説明

光ピックアップ用1/4波長板

【課題】
波長405nm、650nmおよび780nmの光について兼用でき、安価で大面積のものが作成可能な光ピックアップ用波長板を提供する。
【解決手段】
透明基板の両面に、波長740nmから840nmの光に対してそれぞれ1/2波長板、1/4波長板として作用するフォトニック結晶を形成する。それぞれのフォトニック結晶は面内の主軸方向が60°傾いており、基板に対して垂直に入射する波長405nm、650nmおよび780nmの直線偏光に対して約270°、約90°および約90°の位相差を与え、前記三波長で使用できる光ピックアップ用1/4波長板として利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長405nm、650nm、780nmの光について兼用可能な光ピックアップ用1/4波長板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、音楽・映像の記録再生装置やパーソナル・コンピュータ等の情報処理装置において、コンパクト・ディスク(CD)、デジタル・ヴァーサタイル・ディスク(DVD)、ブルーレイ・ディスク(BD)等の光ディスクが記録媒体として広く用いられており、それら全ての光ディスクの記録再生を行うことが可能な光ディスク装置もすでに実用化され広く用いられている。
【0003】
光ピックアップには、光ディスクに照射するレーザ光を円偏光とするために1/4波長板が用いられる。1/4波長板は、複屈折性を有する材料を用いた位相変調を行う光学素子であり、入射する直線偏光の光線を円偏光の光線に変換するという機能を有する。一方、周知のように波長板に入射した光と出射した光との位相差は波長の関数であるため、ある特定の波長の光に対して1/4波長板として機能するものであっても、入射光の波長がそれと異なる場合は、位相差が変化するという波長依存性を有しているので、位相差を1/4波長に維持できない。
【0004】
前記のCD、DVD、BDは記録再生に用いる光の波長がそれぞれ780nm、650nm、405nmと異なるため、現在の光ディスク装置では、記録再生に用いられる光ピックアップを複数内蔵することにより前記三種の光ディスクに対応することが行われている。すなわち、CDとDVDについてはすでにそれらの使用波長について兼用可能な1/4波長板が実用化されており一つの光ピックアップで兼用することが可能になっているが、BDの使用波長はCD、DVDの使用波長から大きく離れているために、そのような構造をとらざるを得なくなっている。その結果、光ピックアップの部品点数が低減できず、光ピックアップの小型化、低価格化が困難になるという問題があった。
【0005】
前記の通り、CD、DVD、BDの記録再生波長について兼用可能な光ピックアップ用1/4波長板が望まれており、そのための技術が提案されている。たとえば、特許文献1においては、1/2波長板と1/4波長板をそれらの光学軸を所定の角度傾けて張り合わせた構造を有する位相差板(1/4波長板)が提案されている。この例では、直線偏光の偏波方向に対して1/2波長板の光学軸を15°、1/4波長板の光学軸を75°傾けた状態になるように1/2波長板と1/4波長板を張り合わせた位相差板が、波長400nmから700nmの範囲において、直線偏光を「ほぼ完全に円偏光に変換することができる」旨が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された位相差板にかかる発明はポアンカレ球を用いた近似的な解析に基づくものであり、ミュラー行列やジョーンズ行列を用いた詳細な解析によって直線偏光から変換された円偏光の楕円率を計算した結果に基づいて、特許文献1に記載の位相差板は前記三波長について同時に十分な特性を示すようには設計できないと結論した例も報告されている(特許文献2)。なお、ミュラー行列やジョーンズ行列を用いた詳細な解析については、特許文献3に詳細に説明されている。
【0007】
