説明

光スペクトラムアナライザ

【課題】複雑な測定系を準備することなく、1台で被測定信号光の光スペクトラムと、電気スペクトラムと、電気パワーを測定できる光スペクトラムアナライザを提供する。
【解決手段】単一縦モードのレーザ光と被測定信号光を合波し2つに分岐して出力する光カプラ12と、光カプラ12からの光を電気信号に変換する光電変換部13a、13bと、を備え、光スペクトラム測定モード時には、光遮断機構18がオンになってレーザ光および被測定信号光が光カプラ12に入射するとともに、信号処理部16が該電気信号間の差分信号に基づいて被測定信号光の光スペクトラムを算出し、電気スペクトラム測定モード時には、光遮断機構18がオフになって被測定信号光のみが光カプラ12に入射するとともに、信号処理部16が該電気信号の加算信号、または、一方の電気信号に基づいて被測定信号光の電気パワーを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信などに用いられる光スペクトラムアナライザに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信の幹線系においてはビットレートが10Gbps以上と高速であるため、光送信機にはニオブ酸リチウム(LiNbO3)結晶を用いた光変調器(以下、LN光変調器と記す)による外部変調が行われる。LN光変調器は、駆動電圧に対する光損失特性が温度変動や時間経過に伴い変化する、いわゆるドリフト特性を有することが知られている。よって強度変調方式の光送信機においては、LN光変調器のバイアス電圧が良好な点となるよう常に調整されている必要があり、これを実現する技術の一例が特許文献1に開示されている。
【0003】
具体的には、特許文献1に開示された方法においては、通信信号に影響を及ぼさない程度の低周波信号をLN光変調器の駆動電圧に重畳する。このLN光変調器からの出力光を光カプラで分岐して、その分岐光をフォトダイオードで電気信号に変換し、これに含まれる低周波信号成分を検出して、これが最小となるようバイアス電圧を随時調整している。この特定の低周波数信号成分の検出は、フォトダイオードからの電気信号を、低周波数信号成分を通過させる電気フィルタと電気パワーメータの組み合わせで測定、または、電気スペクトラムアナライザで低周波数信号成分だけ抽出することにより実現できる。
【0004】
さらに近年は、データトラフィックの急激な増加から、従来の強度変調方式に代えて、より大容量の位相変調方式が使われるようになってきている。中でもDPSK(Differential Phase Shift Keying)方式、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)方式、DQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying)方式が注目されている。
【0005】
NRZ(Non-Return to Zero)方式のDQPSK光送信機とその調整用測定系の例を図5に示す。ここではDQPSK用のLN光変調器30が用いられており、この調整の良否が光送信機20の性能を大きく左右する。この例でのLN光変調器30の調整項目はI(In-phase)ポート32に印加される駆動電圧の振幅とバイアス電圧、Q(Quadrature)ポート33に印加される駆動電圧の振幅とバイアス電圧、および、Iポート32とQポート33のバランス電圧(I−Qバランス)の5項目である。非特許文献1などではこれらの調整が難しいことが指摘されており、このため光送信機の研究開発や製造には時間が掛かっていた。
【0006】
図5を用いて非特許文献1等に開示されたNRZ−DQPSK方式の光送信機および測定系の動作について説明する。パルスパターン発生器36より擬似ランダムビット系列(Pseudo-Random Bit Sequence:以下、PRBSと記す)のパルスパターン信号が、光送信機20の電圧印加部35を介してIポート32、Qポート33にそれぞれ供給される。
【0007】
光送信機20内に配置されたレーザ光源31は単一縦モードのレーザ光を発振し、そのレーザ光はDQPSK用のLN光変調器30で位相変調されて光送信機20から出力される。光送信機20から出力された位相変調信号は擬似光線路37に入射する。擬似光線路37は、実際の通信で使われる長さの光ファイバと同じ程度の光損失値や波長分散値または偏波モード分散値を、光ファイバを使わずに実現させたものであり、光送信機20に対する負荷となる。
