説明

光ファイバ温度センサ及びその製造方法

【解決手段】光ファイバ1のプラスチック樹脂を所定長だけ除去し、その部分の一部のコアにFBG2を書き込み、前記プラスチック樹脂を所定長だけ除去した光ファイバ1のクラッド表面に金属薄膜3を被覆して温度感知部とする。この温度感知部を張力がかからない状態で非金属材料からなるパッケージにより保護する。温度感知部には熱伝導率の高いゲル状物質を充填する。
【効果】本発明の光ファイバ温度センサによれば、電力用装置などの強電界、高電圧の環境下でも温度測定が可能で、このような装置の寿命を正確に推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアにファイバ・ブラッグ・グレーティングが書き込まれた光ファイバ温度センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近電力設備の装置寿命を推定することが行われてきている。これは装置寿命を正しく把握することにより、予期しない故障等を早期に見つけたり、効率よく新しい装置と交換できるようにするためである。また、正しい寿命を推定することにより過剰な仕様を避けてコストダウンを図るという目的もある。
【0003】
しかし、従来は正確に寿命を推定する根拠やデータが不足していた。これは例えば電力トランス等のような電力用装置では強電界、高電圧の環境下にある装置の内部を測定することが難しいという状況があったためである。
【0004】
ところで、装置の劣化の原因の一つに温度上昇によるものがある。従って、装置の温度、中でも温度が最も高い部分を経時的に正確に測定すれば装置の寿命を推定できるようになるので強電界、高電圧の装置の内部の温度を測定することが望まれている。
【0005】
従来、装置の温度を測定する場合には熱電対を使用したり、赤外放射温度計のように非接触型の温度センサを使用していた。一方、最近は光ファイバのコアに紫外線等を照射して部分的に屈折率を上昇させてファイバ・ブラッグ・グレーティング(以下、FBGという)を書き込んだ光ファイバ温度センサも開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2002―311253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。
【0008】
即ち、従来から一般的に用いられている熱電対は高精度に温度が測定でき安価でもあるが、金属体で構成されていること、またセンサ部と信号の処理部との接続も金属ケーブルを用いるために電力用装置のように強電界の環境下ではその使用が好ましくなく、高電圧下では絶縁性が悪くなるという問題があった。
【0009】
また、赤外放射温度計のような非接触型の温度センサでは装置から離して設置することができ、従って強電界の影響がない場所での測定が可能であるが、電力用装置は通常金属体で覆われ、密閉されているので実質的に装置の内部温度を測定することができないという問題があった。
【0010】
一方、FBGを書き込んだ光ファイバ温度センサは強電界や高電圧の環境中でもこれらの影響を受けないという利点を有しているが、通常光ファイバのコアにFBGを書き込む際に光ファイバに被覆しているプラスチック樹脂を除去し、FBGを書き込んだ後に再度通常光ファイバの被覆に用いる紫外線硬化型樹脂や耐熱性の高いポリイミド等のプラスチック樹脂を再被覆することが行われている。このようにセンサ部分にプラスチック樹脂を再被覆する場合、できるだけ薄く被覆しても10μm以上の厚さになってしまう。この結果温度変化を敏感に捉えることが難しく、正確な温度測定が困難であるという問題点もあった。
【0011】
本発明は強電界や高電圧の環境下でも正確に温度測定が可能な光ファイバ温度センサ及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以上の点を解決するため次のような構成からなるものである。
【0013】
即ち、本発明はまず第1の態様として、石英系光ファイバのコアにファイバ・ブラッグ・グレーティングが書き込まれてなる光ファイバ温度センサにおいて、前記ファイバ・ブラッグ・グレーティングが書き込まれた部分はプラスチック樹脂被覆が除去されており、前記プラスチック樹脂被覆が除去された光ファイバのクラッドの表面には金属薄膜が被覆された温度感知部が形成され、前記温度感知部は張力がかからない状態でパッケージにより保護されていることを特徴とする。
