説明

側面漏光プラスチック光ファイバ、ならびにその製造方法および製造装置

【課題】簡便に製造でき、側面から軸方向に沿って筋状に漏光する装飾性に優れた側面漏光POF、ならびにその製造方法および製造装置の提供を目的とする。
【解決手段】芯部2と、芯部2の外側に形成された鞘部3とを有する断面円形状の芯鞘構造であり、側面に、鞘部3の厚みが薄い漏光部4が、軸方向に沿って筋状に形成されている側面漏光POF1。また、該側面漏光POF1の製造装置および製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側面漏光プラスチック光ファイバ、ならびにその製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光ファイバ(以下、「POF」という。)は、ガラス製の光ファイバに比べて伝送距離は短いが、端面加工や取り扱いが容易であると共に、安価で軽量であり、大口径に設定できるなどの利点を有する。そのため、POFは、照明、センサー、通信などの多岐にわたる用途で利用されている。さらに前記用途の他に、車載用途にも用いられており、POFの生産量は増加傾向にある。このようなPOFとしては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などで形成される芯部の周りに、該芯部よりも屈折率の低い鞘部が同心円状に形成された芯鞘構造のPOFが広く用いられている。
【0003】
照明に用いられるPOFにおいては、鞘部の側面から漏光する側面漏光POFが装飾用途に用いられている。例えば、以下に示すような側面漏光POFが挙げられる。
(i)断面形状が三角形や星形の芯部の外側に鞘部が形成された断面形状が真円形の側面漏光POF(特許文献1)。この側面漏光POFは、芯部が三角形や星形などの非円形であることで、芯部を通る光の一部が鞘部を通過して外側に漏れて側面から漏光する。漏光は、芯部の断面形状が角になっている部分で多くなる。
(ii)芯部と鞘部が同心円状に形成され、鞘部がレーザー加工により凹凸状にされた側面漏光POF(特許文献2)。この側面漏光POFは、鞘部の内面が凹凸状にされることで、芯部を通る光の一部が鞘部を通過して外側に漏れて側面から漏光する。
(iii)凹凸構造を有するギアによりPOF側面を押圧し、側面に所定の間隔で歪みを形成させた側面漏光POF(特許文献3)。この側面漏光POFでは、側面に形成した歪み部分から漏光する。
(iv)加熱した粗面プレートをPOFに押し付けることで、側面に細かい凹凸が形成された側面漏光POF(特許文献4)。この側面漏光POFでは、側面に形成した傷から漏光する。
(v)芯部と、該芯部の外側に形成された鞘部とを有し、芯部と鞘部とがそれぞれ相溶性が低い樹脂により形成されている側面漏光POF(特許文献5)。この側面漏光POFは、相溶性が低い樹脂からなる芯部と鞘部の境界に、光散乱を生じるような構造不整が形成されることで、芯部を通る光の一部が鞘部を通過して外側に漏れて側面から漏光する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−258028号公報
【特許文献2】特開2009−251106号公報
【特許文献3】特開平4−66904号公報
【特許文献4】特開昭63−293505号公報
【特許文献5】特開2003−240978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、側面漏光POF(i)は、側面からの漏光による装飾効果を高めようとすると芯部の断面形状が複雑になり、製造が難しくなる。また、側面漏光POF(ii)〜(iv)は、POFを紡糸した後に側面加工が必要であり、製造工程が煩雑である。側面漏光POF(v)は、側面全体から漏光するものであり、側面から所望の形状に漏光させることはできない。
以上のように、簡便に製造でき、かつ装飾性に優れた側面漏光POFが望まれている。
【0006】
