説明

光受信モジュール及び光受信器

【課題】光受信モジュールにおいて、組立て作業性を損なうことなく、周波数特性を向上させ得る技術の提供。
【解決手段】光受信モジュールの基台部は、下段面と立ち上がり面と上段面とがこの順に連なる階段状の部分を有しており、光受信素子を配置するキャリアは、下面の幅よりも上面の幅が短くなっており、上面と前面に渡って配置される基準電圧用膜状配線及び信号電圧用配線が位置し、前記下段面と前記立ち上がり面に沿って配置され、前置増幅回路は、前記上段面に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光受信モジュール及びそれを備える光受信器に関し、特に、高周波領域で動作することが可能となる光受信モジュール及びそれを備える光受信器に関する。
【背景技術】
【0002】
光送受信器に搭載される光受信モジュールには、受光素子、前置増幅回路、受光素子バイアス回路、光ファイバ、及びレンズなどの光学系部品などが備えられている。
【0003】
光受信器の主要な性能は、光受信モジュールの入力換算雑音及び周波数応答特性によって決定される。入力換算雑音及び周波数応答特性は、ともに、周波数に大きく依存している。光受信モジュールが高速の伝送速度において用いられるとき、特に、受光素子、前置増幅回路、受光素子バイアス回路などの実装状態に起因した寄生素子による影響が大きくなる。
【0004】
光受信モジュールにおけるこれら寄生素子としては、受光素子、前置増幅回路、受光素子バイアス回路などの接続あるいは実装に関わる寄生インダクタンス、寄生容量がある。受光素子と前置増幅回路の接続に起因するインダクタンス(寄生インダクタンス)と受光素子の接合容量や前置増幅回路入力端子容量などの容量(寄生容量)とに基づくLC共振の共振周波数は伝送周波数帯域に対して十分に高くなるようにしておく必要がある。
【0005】
図6は、従来技術に係る光受信モジュール主要部の斜視図である。光受信モジュールの基台部7に、受光素子が配置されたキャリア2と、前置増幅回路10とが、別々に配置されている。これは、受光素子1と前置増幅回路10は、一般に、特性にばらつきが発生し易いデバイスだからである。図6に示す光受信モジュールは、受光素子1と前置増幅回路10について、それぞれ別々に特性検査を行い、それぞれ特性基準を満たす素子を選別して、それらを用いて光受信モジュールを形成することが出来るので、光受信モジュールの良品率を大幅に向上させることができる。また、受光素子1の温度依存性データが必要な場合には、受光素子1単独でそのデータを取得する必要がある。例えば、受光素子1としてアバランシェ増幅型フォトダイオード(Avalanche Photodiode:以下、APDと記す)が使用される場合は、ブレークダウン電圧あるいは暗電流の温度依存性は素子それぞれによって異なるからである。また、光受信モジュールの組立て作業性を考慮すると、受光素子1はキャリア2に搭載され、前置増幅回路10は基台部7上に搭載されるのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−134051号公報
【特許文献2】米国特許第5,200,612号
【特許文献3】特開2000−58881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光受信モジュールにおいて、所定の受信感度を満足するために次のような仕様を満たす必要がある。
【0008】
(1)受信した光の反射減衰量を一定値以下に抑え(例えばITU−T:国際標準規格の−27dB以下)、かつ受光素子と光ファイバとの結合効率をできるだけ高める。
【0009】
(2)前置増幅回路の入力換算雑音電流密度をできるだけ低くする。
【0010】
(3)上記(2)に関連し受光素子の接合容量をできるだけ低くする。
【0011】
(4)周波数応答特性を後段回路に対して最適化する。ここで、周波数応答特性には、光電変換後のSパラメータのS21特性及びS22特性などが含まれる。S21特性及びS22特性は、光信号入力端をポート1、電気信号出力端をポート2としている。
【0012】
S21特性として、(A)3dB帯域、(B)帯域内偏差などの仕様項目があり、後段回路の特性に依存する。なお、キャリア上に受光素子を搭載し、基台部に前置増幅回路を搭載した構成の場合には、両者の接続に起因して発生する寄生インダクタンスと他の寄生容量との関係により、上記(A)や上記(B)の特性が大きく左右される場合がある。
【0013】
