説明

光ファイバ映像装置

【課題】光ファイバを接着剤を用いることなく基板に固定できるようにし、接着剤の硬化熱による光ファイバの変質を防止するとともに、基板に固定した後の光ファイバの交換作業を容易にし、接着剤の硬化まで放置を不要にして製造時間を短縮する。
【解決手段】基板5に楔状の孔部11を形成するとともに、スリット21Aを有する楔状の突起21、及び、突起21を貫通する貫通孔24を形成したスリーブ6を備える。突起21を背面側から孔部11に嵌入させた状態で、固定孔12に挿入した固定ネジ31をナット穴22内のナット23に螺合させて基板5にスリーブ6を仮止めした後、光ファイバ3を貫通孔24に背面側から挿入して孔部11の前面側に露出させ、固定ネジ31を締め込むことで光ファイバ3を基板5に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数本の光ファイバの一端に投影された映像を、光ファイバの他端が露出するファイバスクリーンから出射する光ファイバ映像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタから映し出された映像を拡大して表示する映像装置として、光ファイバを用いた光ファイバ映像装置がある。光ファイバ映像装置は、複数本の光ファイバの一端側を集束して構成した入射面をプロジェクタの画面に対向して配置し、入射面における配列順序を維持したままで互いの間隔を均等に拡大して複数本の光ファイバの他端側である出射面側をファイバスクリーンの基板に固定している(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
従来の光ファイバ映像装置では、ファイバスクリーンの基板に複数の貫通孔を所定間隔で格子状に形成し、この貫通孔に光ファイバの出射面側を背面側から貫通させた後、基板の背面に接着剤を充填することにより、複数本の光ファイバを基板に固定している。光ファイバは、基板の表面から延出した部分を切断された後、切断面を研磨される。
【特許文献1】特開平07−064188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の光ファイバ映像装置では、光ファイバの出射面側を接着剤を介して基板に固定していたため、接着剤の硬化時における反応熱によって光ファイバが変質する可能性があり、光ファイバの入射面に投影された映像を光ファイバの出射面から正確に出射することができなくなる場合がある。また、出射面を基板に固定した後における光ファイバの交換を容易に行うことができず、部分的な修正が困難になる問題がある。さらに、接着剤が完全硬化するには20℃で24時間程度が必要で、光ファイバ映像装置の製造に長時間を必要とする問題がある。
【0005】
この発明の目的は、光ファイバの出射面を接着剤を用いることなく基板に固定できるようにし、光ファイバの変質による出射不良の発生を防止することができるとともに、基板に固定した後における光ファイバの交換作業を容易に行うことができ、さらに、製造時間を短縮することができる光ファイバ映像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記の課題を解決するため、一方の面側に突出する突起であって突出方向の少なくとも一部において楔状の外形を呈するとともに突出方向に直交する方向に弾性変形自在にされた複数の突起、及び、各突起を他方の面側から貫通するとともに光ファイバが挿入される貫通孔を備えたスリーブと、
前記突起が嵌合する楔状の孔部を前記突起と同数備えた基板と、
前記スリーブと前記基板とを前記突出方向における所定範囲の任意の位置で固定する固定部材と、
を含むことを特徴とする。
【0007】
この構成においては、スリーブの複数の突起のそれぞれを基板の孔部に嵌合させた状態で、固定部材によって突起の突出方向における所定範囲の任意の位置でスリーブと基板とを固定すると、楔状の各突起は突出方向について突起よりも短い楔状の孔部内で、スリーブと基板との固定位置に応じて、突出方向に直交する方向に弾性変形を生じる。このとき、各突起を貫通する貫通孔の内径もスリーブと基板との固定位置に応じて縮小し、貫通孔に挿入された光ファイバは貫通孔の内周面によって挟持される。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、各貫通孔に光ファイバを挿入した状態でスリーブの突起を基板の孔部に嵌合させ、固定部材によってスリーブと基板とを突出方向に近接させていくことにより、突出方向に直交する方向における突起の弾性変形によって貫通孔の内径を縮小させ、貫通孔の内周面によって光ファイバを挟持して固定することができる。基板における光ファイバの固定に接着剤を使用する必要がなく、光ファイバの変質による出射不良の発生を防止することができるとともに、基板に固定した後における光ファイバの交換作業を容易に行うことができ、さらに、製造時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、この発明の実施形態に係る光ファイバ映像装置の構成を示す図である。この発明の光ファイバ映像装置1は、液晶ディスプレイ等のプロジェクタ2、導光部材としての光ファイバ3、光ファイバ3の一端側の入射面を保持するアパーチャ4、及び、光ファイバ3の他端側の出射面を保持する基板5及びスリーブ6を備えている。
【0010】
