説明

光反射測定装置

【課題】測定対象物において発生するレイリー散乱光および離散的な反射光を高精度に検出することができる光反射測定装置を提供する。
【解決手段】光反射測定装置13Aは、光源部40A,測定部60Aおよび処理部70を備える。光源部40Aは、光周波数が変調されて櫛歯状の光波コヒーレンス関数を有する第1監視光およびパルス状の第2監視光の何れかを選択して光結合器12へ出し、第1監視光の一部を分岐して参照光として光変調器51へ出力する。測定部60Aは、第1監視光が測定対象物を伝搬する際に生じる反射光および光源部40Aから出力される参照光に基づいてOCDR測定結果を取得し、第2監視光が測定対象物を伝搬する際に生じる反射光に基づいてOTDR測定結果を取得する。処理部70は、測定部60Aにより取得されたOCDR測定結果とOTDR測定結果とを組み合わせて出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光リフレクトメトリ技術を利用する光反射測定装置、および、このような光反射測定装置を備える光通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ線路を用いて光通信を行う光通信システムにおいて、その光ファイバ線路の破断や伝送損失増加などの故障を検知することは重要である。特に、近年普及しつつある加入者系の光通信システムでは、光ファイバ線路や加入者端末で故障が発生した場合に、迅速に故障箇所を特定して修復することが要求されている。
【0003】
そこで、光通信システムにおいては、このような故障を検知するために光反射測定装置が設けられる。光反射測定装置は、光リフレクトメトリ技術を利用するものであって、光ファイバ線路等の測定対象物を監視光が伝搬する際に生じる反射光(フレネル反射光およびレイリー散乱光)に基づいて、その測定対象物における反射率分布を求めて、その測定対象物における故障の箇所を検知する。そして、このような光反射測定装置は、高い空間分解能で反射率分布を測定することが要求されている。
【0004】
光リフレクトメトリ技術として、パルス状の監視光が測定対象物を伝搬する際に生じる反射光の強度の時間変化に基づいて反射率分布を測定するOTDR(Optical Time Domain Reflectometry)が知られている。また、他の光リフレクトメトリ技術として、OCDR(Optical Coherence Domain Reflectometry)も知られている(特許文献1および非特許文献1,2を参照)。
【0005】
OCDRでは、光周波数が変調されて櫛歯状の光波コヒーレンス関数を有する監視光を発生させ、この監視光が測定対象物を伝搬する際に生じる反射光を入力するとともに、この監視光の一部を分岐して取り出した参照光をも入力し、これら反射光と参照光との干渉の大きさが両光の間の遅延時間差に依存することを利用して、測定対象物における特定位置における反射率を測定する。さらに、OCDRでは、監視光における光周波数変調の間隔を変化させる等により、反射率を測定する位置を変化させて、測定対象物における反射率分布を求める。
【0006】
光波コヒーレンス関数は、時刻tを変数とする関数である光の電場V(t)の自己相関関数<V(t)・V*(t−τ)>を光強度で規格化したものであり、光パワースペクトルのフーリエ変換を光強度で規格化したものである。電場V(t)の光が2分岐されて、これら2つの分岐光の間の遅延時間差がτであるとしたとき、これら2つの分岐光の干渉縞の大きさは、その光の光波コヒーレンス関数の実部により表される。また、光波コヒーレンス関数の絶対値は、可干渉度と呼ばれ、干渉の大きさを表す。
【0007】
OCDRで用いられる監視光は、光周波数が変調されたものであって、櫛歯状の光波コヒーレンス関数を有する。具体例としては、光周波数を一定時間間隔で順にf0,f0+fs,f0−fs,f0+2fs,f0−2fs,f0+3fs,f0−3fs,・・・ というように変調された光が監視光として用いられる。或いは、変調周波数fsで光周波数を正弦波状に変調された光が監視光として用いられる。このように光周波数が変調された監視光の光波コヒーレンス関数は、fsτが整数であるときにデルタ関数形状に類似した形状のピーク(コヒーレンスピーク)を有する。すなわち、これらの監視光は、櫛歯状の光波コヒーレンス関数を有する。fsが変化すると、コヒーレンスピークの位置も変化する。
【0008】
