説明

光ヘッド装置の製造方法

【課題】光学部品が大型化することなく、安価に、かつ高精度に収差を補正する光ヘッド装置の製造方法を得る。
【解決手段】液晶性モノマーを重合して形成される高分子液晶層を有する位相補正素子を除く当該光ヘッド装置を構成する一連の光学部品、および前記位相補正素子の重合硬化前段階の素子である液晶セルの光軸合わせ後に、前記液晶セルへの印加電圧を変化させつつ、その際の収差を測定した結果から、収差を最適にするための電圧分布を抽出する電圧分布抽出工程と、抽出した最適条件の電圧を印加して重合硬化させる重合硬化工程と、当該光ヘッド装置において重合硬化後の位相補正素子により発現する収差を測定して該位相補正素子の位置を調整する位置調整工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体(以下、「光ディスク」という。)の記録および/または再生(以下、単に「記録再生」という。)を行う光ヘッド装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ヘッド装置では、光ディスクの記録再生を行うために、各波長の光を回折限界近くまで集光している。回折限界に近い集光スポットを得るためには、光学系の収差を小さな値とする必要がある。このため、光ヘッド装置に用いられる各光学部品の収差に対して厳しい精度が求められているとともに、各部品の配置位置に対しても組み立て工程において厳しい精度が求められている。
【0003】
光ヘッド装置で発生する収差には、光学部品の精度や組み立て時の配置位置の誤差に起因する光学系の光軸のずれや、光ディスクに対するチルト(傾き)によって発生する非点収差やコマ収差がある。これらの収差は、同一の光学設計をもつ光ディスク装置であっても、製造工程において発生する様々な要因により個々の光ディスク装置で異なる値となる。このような収差の個体差を抑制するためにも、光学部品の精度の向上や精密な組み立てが必要である。
【0004】
ところで、光ディスクの規格として、波長785nm、開口数(NA)0.45のCDや、波長660nm、NA0.6のDVDや、波長405nm、NA0.85のBlu−rayDisc(BD)といった複数種類の規格が広く用いられている。一般に、BD用など高いNAの対物レンズを使用する場合には、DVD用やCD用等のNAの対物レンズを使用する場合よりも、より精度よく光学部品を製造および組み立てる必要がある。
【0005】
また、異なる規格の光ディスクの記録再生を行うために、複数の対物レンズを1つのレンズホルダに設置したものが使われることがあるが、このような場合には、1つの光学系を調整したときに対物レンズホルダの位置がほぼ固定されてしまうため、他の光学系の調整の際に、対物レンズの位置調整が十分にできない状態で組み立てを行う必要がある。
【0006】
例えば、このような場合、他の光学系で光軸のずれが生じることから光ディスクに集光する際に規格外の収差を発生させてしまうことがある。このような収差を抑制するため、光ヘッド装置の組み立て工程において発生する収差を補正する方法の一例が、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0007】
【特許文献1】特許第2895150号公報
【特許文献2】特開2005−235338号公報
【非特許文献1】S.masuda,T.Nose and S.Sato,”Optical properties of an UV−cured liquid−crystal microlens array”,Applied Optics,1998,Vol.37,No.11,p.2067−2073
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、特許文献1に記載されている方法では、収差補正素子を含む光ヘッド装置の位置を固定して一定量の収差を補正する場合、常に特定の電圧を印加して液晶の配向を保つ必要がある。このため、光学部品に液晶素子を駆動するための電気的な配線や駆動回路を組み込まなければならず、光学系が大型化したり、収差補正量を一定に保つためには常に安定した電圧を供給しなければならず、供給電圧の安定化を実現するため駆動回路が複雑になったりする問題がある。また、液晶を駆動する場合、温度変化による屈折率変動が大きいため、信頼性に欠けるという問題がある。温度変化を補償する回路を組み込むことも可能であるが、外部に温度センサが必要になるため、コストの増大や回路の複雑化といった問題が生じる。
【0009】
なお、特許文献2には、重合特性を有する物質(重合性液晶)を収差補償素子に用い、光ヘッド装置に収差補償素子を組み込んだ際に、その位置にて最適な光学特性を発現させるよう液晶の配向を制御し、その状態で重合硬化する光ヘッド装置の製造方法が記載されている。この特許文献2に記載されている方法を用いれば、光学部品を大型化することなく、安価に、組み立て工程において発生するコマ収差や非点収差を補正することができる。しかし、特許文献2には、その重合硬化によって生じる屈折率変化について考慮されていない。つまり、重合硬化前で収差補正の最適条件を得たとしても、重合硬化後にはその最適条件から外れるために十分に収差が抑制できないという問題がある。
【0010】
液晶材料は、紫外線照射する前と後(高分子液晶化)で屈折率および屈折率異方性が少なからず異なる。例えば、非特許文献1のFig.8のグラフには、紫外線による重合硬化前と後とで液晶セルのリタデーション値が大きく異なる結果が示されている。なお、リタデーション値は液晶の常光屈折率をn、異常光屈折率をnとするとき屈折率異方性Δn(=|n−n|)と液晶セルの厚さ(d)との積(=Δn・d)に相当する。つまり、リタデーション値の変化は、この屈折率異方性Δnの変化に比例する。
【0011】
このように液晶セルのリタデーション値が異なるということは、液晶セルを透過する光の位相も変化する結果を生じるので、液晶セルを収差補正用の素子として適用させるとき、収差補正の能力に大きく影響するため、特許文献2に記載されているような単に重合硬化前に調整した最適な条件で重合硬化する方法では、必ずしも最適な光学特性が得られるとは限らない。
【0012】