図7は、図6に示す従来技術に係る光受信モジュールの周波数に対するS21特性を示す図である。図7に示す通り、25GHz付近にLC共振の共振点があるため、例えば、伝送速度が40Gbps以上となる高速の伝送速度で信号を伝送する高速・広帯域の光受信器用の光受信モジュールとして用いることが出来ない。よって、このLC共振の共振周波数をさらに高くすることが必要である。
【0014】
従来技術において、例えば、特許文献1に、同一キャリア上に受光素子と前置増幅回路を搭載することで寄生インダクタを小さくする技術が記載されている。一方、特許文献2及び特許文献3に、受光素子をキャリア側に、前置増幅回路を基台部側に搭載する構成について記載がされている。さらに、特許文献3に、キャリアもしくは基台部上にインダクタを設けて寄生インダクタンスを小さくする技術が記載されている。
【0015】
しかし、特許文献1に記載の構造では、受光素子のチップ単体での評価は困難であり、不適当である。また、特許文献1に記載された技術では、受光素子と増幅回路をキャリア上に設けて両者間の接続用導線を短くすることにより寄生インダクタンスを小さくすることで、これらの特性改善を図っている。しかし、寄生インダクタンスの低減には限界があり、ゼロにはならない。また、特許文献1には、このインダクタンスと容量とでLC共振を起こすことにより、特性に影響を及ぼす周波数帯にS21特性のピーキングあるいはディップが生じた場合についての対策は述べられていない。
【0016】
特許文献2に記載の構成では、キャリアには受光素子以外の能動素子は搭載されていない。このため、受光素子の特性検査は可能である。しかし、受光素子と前置増幅回路との間の接続用導線長が長くなり、寄生インダクタンスが増加してしまう。
【0017】
特許文献3に記載された技術では、キャリア上、基台部上、前置増幅回路内のいずれかにおいて、受光素子のアノード側またはカソード側の少なくともいずれか一方に、抵抗、若しくは、抵抗成分とリアクタンス成分とを有するインピーダンスを、接続することとしている。また、受光素子用バイアス電源のバイパスコンデンサを直接、もしくは直列抵抗やインピーダンスを介してグランド側に接続することにより、受光素子と前置増幅回路とをキャリア上に設けず寄生素子の低減化がされない光受信モジュールにおいても、ピーキングやディップを有さず、かつ、必要十分な帯域の周波数特性が得られる。
【0018】
しかし、光受信モジュールを伝送速度が40Gbps以上の高速な伝送速度で動作させる場合、特許文献3に記載の技術だけでは寄生インダクタンスの低減が不十分である。よって、インダクタンスと容量とで起きるLC共振により特性に影響を及ぼす周波数帯にS21特性のピーキングあるいはディップが生じてしまうので、必要とされる周波数応答特性を満足することは到底できない。さらに、特許文献3には、キャリア上に形成される信号伝送線路と基板上の前置増幅回路との特性インピーダンスの整合について言及されておらず、インピーダンスの不整合による周波数応答特性の劣化も起こりうる。
【0019】
本発明は、このような課題を鑑みて、組立て作業性を損なうことなく、周波数特性を向上させ得る光受信モジュールの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(1)本発明に係る光受信モジュールは、入力される光信号を電気信号に変換する受光素子と、下段面と立ち上がり面と上段面とがこの順に連なる階段状の部分を有する基台部と、前記立ち上がり面に沿って配置される背面と、前記背面の反対側に位置する前面と、前記背面及び前記前面のそれぞれ下縁の間に延びるとともに、前記下段面に沿って配置される底面と、前記底面の反対側に位置し、前記背面及び前記前面のそれぞれ上縁の間に延びる上面とを有するキャリアと、前記上段面に配置され、前記電気信号が増幅される前置増幅回路と、を備える光受信モジュールであって、前記キャリアの前記背面及び前記前面のそれぞれの上縁の間の長さは、前記背面及び前記前面のそれぞれの下縁の間の長さよりも短く、基準電圧用膜状配線が、前記前面と前記上面のそれぞれ一部とに渡って設けられ、さらに、信号電圧用膜状配線が、前記受光素子の信号電圧用端子から延び、前記前面と前記上面のそれぞれ一部とに渡って設けられ、前記基準電圧用膜状配線及び前記信号電圧用膜状配線のうち、それぞれ前記上面の一部に位置する部分と、前記前置増幅回路に設けられる基準電圧用端子及び信号電圧用端子とが、それぞれ電気的に接続される、ことを特徴とする。
【0021】
(2)上記(1)に記載の光受信モジュールであって、前記背面及び前記前面のそれぞれの上縁の間の前記長さが、周波数応答特性によって決定され、さらに、前記上面において、前記背面及び前記前面の上縁方向について、前記信号電圧用膜状配線の長さ、及び、前記基準電圧用膜状配線と前記信号電圧用膜状配線の間隔が、前記前置増幅回路のインピーダンスに整合して決定されていてもよい。