櫛歯状の光波コヒーレンス関数は、間隔(1/fs)で配置される複数のコヒーレンスピークを有する。そのうちの1つのコヒーレンスピークが測定対象物のうちの被測定区間に存在するように、コヒーレンスピークの配置の間隔(1/fs)より短い時間幅のゲートが監視光にかけられて監視光のパルスが切り出される。
【特許文献1】特開平10−148596号公報
【非特許文献1】K. Hotate and Z. He, Journal ofLightwave Technology, vol.24, pp.2541-2557 (2006)
【非特許文献2】Z. He and K. Hotate, Journal ofLightwave Technology, vol.20, pp.1715-1723 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
OTDRで高い空間分解能を得るには、監視光のパルス幅を狭くすることが必要である。また、監視光のパルス幅を狭くすると、監視光のエネルギーの低下に因る測定の信号対雑音比(SNR: Signal to Noise Ratio)の低下を補うために、監視光のパワーを高くすることが必要である。ところが、監視光のパワーを高くすると、測定対象物において誘導ブリルアン散乱などの非線形光学現象が発現することによって測定性能の低下や通信信号への干渉が生じる可能性がある。したがって、OTDRでは、空間分解能は数メートル程度に制限される。
【0010】
一方、OCDRでは、OTDRと比べると高い空間分解能を得ることができる。非特許文献1には、例えば5km遠方の反射点を19cmの空間分解能で測定できることが示されている。
【0011】
しかし、OCDRでは、光ファイバ線路等の測定対象物に沿って連続的に生じるレイリー散乱光を検出することができない。なぜなら、実現可能な変調技術では光波コヒーレンス関数のサイドローブ(コヒーレンスピーク以外の部分)をゼロに抑えることができないことから、異なる2つの位置からの反射光を厳密に分離することができず、測定対象物における接続点などで生じる大きな反射光によってレイリー散乱光がノイズに埋もれてしまうからである。
【0012】
したがって、OCDRでは、測定対象物上の離散的な反射点を検出することはできるが、これらの反射点の間の区間で生じるレイリー散乱光を検出することができないので、測定対象物の断片的な情報しか得ることができず、故障検知能力が不十分である。
【0013】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、測定対象物において発生するレイリー散乱光および離散的な反射光を高精度に検出することができる光反射測定装置を提供することを目的とする。また、このような光反射測定装置を備える光通信システムを提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る光反射測定装置は、(1) 光周波数が変調されて櫛歯状の光波コヒーレンス関数を有する第1監視光およびパルス状の第2監視光の何れかを選択して出力するとともに、第1監視光の一部を分岐して参照光として出力する光源部と、(2)光源部から出力された第1監視光が測定対象物を伝搬する際に生じる反射光および光源部から出力される参照光に基づいてOCDR測定結果を取得するとともに、光源部から出力された第2監視光が測定対象物を伝搬する際に生じる反射光に基づいてOTDR測定結果を取得する測定部と、(3)測定部により取得されたOCDR測定結果とOTDR測定結果とを組み合わせて出力する処理部と、を備えることを特徴とする。このようにしてOCDR測定結果とOTDR測定結果とが組み合わされて出力されることにより、測定対象物における離散反射点が高い空間分解能で検出されるとともに、測定対象物における離散反射点の間の区間の状態をも測定され得る。
【0015】
本発明に係る光反射測定装置では、処理部は、OCDR測定結果に基づいて、測定対象物における離散反射点の位置を求め、この求めた離散反射点の位置と第2監視光のパルス時間波形とに基づいて、離散反射点での第2監視光の反射によるOTDR測定結果への寄与の程度を求め、この求めた寄与の程度に基づいてOTDR測定結果を補正して、その補正結果を出力するのが好適である。このような処理が行われることにより、測定対象物における離散反射点の付近の状態が測定されるとともに、離散反射点および離散反射点の間の区間の情報が一元化され得る。
【0016】
