説明

光学機器

【課題】光学性能の調整が容易な鏡筒構造を有する光学機器を提供する。
【解決手段】物体の像を結像する対物レンズ群OLを有する光学機器1は、対物レンズ群OLのうち、物体側のレンズ群(前群GF)を保持する第1鏡筒2と、この第1鏡筒2の像側に着脱自在であって、対物レンズ群OLのうち、防振レンズL3を含む像側のレンズ群(後群GR)を保持する第2鏡筒3と、これらの第1鏡筒2と第2鏡筒3とを着脱する部分に設けられ、第1鏡筒2と第2鏡筒3との相対位置を調整する光学性能調整部17と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
望遠鏡やフィールドスコープ等の光学機器の光学系は、フォーカスレンズや防振レンズを含み観察物体の像を結像する対物レンズ群や、この対物レンズ群で形成される像を正立像に変換する正立プリズム等から構成されており、従来の光学機器では、このような対物レンズ群及び正立プリズムを保持する保持部(鏡筒)が一体化した鏡筒構造で構成されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第323855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の光学機器のように、対物レンズ群及び正立プリズムが一体化した鏡筒構造であると、組み立て後に各部品寸法公差のバラツキによる光学性能不良(ピント位置ズレ、解像度不足、歪み大など)が生じた場合に、全体を分解して部品交換を行う必要があり、光学性能調整が難しくなるという課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、光学性能の調整が容易な光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る光学機器は、物体の像を結像する対物レンズ群を有する光学機器であって、対物レンズ群のうち、物体側のレンズ群を保持する第1鏡筒と、この第1鏡筒の像側に着脱自在であって、対物レンズ群のうち、防振レンズを含む像側のレンズ群を保持する第2鏡筒と、第1鏡筒と第2鏡筒とを着脱する部分に設けられ、第1鏡筒と第2鏡筒との光軸方向の間隔を調整する光学性能調整部と、を有することを特徴とする。
【0007】
このような光学機器において、光学性能調整部は、第1鏡筒と第2鏡筒との光軸方向の間隔を調整する光軸方向調整部材を保持する調整部材収納部と、第1鏡筒と第2鏡筒とを互いに固定する鏡筒固定部と、を有することが好ましい。
【0008】
また、このような光学機器において、光学性能調整部は、第1鏡筒と第2鏡筒との光軸回りの回転方向位置を変化させた状態で、これらの第1鏡筒と第2鏡筒とを互いに固定するように構成されることが好ましい。
【0009】
また、このような光学機器において、第2鏡筒は、像ブレを検出して防振レンズ群を光軸と直交する方向の成分を持つように移動させる防振ユニットを有することが好ましい。
【0010】
また、このような光学機器は、口径や焦点距離等の光学仕様の異なる複数の物体側のレンズ群の各々を保持する複数の第1鏡筒を有し、防振ユニットは、第2鏡筒に取り付けられた第1鏡筒が保持する物体側のレンズ群の光学仕様に応じて、防振レンズの作動を制御する制御ソフトを切り換えるように構成されていることが好ましい。
【0011】
また、このような光学機器において、第2鏡筒は、三脚座と一体に構成することも可能である。
【0012】
また、このような光学機器において、第2鏡筒は、対物レンズ群の像を正立像に変換する正立プリズムを保持するように構成することも可能である。
【0013】
また、このような光学機器において、第1鏡筒に保持される物体側のレンズ群は、物体に合焦するためのフォーカスレンズを有するように構成することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る光学機器を以上のように構成すると、各部品寸法公差のバラツキによる光学性能不良を容易に調整可能な鏡筒構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】光学機器の構成を示す説明図である。