そこで、本発明は、光学部品が大型化することなく、安価に、かつ高精度に、組み立て工程における各光学部品を配置すべき基準となる位置からのずれ(誤差)により発生する収差を含む収差を補正することができる光ヘッド装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による収差補正方法は、光源と、前記光源から出射される光を光ディスクに集光する対物レンズと、前記光ディスクで反射された光を前記光源と異なる方向に偏向するビームスプリッタと、前記光ディスクで反射されて前記ビームスプリッタで偏向された光を検出する光検出器と、前記光源と前記光ディスクとの間の光路中に配される、紫外線硬化型液晶性モノマーを重合して形成される高分子液晶層を有する位相補正素子とを備えた光ヘッド装置の製造方法であって、前記位相補正素子を除く当該光ヘッド装置を構成する一連の光学部品、および収差補正用のパターンが形成された透明電極を有する少なくとも1つの透明基板を含む、少なくとも一対の透明基板に挟持された紫外線硬化型液晶性モノマーを有する液晶セルの光軸の位置を物理的に合わせた状態で、前記透明電極に印加する電圧値を変化させつつ、前記液晶セルを透過させた先の出射光に発現する収差を測定した結果から、当該光ヘッド装置で発生する収差を最適にする前記透明電極に印加する電圧分布を抽出する電圧分布抽出工程と、抽出した最適条件の電圧を印加して、液晶セルの紫外線硬化型液晶性モノマーを重合硬化させて前記位相補正素子を作製する重合硬化工程と、作製された前記位相補正素子を透過させた先の出射光に発現する収差を測定して、当該光ヘッド装置で発生する収差を最適にする位置に前記位相補正素子の位置を調整する位置調整工程と、調整した位置にて前記位相補正素子を固定する位相補正素子接着工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明による収差補正方法は、前記電圧分布抽出工程で、前記透明電極に印加する電圧値を変化させつつ、前記液晶セルを透過させた先の出射光に発現する収差を測定した結果と、予め検出しておいた前記紫外線硬化型液晶性モノマーの重合硬化前後における屈折率変化の傾向とに基づき、当該光ヘッド装置で発生する収差を前記位相補正素子により最適にするように、前記透明電極に印加する電圧分布を抽出してもよい。
【0015】
また、本発明による収差補正方法は、前記電圧分布抽出工程と前記重合硬化工程との間に、前記電圧分布抽出工程において抽出された電圧分布の情報を記憶装置に記憶させる電圧分布情報記録工程を含み、前記重合硬化工程で、前記電圧分布情報記録工程において記憶された電圧分布の情報に基づき、液晶セルに対して当該光ヘッド装置に組み込まない別の場所において前記最適条件の電圧分布を再現させて前記位相補正素子を作製してもよい。
【0016】
また、前記電圧分布抽出工程で、当該光ヘッド装置に組み込む位相補正素子となる液晶セルと同じ特性を得ることができる電圧分布抽出用液晶セルを用い、前記電圧分布抽出用液晶セルより抽出した電圧分布の情報を前記液晶セルの電圧分布の情報としてもよい。
【0017】
また、前記重合硬化工程で、複数の液晶セルに対して個々に前記最適条件の電圧分布を再現させて、複数の前記位相補正素子を作製してもよい。
【0018】
また、前記重合硬化工程の後に前記位相補正素子の電極引き出し部を切断する工程を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、収差を最適にするよう位相補正素子に印加する電圧値や位相補正素子の位置(アライメント)を決定する光ヘッド装置の製造方法を採用することで、光学部品を大型化することなく、安価に、かつ高精度に、組み立て工程における各光学部品を配置すべき基準となる位置からのずれ(誤差)等により発生する収差を含む収差を補正することができる。さらに、位相補正素子の液晶層を構成する液晶材料の重合硬化前後における屈折率の変化を考慮して最適な収差補正が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
まず、図1を参照して本発明の製造方法が適用される光ヘッド装置の例について説明する。図1は、本発明の製造方法が適用される光ヘッド装置の構成の一例を示す模式図である。なお、光ヘッド装置は、光ピックアップと呼ばれる場合もある。
【0022】
図1に示す光ヘッド装置10は、所定の波長の光を出射する光源11と、光を検出する光検出器15と、光源11からの光を平行光に変換するコリメータレンズ12aと、光源11からのビーム光線(コリメータレンズ12aにより変換された平行光)を透過して光ディスク20の方向に導くとともに、それが光ディスク20により反射された光(すなわち、信号光)を偏向分離して光検出器15の方向に導くビームスプリッタ13と、光源11からのビーム光線を光ディスク20の情報記録面に集光する対物レンズ14と、ビームスプリッタ13により偏向分離された信号光を光検出器15に集光するコリメータレンズ12bと、光源11からのビーム光線に発現する収差を補正するための位相補正素子16とを備える。
【0023】
光検出器15は、光ディスク20の情報記録面に記録されている情報である再生信号やフォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号等を検出する。なお、図示省略しているが、光ヘッド装置10は、光検出器15により検出されたフォーカスエラー信号に基づいて対物レンズ14を光軸方向に制御するフォーカスサーボと、光検出器15により検出されたトラッキングエラー信号に基づいて対物レンズ14を光軸にほぼ垂直な方向に制御するトラッキングサーボとを備えている。
【0024】
光源11は、例えば、650nm波長帯の直線偏光の発散光を出射する半導体レーザで構成される。なお、光源11が出射する光は650nm波長帯に限定されず、400nm波長帯や780nm波長帯、またはその他の波長帯であってもよい。ここで、400nm波長帯は385nm〜430nmの範囲をいう。また、650nm波長帯は630nm〜690nmの範囲をいう。また780nm波長帯は760nm〜800nmの範囲をいう。
【0025】
位相補正素子16は、2枚の透明基板の間に高分子液晶からなる高分子液晶層が形成されてなる。透明基板は、入射する光に対して透明であれば、樹脂板、樹脂フィルムなど種々の材料を用いることができるが、ガラスや石英ガラスなどの光学的等方性材料を用いると、透過光に複屈折性の影響を与えないため好ましい。また、2枚の透明基板の対向する面には、それぞれ透明電極と、透明電極の上に配向膜とが形成されているものとする。この2枚の透明基板をシール材によって封止してできた空隙に紫外線硬化型液晶性モノマーを充填し、この充填された紫外線硬化型液晶性モノマーが後に重合硬化され、高分子液晶層となる。なお、以下、本発明の光ヘッド装置の製造方法において、紫外線硬化型液晶性モノマーを紫外線によって重合硬化して高分子液晶とするが、高分子液晶からなるセル(空間)を有する素子を「位相補正素子(16)」とし、紫外線硬化型液晶性モノマーからなる重合硬化前のセルを有する素子を「液晶セル(16’)」として説明する。
【0026】
液晶セルは、例えば、非点収差を補正するための非点収差補正素子となるものであってもよい。図2は、液晶セル16’の一例である非点収差補正用液晶セル(以下、非点収差補正用液晶セル16’という。)の電極パターンの一例を示す平面模式図である。図2には、非点収差を補正するための透明電極として、透明基板面を5つに分割した各領域に、それぞれ電極201,202a,202b,203a,203bが形成されている例が示されている。なお、図示省略しているが、各電極には、それぞれ当該非点収差補正用液晶セル16’の外周域に設けられる端子へと引き廻す電極配線が設けられている。
【0027】
本例では、X軸およびY軸方向の光軸ずれによって発生する位相差分布に対応させて、各電極を形成している。電極201は、光軸を中心として対物レンズ瞳(図2の破線)直径よりも小さい直径を有する円形状で形成される電極であって、基準電圧が印加されるものである。また、電極202aおよび202bは、光ディスクの径方向であるラディアル方向のうちX軸方向に発生する非点収差を補正するための電極であって、同一の電極が印加されるものとする。また、電極203aおよび203bは、ラディアル方向のうちY軸方向に発生する非点収差を補正するための電極であって、同一の電圧が印加されるものとする。
【0028】
最適な収差補正を行う電圧を抽出するため、各電極への電圧の印加は、端子に対して電源から発生される電圧を加えることで行えばよい。その際、駆動回路を用いて印加する電圧値を制御してもよいし、手動で調整することも可能である。なお、電極201と対向する側の図示しない透明基板に形成された透明電極は、図2に示すように電極パターンをなしていてもよいが、例えば、同じ電圧(基準電圧)を印加できるように一面に(分割しない)電極を形成してもよい。例えば、この図示しない透明電極を一面グラウンド(GND)レベル(電圧値=0[V])とし、図2に示す各電極にそれぞれ異なる電圧を印加するように制御する。
【0029】
また、配向膜は、透明電極上に、異常光軸が透明基板と平行面内の所定の方向になるように液晶分子を配向させる配向能を有するように形成される。配向膜は、例えば、塗布されたポリイミドに対してラビング処理が施されることによって形成される。本例では、入射光の偏光をX方向(例えば、X軸と平行な向き)とすると、異常光軸がX方向となるように液晶分子を配向させるためのラビング処理が施されているものとする。なお、配向膜はこれに限らず、無機材料として例えばSiOを透明基板面に対して斜め方向から蒸着してなる斜方蒸着膜で形成してもよい。
【0030】
次に、図3および図4を参照して非点収差の補正の原理を説明する。図3は、収差補正をしない場合の波面収差の大きさ(位相差分布)の例を示す説明図である。また、図4は、補正後の波面収差の大きさ(位相差分布)の例を示す説明図である。なお、図3(a)および図4(a)は、それぞれ図2のX−X’断面における波面収差の大きさを示している。また、図3(b)および図4(b)は、それぞれ図2のY−Y’断面における波面収差の大きさを示している。非点収差は、x−yに比例した面内分布を有しているので、図3(a)に示すようにX軸方向には正の波面収差が発生し、図3(b)に示すようにY軸方向には負の波面収差が発生する。
【0031】
ここで、電極201への印加電圧をV、電極202aおよび202bへの印加電圧をV、電極203aおよび203bへの印加電圧をVとする。また、各電極にそれぞれの電圧を印加した際のX方向の光に対する液晶の屈折率をn(V)とする。例えば、液晶が、誘電率異方性Δε>0である紫外線硬化型液晶性モノマーとする場合、電圧を増加することによって液晶分子の長軸方向は、透明基板面に対し垂直な方向へと立ち上がるため、X方向の実効的な屈折率は小さくなっていく。V<V<Vとすると、n(V)>n(V)>n(V)となる。なお、誘電率異方性Δε<0である紫外線硬化型液晶性モノマーとする場合、V<V<Vとすると、n(V)<n(V)<n(V)と不等号が逆となる。以下、とくに指定がない場合、誘電率異方性Δε>0である紫外線硬化型液晶性モノマーであるものとして説明する。
【0032】
図3(a)および図3(b)において、破線は、本例の非点収差補正用液晶セル16’の各電極に対して上記関係の電圧を印加した場合の透過光の位相分布を示している。例えば、上記関係の電圧を印加することにより、図3(a)の破線で示すように、電極202aおよび202bが形成された領域を透過する光の波面は、電極201が形成された領域を透過する光の波面に対して遅れる。また、図3(b)の破線で示すように、電極203aおよび203bが形成された領域を透過する光の(等位相の)波面は、電極201が形成された領域を透過する光の波面に対して進む。このように、各電極に印加する電圧値を調整して各領域を透過する光の位相を変化させることで、元々の収差に対して逆極性の収差を与えることができる。すると、図4(a)および(b)に示すような波面収差に補正することができる。
【0033】
また、液晶セルは、例えば、光ディスク20に対して対物レンズ14がチルト(傾き)を持つことによって発生するコマ収差を補正するためのコマ収差補正素子となるものであってもよい。図5は、液晶セル16’の一例であるコマ収差補正用液晶セル(以下、コマ収差補正用液晶セル16’という。)の電極パターンの一例を示す平面模式図である。図5には、コマ収差を補正するための透明電極として、透明基板面を5つに分割した各領域に、それぞれ電極301,302a,302b,303a,303bが形成されている例が示されている。なお、図示省略しているが、各電極には、それぞれ当該コマ収差補正用液晶セル16’の外周域に設けられる端子へと引き廻す電極配線が設けられている。
【0034】
本例では、光軸方向に対してラディアル方向のうちX軸方向の傾きによって発生するコマ収差分布に対応させて、5つの電極301,302a,302b,303a,303bを形成している。具体的には、図5に示すように、コマ収差分布と等しい大きさで反対の符号を持つ位相差分布が生じるような形状および位置にて各電極を形成すればよい。図5に示す例では、電極301には、基準電圧が印加されるものとする。また、電極302aおよび302bには、同一の電極が印加されるものとする。また、電極303aおよび303bには、同一の電極が印加されるものとする。
【0035】