【0014】
また、第2の態様として、前記第1の態様において、前記金属薄膜の厚さは5μm以下であることを特徴とする。
【0015】
さらに、さらに第3の態様として、前記第1の態様または第2の態様において、前記温度感知部には熱伝導率の高いゲル状物質が充填されていることを特徴とする。
【0016】
また、第4の態様として、前記第1の態様から第3の態様のいずれかの態様において、前記パッケージは非金属材料からなることを特徴とする。
【0017】
さらに、第5の態様として、前記第4の態様において、前記パッケージは石英ガラス、結晶化ガラス、ジルコニアから選択された一種であることを特徴とする。
【0018】
また、第6の態様として、石英系光ファイバのコアにファイバ・ブラッグ・グレーティングが書き込まれてなる光ファイバ温度センサの製造方法において、前記光ファイバのプラスチック樹脂を所定長だけ除去し、前記プラスチック樹脂を除去した所定長の一部のコアにファイバ・ブラッグ・グレーティングを書き込み、前記プラスチック樹脂を除去した光ファイバのクラッド表面を金属薄膜で被覆して温度感知部を形成し、次いで前記温度感知部の両端部のプラスチック樹脂被覆が施された個所を所定長のプラスチック樹脂パイプに挿通した後、上下2分割されたパッケージの下部パッケージに前記プラスチック樹脂パイプ部を載置し、接着剤で固定した後、前記下部パッケージを上部パッケージで覆い接着剤で固定し、前記上部パッケージに設けた注入孔より熱伝導率の高いゲル状物質を注入、充填した後前記注入孔を封止することを特徴とする。
【0019】
さらに、第7の態様として、前記第6の態様において、前記下部パッケージにプラスチック樹脂パイプを載置、固定する際に、前記温度感知部に張力がかからない状態で載置、固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の光ファイバ温度センサを用いれば、強電界、高電圧環境下にある電力用装置の温度管理をそのような環境の影響を受けることなく行うことができ、また、波長多重伝送により複数の電力用装置の温度管理を同時に行うこともできる。従って、従来推定が困難であった電力用装置の寿命を正確に把握することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について具体例を用いて説明する。
【0022】
図1は本発明の光ファイバ温度センサの構成を表した縦断面図である。以下に本発明の光ファイバ温度センサの製造方法とともにその構成を説明する。
【0023】
図1において、プラスチック樹脂が被覆された光ファイバ1のプラスチック樹脂を所定長、例えば15〜25mmだけ除去し、光ファイバのクラッド表面を露出させ、このクラッド表面を露出させた部分の一部のコアに紫外線等によりFBG2を書き込む。本実施の形態における光ファイバのクラッドの外径は250μmである。次いで前記プラスチック樹脂を所定長だけ除去した部分に金属薄膜3を被覆して温度感知部とする。金属薄膜は例えばニッケル(Ni)を蒸着方式や無電界メッキ方式により被覆する。金属薄膜の被覆厚は5μm以下が好ましい。金属薄膜を被覆する目的はFBGへの熱伝導率をよくするためであるが、5μmを超えるような厚さになると電力用装置の強電界の影響を受けることになるので好ましくない。また、強電界の影響を受けないようにするにはできるだけ薄い方がよいが、あまり薄くなると光ファイバの強度が弱くなり好ましくない。従って、最も好ましい厚さは1μm程度である。
【0024】
その後温度感知部の両端部のプラスチック樹脂が被覆された光ファイバ1の部分をプラスチック樹脂パイプ4に挿通し、このプラスチック樹脂パイプ4を下部パッケージ5に載置する。この時プラスチック樹脂パイプ4は光ファイバ1の前記したプラスチック樹脂を除去した端部から約5mmほどのところまで挿通する。また、プラスチック樹脂パイプ4の内径は光ファイバ1の外径より大きなものを用い、光ファイバ1がプラスチック樹脂パイプ4内でルースな状態で位置するようにする。例えばプラスチック樹脂パイプの外径は0.9mm、内径は0.5mmのようなものを用いるとよい。また、プラスチック樹脂パイプは耐低温性、耐候性、耐油性等を有する材料からなるものがよい。このような樹脂としては例えば、ハイトレル(デュポン社登録商標)が挙げられる。
【0025】
