説明

光学物品の製造方法

【課題】接着層の厚みが均一な光学物品の製造方法を提供すること
【解決手段】本発明は、光学部材15,16および接着剤181を有する接着層18が設けられる支持体14Aと、この支持体14Aの前記接着層18の上に設けられる結晶材料17と、を備えた光学物品1の製造方法であって、前記接着剤181は粒径が均一なスペーサー13が混合された接着剤181を使用する工程を備えたことを特徴とする光学物品1の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光変換素子、その他の光学物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップや液晶プロジェクタ、その他の装置において、複数の透光性部材の間に光学薄膜を挟んで形成された光学物品が用いられている。
このような光学物品として、複数の透光性部材の間に偏光分離膜と反射膜とを交互に配置し、前記偏光分離膜の光射出面側に水晶位相板を設けた偏光変換素子(PS変換素子)が知られている。
【0003】
例えば、第1の透光性部材の一方の面に偏光分離膜を形成し、第1の透光性部材のもう一方の面に反射膜を形成し、第2の透光性部材の一方の面に位相差板である水晶相差位板を接着し、次に第1の透光性部材の偏光分離膜と水晶位相板とが対向するように、第1の透光性部材と第2の透光性部材とを積層して接着した従来例(特許文献1および特許文献2参照)がある。この水晶板の厚みは、PS変換素子の偏光変換効率が最適になりように薄片加工される。この薄片加工では、水晶相差位板と接着してある第2の透光性部材の他方の面を基準面として、水晶相差位板を研磨しておこなう。
【0004】
このような光学物品の接着において、特に光線が透過する有効領域を含む部位を接合する場合には光学接着剤を用いる。この光学接着剤は紫外線照射や加温等により硬化すると、実用上望まれる光学特性が得られるように材料設計された接着剤である。
【0005】
【特許文献1】特許4080198号
【特許文献2】特開2007−206225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に示される従来例では、目標の偏光変換効率を得る為に、高精度な水晶板の厚み加工が要求される。しかしながら、水晶板を透光性部材に接着する際、液状の接着剤を用いるため、接着層の厚みに不均一が生じるおそれがある。このため、透光性部材の面を基準面として水晶板を薄片加工する場合、接着層の厚みの不均一性が原因となって、水晶板の厚みを均一にできないという問題があった。
そして、水晶板の厚みの不均一は、PS変換素子の偏光変換効率の低下を発生させる原因となるため、高精度な偏光変換精度を有するPS変換素子を製造することが困難という問題が挙げられる。
【0007】
本発明の目的は、接着層の厚みが均一な光学物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[適用例1]
本適用例における光学物品の製造方法は、光学接着剤を有する接着層を介して透光性部材と結晶性基板とを貼りあわせる、貼合工程を備えた光学物品の製造方法であって、前記接着層は粒状のスペーサー、または棒状のスペーサーの少なくともどちらか一方が混合された前記光学接着剤を備え、前記透光性部材と前記結晶性基板とを貼り合わせることを特徴とする。
【0009】
この構成の本適用例では、貼り合わせ工程において、粒状のスペーサー、または棒状のスペーサーの少なくともどちらか一方があらかじめ光学接着剤に含まれているので、透光性部材と結晶性基板とを押し当てる際、透光性部材と結晶性基板との間にスペーサーが挟まれ、光学接着層の厚みがスペーサーの粒径より小さくならない。
また、透光性部材と結晶性基板との間に一定の加重をかけるだけで、透光性部材と結晶性基板との間に挟まれるスペーサーが接着層の厚み方向に重なり合うことなく、単一な層状に配列されるので、接着層の厚みをスペーサーの粒径と同じにすることができる。
したがって、光学接着剤にスペーサーを含有させるだけで、接着層の厚みムラを容易に解消することができる。また、予めスペーサーを混合した接着剤を用いるので、貼り合わせ工程の前にどちらか一方の基板の面にスペーサーを散布する必要が無く、生産性が高い。また、光学接着剤にスペーサーを混合しているので、そのままこの光学接着剤を硬化すれば、透明な接着層が形成でき、この領域の接着層を光学素子の有効領域として用いることができる。
【0010】
[適用例2]
前記貼り合わせ工程の後、前記透光性部材を基準面として前記結晶性基板を薄片加工する薄片加工工程を備えることが好ましい。