【図2】第2鏡筒に三脚座を一体に構成した場合の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1を用いて、光学機器の一例として、防振機能付きフィールドスコープの構成について説明する。この光学機器1の光学系は、観察物体の像を結像する対物レンズ群OLを有して構成されており、この対物レンズ群OLは、物体側に位置する前群GFと、像側に位置する後群GRとから構成されている。そして、この光学機器1は、対物レンズ群OLのうち、前群GFを保持する円筒形状の第1鏡筒2と、後群GRを保持する円筒形状の第2鏡筒3とを有している。ここで、対物レンズ群OLの前群GFは、例えば、物体側レンズL1と、観察物体に合焦を行うフォーカスレンズL2と、を有している。また、後群GRは、手振れ等の振動を打ち消して像ブレを補正する防振レンズL3を有している。また、この光学機器1は、対物レンズ群OLの像側に、この対物レンズ群OLで形成される倒立像を正立像に変換する正立プリズムL4を有して構成されている。このような第1及び第2鏡筒2,3は、第1鏡筒2の像側に形成された結合部2a及び第2鏡筒3の物体側に形成された結合部3aにより着脱可能に構成されている。なお、以降の説明において、この光学機器1の第1鏡筒2側を前部1aと呼び、第2鏡筒3側を後部1bと呼ぶ。
【0017】
前部1aにおいて、第1鏡筒2は、物体側レンズL1をレンズ押さえ環4で保持し、フォーカスレンズL2をフォーカスレンズ保持部5で保持している。また、フォーカスレンズ保持部5は、カムピン6、カム溝7及びフォーカスリング8で構成されており、フォーカスリング8を第1鏡筒2の円周方向に手動で回転させることで、カム溝7に沿ってカムピン6が光軸方向(図1中の矢印F方向)に移動し、これによりフォーカスレンズL2が光軸方向に移動して合焦を行うように構成されている。
【0018】
また、後部1bにおいて、第2鏡筒3は、防振機構部9で防振レンズL3を保持し、プリズム保持部10で正立プリズムL4を保持している。ここで、防振機構部9は固定ネジ11で第2鏡筒3に固定され、プリズム保持部10は固定リング12で第2鏡筒3に固定されている。また、第2鏡筒3の最も像側に、バヨネットマウント13がこの第2鏡筒3にネジ結合されている。このバヨネットマウント13は、第2鏡筒3(後部1b)にカメラや接眼レンズ20を着脱するために用いられる。
【0019】
また、この第2鏡筒3には、上述の防振機構部9に加えて、防振レンズL3の防振制御を行う制御回路基板14、防振制御のオン・オフを行う防振ON/OFFスイッチ15、及び、防振機構部9を作動させるための電力を供給する不図示の電源等からなる防振ユニット16が設けられている。この防振ユニット16の防振機構部9にはジャイロセンサーが設けられており光学機器1(第1及び第2鏡筒2,3)の振動を検出し、制御回路基板14でこの振動による像ブレを打ち消すように防振レンズL3を光軸と直交する方向の成分を持つように移動させることにより、この像ブレをキャンセルするように構成されている。なお、制御回路基板14には、防振機構部9を作動させるための制御ソフトが記憶されている記憶部や、この制御ソフトにより防振機構部9を作動させる処理部(CPU等)が設けられている。
【0020】
また、第1鏡筒2と第2鏡筒3とを結合する結合部2a,3aには、第1鏡筒2と第2鏡筒3との光軸方向の間隔を調整してピント位置を調整するために光軸方向調整部材18を収納する調整部材収納部17aと、第2鏡筒3に対して第1鏡筒2を相対的に回転させて解像度や歪みを調整した後に、結合部2a,3aが覆われるようにしてロックする(第1鏡筒2と第2鏡筒3とを互いに固定する)鏡筒固定部17bと、を有する光学性能調整部17が設けられている。すなわち、この光学性能調整部17は、調整部材収納部17aに収納される光軸方向調整部材18により第1鏡筒2と第2鏡筒3との光軸方向位置を調整し、第2鏡筒3に対して第1鏡筒2を回転させることにより光軸回りの回転方向位置を調整することができ、このように第1鏡筒2と第2鏡筒3との相対位置(光軸方向及び光軸回りの回転方向の位置)を変化させた状態で、これらの第1鏡筒2と第2鏡筒3とを鏡筒固定部17bにより互いに固定するように構成されている。なお、光軸方向調整部材18は例えばワッシャーで構成され、鏡筒固定部17bは例えば回転ロックリング部材で構成することができる。