特許文献2においては、光ピックアップ用に使用する場合には位相差板により直線偏光が生じる位相差が特許文献1に記載の位相差板について、その特性を波長400nmから550nmの範囲で最適化した場合や波長600nmから850nmの範囲で最適化した場合には、最適化した範囲外波長400nm付近から780nmの広範囲に渡って十分な特性を有するものを設計できないと結論している。そして、特許文献2においては、前記三種類の光ディスクの使用波長について十分な性能を示す1/4波長板として、基板材料を水晶とした波長板2枚と基板材料をニオブ酸リチウムとした波長板1枚からなる積層型の1/4波長板(特許文献2の第3設計例)が開示されており、「第一の波長板、第二の波長板の基板材料として複屈折波長分散の小さな水晶」を用い、「第三の波長板の基板材料として複屈折波長分散の大きな二オブ酸リチウム」を用いて、第一の波長板(波長600nmで位相差180°)を面内方位角11.5°、第二の波長板(同じく位相差195°)を面内方位角56.1°および第三の波長板(同じく位相差103°)を面内方位角−45.0°とした際に「波長板の特性が480nm程度の帯域を有し、400〜780nmの広帯域で楕円率が0.8以上」で「所望の1/4波長板としての波長板特性を満足」する設計例が得られた旨開示している。
【0008】
以上のように、前記三種類の光ディスクの使用波長について兼用可能な光ピックアップ用1/4波長板を得るためには、一般的な一方向延伸樹脂フィルムや水晶位相差板を2枚積層した波長板(特許文献1)ではその特性が不十分である一方で、水晶やニオブ酸リチウムなどの光学結晶を3枚以上使用すれば十分な特性が得られるとされる(特許文献2)が、基板材料や基板数増に起因してコストが増加することや貼り合わせの際の位置あわせが難しくなることが考えられ、さらに改善が望まれる。
【0009】
近年、フォトニック結晶を用いることにより位相差板の波長依存性を設計可能なことが知られており(例えば特許文献4に記載の1/4波長板)、かかるフォトニック結晶は例えば成膜とドライエッチングを繰り返す方法により製造可能なことが知られている(例えば特許文献5に記載の方法)。しかしながら、フォトニック結晶による波長板はその位相差の波長依存性が大きいため、単一の素子で位相差が一定の波長板を設計することは一般に困難であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−068816号公報
【特許文献2】特開2006−114080号公報
【特許文献3】特開2007−311012号公報
【特許文献4】特開2000−056133号公報
【特許文献5】特開2009−128879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、CD、DVD、BDの記録再生波長すなわち780nm、650nm、405nmの波長を有する光に対して1/4波長板として使用可能な、安価で大量生産することができる波長板、特に光ピックアップ用波長板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、厚み方向に垂直な第一主表面とそれに対向する第二主表面を有する透明な平行平板形状の基板と、
第一主表面に形成された、屈折率の異なる二種類以上の誘電体材料よりなる厚み方向の多層構造体であって、各誘電体材料ごとに積層の単位となる層の形状が第一主表面に平行な第一面内方向に周期的凹凸構造を有し、第一面内方向に垂直な方向には一様であるか、または第一面内方向より大きい長さの周期的または非周期的な凹凸構造を有し、その形状を周期ごとに繰り返しつつ厚み方向に層状に積層されていて、厚み方向に入射する波長740nmから840nmの光に対して1/2波長板として作用することを特徴とする第一フォトニック結晶と、
第二主表面に形成された、屈折率の異なる二種類以上の誘電体材料よりなる厚み方向の多層構造体であって、各誘電体材料ごとに積層の単位となる層の形状が第二主表面に平行な第二面内方向に周期的凹凸構造を有し、第二面内方向に垂直な方向には一様であるか、または第二面内方向より大きい長さの周期的または非周期的な凹凸構造を有し、その形状を周期ごとに繰り返しつつ厚み方向に層状に積層されていて、厚み方向に入射する波長740nmから840nmの光に対して1/4波長板として作用することを特徴とする第二フォトニック結晶からなり、
前記第一フォトニック結晶の前記第一面内方向と、前記第二フォトニック結晶の前記第二面内方向は、60°の角度をなすように形成されていることを特徴とする光ピックアップ用1/4波長板である。
【0013】