そして、プラスチック樹脂パイプ4と光ファイバ1を接着剤6で下部パッケージ5に固定する。この時接着剤による固定はまず片端のみを行い、接着剤が完全に硬化した後にもう一方の端を固定するようにする。この時片端を接着硬化した後に温度感知部にわずかなたわみを持たせてからもう一方の端を固定するとよい。このようにすると、温度感知部に張力がかからない状態で固定することが可能となる。なお、接着剤で両端を固定した後に温度感知部に張力がかかっていない状態になっているかを検証するには温度感知部のFBGの反射スペクトルを測定することで確認できる。あるいは上記の作業を行っている間もFBGの反射スペクトルを常時確認しながら温度感知部に張力がかからないように固定することも可能である。
【0026】
次に、接着剤6により下部パッケージ5にプラスチック樹脂パイプ4と光ファイバ1の固定が終了した後に温度感知部を上部パッケージ7で覆い、下部パッケージ5と接着剤で固定し、温度感知部を保護する。上部パッケージ7の接着剤で固定する部分は下部パッケージ5にプラスチック樹脂パイプ4と光ファイバ1を固定した部分と同じ個所である。この時用いる接着剤は前記した下部パッケージ5にプラスチック樹脂パイプ4と光ファイバ1を固定した接着剤6と同種の接着剤を用いる。なお、電力用装置には種々の油が使用されていることもあるので、接着剤としては耐油性のある種類を選択するとよい。なお、本発明に用いられるパッケージの材料としては強電界の影響を受けない非金属が好ましく、例えば、石英ガラス、結晶化ガラス、ジルコニア等が適しているが、本発明の目的に適う材料ならば特に限定されるものではない。
【0027】
なお、上部パッケージ7には注入孔8が設けられている。これは上部パッケージ7を接着、固定した後にこの注入孔8から熱伝導率の高いゲル状物質9を温度感知部に注入、充填するためである。熱伝導率の高い物質を温度感知部に充填するのは温度がより早く温度感知部に到達するようにするためであり、またその物質がゲル状であるのは温度感知部に不要な応力がかからないようにするためである。この時注入したゲル状物質には空気泡が残らないように注入するとよい。空気泡が残るとセンサの性能が低下するからである。
【0028】
最後に上部パッケージ7の注入孔8を封止部材10により封止する。このような構成を有する本発明の光ファイバ温度センサは−40℃〜+85℃程度の広い温度範囲に亘って測定が可能で、また、反射波長の温度依存性も10pm/℃と極めて少なく、高い性能を有している。従って、本発明の光ファイバ温度センサは電力用装置に限定されることはなく、様々な温度測定に用いることも可能である。
【0029】
ところで、本発明の光ファイバ温度センサは種々のシステム構成で用いることができる。その例について図を用いて説明する。
【0030】
図2は本発明の光ファイバ温度センサを用いたシステムの一構成例である。図2において、広いスペクトルを有する光源21、例えばASE(Amplified Spontaneous Emission)光源あるいはEELED(Edge Emitter Laser Emission Diode)光源等からの光を2×2分岐のカプラ22の1本に入力する。カプラ22の一つの出力側に本発明の光ファイバ温度センサ23を接続し、その先端部の反射端25は無反射処理を行う。一方、カプラ22の他の1本には光スペクトラム・アナライザー24、若しくは他の分光装置を接続する。光ファイバ温度センサ23を接続していない方のカプラ22の出力側の反射端25はやはり無反射処理を行う。光スペクトラム・アナライザー24、若しくは他の分光装置はコンピュータに接続され、測定されたスペクトルデータは温度に換算される。
【0031】
このような構成例を用いるとデータを長距離伝送することができ、離れた場所で電力用装置の温度管理、ひいては寿命推定を行うことができる。データを伝送できる距離は光ファイバ温度センサ23の反射率や伝送に用いる光ファイバの伝送損失により決まってくるが、光ファイバの伝送損失は極めて小さいために数kmオーダーのデータ伝送も可能となる。
【0032】