【0021】
以上のように、対物レンズ群OLのうち、物体側レンズL1及びフォーカスレンズL2を有する前群GFを第1鏡筒2に内蔵し、防振ユニット16を含む防振レンズL3を有する後群GR及び正立プリズムL4を第2鏡筒3に内蔵して前部1a及び後部1bを分離可能な構成とすることにより、前部1a及び後部1bを別々に組立て可能になる。
【0022】
また、各部品寸法公差のバラツキにより光学性能が不良の場合、例えば光学系のピント位置を調整する場合には、前部1a及び後部1bを分離した状態で、第1鏡筒2と第2鏡筒3との間に設けられた調整部材収納部17aに光軸方向調整部材18を挿入し、再度これらの前部1a及び後部1bを組み立てることにより第1鏡筒2と第2鏡筒3との間の光軸方向間隔(光軸方向の寸法)を光軸方向調整部材18の厚さで変化させて、ピント位置合わせを行うことができる。また、光学系の解像度や歪みを調整する場合には、第2鏡筒3に対して第1鏡筒2を光軸を中心として回転させることでこれらの調整を行うことができる。なお、上述のように、調整後の第1鏡筒2及び第2鏡筒3の固定は鏡筒固定部17bにより行う。
【0023】
このように、この光学機器1の像ブレ補正部分、すなわち、第2鏡筒3を含む後部1bの組立時や修理時に前部1aから分離して作業することができるため、この光学機器1の組立性、サービス性を向上させることができる。また、第1鏡筒2と第2鏡筒3との結合部2a,3aに設けられた光学性能調整部17により、各部品寸法公差のバラツキによる光学性能不良を容易に調整することができる。
【0024】
また、前部1a及び後部1bを分離可能に構成することにより、口径や焦点距離等の光学仕様の異なる前群GR(物体側レンズL1及びフォーカスレンズL2)を有する前部1aを複数用意し、これらを取り替えて共通の後部1bに取り付けることにより、仕様の異なるVR機能付き光学機器1を実現することができる。このように、光学機器1の後部1bを共通化することにより、仕様の異なる光学機器1に対して全体のコストを下げることができる。この場合、光学仕様の異なる前群GF(物体側レンズL1及びフォーカスレンズL2)に応じて、第1鏡筒2の全長(光軸方向長さ)や径が異なることになるが、結合部2aの大きさ及び形状を全ての第1鏡筒2で同一とすることにより、共通化した後部1bにこれらの前部1aを着脱することが可能となる。
【0025】
なお、光学機器1の対物レンズ群OLの全系の焦点距離がfで、防振係数(ブレ補正での防振レンズL3の移動量に対する結像面での像移動量の比)がKの防振レンズL3で角度θの回転ぶれを補正するには、この防振レンズL3を(f・tanθ)/Kだけ光軸と直交する方向に移動させれば良い。すなわち、光学仕様(特に焦点距離)の異なる前部1aを共通の後部1bに取り付ける場合には、防振レンズL3の作動を制御する(防振機構部9の作動を制御する)制御回路基板14の制御ソフトを、前部1aの種類(口径や焦点距離等の光学仕様)毎に作成して制御回路基板14の不図示の記憶部に記憶させておき選択可能に構成することが必要である。例えば、前部1aと後部1bとの接合部(上述の結合部2a,3a)に機械式若しくは電気式の前部識別部を設けておき、この前部識別部からの情報により制御回路基板14が前部1aの種類に応じた制御ソフトを選択して実行するように構成することができる。あるいは、上述の防振ON/OFFスイッチ15により前部1aの種類を制御回路基板14に入力して制御ソフトを選択するように構成しても良い。
【0026】
また、図2に示す光学機器1′のように、後部1bにおいて、三脚座19を一体にした第2鏡筒3′とすることもできる。
【0027】
また、以上の説明において、対物レンズ群OLの物体側レンズL1、フォーカスレンズL2及び防振レンズL3の各々は、一枚のレンズで構成されていても良いし、複数のレンズから構成されていても良い。また、前群GF及び後群GRは、上述の物体側レンズL1、フォーカスレンズL2及び防振レンズL3の他に、絞りやレンズ又はレンズ群を有していても良い。例えば、第1鏡筒2の前群GFに、物体側レンズL1及びフォーカスレンズL2の他にズームレンズを内蔵した構成としても良い。また、この光学機器1は、第2鏡筒3に正立プリズムL4を設けない構成としても良い。