アパーチャ4は、複数本の光ファイバ3の入射面側を格子状に集束して保持する。アパーチャ4に保持された光ファイバ3の入射面は、映像を投影するプロジェクタ2に対向して近接した位置に配置される。基板5は、複数本の光ファイバ3の出射面側を、アパーチャ4における出射面側の配列順序を維持したまま、互いの間隔を拡大して保持する。
【0011】
これによって、光ファイバ映像装置1は、プロジェクタ2が投影した映像を基板5において拡大して表示することができる。
【0012】
図2(A)〜(C)は、上記光ファイバ映像装置を構成する基板の正面図、平面断面図及び側面図である。基板5は、一例として樹脂成形によって形成され、背面5Bが開放した筐体形状を呈している。基板5の上面5C、底面5D並びに左右の側面5E及び5Fは、角部において背面側に延長されている。
【0013】
基板5の前面5Aは3×5の区画51に区分されており、各区画51には10×10個の孔部11が縦横に一定のピッチP1で形成されている。各区画51における孔部11のピッチP1は、隣接する区画51においても維持されている。したがって、基板5の前面5Aには、30×50個の孔部11が縦横に一定のピッチP1で形成されている。
【0014】
各孔部11の内径は、背面側において大きく、前面側において小さくされている。したがって、孔部11は、截頭円錐台形状に形成されており、図2(B)に示すように楔状の断面形状を呈している。一例として、孔部11の背面側の内径は3mm、前面側の内径は1.5mm、ピッチP1は4mmである。
【0015】
また、各区画51には、孔部11に重ならない位置に、3×3個の固定孔12が縦横に一定のピッチP2で形成されている。各区画51における固定孔12のピッチP2は、隣接する区画51においても維持されている。したがって、基板5の表面には、9×15個の固定孔12が縦横に一定のピッチP2で形成されている。一例として、固定孔12の内径は2.1mmであり、前面側において内径3.8mmで深さ2mmの皿モミ加工が施されており、ピッチP2は12mmである。
【0016】
例えば、縦横に10×10個の基板5を連結することにより、100インチ相当の表示画面を有する光ファイバ映像装置が構成される。組み合わせる基板5の個数に応じて、大小さまざまな表示画面を作成することができる。
【0017】
図3(A)及び(B)は、上記光ファイバ映像装置を構成するスリーブの正面図及び側面図である。スリーブ6は、一例して基板5と同様に樹脂成形によって形成され、奥行き方向に正方形断面の直方体形状を呈し、前面6Aに10×10個の突起21が基板5における孔部11と同一のピッチP1で形成されている。各突起21は、円柱の前面側に截頭円錐台を接合した形状に形成されている。突起21の外径は、背面側において大きく、前面側において小さくされている。したがって、突起21は、図3(B)に示すように、楔状の側面形状を呈している。一例として、突起21の背面側の外径は3mm、前面側の外径は1.5mmである。
【0018】
最外周部に位置する36個の突起21は、スリーブ6の上面6C、底面6D並びに側面6E及び6Fの外側に露出している。
【0019】
突起21には、水平方向のスリット21Aが形成されている。一例として、スリット21Aの幅は、0.4mmである。
【0020】
スリーブ6の前面6Aには、突起21に重ならない位置に、3×3個のナット穴22が基板5における固定孔12と同一のピッチP2で形成されている。ナット穴22は、スリーブ6内に埋設されたナット23のネジ部に連通している。ナット23は、スリーブ6の樹脂成形時にインサート成形によってスリーブ6内に埋設される。一例として、ナット穴22の内径は2.5mmである。
【0021】
スリーブ6には、各突起21の前面からスリーブ6の背面6Bに貫通する貫通孔24が形成されている。一例として、貫通孔24の内径は、スリーブ6の背面側において0.9mm、スリーブ6の前面側において0.8mm、突起21において0.6mmである。
【0022】
図4は、上記光ファイバ映像装置における基板の組立状態を示す側面断面図である。光ファイバ映像装置1の組立時には、まず、図4(A)に示すように、スリーブ6を基板5の背面側に装着する。1個のスリーブ6は、基板5の1個の区画51に対応している。したがって、1個の基板5には15個のスリーブ6が装着される。
【0023】
基板5の背面側にスリーブ6を装着する際には、スリーブ6の突起21のそれぞれを基板5の孔部11に挿入する。突起21における前面側の截頭円錐台部分の外部形状は、孔部11の内部形状に一致しているため、突起21は孔部11に嵌合する。
【0024】
この後、基板5の前面側から固定孔12に固定ネジ31を挿入する。固定ネジ31は、固定孔12を経由してスリーブ6のナット穴22に嵌入し、さらにスリーブ6に埋設されているナット23に達する。ここで、固定ネジ31を回転させることにより、固定ネジ31はナット23に螺合し、基板5とスリーブ6とを仮止めする。
【0025】
この状態で、図4(B)に示すように、光ファイバ3の出射面側をスリーブ6の背面側から各貫通孔24に挿入し、突起21の前面側に露出させる。このとき、スリーブ6における各光ファイバ3の配列順序をアパーチャ2における配列順序に一致させる。
【0026】
そして、固定ネジ31を締結方向に回転していくことにより、ナット23における固定ネジ31の螺合範囲が長くなり、これに伴って基板5及びスリーブ6には互いに接近する方向の力が作用する。突起21の截頭円錐台部分の背面側には円柱部分が存在するため、固定ネジ31の回転量に応じて、基板5とスリーブ6とは、突起21の突出方向である前後方向における所定範囲の任意の位置で固定される。
【0027】