【0011】
この構成の本適用例では、貼合工程の後、結晶性基板を薄片化する。このとき、透光性部材を基準面とした場合、接着層の厚みが均一であるので、その接着層の上に設けられる結晶性基板を均一な厚みに薄片化することができる。
【0012】
[適用例3]
本適用例における光学物品の製造方法は、前記接着剤と前記スペーサーとの屈折率差を概ね同じにする前記光学接着剤の硬化作業をおこなうことが好ましい。
【0013】
この構成の本適用例では、接着剤とスペーサーとの屈折率差を概ね同じにする前記光学接着剤の硬化作業をおこなうので、接着層を透過する光は、接着剤のみを透過する場合と接着剤およびスペーサーを透過する場合とで、光学特性上の影響にほとんど差がない。
このため、当該スペーサーを含有する接着剤は、スペーサーを含有しない接着剤とほとんど光学特性に差異がない。よって、スペーサーは、接着剤と光学特性上、略同一物となり、従来の接着剤と同様に用いることができる。
【0014】
[適用例4]
本適用例における光学物品の製造方法は、前記スペーサーが、前記接着剤に対して0.1重量%以上3重量%未満の濃度で混合されていることが好ましい。
【0015】
この構成の本適用例では、スペーサーが、前記接着剤に対して0.1重量%以上3重量%未満の濃度で混合されているので、透光性部材と結晶性基板とに挟まれるスペーサーの数が十分であり、スペーサーによる接着層の厚み制御が安定して得られ、さらに、接着剤中のスペーサーの分散性が良好であり、透光性部材と結晶性基板とに挟まれるスペーサーが接着層の厚み方向に重なり合うことなく、単一な層状に配列させる。
したがって、接着層の厚みを均一に形成することができる。
【0016】
なお、スペーサーの濃度が0.1重量%に満たないと、透光性部材と結晶性基板とに挟まれるスペーサーの数が不足するため、スペーサーによる接着層の厚み制御が安定して得られないおそれがある。
一方、スペーサーの濃度が3重量%を超えると、接着剤中のスペーサーの分散性が悪くなり、接着剤の粘性が局所的に上昇する。
このため、接着剤の濡れ拡がりが悪くなり、スペーサーが接着層の厚み方向に重なりあった状態で接着層が形成され、均一な厚みの接着層が形成されないおそれがある。
【0017】
[適用例5]
本適用例における光学物品の製造方法は、前記結晶性基板は、水晶位相板であり、前記光学物品は、前記透光性部材および前記水晶位相板が積層された第一積層体と、透光性部材に偏光分離膜および反射膜が形成された第二積層体と、が交互に配列された偏光変換素子であることが好ましい。
【0018】
この構成の本適用例では、接着層を均一な厚みで接着することができるので、高精度な偏光変換精度を有する偏光変換素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[光学系の構成]
図1は、本実施形態における偏光変換素子の概略図である。
図1に示される通り、偏光変換素子1は、互いに略平行な光入射面11と光出射面12とが形成され、光出射面12に45度の角度をもって複数の界面で設けられた複数の透光部材であるガラス基板(以下、ガラス基板)14と、複数の界面に交互に設けられた偏光分離膜15および反射膜16と、偏光分離膜15とガラス基板14との間に設けられた水晶位相板である水晶基板(以下。水晶板)17と、ガラス基板14、偏光分離膜15、反射膜16および水晶基板17の界面に設けられた接着層18と、を備える。
【0020】
ガラス基板14は、断面三角形や断面平行四辺形の角柱部材から形成されており、界面を構成する斜面に偏光分離膜15と反射膜16とが交互に配置されている。
ガラス基板14は本実施形態において光学物品を構成するものであり、それを構成する材料としては、BK7等の光学ガラス、白板ガラス、ホウケイ酸ガラス、青板ガラスをはじめとするガラスを例示できる。
【0021】
接着層18は、球状のスペーサー13が含有されている。接着層18の厚みは、2μm〜10μm程度であり、スペーサー13の粒径と略同じに均一となっている。また、この接着層18を形成する光学接着剤(以下、接着剤)181には、紫外線硬化型接着剤を用いることができる。
【0022】
スペーサー13には、接着層18を形成する接着剤181とヘイズ値の差が2.0以下となるものを用いる。このスペーサー13の材料としては、ガラス、プラスチック等が挙げられる。具体的には、ガラス材料のものとして、シリカ(n=1.45)のものがある。また、プラスチック素材のものとしては、メラミン(n=1.57)、ポリスチレン(n=1.57)、アクリル(n=1.49)、アクリル−スチレン化合物(n=1.54)等がある。また、スペーサー13には、中実のもの、中空のもの、多孔質のもの等がある。
