説明

側音キャンセル方法および側音キャンセラ

【課題】側音を発生する電話機等の機器が接続されていない状態や電話機等の機器が通話状態にない状態で、他の機器を用いて通話を行った際に、疑似側音の発生を止める。
【解決手段】側音キャンセラ101は、送話信号x(t)をフィルタリングする可変フィルタ部102と、受話信号y(t)から可変フィルタ部102の出力信号y’(t)を減算する減算部104と、受話信号y(t)に含まれる送話信号成分である側音の二乗平均が小さくなるように、可変フィルタ部102のフィルタ係数を更新するフィルタ係数更新部103と、フィルタ係数に基づいて側音の有無を検出する側音検出部105と、側音有りと判定された場合に信号e(t)を選択し、側音無しと判定された場合に受話信号y(t)を選択するスイッチ部106とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電話機のハンドセットの代わりにハンズフリー装置を接続して行う音声会議などにおける側音キャンセル方法および側音キャンセラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の側音キャンセラについて説明する。図10は非特許文献1に開示された従来の側音キャンセラの構成を示すブロック図である。側音キャンセラ802は、適応フィルタを側音キャンセルに適用したものであり、可変フィルタ部102とフィルタ係数更新部103と減算部104とから構成される。
【0003】
図11は側音キャンセラの動作を説明するための図であり、側音キャンセラの適用先であるハンズフリー装置の使い方を示す図である。ハンズフリー装置702は、電話機701のハンドセット接続端子705と接続され、電話機701のハンドセットの代わりとして使用することができ、さらにTV会議装置703などとも接続され、電話機701とTV会議装置703の両方と同時に通話を行うことができる。
【0004】
図12は、図11の接続を行った場合の信号の流れを示す図である。電話機701は、ハンドセット使用時の耳の閉塞感を軽減するために、送話音声を受話側に戻す側音付加回路801を有している。しかし、耳の閉塞感のないハンズフリー通話において側音は不要であり、ハウリングの発生の要因となり得ることから、側音を消去することが必要である。側音キャンセラ802は、この側音を消去するために用いられる。
【0005】
ハンズフリー装置702は、側音キャンセラ802のほかに、スピーカ708からマイク709に音が回り込む音響エコーを消去する音響エコーキャンセラ804と、電話機接続用の端子706と通常の機器接続用の端子707とを両方同時に使用できるように信号を混合するミキシング部803とを有する。ミキシング部803は、電話機701からの送話信号とTV会議装置703からの送話信号とを混合してスピーカ708に送り、マイク709で集音された受話信号とTV会議装置703からの送話信号とを混合して電話機701に送る。また、ミキシング部803は、電話機701からの送話信号とマイク709で集音された受話信号とを混合してTV会議装置703に送る。
【0006】
次に図10を用いて側音キャンセラ802について詳細に説明する。側音キャンセラ802は、電話機701からの受話信号y(t)とミキシング部803から電話機701に送出する送話信号x(t)を入力とし、受話信号y(t)から側音成分を消去した信号e(t)をミキシング部803へ出力する。ただし、tは時刻を表す。
【0007】
可変フィルタ部102は、電話機701に送出する送話信号x(t)をフィルタ係数H(t)でフィルタリングし、疑似側音信号y’(t)を出力する。減算部104は、電話機701からの受話信号y(t)から疑似側音信号y’(t)を減算し、受話信号y(t)から側音成分を消去した信号e(t)を出力する。フィルタ係数H(t)は時刻tにおけるフィルタ係数のベクトルであり、H(t)=(h(0,t),h(1,t),・・・・,h(L−1,t))Tで表される。h(i,t)は時刻tの時点でのiタップ目のフィルタ係数であり、Lはフィルタのタップ長である。
【0008】
フィルタ係数更新部103は、送話信号x(t)と受話信号y(t)から側音成分を消去した信号e(t)を入力とし、NLMS(Normalized Least Mean Square)アルゴリズムを用いて、フィルタ係数を更新し、側音が消去されるようにフィルタ係数を更新する。NLMS法の更新式は式(1)で表される。
H(t+1)=H(t)+a・X(t)・e(t)/X(t)TX(t) ・・(1)
【0009】