各電極への電圧の印加は、非点収差補正用液晶セル16’の場合と同様、端子に対して電源から発生される電圧を加えることで行えばよい。その際、駆動回路を用いて印加する電圧値を制御してもよいし、手動で調整することも可能である。なお、電極301と対向する側の図示しない透明基板に形成された透明電極は、図5に示すように電極パターンをなしていてもよいが、例えば、同じ電圧(基準電圧)を印加できるように一面に(分割しない)電極を形成してもよい。例えば、この図示しない透明電極を一面グラウンド(GND)レベル(電圧値=0[V])とし、図5に示す各電極にそれぞれ異なる電圧を印加するように制御する。
【0036】
また、配向膜も同様に、透明電極上に、異常光軸が透明基板と平行面内の所定の方向になるように液晶分子を配向させる配向能を有するように形成される。配向膜は、例えば、塗布されたポリイミドに対してラビング処理が施されることによって形成される。本例では、入射光の偏光をX方向(例えば、X軸と平行な向き)とすると、異常光軸がX方向となるように液晶分子を配向させるためのラビング処理が施されているものとする。なお、配向膜はこれに限らず、無機材料として例えばSiOを透明基板面に対して斜め方向から蒸着してなる斜方蒸着膜で形成してもよい。
【0037】
次に、図6を参照してコマ収差の補正の原理を説明する。図6は、図5のX−X’断面における波面収差の大きさ(位相差分布)の例を示す説明図である。なお、図6(a)の実線で示す分布は、収差補正をしない場合の波面収差の大きさを示している。また、図6(b)は、補正後の波面収差の大きさを示している。コマ収差は、r=x+yとしたとき、(3r−2)xに比例した面内分布を有しているので、図6(a)に示すような波面収差が発生する。
【0038】
ここで、電極301への印加電圧をV、電極302aおよび302bへの印加電圧をV、電極303aおよび303bへの印加電圧をVとする。また、各電極にそれぞれの電圧を印加した際のX方向の光に対する液晶の屈折率をn(V)とする。電圧を増加することによって液晶分子の長軸方向は、透明基板面に対し垂直な方向へと立ち上がるため、X方向の実効的な屈折率は小さくなっていく。V<V<Vとすると、n(V)>n(V)>n(V)となる。
【0039】
図6(a)において、破線は、本例のコマ収差補正用液晶セル16’の各電極に対して上記関係の電圧を印加した場合の透過光の位相分布を示している。例えば、上記関係の電圧を印加することにより、図6(a)の破線で示すように、電極302aおよび302bが形成された領域を透過する光の(等位相の)波面は、電極301が形成された領域を透過する光の波面に対して進む。また、電極303aおよび303bが形成された領域を透過する光の波面は、電極301が形成された領域を透過する光の波面に対して遅れる。このように、各電極に印加する電圧値を調整して各領域での位相を変化させることで、元々の収差に対して逆極性の収差を与えることができる。すると、図6(b)に示すような波面収差に補正することができる。
【0040】
また、コマ収差補正用液晶セル16’としては、例えば、図7に示すような構成であってもよい。図7は、コマ収差補正用液晶セル16’の他の構成例を示す説明図である。図7(a)は、本例のコマ収差補正用液晶セル16’の模式的平面図であり、図7(b)は、図7(a)に示したコマ収差補正用液晶セル16’のX−X’断面図である。
【0041】
図7に示すように、本例のコマ収差補正用液晶セル16’は、2枚の透明基板501,502のうちいずれか一方の基板面に透明電極を形成し、その上にフォトリソグラフィおよびエッチング加工等により凹凸形状に加工された凹凸層503を形成する。なお、この凹凸層503は、光学的に等方性を示す材料で形成され、各種の無機材料や、感光性樹脂や熱硬化樹脂などの有機材料を用いることができる。無機材料としてはSiO膜(x、yはSiに対するOおよびNの原子数比)、SiO膜、Si膜、Al膜などを用いることができるが、中でもSiO膜が、成膜条件によりx、yを変化させて所望の屈折率に調整可能であり、透明性、耐久性にも優れる点から好ましく用いられる。なお、凹凸層503の屈折率をnとする。また、透明基板501,502の内側には、それぞれ異常光軸が透明基板と平行面内の所定の方向になるように液晶分子を配向させる配向能を有する配向膜が積層されている。本例では、入射光の偏光をX方向(例えば、X軸と平行な向き)とすると、塗布されたポリイミドに対して異常光軸がX方向となるように液晶分子を配向させるためのラビング処理が施されている配向膜が積層されているものとする。なお、配向膜はこれに限らず、無機材料として例えばSiOを透明基板面に対して斜め方向から蒸着してなる斜方蒸着膜で形成してもよい。
【0042】
このような透明基板501,502をシール材によって封止してできた空隙に、異常光屈折率nおよび常光屈折率nが、n>n>nを満たす紫外線硬化型液晶性モノマーを充填し、この充填された紫外線硬化型液晶性モノマー504’が後に重合硬化され、高分子液晶層504となる。
【0043】
透明基板上に形成する凹凸層503は、光軸に対するラディアル方向の傾きによって発生するコマ収差分布に対応させて、基板面に5つの領域401,402a,402b,403a,403bを設け、凹凸層503の各領域の高さが図7(b)に示す断面模式図のように設計されている。すなわち、領域401の高さをd、領域402aおよび402bの高さをd、領域403aおよび403bの高さをdとした場合に、d>d>d、d=0となるように設定することでコマ収差補正機能を実現できる。
【0044】
また、図示省略しているが、透明電極には、当該コマ収差補正用液晶セル16’の外周域に設けられる端子へと引き廻す電極配線が設けられている。
【0045】
本例のコマ収差補正用液晶セル16’に電圧Vを印加した場合の紫外線硬化型液晶性モノマーの屈折率をn(V)とし、コマ収差補正用液晶セル16’に入射する波長λの光の同位相を基準にして高さdで生じる位相[°]のうち、領域401の位相をφ[°]、領域402aおよび402bの位相をφ[°]、領域403aおよび404bの位相をφ[°]とすると、各領域の透過光の位相は、それぞれ以下の式で表される。
【0046】
φ=360×{dn(V)+d(n−n(V))}/λ
φ=360×(d)/λ
φ=360×(dn(V))/λ
【0047】
このように、n(V)>nとなる電圧範囲では、φ>φ>φという関係が成り立つため、それぞれの領域を透過する光の間で位相差が生じる。そして、領域402aおよび402bを透過する光の(等位相の)波面は領域401を透過する光の波面に対して進む。また、領域403aおよび403bを透過する光の波面は領域401を透過する光の波面に対して遅れる。このように、透明電極に印加する電圧値を調整して各領域での位相を変化させることで元々の収差に対して逆極性の収差を与えることができるので、コマ収差を補正することができる。
