説明

光学フィルム

【課題】耐熱性、耐湿性および光学特性に優れ、特に、近赤外線吸収層を構成する樹脂のガラス転移温度が低い場合でも耐湿性に優れた光学フィルムを提供する。
【解決手段】化合物(1)および樹脂を含有する近赤外線吸収層を有する光学フィルム。
[化1]


〜Rはイソブチル基、Xは(RSO、Rは炭素数1〜4のフルオロアルキル基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収能を有する光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと記す。)の原理は、2枚の板状ガラスの間に封入した希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン等。)に電圧を加え、そのときに生じる紫外線を発光体に当てることで可視光線を発生させるというものである。
PDPからは、可視光線と同時に、近赤外線、電磁波等も放射される。たとえば、近赤外線は、家庭用テレビ、クーラー、ビデオデッキ等の家電製品用の近赤外線リモコンを誤作動させたり、通信機器を誤作動させてPOS(販売時点情報管理)システム等のデータ転送時に悪影響を及ぼしたりする。そのため、PDPの前面(視認側)には、近赤外線等を遮断する光学フィルタの設置が必要となっている。
【0003】
光学フィルタとしては、800〜1000nmの波長の近赤外線を遮断する光学フィルムが提案されている。
光学フィルムとしては、たとえば、近赤外線を吸収する色素を透明樹脂に分散させた近赤外線吸収層を、ポリエチレンテレフタレート(PET)等からなる基材上に形成したものがある。近赤外線を吸収する色素としては、ポリメチン系色素、金属錯体系色素、スクアリウム系色素、シアニン系色素、インドアニリン系色素等の各種色素が知られている。
【0004】
ジイモニウム系色素は、代表的な近赤外線を吸収する色素の1つであり、近赤外線フィルタ、断熱フィルム、サングラス等に用いられている。
しかし、ジイモニウム系色素は、光、熱、湿気等に弱く、劣化し易いという問題を有する。ジイモニウム系色素が劣化した場合、近赤外線吸収能を低下させるだけでなく、変色を生じ、視認透過率が低下して、色目が緑みを帯びてくる等、光学フィルムの光学特性を悪化させてしまう。
【0005】
ジイモニウム系色素を透明樹脂中に配合した近赤外線吸収層を有する、耐熱性、耐湿性、光学特性に優れた光学フィルムが提案されている(特許文献1)。また、耐熱性、耐湿性、耐光性等を有するジイモニウム系色素としては、たとえば、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジアルキルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン・ビス(ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミド酸)イモニウム塩などが知られている(特許文献2)。
【0006】
しかし、本発明者の検討では、特許文献1に記載の具体的なジイモニウム系色素については耐湿性が充分ではない場合があることが明らかとなった。耐湿性が充分でない場合は、光学フィルムが変色し、光学特性が悪くなる。同様に、特許文献2記載のジイモニウム系色素は、耐熱性は良好であるものの、耐湿性は充分ではない。
本発明者は、ジイモニウム系色素の耐湿性は樹脂のガラス転移温度(Tg)に関係することを見い出した。樹脂のガラス転移温度が充分高い場合には優れた耐湿性を有するものの、樹脂のガラス転移温度が低い場合には耐湿性が不充分となる。
【0007】
透明樹脂のガラス転移温度が制限されると、たとえば、以下のよう不具合が生じる。
(i)透明樹脂のガラス転移温度が高いと近赤外線吸収層が硬くなり、光学フィルムのハンドリング性、加工性が悪くなる。
(ii)ガラス転移温度が低い樹脂、たとえば粘着剤を近赤外線吸収層に用いることができず、粘着剤層の機能を兼ね備えた近赤外線吸収層を得ることができない。
【特許文献1】特開2005−049848号公報
【特許文献2】特開2005−336150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐熱性、耐湿性および光学特性に優れ、特に、近赤外線吸収層を構成する樹脂のガラス転移温度が低い場合でも耐湿性に優れた光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光学フィルムは、下式(1)で表される化合物および樹脂を含有する近赤外線吸収層を有することを特徴とする。
【0010】
【化1】

【0011】
ただし、R〜Rは、イソブチルを表し、Xは、(RSOで表される陰イオンを表し、Rは炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。
【0012】
前記フルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。
前記近赤外線吸収層は、さらに、最大吸収波長(λmax)が800〜1100nmの範囲にある、前記式(1)で表される化合物以外の近赤外線吸収色素を含有することが好ましい。