【0022】
(3)上記(1)または(2)に記載の光受信モジュールであって、前記基準電圧用膜状配線は、前記基準電圧用膜状配線のうち前記前面に位置する部分に対して、前記信号電圧用膜状配線は、前記上面を前記信号電圧用膜状配線側に延びる延長部を有していてもよい。
【0023】
(4)上記(3)に記載の光受信モジュールであって、前記基準電圧用膜状配線及び前記信号電圧用膜状配線は、切削により電気的に絶縁されていてもよい。
【0024】
(5)本発明に係る光受信器は、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光受信モジュールを備えていてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、組立て作業性を損なうことなく、周波数特性を向上させ得る光受信モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る光受信モジュールの全体斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光受信モジュールの構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る光受信モジュール主要部の斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係る光受信モジュールの周波数に対するS21特性を示す図である。
【図5】コプレーナ伝送線路における信号線幅と、信号線と接地電極間の幅とに対する特性インピーダンスを示す等高線図である。
【図6】従来技術に係る光受信モジュール主要部の斜視図である。
【図7】従来技術に係る光受信モジュールの周波数に対するS21特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態に係る光受信モジュール100は、たとえば、伝送速度が43Gbpsといった高速で信号を伝送する高速・広帯域の光受信器に備えられる。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る光受信モジュール100の全体斜視図である。図1に示す通り、光受信モジュール100の基台部7の上に、受光素子1を配置されたキャリア2、前置増幅回路10、レンズなどの光学系部品25、受光素子バイアス回路20(図示せず)、受光素子バイアス電源21、中継線路22などが備えられている。また、光受信モジュール100の入力側に、光ファイバが接続され、図の矢印のように光入力30がなされる。光受信モジュール100の出力側には、AGC増幅回路などがさらに接続され、その後、増幅されたアナログ信号がデジタル信号に変換などされる。
【0029】
図2は、本発明の実施形態に係る光受信モジュール100の構成を示す模式図である。受光素子1は、例えば、APDなどであり、入力された光信号がアナログ電気信号として受光素子1において検出される。受光素子1は、受光素子バイアス回路20を介して、受光素子バイアス電源21に接続されている。受光素子1で生じたアナログ電気信号は、前置増幅回路10で増幅され、中継線路22を介して、出力される。
【0030】
図3は、本発明の実施形態に係る光受信モジュール100主要部の斜視図である。図3は、図1に示す破線IIIで囲まれた箇所を拡大したものである。図1に示す通り、基台部7には、階段状の部分を有している。当該階段状の部分は、下段面7Aと立ち上がり面7Bと上段面7Cによって構成されている。基台部7は、金属などの導電性の物質により形成される。
【0031】
受光素子1が配置されるキャリア2は、例えば、InPなどにより形成され、図3に示す通り、側面が台形の形状をした柱状の形状をしている。当該台形は、上辺より下辺が長くなっており、一方の側辺は、上辺及び下辺それぞれと直角に接している。すなわち、当該台形は、言わば、長方形を上辺から下辺にかけて、斜めに切り取った形状をしている。
【0032】
キャリア2の2枚の台形以外の面である上面,下面,前面及び背面は、図中左右方向に伸びる同じ延伸長を有するそれぞれ長方形の形状をしている。背面は、上面及び下面とそれぞれ直角に接しており、前面は、上面及び下面に対して、斜面となっている。すなわち、上面の幅(上記台形の上辺)より、下面の幅(上記台形の下辺)が長くなるようになっている。
【0033】
キャリア2は、下面を基台部7の下段面7Aに、背面を基台部7の立ち上がり面7Bに接するように配置されている。キャリア2の上面は、基台部7の上段面7Cよりも高くなっている。