【0008】
擬似光線路37を伝播した位相変調信号はDQPSK光受信機38で電気信号に変換される。この電気信号の誤り率を誤り率検出器39で判定し、誤り率が所定値以下になるよう各調整項目を交互に調整する。
【0009】
しかしながら、この所定値の設定が不適切な場合には、各調整項目が真に最適となる前に調整を終了している可能性があった。なお、本発明者らは、光スペクトラムアナライザ40を用いて、これらの調整項目のうちI−Qバランス以外の調整を可能とする方法を発明している(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
I−QバランスはIポート32とQポート33の間の位相シフト量φIQであり、NRZ−DQPSK方式ではπ/2に設定することが必要である。具体的には図中の位相シフト部34の電極電圧を調整することにより、位相シフト量φIQをπ/2に維持する。
【0011】
このI−Qバランスが最適値(φIQ=π/2)であるときの光スペクトラムと、最適値から10%変化したとき(φIQ=0.45π)の光スペクトラムをそれぞれ図6(a)、(b)に示す。この図が示すように光スペクトラムからI−Qバランスの変化を検知することは困難であり、従って光スペクトラムに基づいて位相シフト量φIQを調整することはできなかった。これに対し、次の二つの方法が提案されている。
【0012】
方法の一つとして、例えば特許文献3に開示されているような光コンスタレーションが表示可能なサンプリング型光波形観測装置を併用することにより、位相シフト量φIQの調整を容易に行えることが知られている。しかしながら、この装置は超高速電子回路を多用するため、非常に高価であるという問題があった。
【0013】
一方、非特許文献2または非特許文献3ではフォトダイオード41と電気パワーメータ42を使った調整方法が開示されている。この方法は、LN光変調器30からの光出力を分岐して、その一部をフォトダイオード41で電気信号に変換し、この電気信号の100MHz(非特許文献2の例)までのパワーの合計を測定し、これが最小となるよう位相シフト部34の電極電圧を調整するものである。
【0014】
ここで図6(c)に位相シフト量φIQに対する100MHzまでのパワーの合計の計算結果を示す。グラフの横軸はφIQのπによる商を、縦軸は後述する式[数3]により演算された値を表す。非特許文献2や非特許文献3にもあるようにパワーが最小のときにφIQ=π/2となっている。この方法はボーレート40Gbpsといった超高速信号であっても、100MHzまでの比較的低い周波数域の信号によって制御を実現できるので、特許文献3に開示されたサンプリング型光波形観測装置を用いる場合よりも安価に位相シフト量φIQの調整を行うことができる。なお、図6(c)の中で半波長電圧Vπの倍数で表す凡例は、I、Q両ポートの駆動電圧振幅(peak to peak値)を表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第2642499号明細書
【特許文献2】特願2009−155648号
【特許文献3】特開2007−93515号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】星田剛司、外4名、「偏波多重4値位相変調光送受信機のための制御技術」、信学技報、電子情報通信学会、2009年2月、第108巻、第423号、OCS2008−120、pp.79−83
【非特許文献2】秋山祐一、外4名、「RZ−DQPSK変調器のバイアス制御方式の検討」、信学技報、電子情報通信学会、2008年10月、第108巻、第259号、OCS2008−80、pp.167−170
【非特許文献3】Pak S. Cho, et al., "Closed-Loop Bias Control of Optical Quadrature Modulator", IEEE Photonics Technology Letters, 2006年11月、第18巻、第21号、pp.2209−2211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上述べたように、強度変調方式や位相変調方式など変調方式の違いに関わらず、LN光変調器を用いた光送信機の調整にあたっては、光スペクトラムアナライザのほかにフォトダイオードと電気パワーメータ、あるいは電気スペクトラムアナライザが必要な場合が多い。従って、これらを揃える為の費用がかさむ、セットアップの手間がかかる、測定器類の占有面積が広くなる、などの不便を生じていた。
【0018】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、複雑な測定系を準備することなく、1台で光スペクトラム測定機能と、電気スペクトラム測定機能と、電気パワー測定機能とを実現する光スペクトラムアナライザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1の光スペクトラムアナライザは、測定波長範囲において単一縦モードのレーザ光を出射する波長可変レーザ光源と、前記波長可変レーザ光源から出射されたレーザ光と被測定信号光を合波するとともに、該合波された光を2つに分岐して出力する光カプラと、前記光カプラから出力された2つの光を受光して電気信号に変換する2つの光電変換部と、を備えた光スペクトラムアナライザにおいて、複数の測定モードのうちから1つを指定するための制御信号を出力する測定モード制御部と、前記制御信号に応じて、前記波長可変レーザ光源から出射された前記レーザ光の前記光カプラへの入射をオン/オフする光遮断機構と、前記制御信号に応じて、各測定モードに対応した信号処理を行う信号処理部と、をさらに備え、前記測定モード制御部が前記複数の測定モードのうちから第1の測定モードを指定する制御信号を出力する場合には、前記光遮断機構がオンとなって前記レーザ光および前記被測定信号光が前記光カプラに入射するとともに、前記信号処理部が前記2つの光電変換部からの前記電気信号間の差分信号に基づいて前記被測定信号光の光スペクトラムを算出し、前記測定モード制御部が前記複数の測定モードのうちから第2の測定モードを指定する制御信号を出力する場合には、前記光遮断機構がオフとなって前記被測定信号光のみが前記光カプラに入射するとともに、前記信号処理部が前記2つの光電変換部からの前記電気信号の加算信号、または、一方の光電変換部からの電気信号に基づいて前記被測定信号光の電気パワーを算出することを特徴とする構成を有している。
【0020】
この構成により、複雑な測定系を準備することなく、1台で光スペクトラム測定機能および電気パワー測定機能を実現することができる。
【0021】
また、本発明の請求項2の光スペクトラムアナライザは、前記測定モード制御部が前記複数の測定モードのうちから第3の測定モードを指定する制御信号を出力する場合には、前記光遮断機構がオフとなって前記被測定信号光のみが前記光カプラに入射するとともに、前記信号処理部が前記2つの光電変換部からの前記電気信号の加算信号、または、一方の光電変換部からの電気信号に対して高速フーリエ変換を行うことにより、前記被測定信号光の電気スペクトラムを算出することを特徴とする構成を有している。
【0022】
この構成により、複雑な測定系を準備することなく、1台で光スペクトラム測定機能と、電気スペクトラム測定機能と、電気パワー測定機能とを実現することができる。
【0023】
また、本発明の請求項3の光スペクトラムアナライザは、前記光遮断機構が、前記波長可変レーザ光源と前記光カプラとの間に配置される光スイッチからなることを特徴とする構成を有していてもよい。
【0024】
また、本発明の請求項4の光スペクトラムアナライザは、前記波長可変レーザ光源が、単一縦モードのレーザ光を発振する半導体レーザを有し、前記光遮断機構は、前記半導体レーザに単一縦モードのレーザ光を発振させるための駆動電流の供給をオン/オフする電気スイッチからなることを特徴とする構成を有していてもよい。
【0025】
また、本発明の請求項5の光スペクトラムアナライザは、前記光カプラの分岐比が1:1であることを特徴とする構成を有していてもよい。
この構成により、波長可変レーザ光源からのレーザ光の持つ振幅雑音成分を抑圧し、被測定信号光の測定精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、複雑な測定系を準備することなく、1台で光スペクトラム測定機能と、電気スペクトラム測定機能と、電気パワー測定機能とを実現する光スペクトラムアナライザを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る光スペクトラムアナライザの動作原理を説明する概略図