ただし、aは事前設定されたステップサイズであり、0<a<2の値をとる。X(t)は、時刻tにおける受話信号y(t)のLサンプル分のベクトルであり、X(t)=(x(t−0),x(t−1),・・・・,x(t−L+1))Tで表される。以上の処埋により、受話信号y(t)に含まれる側音が消去される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】サイモンヘイキン著,「適応フィルタ入門」,第3版,現代工学社,ISBN4−87472−134−6,p.120−121,1987年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
電話機が接続されていない状態や電話機が通話状態にない場合には、側音は全く発生しない。しかし、従来の側音キャンセラでは、受話信号y(t)に含まれるノイズ成分や計算機の演算精度の影響により、フィルタ係数H(t)が完全に0とはならないため、疑似側音信号y’(t)が0とはならない。このため、通常の機器接続用の端子を用いて通話を行った際に、疑似側音信号y’(t)がミキシング部に入力され、通話の品質を低下させてしまう。
【0012】
このように、従来の側音キャンセラでは、電話機が接続されていない状態や電話機が通話状態にない状態で、通常の機器接続用の端子を用いて通話を行った際に、側音キャンセラが疑似側音を発生させてしまうために、通話時に側音が戻っているように聞こえてしまうという問題点があった。
【0013】
本発明の目的は、側音を発生する電話機等の機器が接続されていない状態や電話機等の機器が通話状態にない状態で、他の機器を用いて通話を行った際に、疑似側音を発生させることがない側音キャンセラを提供し、通話品質を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の側音キャンセル方法は、通話相手へ送信する送話信号を設定されたフィルタ係数でフィルタリングする可変フィルタ手順と、通話相手からの受話信号から前記可変フィルタ手順で得られた出力信号を減算する減算手順と、前記送話信号と前記減算手順で得られた出力信号に基づいて、前記受話信号に含まれる送話信号成分である側音の二乗平均が小さくなるように、前記可変フィルタ手順のフィルタ係数を逐次更新するフィルタ係数更新手順と、前記可変フィルタ手順のフィルタ係数に基づいて前記側音の有無を検出する側音検出手順と、前記側音検出手順の検出結果が側音有りであった場合に、前記減算手順で得られた出力信号を選択して出力し、検出結果が側音無しであった場合に、前記受話信号を選択して出力するスイッチ手順とを備えることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の側音キャンセル方法の1構成例において、前記側音検出手順は、前記可変フィルタ手順のフィルタ係数の絶対値を計算する絶対値計算手順と、前記フィルタ係数の絶対値の最大値を求める最大値検出手順と、あらかじめ設定された固定閾値と前記最大値とを比較し、前記固定閾値よりも前記最大値が大きい場合に側音有りと判定し、前記最大値が前記固定閾値以下の場合に側音無しと判定する固定閾値比較手順とを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の側音キャンセル方法の1構成例において、前記側音検出手順は、前記可変フィルタ手順のフィルタ係数の絶対値を計算する絶対値計算手順と、前記フィルタ係数の絶対値の最大値を求める最大値検出手順と、前記フィルタ係数の絶対値の平均値を計算する平均値計算手順と、前記平均値にあらかじめ設定された定数を乗じた値を閾値として設定する閾値設定手順と、前記閾値と前記最大値とを比較し、前記閾値よりも前記最大値が大きい場合に側音有りと判定し、前記最大値が前記閾値以下の場合に側音無しと判定する閾値比較手順とを含むことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の側音キャンセル方法の1構成例は、さらに、前記側音が有る状態から前記側音が無い状態に移行した際に、前記可変フィルタ手順のフィルタ係数を0とするフィルタ係数リセット手順を備えることを特徴とするものである。
また、本発明の側音キャンセル方法の1構成例において、前記フィルタ係数リセット手順は、前記減算手順で得られた出力信号のレベルを計算する第1のレベル計算手順と、前記受話信号のレベルを計算する第2のレベル計算手順と、前記受話信号のレベルにあらかじめ設定された定数を乗じる定数乗算手順と、この定数乗算手順で得られた出力信号のレベルと前記減算手順で得られた出力信号のレベルとを比較し、前記減算手順で得られた出力信号のレベルの方が大きい場合に、前記可変フィルタ手順のフィルタ係数を0とする比較手順とを含むことを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の側音キャンセラは、通話相手へ送信する送話信号を設定されたフィルタ係数でフィルタリングする可変フィルタ手段と、通話相手からの受話信号から前記可変フィルタ手段の出力信号を減算する減算手段と、前記送話信号と前記減算手段の出力信号に基づいて、前記受話信号に含まれる送話信号成分である側音の二乗平均が小さくなるように、前記可変フィルタ手段のフィルタ係数を逐次更新するフィルタ係数更新手段と、前記可変フィルタ手段のフィルタ係数に基づいて前記側音の有無を検出する側音検出手段と、前記側音検出手段の検出結果が側音有りであった場合に、前記減算手段の出力信号を選択して出力し、検出結果が側音無しであった場合に、前記受話信号を選択して出力するスイッチ手段とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、従来の側音キャンセル方法に、側音検出手順とスイッチ手順を追加し、側音検出手順の検出結果が側音有りであった場合には、減算手順で得られた出力信号、すなわち側音をキャンセルした信号を選択して出力し、検出結果が側音無しであった場合には、受話信号、すなわち側音をキャンセルする前の信号を選択して出力する。この結果、本発明では、自装置(例えばハンズフリー装置)に側音を発生する電話機等の機器が接続されていない状態や電話機等の機器が通話状態にない状態で、他の機器を用いて通話を行った際に、自装置のスピーカや他の機器側で側音が戻っているように聞こえてしまうことを防止することができる。
【0019】
また、本発明では、可変フィルタ手順のフィルタ係数の絶対値を計算し、フィルタ係数の絶対値の最大値を求め、この最大値があらかじめ設定された固定閾値よりも大きい場合に、側音ありと検出する。これにより、本発明では、自装置に側音を発生する電話機等の機器が接続されていない状態や電話機等の機器が通話状態にない揚合には、側音をキャンセルする前の受話信号を出力することができ、不要な擬似側音の発生を抑えることができる。
【0020】
また、本発明では、側音検出手順における閾値を、フィルタ係数の絶対値の平均値にあらかじめ設定された定数を乗じた値とし、この閾値とフィルタ係数の絶対値の最大値を比較し、最大値の方が大きい揚合に、側音ありと検出することにより、側音の大きさによらずに、側音の検出ができるようになる。これにより、本発明では、自装置に側音の大きさが一般的でない電話機等の機器が接続された場合でも側音の有無を検出することが可能となり、側音キャンセラを正常に動作させることができる。
【0021】
また、本発明では、側音が有る状態から側音が無い状態に移行した際に、可変フィルタ手順のフィルタ係数を0とする。これにより、本発明では、側音が有る状態(自装置に側音を発生する電話機等の機器が接続されている状態)から、側音が無い状態(側音を発生する電話機等の機器が接続されていない状態)に移行した際に、即座に疑似側音の生成を止めることができ、側音が戻っているように聞こえてしまう現象を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る側音キャンセラの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る側音キャンセラの可変フィルタ部とフィルタ係数更新部と減算部の動作を示すフローチャート、および側音検出部とスイッチ部の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る側音キャンセラの側音検出部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る側音キャンセラの側音検出部の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る側音キャンセラの側音検出部の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る側音キャンセラの側音検出部の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る側音キャンセラの構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る側音キャンセラのフィルタ係数リセット部の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る側音キャンセラのフィルタ係数リセット部の動作を示すフローチャートである。
【図10】従来の側音キャンセル装置の構成を示すブロック図である。
【図11】側音キャンセラの適用先であるハンズフリー装置の使用方法を説明する図である。
【図12】図11の接続を行った場合の信号の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係る側音キャンセラの構成を示すブロック図である。
本実施の形態の側音キャンセラ101は、可変フィルタ部102と、フィルタ係数更新部103と、減算部104と、側音検出部105と、スイッチ部106とから構成される。