【0034】
キャリア2の上面は、金属膜に覆われており、この金属膜は、3か所において電気的に絶縁されており、延伸長方向に、図中左から順に、上面左基準電圧用膜状配線4A、上面信号電圧用膜状配線8A、上面バイアス電圧用膜状配線9A、上面右基準電圧用膜状配線3Aとなっている。
【0035】
キャリア2の前面には、延伸長の方向に対して、その両端部が金属膜に覆われており、前面左基準電圧用パターン4B、前面右基準電圧用パターン3Bが、それぞれ形成されている。上面左基準電圧用膜状配線4A及び前面左基準電圧用パターン4Bとで、左基準電圧用膜状配線4を構成しており、同様に、上面右基準電圧用膜状配線3A及び前面右基準電圧用パターン3Bとで、右基準電圧用膜状配線3を構成している。
【0036】
ここで、基台部7が基準電圧となっており、左基準電圧用膜状配線4及び右基準電圧用膜状配線3は、それぞれ、基台部7に電気的に接続されている。基台部7が接地される場合、基準電圧は0Vとなる。また、上面左基準電圧用膜状配線4Aは、上面左配線延長部4C及び上面左配線接続部4Dとによって構成される。上面左配線接続部4Dは、前面左基準電圧用パターン4Bと電気的に接続されるとともに、基台部7の上段面7Cに設けられた基準電圧電極6と、パターン接続用ワイヤ14を介して電気的に接続される。また、キャリア2の上面のうち、上面左配線延長部4Cが接する、前面の部分には、前面左基準電圧用パターン4Bはない。それゆえ、左基準電圧用膜状配線4は、上面左配線延長部4Cによって、上面電圧用膜状配線8Aに対して、延伸長方向へ延伸していることになる。上面左配線延長部4Cによって、受光素子1を前面に配置する場所を確保できる。よって、当該受光素子1がキャリア2に対して比較的大きなサイズとなっている場合であっても、受光素子1をキャリア2に装着することができる。また、キャリア2の小型化にも対応できる。
【0037】
キャリア2の前面の図中真ん中付近において、受光素子1と電気的に接続されるために、カソード電極パターン8Bとアノード電極パターン9Bが前面に形成される。カソード電極パターン8Bは、上面側端から中央部に向けて、幅を狭くなっている。また、アノード電極パターン9Bは、延伸長方向に対して、上面バイアス電圧用膜状配線9Aと接して延伸している。アノード電極パターン9Bは、カソード電極パターン8B側の端部より、中央部に向けて、さらに延伸している。そして、カソード電極パターン8B及びアノード電極パターン9Bそれぞれの先端部において、受光素子1のカソード電極とアノード電極に接続するように、受光素子1がキャリア2の前面に配置される。
【0038】
さらに、上面信号電圧用膜状配線8A及びカソード電極パターン8Bとで、信号電圧用膜状配線8は構成されており、同様に、上面バイアス電圧用膜状配線9A及びアノード電極パターン9Bとで、バイアス電圧用膜状配線9は構成されている。信号電圧用膜状配線8は、受光素子1と前置増幅回路10とを電気的に接続している。バイアス電圧用膜状配線9は、受光素子1と受光素子バイアス電源21とを電気的に接続している。
【0039】
基台部7の上段面7Cには、立ち上り面7B側の端の近くに、図中右側から、バイアス電源電極5と、前置増幅回路10と、上述の基準電圧電極6が、配置される。前置増幅回路10には、基準電圧用端子12と信号電圧用端子11が設けられている。上述の上面左配線延長部4Cは、基準電圧用端子12の近傍まで延伸しており、上面左配線延長部4Cの先端部と基準電圧用端子12は、パターン接続用ワイヤ15で電気的に接続されている。また、信号電圧用端子11の近傍に、上面信号電圧用膜状配線8Aが位置しており、パターン接続用ワイヤ16で電気的に接続されている。
【0040】
前置増幅回路10の横には、バイアス電源電極5が配置され、上面バイアス電圧用膜状配線9Aの上面右基準電圧用膜状配線3A側の端部と、バイアス電源電極5は、パターン接続用ワイヤ17で電気的に接続されている。上述した通り、キャリア2の上面は、基台部7の上段面7Cよりも高くなっているが、これは、前置増幅回路10やバイアス電源電極5の厚みが考慮されており、上面信号電圧用膜状配線8Aと信号電極用端子11の距離、上面信号電圧用膜状配線8Aの距離、及び、上面バイアス電圧用膜状配線9Aとバイアス電源電極5の距離とが、それぞれ短くなっている。
【0041】
以上が、本発明に係る光受信モジュール100主要部の構成である。
【0042】
