説明

光学活性3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造法

【課題】
医薬や農薬原料として有用な光学活性な3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造法の提供。
【解決手段】
(第一工程)光学活性なヒドロキシプロリンを脱炭酸して3−ヒドロキシピロリジンを製造し、(第二工程)得られた3−ヒドロキシピロリジンをtert−ブトキシカルボニル化して1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンを製造し、(第三工程)得られた1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンをメタンスルホニル化して1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンを製造し、(第四工程)得られた1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンをアジド化して3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを製造し、(第五工程)得られた3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを接触還元することによる光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬や農薬原料として有用な光学活性な3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造法に関する。更に詳しくは光学活性なヒドロキシプロリンから触媒として工業的に安価なイソホロンの存在下脱炭酸し蒸留により3−ヒドロキシピロリジンを製造し、tert−ブトキシカルボニル化、メタンスルホニル化及びアジド化の3工程をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することなく連続して行い、更に接触還元し蒸留することを特徴とする高い光学純度を有する3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
高い光学純度を有する3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンは医薬の製造原料として重要であることが、例えば、非特許文献1及び特許文献1に記載されている。更に特許文献2において(R)−3−ヒドロキシピロリジン塩酸塩を出発原料とする(S)−3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造法が記載されているが、tert−ブトキシカルボニル化、メタンスルホニル化、アジド化及び接触還元の各工程でシリカゲルカラムクロマトグラフィーを必要とし工業的生産には不向きであった。又、特許文献3において脱炭酸触媒として2−シクロへキセン−1−オンを用いて4−ヒドロキシ−L−プロリンから3−ヒドロキシピロリジン塩酸塩を製造する方法が記載されているが、2−シクロへキセン−1−オンは高価であり、更に製造された3−ヒドロキシピロリジンは塩酸塩であり、次工程で中和が必要となるため工業的にはより安価な製造法が望まれていた。一方、特許文献4では光学活性な4−ヒドロキシプロリンではなく、光学活性なアスパラギン酸から光学活性なN−アシルアスパラギン酸誘導体を製造し、環化反応させて光学活性な3−アミノピロリジン−2,5−ジオン誘導体を製造し、更に還元して光学活性な1−置換−3−アミノピロリジン誘導体を製造する方法が記載されているが、還元剤として高価な水素化ホウ素化合物を使用し、1位の置換基はベンジル基が好適であってtert−ブトキシカルボニル基は不適であった。
【非特許文献1】I.Kawamoto等、 ザ・ジャーナル・オブ・アンチバイオティクス(The Journal of Antibiotics)、2003年、56巻、6号、P.565−579
【特許文献1】特開平10−204086号公報
【特許文献2】特開2001−114759号公報
【特許文献3】特公平4−10452号公報
【特許文献4】特開2002−212155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、これらの工業的に不利な問題点を解決し、光学活性なヒドロキシプロリンを出発物質とし、できるだけ短い工程で、高価な反応試薬を用いず、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することなく蒸留により精製することにより、高い光学純度を有する3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は鋭意研究した結果、光学活性なヒドロキシプロリンから触媒としてイソホロンの存在下脱炭酸し蒸留により3−ヒドロキシピロリジンを製造し、中和工程なしにtert−ブトキシカルボニル化、次いでメタンスルホニル化及びアジド化の3工程をカラムクロマトグラフィーで精製することなしに連続して行い、更に接触還元し蒸留することを特徴とする高い光学純度を有する3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造法が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
(1) 本発明は、(第一工程)光学活性なヒドロキシプロリンを脱炭酸して3−ヒドロキシピロリジンを製造し、(第二工程)得られた3−ヒドロキシピロリジンをtert−ブトキシカルボニル化して1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンを製造し、(第三工程)得られた1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンをメタンスルホニル化して1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンを製造し、(第四工程)得られた1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンをアジド化して3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを製造し、(第五工程)得られた3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを接触還元することによる光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法である。