【0028】
以上のように、光学機器1を対物レンズ群OLの前群GF(物体側レンズL1及びフォーカスレンズL2)を保持する前部1a(第1鏡筒2)と、後群GR(防振レンズL3)及び正立プリズムL4を保持する後部1b(第2鏡筒3)とから構成し、これらが分離できる構造とし、この部分に光学性能調整部17を設けて光学性能(ピント位置ズレ、解像度不良、歪み等)を調整可能な構造とすることにより、この光学性能の調整が容易となる。さらに、口径、焦点距離等の光学仕様の異なる複数の種類の前部1aに対して像ブレ補正部である後部1bを共用可能とすることができる。また、このように分離できる構造とすることにより、この光学機器1の組立性、サービス性の向上が可能である。
【符号の説明】
【0029】
1,1′ 光学機器 2 第1鏡筒 3,3′ 第2鏡筒
16 防振ユニット
17 光学性能調整部 17a 調整部材収納部 17b 鏡筒固定部
18 光軸方向調整部材 19 三脚座 OL 対物レンズ群
GF 前群(物体側のレンズ群) GR 後群(像側のレンズ群)
L2 フォーカスレンズ L3 防振レンズ L4 正立プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の像を結像する対物レンズ群を有する光学機器であって、
前記対物レンズ群のうち、物体側のレンズ群を保持する第1鏡筒と、
前記第1鏡筒の像側に着脱自在であって、前記対物レンズ群のうち、防振レンズを含む像側のレンズ群を保持する第2鏡筒と、
前記第1鏡筒と前記第2鏡筒とを着脱する部分に設けられ、前記第1鏡筒と前記第2鏡筒との相対位置を調整する光学性能調整部と、
を有することを特徴とする光学機器。
【請求項2】
前記光学性能調整部は、
前記第1鏡筒と前記第2鏡筒との光軸方向の間隔を調整する光軸方向調整部材を保持する調整部材収納部と、
前記第1鏡筒と前記第2鏡筒とを互いに固定する鏡筒固定部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項3】
前記光学性能調整部は、
前記第1鏡筒と前記第2鏡筒との光軸回りの回転方向位置を変化させた状態で、当該第1鏡筒と当該第2鏡筒とを互いに固定するように構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の光学機器。
【請求項4】
前記第2鏡筒は、像ブレを検出して前記防振レンズ群を光軸と直交する方向の成分を持つように移動させる防振ユニットを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学機器。
【請求項5】
口径や焦点距離等の光学仕様の異なる複数の前記物体側のレンズ群の各々を保持する複数の第1鏡筒を有し、
前記防振ユニットは、前記第2鏡筒に取り付けられた前記第1鏡筒が保持する前記物体側のレンズ群の前記光学仕様に応じて、前記防振レンズの作動を制御する制御ソフトを切り換えるように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の光学機器。
【請求項6】
前記第2鏡筒は、三脚座と一体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学機器。
【請求項7】
前記第2鏡筒は、前記対物レンズ群の像を正立像に変換する正立プリズムを保持することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学機器。
【請求項8】
前記第1鏡筒に保持される前記物体側のレンズ群は、前記物体に合焦するためのフォーカスレンズを有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学機器。

【図1】
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【図2】
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