本発明の光ピックアップ用1/4波長波長板は、厚み方向に入射する直線偏光の偏波方向に対して、前記第一面内方向を75°傾け、前記第二面内方向を15°傾けた状態で使用される。このとき、本発明の1/4波長板は、CDとDVDの記録再生波長すなわち780nmと650nm、405nmの波長を有する直線偏光に対して、90°±10°の位相差を与え、かつ、BDの記録再生波長すなわち405nmの波長を有する直線偏光に対して、270°±10°=(90°+180°)±10°の位相差を与える。すなわち、CD、DVD、BDの記録再生波長において、単一の素子により光ピックアップ用1/4波長板を実現できる。
【0014】
また本発明は、前記屈折率の異なる二種類以上の誘電体材料の一方が、SiO、MgFまたはそれらの混合物からなることを特徴とする光ピックアップ用1/4波長板である。
【0015】
また本発明は、前記屈折率の異なる二種類以上の誘電体材料の他の一方が、TiO,Nb、Ta、ZrO、HfO、Alからなる群から選ばれた一つの酸化物たは前記の群から選ばれた二以上の酸化物の混合物からなることを特徴とする光ピックアップ用1/4波長板である。
【0016】
また本発明は、前記透明基板が透明なガラス、ガラスセラミックスおよびセラミックスからなる群から選ばれた一つの材料からなることを特徴とする光ピックアップ用1/4波長板である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光ピックアップ用1/4波長板は、CD、DVD、BDの記録再生波長に対して同時に使用できるものであって、特殊な材料を使用せずに大きな面積に形成可能で、かつ透明基板の両面に一体にフォトニック結晶が形成されているため軸合わせも容易であり、無機材料のみで形成することも可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明に用いられる第一および第二のフォトニック結晶を形成するために用いられる透明な平行平板形状の基板の形状を示す図である。
【図2】図2は本発明に用いられる第一および第二のフォトニック結晶の積層構造を示す断面図である。
【図3】図3は本発明の光ピックアップ用1/4位相板の三波長における位相差を示す図である。
【図4】図4は本発明の光ピックアップ用1/4位相板の三波長における楕円率について計算した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
CD、DVD、BDの記録再生波長すなわち780nm、650nm、405nmの波長を有する光に対して光ピックアップ用1/4波長板として使用可能な、安価で大量生産することができる光ピックアップ用波長板を提供するという目的を、実現した。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例1を説明する。
【0021】
FDTD法によりフォトニック結晶の各設定波長における位相差を計算した。各設定波長において1/2波長板となる第一フォトニック結晶と1/4波長板となる第二フォトニック結晶についての位相データを基にして、ミュラー行列を使って波長板2枚を通過する直線偏光の位相差を計算した計算結果を表1に示す。また、これを図示したものを図3に示す。同じく楕円率について計算した結果を表2、図4に示す。設定波長が740nmから840nmの範囲で、三波長について位相差が90°または270°(=90°+180°)に近くなり、楕円率が0.85を超えることが認められる。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
以上の通り、入射光の偏波方向と各波長板構造の軸方向のなす角度を第一フォトニック結晶については75°、第二フォトニック結晶については15°と設定して、設定波長を変えた際の位相差をシミュレーションにより求めた結果、設定波長750nmのときにCD(780nm)、DVD(650nm)、BD(405nm)の三波長の光に対して位相差が90°±10°の光ピックアップ用1/4波長板になることがわかった。
【0025】
前記のシミュレーションによる設計に従い、本発明の1/4波長板を作成した。周期193nm、アスペクト比約0.4、断面形状が三角形状である凹凸構造体を透明基板の両面に形成し、表面と裏面の凹凸の溝のなす角度を60°とした基板をナノインプリント法により作製した。
【0026】
バイアススパッタリング法を用いて、前記基板の両面に片面づつ成膜を行い、第一フォトニック結晶と第二フォトニック結晶を作製した。SiターゲットとNbターゲットを用いて、Arガス雰囲気中でSiO膜とNb膜を交互に成膜した。その成膜においては、波長750nmで位相差がそれぞれ180°、90°になるように設計した結果から求めた必要膜総数を積層した。第一フォトニック結晶は、膜厚20nmのSiO層と膜厚20nmのNb層を単位周期として140周期を積層し、第一フォトニック結晶は、膜厚20nmのSiO層と膜厚20nmのNb層を単位周期として70周期を積層した。
