説明

光学シートの製造方法

【課題】 本発明は、低位相差の光学シートを製造することができる光学シートの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の光学シートの製造方法は、粘度平均分子量が13000〜18000であるポリカーボネート樹脂を押出して溶融状態のポリカーボネート樹脂シートAを60〜130℃に維持された成形ロール2と10〜80℃に維持された冷却ロール3との間に送り込んで冷却処理を行った後、ポリカーボネート樹脂シートAを成形ロール2上に載せた状態で搬送した後、ポリカーボネート樹脂シートをアニーリングロール5に供給してアニーリング処理を施す光学シートの製造方法であって、成形ロール2とアニーリングロール5との間にテンション測定ロール6を介在させて成形ロール2とテンション測定ロール6との間においてポリカーボネート樹脂シートAに加わる張力を20〜90N/mに調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散フィルムや偏光板フィルムなどに用いることができる光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置はバックライトから液晶パネルに光を照射しているが、液晶表示装置では、バックライトからの光の取り出し効率を向上させるため、通常、バックライトと液晶表示パネルの間に種々の光学フィルムが配置されている。このようなフィルムとして、例えば、特許文献1に開示された増進型反射偏光子が知られている。
【0003】
このような光学素子に更に光学特性を付与するために、光学素子に種々の光学シートを貼付する方法がある。例えば、光学素子の耐擦傷性を向上させ且つ光拡散特性を付与させる方法として、表面にエンボス形状を有する光学シートを光学素子に貼付する方法がある。
【0004】
このような光学素子に貼付させる光学シートには、低位相差(低複屈折)であることが要求され、光学シートの製造方法として溶融押出成形法が従来から用いられている。
【0005】
しかしながら、溶融押出成形法を用いて光学シートを製造する場合、ロールによる圧縮、引取り張力による延伸、ロールによる冷却又は加熱によって光学シートの収縮又は膨張に起因した歪みが生じるため、得られる光学シートは位相差が高いといった問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平9−506984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低位相差の光学シートを製造することができる光学シートの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学シートの製造方法は、粘度平均分子量が13000〜18000であるポリカーボネート樹脂を押出機に供給して溶融混練し押出して溶融状態のポリカーボネート樹脂シートを60〜130℃に維持された成形ロールと10〜80℃に維持された冷却ロールとの間に送り込んでこれらの両ロールにより挟圧しながら冷却処理を行った後、上記ポリカーボネート樹脂シートを上記成形ロール上に載せた状態で搬送し、上記ポリカーボネート樹脂シートをアニーリングロールに供給してアニーリング処理を施す光学シートの製造方法であって、上記成形ロールと上記アニーリングロールとの間にテンション測定ロールを介在させて、上記成形ロールと上記テンション測定ロールとの間において、上記ポリカーボネート樹脂シートに加わる張力を20〜90N/mに調整することを特徴とする。
【0009】
又、上記光学シートの製造方法において、成形ロールにおけるポリカーボネート樹脂シートの搬送方向側にガイドロールを配設し、冷却ロールと上記ガイドロールとの間に無端ベルトを掛け渡し、この無端ベルトと上記成形ロールとの対向面によって上記ポリカーボネート樹脂シートを挟圧していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学シートの製造方法によれば、上述のように、所定温度に調整された成形ロールと冷却ロールによって冷却処理を行った後に、成形ロールからアニーリングロールにポリカーボネート樹脂シートを送り出すにあたって、成形ロールとアニーリングロールとの間にテンション測定ロールを介在させ、成形ロールとテンション測定ロールとの間にあるポリカーボネート樹脂シートにおける搬送方向の張力を20〜90N/mに調整しており、ポリカーボネート樹脂シートを成形ロールに巻き付つかせないようにしながら位相差が生じるのを概ね防止しており、よって、得られる光学シートは低位相差であり、液晶表示装置などの様々な光学用途に好適に用いることができる。
【0011】