【0048】
なお、上記例では、液晶セル16’の例として、非点収差補正用液晶セルとコマ収差補正用液晶セルとを実現する場合を説明したが、例えば、1つの液晶セルを挟持する2面の透明電極のうち、一方の面には非点収差補正用の電極パターン、他方の面にはコマ収差補正用の電極パターンが形成されていてもよい。また、上記説明した非点収差補正用液晶セルとコマ収差補正用液晶セルとが積層されるものであってもよく、さらに光軸を中心に同心円状に輪帯の電極領域パターンを有して球面収差を補正するものがあってもよい。このように1つの素子により2種類以上の収差を補正する素子を実現させることも可能である。
【0049】
また、図1に示す例では、コリメータレンズ12aとビームスプリッタ13との間の光路中に、位相補正素子16を設置する例を示しているが、それに限らず少なくとも位相補正素子16は、光源11からのビーム光線が光ディスク20に集光されるまでの間の光路中に配置されていればよい。例えば、ビームスプリッタ13と対物レンズ14との間の光路中に配置されていてもよい。
【0050】
ところで、このような液晶セルを光ヘッド装置に組み込む場合に、液晶セル自体や他の光学部品の配置する基準位置(光軸)に対してずれが生じたり、光軸に対する傾きが生じたりすると、該液晶セルにおける位相差分布が補正すべき波面収差分布からずれてしまうことがある。このような場合には、ずれ幅に応じて、各電極に印加する電圧値をさらに調整すればよい。
【0051】
本発明では、光ヘッド装置を製造する際の組み立て工程において、個々の光ヘッド装置ごとに発生する収差の誤差を考慮した上で、液晶セルの各電極に印加する電圧値を決定する。このとき、重合硬化のために紫外線を照射することにより発生する液晶のリタデーション値の変化を踏まえて決定する。そして、最適な光学特性を発現させるよう決定した電圧値を印加した状態で、紫外線を照射して液晶モノマーを重合硬化させて、収差位相素子として光ヘッド装置に組み込む。
【0052】
なお、重合性液晶の材料として、重合硬化前後において屈折率異方性Δnの変化がスペック上問題にならない物質を用いるようにしてもよい。この場合、例えば、アクリルなどの重合基と、メソゲン基(液晶分子)の連結鎖で、重合硬化前後のΔnの変動率が30%以下となるものが好ましい。なお、20%以下となるものがより好ましく、10%以下であればさらに好ましい。例えば、メチレン鎖やオキシエチレン鎖などを用いてもよい。より具体的には、メチレン鎖「(CH2)」(n=2〜8。好ましくは4〜6程度)を用いてもよい。
【0053】
次に、本発明の光ヘッド装置の製造方法について説明する。図8は、本発明の製造方法の概略を組み立て工程における処理フローで示すブロック図である。図8に示すように、本発明の光ヘッド装置の製造方法は、電圧分布抽出工程と、重合硬化工程と、位置調整工程とを含むことを特徴とする。
【0054】
電圧分布抽出工程では、紫外線硬化型液晶性モノマーからなる重合硬化前のセルを有する液晶セル16’と一連の光学部品の光軸位置を物理的に合わせた状態で、抽出する電圧分布は、当該光ヘッド装置を構成する一連の光学部品の光軸のずれなどによって発生する収差を最適にする液晶セル16’の電圧分布(より具体的には、液晶セル16’に設けられている収差補正用の透明電極に印加する電圧分布)を抽出する。なお、液晶セル16’以外の光学部品の光軸位置を物理的に決めた状態で固定し接着されていると、液晶セル16’によって補正すべき収差成分が変化しないので好ましい。このとき、液晶セル16’は、光軸位置に仮留めした状態とする。
【0055】
電圧分布抽出工程では、例えば、光軸合わせを行った状態で液晶セル16’に設けられている収差補正の透明電極に印加する電圧値を変化させつつ、液晶セル16’を透過させた先の出射光に発現する収差を測定した結果から、収差特性が最も良好となる電圧分布を特定することにより抽出してもよい。また、例えば、さらに予め検出しておいた液晶セル16’で使用する液晶材料の重合硬化前後における屈折率変化の傾向に基づいて、重合硬化後の位相補正素子16により最適な収差が発現することになる電圧分布を算出することにより抽出してもよい。
【0056】
重合硬化工程では、光ヘッド装置に配する位相補正素子16となる液晶セル16’に、電圧分布抽出工程で最適条件の電圧分布として抽出された電圧を印加し、電圧が印加された状態で液晶セル16’に紫外線を照射することにより紫外線硬化型液晶性モノマーを重合硬化させて、位相補正素子16を作製する。
【0057】
位置調整工程では、作製した位相補正素子16を用いて、当該位相補正素子16を透過させた先の出射光に発現する測定して、収差を最適にする当該位相補正素子16の位置(傾きを含む)を調整する。そして、調整した位置にて位相補正素子16を固定する。なお、位置調整工程は、電圧分布抽出工程で重合硬化後に最適な収差が発現することになる電圧分布を抽出した場合には位置調整をすることによってより厳密に位相を補正することが可能である。
【0058】
なお、電圧分布抽出工程と重合硬化工程との間に、電圧分布抽出工程で抽出した電圧分布の情報を、記憶装置に記憶させる電圧分布情報記録工程を含んでいてもよい。そのような場合には、重合硬化工程で、記憶された電圧分布の情報に基づき、液晶セル16’に対して当該光ヘッド装置に組み込まない別の場所において最適条件の電圧印加を再現させて位相補正素子16を作製してもよい。そして、重合硬化工程の後に作製した位相補正素子16を当該光ヘッド装置に組み込まれている一連の光学部品の光軸の位置に物理的に合わせる重合硬化後光軸合わせ工程を含んでいてもよい。
【0059】
また、電圧分布抽出工程で、当該光ヘッド装置に組み込む位相補正素子16となる液晶セル16’と同じ特性を得ることができる電圧分布抽出用液晶セルを用い、電圧分布抽出用液晶セルより抽出した電圧分布の情報を液晶セル16’の電圧分布の情報としてもよい。また、重合硬化工程で、複数の液晶セル16’に対して個々に最適条件の電圧印加を再現させて、複数の位相補正素子16を作製してもよい。
【0060】
以下に、本発明の光ヘッド装置の製造方法についてより具体的に説明する。なお、本発明では、「リアルタイム処理」と「バッチ処理」とを定義し、それぞれ以下に説明する。「リアルタイム処理」は、個々の光ヘッド装置10ごとに、位相補正素子16となる液晶セル16’の収差補正条件の調整(液晶の重合)と位相補正素子16としての組み込みとを一貫して行う処理をいう。一方、「バッチ処理」は、1つ以上の光ヘッド装置10に配される、それぞれ収差補正条件が異なる1つ以上の位相補正素子16となる各液晶セル16’の重合を一つの工程で別の場所においてまとめて行う処理をいう。