本発明は、簡便に製造でき、側面から軸方向に沿って筋状に漏光する装飾性に優れた側面漏光POF、ならびにその製造方法および製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]芯部と、該芯部の外側に形成された鞘部とを有する断面円形状の芯鞘構造のPOFであって、側面に、前記鞘部の厚みが薄い漏光部が、軸方向に沿って筋状に形成されている側面漏光POF。
[2]芯材と鞘材を芯鞘構造に複合紡糸する紡糸工程を有するPOFの製造方法であって、断面円形状の芯材の外側に、該芯材の軸方向に沿って厚みが薄い薄肉部を有するように鞘材を複合した複合溶融樹脂を形成し、該複合溶融樹脂の断面形状を、その断面積が徐々に小さくなるように、断面円形状に賦形して紡糸することを特徴とする側面漏光POFの製造方法。
[3]芯材と鞘材を芯鞘構造に複合紡糸する紡糸手段を備えたプラスチック光ファイバの製造装置であって、前記紡糸手段の内部の樹脂流路に、断面円形状の芯材の周りに鞘材が同心円状に複合される複合部と、流路の断面積が前記複合部側から徐々に小さくなっている円錐形状のテーパー部とが設けられ、前記複合部の鞘材が供給される部分に、鞘材の流れを規制する堰が、前記複合部に供給される芯材に近接するように設けられていることを特徴とする側面漏光POFの製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の側面漏光POFは、簡便に製造できるうえ、側面から軸方向に沿って筋状に漏光でき、装飾性に優れている。
本発明のPOFの製造方法によれば、側面から軸方向に沿って筋状に漏光できる装飾性に優れた側面漏光POFを簡便に製造できる。
本発明のPOFの製造装置を用いれば、側面から軸方向に沿って筋状に漏光できる装飾性に優れた側面漏光POFを簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の側面漏光POFの実施形態の一例を示した横断面図である。
【図2】本発明のPOFの製造装置の実施形態の一例を示した模式図である。
【図3】本発明における紡糸手段の実施形態の一例を示した縦断面図(A)、およびそのテーパー部16近傍の拡大図(B)である。
【図4】図2の第2ノズル12を上面から見た平面図(A)、およびその堰18a近傍の拡大図(B)である。
【図5】図1の紡糸手段1の複合部15における複合溶融樹脂の断面図である。
【図6】本発明における紡糸手段に適用できるシム板の他の実施形態例を示した平面図である。
【図7】本発明における紡糸手段の複合部に設けられる堰の他の実施形態例を示した平面図である。
【図8】本発明における紡糸手段の第2ノズルおよびシム板の他の実施形態例を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[側面漏光POF]
以下、本発明の側面漏光POFの実施形態の一例を示して詳細に説明する。図1は、本発明の側面漏光POFの一例である側面漏光POF1を、軸方向に対して垂直な方向に切断した様子を示した横断面図である。
本実施形態の側面漏光POF1(以下、単に「POF1」という。)は、図1に示すように、芯部2と、芯部2の外側に形成された鞘部3とからなる芯鞘構造を有している。POF1の側面には、鞘部3の厚みが薄い漏光部4が軸方向に沿って筋状に形成されている。
【0011】
芯部2を形成する芯材としては、POFの芯部として通常用いられる樹脂を用いることができ、光学的性能、機械的強度、信頼性などの点から、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)が好ましい。
芯部2の断面形状は、ほぼ円形状であり、漏光部4の部分で鞘部3側に張り出した形状になっている。
【0012】
鞘部3を形成する鞘材としては、POFの鞘部として通常用いられる樹脂を用いることができ、フッ化ビニリデン系重合体などのフッ素樹脂組成物が好ましい。