【0024】
図2(A)は可変フィルタ部102とフィルタ係数更新部103と減算部104の動作を示すフローチャート、図2(B)は側音検出部105とスイッチ部106の動作を示すフローチャートである。
【0025】
可変フィルタ部102は、電話機に送出する送話信号x(t)をフィルタ係数H(t)でフィルタリングし、疑似側音信号y’(t)を出力する(図2(A)ステップS100)。減算部104は、電話機からの受話信号y(t)から疑似側音信号y’(t)を減算し、受話信号y(t)から側音成分を消去した信号e(t)を出力する(ステップS101)。フィルタ係数更新部103は、送話信号x(t)と減算部104の出力信号e(t)とに基づいて、受話信号y(t)に含まれる側音の二乗平均が小さくなるように、可変フィルタ部102のフィルタ係数H(t)を逐次更新する(ステップS102)。以上の可変フィルタ部102とフィルタ係数更新部103と減算部104の動作は従来の側音キャンセラと同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0026】
側音検出部105は、側音の有無を検出し(図2(B)ステップS103)、検出結果が側音有りであった場合には(ステップS104においてYES)、スイッチ部106に減算部104の出力信号e(t)を選択して出力させ(ステップS105)、検出結果が側音無しであった場合には(ステップS104においてNO)、スイッチ部106に受話信号y(t)を選択して出力させる(ステップS106)。以下、側音検出部105とスイッチ部106の動作をより詳細に説明する。
【0027】
側音検出部105は、可変フィルタ部102のフィルタ係数H(t)から、側音の有無、すなわち側音キャンセラを含む自装置(ハンズフリー装置)が側音を発生する機器(電話機接続用の端子に接続される電話機等の機器)と接続されているか否かを検出する。図3は側音検出部105の構成を示すブロック図、図4は側音検出部105の動作を示すフローチャートである。本実施の形態の側音検出部105は、絶対値計算部201と、最大値検出部202と、固定閾値比較部203とから構成される。
【0028】
絶対値計算部201は、可変フィルタ部102のフィルタ係数H(t)の絶対値F(t)を計算する(図4ステップS200)。この絶対値計算部201の計算処理は、式(2)で表わされる。ただし、|x|はxの絶対値を取ることを表す。
F(t)=|H(t)| ・・・(2)
【0029】
次に、最大値検出部202は、絶対値計算部201で計算されたフィルタ係数H(t)の絶対値F(t)の最大値Fm(t)を検出する(ステップS201)。この最大値検出部202の処理は、式(3)で表される。ただし、max(Z)は、ベクトルZの要素の中の最大値を取ることを意味する。
Fm(t)=max(F(t)) ・・・(3)
【0030】
次に、固定閾値比較部203は、最大値検出部202によって検出された最大値Fm(t)とあらかじめ設定された固定閾値Gとを比較し(ステップS202)、最大値Fm(t)が固定閾値Gよりも大きい場合には、側音有り、すなわち自装置が側音を発生する電話機等の機器と接続されていると判定し(ステップS203)、最大値Fm(t)が固定閾値G以下の場合には、側音無し、すなわち自装置が側音を発生する機器と接続されていないと判定する(ステップS204)。ここで、固定閾値Gは、通常想定される側音の伝達経路の利得の大きさよりも十分に小さい値に設定される。通常はG=0.01〜0.2程度の範囲である。そして、固定閾値比較部203は、側音の有無の検出結果をスイッチ部106に出力する(ステップS205)。
【0031】
スイッチ部106は、側音検出部105の検出結果に応じて、受話信号y(t)または減算部104の出力信号e(t)のいずれかを選択して出力信号z(t)として出力する。スイッチ部106は、側音検出部105の検出結果が側音有りであった場合には、減算部104の出力信号e(t)を選択して出力し(図2(B)ステップS105)、検出結果が側音無しであった場合には、受話信号y(t)を選択して出力する(ステップS106)。スイッチ部106の出力信号z(t)は、図12で説明したミキシング部へ送出される。
【0032】
以上説明したように、本実施の形態では、側音検出部105とスイッチ部106とを設けることで、自装置に側音を発生する電話機等の機器が接続されていない場合に、側音の除去処埋をかける前の受話信号をそのまま出力することができ、疑似側音をミキシング部に送出してしまうことを防止することができる。また、自装置に側音を発生する機器が接続されている場合は、側音の除去処埋をかけた後の受話信号を出力することができる。これにより、本実施の形態では、電話機が接続されていない状態や電話機が通話状態にない状態で、通常の機器接続用の端子を用いて通話を行った際に、通話時に自装置のスピーカや通常の機器接続用の端子に接続されているTV会議装置等の機器側で側音が戻っているように聞こえてしまうことを防止することができる。