【0061】
1.リアルタイム処理を含む光ヘッド装置の製造方法
まず、液晶セルの紫外線硬化型液晶性モノマーに対してリアルタイムに重合硬化を行う光ヘッド装置の製造方法について説明する。本発明の光ヘッド装置の製造方法は、他の各光学部品の作製が完了し、それを組み立てる組み立て工程において実行される。図9は、リアルタイム処理を含む光ヘッド装置の製造方法が適用された組み立て工程における処理フローの一例を示すブロック図である。図9に示すように、リアルタイム処理を含む光ヘッド装置の製造方法では、組み立て工程において、まず、他の光学部品の光軸合わせが既に行われ接着済みの状態で、液晶セル16’の光軸合わせを行い、その位置で液晶セル16’を固定させる(第1工程:光軸合わせ工程)。図1に示す光ヘッド装置の場合、液晶セル16’を除く、対物レンズ14、ビームスプリッタ13、コリメータレンズ12a,12bといった他の光学部品に対して光源11からの光軸に合わせて配置、接着させた後(光学部品としては最後に)、液晶セル16’の位置を物理的に調整して液晶セル16’の光軸合わせを行う。
【0062】
次に、液晶セル16’を光軸に合わせた位置に接着剤を介さない仮の固定をした状態でビーム照射を行い、収差を最適にする条件として、液晶セル16’へ印加する電圧分布を抽出する(第2工程:収差最適条件抽出工程)。ここでは、液晶セル16’の電極(収差補正用の電極)に印加する電圧値を随時変更し、収差が最も小さい電圧値の組み合わせを抽出する。例えば、他の光学部品と液晶セル16’とが組み合わされた状態で光源11からビーム照射を行い、液晶セル16’を透過したその出射光が集光すべき光ディスクの情報記録面となる位置にレーザ干渉計を置いて、観測される収差を測定しながら電圧値を変更し、収差特性が最も良好となる電圧分布を特定する。なお、電圧の印加および電圧値の調整は、例えば、図10に示すように、液晶セル16’の電極へ引き廻す電極配線の端子に、電圧制御装置の端子を電気的に接続させ、電源制御装置の電圧レベルを変更することにより行えばよい。
【0063】
次に、液晶セル16’の電極に前工程で抽出した最適条件の電圧を印加した状態で、液晶セル16’の紫外線硬化型液晶性モノマーを重合硬化させる(第3工程:重合硬化工程)。このとき、液晶セル16’の電極に最適条件の電圧を印加した状態のまま紫外線を照射し、硬化完了するまでその電圧値を維持する(図11参照。)。本工程により、液晶セル16’が高分子液晶を含む位相補正素子16となる。また、本工程完了後に、位相補正素子16に接続された電圧制御装置との電気配線の接続を解除する。
【0064】
次に、再度収差を最適にする条件として、重合硬化により作製された位相補正素子16を配置させる位置(角度等を含む。)を抽出する(第4工程:収差最適条件抽出工程(位置調整))。ここでは、重合硬化前と重合硬化後とで液晶の屈折率異方性Δnに変化が生じることを考慮し、重合硬化後の位相補正素子16を配置させる位置を再度調整し、収差が最も小さくなる位置を決定する。例えば、レーザ干渉計を用いて位相補正素子16からの出射光を測定し、その測定値に基づき、収差特性が最も良好となるよう位置を微調整すればよい。
【0065】
最後に、前工程で抽出した最適条件の位置にて、位相補正素子16を接着させる(第5工程:位相補正素子接着工程)。ここでは、第4工程で抽出した位置に当該位相補正素子16を配置させて接着させる。例えば、当該位相補正素子16用に設けられている他の光学部品や枠体との接合部に当該位相補正素子16を接着させればよい。
【0066】
なお、第2工程において、使用する液晶材料の特性に基づいて、収差補正特性が重合硬化後に最適条件となるように、液晶セル16’へ印加する電圧分布を抽出してもよい。例えば、予め使用する液晶材料の重合硬化前後における屈折率変化の傾向(変化幅)を把握しておき、重合硬化前の状態で測定された結果に基づき屈折率変化の傾向を考慮して、重合硬化後に収差が最適となる電圧条件を決定してもよい。なお、第2工程において重合硬化後に収差が最適となる電圧条件を決定した場合であっても、上記第4工程において、重合硬化された高分子液晶を含む位相補正素子16の位置を調整するとより精度よく収差を補正することができる。また、重合性液晶の材料として、重合硬化前後において屈折率異方性Δnの値の変化がスペック上問題にならない物質を用いる場合には、重合硬化前の最適条件にて、そのまま重合硬化および接着させることも可能である。
【0067】
2.バッチ処理を含む光ヘッド装置の製造方法
次に、バッチ処理による重合硬化を行う工程を含む光ヘッド装置の製造方法について説明する。図12は、リアルタイム処理を含む光ヘッド装置の製造方法が適用された組み立て工程における処理フローの一例を示すブロック図である。図12に示すように、第1工程および第2工程は、リアルタイム処理による重合硬化を行う場合と同様である。なお、バッチ処理による重合硬化を行う場合であっても、第2工程において、収差補正特性が重合硬化後に最適条件となるように、重合硬化前の測定値と屈折率変化の傾向とに基づいて、液晶セル16’へ印加する電圧分布を抽出してもよい。
【0068】
また、バッチ処理による重合硬化を行う工程を含む光ヘッド装置の製造方法では、最適条件としての電圧値を抽出した後、抽出した電圧値を別途設けた記憶装置に記憶させる(図13参照。)。例えば、個別の光ヘッド装置に組み込まれる個別の位相補正素子16に対する最適条件として抽出した液晶セル16’の各電極に印加した電圧値を、該位相補正素子16を識別するための識別子(ロット番号等)と対応づけて記憶装置に記憶させる。また、本製造方法では、第2工程完了後、液晶セル16’は一旦取り外される。
【0069】
なお、バッチ処理における電圧分布の抽出は、最終的に位相補正素子16として配置する前段階の液晶セル16’を用いない方法も採用される。つまり、液晶セル16’と同じ光学特性を有する図示しない電圧分布抽出用液晶セルを準備して、電圧分布抽出用液晶セルより抽出した電圧分布の情報を最終的に位相補正素子16として配置する前段階の液晶セル16’の電圧分布とするものである。このようにすることによって、例えば、1つの電圧分布抽出用液晶セルによって複数の光ヘッド装置の液晶セル16’の電圧分布の情報を得ることができ、効率化を図ることができる。なお、電圧分布抽出用液晶セルは紫外線硬化する必要はないので、液晶セル16’と同じ光学特性を有していれば、液晶材料は必ずしも紫外線硬化型液晶性モノマーに限らず、他の紫外線硬化性のない液晶材料を用いた構造であってもよい。