上記光学シートの製造方法において、成形ロールにおけるポリカーボネート樹脂シートの搬送方向側にガイドロールを配設し、冷却ロールと上記ガイドロールとの間に無端ベルトを掛け渡し、この無端ベルトと上記成形ロールとの対向面によって上記ポリカーボネート樹脂シートを挟圧している場合には、ポリカーボネート樹脂シートを成形シートの周面に確実に圧着させて冷却処理を確実に行うことができ、位相差の更に小さい光学シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】光学シートを製造する装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光学シートの製造方法を図面を参照しつつ説明する。図1は、光学シートを製造する装置の概略図であって、押出機のTダイ1の下方に、周面にエンボス加工による市松模様状や連続山形形状などの微細な不規則に形成された凹凸からなるエンボス(図示せず)を刻設している成形ロール2とこの成形ロール2の前側周面に後側周面を当接させている冷却ロール3とを配設してあり、これらの成形ロール2と冷却ロール3との接触面の垂直上方に上記Tダイ1を配設してその下向きに開口している押出口1aをこれらのロール2、3間に臨ませている。なお、成形ロール2の表面にエンボスが刻設されていなくてもよい。
【0014】
更に、冷却ロール3のポリカーボネート樹脂シートAの搬送方向側、即ち、成形ロール2の下方にはガイドロール4が配設されており、このガイドロール4と冷却ロール3との間には無端ベルトBが掛け渡されており、冷却ロール3とガイドロール4とがポリカーボネート樹脂シートAの搬送方向に回転することによって無端ベルトBがその一部を成形ロール2の周面に圧接させながら成形ロール2の周速度と同一搬送速度にて搬送されるように構成されている。
【0015】
又、成形ロール2の後方にはアニーリングロール5が所定間隔を存して配設されており、アニーリングロール5と成形ロール2との間にはテンション測定ロール6が配設されている。なお、成形ロール2、冷却ロール3及びガイドロール4は、ポリカーボネート樹脂シートの位相差を低減し且つ光学シートの表面平滑性を向上させるために、ポリカーボネート樹脂シートの搬送方向に同一周速度で回転させることが好ましい。
【0016】
テンション測定ロール6の軸受けにはテンション測定ロール6に加わる荷重を測定できる汎用の測定装置が接続されており、この測定装置で測定された荷重に基づいて、成形ロール2とテンション測定ロール6との間におけるポリカーボネート樹脂シートに加わる該ポリカーボネート樹脂シートの搬送方向における張力をテンション測定ロール6に接しているポリカーボネート樹脂シートの角度から計算することができるように構成されている。
【0017】
上記光学シートの製造装置を用いて光学シートを製造する要領について説明する。先ず、粘度平均分子量が13000〜18000であるポリカーボネート樹脂を押出機に供給して溶融混練し、押出機の先端に取り付けたTダイ1の押出口1aからポリカーボネート樹脂シートを押出して溶融状態のポリカーボネート樹脂シートAを60〜130℃に維持された成形ロール2と、10〜80℃に維持された冷却ロール3との間に送り込んで両ロール2、3によって挟圧しながら冷却処理を行う。なお、冷却処理と同時に、ポリカーボネート樹脂シートAの表面に成形ロール2の表面に形成したエンボスを転写してもよい。
【0018】
ポリカーボネート樹脂シートを構成しているポリカーボネート樹脂シートの粘度平均分子量は、通常の押出成形用のポリカーボネート樹脂シートの粘度平均分子量よりも低いものを用いており、このようにポリカーボネート樹脂シートの粘度平均分子量を低くすることによって溶融粘度を低く抑えている。このようにポリカーボネート樹脂の溶融粘度を抑えていることによって、光学シートの製造工程中にポリカーボネート樹脂シートが延伸されるのを概ね防止しており、ポリカーボネート樹脂シートに位相差が生じるのを抑制している。
【0019】
具体的には、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、低いと、成形が困難となり、高いと、光学シートの製造工程中にポリカーボネート樹脂シートが延伸され、得られる光学シートに大きな位相差を生じるので、13000〜18000に限定される。なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用いて塩化メチレン溶液中、20℃の極限粘度[η]を測定し以下の式より求めた値をいう。
ηsp/C=[η]×(1+0.28ηsp
[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83