基板5が背面側にいくに従い、突起21において孔部11の前面側の小径部が当接する部分の外形は徐々に大きくなるため、突起21の外側面には孔部11の内側面から前後方向に直交する上下方向の圧縮力が作用する。突起21にはスリット21Aが形成されているため、突起21は上下方向に弾性変形自在にされている。したがって、貫通孔24に挿入されている光ファイバ3は、固定ネジ31の回転量に応じた圧力で貫通孔24における突起21の部分で挟持され、基板5において確実に固定される。
【0028】
上記の構成において、固定孔12及びナット穴22がこの発明の固定孔部に相当し、ナット23が同じく雌ネジ部に相当し、固定ネジ31が同じく締結ネジに相当し、これら固定孔12、ナット穴22及び固定ネジ31が同じく固定部材を構成している。
【0029】
なお、ナット穴22は、スリーブ6を前後に貫通する孔であってもよく、全体に雌ネジ部を形成したものであってもよい。
【0030】
基板5に15個のスリーブ6を装着し終わると、図4(C)に示すように、光ファイバ3の出射面側において基板5の前面側に突出している部分を切断し、切断面を研磨する。
【0031】
このように、固定ネジ31の回転量に応じて光ファイバ3を挟持するための圧力が調整されるため、基板5及びスリーブ6の成形時の形状誤差を固定ネジ31の回転量によって吸収することができ、個々の光ファイバ3を基板5に確実に固定できる。
【0032】
また、固定ネジ31による締結状態を緩めることにより、基板5とスリーブ6とが離間する方向に移動できるようになる。基板5とスリーブ6とを離間させると、貫通孔24における突起21の部分での光ファイバ3の挟持力が弱まり、光ファイバ3を貫通孔24から抜き取ることができる。したがって、基板5の組立後に一部の光ファイバ3の不良が発見された場合、この光ファイバ3を容易に交換することができる。
【0033】
また、基板5における光ファイバ3の固定に接着剤を使用する必要がないため、接着剤の硬化時に生じる熱によって光ファイバ3が変質することがない。また、接着剤が完全に硬化させるための放置時間が不要になり、装置の製造時間が短縮される。
【0034】
なお、上記の例では、孔部11及び突起21の前面側を截頭円錐形状としたが、これに限るものではなく、側面断面における少なくとも一面を傾斜面とした楔状であれば、他の形状とすることもできる。
【0035】
また、上記の例では、基板5とスリーブ6とを固定する固定部材を固定ネジ31及びナット23を含む構成としたが、これに限るものではなく、スリーブ6と基板5とを前後方向における所定範囲の任意の位置で着脱自在に固定できることを条件に、他の構成とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の実施形態に係る光ファイバ映像装置の構成を示す図である。
【図2】上記光ファイバ映像装置を構成する基板の正面図、平面断面図及び側面図である。
【図3】上記光ファイバ映像装置を構成するスリーブの正面図及び側面図である。
【図4】上記光ファイバ映像装置における基板の組立状態を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 光ファイバ映像装置
2 プロジェクタ
3 光ファイバ
4 アパーチャ
5 基板
6 スリーブ
11 孔部
12 固定孔(固定孔部、固定部材)
13 短絡手段
21 突起
21A スリット
22 ナット穴(固定孔部、固定部材)
23 ナット(雌ネジ部、固定部材)
24 貫通孔
31 固定ネジ(固定部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面側に突出する突起であって突出方向の少なくとも一部において楔状の外形を呈するとともに突出方向に直交する方向に弾性変形自在にされた複数の突起、及び、各突起を他方の面側から貫通するとともに光ファイバが挿入される貫通孔を備えたスリーブと、
前記突起が嵌合する楔状の孔部を前記突起と同数備えた基板と、
前記スリーブと前記基板とを前記突出方向における所定範囲の任意の位置で固定する固定部材と、
を含むことを特徴とする光ファイバ映像装置。
【請求項2】
前記突起は、前記突出方向のスリットを備えたことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ映像装置。
【請求項3】
前記突起及び前記孔部は、截頭円錐台形状を呈することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ映像装置。
【請求項4】
前記固定部材は、前記スリーブ及び前記基板のそれぞれに前記突出方向に互いに対向して形成され、前記スリーブ又は前記基板の一方を貫通するとともに、少なくとも他方において一部に雌ネジ部を形成した固定孔部と、
前記スリーブ及び前記基板の孔部の一方を貫通した後に他方の孔部の前記雌ネジ部に螺合する締結ネジと、からなることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ映像装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−139143(P2006−139143A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329684(P2004−329684)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000000309)IDEC株式会社 (188)
【Fターム(参考)】