【0070】
次の第3工程では、例えば、図14に示すように、最終的に位相補正素子16として配置する前段階の各液晶セル16’を、纏まった単位分電圧制御装置(マルチプローブ)に接続し、それぞれに対して前工程で抽出した最適条件の電圧印加を再現する。そして、最適条件の電圧印加が再現された状態で、各液晶セル16’の紫外線硬化型液晶性モノマーを重合硬化させる(第3工程:電圧印加再現−重合硬化工程)。このとき、各液晶セル16’の電極に最適条件の電圧を印加した状態のまま紫外線を照射し、硬化完了するまでその電圧値を維持すればよい。本工程により、各液晶セル16’がそれぞれ重合硬化された高分子液晶を含む位相補正素子16となる。また、第3工程完了後に、各位相補正素子16に接続された電圧制御装置との電気配線の接続を解除する。なお、図14では、電圧制御装置に複数の液晶セル16に電圧を印加できるマルチプローブがある態様について説明したが、これに限らず、例えば、1つの液晶セル16’(のみ)に対して電気配線をする電圧制御装置を用いて、1つ1つの液晶セル16’に電気接続して電圧を印加し、電気配線の脱着をして重合硬化させる工程を繰り返すものであってもよい。
【0071】
このようにバッチ処理では、光ヘッド装置に組み込まない状態で重合硬化をすることができるので、複数の位相補正素子16の作製を纏めて行うことができる。さらに、バッチ処理では、光ヘッド装置の他の光学部品に漏れた迷光となる紫外線が照射されることがなく、紫外線照射による他の光学部品の光学特性の変化を抑制することができる。また、とくにバッチ処理による重合硬化を行う工程を含む光ヘッド装置の製造方法では、電気配線接続解除後に、図15に示すように、各位相補正素子16の電極引き出し部61を切断する工程を含めてもよい。この工程により光ヘッド装置のさらなる小型化が実現できる。
【0072】
最後に、重合硬化により作製された各位相補正素子16を、光ヘッド装置に組み込む(第4工程:位相補正素子ローディング工程)。例えば、記憶しておいたロット番号に基づいて各位相補正素子16を第1工程で位置合わせを行った光ヘッド装置に位置を合わせて固定し、接着させてもよい。第4工程における位置合わせの方法としては、例えば、第1工程で当該位相補正素子16の前段階の液晶セル16’を固定した位置を数値(アライメント値等)で記憶しておき、その位置に合わせてもよい。なお、このような場合には、重合性液晶の材料として、重合硬化前後において屈折率異方性Δnの変化がスペック上問題にならない物質を用いるか、または第2工程において、重合硬化前の測定値と屈折率変化の傾向とに基づいて、重合硬化後に最適条件となる電圧分布が抽出されているものとする。
【0073】
また、位相補正素子16の位置合わせの方法としては、例えば、光源11からビーム照射を行い、位相補正素子16を透過したその出射光の収差をレーザ干渉計で測定しながら位相補正素子16の最適位置を調整してもよい。なお、位相補正素子16の最適位置への調整は、第1工程での前段の液晶セル16’の固定位置に合わせて固定する際にも行ってもよい。
【0074】
このように、本発明によれば、光ヘッド装置を組み立てた際に発生する個々の収差を含む収差を高精度に補正することができる。また、収差の補正量を個別に調整するために常時動的に液晶を電圧駆動するための駆動回路等を組み込む必要がないため、大型化することなく、また安価に製造することができる。
【0075】
なお、上記例では、1つのレンズホルダに1つの対物レンズを設置する光ヘッド装置10を例に用いて説明したが、本発明は、例えば図16に示すように、2つの光学系を有する光ヘッド装置に対しても適用可能である。
【0076】
図16に示す光ヘッド装置200は、複数の規格の光ディスクの記録再生を行うものであり、それぞれの規格に対応して2つの光学系30および40を有している。各光学系には、それぞれ図1に示した光ヘッド装置10と同様に、所定の波長の光を出射する光源(光源31または41)と、光を検出する光検出器(光検出器35または45)と、光源からの光を平行光に変換するコリメータレンズ(コリメータレンズ32aまたは42a)と、コリメータレンズから出射される光源からのビーム光線を透過して光ディスク20の方向に導くとともに、光ディスク20から反射された信号光を偏向分離して光検出器の方向に導くビームスプリッタ(ビームスプリッタ33または43)と、光源からのビーム光線を光ディスク20の情報記録面に集光する対物レンズ(対物レンズ34または44)と、ビームスプリッタにより偏向分離された信号光を光検出器に集光するコリメータレンズ(コリメータレンズ32bまたは42b)とが含まれる。また、光学系30の対物レンズ34と光学系40の対物レンズ40とは、共通のレンズホルダ51によって固定されている。
【0077】
また、図16に示す例では、光学系40にのみ位相補正素子46が含まれる例を示している。位相補正素子46は、図1における位相補正素子16に相当する素子である。なお、光学系30にも、図1における位相補正素子16に相当する位相補正素子が含まれていてもよい。
【0078】
図16に示す光ヘッド装置200は、例えば、光ディスク20の記録再生を行う際に、光ディスク20の種類を検知し、その種類に応じて光学系30を用いるか光学系40を用いるかを切り替えるものとする。
【0079】
このような光ヘッド装置の場合、まず片方の光学系(例えば、光学系30)から組み立てを行う。その際、当該光学系を構成する各光学部品に光軸ずれや傾きがないよう配置位置を精密に調整する。このとき、レンズホルダ51は固定される。次に、もう一方の光学系(例えば、光学系40)の組み立てを行うが、当該光学系の対物レンズを固定するレンズホルダ51は既に位置が固定されているので、そのレンズホルダ51に収める対物レンズは、当該光学系の光軸に対して傾き(角度のずれ)を持つ場合がある。例えば、この傾きに起因して発生するコマ収差を、コマ収差補正用の位相補正素子46により補正する。
【0080】
具体的には、上記工程例と同様に、光ヘッド装置を製造する際の組み立て工程において、個々の光ヘッド装置ごとに発生する収差と、重合硬化の前後における液晶材料の屈折率変化の傾向とに基づいて、位相補正素子46となる液晶セル16’の各電極に印加する電圧値や液晶セル16’または重合硬化後の位相補正素子46の配置位置を決定し、その電圧値や配置位置に従って液晶セル16’の紫外線硬化型液晶性モノマーを重合硬化させたり、液晶セル16’または重合硬化後の位相補正素子46を固定(接着)したりすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、光ディスクに対して記録再生を行う光ヘッド装置等、光学部品を組み合わせて何らかの目的を達成する装置とする光学系装置において発生する収差を補正する用途に好適に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の製造方法が適用される光ヘッド装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】非点収差補正用液晶セル16’の電極パターンの一例を示す平面模式図である。