前述の通り、受光素子1と前置増幅回路10とを接続する信号電圧用膜状配線8及び左基準電圧用膜状配線4などにより、寄生インダクタンスが発生している。従来技術におけるキャリア2においては、直方体形状により、受光素子1と前置増幅回路10との接続配線長が長くなり寄生インダクタンスの軽減が図れなかったところ、本発明の実施形態に係るキャリア2は、上面の幅が下面の幅が短くなっているので、受光素子1と前置増幅回路10との接続配線長を短くすることが出来、寄生インピーダンスの軽減が実現している。加えて、上面の幅に比べて、下面の幅が長くとることが出来るので、キャリア2自体の筐体としての強度や安定度も確保される。また、下面の幅が上面の幅に比して長くなっていることにより、受光素子1が配置される前面は、基台部7の下段面7Aなどに対して斜面となっている。すなわち、受光素子1の受光面が、入力される光の光軸に対して、垂直とはならなくなるので、入力された光が受光素子1の受光面で反射し、再び、入力側に配置された光ファイバへ反射されていくことが抑制されている。
【0043】
さらに、所望の周波数に対して、軽減すべき寄生インピーダンスを求めることにより、上面の幅の長さが決定される。本実施形態に係る受光素子1及びキャリア2であって、キャリア2の上面の幅、すなわち、接続配線長Lを変化したときに、周波数応答特性のひとつであるS21特性がどうなるかについて、計算機シミュレーションを行うことにより、得ることが出来る。
【0044】
図4は、本発明の実施形態に係る光受信モジュール100において、キャリア2の上面の幅、すなわち、接続配線長Lが異なるときの、周波数に対するS21特性を示す図である。4本の曲線は、キャリア2の上面の幅、すなわち、接続配線長をLとすると、図に示す4本の曲線は、Lが、それぞれ、0.1mm,0.15mm,0.2mm,0.3mmの場合について示している。
【0045】
本発明の実施形態に係る光受信モジュール100においては、図7に示す従来技術に係る光受信モジュールのS特性と異なり、S21特性がより高い周波数まで、安定的な特性を維持している。
【0046】
ここで、Lが0.3mmのとき、信号線路の長さLから起因するインダクタンス成分の増加により、Lが0.1mmや0.2mmよりも低い周波数である32GHz付近に、S21特性のピーキングを有するとともに、3dB帯域幅は約40GHz程度になっている。40Gbps以上の伝送速度で信号を伝送する高速・広帯域の光受信器用の光受信モジュールの周波数特性としては、少なくともLを0.3mm以下にするのが望ましい。
【0047】
さらに、上面信号電圧用膜状配線8Aは、両側に位置する上面左基準電圧用膜状配線4A及び上面右基準電圧用膜状配線3Aと、キャリア2の上面上に形成されており、高周波伝送線路のひとつであるコプレーナ伝送線路に近似される構造となっている。このように、高周波伝送線路の観点から、後段にある前置増幅回路10とのインピーダンス整合をとるように、キャリア2を設計することが可能である。
【0048】
すなわち、本発明の実施形態に係るキャリア2の上面に形成される上面信号電圧用膜状配線8A及び上面左基準電圧用膜状配線4Aなどにより近似されるコプレーナ伝送線路より、後段にある前置増幅回路10とのインピーダンス整合がされた、上面信号電圧用膜状配線8Aの延伸長方向の長さD1、及び、上面信号電圧用膜状配線8Aと上面左基準電圧用膜状配線4Aとの幅D2を求めることが出来る。
【0049】
図5は、コプレーナ伝送線路における信号線幅D1と、信号線と接地電極間の幅D2とに対する特性インピーダンスを示す等高線図である。図5に斜線で示される領域に中央に示される曲線は、特性インピーダンスが50Ωとなる等高線であり、図中左上に進むに従って、順に5Ωずつ特性インピーダンスが高くなる等高線となっている。すなわち、図5に斜線で示される領域は、特性インピーダンスが50±5Ωとなる領域である。
【0050】
よって、後段にある前置増幅回路10のインピーダンスが50Ωである場合、この斜線で示される領域に、この斜線で示される領域に含まれる信号伝送線路幅D1と、信号伝送線路と接地電極間の幅D2との値を選択し、そのD1の値に、上面信号電圧用膜状配線8Aの延伸方向の長さとなるよう、そして、そのD2の値に、上面信号電圧用膜状配線8Aと上面左基準電圧用膜状配線4Aの幅がなるように、キャリア2が形成されればよい。
【0051】
図5に示す通り、例えば、D1が0.2mmと、D2が0.08mmとなるように、D1及びD2の値を選択すればよい。このような長さに、D1及びD2がなるようにするのは、まず、キャリア2の上面全体に金属膜を形成した後に、ダイシング(切削)により、各膜状配線間を電気的に切断し、また、膜状配線の延伸方向の長さが所望の長さになるように、形成するのが望ましい。
【0052】
このように、寄生素子を含む受光素子を用いても、より高速の伝送速度に対して十分な応答特性を有し、かつ、後段の前置増幅回路とのインピーダンス整合が実現される光受信モジュールの提供にある。