本発明に係る光通信システムは、光ファイバ線路により互いに光学的に接続された局側端末と加入者端末との間で光通信を行う光通信システムであって、光ファイバ線路の途中に設けられた光結合器と、この光結合器に光学的に接続された上記の本発明に係る光反射測定装置とを備え、光反射測定装置から選択的に出力される第1監視光または第2監視光を、光結合器を経て光ファイバ線路に伝搬させ、第1監視光または第2監視光が光ファイバ線路を伝搬する際に生じる反射光を、光結合器を経て光反射測定装置に入力させることを特徴とする。また、本発明に係る光通信システムは、局側端末と複数の加入者端末とが光分岐器を介して光学的に接続されており、局側端末と光分岐器との間の光ファイバ線路の途中に光結合器が設けられているのが好適である。このように光通信システムにおいて上記の光反射測定装置が用いられることにより、加入者端末や光ファイバ線路で生じる故障の箇所が特定され得る。
【0017】
本発明に係る光通信システムは、光分岐器から複数の加入者端末それぞれまでの光ファイバ長が加入者端末毎に異なるのが好適である。この場合には、加入者端末が個別に区別され得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、測定対象物において発生するレイリー散乱光および離散的な反射光を高精度に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
(第1実施形態)
【0021】
図1は、第1実施形態に係る光通信システム1Aおよび光反射測定装置13Aの構成図である。この図に示される光通信システム1Aは、局舎10Aに設けられた局側端末11とN個の加入者端末21〜21とが光分岐器20を介して互いに光ファイバ線路により光学的に接続されていて、局側端末11と各加入者端末21との間で光通信を行うものである。ここで、Nは2以上の整数であり、nは1以上N以下の各整数である。このような光通信システム1Aの形態は、PON(Passive Optical Network)と呼ばれる。分岐数Nは4〜32が典型的である。
【0022】
局舎10Aには、局側端末11の他に光結合器12および光反射測定装置13Aが設けられている。局側端末11と光結合器12とは光ファイバ線路31により光学的に接続されている。光結合器12と光分岐器20とは光ファイバ線路32により光学的に接続されている。光分岐器20と各加入者端末21とは光ファイバ線路33により光学的に接続されている。また、光結合器12には光反射測定装置13Aも光学的に接続されている。
【0023】
光反射測定装置13Aは、OCDR測定およびOTDR測定の双方を行うことができ、OCDR測定結果とOTDR測定結果とを組み合わせて出力する。光反射測定装置13Aは、光源部40A,測定部60Aおよび処理部70を備え、更に光変調器51および光遅延線52を備える。
【0024】
光源部40Aは、光周波数が変調されて櫛歯状の光波コヒーレンス関数を有する第1監視光およびパルス状の第2監視光の何れかを選択して光結合器12へ出力する。また、光源部40Aは、第1監視光の一部を分岐して参照光として光変調器51へ出力する。第1監視光および参照光はOCDR測定に用いられ、第2監視光はOTDR測定に用いられる。光源部40Aは、光源41,信号発生器42,光変調器43および光結合器44を含む。
【0025】
光源部40Aに含まれる光源41は、出力光の光周波数を変調することができるものであって、例えば半導体DFBレーザ光源や外部共振器付き半導体レーザ光源等である。光源41は連続光を出力する。信号発生器42は、光源41から出力される連続光の光周波数を変調するための変調信号を出力し、その変調信号を光源41に与える。光変調器43は、光源41から出力される光を入力して、この光を必要に応じて変調して出力する。光結合器44は、光変調器43から出力される光を2分岐して、一方の分岐光を光結合器12へ出力し、他方の分岐光を光変調器51へ出力する。
【0026】
測定部60Aは、光源部40Aから出力された第1監視光が測定対象物を伝搬する際に生じる反射光および光源部40Aから出力される参照光に基づいてOCDR測定結果を取得する。また、測定部60Aは、光源部40Aから出力された第2監視光が測定対象物を伝搬する際に生じる反射光に基づいてOTDR測定結果を取得する。測定部60Aは、光結合器61,バランス検波器62,フィルタ63,RF検波器64,AD変換器65およびAD変換器66を含む。
【0027】