(式中、ηspは、ポリカーボネート樹脂を溶解させた塩化メチレン溶液中で20℃にて測定したポリカーボネート樹脂の比粘度であり、Cは、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解させてなる塩化メチレン溶液中におけるポリカーボネート樹脂の濃度である。具体的には、ポリカーボネート樹脂の濃度Cが0.6g/デシリットルである塩化メチレン溶液を用いる。
【0020】
又、成形ロール2の温度は、低いと、ポリカーボネート樹脂シートに熱収縮が生じて得られる光学シートに大きな位相差が生じ、高いと、ポリカーボネート樹脂が固化しにくく成形ロールに巻きつくので、60〜130℃に限定される。
【0021】
更に、冷却ロール3の温度は、低いと、ポリカーボネート樹脂シートに熱収縮が生じて得られる光学シートに大きな位相差が生じ、高いと、ポリカーボネート樹脂が軟化して成形ロールに巻きつくので、10〜80℃に限定される。
【0022】
成形ロール2と冷却ロール3との間に送り込まれたポリカーボネート樹脂シートAは、成形ロール2と冷却ロール3とによって挟圧されて冷却処理が施された後も引き続き、成形ロール2と冷却ロール3との間から下方に離脱させることなく、冷却ロール3とガイドロール4との間に掛け渡された無端ベルトBと、成形ロール2との対向面によって挟持されながら成形ロール2の下側周面上に載せられた状態で搬送される。
【0023】
このように、ポリカーボネート樹脂シートAは、無端ベルトBによって成形ロール2の周面に圧着された状態を確実に維持し、ポリカーボネート樹脂シートAは成形ロール2によって延伸されることなく所定温度に確実に冷却される。
【0024】
次に、ポリカーボネート樹脂シートAは成形ロール2からアニーリングロール5にテンション測定ロール6を介して送り出される。ポリカーボネート樹脂シートAは、成形ロール2とテンション測定ロール6との間における搬送方向の張力が20〜90N/mとなるように調整されている。このポリカーボネート樹脂シートAの搬送方向における張力の調整は、例えば、(1)成形ロール2とテンション測定ロール6の周速度を調整する方法、(2)成形ロール2とアニーリングロール5の周速度を調整する方法が挙げられる。上記(1)の方法においては、ポリカーボネート樹脂シートAの搬送方向における成形ロール2の周速度よりも、ポリカーボネート樹脂シートAの搬送方向におけるテンション測定ロール6の周速度を大きくすればするほどポリカーボネート樹脂シートAの搬送方法における張力は大きくなる。又、上記(2)の方法においては、ポリカーボネート樹脂シートAの搬送方向における成形ロール2の周速度よりも、ポリカーボネート樹脂シートAの搬送方向におけるアニーリングロール5の周速度を大きくすればするほどポリカーボネート樹脂シートAの搬送方法における張力は大きくなる。
【0025】
成形ロール2とテンション測定ロール6との間において、ポリカーボネート樹脂シートAにおける搬送方向(長さ方向)の張力は、小さいと、ポリカーボネート樹脂シートAが成形ロール2から円滑に剥離されずに成形ロールに巻き付いてしまい、光学シートの表面平滑性が低下する虞れがあり、大きいと、ポリカーボネート樹脂シートがその長さ方向に延伸されて光学的異方性が高くなって位相差が大きくなるので、20〜90N/mに限定され、30〜80N/mが好ましい。
【0026】
上述のように、ポリカーボネート樹脂シートAは、成形ロール2からテンション測定ロール6に供給されてテンション測定ロール6の上側周面に載せられながら搬送された後、ポリカーボネート樹脂シートAはテンション測定ロール6からアニーリングロール5に供給されてアニーリングロール5の下側周面に載せられてアニーリング処理が施されて光学シートCを製造することができ、この光学シートCは図示しない巻取りロールに連続的に巻き取られる。
【0027】
このように、ポリカーボネート樹脂シートAは、所定温度に維持された成形ロール2と冷却ロール3とによって挟圧されながら冷却処理が施された後、成形ロールからアニーリングロール5に送り出されるにあたって、成形ロール2とテンション測定ロール6との間のポリカーボネート樹脂シートAにおける搬送方向における張力が調整されており、よって、ポリカーボネート樹脂シートAに過度な冷却による熱収縮や延伸に起因した位相差が生じることは殆どなく、低位相差の光学シートを得ることができる。
【実施例】
【0028】
(実施例1〜4、比較例1〜3)
図1に示した製造装置を用いた。押出機のTダイ1はその押出口1aの寸法が850mmであった。成形ロール2はその直径が250mmで且つ表面にエンボスが刻設されていた。冷却ロール3、ガイドロール4、アニーリングロール5及びテンション測定ロール6は全てそれらの直径が250mmであった。成形ロール2、冷却ロール3及びアニーリングロール5は、ポリカーボネート樹脂シートAの搬送方向に表1に示した周速度で図示しない駆動装置によって回転していた。ガイドロール4は、無端ベルトBとの間の摩擦力によって冷却ロール3と同一の周速度で回転していた。テンション測定ロール6は、ポリカーボネート樹脂シートAとの摩擦力によって回転していた。成形ロール2、冷却ロール3、ガイドロール4、テンション測定ロール6及びアニーリングロール5は表2に示した温度に維持されていた。