【0053】
本実施形態において、受光素子と前置増幅回路とを接続する配線を、コプレーナ伝送線路に近似して、後段の前置増幅回路とインピーダンス整合するように設計することを説明したが、これは一例に過ぎず、このように、高周波伝送線路の観点から、より高速の伝送速度に対して十分な応答特性を有し、かつ、後段の前置増幅回路とのインピーダンス整合がなされるように設計するとよい。高周波伝送線路としては、コプレーナ伝送線路の他には、例えば、ストリップ伝送線路などがある。
【0054】
本実施形態において、伝送速度が43Gbpsといった40Gbs帯の伝送速度で信号を伝送する光受信器に備えられる光受信モジュールについて説明したが、伝送速度が40Gbps帯に限定するものでないのは言うまでもない。また、伝送符号形式がいずれかに限定されるものでもない。特許技術文献3に記載されているように、キャリア上に抵抗やインピーダンスを、さらに接続してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 受光素子、2 キャリア、3 右基準電圧用膜状配線、4 左基準電圧用膜状配線、5 バイアス電源電極、6 基準電圧電極、7 基台部、8 信号電圧用膜状配線、9 バイアス電圧用膜状配線、10 前置増幅回路、11 信号電圧用端子、12 基準電圧用端子、14,15,16,17 パターン接続用ワイヤ、20 受光素子バイアス回路、21 受光素子バイアス電源、22 中継線路、25 光学系部品、30 光入力、100 光受信モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される光信号を電気信号に変換する受光素子と、
下段面と立ち上がり面と上段面とがこの順に連なる階段状の部分を有する基台部と、
前記立ち上がり面に沿って配置される背面と、前記背面の反対側に位置する前面と、前記背面及び前記前面のそれぞれ下縁の間に延びるとともに、前記下段面に沿って配置される底面と、前記底面の反対側に位置し、前記背面及び前記前面のそれぞれ上縁の間に延びる上面とを有するキャリアと、
前記上段面に配置され、前記電気信号が増幅される前置増幅回路と、
を備える光受信モジュールであって、
前記キャリアの前記背面及び前記前面のそれぞれの上縁の間の長さは、前記背面及び前記前面のそれぞれの下縁の間の長さよりも短く、
基準電圧用膜状配線が、前記前面と前記上面のそれぞれ一部とに渡って設けられ、
さらに、信号電圧用膜状配線が、前記受光素子の信号電圧用端子から延び、前記前面と前記上面のそれぞれ一部とに渡って設けられ、
前記基準電圧用膜状配線及び前記信号電圧用膜状配線のうち、それぞれ前記上面の一部に位置する部分と、前記前置増幅回路に設けられる基準電圧用端子及び信号電圧用端子とが、それぞれ電気的に接続される、
ことを特徴とする光受信モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の光受信モジュールであって、
前記背面及び前記前面のそれぞれの上縁の間の前記長さが、周波数応答特性によって決定され、
さらに、前記上面において、前記背面及び前記前面の上縁方向について、前記信号電圧用膜状配線の長さ、及び、前記基準電圧用膜状配線と前記信号電圧用膜状配線の間隔が、前記前置増幅回路のインピーダンスに整合して決定される、
ことを特徴とする光受信モジュール。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光受信モジュールであって、
前記基準電圧用膜状配線は、前記基準電圧用膜状配線のうち前記前面に位置する部分に対して、前記信号電圧用膜状配線は、前記上面を前記信号電圧用膜状配線側に延びる延長部を有する、
ことを特徴とする光受信モジュール。
【請求項4】
請求項3に記載の光受信モジュールであって、
前記基準電圧用膜状配線及び前記信号電圧用膜状配線は、切削により電気的に絶縁される、
ことを特徴とする光受信モジュール。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の光受信モジュールを備える光受信器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−54667(P2011−54667A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200507(P2009−200507)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】