【0033】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図5は本発明の第2の実施の形態に係る側音キャンセラの側音検出部の構成を示すブロック図、図6は側音検出部の動作を示すフローチャートである。本実施の形態の側音キャンセラは、第1の実施の形態の側音検出部105を、図5に示す構成としたものである。本実施の形態の側音キャンセラの全体の構成は図1に示したブロック図と同様であり、可変フィルタ部102と、フィルタ係数更新部103と、減算部104と、側音検出部105と、スイッチ部106とから構成される。可変フィルタ部102、フィルタ係数更新部103、減算部104、スイッチ部106は、第1の実施の形態の側音キャンセラと同様であるので、説明は省略する。
【0034】
図5に示すように、本実施の形態の側音検出部105は、絶対値計算部201と、最大値検出部202と、平均値計算部301と、閾値設定部302と、閾値比較部303とから構成される。
絶対値計算部201と最大値検出部202の動作は、第1の実施の形態と同じである(図6ステップS200,S201)。
【0035】
平均値計算部301は、絶対値計算部201で計算されたフィルタ係数H(t)の絶対値F(t)の平均値Fa(t)を計算する(ステップS206)。平均値計算部301の計算処理は、式(4)で表される。
Fa(t)=cF(t)/L ・・・(4)
式(4)のcは、1行L列の1を要素に持つベクトルであり、式(5)で表わされる。
c={1,1,1,・・・・,1} ・・・(5)
【0036】
閾値設定部302は、平均値計算部301で計算された平均値Fa(t)に、あらかじめ設定された定数A(A≧1)を乗算し、閾値G(t)を計算する(ステップS207)。閾値設定部302の計算処理は、式(6)で表される。
G(t)=A・Fa(t) ・・・(6)
【0037】
閾値比較部303は、最大値検出部202によって検出された最大値Fm(t)と閾値設定部302によって設定された閾値G(t)とを比較し(ステップS208)、最大値Fm(t)が閾値G(t)よりも大きい場合には、側音有り、すなわち自装置が側音を発生する電話機等の機器と接続されていると判定し(ステップS209)、最大値Fm(t)が閾値G(t)以下の場合には、側音無し、すなわち自装置が側音を発生する機器と接続されていないと判定する(ステップS210)。そして、閾値比較部303は、側音の有無の検出結果をスイッチ部106に出力する(ステップS211)。
【0038】
以上示したように、本実施の形態では、固定閾値Gではなく、可変フィルタ部102のフィルタ係数の平均値に応じた閾値G(t)を用いて、側音を発生する電話機等の機器との接続の有無を判定することにより、自装置に側音の大きさが一般的でない機器が接続された場合でも側音の有無を検出することが可能となる。これ以外の効果については、第1の実施の形態と同様である。
【0039】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図7は本発明の第3の実施の形態に係る側音キャンセラの構成を示すブロック図である。本実施の形態の側音キャンセラ402は、第1の実施の形態または第2の実施の形態の側音キャンセラに、フィルタ係数リセット部401を追加したものである。
可変フィルタ部102、フィルタ係数更新部103、減算部104、側音検出部105、スイッチ部106については、第1の実施の形態または第2の実施の形態と同様であるので、説明は省略する。
【0040】
フィルタ係数リセット部401は、側音キャンセラを含む自装置(ハンズフリー装置)が側音を発生する機器(電話機接続用の端子に接続される電話機等の機器)に接続されている状態から、接続されていない状態に移行した際に、可変フィルタ部102のフィルタ係数を全て0にクリアする。図8はフィルタ係数リセット部401の構成を示すブロック図、図9はフィルタ係数リセット部401の動作を示すフローチャートである。
フィルタ係数リセット部401は、レベル計算部501と、レベル計算部502と、定数乗算部503と、比較部504とから構成される。
【0041】
レベル計算部501は、減算部104の出力である側音キャンセル後の受話信号e(t)の時間平均レベルP(t)を計算する(図9ステップS300)。時間平均レベルP(t)は、式(7)により計算される。
P(t)=(1−b)・P(t−1)+b・|e(t)| ・・・(7)
ただし、bは1未満のあらかじめ設定される定数であり、bが1に近いほど、レベル計算の時間平均の時定数が長くなる。|x|はxの絶対値を取ることを表す。