POF1の側面には、軸方向に沿って、鞘部3の厚みが部分的に薄い漏光部4が筋状に形成されている。漏光部4は、鞘部3の厚みが3μm以下の部分を意味する。漏光部4では、鞘部3の厚みが薄いことで、芯部2内を伝播する光がその部分で全反射されずにPOF1の外に漏れてくる。また漏光部4では、鞘部3の厚みがゼロ、すなわち芯部2が露出していてもよい。
鞘部3における漏光部4以外の部分の厚みは、POF1の直径の0.5〜1.5%であることが好ましい。これにより、POF1の伝送損失が低くなって光源からの光がPOF1の端面から遠くまで届きやすくなるので、POF1からの筋状の漏光をより長くすることが容易になる。
【0013】
漏光部4の数は特に限定されない。この例では、POF1の側面に3つの漏光部4が、POF1の外周に沿って等間隔に形成されている。POF1の側面に形成される漏光部4の数は、1つであっても2つであってもよく、4つ以上であってもよい。この場合、後述する図4に示す鞘材流路の堰18aを適宜増減することで漏光部の数を変更することが可能となる。また、この例では、3つの漏光部4がPOF1の外周に沿って等間隔に形成されているが、このように複数の漏光部が形成されている場合は、それらの間隔は等間隔でなくてもよい。
【0014】
漏光部4の幅(POF外周上の弧の長さ)は、POF1の外周に対して15%以下(POFの断面の中心角は54°以下)になるように設計することが好ましく、10%以下(POFの断面の中心角は36°以下)になるように設計することがより好ましい。漏光部4の幅(POF外周上の弧の長さ)がPOF1の外周に対して15%より大きいと、POF1の側面から漏光する光が多くなりすぎて、POF1の一端から光を入れた場合、POF1の他端まで均一に漏光することが難しくなるため好ましくない。
【0015】
以上説明したように、本発明のPOF1は、側面に、軸方向に沿って筋状に形成された漏光部が形成されているため、側面から筋状に漏光させることができる。そのため、装飾性に優れており、従来の側面漏光POFでは表現しきれなかった装飾用途に好適に用いることができる。
【0016】
[側面漏光POFの製造装置]
本発明のPOFの製造装置は、POFの側面に、鞘部の厚みが部分的に薄い漏光部が、軸方向に沿って筋状に形成された側面漏光POFを製造する装置である。以下、本発明のPOFの製造装置の実施形態の一例として、前述したPOF1を製造する装置を示して詳細に説明する。
本実施形態のPOFの製造装置100(以下、単に「製造装置100」という。)は、図2に示すように、芯材と鞘材を芯鞘構造に複合紡糸する紡糸手段10と、溶融状態の芯材を押し出す芯材押出機20と、芯材押出機20から紡糸手段10に供給する芯材の流量を制御する定量ポンプ30と、溶融状態の鞘材を押し出す鞘材押出機40と、鞘材押出機40から紡糸手段10に供給する鞘材の流量を制御する定量ポンプ50と、紡糸手段10により紡糸されたPOF1に延伸処理を施す延伸手段60と、延伸されたPOF1を巻き取る巻取り手段70と、POF1の走行を規制するガイド部材80とを有している。
芯材押出機20と定量ポンプ30、定量ポンプ30と紡糸手段10、鞘材押出機40と定量ポンプ50、および定量ポンプ50と紡糸手段10は、それぞれ溶融樹脂(芯材、鞘材)が流通する配管を介して接続されている。
【0017】
紡糸手段10は、図3(A)に示すように、第1ノズル11と第2ノズル12とを有する。第1ノズル11には、溶融樹脂が流通する樹脂流路として、流路の断面形状が円形状で、芯材押出機20から供給された芯材が流通する芯材流路部13と、鞘材押出機40から供給された鞘材が流通する鞘材流路部14が設けられている。第2ノズル12には、溶融樹脂が流通する樹脂流路として、芯材流路部13から断面円形状の芯材が供給され、該芯材の周りに、鞘材流路部14から供給された鞘材が複合される複合部15と、流路の断面積が複合部15側から徐々に小さくなっている円錐形状のテーパー部16と、流路の断面形状が円形状でその断面積が芯材流路部13の断面積より小さい吐出部17と、が設けられている。
紡糸手段10の樹脂流路においては、芯材流路部13、テーパー部16および吐出部17の中心軸が一致している。