【0029】
表1に示した粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂を押出機に供給して260℃にて溶融混練してTダイ1の押出口1aから吐出量95kg/時間にてポリカーボネート樹脂シートAを押出し、溶融状態のポリカーボネート樹脂シートAを成形ロール2と冷却ロール3との間に送り込んで成形ロール2と冷却ロール3によって挟圧して、ポリカーボネート樹脂シートAに冷却処理を施すと共に、ポリカーボネート樹脂シートAの表面にエンボスを形成した。
【0030】
そして、ポリカーボネート樹脂シートAを成形ロール2と冷却ロール3との間から下方に離脱させることなく、冷却ロール3とガイドロール4との間に掛け渡された無端ベルトBと、成形ロール2とによってポリカーボネート樹脂シートAを連続的に挟圧した状態で、ポリカーボネート樹脂シートAを成形ロール2の下側周面に載せた状態で搬送し、成形ロール2からテンション測定ロール6に送り出した。
【0031】
ポリカーボネート樹脂シートAをテンション測定ロール6に供給してポリカーボネート樹脂シートAをテンション測定ロール6の上側周面上に載せた状態で搬送し、次に、ポリカーボネート樹脂シートAをテンション測定ロール6からアニーリングロール5に送り出し、アニーリングロール5の下側周面上に載せた状態で搬送してアニーリングロール5によってポリカーボネート樹脂シートAにアニーリング処理を施して、厚みが150μmの光学シートCを製造した。なお、成形ロール2とテンション測定ロール6との間におけるポリカーボネート樹脂シートAの搬送方向(長さ方向)の張力を表2に示した。
【0032】
得られた光学シートにおける面内の位相差及びフラット性を下記の要領で測定し、その結果を表2に示した。
【0033】
(面内の位相差)
王子計測機器株式会社から商品名「KOBRA−21ADH」にて市販されている自動複屈折計を用いて光学シートの面内の位相差を測定した。
【0034】
(フラット性)
得られた光学シートから一辺が300mmの平面正方形状の試験片を切り出し、この試験片を平坦な検査台に載置し、試験片が検査台の上面に均一に接しているか否かを目視観察し、下記基準に基づいて評価した。試験片の検査台からの浮きが大きくなるほど、試験片の表面平滑性が低下している。
○・・・試験片の検査台からの浮きの最大値が1mm未満であった。
△・・・試験片の検査台からの浮きの最大値が1mm以上で且つ3mm未満であった。
×・・・試験片の検査台からの浮きの最大値が3mm以上であった。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【符号の説明】
【0037】
2 成形ロール
3 冷却ロール
4 ガイドロール
5 アニーリングロール
6 テンション測定ロール
A ポリカーボネート樹脂シート
B 無端ベルト
C 光学シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量が13000〜18000であるポリカーボネート樹脂を押出機に供給して溶融混練し押出して溶融状態のポリカーボネート樹脂シートを60〜130℃に維持された成形ロールと10〜80℃に維持された冷却ロールとの間に送り込んでこれらの両ロールにより挟圧しながら冷却処理を行った後、上記ポリカーボネート樹脂シートを上記成形ロール上に載せた状態で搬送し、上記ポリカーボネート樹脂シートをアニーリングロールに供給してアニーリング処理を施す光学シートの製造方法であって、上記成形ロールと上記アニーリングロールとの間にテンション測定ロールを介在させて、上記成形ロールと上記テンション測定ロールとの間において、上記ポリカーボネート樹脂シートに加わる張力を20〜90N/mに調整することを特徴とする光学シートの製造方法。
【請求項2】
成形ロールにおけるポリカーボネート樹脂シートの搬送方向側にガイドロールを配設し、冷却ロールと上記ガイドロールとの間に無端ベルトを掛け渡し、この無端ベルトと上記成形ロールとの対向面によって上記ポリカーボネート樹脂シートを挟圧することを特徴とする請求項1に記載の光学シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−11556(P2012−11556A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147237(P2010−147237)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】