前記式(1)で表される化合物以外の近赤外線吸収色素は、アミニウム系色素およびシアニン系色素から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素であることが好ましい。
前記樹脂のガラス転移温度(Tg)は、80℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光学フィルムは、耐熱性、耐湿性および光学特性に優れ、特に、近赤外線吸収層を構成する樹脂のガラス転移温度が低い場合でも耐湿性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0015】
<光学フィルム>
本発明の光学フィルムは、化合物(1)および樹脂を含有する近赤外線吸収層を有するフィルムである。
本発明の光学フィルムは、近赤外線吸収層のみからなるフィルムであってもよく、支持フィルム上に近赤外線吸収層が形成されたフィルムであってもよい。
【0016】
光学フィルムは、通常、PDP等の視認側に配置されるため、無彩色のものが好ましい。JIS Z 8701−1999に従い計算されたC光源基準において、無彩色に対応する色度座標は、(x、y)=(0.310、0.316)であることから、本発明の光学フィルムとしては、(x、y)=(0.310±0.100、0.316±0.100)の範囲に色度座標を有するものが好ましい。該色度座標を有する光学フィルムとするためには、色素の種類および含有量を適宜選定すればよい。
本発明の光学フィルムは、視感平均透過率が45%以上のものが好ましく、上記色度座標の規定および視感平均透過率の規定を同時に満たすものが特に好ましい。
【0017】
(近赤外線吸収層)
近赤外線吸収層は、化合物(1)および樹脂を含有する。
化合物(1)は、R〜Rがすべてイソブチル基{(CHCHCH−}であり、Xが(RSOであることを特徴とする。
【0018】
【化2】

【0019】
は、炭素数1〜4のフルオロアルキル基である。Rとしては、炭素数1〜2のフルオロアルキル基がより好ましく、炭素数1のフルオロアルキル基がさらに好ましい。炭素数が上記範囲内であると、耐熱性、耐湿性等の耐久性、および後述する有機溶剤への溶解性が良好となる。
【0020】
としては、たとえば、−CF、−C、−C、−C等のパーフルオロアルキル基、−CH、−CH、−CH等が挙げられる。
としては、耐湿性がさらに良好になることから、パーフルオロアルキル基が特に好ましく、トリフルオロメチル基が最も好ましい。
【0021】
化合物(1)の1000nm付近のモル吸光係数εは、0.8×10〜1.0×10であることが好ましい。モル吸光係数εは、以下のようにして測定される。
化合物(1)を、試料濃度が20mg/Lとなるようにクロロホルムで希釈し、試料溶液を作製する。この試料溶液の吸収スペクトルを、分光光度計を用いて、300〜1300nmの範囲で測定し、その最大吸収波長(λmax)を読み取り、該最大吸収波長(λmax)におけるモル吸光係数(ε)を下式から算出する。
ε=ε/(c・d)。
ただし、εは吸光係数であり、ε=−log(I/I)で算出され、Iは入射前の光強度であり、Iは入射後の光強度であり、εはモル吸光係数であり、cは試料濃度(mol/L)であり、dはセル長である。
【0022】
化合物(1)は、光学フィルムの加工時の劣化を抑制し、光学フィルムとした後の実用的な耐久性を付与するために、98質量%以上の純度を有することが好ましい。
化合物(1)は、光学フィルムの加工時の劣化を抑制し、光学フィルムとした後の実用的な耐久性を付与するために、210℃以上の融点を有することが好ましい。
化合物(1)は、98質量%以上の純度を有し、かつ210℃以上の融点を有することが特に好ましい。
【0023】
化合物(1)は、たとえば、以下のようにして合成できる。
p−フェニレンジアミンと1−クロロ−4−ニトロベンゼンとのウルマン反応生成物を還元することにより得られるN,N,N’,N’−テトラキス(p−アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン2質量部をN,N−ジメチルホルムアミド16質量部に溶解し、これにBrCHCH(CH12質量部を加え、130℃で10時間反応させる。反応液を冷却した後、ろ過する。ろ液にメタノール40質量部を加え、5℃以下で1時間撹拌する。生成した結晶をろ過し、メタノールで洗浄した後、乾燥する。結晶1.0質量部をN,N−ジメチルホルムアミド14質量部に加え、60℃で溶解させた後、Xに相当する酸化剤(たとえば、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸銀塩の場合、0.91質量部。)をN,N−ジメチルホルムアミド14質量部に溶解した溶液を加え、30分間反応させる。冷却後、析出した銀をろ過し、ろ液に水20質量部をゆっくり滴下し、その後15分間撹拌する。生成した結晶をろ過し、50質量部の水で洗浄し、乾燥して化合物(1)を得る。
【0024】