【図2】第1の実施形態の光スペクトラムアナライザの構成を示すブロック図
【図3】信号処理部の処理内容を示すブロック図
【図4】第2の実施形態の光スペクトラムアナライザの構成を示すブロック図
【図5】従来の光送信機および測定系の構成例を示す概略図
【図6】I−Qバランスが変化したときの位相変調信号の光スペクトラムを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る光スペクトラムアナライザの実施形態について、図面を用いて説明する。
本発明ではヘテロダイン方式の光スペクトラムアナライザを基本技術として用いる。この基本技術は下記の文献に開示されている。
[特許文献3]特開平3−115938号公報
[非特許文献4]D. M. Baney, B. Szafraniec and A. Motamedi, "Coherent Optical Spectrum Analyzer", IEEE Photonics Technology Letters,2002年3月、第14巻、第3号、pp.355−357
【0029】
本明細書では、本発明に係る光スペクトラムアナライザが光スペクトラム測定用に設定された状態を「光スペクトラム測定モード」と呼ぶ。また、フォトダイオードでの受光電気信号を電気スペクトラムアナライザで表示させたスペクトラム波形を、本明細書では「電気スペクトラム」と定義し、本発明に係る光スペクトラムアナライザがこの測定用に設定された状態を「電気スペクトラム測定モード」と呼ぶ。また受光電気信号の所定の帯域までのパワーを「電気パワー」と定義し、本発明に係る光スペクトラムアナライザがこの測定用に設定された状態を「電気パワー測定モード」と呼ぶ。
【0030】
最初に、光スペクトラム測定モードの動作原理について図1(a)を用いて説明する。波長可変レーザ光源11は、測定波長域に亘って単一縦モードのレーザ光を位相連続状態で発振する。本明細書では波長可変レーザ光源11から出射される光を「レーザ光」と呼ぶ。
【0031】
波長可変レーザ光源11から出射されたレーザ光は、光カプラ12に入射する。光送信機から出力される位相変調信号などの被測定信号光と波長可変レーザ光源11からのレーザ光は光カプラ12で合波され、各フォトダイオード13c、13eに入射する。ここで、光カプラ12の2つの出力ポートから出力される合波光は、互いに逆位相のビート周波数成分(被測定信号光とレーザ光の干渉成分)を有する。なお、光カプラ12の分岐比は1:1(50%)に調整されており、光カプラ12から各フォトダイオード13c、13eへの光の伝播時間や光量は等しくなっている。
【0032】
光カプラ12からの出力光は、各フォトダイオード13c、13eで電気信号に変化され、増幅器13d、13fで増幅される。各増幅器13d、13fからの信号は各アナログ−デジタル(AD)変換器15a、15bによってデジタル信号に変換される。
【0033】
次に、減算器26aにおいて、この2つのAD変換器15a、15bから出力されたデジタル信号の差分を取る。ここで、光カプラ12の分岐比が上記のように1:1である場合には、この2つのデジタル信号の差分を取ると、ビート周波数成分のみを取り出すことができ、レーザ光の持つ振幅雑音成分を抑圧できる。このような構成は、非特許文献3など一般的に知られているバランス型光検波器と同様の原理に基づいたものであり、光ヘテロダイン型光スペクトラムアナライザにはよく採用されている技術である。本発明ではソフトウェア処理によって、このようなバランス型光検波器としての機能を実現している。
【0034】
さらに、パワー計算部26bにおいて、このデジタル信号の差分信号から、波長分解能幅として設定した帯域幅でのパワーの積分値を計算する。この積分値から、波長可変レーザ光源11の発振波長における被測定信号光の光パワーが求められるので、波長可変レーザ光源11の波長を順次掃引させ、各発振波長における光パワーを順次、表示部17の表示画面上にプロットすることで光スペクトラムが得られる。
【0035】
次に、電気スペクトラム測定モードの動作原理について図1(b)を用いて説明する。電気スペクトラム測定モードにおいては、波長可変レーザ光源11からのレーザ光を光カプラ12に入射させず、各フォトダイオード13c、13eにヘテロダイン検波の代わりに直接検波を行わせる。
【0036】