【0006】
【化1】

【0007】
本発明は、好適には、
(2) 第一工程の脱炭酸が、触媒としてイソホロンを用いた脱炭酸であることを特徴とする(1)に記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法、
(3) 第一工程が、蒸留で精製することを特徴とする(1)又は(2)に記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法、
(4) 第二工程、第三工程及び第四工程が、カラムクロマトグラフィーで精製することなく連続して行う工程であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法、
(5) 第五工程の接触還元が、パラジウム−炭素触媒存在下の加圧接触還元であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法、
(6) 第五工程が、蒸留で精製することを特徴とする(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法、
(7) ヒドロキシプロリンがトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンであり、3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンが(S)体であることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれか1つに記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法、
(8) 3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの光学純度が99%以上であることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれか1つに記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法、
(9) 光学活性なヒドロキシプロリンを、触媒としてイソホロンを用いて脱炭酸することを特徴とする光学活性な3−ヒドロキシピロリジンの製造方法(第一工程)、
(10) 光学活性なヒドロキシプロリンが光学活性なトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンである(9)に記載の光学活性な3−ヒドロキシピロリジンの製造方法、
(11) 蒸留で精製することを特徴とする(9)又は(10)に記載の光学活性な3−ヒドロキシピロリジンの製造方法、
(12) (第二工程)光学活性な3−ヒドロキシピロリジンをtert−ブトキシカルボニル化して1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンを製造し、(第三工程)得られた1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンをメタンスルホニル化して1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンを製造し、(第四工程)得られた1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンをアジド化して光学活性な3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを製造する方法であって、第二工程、第三工程及び第四工程が、カラムクロマトグラフィーで精製することなく連続して行う工程であることを特徴とする光学活性な3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法、又は、
(13) 光学活性な3−ヒドロキシピロリジンが(R)−3−ヒドロキシピロリジンである(12)に記載の光学活性な3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の提供する高い光学純度を有する3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造法は、従来行なわれてきたカラムクロマトグラフィーような煩雑な精製なしに蒸留のみで精製し製造できるので工業的に極めて有用である。
【0009】
本発明の製造法は、製造中間体として塩酸塩を用いないため、余計な中和工程を必要とせず、工業的に有利である。
【0010】
本発明の製造法は、通常の反応試薬を用いたものであり、特に高価な反応試薬を必要としないため、試薬の入手性にも問題がなく、工業的に有利である。
【0011】
本発明の製造法は、ピロリジン環中の窒素原子の保護基としてtert−ブトキシカルボニル基を用いたまま行うことができ、当該窒素原子の保護基の付け替えが不要であり、工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の出発原料として用いられる光学活性なヒドロキシプロリンは、光学活性な4−ヒドロキシプロリン又は3−ヒドロキシプロリンであり、好適にはトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリン、シス−4−ヒドロキシ−L−プロリン又はシス−4−ヒドロキシ−D−プロリンであり、特に好適にはトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンである。
【0013】
本発明の第一工程は、光学活性な4−ヒドロキシプロリンを、触媒としてイソホロンの存在下脱炭酸して蒸留により精製し光学活性な3−ヒドロキシピロリジンを製造する工程であり、有機溶剤を用いて行われる。
【0014】
用いられる溶剤としては反応を阻害せず、出発物質をある程度溶解するものであれば特に制限はなく、沸点が150℃以上の溶剤が好適であり、例えばトリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル等のグリコールエーテル類;及び、シクロヘキサノールのようなシクロアルカノール類が挙げられ、特に好適にはトリエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。溶剤の量(重量)は特に制限はないが、4−ヒドロキシプロリンに対して好適には1乃至5倍量であり、特に好適には1乃至3倍量である。
