分子液晶層の凹凸状に加工された凹部を充填した。また、ポリカーボネート複屈折膜製の1/4波長板16を、透光性平面基板11、12である2枚のガラス基板を用いて挟み込んで、均質屈折透明樹脂と同じ屈折率の透光性接着材17により接着し、回折素子40を作製した。ここで、ポリカーボネート複屈折膜製の1/4波長板16は、光ヘッド装置に用いられる、発振波長λが790nmである半導体レーザ5の入射直線偏光に対して、透過光の位相差がπ/2となるものを使用した。
【0038】
このような構造の回折素子40を、図1の偏光性回折素子1として光ヘッド装置に搭載し、半導体レーザ5の出射光の直線偏光が高分子液晶層からなる偏光性の回折格子に常光偏光(第1の直線偏光)として入射するように配置した。このとき、高分子液晶層の凹凸周期構造は位相差2π×(n−n)×d/λ、すなわち位相差0.29πの位相回折格子として作用し、入射光に対しての約81%の0次回折光と約8%の±1次回折光が発生した。出射光は円偏光であった。この0次回折光と±1次回折光を光ディスクの情報を含む信号検出用の3ビームとして用いた。
【0039】
さらに、ビームスプリッタ4の表面に形成された反射膜(図示せず)により、入射光の85%が反射され、対物レンズ3により光ディスクの情報記録面に集光し、情報記録面からの反射光となって発散した。この発散した反射光は、そのうちの15%の光が再び対物レンズ3によりビームスプリッタ4を透過し、光検出器6の受光面に集光され、残りの85%がビームスプリッタ4により反射され戻り光となって偏光性回折素子1(回折素子40)に入射した。
【0040】
偏光性回折素子1(回折素子40)に入射した光は1/4波長板16を透過して異常光偏光(第2の直線偏光)となって高分子液晶からなる回折格子に入射し、入射光の95%以上が±1次以上の高次回折光となって拡散され、半導体レーザ5の発光点に集光される光はほぼゼロとなった。その結果、高出力の半導体レーザを光源として用いる光ヘッド装置において、半導体レーザの発振光強度が安定し、光ディスクの情報の記録および再生時に安定した信号検出ができた。
【0041】
本例では、一つの偏光性回折素子のみを用いて、往路で光ディスクの情報を含む信号検出用の3ビームを発生し、復路で半導体レーザの発光点への戻り光を回折するため、例1に比べて単純な構成で同じ作用効果が得られた。
【符号の説明】
【0042】
1:偏光性回折素子
10、20、30、40:回折素子
2、16:1/4波長板(位相板)
3:対物レンズ
4:ビ−ムスプリッタ
5:半導体レーザ
6:光検出器
7:光ディスク(光記録媒体)
11、12:透光性平面基板
13:複屈折性材料
14、17:等方性屈折率透明材料(透光性接着材)
15:回折格子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの出射光を光記録媒体に集光する対物レンズと、
前記光記録媒体からの反射光を検出する光検出器と、
前記光源からの出射光を前記対物レンズ側へ反射しかつ前記光記録媒体からの反射光の一部を前記光検出器側へ透過するとともに反射光の残りの部分を前記光源側へ反射するビームスプリッタとを備え、前記光記録媒体に情報の記録および再生を行う光ヘッド装置であって、前記光源と前記ビームスプリッタとの間の光路中に、複屈折性材料からなる下記の偏光性回折素子が設置されていることを特徴とする光ヘッド装置。
偏光性回折素子:
前記光源からの出射光である第1の直線偏光が前記偏光性回折素子へ入射するときは、前記光記録媒体へ入射して信号検出するための3ビームの発生用回折格子として作用して、前記第1の直線偏光の50%以上を0次回折光として直進透過させ、
また前記光記録媒体からの反射光であって前記第1の直線偏光と直交する偏光方向の第2の直線偏光が前記偏光性回折素子へ入射するときは、前記第2の直線偏光を光源から遠ざける回折格子として作用して、前記第2の直線偏光の90%以上を回折させる。
【請求項2】
前記偏光性回折素子は、常光屈折率nおよび異常光屈折率n(n≠n)を有する複屈折性材料を断面形状が段差dの周期的凹凸状となるよう加工され、その凹部に屈折率nの等方性屈折率透明材料が充填され、|n−n|×dが入射光の波長λの(m+1/2)倍である(mは0を含む正の整数)とともに、|n−n|×dが入射光の波長λの(k+1/4)倍から(k+1/12)倍まで(kは0を含む正の整数)の範囲にある請求項1に記載の光ヘッド装置。
【請求項3】
前記偏光性回折素子に、または、前記偏光性回折素子と前記対物レンズとの間の光路中に、前記第1の直線偏光の入射光に対する透過光の位相差がπ/2の奇数倍となる位相板を配設し、前記第1の直線偏光の入射光が前記位相板を往復して透過することにより前記第2の直線偏光に変換される請求項1または請求項2に記載の光ヘッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−113800(P2010−113800A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8593(P2010−8593)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【分割の表示】特願2009−208418(P2009−208418)の分割
【原出願日】平成12年11月30日(2000.11.30)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】