被測定信号光の振幅変化を観測するため、各フォトダイオード13c、13eの出力信号に対して加算器26cにおいて加算処理を行う。加算処理された信号(もしくは一方の出力信号でもよい)に対し、FFT26dで高速フーリエ変換を行うことにより電気スペクトラムが得られる。表示部17は、このようにして得られた電気スペクトラムを表示する。
【0037】
次に、電気パワー測定モードの動作原理について図1(c)を用いて説明する。電気パワー測定モードにおいても、波長可変レーザ光源11からのレーザ光を光カプラ12に入射させず、各フォトダイオード13c、13eにヘテロダイン検波の代わりに直接検波を行わせる。
【0038】
被測定信号光の振幅変化を観測するため、各フォトダイオード13c、13eの出力信号に対して加算器26cにおいて加算処理を行う。加算処理された信号(もしくは一方の出力信号でもよい)に対し、パワー計算部26eにおいて、高速フーリエ変換を行った後に所定の帯域幅に亘って積分することにより電気パワーを求めることができる。
【0039】
あるいは、以降の第1の実施形態で述べるように、パワー計算部26eにおいて、加算処理された信号(もしくは一方の出力信号)を時系列信号とみなして時間分散値を求め、時間平均値の2乗により規格化処理を行ってもよい。これにより非特許文献2、3よりパワー最小点の検出が容易になることが分かる。
【0040】
以上述べたように、ヘテロダイン方式の光スペクトラムアナライザ(本明細書での光スペクトラム測定モード)とLN光変調器の調整に必要な低周波信号測定構成(本明細書での電気スペクトラム測定モードまたは電気パワー測定モード)には共通する構成要素があり、本発明では独自の工夫でこれらを一つの装置にまとめた。この詳細について、第1および第2の実施形態で述べる。
【0041】
(第1の実施形態)
本発明に係る光スペクトラムアナライザの第1の実施形態を図2、3を用いて説明する。図2は本実施形態の光スペクトラムアナライザ1の構成の一例を示すブロック図である。
【0042】
図2に示すように、光スペクトラムアナライザ1は、測定波長範囲において単一縦モードのレーザ光を出射する波長可変レーザ光源11と、波長可変レーザ光源11から出射されたレーザ光と光送信機20から送出された被測定信号光を合波するとともに、該合波された光を2つに分岐して出力する光カプラ12と、光カプラ12から出力された2つの光を受光して電気信号に変換する2つの光電変換部13a、13bと、を備える。
【0043】
ここで、波長可変レーザ光源11は、その内部に単一縦モードのレーザ光を発振する不図示の半導体レーザを備えており、単一縦モードの発振波長の情報を含む発振波長信号を出力するようになっている。
【0044】
各光電変換部13a、13bの後段には、アンチエイリアス用の低域通過フィルタ(LPF)14a、14bが配置され、さらに各低域通過フィルタ14a、14bの後段にはAD変換器15a、15bが配置される。
【0045】
さらに、光スペクトラムアナライザ1は、波長可変レーザ光源11からの発振波長信号をAD変換するAD変換器15cと、AD変換器15a〜15cから出力されるデジタル信号を処理して光スペクトラム、電気スペクトラム、または電気パワーを算出する信号処理部16と、信号処理部16での算出結果を表示する表示部17と、波長可変レーザ光源11と光カプラ12との間に配置され、波長可変レーザ光源11から出射されたレーザ光の光カプラ12への入射をオン/オフする光遮断機構としての光スイッチ18と、複数の測定モードのうちから一つを指定するための制御信号を出力する測定モード制御部19と、を備える。
【0046】
光カプラ12は、例えば、分岐比が1:1の3dB光カプラであり、2つの入力ポートと2つの出力ポートを有する。光電変換部13a、13bは、フォトダイオード13c、13eと、フォトダイオード13c、13eからの出力信号を増幅する増幅器13d、13fと、を有する。
【0047】
測定モード制御部19は、例えば、操作者が測定モードを指定するための不図示の操作部を有する。測定モード制御部19は、操作者によって選択された測定モードに応じて、光スイッチ18のオン/オフを切り替えるための光スイッチ制御信号を送出するとともに、信号処理部16に各測定モードに対応した信号処理を行わせるための信号処理制御信号を送出するようになっている。
【0048】
信号処理部16は、CPU(Central Processing Unit)とRAM(Random Access Memory)に保存されたプログラムをCPUで実行する構成であるが、後述する光スペクトラム測定モードと電気スペクトラム測定モードの処理は共通点が多いため、FPGA(Field Programmable Gate Array)で構成することも可能である。