【0015】
本工程において触媒として用いられるイソホロンの量は4−ヒドロキシプロリンに対して好適には1乃至30質量%であり、特に好適には5乃至15質量%である。
【0016】
反応温度は好適には150℃乃至200℃であり、特に好適には150℃乃至170℃である。反応時間は反応温度によってことなるが、好適には1時間乃至20時間であり、反応温度が150℃乃至170℃の場合は好適には2時間乃至10時間である。
【0017】
本工程において、脱炭酸反応終了後、減圧蒸留で精製することにより、光学活性な3−ヒドロキシピロリジンが得られる。
【0018】
本発明の第二工程は、光学活性な3−ヒドロキシピロリジンの1位の窒素原子をtert−ブトキシカルボニル化する工程であり、tert−ブトキシカルボニル化試薬(好適にはジ−tert−ブチルジカボネート又はクロロギ酸tert−ブチルであり、より好適にはジ−tert−ブチルジカボネートである。)を有機溶剤中反応させることによって達成される。本発明の第三工程は、第二工程で得られた1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンの3位の水酸基をメタンスルホニル化する工程であり、メタンスルホニル化試薬(好適にはメタンスルホニルクロリド又はメタンスルホン酸無水物であり、より好適にはメタンスルホニルクロリドである。)を用いて有機塩基の存在下有機溶剤中反応させることによって達成される。第二工程と第三工程は連続して行うのが特に好適である。
【0019】
第二工程及び第三工程に用いられる有機溶剤としては、反応に関与しない溶剤であれば特に制限はないが反応を効率的に進行させ、更に目的化合物の単離を容易にするためには好適な溶剤としてはアセトニトリル、プロピオニトリルのようなニトリル類;テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルのようなグライム類;アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類;ジメチルスルホキシドのようなスルホキシド類;ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類;ヘキサン、ペンタンのような脂肪族炭化水素類;シクロヘキサンのような脂環式炭化水素類;酢酸エチル、プロピオン酸エチルのようなエステル類;及びこれらの混合溶剤が挙げられ、特に好適にはアセトニトリルとトルエンの混合溶剤である。
【0020】
第二工程のtert−ブトキシカルボニル化の反応温度は特に制限はないが、副生成物の生成を少なくするため好適には0℃乃至室温であり、特に好適には0℃乃至10℃である。反応時間は特に制限はないが好適には30分間乃至48時間であり、特に好適には1時間乃至20時間である。
【0021】
第三工程のメタンスルホニル化に用いられる有機塩基としては特に制限はないが、好適にはトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、1−メチルピペラジン、1−メチルモルホリンなどの有機塩基が挙げられ、特に好適にはトリエチルアミンである。
【0022】
第三工程の反応温度は特に制限はないが、好適には0℃乃至室温であり、特に好適には0乃至10℃である。反応時間は反応温度によって異なるが、好適には30分間乃至24時間であり、より好適には30分間乃至7時間である。
【0023】
第二工程及び第三工程を連続して行う場合は、例えば、光学活性な3−ヒドロキシピロリジンを有機溶剤に溶解させ、有機塩基の存在下ジ−tert−ブチルジカボネートを反応させる。tert−ブトキシカルボニル化反応終了後、反応溶液にメタンスルホニルクロリドを加えて反応させる。メタンスルホニル化反応終了後、水を加えて分層する。このとき、有機溶剤が水と混じる場合は、水と混じらない有機溶剤を加えて分層する。得られた有機層を脱溶剤することにより、光学活性な1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンを得ることができる。
【0024】
本発明の第四工程は、光学活性な1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンの3位置換基をアジド化する工程であり、有機溶剤中アジド化試薬(好適にはアジ化ナトリウムである。)を反応させることによって達成される。
【0025】
用いられる有機溶剤としては反応に関与しなければ特に制限はないが、好適にはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類;及び、ジメチルスルホキシドのようなスルホキシド類が挙げられ、より好適にはアミド類であり、特に好適にはジメチルホルムアミド又はジメチルアセトアミドである。
【0026】
第四工程の反応温度はラセミ化しない温度であれば特に制限はないが、好適には50℃乃至100℃であり、特に好適には70℃乃至90℃である。反応時間は反応温度により異なるが好適には1時間乃至30時間であり、特に好適には3時間乃至は10時間である。
【0027】
本工程において、アジ化反応終了後、反応液に水及び水と混じらない有機溶剤を加え、有機層を分離し、脱溶剤することにより、光学活性な3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを得ることができる。
【0028】
本発明の第五工程は、光学活性な3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの3位のアジド基を還元する工程であり、触媒の存在下溶剤中水素添加することにより達成される。
【0029】
用いられる触媒としては、例えばパラジウム−炭素、ラネーニッケル、ラネーコバルト、ラネー銅及び酸化白金等が挙げられ、好適にはパラジウム−炭素又はラネーニッケルである。
【0030】
用いられる溶剤としては、反応に関与しなければ特に制限はないが、好適にはメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグライム類;水;及びこれらの混合溶剤が挙げられ、特に好適にはメタノール又はエタノールである。
【0031】
本工程における水素添加は好適には0.1乃至10MPaの加圧が好ましく、特に好適には2乃至6MPaの加圧である。
【0032】
本工程の反応温度は触媒の種類及び水素圧によって異なるが、好適には室温乃至100℃であり、特に好適には50℃乃至80℃である。反応時間は反応温度によってことなるが、好適には1時間乃至24時間であり、より好適には1時間乃至10時間である。