樹脂としては、可視光を透過できる透明樹脂または粘着剤が挙げられる。樹脂のガラス転移温度(Tg)は200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、80℃以下が特に好ましい。Tgが低い樹脂を用いる場合に、従来のジイモニウム系色素に比較して化合物(1)の特徴(耐湿性が優れていること。)が顕著となる。したがって、本発明の光学フィルムは、Tgの低い樹脂を用いる光学フィルムとして好適である。特に、低いTgを有する樹脂である粘着剤(Tgは通常0℃以下である。)にジイモニウム系色素を配合した光学フィルムにおいて、本発明の特徴が発揮される。なお、ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(JIS K−7121)から求めた温度をいう。
【0025】
透明樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。透明樹脂の市販品としては、鐘紡社製、商品名「O−PET」等のポリエステル系樹脂;JSR社製、商品名「ARTON」等のポリオレフィン系樹脂;日本ゼオン社製、商品名「ゼオネックス」等のポリシクロオレフィン系樹脂;三菱エンジニアリングプラスチック社製、商品名「ユーピロン」等のポリカーボネート系樹脂;日本触媒社製、商品名「ハルスハイブリッドIR−G204」等のポリアクリル系樹脂等が挙げられる。
粘着剤としては、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤およびブタジエン系粘着剤が挙げられる。
【0026】
近赤外線吸収層は、本発明の効果を損なわない範囲で、最大吸収波長(λmax)が800〜1100nmの範囲にある、化合物(1)以外の近赤外線吸収色素(以下、他の近赤外線吸収色素と記す。)を含有しもよい。
他の近赤外線吸収色素としては、無機系顔料、有機系顔料、有機系染料等が挙げられる。
【0027】
無機系顔料としては、コバルト系色素、鉄系色素、クロム系色素、チタン系色素、バナジウム系色素、ジルコニウム系色素、モリブデン系色素、ルテニウム系色素、白金系色素、ITO系色素、ATO系色素等が挙げられる。
有機系顔料および有機系染料としては、化合物(1)以外のジイモニウム系色素、アンスラキノン系色素、アミニウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、アズレニウム系色素、ポリメチン系色素、ナフトキノン系色素、ピリリウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、ナフトラクタム系色素、アゾ系色素、縮合アゾ系色素、インジゴ系色素、ペリノン系色素、ペリレン系色素、ジオキサジン系色素、キナクリドン系色素、イソインドリノン系色素、キノフタロン系色素、ピロール系色素、チオインジゴ系色素、金属錯体系色素、ジチオール系金属錯体系色素、インドールフェノール系色素、トリアリルメタン系色素等が挙げられる。
【0028】
他の近赤外線吸収色素は、最大吸収波長(λmax)が800〜1100nmの範囲にある色素であり、最大吸収波長(λmax)が800〜900nmの範囲にある色素が特に好ましい。該色素を配合すると、化合物(1)の最大吸収波長(λmax)が1100nm付近にあることから、幅広い領域の近赤外線を効率よく吸収でき、全色素量(化合物(1)およびそれ以外の近赤外線吸収色素の合計量)を少なくできる。そのため、コストが低減できる、色素の劣化が生じにくくなる、近赤外線吸収層を形成する際に色素を有機溶媒に充分溶解させることができる等の利点がある。
【0029】
他の近赤外線吸収色素としては、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アミニウム系色素、金属錯体系色素、ピロール系色素、アンスラキノン系色素等が好ましく、最大吸収波長(λmax)が800〜900nmの範囲にある、シアニン系色素またはフタロシアニン系色素が特に好ましい。また、アミニウム系色素は、ラジカル捕捉性化合物(クエンチャー化合物)であるため、化合物(1)、シアニン系色素等のラジカル捕捉性化合物ではない色素と組み合わせて用いることにより、ラジカル捕捉性化合物ではない色素を用いた光学フィルムの耐久性向上に有効である。したがって、他の近赤外線吸収色素としては、アミニウム系色素およびシアニン系色素から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素が好ましい。特に、化合物(1)とアミニウム系色素との組み合わせ、または化合物(1)とシアニン系色素とアミニウム系色素との組み合わせが好ましい。
【0030】
化合物(1)とシアニン系色素とアミニウム系色素とを組み合わせる場合、シアニン系色素の最大吸収波長(λmax)が800〜1100nmの範囲にあれば、アミニウム系色素の最大吸収波長(λmax)が800〜1100nmの範囲になくてもよい。
化合物(1)とシアニン系色素とアミニウム系色素とを組み合わせる場合、アミニウム系色素がクエンチャー化合物であるため、さらに近赤外線吸収層中に紫外線吸収剤を含ませたとしても紫外線吸収剤の影響による近赤外線吸収層の変色や退色等の劣化を防げるため好ましい。