【0049】
以下、光スペクトラムアナライザ1の光スペクトラム測定モード(第1の測定モード)時の動作を説明する。
まず、操作者により、測定モード制御部19で光スペクトラム測定モードが選択される。測定モード制御部19は、光スイッチ18をオン(導通状態)とする光スイッチ制御信号を送出する。これにより、波長可変レーザ光源11からのレーザ光と被測定信号光とが共に光カプラ12に入射する状態となる。さらに、測定モード制御部19は、信号処理部16に光スペクトラム測定モードに対応した信号処理を行わせるための信号処理制御信号を送出する。
【0050】
次に、光スペクトラム測定モード時の信号処理部16の処理内容を図3(a)に沿って説明する。
まず、信号処理部16は、各AD変換器15a、15bでデジタル信号に変換された光電変換部13a、13bの信号(それぞれ図中のPD1信号、PD2信号)に対して各フォトダイオード13c、13eの感度のばらつきを補正するためのバランス補正処理を行う。この処理は、RAMに記憶された各波長における各フォトダイオード13c、13eの波長対感度特性や光カプラ12の波長対損失特性のデータに基づいて行われる。
【0051】
次に、信号処理部16は、バランス補正されたPD1信号とPD2信号との差分を取る減算処理を行う。これにより、既に述べたように信号のビート周波数成分のみを取り出すことができるため、レーザ光の振幅変動による雑音を抑圧することができる。
【0052】
次に、信号処理部16は、ソフトウェアによる帯域通過フィルタ(BPF)により、減算処理が行われた信号の所定の帯域成分のみを通過させる。この帯域幅により、光スペクトラムアナライザとしての波長分解能が決定される。
【0053】
次に、信号処理部16は、BPFを透過した信号の所定の帯域幅におけるパワーの積分値を計算する。この積分値が波長可変レーザ光源11の発振波長における波長分解能幅あたりの光パワーとなるので、信号処理部16は、波長可変レーザ光源11から出力される発振波長信号に基づいて波長値付処理を行う。
【0054】
従って、波長可変レーザ光源11の波長を順次掃引させ、その発振波長における各光パワーを表示部17の表示画面上にプロットすることで光スペクトラムが得られる。
【0055】
以下、光スペクトラムアナライザ1の電気スペクトラム測定モード(第3の測定モード)時の動作を説明する。
まず、操作者の操作により、測定モード制御部19で電気スペクトラム測定モードが選択される。測定モード制御部19は、光スイッチ18をオフ(遮断状態)とする光スイッチ制御信号を送出する。これにより、波長可変レーザ光源11からのレーザ光が光カプラ12に入射せず、被測定信号光のみが光カプラ12に入射する状態となる。さらに、測定モード制御部19は、信号処理部16に電気スペクトラム測定モードに対応した信号処理を行わせるための信号処理制御信号を送出する。
【0056】
次に、電気スペクトラム測定モード時の信号処理部16の処理内容を図3(b)に沿って説明する。
まず、光スペクトラム測定モード時と同様に、信号処理部16は、各AD変換器15a、15bでデジタル信号に変換されたPD1信号およびPD2信号に対して各フォトダイオード13c、13eの感度のばらつきを補正するためのバランス補正処理を行う。
【0057】
次に、信号処理部16は、バランス補正されたPD1信号とPD2信号を加算する加算処理を行った後に、ソフトウェアによる帯域通過フィルタ(BPF)により、加算処理を行った信号の所定の帯域成分のみを通過させる。なお、上記の加算処理においてPD1信号とPD2信号の加算処理を行わず、どちらか一方の信号のみをBPFに出力してもよい。
【0058】
そして、信号処理部16は、BPFを透過した信号に対して高速フーリエ変換(FFT)処理を行って、電気スペクトラムを算出し、これを表示部17の表示画面上にプロットする。
【0059】
以下、光スペクトラムアナライザ1の電気パワー測定モード(第2の測定モード)時の動作を説明する。
まず、操作者の操作により、測定モード制御部19で電気パワー測定モードが選択される。測定モード制御部19は、光スイッチ18をオフ(遮断状態)とする光スイッチ制御信号を送出する。これにより、波長可変レーザ光源11からのレーザ光が光カプラ12に入射せず、被測定信号光のみが光カプラ12に入射する状態となる。さらに、測定モード制御部19は、信号処理部16に電気パワー測定モードに対応した信号処理を行わせるための信号処理制御信号を送出する。