【0033】
本工程において、還元反応終了後、触媒を濾過して除き濾液を減圧蒸留することにより、目的の高い光学純度を有する3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを得ることができる。なお、蒸留の際に反応系に残ったアジド化合物を分解するため少量のトリフェニルホスフィンを共存させて蒸留してもよい。
【0034】
本発明により得られる3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンは高い光学純度を有し、98%ee以上であり、好適には99%ee以上である。
【0035】
本発明により、光学活性な4−ヒドロキシプロリン、例えば、トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを出発原料にして、イソホロンの存在下脱炭酸し蒸留により精製し(R)−3−ヒドロキシピロリジンを製造し、次いでtert−ブトキシカルボニル化により(R)−1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンを製造し、連続してメタンスルホニル化して(R)−1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンを製造し、アジド化して(S)−3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを製造することができる。これらの3工程はカラムクロマトグラフィーで精製することなしに連続して行い、最後にアジド基を接触還元し蒸留により精製して、光学純度(ee%)99%以上の高い光学純度を有する(S)−3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを安価に製造することができ、本発明の製造法は工業的に極めて有用なものである。又、本発明により、シス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを出発原料にして同様な反応工程を経て高い光学純度を有する(R)−3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、本実施例において%とあるのは質量%であり、部は質量部である。
【0037】
実施例1
(S)−3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジン
(1) (R)−3−ヒドロキシピロリジン(第一工程)
トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリン100.0g及びトリエチレングリコールモノブチルエーテル200.0gに触媒としてイソホロン10.0gを加え、窒素雰囲気下155℃で4時間加熱後、減圧蒸留(99℃/0.8kPa)することにより、49.4gの(R)−3−ヒドロキシピロリジンを得た(化学純度98.9GC%)。
【0038】
なお、化学純度(GC法、面積%)は以下の測定条件により決定した。
【0039】
化学純度(GC法)
カラム:財団法人化学物質評価研究機構製G−100(内径1.2mm×40m、膜厚1.0μm)
カラム温度:100℃→275℃(毎分20℃昇温)
検出器:FID
保持時間:6.42分。
【0040】
(2) (R)−1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジン(第二工程及び第三工程の連続工程)
(1)で得られた(R)−3−ヒドロキシピロリジン49.4gをアセトニトリル49.4g及びトルエン148.2gに溶解し、この溶液にトリエチルアミン74.7gを加えた後、ジ−tert−ブチルジカボネート123.9gをトルエン49.4gに溶解した液を5℃以下で滴下し、滴下終了後同温度で3時間撹拌した。次いで反応液にメタンスルホニルクロリド84.5gを5℃以下で滴下し、終了後同温度で3時間撹拌した。得られた反応混合物を水洗後有機層を減圧下脱溶剤し、(R)−1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジン151.2gを得た。得られた(R)−1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンは精製せずに次の反応に用いた。
【0041】
(3) (S)−3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジン(第四工程)
(2)で得られた(R)−1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジン151.2gをジメチルホルムアミド301.1gに溶解し、この溶液にアジ化ナトリウム40.6gを加え、80℃で5時間加熱、撹拌した。得られた反応混合物に酢酸エチル301.1gを加え、水洗後有機層を減圧下脱溶剤し、(S)−3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジン109.0gを得た。得られた(S)−3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンは精製せずに次の反応に用いた。
【0042】
(4) (S)−3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジン(第五工程)
(3)で得られた(S)−3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジン109.0gをメタノール271.4gに溶解し、この溶液に5%パラジウム−炭素1.09gを加え、4MPa(40kg/cm)の水素加圧下、70℃で5時間撹拌した。反応終了後、触媒を濾過し、減圧下脱溶剤して(S)−3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを粗生成物として得た。これに、トリフェニルホスフィン0.47gを加えて減圧蒸留(112.5℃/0.53kPa)することにより、78.9gの(S)−3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを得た(化学純度99.7GC%、光学純度99.7%ee)。
【0043】
H−NMR(400MHz、CDCl):δ 1.46(s,9H)、1.48〜1.66(m,3H)、2.00〜2.09(m,1H)、2.99〜3.10(m,1H)、3.36〜3.59(m,4H).