【0031】
化合物(1)と他の近赤外線吸収色素との合計の配合量は、樹脂100質量部に対して、0.1〜20.0質量部が好ましく、1.0〜15.0質量部が特に好ましい。配合量を0.1質量部以上とすることで、充分な近赤外線吸収能が得られる。配合量を20.0質量部以下とすることで、色素間の相互作用が抑えられ、色素の安定性が良好となる。
【0032】
他の近赤外線吸収色素の量は、化合物(1)と他の近赤外線吸収色素との合計100質量%のうち、5〜50質量%が好ましい。他の近赤外線吸収色素の量を5質量%以上とすることで、全色素量を充分に低減できる。他の近赤外線吸収色素の量を50質量%以下とすることで、化合物(1)による効果が充分なものとなる。
【0033】
近赤外線吸収層は、最大吸収波長が300〜800nmの範囲にある色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤、又は紫外線吸収剤等が含有してもよい。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
【0034】
近赤外線吸収層は、たとえば、化合物(1)と、樹脂と、必要に応じて他の成分とを、有機溶剤に溶解させ、得られた塗工液を基材上に塗工し、乾燥させることにより形成できる。
【0035】
有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジアセトンアルコール、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロルエチレン、四塩化炭素、トリクロルエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン等の芳香族類;n−ヘキサン、シクロヘキサノリグロイン等の脂肪族炭化水素類;テトラフルオロプロピルアルコール、ペンタフルオロプロピルアルコール等のフッ素系溶剤等が挙げられる。
【0036】
塗工液の塗工は、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、コンマコーター法等のコーティング法を用いて行うことができる。
【0037】
近赤外線吸収層の厚さは、0.3〜50.0μmが好ましく、0.5〜20.0μmが特に好ましい。近赤外線吸収層の厚さを0.3μm以上とすることで、近赤外線吸収能を充分に発揮できる。近赤外線吸収層の厚さを50μm以下とすることで、成形時の有機溶媒の残留を低減できる。
【0038】
(基材)
基材として、剥離性基材を用いた場合、該剥離性基材を剥離することにより、近赤外線吸収層のみからなる光学フィルムが得られる。
基材として、透明な支持フィルム(以下、支持フィルムと記す。)を用いた場合、支持フィルムと近赤外線吸収層とが一体化されたフィルムが得られる。
【0039】
剥離性基材は、フィルム状または板状のものであればよく、特に材料に限定はない。剥離性を良好にするために、シリコーン、低表面張力の樹脂等を用いて、基材表面に離型処理を施すことが好ましい。
【0040】
支持フィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル類;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類;ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリアクリレート類:ポリカーボネート(PC)類、ポリスチレン類、トリアセテート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリウレタン類、セロファン等が挙げられ、PET、PC、PMMAが好ましい。
【0041】
支持フィルムの厚さは、作業性が良好で、ヘイズ値が低く抑えられる点から、10〜500μmが好ましい。
支持フィルム上に近赤外線吸収層を形成する前に、該支持フィルムの表面にコロナ処理または易接着処理を施すことが好ましい。
【0042】
(機能性層)
本発明の光学フィルムは、近赤外線吸収層以外の、任意の機能性層を1層以上有していてもよい。機能性層としては、例えば、紫外線による色素の劣化を防ぎ耐光性を改善するための紫外線吸収層;画像の視認性を向上させるための反射防止層;PDPなどの表示装置から発せられる電磁波を遮断するための電磁波遮蔽層;耐擦傷性機能を与えるハードコート層;自己修復性を有する層;最表面の汚れを防止するための防汚層;各層を積層させるための粘着層または接着層等が挙げられる。近赤外線吸収層は、機能性層の機能を併有していてもよい。たとえば、近赤外線吸収層は、粘着層または接着層であってもよい。また、近赤外線吸収層は、紫外線吸収機能、電磁波遮蔽機能等を有していてもよい。
【0043】
(光学部材)
光学部材は、本発明の光学フィルムを粘着剤層を介して高い剛性を有する透明基板(以下、透明基板と記す。)に貼着したものである。該粘着剤層は、近赤外線吸収層であってもよい。光学部材は、PDP等の表示装置の保護板としての機能も発揮できる。