【0018】
紡糸手段10においては、芯材が芯材供給口10aから芯材流路部13に供給され、鞘材が鞘材供給口10bから鞘材流路部14に供給され、複合部15で芯材と鞘材が複合され、その複合された複合溶融樹脂がテーパー部16および吐出部17を流通し、吐出口10cから吐出される。
【0019】
第1ノズル11および第2ノズル12の材質は、POFの紡糸ノズルとして通常用いられるものが使用でき、耐熱性、耐食性、強度などの点から、ステンレス鋼材(SUS)が好ましい。
芯材流路部13の断面形状は、円形状である。
芯材流路部13の内径Dは、製造するPOFの芯部の直径に応じて適宜選定すればよく、1.0〜10.0mmが好ましい。
鞘材流路部14の断面形状および内径は特に限定されず、鞘材流路部14の断面形状は円形状が好ましく、内径は2.5〜5.0mmが好ましい。
【0020】
複合部15は、芯材流路部13から供給される断面円形状の芯材の周りに、軸方向に沿って薄肉部を有するように鞘材を複合させた複合溶融樹脂を形成する部分である。
複合部15は、図3(A)および図4(A)に示すように、芯材流路部13および鞘材流路部14と連通しており、その流路の形状がシム板18により形成されている。この例の複合部15の流路形状は、図4(A)に示すように、シム板18によって、芯材流路部13から供給される芯材の周りが円形状になっており、芯材流路部13側から鞘材流路部14に向かって流路幅が徐々に狭くなるように窄まった形状になっている。鞘材は、複合部15における流路が窄まった部分に鞘材流路部14から供給される。
【0021】
複合部15においては、芯材流路部13から供給される断面円形状の芯材の周りが円形状になっているので、芯材の周りには鞘材がほぼ円形状に供給される。そのため、供給される芯材の周りの流路形状が非円形状の形態に比べて、芯材と鞘材に均一に圧力が加わりやすい。したがって、複合部15における芯材の中心軸が、鞘材に押されてずれることを抑制しやすい。また、それにより複合する鞘材の厚みが、予期しない部分で厚くなりすぎたり薄くなりすぎたりすることを抑制しやすい。
【0022】
複合部15の鞘材が供給される部分には、シム板18の内壁から、鞘材の流れを規制する板状の堰18aが、芯材流路部13から供給される芯材に向かって延びるように設けられている。堰18aは、複合部15に芯材流路部13から供給される芯材側の側面が、芯材に近接するように設けられている。堰18aを設けることにより、複合部15に供給される芯材の周りにおける堰18aが設けられた部分への鞘材の供給が妨げられる。そのため、複合部15では、図5に示すように、芯材2Aの周りに、堰18aが設けられた位置の鞘材の厚みが部分的に薄い薄肉部4Aを有するように鞘材3Aが複合された複合溶融樹脂1Aが形成される。鞘部3Aにおける薄肉部4Aは、最終的に得られるPOF1の側面の漏光部4となる部分である。
【0023】
堰18aの複合部15に供給される芯材側の側面と芯材との距離は、50μm以下であることが好ましい。堰18aの芯材側の側面と芯材の外側面とが接するように、つまり堰18aの芯材側の側面が、芯材流路部13の内壁と一致するように設けられていることが好ましい。
【0024】
堰18aの数は、特に限定されず、POF1の側面にその軸方向に沿って形成する漏光部の数に応じて設ければよい。この例では、3つの堰18aが、複合部15に供給される芯材の外周に沿って等間隔になるように設けられている。ただし、堰18aは1つであっても2つであってもよく、4つ以上であってもよい。例えば、図6に示すように、4つの堰18aが複合部15に供給される芯材の外周に沿って等間隔になるように設けられたシム板18Aを用いてもよい。シム板18Aを用いれば、側面に4つの漏光部が外周に沿って等間隔に形成された側面漏光POFを製造できる。
また、この例では3つの堰18aが芯材の外周に沿って等間隔になるように設けられているが、堰18aが2つ以上である場合、芯材の外周に沿った間隔は等間隔には限定されない。
【0025】