【0042】
レベル計算部502は、側音キャンセル前の受話信号y(t)の時間平均レベルQ(t)を計算する(ステップS301)。時間平均レベルQ(t)は、式(8)により計算される。
Q(t)=(1−b)・Q(t−1)+b・|y(t)| ・・・(8)
【0043】
側音があり、側音キャンセラが働いていれば、側音キャンセル前の受話信号y(t)よりも、側音キャンセル後の受話信号e(t)の方が信号のレベルが小さくなるので、P(t)<Q(t)という関係が成立する。この状態で、側音が急になくなった場合、可変フィルタ部102の疑似側音信号y’(t)のレベルが、側音キャンセル前の受話信号y(t)の時間平均レベルQ(t)に加算されるので、P(t)>Q(t)という関係となる。この現象を利用して、側音キャンセラを含む自装置が側音を発生する電話機等の機器に接続されている状態から接続されていない状態に移行したことを検出する。
【0044】
定数乗算部503は、あらかじめ設定された定数d(d≧1)を、レベル計算部502で計算された時間平均レベルQ(t)に乗算する(ステップS302)。
比較部504は、定数乗算部503の出力d・Q(t)とレベル計算部501の出力P(t)とを比較し(ステップS303)、定数乗算部503の出力d・Q(t)よりもレベル計算部501の出力P(t)の方が大きい場合に、可変フィルタ部102のフィルタ係数を全て0にクリアする(ステップS304)。
【0045】
このように、側音キャンセラを含む自装置が側音を発生する機器に接続されている状態から、接続されていない状態に移行したことを検出した際に、可変フィルタ部102のフィルタ係数を0とすることにより、側音を発生する機器に接続されている状態から、接続されていない状態に移行した際に、不要音として付加されてしまう擬似側音を、フィルタ係数の学習が行われる前に、発生しないようにすることができる。
以上示したように本実施の形態によれば、第1の実施の形態または第2の実施の形態の効果に加えて、側音を発生する機器に接続されている状態から、接続されていない状態に移行した際に不要音として付加される擬似側音をいち早く消去することができる。
【0046】
なお、第1〜第3の実施の形態の側音キャンセラ101,402は、CPU、記憶装置および外部とのインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このようなコンピュータにおいて、CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1〜第3の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、ハンズフリー通話等において側音を消去する側音キャンセラに適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
101,402…側音キャンセラ、102…可変フィルタ部、103…フィルタ係数更新部、104…減算部、105…側音検出部、106…スイッチ、201…絶対値計算部、202…最大値検出部、203…固定閾値比較部、301…平均値計算部、302…閾値設定部、303…閾値比較部、401…フィルタ係数リセット部、501…レベル計算部、502…レベル計算部、503…定数乗算部、504…比較部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通話相手へ送信する送話信号を設定されたフィルタ係数でフィルタリングする可変フィルタ手順と、
通話相手からの受話信号から前記可変フィルタ手順で得られた出力信号を減算する減算手順と、
前記送話信号と前記減算手順で得られた出力信号に基づいて、前記受話信号に含まれる送話信号成分である側音の二乗平均が小さくなるように、前記可変フィルタ手順のフィルタ係数を逐次更新するフィルタ係数更新手順と、
前記可変フィルタ手順のフィルタ係数に基づいて前記側音の有無を検出する側音検出手順と、
前記側音検出手順の検出結果が側音有りであった場合に、前記減算手順で得られた出力信号を選択して出力し、検出結果が側音無しであった場合に、前記受話信号を選択して出力するスイッチ手順とを備えることを特徴とする側音キャンセル方法。
【請求項2】
請求項1記載の側音キャンセル方法において、
前記側音検出手順は、
前記可変フィルタ手順のフィルタ係数の絶対値を計算する絶対値計算手順と、
前記フィルタ係数の絶対値の最大値を求める最大値検出手順と、
あらかじめ設定された固定閾値と前記最大値とを比較し、前記固定閾値よりも前記最大値が大きい場合に側音有りと判定し、前記最大値が前記固定閾値以下の場合に側音無しと判定する固定閾値比較手順とを含むことを特徴とする側音キャンセル方法。
【請求項3】
請求項1記載の側音キャンセル方法において、