測定部60Aに含まれる光結合器61は、光結合器44から出力される光を入力するとともに、光遅延線52から光が出力される場合にはその光をも入力して、その入力した光をバランス検波器62へ出力する。バランス検波器62は、光結合器61から出力される光を入力して検波し、その検波結果を表す電気信号をフィルタ63またはAD変換器66へ出力する。フィルタ63は、バランス検波器62から出力される電気信号を入力し、その電気信号に含まれる雑音成分を除去して、その除去後の電気信号をRF検波器64へ出力する。
【0028】
測定部60Aに含まれるRF検波器64は、フィルタ63から出力される電気信号を入力し、干渉成分の大きさに相当する電気信号に変換してAD変換器65へ出力する。AD変換器65は、RF検波器64から出力される電気信号を入力し、この電気信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換して、このデジタル信号(OCDR測定結果)を処置部70へ出力する。また、AD変換器66は、バランス検波器62から出力される電気信号を入力し、この電気信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換して、このデジタル信号(OTDR測定結果)を処置部70へ出力する。
【0029】
なお、OCDR測定の際には、AD変換器66は用いられない。また、OTDR測定の際には、フィルタ63,RF検波器64およびAD変換器65は用いられない。
【0030】
処理部70は、測定部60Aにより取得されたOCDR測定結果とOTDR測定結果とを組み合わせて出力する。また、処理部70は、OCDR測定結果とOTDR測定結果とに基づいて所定の演算を行って、その演算結果を出力する。処理部70は、制御部71および記憶部72を含む。
【0031】
処理部70に含まれる制御部71は、光源部40Aの動作を制御する。また、制御部71は、AD変換器65から出力されるデジタル信号(OCDR測定結果)を入力するとともに、AD変換器66から出力されるデジタル信号(OTDR測定結果)を入力して、これらOCDR測定結果およびOTDR測定結果を記憶部71に記憶させる。記憶部72は、第2監視光のパルス時間波形を予め記憶している。そして、制御部71は、OCDR測定結果,OTDR測定結果および第2監視光のパルス時間波形に基づいて所定の演算を行って、その演算結果を出力する。
【0032】
次に、OCDR測定について説明する。OCDR測定の場合、光源部40Aは、光周波数が変調されて櫛歯状の光波コヒーレンス関数を有する第1監視光を出力する。このとき、光源41から出力される連続光は、信号発生器42により光周波数が変調されて、櫛歯状の光波コヒーレンス関数を有するものとされる。具体例としては、光周波数を一定時間間隔で順にf0,f0+fs,f0−fs,f0+2fs,f0−2fs,f0+3fs,f0−3fs,・・・ というように変調された光が第1監視光として用いられる。或いは、変調周波数fsで光周波数が正弦波状に変調された光が第1監視光として用いられる。このように光周波数が変調された第1監視光の光波コヒーレンス関数は、fsτが整数であるときにデルタ関数形状に類似した形状のピーク(コヒーレンスピーク)を有する。すなわち、これらの第1監視光は、櫛歯状の光波コヒーレンス関数を有する。fsが変化すると、コヒーレンスピークの位置も変化する。
【0033】
光変調器43は、光源41から出力される連続光を光周波数変調に同期して強度変調して、この強度変調した光を第1監視光として出力するのが好適である。このような第1監視光は、光波コヒーレンス関数のサイドローブが抑圧されたものとなる。そして、光結合器44は、光変調器43から出力された第1監視光を光結合器12へ出力するとともに、第1監視光の一部を分岐して参照光として光変調器51へ出力する。
【0034】
光結合器44から光結合器12へ出力された第1監視光は、光ファイバ線路32,光分岐器20および光ファイバ線路33を経て加入者端末21へ伝搬する。第1監視光が測定対象物(光ファイバ線路32,光分岐器20,光ファイバ線路33,加入者端末21)を伝搬する際に、測定対象物上の離散反射点においてフレネル反射光が生じ、また、離散反射点の間の区間においてレイリー散乱光が生じる。これら反射光(フレネル反射光、レイリー散乱光)は、光結合器12および光結合器44を経て光結合器61へ入力される。
【0035】