堰18aの幅d(図4(B))と複合部15に供給される芯材の直径Dとの比、すなわち堰18aの幅dと芯材流路部13の内径D(図3(A))の比(d/D)は、POFの側面に設ける漏光部の幅に応じて適宜選定すればよく、0.08〜0.6が好ましい。前記比(d/D)が0.08以上であれば、薄肉部4Aの幅が充分に大きくなりやすく、所望の幅の漏光部を形成することが容易になる。前記比(d/D)が0.6以下であれば、得られるPOF1の側面に形成される漏光部4の幅(外周に沿った長さ)が大きくなりすぎて、光の伝播効率が低くなることを抑制しやすい。
【0026】
堰18aの形状は、芯材2Aの周りに供給される鞘材3Aの厚みを部分的に薄くできるものであればよい。例えば、図7に示すように、堰18aの複合部15に供給される芯材側の側面の形状が、その芯材の外周形状に沿って湾曲した凹形状になっていてもよい。
【0027】
また、複合部15には、図3(A)および図4(A)に示すように、その底面に溝15aが円環状に形成されていることが好ましい。複合部15の溝15aの円環の中心は、芯材流路部13の中心軸、すなわち複合部15に供給される芯材の中心軸と一致している。
複合部15の底面に円環状の溝15aが形成されていれば、堰18aが設けられていても、複合部15の流路が窄まった側に鞘材流路部14から供給された鞘材が、溝15aに沿って複合部15の反対側の内壁の方まで均一に行き渡りやすくなる。これにより、複合部15に供給された芯材における堰18aを設けた部分以外に、鞘材を均一に供給して複合することが容易になる。
溝15aが形成される位置は、円環状の溝15aの外側に、複合部15において鞘材が供給される位置、すなわち鞘材流路部14と複合部15の連結位置が位置するようにすればよい。
【0028】
テーパー部16は、複合部15において芯材2Aの周りに、薄肉部4Aが形成されるように鞘材3Aが複合された複合溶融樹脂1Aを、その断面積が小さくなるように断面円形状に変形させる部分である。
テーパー部16は、その断面積が複合部15側から徐々に小さくなるように円錐形状に窄まった形状になっている。つまり、テーパー部16の複合部15側の開口端部16aの断面形状は芯材流路部13と同等の円形状であり、吐出部17側の開口端部16bの断面形状は開口端部16a側よりも断面積の小さい円形状である。
【0029】
テーパー部16を通過する際、複合溶融樹脂1Aはその断面積が小さくなるように変形される。このとき、複合溶融樹脂1Aの薄肉部4Aの部分では、鞘材3Aが少ないので、鞘材3Aによって芯材2Aが内側に押される力が小さい。そのため、芯材2Aは薄肉部4Aの部分がその他の部分に比べると小さくならないので、その部分が部分的に外側に張り出した状態となるように変形し、図1に示すように、芯部2の周りに鞘部3が形成された芯鞘構造で、鞘部3の厚みが部分的に薄い漏光部4が軸方向に沿って筋状に形成されたPOF1が紡糸される。
【0030】
テーパー部16の内壁の傾斜角度(テーパー角度)θ(図3(B))は、15〜45°が好ましい。傾斜角度θが15°以上であれば、テーパー部16の全長(軸方向の長さ)が長くなりすぎることを抑制できるので、芯材や鞘材に熱劣化が生じてPOFの伝送損失が増大することを抑制しやすい。傾斜角度θが45°以下であれば、流路の断面形状の変化がより緩やかになるので、芯材2Aの鞘材3Aの軸ずれや、薄肉部4A以外の部分の鞘材3Aの厚みの不均一化を抑制しつつ、複合溶融樹脂1Aをより断面積の小さい断面円形状に賦形することが容易になる。
【0031】
テーパー部16の複合部15側の開口端部16aの断面積Sと、テーパー部16の吐出部17側の開口端部16bの断面積Sの比(S/S)は、0.1〜0.6が好ましい。比(S/S)が前記範囲内であれば、側面に所望の漏光部4が形成されたPOF1得られやすい。
【0032】
吐出部17の流路断面の形状は、テーパー部16の開口端部16bと同じ円形状である。吐出部17の開口端である吐出口10cから、前述した芯鞘構造のPOF1が紡糸される。
【0033】