【0027】
入射する直線偏光の偏波方向と第一フォトニック結晶の溝方向のなす角度が75度になるように素子を配置して回転検光子法を用いて位相差を評価を行った結果、波長780nmにおいて94.1°、波長650nmにおいて90.5°、波長405nmにおいて272.4(=92.4+180)°の位相差となることがわかった。すなわち、前記三波長において位相差が90°±10°の範囲にあり、前記三波長対応の光ピックアップ用波長板が作成できたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の1/4波長板は、CD、DVD、BDの記録再生波長すなわち780nm、650nm、405nmの波長を有する光に対して光ピックアップ用1/4波長板として使用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 凹凸を有する基板
2 第一の誘電体材料
3 第二の誘電体材料
101 波長405nmにおける位相差(単位:°)
102 波長650nmにおける位相差(単位:°)
103 波長780nmにおける位相差(単位:°)
201 三波長で光ピックアップ用1/4波長板として使用可能な範囲
111 波長405nmにおける楕円率
112 波長650nmにおける楕円率
113 波長780nmにおける楕円率


【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に垂直な第一主表面とそれに対向する第二主表面を有する透明な平行平板形状の基板と、
第一主表面に形成された、屈折率の異なる二種類以上の誘電体材料よりなる厚み方向の多層構造体であって、各誘電体材料ごとに積層の単位となる層の形状が第一主表面に平行な第一面内方向に周期的凹凸構造を有し、第一面内方向に垂直な方向には一様であるか、または第一面内方向より大きい長さの周期的または非周期的な凹凸構造を有し、その形状を周期ごとに繰り返しつつ厚み方向に層状に積層されていて、厚み方向に入射する波長740nmから840nmの光に対して1/2波長板として作用することを特徴とする第一フォトニック結晶と、
第二主表面に形成された、屈折率の異なる二種類以上の誘電体材料よりなる厚み方向の多層構造体であって、各誘電体材料ごとに積層の単位となる層の形状が第二主表面に平行な第二面内方向に周期的凹凸構造を有し、第二面内方向に垂直な方向には一様であるか、または第二面内方向より大きい長さの周期的または非周期的な凹凸構造を有し、その形状を周期ごとに繰り返しつつ厚み方向に層状に積層されていて、厚み方向に入射する波長740nmから840nmの光に対して1/4波長板として作用することを特徴とする第二フォトニック結晶からなり、
前記第一フォトニック結晶の前記第一面内方向と、前記第二フォトニック結晶の前記第二面内方向は、60°の角度をなすように形成されていることを特徴とする光ピックアップ用1/4波長板である。
【請求項2】
前記屈折率の異なる二種類以上の誘電体材料の一方が、SiO、MgFまたはそれらの混合物からなることを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ用1/4波長板。
【請求項3】
前記屈折率の異なる二種類以上の誘電体材料の他の一方が、TiO、Nb、Ta、ZrO、HfO、Alからなる群から選ばれた一つの酸化物または前記の群から選ばれた二以上の酸化物の混合物からなることを特徴とする請求項1ないし2に記載の光ピックアップ用1/4波長板。
【請求項4】
前記透明基板が透明なガラス、ガラスセラミックスおよびセラミックスからなる群から選ばれた一つの材料からなることを特徴とする請求項1ないし3に記載の光ピックアップ用1/4波長板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−142057(P2012−142057A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21(P2011−21)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】