なお、化学純度(GC法、面積%)は以下の測定条件により求めた。
【0044】
化学純度(GC法)
カラム:財団法人化学物質評価研究機構製G−100(内径1.2mm×40m、膜厚1.0μm)
カラム温度:100℃→275℃(毎分20℃昇温)
検出器:FID
保持時間:8.11分。
【0045】
また、光学純度は以下の方法により測定し計算することにより求めた。
【0046】
光学純度(HPLC法)
試料調製:3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジン25mgをクロロホルム10mlに溶解し、3,5−ジニトロベンゾイルクロリド100mg及びトリエチルアミン0.5mlを加え、室温で1時間反応させ、試料とした。光学純度(ee%)は光学活性カラムを用いてHPLC法により求めた。
【0047】
カラム:ダイセル化学工業株式会社製CHIRALCEL OD−H(内径4.6mm×250mm)
カラム温度:40℃
溶離液:n−ヘキサン/イソプロパノール=90/10(容量比)毎分1.0ml
検出器:UV254nm
溶出時間:
(R)−3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジン:約38分
(S)−3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジン:約44分。
【0048】
光学純度(ee%)計算法(S体の場合)
【0049】
【数1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(第一工程)光学活性なヒドロキシプロリンを脱炭酸して3−ヒドロキシピロリジンを製造し、(第二工程)得られた3−ヒドロキシピロリジンをtert−ブトキシカルボニル化して1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンを製造し、(第三工程)得られた1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンをメタンスルホニル化して1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンを製造し、(第四工程)得られた1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンをアジド化して3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを製造し、(第五工程)得られた3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを接触還元することによる光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法。
【請求項2】
第一工程の脱炭酸が、触媒としてイソホロンを用いた脱炭酸であることを特徴とする請求項1に記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法。
【請求項3】
第一工程が、蒸留で精製することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法。
【請求項4】
第二工程、第三工程及び第四工程が、カラムクロマトグラフィーで精製することなく連続して行う工程であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法。
【請求項5】
第五工程の接触還元が、パラジウム−炭素触媒存在下の加圧接触還元であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法。
【請求項6】
第五工程が、蒸留で精製することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法。
【請求項7】
ヒドロキシプロリンがトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンであり、3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンが(S)体であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法。
【請求項8】
3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの光学純度が99%以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1つに記載の光学純度の高い3−アミノ−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法。
【請求項9】
光学活性なヒドロキシプロリンを、触媒としてイソホロンを用いて脱炭酸することを特徴とする光学活性な3−ヒドロキシピロリジンの製造方法(第一工程)。
【請求項10】
光学活性なヒドロキシプロリンが光学活性なトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンである請求項9に記載の光学活性な3−ヒドロキシピロリジンの製造方法。
【請求項11】
蒸留で精製することを特徴とする請求項9又は10に記載の光学活性な3−ヒドロキシピロリジンの製造方法。
【請求項12】
(第二工程)光学活性な3−ヒドロキシピロリジンをtert−ブトキシカルボニル化して1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンを製造し、(第三工程)得られた1−tert−ブトキシカルボニル−3−ヒドロキシピロリジンをメタンスルホニル化して1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンを製造し、(第四工程)得られた1−tert−ブトキシカルボニル−3−メタンスルホニルオキシピロリジンをアジド化して光学活性な3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンを製造する方法であって、第二工程、第三工程及び第四工程が、カラムクロマトグラフィーで精製することなく連続して行う工程であることを特徴とする光学活性な3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法。
【請求項13】
光学活性な3−ヒドロキシピロリジンが(R)−3−ヒドロキシピロリジンである請求項12に記載の光学活性な3−アジド−1−tert−ブトキシカルボニルピロリジンの製造方法。

【公開番号】特開2006−8518(P2006−8518A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183212(P2004−183212)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000001856)三共株式会社 (98)
【出願人】(390014856)日本乳化剤株式会社 (26)
【Fターム(参考)】