延伸手段60は、紡糸手段10により紡糸されたPOF1に延伸処理を施すものである。POF1に延伸処理を施すことにより、POF1の機械的強度を向上させたり、POF1の口径を一定に調整したりすることができる。
延伸手段60は、POF1に延伸処理を施すことができるものであればよく、図2に示すように、加熱型の延伸炉61を用いることが好ましい。延伸炉61では、炉内に供給される加熱気体または蒸気(スチーム)などによって、POF1を加熱しながら延伸する。
延伸炉61の前後には、駆動式の送り側延伸ロール62および引き取り側延伸ロール63が設けられている。POF1は、送り側延伸ロール62によって延伸炉61に導かれ、引き取り側延伸ロール63によって延伸炉61から引き取られる。このとき、引き取り側延伸ロール63の引き取り速度を、送り側延伸ロール62の送り速度よりも速くすることによって、円滑に延伸処理が行える。
【0034】
巻取り手段70は、POF1をボビンなどに巻取れるものであればよく、例えば、POFの損傷による特性の低下を防止するため、POF同士の間隔(ピッチ)を狭め、巻崩れが生じない範囲内でできるだけ低い張力で巻き取れるもの(特開平1−321259号公報参照)が好ましい。張力を制御しながらPOF1をボビンに巻き取る装置としては、テンションロール、トルクモーターなどによりPOFの張力を制御し、ガイドまたはボビンをトラバースさせながらPOFを巻き取る構成を有する装置が好ましい。
【0035】
ガイド部材80は、製造装置100において、紡糸手段10から、延伸手段60、巻取り手段70までのPOF1の走行を規制するものである。ガイド部材80を設けることにより、糸垂れを抑制することができ、それによりPOF1の融着および各手段の内外や出入り口付近などでの接触を防止できる。
ガイド部材80は、POFの製造に通常用いられるものが使用でき、金属製またはセラミック製のガイド部材などが挙げられる。
【0036】
以上説明した製造装置100を用いれば、芯部2と鞘部3の芯鞘構造で、側面に軸方向に沿った筋状の漏光部4が形成された、装飾性に優れたPOF1を簡便に製造できる。
なお、本発明のPOFの製造装置は、前述した製造装置100には限定されない。例えば、複合部における堰がシム板に設けられている形態には限定されず、図8に示すように、第2ノズル12における複合部15の底面に、芯材流路部13から供給される芯材側の側面が芯材に近接するように、堰15bがシム板18Bとは独立に設けられている形態であってもよい。また、この場合には、シム板を設けずに、シム板を設置する断面円形状の部分をそのまま複合部15として使用する形態であってもよい。ただし、前述したような、堰18aが流路の内壁に設けられたシム板18(シム板18A)を用いる形態の方が、従来から用いられているノズルを改造することなく、シム板の形状を変更するのみで漏光部の幅や数を容易に変更できる点で好ましい。
また、本発明のPOFの製造装置における紡糸手段は、吐出部が設けられていない形態、すなわちテーパー部から直接紡糸される形態になっていてもよい。
また、紡糸した直後のPOF1を冷却する冷却手段が設けられた製造装置であってもよい。また、延伸手段が設けられていない製造装置であってもよい。
【0037】
[側面漏光POFの製造方法]
本発明の側面漏光POFの製造方法は、芯材と鞘材を芯鞘構造に複合紡糸する紡糸工程を有する方法であって、断面円形状の芯材の外側に、該芯材の軸方向に沿って厚みが薄い薄肉部を有するように鞘材を複合した複合溶融樹脂を形成し、該複合溶融樹脂の断面形状を、その断面積が徐々に小さくなるように、断面円形状に賦形して紡糸することを特徴とする方法である。以下、本発明の側面漏光POFの製造方法の実施形態の一例として、前述した製造装置100を用いてPOF1を製造する方法を説明する。
【0038】
製造装置100を用いるPOF1の製造方法は、紡糸手段10により、芯材と鞘材を芯鞘構造に複合紡糸する紡糸工程と、延伸手段60により、紡糸されたPOF1に延伸処理を施す延伸工程と、巻取り手段70により、延伸されたPOF1を巻き取る巻取り工程とを有する。