前記側音検出手順は、
前記可変フィルタ手順のフィルタ係数の絶対値を計算する絶対値計算手順と、
前記フィルタ係数の絶対値の最大値を求める最大値検出手順と、
前記フィルタ係数の絶対値の平均値を計算する平均値計算手順と、
前記平均値にあらかじめ設定された定数を乗じた値を閾値として設定する閾値設定手順と、
前記閾値と前記最大値とを比較し、前記閾値よりも前記最大値が大きい場合に側音有りと判定し、前記最大値が前記閾値以下の場合に側音無しと判定する閾値比較手順とを含むことを特徴とする側音キャンセル方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の側音キャンセル方法において、
さらに、前記側音が有る状態から前記側音が無い状態に移行した際に、前記可変フィルタ手順のフィルタ係数を0とするフィルタ係数リセット手順を備えることを特徴とする側音キャンセル方法。
【請求項5】
請求項4記載の側音キャンセル方法において、
前記フィルタ係数リセット手順は、
前記減算手順で得られた出力信号のレベルを計算する第1のレベル計算手順と、
前記受話信号のレベルを計算する第2のレベル計算手順と、
前記受話信号のレベルにあらかじめ設定された定数を乗じる定数乗算手順と、
この定数乗算手順で得られた出力信号のレベルと前記減算手順で得られた出力信号のレベルとを比較し、前記減算手順で得られた出力信号のレベルの方が大きい場合に、前記可変フィルタ手順のフィルタ係数を0とする比較手順とを含むことを特徴とする側音キャンセル方法。
【請求項6】
通話相手へ送信する送話信号を設定されたフィルタ係数でフィルタリングする可変フィルタ手段と、
通話相手からの受話信号から前記可変フィルタ手段の出力信号を減算する減算手段と、
前記送話信号と前記減算手段の出力信号に基づいて、前記受話信号に含まれる送話信号成分である側音の二乗平均が小さくなるように、前記可変フィルタ手段のフィルタ係数を逐次更新するフィルタ係数更新手段と、
前記可変フィルタ手段のフィルタ係数に基づいて前記側音の有無を検出する側音検出手段と、
前記側音検出手段の検出結果が側音有りであった場合に、前記減算手段の出力信号を選択して出力し、検出結果が側音無しであった場合に、前記受話信号を選択して出力するスイッチ手段とを備えることを特徴とする側音キャンセラ。
【請求項7】
請求項6記載の側音キャンセラにおいて、
前記側音検出手段は、
前記可変フィルタ手段のフィルタ係数の絶対値を計算する絶対値計算手段と、
前記フィルタ係数の絶対値の最大値を求める最大値検出手段と、
あらかじめ設定された固定閾値と前記最大値とを比較し、前記固定閾値よりも前記最大値が大きい場合に側音有りと判定し、前記最大値が前記固定閾値以下の場合に側音無しと判定する固定閾値比較手段とからなることを特徴とする側音キャンセラ。
【請求項8】
請求項6記載の側音キャンセラにおいて、
前記側音検出手段は、
前記可変フィルタ手段のフィルタ係数の絶対値を計算する絶対値計算手段と、
前記フィルタ係数の絶対値の最大値を求める最大値検出手段と、
前記フィルタ係数の絶対値の平均値を計算する平均値計算手段と、
前記平均値にあらかじめ設定された定数を乗じた値を閾値として設定する閾値設定手段と、
前記閾値と前記最大値とを比較し、前記閾値よりも前記最大値が大きい場合に側音有りと判定し、前記最大値が前記閾値以下の場合に側音無しと判定する閾値比較手段とからなることを特徴とする側音キャンセラ。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか1項に記載の側音キャンセラにおいて、
さらに、前記側音が有る状態から前記側音が無い状態に移行した際に、前記可変フィルタ手段のフィルタ係数を0とするフィルタ係数リセット手段を備えることを特徴とする側音キャンセラ。
【請求項10】
請求項9記載の側音キャンセラにおいて、
前記フィルタ係数リセット手段は、
前記減算手段の出力信号のレベルを計算する第1のレベル計算手段と、
前記受話信号のレベルを計算する第2のレベル計算手段と、
前記受話信号のレベルにあらかじめ設定された定数を乗じる定数乗算手段と、
この定数乗算手段の出力信号のレベルと前記減算手段の出力信号のレベルとを比較し、前記減算手段の出力信号のレベルの方が大きい場合に、前記可変フィルタ手段のフィルタ係数を0とする比較手段とからなることを特徴とする側音キャンセラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−273249(P2010−273249A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125115(P2009−125115)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】