一方、光結合器44から光変調器51へ出力された参照光は、光変調器51および光遅延線52を経て光結合器61へ入力される。光変調器51は、光結合器44から出力される参照光を入力し、必要に応じて、所定のタイミングで参照光にゲートをかけることで、OCDR測定の際の測定対象物における被測定位置を決定する。光遅延線52は、光変調器51から出力される参照光に対して遅延を与えることで、光結合器61に入力される第1監視光の反射光と参照光との光路長差を小さくして、光源41から出力される光の位相揺らぎによって生じる雑音を低減する。
【0036】
なお、光変調器51は、参照光に対してゲートをかけることの他、参照光を偏波変調してもよいし、参照光の光周波数をシフトさせてもよいし、これらのうちの複数の処理をしてもよい。参照光を偏波変調して複数の偏波状態でOCDR測定結果を平均化することにより、第1監視光および参照光の偏波ゆらぎの影響を低減することができる。また、参照光の光周波数をシフトさせて第1監視光の反射光がヘテロダイン検波されるようにすることで、第1監視光の強度ゆらぎによる雑音を低減することができる。
【0037】
光結合器61は、光結合器44から出力される第1監視光の反射光と光遅延線52から出力される参照光とを結合して、これらをバランス検波器62へ出力する。バランス検波器62は、これら反射光と参照光とを入力してバランス検波して、これら反射光および参照光それぞれの電界の干渉成分に相当する電気信号をフィルタ63へ出力する。フィルタ63は、バランス検波器62から出力される電気信号を入力し、その電気信号に含まれる雑音成分を除去して、その除去後の電気信号をRF検波器64へ出力する。
【0038】
RF検波器64は、フィルタ63から出力される電気信号を入力し、干渉成分の大きさに相当する電気信号に変換してAD変換器65へ出力する。AD変換器65は、RF検波器64から出力される電気信号を入力し、この電気信号をデジタル信号に変換して、このデジタル信号を制御部71へ出力する。制御部71は、AD変換器65から出力されたデジタル信号を入力して、このデジタル信号を記憶部72により記憶させる。このデジタル信号の値は、測定対象物における被測定位置での反射率を表す。
【0039】
さらに、制御部71による制御に従って、光源41における光周波数変調の際のパラメータfsが変更されることにより、コヒーレンスピークの位置(すなわち、測定対象物における被測定位置)が変更されて、上記と同様にして、測定対象物における被測定位置での反射率を表すデジタル信号が記憶部72により記憶される。コヒーレンスピークの位置(すなわち、測定対象物における被測定位置)が走査されることで、OCDR測定結果が得られる。
【0040】
次に、OTDR測定について説明する。OTDR測定の場合、光源部40Aは、パルス状の第2監視光を出力する。このとき、光変調器43は、光源41から出力される連続光を強度変調して、パルス状の第2監視光として出力する。このとき、光源41は、信号発生器42から出力される変調信号に従って光周波数を変調して、スペクトル拡散された連続光を出力するのが好適である。このように第2監視光のスペクトルが拡散されることで、光ファイバ線路32,33〜33を第2監視光が伝搬する際に誘導ブリルアン散乱などの非線形光学現象の発生が抑制される。そして、光結合器44は、光変調器43から出力された第2監視光を光結合器12へ出力するとともに、第2監視光の一部を分岐して光変調器51へ出力する。光変調器51へ出力された光は、この光変調器51により遮断される。
【0041】
光結合器44から光結合器12へ出力された第2監視光は、光ファイバ線路32,光分岐器20および光ファイバ線路33を経て加入者端末21へ伝搬する。第2監視光が測定対象物(光ファイバ線路32,光分岐器20,光ファイバ線路33,加入者端末21)を伝搬する際に、測定対象物上の離散反射点においてフレネル反射光が生じ、また、離散反射点の間の区間においてレイリー散乱光が生じる。これら反射光(フレネル反射光、レイリー散乱光)は、光結合器12および光結合器44を経て光結合器61へ入力される。
【0042】
光結合器61は、光結合器44から出力される第2監視光の反射光を入力して、これをバランス検波器62へ出力する。バランス検波器62は、非バランス動作を行い、光結合器61から出力される光を入力して、この入力光パワーに応じた電気信号をAD変換器66へ出力する。この電気信号を時間の関数としたものが、測定対象物における反射率分布をあらわす。AD変換器66は、バランス検波器62から出力される電気信号を入力し、この電気信号を一定時間間隔でデジタル信号に変換して、このデジタル信号を制御部71へ出力する。制御部71は、AD変換器66から出力されたデジタル信号を入力して、このデジタル信号を記憶部72により記憶させる。このようにして、OTDR測定結果が得られる。