【0039】
紡糸工程では、芯の原料となる樹脂を芯材押出機20によって溶融して芯材として押出し、定量ポンプ30を用いて、一定の流量で芯材供給口10aから紡糸手段10の芯材流路部13に供給する。同様に、鞘の原料となる樹脂を鞘材押出機40によって溶融して鞘材として押出し、定量ポンプ50を用いて、一定の流量で鞘材供給口10bから紡糸手段10の鞘材流路部14に供給する。
【0040】
紡糸手段10の複合部15では、シム板18により形成された流路形状の複合部15に、芯材流路部13から断面円形状の芯材が供給され、その周りに鞘材が供給される。このとき、供給される芯材の外周に沿うように3つの堰18aが設けられていることで、その部分への鞘材の供給が妨げられる。そのため、芯材2Aの周りに、部分的に鞘材の厚みが薄い薄肉部4Aが形成されるように、鞘材3Aが複合された複合溶融樹脂1Aが形成される。
その後、複合溶融樹脂1Aは、テーパー部16において断面積が徐々に小さくなるように断面円形状に変形される。このとき、複合溶融樹脂1Aの薄肉部4Aの部分は、鞘材3Aが薄いため、それ以外の部分に比べて芯材2Aが内側に押し込まれず、部分的に張り出した状態となるように変形していく。そのため、その部分の鞘部3の厚みが薄くなって、部分的に鞘部3の厚みの薄い漏光部4が軸方向に沿って形成されたPOF1が吐出口10cから紡糸される。
【0041】
このように、製造装置100を用いたPOF1の製造方法では、紡糸工程において、芯材2Aの外側に、軸方向に沿って部分的に厚みの薄い薄肉部4Aを有するように鞘材3Aを複合した複合溶融樹脂1Aを一旦形成した後に、その複合溶融樹脂1Aを、その断面積が徐々に小さくなるように断面円形状に変形させていくことで、側面に所望の筋状の漏光部4が形成されたPOF1を紡糸することができる。
【0042】
延伸工程では、延伸手段60において、紡糸されたPOF1に延伸処理を施す。
延伸炉61におけるPOF1の加熱温度は、Tg以上、Tg+50℃以下が好ましい。ここで、Tgとは、芯材(コア材)のガラス転移温度である。延伸処理は、前記範囲の温度に加熱された加熱気体や蒸気を吹きつけながら延伸する方法などにより行うことができる。
巻取り工程では、巻取り手段70により、延伸処理が施されたPOF1を巻き取る。巻取りは、ボビンなどを用いて行うことができる。
【0043】
以上説明したPOFの製造方法によれば、側面から軸方向に沿って筋状に漏光できる漏光部を有する、装飾性に優れた側面漏光POFを簡便に製造できる。
なお、本発明の製造方法は、前記製造装置100を用いた方法には限定されない。例えば、前述した他の形態の紡糸手段を備えたPOFの製造装置を用いた方法であってもよい。また、紡糸工程と延伸工程の間に、紡糸直後のPOFを冷却する冷却工程を設けた方法であってもよく、延伸手段を設けない方法であってもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
本実施例で得られたPOFの鞘部の厚みは、以下に示す方法で測定した。
[鞘部の厚みの測定]
鞘部の厚みは、製造したPOFを線方向に対して垂直になるように0.5mm程度の厚さに切断し、キーエンス社製のデジタルHDマイクロスコープ VH−7000により観察して、200倍に拡大した画像を基に測定した。
【0045】
[実施例1]
芯材としてポリメチルメタクリレート、鞘材としてフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体(混合比=80/20(モル%))を用いた。図2および図3に例示した、紡糸手段10を備えた製造装置100により、外径約1.0mmのPOF1を製造した。
紡糸手段10は、芯材流路部13の内径を6mm、鞘材流路部14の内径を1.6mm、テーパー部16の傾斜角度θを30°、吐出部17の内径を2.5mmとした。シム板18の堰18aは、複合部15に供給される芯材の外周に沿って等間隔となるように3箇所設置し、そのそれぞれの幅dを2mmとした。