透明基板の材料としては、ガラス、強化もしくは半強化ガラス等の無機材料、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の高分子材料等が挙げられる。
【0044】
近赤外線吸収層における粘着剤以外として用いられる粘着剤としては、市販されている粘着剤が挙げられる。具体例には、アクリル酸エステル共重合体、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、酢酸ビニル共重合体、スチレンーアクリル共重合体、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、スチレンーブタジエン共重合体系ゴム、ブチルゴム、シリコーン樹脂等が挙げられる。
粘着剤層を設ける場合、作業性の点で、その粘着面にシリコーンが塗布されたPET等の離型フィルムを貼付しておくことが好ましい。
粘着剤層には、紫外線吸収剤等の種々の機能を有する添加剤を添加してもよい。
【0045】
本発明の光学フィルムまたは光学部材は、PDP、プラズマアドレスリキッドクリスタル(PALC)ディスプレイパネル、フィールドエミッションディスプレイ(FED)パネル等の平面型表示装置;陰極管表示装置(CRT)等の表示装置用の光学フィルタとして用いることができる。
光学フィルタは、表示装置の視認側に設置すればよい。この際、光学フィルタは、表示装置から離して設置してもよく、表示装置表面に直接貼り付けてもよい。
【0046】
本発明の光学フィルムは、高度な近赤外線吸収能を有するとともに、耐湿性、耐熱性等の耐久性に優れていることから、近赤外線が発生するPDP等の光学フィルタに好適である。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
例1〜8、14、15は実施例であり、例9〜13、16は比較例である。
【0048】
近赤外線吸収色素(化合物(1)および近赤外線吸収色素)のλmaxおよびεは、下記手順で測定した。
近赤外線吸収色素を、試料濃度が20mg/Lとなるようにクロロホルムで希釈し、試料溶液を作製した。この試料溶液の吸収スペクトルを、島津製作所製UV−3100を用いて、300〜1300nmの範囲で測定し、その最大吸収波長(λmax)を読み取り、該最大吸収波長(λmax)におけるモル吸光係数(ε)を下記式から算出した。
ε=ε/(c・d)。
ただし、εは吸光係数であり、ε=−log(I/I)で算出され、Iは入射前の光強度であり、Iは入射後の光強度であり、εはモル吸光係数であり、cは試料濃度(mol/L)であり、dはセル長である。
【0049】
(例1)
透明アクリル樹脂(日本触媒社製、商品名「ハルスハイブリッドIR−G204」:ガラス転移温度89℃)を、樹脂分が15質量%になるように、メチルエチルケトン(MEK)に溶解して、主剤溶液を得た。該主剤溶液の樹脂分100質量部に対して、14.0質量部の化合物(1)(N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジイソブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン・ビス(トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸)イモニウム塩、λmax:1108nm,香F6.3×10)を主剤溶液に添加し、これらを溶解させた塗工液を得た。この塗工液をマイクログラビアにて、厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡績社製、商品名「A4100」)上に乾燥塗膜の厚さが4μmとなるようにコーティングし、120℃で5分間乾燥させて、近赤外線吸収層を形成し、光学フィルムを得た。
【0050】
(例2)
例1の主剤溶液を、透明ポリエステル樹脂(鐘紡社製、商品名「O−PET」、ガラス転移温度140℃)を、樹脂分が15質量%になるように、シクロペンタノン/トルエン(6/4容量比)混合溶媒に溶解した主剤溶液に代えた以外は、例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0051】
(例3)
例1の主剤溶液を、透明ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、商品名「PC−N1」、ガラス転移温度190℃)を、樹脂分が15質量%になるように、シクロペンタノンに溶解した主剤溶液に代えた以外は、例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0052】
(例4)
例1の透明アクリル樹脂を、透明アクリル樹脂(日本触媒社製、商品名「PDP108」、ガラス転移温度79℃)に代えた以外は、例1と同様にして光学フィルムを得た。
【0053】
(例5)