【0043】
次に、図2および図3を用いて、処理部70における処理の内容について説明する。図2は、OCDR測定結果,OTDR測定結果および処理部70の処理結果それぞれを模式的に示す図である。図3は、処理部70の処理のフローを示す図である。処理部70に含まれる制御部71は、以上のようにして得られて記憶部72により記憶されているOCDR測定結果およびOTDR測定結果、ならびに、記憶部72により予め記憶されている第2監視光のパルス時間波形を用いて、以下のような処理を行う。
【0044】
図2に示されるように、一般に、OCDR測定結果によれば、離散的な反射点の位置(例えば光ファイバ線路33と加入者端末21との接続点)が高い空間分解能で得られるが、これらの反射点の間の区間では光波コヒーレンス関数のサイドローブに起因するコヒーレンスノイズが観測されるので当該区間での情報が得られない。一方、OTDR測定結果によれば、離散的な反射点の間の区間ではレイリー散乱光が観測されるが、これら反射点の付近では反射点位置と第2監視光のパルス時間波形との畳み込みに因るブロードなピークが観測される。
【0045】
そこで、このようなOCDR測定結果およびOTDR測定結果それぞれの特質を考慮して、本実施形態に係る光反射測定装置13Aの処理部70は、OCDR測定結果,OTDR測定結果および第2監視光のパルス時間波形を用いて図3に示される処理を行うことにより、図2に示されるようなレイリー散乱光測定を含んだ高分解能の反射点測定結果を得る。
【0046】
処理部70に含まれる制御部71は、先ず、記憶部72に記憶されているOCDR測定結果を用い、コヒーレンスノイズより高い所定の水準でOCDR測定結果の閾値処理を行ってピーク位置を検出することにより、測定対象物における離散反射点の位置のリストを求める。
【0047】
また、制御部71は、記憶部72に記憶されている第2監視光のパルス時間波形、および、測定対象物の波長分散や偏波モ−ド分散の長手方向分布などの情報を用いて、測定対象物を第2監視光が伝搬する際のパルス拡がりに因る各位置での第2監視光のパルス時間波形を求める。
【0048】
さらに、制御部71は、既に求めた離散反射点の位置リストと各位置での第2監視光のパルス時間波形とを畳み込み演算することにより、離散反射点での第2監視光の反射によるOTDR測定結果への寄与の程度を求める。
【0049】
そして、制御部71は、この求めた寄与の程度に基づいて、記憶部72に記憶されているOTDR測定結果を補正して、その補正結果を出力する。具体的には、制御部71は、離散反射点での第2監視光の反射によるOTDR測定結果への寄与をOTDR測定結果から減算し、離散反射点の位置リストからデルタ関数状の反射ピーク波形を生成して、これを上記の減算の結果に対して合成する。
【0050】
このような処理を処理部70が行うことで、本実施形態に係る光反射測定装置13Aは、測定対象物において発生するレイリー散乱光および離散的な反射光を高精度に検出することができ、高分解能の反射率分布の測定結果を得ることができる。
【0051】
(第2実施形態)
【0052】
図4は、第2実施形態に係る光通信システム1Bおよび光反射測定装置13Bの構成図である。図1に示された第1実施形態に係る光通信システム1Aの構成と比較すると、この図4に示される第2実施形態に係る光通信システム1Bは、局舎10Aに替えて局舎10Bを備える点で相違し、光反射測定装置13Aに替えて光反射測定装置13Bを備える点で相違する。
【0053】
また、図1中の光反射測定装置13Aの構成と比較すると、図4中の光反射測定装置13Bは、光源部40Aに替えて光源部40Bを含む点で相違し、測定部60Aに替えて測定部60Bを含む点で相違し、また、光サーキュレータ53を更に含む点で相違する。
【0054】
光源部40Bは、光源41,信号発生器42,光変調器43および光結合器44を含む。光結合器44は、光源41と光変調器43との間に設けられ、光源41から出力される第1監視光および第2監視光それぞれを2分岐して、一方の分岐光を光変調器43へ出力し、他方の分岐光を光変調器51へ出力する。
光変調器43は、光結合器44から出力された光を入力し、この光を変調して光サーキュレータ53へ出力する。