【0046】
得られたPOF1の鞘部3の厚みは、10μm(POFの直径に対して1.0%)であり、3つの漏光部4の部分では3μmであった。漏光部4の幅(POF外周上の弧の長さ)は約17.4μm(POFの外周に対して約0.56%、中心角は約2°。)であった。
また、得られたPOF1を50mとし、その両端にハロゲンランプを設置して白色光を入射したところ、POF1はその軸方向に沿って、光源の他端まで均一に、側面から3本の筋状の漏光を生じた。
【0047】
[実施例2]
POFの製造時に使用するシム板を後述するものに変更した以外は、実施例1と同じ原材料を用いて外径約0.75mmのPOF1を作製した。シム板18の堰18aは、複合部15に供給される芯材の外周に沿って等間隔となるように4箇所設置し、そのそれぞれの幅dを1.5mmとした。
得られたPOF1の鞘部3の厚みは、5μm(POFの直径に対して0.67%)であり、4つの漏光部4の部分では2μmであった。また漏光部4の幅(POF外周上の弧の長さ)は約10μm(POFの外周に対して約0.42%、中心角は約1.5°。)であった。
得られたPOF1を80mとし、その両端にハロゲンランプを設置して白色光を入射したところ、POF1はその軸方向に沿って、光源の他端まで均一に、側面から4本の筋状の漏光を生じた。
【0048】
[実施例3]
POFの製造時に使用するシム板を後述するものに変更した以外は、実施例1と同じ原材料を用いて外径約1.0mmのPOF1を作製した。シム板18の堰18aは、複合部15に供給される芯材の外周に沿って等間隔となるように4箇所設置し、そのそれぞれの幅dを2.5mmとした。
得られたPOF1の鞘部3の厚みは、9μm(POFの直径に対して0.90%)であり、4つの漏光部4の部分では2μmであった。また漏光部4の幅(POF外周上の弧の長さ)は約31.4μm(POFの外周に対して約1.0%、中心角は約3.6°。)であった。
得られたPOF1を20mとし、その両端にハロゲンランプを設置して白色光を入射したところ、POF1はその軸方向に沿って、光源の他端まで均一に、側面から4本の筋状の漏光を生じた。
【符号の説明】
【0049】
1 側面漏光POF
2 芯部
3 鞘部
4 漏光部
10 紡糸手段
11 第1ノズル
12 第2ノズル
13 芯材流路部
14 鞘材流路部
15 複合部
16 テーパー部
17 吐出部
18 シム板
18a 堰
100 POFの製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部と、該芯部の外側に形成された鞘部とを有する断面円形状の芯鞘構造のプラスチック光ファイバであって、
側面に、前記鞘部の厚みが薄い漏光部が、軸方向に沿って筋状に形成されている側面漏光プラスチック光ファイバ。
【請求項2】
芯材と鞘材を芯鞘構造に複合紡糸する紡糸工程を有するプラスチック光ファイバの製造方法であって、
断面円形状の芯材の外側に、該芯材の軸方向に沿って厚みが薄い薄肉部を有するように鞘材を複合した複合溶融樹脂を形成し、該複合溶融樹脂の断面形状を、その断面積が徐々に小さくなるように、断面円形状に賦形して紡糸することを特徴とする側面漏光プラスチック光ファイバの製造方法。
【請求項3】
芯材と鞘材を芯鞘構造に複合紡糸する紡糸手段を備えた側面漏光プラスチック光ファイバの製造装置であって、
前記紡糸手段の内部の樹脂流路に、
断面円形状の芯材の周りに鞘材が同心円状に複合される複合部と、流路の断面積が前記複合部側から徐々に小さくなっている円錐形状のテーパー部とが設けられ、
前記複合部の鞘材が供給される部分に、鞘材の流れを規制する堰が、前記複合部に供給される芯材に近接するように設けられていることを特徴とする側面漏光プラスチック光ファイバの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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