アクリル粘着剤(東洋インキ製造社製、商品名「NCK101」、ガラス転移温度−26℃)を、樹脂分が15質量%になるように、MEKに溶解して、主剤溶液を得た。該主剤溶液の樹脂分100質量部に対して、2.3質量部の、例1の化合物(1)を主剤溶液に添加し、これらを溶解させた塗工液を得た。該塗工液をアプリケータにて、厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡績社製、商品名「A4100」)上に乾燥塗膜の厚さが25μmとなるようにコーティングし、120℃で5分間乾燥させて、粘着性の近赤外線吸収層を形成し、光学フィルムを得た。該光学フィルムの近赤外線吸収層と、厚さ100μmの反射防止フィルム(日本油脂社製、商品名「リアルック 7710UV」)の反射防止層とは反対の面とを貼り合わせて、反射防止機能付き光学フィルムを得た。
【0054】
(例6)
例5の化合物(1)の量を2.3質量部から0.9質量部に変更した以外は、例5と同様にして反射防止機能付き光学フィルムを得た。
【0055】
(例7)
透明アクリル樹脂(日本触媒社製、商品名「ハルスハイブリッドIR−G207」、ガラス転移温度76℃)を、樹脂分が15質量%になるように、メチルエチルケトン(MEK)に溶解して、主剤溶液を得た。該主剤溶液の樹脂分100質量部に対して、25.0質量部の例1の化合物(1)を主剤溶液に添加し、これらを溶解させた塗工液を得た。該塗工液をマイクログラビアにて、厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡績社製、商品名「A4100」)上に乾燥塗膜の厚さが4μmとなるようにコーティングし、120℃で5分間乾燥させて、近赤外線吸収層を形成し、光学フィルムを得た。
【0056】
(例8)
例7の主剤溶液の樹脂分100質量部に対して、25.0質量部の例1の化合物(1)、2.6質量部の安定化シアニン系色素(住友精化社製、商品名「SD−AG01」、λmax=877nm、ε=3.1×10)、および2.6質量部のトリフルオロメタンスルホニルメチド酸・シアニン系色素(日本化薬社製、商品名「CY−40MCM」、λmax=820nm、ε=2.7×10)、さらに1.3質量部のN,N,N’,N’−テトラキス(p−ジイソブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン・−ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸)アミニウム塩を添加した以外は、例7と同様にして光学フィルムを得た。
【0057】
(例9)
例7の化合物(1)の代わりに、(N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジイソブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン・ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸)イモニウム塩を用いる以外は、例7と同様にして光学フィルムを得る。
【0058】
(例10)
例6の化合物(1)の代わりに、(N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジイソブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン・ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸)イモニウム塩を用いる以外は、例6と同様にして光学フィルムを得る。
【0059】
(例11)
例4の化合物(1)の代わりに、ジイモニウム系色素(N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジノルマルブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン・−ビス(トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸)イモニウム塩(λmax=1105nm、ε=6.3×10)を用いた以外は、例4と同様にして光学フィルムを得た。
【0060】
(例12)
例11のジイモニウム系色素の代わりに、例11のジイモニウム系色素の側鎖Rをシアノプロピルにかえたジイモニウム系色素(λmax=1067nm、ε=6.3×10)に代えた以外は、例11と同様にして光学フィルムを得た。
【0061】
(例13)
例4の化合物(1)を、ジイモニウム系色素(N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジノルマルブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン・−ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸)イモニウム塩、λmax=1100nm、ε=7.3×10)に代えた以外は、例4と同様にして光学フィルムを得た。
【0062】
(例14)
例8の主剤溶液に、該主剤溶液の樹脂分100質量部に対して、86.8質量部のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「チヌビン928」)をさらに添加した以外は、例8と同様にして光学フィルムを得た。