【0055】
光サーキュレータ53は、光変調器43から出力された光を入力して、この入力した光を光結合器12へ出力する。また、光サーキュレータ53は、光結合器12から出力された光を入力して、この入力した光を光結合器61へ出力する。
【0056】
測定部60Bは、光結合器61,バランス検波器62,フィルタ63,RF検波器64およびAD変換器65を含む。光結合器61は、光サーキュレータ53から出力された光を入力するとともに、光遅延線52から出力された光をも入力して、これらの光をバランス検波器62へ出力する。
【0057】
OCDR測定の場合、光源41から出力された第1監視光は、光結合器44,光変調器43,光サーキュレータ53および光結合器12を経て、測定対象物(光ファイバ線路32,光分岐器20,光ファイバ線路33,加入者端末21)を伝搬する。この伝搬の際に生じる反射光(フレネル反射光、レイリー散乱光)は、光結合器12および光サーキュレータ53を経て光結合器61へ入力される。また、光源41から出力された第1監視光の一部は光結合器44により分岐されて参照光とされる。その参照光は、光変調器51および光遅延線52を経て光結合器61へ入力される。測定部60Bおよび処理部70においては、第1実施形態の場合と同様の動作が行われて、OCDR測定結果が得られる。
【0058】
一方、OTDR測定の場合、光源41から出力された第2監視光は、光結合器44,光変調器43,光サーキュレータ53および光結合器12を経て、測定対象物を伝搬する。この伝搬の際に生じる反射光(フレネル反射光、レイリー散乱光)は、光結合器12および光サーキュレータ53を経て光結合器61へ入力される。また、光源41から出力された第2監視光の一部は光結合器44により分岐されて参照光とされる。その参照光は、光変調器51および光遅延線52を経て光結合器61へ入力される。
【0059】
本実施形態では、OTDR測定の場合にも、バランス検波器62はバランス検波動作する。望ましくは、光変調器51により参照光の光周波数がシフトされ、バランス検波器62により第2監視光がヘテロダイン検波される。その結果、コヒーレントOTDR(C-OTDR)として知られる測定方式が実現され、反射率分布が測定される。
【0060】
処理部70は、第1実施形態の場合と同様の処理をする。OCDR測定結果およびC-OTDR測定結果が図3のフローで処理されることにより、図2に示したような高分解能の反射率分布測定結果が得られる。さらに、C-OTDRでは十分に高いパワーを有する参照光を用いることによりショットノイズ限界の測定が可能であるので、32分岐システムなどの光分岐器20での挿入損失が高いPONシステムにも用いることができる。
【0061】
(変形例)
【0062】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態において、第1監視光の光波コヒーレンス関数のサイドローブを抑圧する手法を組み合わせて用いてもよい。すなわち、信号発生器42が生成する変調波形を正弦波とすると、光源41から出力される光のパワースペクトルの両端部においてスペクトル変化が急峻となるのでサイドローブが発生するが、このサイドローブを抑圧するために、光フィルタによってスペクトルの両端部を平滑化する方法や、変調波形を歪ませることでスペクトルを平滑化する方法を採用するのが好ましい。
【0063】
また、上記実施形態において、局側端末11から出力される信号光の波長と異なる波長の監視光を用いることにより、信号光と監視光との干渉を防ぐことが望ましい。信号光波長としては1.3μm帯,1.49μm帯および1.55μm帯などが用いられるので、第1監視光または第2監視光の波長としては1.58〜1.65μm帯が好ましい。また、光結合器12は、波長合波器として信号光および監視光の挿入損失を最小限に抑えることが好ましい。
【0064】
また、上記実施形態において、OTDR測定に用いる第2監視光は、光源41を直接変調することによって生成しても良い。
【0065】
また、上記実施形態において、図1および図4それぞれに模式的に示されるように、光ファイバ線路33〜33それぞれの長さは互いに異なることが望ましい。特に、各光ファイバ線路33の長さの差を、OCDR測定の典型的な分解能より大きく(例えば50cm以上)すると、加入者端末21と光ファイバ線路33との接続点で生じる離散反射点を加入者端末毎に区別して測定することができるので好ましい。または、加入者端末21と光ファイバ線路33との間に、加入者端末毎に異なる間隔で形成された離散反射点を有する反射マーカー素子を挿入することも、端末判別手段として用いることができる。