【0060】
次に、電気パワー測定モード時の信号処理部16の処理内容を図3(c)に沿って説明する。
まず、電気スペクトラム測定モード時と同様に、信号処理部16は、各AD変換器15a、15bでデジタル信号に変換されたPD1信号およびPD2信号に対して各フォトダイオード13c、13eの感度のばらつきを補正するためのバランス補正処理を行う。
【0061】
次に、信号処理部16は、バランス補正されたPD1信号とPD2信号を加算する加算処理を行った後に、ソフトウェアによる帯域通過フィルタ(BPF)により、加算処理が行われた信号の所定の帯域成分のみを通過させる。なお、上記の加算処理においてPD1信号とPD2信号の加算処理を行わず、どちらか一方の信号のみをBPFに出力してもよい。
【0062】
そして、信号処理部16は、BPFを透過した信号に対して、以下の[数1]〜[数3]に示すような計算処理を行う。PD1信号およびPD2信号は一定の時間間隔でサンプリングされており、ここで各サンプリングデータをQo(tn)と表す。時間的に連続するN個のサンプリングデータQo(tn)(n=0,...,N−1)の平均値は下記の[数1]のように表される。なお、以下の数式中では、Qo(tn)(n=0,...,N−1)の平均値を意味する記号として「Q」の上に線を引いたものを用いている。
【数1】

【0063】
また、Qo(tn)(n=0,...,N−1)の分散Vは次式のようになる。
【数2】

【0064】
以上のようにして求まるQo(tn)(n=0,...,N−1)の平均値と分散Vより、次式に示す電気パワーに相当する量Rを求めることができる。信号処理部16は、この電気パワーに相当する量Rを表示部17の表示画面上にプロットする。
【数3】

【0065】
(第2の実施形態)
本発明に係る光スペクトラムアナライザの第2の実施形態を図4を用いて説明する。図4は本実施形態の光スペクトラムアナライザ2の構成の一例を示すブロック図である。なお、第1の実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0066】
本実施形態の光スペクトラムアナライザ2は、光遮断機構として第1の実施形態の光スペクトラムアナライザ1のように光スイッチを備える代わりに、波長可変レーザ光源11内部の半導体レーザに単一縦モードのレーザ光を発振させるための駆動電流の供給のオン/オフを切り替える不図示の電気スイッチを備える。この電気スイッチがオフになることにより、半導体レーザのレーザ発振そのものが停止するようになっている。
【0067】
本実施形態においては、測定モード制御部19は、操作者によって選択された測定モードに応じて、波長可変レーザ光源11内部の電気スイッチのオン/オフを切り替えるための光源制御信号を送出するとともに、信号処理部16に各測定モードに対応した信号処理を行わせるための信号処理制御信号を送出するようになっている。電気スイッチは光スイッチよりも安価であるため、第1の実施形態の光スペクトラムアナライザ1と比較して、装置全体のコストを低下させることができるという利点がある。
【0068】
以上説明したように、本発明に係る光スペクトラムアナライザは、複雑な測定系を準備することなく、1台で光スペクトラム測定機能と、電気スペクトラム測定機能と、電気パワー測定機能とを実現することができる。
【0069】
例えば、本発明に係る光スペクトラムアナライザを用いてNRZ−DQPSK方式の光送信機の調整を行う場合には、従来の測定系(図5)で必要であったフォトダイオード41や電気パワーメータ42、さらにはフォトダイオード41および電気パワーメータ42にLN光変調器30からの光出力を分岐するための不図示の光カプラを取り除くことができ、測定系の簡略化と費用低減を実現できる。
【0070】
また、本発明に係る光スペクトラムアナライザを用いることにより、強度変調方式の光送信機の光変調器に対して低周波信号を重畳する場合の調整においても、フォトダイオードと電気スペクトラムアナライザを用意することなく、簡易な構成で測定を行うことができる。
【0071】
また、本発明に係る光スペクトラムアナライザの他の用途として、フォトダイオードと電気スペクトラムアナライザの組合せで測定される、半導体レーザの相対強度雑音(Relative Intensity Noise)特性の測定にも有効である。