【0063】
(例15)
例14において、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジイソブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン・−ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸)アミニウム塩を添加しなかったこと以外は、例14と同様にして光学フィルムを得た。
【0064】
(例16)
例7のジイモニウム系色素の代わりに、例7のジイモニウム系色素の側鎖Rをシアノプロピルにかえたジイモニウム系色素(λmax=1067nm、ε=6.3×10)を用いた以外は、例7と同様にして光学フィルムを得た。
【0065】
例1〜16の光学フィルムの光学特性(視感平均透過率、色度、近赤外線透過率)、および耐久性(耐熱性、耐湿性)を下記方法で評価した。その結果を表1に示す。
また、表1に、例1〜16の化合物(1)または他のジイモニウム系色素の陰イオン、側鎖R(式(1)の陽イオンにおけるR〜Rに相当)、および樹脂のガラス転移温度(Tg)を併記する。
【0066】
(光学特性)
分光光度計(島津製作所社製、UV−3100)を用い、各試料から切り出した20×20mm角の試験片のスペクトルを380〜1300nmの範囲で測定した。JIS Z 8701−1999に従い、可視領域(380〜780nm)における加重平均透過率(視感平均透過率Tv)、色度座標(x、y)を算出した。
また、近赤外領域(850nm、900nm、950nm、1000nm)の透過率を測定し、室内の空気の透過率を比較対照として、近赤外線透過率を求めた。各波長における近赤外線透過率をそれぞれT850、T900、T950、T1000とした。
【0067】
(耐熱性)
定温恒温器(東京理化器械社製)を用い、温度80℃に設定し、500時間試験後の各試料のTv、x、yの各測定値について、試験前の測定値と比較した。試験前後の変化量がすべて3%未満であるものを〇、いずれか一つでも3%以上〜5%未満のものがある場合は△、いずれか一つでも5%以上のものがある場合を×とした。
【0068】
(耐湿性)
恒温恒湿試験器(東京理化器械社製、KCH−1000)を用い、温度60℃、湿度95%RHに設定し、500時間試験後の各試料のTv、x、yの各測定値について、試験前の測定値と比較した。試験前後の変化量がすべて3%未満であるものを〇、いずれか一つでも3%以上〜5%未満のものがある場合は△、いずれか一つでも5%以上のものがある場合を×とした。
【0069】
(耐光性)
耐光性試験機(スガ試験機社製、キセノンフェードメーターX−15F)を用い、380nm以上の光を200MJ/cm(132時間)照射させ、各試料のTv、x、yの各測定値について、試験前の測定値と比較した。試験前後の変化量がすべて3%未満であるものを〇、いずれか一つでも3%以上〜5%未満のものがある場合は△、いずれか一つでも5%以上のものがある場合を×とした。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すように、例1〜8、14、15の光学フィルム(実施例)は、耐熱性、耐湿性ともに良好であった。特に、ジイモニウム系色素以外の色素も配合した例7、例8の光学フィルムは、全色素量が少ないにもかかわらず、優れた光学特性を示した。
これに対し、側鎖Rとしてノルマルブチルを用いた例11、13、シアノプロピルを用いた例12、16の光学フィルムは、耐湿性が悪く、特に、例12、16は耐熱性も悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の光学フィルムは、各種表示装置用の光学フィルタとして有用であり、特にPDPの視認側に設置されて用いられる光学フィルタに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される化合物および樹脂を含有する近赤外線吸収層を有する光学フィルム。
【化1】

ただし、R〜Rは、イソブチルを表し、Xは、(RSOで表される陰イオンを表し、Rは、炭素数1〜4のフルオロアルキル基を表す。
【請求項2】
前記フルオロアルキル基が、パーフルオロアルキル基である、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記近赤外線吸収層が、さらに、最大吸収波長(λmax)が800〜1100nmの範囲にある、前記式(1)で表される化合物以外の近赤外線吸収色素を含有する、請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物以外の近赤外線吸収色素が、アミニウム系色素およびシアニン系色素から選ばれる少なくとも1種の近赤外線吸収色素である、請求項3に記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記樹脂のガラス転移温度(Tg)が、80℃以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の光学フィルム。