【0066】
また、上記実施形態において、光通信システムの構築時もしくは構築後の測定によって、それぞれの加入者端末から局舎までの距離の情報を取得し、それを記憶部72に記憶し、記憶された加入者端末までの距離の近傍にOCDRの測定範囲を制限しても良い。それにより、それぞれの加入者端末と局舎の間の光学的接続が保たれているかどうかを、短時間で監視することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】第1実施形態に係る光通信システム1Aおよび光反射測定装置13Aの構成図である。
【図2】OCDR測定結果,OTDR測定結果および処理部70の処理結果それぞれを模式的に示す図である。
【図3】処理部70の処理のフローを示す図である。
【図4】第2実施形態に係る光通信システム1Bおよび光反射測定装置13Bの構成図である。
【符号の説明】
【0068】
1A,1B…光通信システム、10A,10B…局舎、11…局側端末、12…光結合器、13A,13B…光反射測定装置、20…光分岐器、21〜21…加入者端末、31,32,33〜33…光ファイバ線路、40A,40B…光源部、41…光源、42…信号発生器、43…光変調器、44…光結合器、51…光変調器、52…光遅延線、53…光サーキュレータ、60A,60B…測定部、61…光結合器、62…バランス検波器、63…フィルタ、64…RF検波器、65…AD変換器、66…AD変換器、70…処理部、71…制御部、72…記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光周波数が変調されて櫛歯状の光波コヒーレンス関数を有する第1監視光およびパルス状の第2監視光の何れかを選択して出力するとともに、前記第1監視光の一部を分岐して参照光として出力する光源部と、
前記光源部から出力された第1監視光が測定対象物を伝搬する際に生じる反射光および前記光源部から出力される参照光に基づいてOCDR測定結果を取得するとともに、前記光源部から出力された第2監視光が前記測定対象物を伝搬する際に生じる反射光に基づいてOTDR測定結果を取得する測定部と、
前記測定部により取得されたOCDR測定結果とOTDR測定結果とを組み合わせて出力する処理部と、
を備えることを特徴とする光反射測定装置。
【請求項2】
前記処理部が、
前記OCDR測定結果に基づいて、前記測定対象物における離散反射点の位置を求め、
この求めた離散反射点の位置と前記第2監視光のパルス時間波形とに基づいて、前記離散反射点での前記第2監視光の反射による前記OTDR測定結果への寄与の程度を求め、
この求めた寄与の程度に基づいて前記OTDR測定結果を補正して、その補正結果を出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光反射測定装置。
【請求項3】
光ファイバ線路により互いに光学的に接続された局側端末と加入者端末との間で光通信を行う光通信システムであって、
前記光ファイバ線路の途中に設けられた光結合器と、この光結合器に光学的に接続された請求項1または2に記載の光反射測定装置と、を備え、
前記光反射測定装置から選択的に出力される前記第1監視光または前記第2監視光を、前記光結合器を経て前記光ファイバ線路に伝搬させ、
前記第1監視光または前記第2監視光が前記光ファイバ線路を伝搬する際に生じる反射光を、前記光結合器を経て前記光反射測定装置に入力させる、
ことを特徴とする光通信システム。
【請求項4】
前記局側端末と複数の加入者端末とが光分岐器を介して光学的に接続されており、
前記局側端末と前記光分岐器との間の光ファイバ線路の途中に前記光結合器が設けられている、
ことを特徴とする請求項3に記載の光通信システム。
【請求項5】
前記光分岐器から前記複数の加入者端末それぞれまでの光ファイバ長が加入者端末毎に異なることを特徴とする請求項4に記載の光通信システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−293950(P2009−293950A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144903(P2008−144903)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】