【図3】非点収差補正用液晶セル16’における無補正の波面収差の大きさの例を示す説明図である。
【図4】非点収差補正用液晶セル16’における補正後の波面収差の大きさの例を示す説明図である。
【図5】コマ収差補正用液晶セル16’の電極パターンの一例を示す平面模式図である。
【図6】コマ収差補正用液晶セル16’における波面収差の大きさの例を示す説明図である。
【図7】コマ収差補正用液晶セル16’の他の構成例を示す説明図である。
【図8】本発明の製造方法の概略を組み立て工程における処理フローで示すブロック図である。
【図9】リアルタイム処理を含む光ヘッド装置の製造方法が適用された組み立て工程における処理フローの一例を示すブロック図である。
【図10】リアルタイム処理による重合硬化を行う収差補正方法における収差最適条件抽出工程を説明するための説明図である。
【図11】リアルタイム処理による重合硬化を行う収差補正方法における重合硬化工程を説明するための説明図である。
【図12】バッチ処理を含む光ヘッド装置の製造方法が適用された組み立て工程における処理フローの一例を示すブロック図である。
【図13】バッチ処理による重合硬化を行う収差補正方法における収差最適条件抽出工程を説明するための説明図である。
【図14】バッチ処理による重合硬化を行う収差補正方法における電圧印加再現−重合硬化工程を説明するための説明図である。
【図15】バッチ処理による重合硬化を行う収差補正方法における電極引き出し部切断工程を説明するための説明図である。
【図16】本発明の製造方法が適用される光ヘッド装置の他の構成例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0083】
10、200 光ヘッド装置
20 光ディスク
30、40 光学系
11、31、41 光源
12a、12b、32a、32b、42a、42b コリメータレンズ
13、33、43 ビームスプリッタ
14、34、44 対物レンズ
15、35、45 光検出器
16、46 位相補正素子(非点収差補正素子、コマ収差補正素子)
16’ 液晶セル(非点収差補正用液晶セル、コマ収差補正用液晶セル)
51 レンズホルダ
61 電極引き出し部
201、202a、202b、203a、203b 収差補正用の透明電極
301、302a、302b、303a、303b 収差補正用の透明電極
401、402a、402b、403a、403b 収差補正用の分割領域
501、502 透明基板
503 凹凸層
504 高分子液晶層
504’ 紫外線硬化型液晶性モノマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、前記光源から出射される光を光ディスクに集光する対物レンズと、前記光ディスクで反射された光を前記光源と異なる方向に偏向するビームスプリッタと、前記光ディスクで反射されて前記ビームスプリッタで偏向された光を検出する光検出器と、前記光源と前記光ディスクとの間の光路中に配される、紫外線硬化型液晶性モノマーを重合して形成される高分子液晶層を有する位相補正素子とを備えた光ヘッド装置の製造方法であって、
前記位相補正素子を除く当該光ヘッド装置を構成する一連の光学部品、および収差補正用のパターンが形成された透明電極を有する少なくとも1つの透明基板を含む、少なくとも一対の透明基板に挟持された紫外線硬化型液晶性モノマーを有する液晶セルの光軸の位置を物理的に合わせた状態で、前記透明電極に印加する電圧値を変化させつつ、前記液晶セルを透過させた先の出射光に発現する収差を測定した結果から、当該光ヘッド装置で発生する収差を最適にする前記透明電極に印加する電圧分布を抽出する電圧分布抽出工程と、
抽出した最適条件の電圧を印加して、液晶セルの紫外線硬化型液晶性モノマーを重合硬化させて前記位相補正素子を作製する重合硬化工程と、
作製された前記位相補正素子を透過させた先の出射光に発現する収差を測定して、当該光ヘッド装置で発生する収差を最適にする位置に前記位相補正素子の位置を調整する位置調整工程と、
調整した位置にて前記位相補正素子を固定する位相補正素子接着工程と、を含む
ことを特徴とする光ヘッド装置の製造方法。
【請求項2】
前記電圧分布抽出工程で、前記透明電極に印加する電圧値を変化させつつ、前記液晶セルを透過させた先の出射光に発現する収差を測定した結果と、予め検出しておいた前記紫外線硬化型液晶性モノマーの重合硬化前後における屈折率変化の傾向とに基づき、当該光ヘッド装置で発生する収差を前記位相補正素子により最適にするように、前記透明電極に印加する電圧分布を抽出する
請求項1に記載の光ヘッド装置の製造方法。
【請求項3】
前記電圧分布抽出工程と前記重合硬化工程との間に、前記電圧分布抽出工程において抽出された電圧分布の情報を記憶装置に記憶させる電圧分布情報記録工程を含み、
前記重合硬化工程で、前記電圧分布情報記録工程において記憶された電圧分布の情報に基づき、液晶セルに対して当該光ヘッド装置に組み込まない別の場所において前記最適条件の電圧分布を再現させて前記位相補正素子を作製する
請求項1または請求項2に記載の光ヘッド装置の製造方法。
【請求項4】
前記電圧分布抽出工程で、当該光ヘッド装置に組み込む位相補正素子となる液晶セルと同じ特性を得ることができる電圧分布抽出用液晶セルを用い、前記電圧分布抽出用液晶セルより抽出した電圧分布の情報を前記液晶セルの電圧分布の情報とする
請求項3に記載の光ヘッド装置の製造方法。
【請求項5】
前記重合硬化工程で、複数の液晶セルに対して個々に前記最適条件の電圧分布を再現させて、複数の前記位相補正素子を作製する
請求項3または請求項4に記載の光ヘッド装置の製造方法。
【請求項6】
前記重合硬化工程の後に前記位相補正素子の電極引き出し部を切断する工程を含む
請求項1〜5いずれか1項に記載の光ヘッド装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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