【符号の説明】
【0072】
1、2、40 光スペクトラムアナライザ
11 波長可変レーザ光源
12 光カプラ
13a、13b 光電変換部
13c、13e フォトダイオード
13d、13f 増幅器
14a、14b 低域通過フィルタ
15a、15b、15c AD変換器
16 信号処理部
17 表示部
18 光スイッチ(光遮断機構)
19 測定モード制御部
20 光送信機
26a 減算器
26b、26e パワー計算部
26c 加算器
26d FFT
30 LN光変調器
31 レーザ光源
32 Iポート
33 Qポート
34 位相シフト部
35 電圧印加部
36 パルスパターン発生器
37 擬似光線路
38 DQPSK光受信機
39 誤り率検出器
41 フォトダイオード
42 電気パワーメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定波長範囲において単一縦モードのレーザ光を出射する波長可変レーザ光源(11)と、
前記波長可変レーザ光源から出射されたレーザ光と被測定信号光を合波するとともに、該合波された光を2つに分岐して出力する光カプラ(12)と、
前記光カプラから出力された2つの光を受光して電気信号に変換する2つの光電変換部(13a、13b)と、を備えた光スペクトラムアナライザにおいて、
複数の測定モードのうちから1つを指定するための制御信号を出力する測定モード制御部(19)と、
前記制御信号に応じて、前記波長可変レーザ光源から出射された前記レーザ光の前記光カプラへの入射をオン/オフする光遮断機構(18)と、
前記制御信号に応じて、各測定モードに対応した信号処理を行う信号処理部(16)と、をさらに備え、
前記測定モード制御部が前記複数の測定モードのうちから第1の測定モードを指定する制御信号を出力する場合には、前記光遮断機構がオンとなって前記レーザ光および前記被測定信号光が前記光カプラに入射するとともに、前記信号処理部が前記2つの光電変換部からの前記電気信号間の差分信号に基づいて前記被測定信号光の光スペクトラムを算出し、
前記測定モード制御部が前記複数の測定モードのうちから第2の測定モードを指定する制御信号を出力する場合には、前記光遮断機構がオフとなって前記被測定信号光のみが前記光カプラに入射するとともに、前記信号処理部が前記2つの光電変換部からの前記電気信号の加算信号、または、一方の光電変換部からの電気信号に基づいて前記被測定信号光の電気パワーを算出することを特徴とする光スペクトラムアナライザ。
【請求項2】
前記測定モード制御部が前記複数の測定モードのうちから第3の測定モードを指定する制御信号を出力する場合には、前記光遮断機構がオフとなって前記被測定信号光のみが前記光カプラに入射するとともに、前記信号処理部が前記2つの光電変換部からの前記電気信号の加算信号、または、一方の光電変換部からの電気信号に対して高速フーリエ変換を行うことにより、前記被測定信号光の電気スペクトラムを算出することを特徴とする請求項1に記載の光スペクトラムアナライザ。
【請求項3】
前記光遮断機構は、前記波長可変レーザ光源と前記光カプラとの間に配置される光スイッチからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光スペクトラムアナライザ。
【請求項4】
前記波長可変レーザ光源は、単一縦モードのレーザ光を発振する半導体レーザを有し、
前記光遮断機構は、前記半導体レーザに単一縦モードのレーザ光を発振させるための駆動電流の供給をオン/オフする電気スイッチからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光スペクトラムアナライザ。
【請求項5】
前記光カプラの分岐比が1:1であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光スペクトラムアナライザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−42380(P2012−42380A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185003(P2010−185003)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)