次に図3は本発明の光ファイバ温度センサを用いた他のシステム構成例である。本構成例では本発明の光ファイバ温度センサをカスケード接続して用いている。即ち、図3において、ASE光源あるいはEELED光源31等からの光を2×2分岐のカプラ32の1本に入力する。カプラ32の一つの出力側に本発明の光ファイバ温度センサ33a、・・・、33nをカスケード接続し、その先端部の反射端35は無反射処理を行う。一方、カプラ32の他の1本には光スペクトラム・アナライザー34、若しくは他の分光装置を接続する。光ファイバ温度センサ33a、・・・、33nを接続していない方のカプラ32の出力側の反射端35はやはり無反射処理を行う。光スペクトラム・アナライザー34、若しくは他の分光装置はコンピュータに接続され、測定されたスペクトルデータは温度に換算される。
【0033】
ここで、光ファイバ温度センサ33a、・・・、33nをカスケード接続する際に、ASE光源を用いた場合は光ファイバ温度センサを10〜15個接続することが可能であり、またEELED光源を用いた場合は3〜5個の光ファイバ温度センサを接続することが可能である。このように複数の装置の温度を同時に測定することができ、波長多重データ伝送により温度管理、寿命推定を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態を表した縦断面図である。
【図2】本発明の光ファイバ温度センサを用いたシステムの一構成例である。
【図3】本発明の光ファイバ温度センサを用いたシステムの他の構成例である。
【符号の説明】
【0035】
1・・・光ファイバ
2・・・FBG
3・・・金属薄膜
4・・・プラスチック樹脂パイプ
5・・・下部パッケージ
6・・・接着剤
7・・・上部パッケージ
8・・・注入孔
9・・・ゲル状物質
10・・・封止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英系光ファイバのコアにファイバ・ブラッグ・グレーティングが書き込まれてなる光ファイバ温度センサにおいて、前記ファイバ・ブラッグ・グレーティングが書き込まれた部分はプラスチック樹脂被覆が除去されており、前記プラスチック樹脂被覆が除去された光ファイバのクラッドの表面には金属薄膜が被覆された温度感知部が形成され、前記温度感知部は張力がかからない状態でパッケージにより保護されていることを特徴とする光ファイバ温度センサ。
【請求項2】
前記金属薄膜の厚さは5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバ温度センサ。
【請求項3】
前記温度感知部には熱伝導率の高いゲル状物質が充填されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の光ファイバ温度センサ。
【請求項4】
前記パッケージは非金属材料からなることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の光ファイバ温度センサ。
【請求項5】
前記パッケージは石英ガラス、結晶化ガラス、ジルコニアから選択された一種であることを特徴とする請求項4記載の光ファイバ温度センサ。
【請求項6】
石英系光ファイバのコアにファイバ・ブラッグ・グレーティングが書き込まれてなる光ファイバ温度センサの製造方法において、前記光ファイバのプラスチック樹脂を所定長だけ除去し、前記プラスチック樹脂を除去した所定長の一部のコアにファイバ・ブラッグ・グレーティングを書き込み、前記プラスチック樹脂を除去した光ファイバのクラッド表面を金属薄膜で被覆して温度感知部を形成し、次いで前記温度感知部の両端部のプラスチック樹脂被覆が施された個所を所定長のプラスチック樹脂パイプに挿通した後、上下2分割されたパッケージの下部パッケージに前記プラスチック樹脂パイプ部を載置し、接着剤で固定した後、前記下部パッケージを上部パッケージで覆い接着剤で固定し、前記上部パッケージに設けた注入孔より熱伝導率の高いゲル状物質を注入、充填した後前記注入孔を封止することを特徴とする光ファイバ温度センサの製造方法。
【請求項7】
前記下部パッケージにプラスチック樹脂パイプを載置、固定する際に、前記温度感知部に張力がかからない状態で載置、固定することを特徴とする請求項6記載の光ファイバ温度センサの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−47154(P2006−47154A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229845(P2004−229845)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000002255)昭和電線電纜株式会社 (71)
【Fターム(参考)】