【0023】
偏光分離膜15は誘電体多層膜で形成され、入射した光線束(ランダム偏光光)を、S偏光の部分光束(S偏光光)とP偏光の部分光束(P偏光光)とに分離し、S偏光光を反射し、P偏光光を透過する機能を有する。
誘電体多層膜は、例えば、SiOよりなる低屈折率層と、MgFよりなる高屈折率層と、LaとAlの重量割合が1:3の混合物よりなる中屈折率層とが、所定の順序および光学膜厚で形成された多層膜を例示できる。
【0024】
反射膜16は誘電体多層膜または金属膜で形成され、反射膜16に入射したS偏光光をそのまま反射する機能を有する。反射膜16を構成する多層膜はSiOよりなる低屈折率層とTiOよりなる高屈折率層とが所定の順序および光学膜厚で交互に形成された多層膜を例示できる。
【0025】
水晶基板17は、厚さが例えば、28μmとされた短冊状の1/2波長板であり、偏光分離膜15の光出射面12側に密着固定されている。
水晶基板17は、SiOの単結晶からなる水晶によって形成されるシングルモード波長板であり、この水晶は人工水晶でも天然水晶でもよい。
図1に示される通り、偏光変換素子1は、ガラス基板14、接着層18および水晶基板17を1つのユニットとする第一積層体1Aと、偏光分離膜15、ガラス基板14および反射膜16を1つのユニットとする第二積層体1Bと、を繰り返し貼り合わせた繰り返し構造を有する。
【0026】
[貼合工程]
図2〜図5に基づいて貼合工程について説明する。
図2は、本実施形態におけるガラス基板と水晶基板とを貼り合せる方法を説明するための概略図である。図3は、本実施形態における水晶基板の薄片化工程を説明するための概略図である。図4は、本実施形態における第一積層体と第二積層体とを積層する方法を説明するための概略図である。図5は、本実施形態における第一積層体と第二積層体とを積層した積層体を示す斜視図である。
図2に示すように、矩形状の台座21は、4本の係合ピン22が立設されている。この台座21の上に平板状のガラス基板14を載置し、このガラス基板14の上に接着剤181を滴下し支持体14Aを形成し、この支持体14Aの上に水晶基板17を重ね合わせる。その後、水晶基板17の上から重石板23を載置することで、接着層18に適度な押圧を加える。この重石板23は、係合ピン22に対応する位置に挿通穴24が設けられており、挿通穴24に係合ピン22が挿通されながら、台座21との距離が近づくようになっている。このため、重石板23は、台座21に対して回動することが規制されている。
よって、ガラス基板14と水晶基板17とを押圧する際、ガラス基板14と水晶基板17とがズレないようになっている。
【0027】
[薄片加工工程]
図3に基づいて薄片加工工程について説明する。
薄片加工を行う装置としては、図3(A)に示されるように、平板状の支持板31と、支持板31の支持面31Aに平行な摺動面32Aを有し、支持面31Aに対して摺動面32Aを平行に保った状態で円を描くように動作可能な砥石32を有する装置を用いる。
第一積層体1Aを、ガラス基板14が支持面31Aに接する状態となるように支持板31上で支持する。つまり、ガラス基板14の面が薄片加工の基準面となる。一方、水晶基板17は、上方より摺動面32Aが所定圧力で当接される。そして、水晶基板17は、砥石32が円を描くように動くことで、摺動面32Aと摺動される。これにより、図3(B)に示されるように、水晶基板17は、研削または研磨されて薄片加工される。これにより、第一積層体1Aが得られる。この時、接着層の厚みが均一であるので、ガラス基板14の基準面と、薄片加工される水晶基板の面が平行であるので、薄片加工後の水晶基板の厚みは均一となる。この水晶基板の厚みを均一に形成しないと、所望の偏光特性を得ることができない。
【0028】
[積層体形成工程]
図4および図5に基づいて積層体形成工程について説明する。
第二積層体1Bは、別のガラス基板14の平面に偏光分離膜15と反射膜16とをそれぞれ蒸着させて作製する。この第二積層体1Bを、図4に示すように、台座21の平面に対して45°に傾斜したプレートPに端部下端がそれぞれ当接するように第一積層体1Aおよび第二積層体1Bを水平方向にずらして配置する。
これにより、図5に示すような、第一積層体1Aと第二積層体1Bとが45°ずれた積層体10が形成されることとなる。
【0029】
図7は、本実施形態におけるガラス基板と水晶基板とを貼り合わせる方法を説明するための模式図である。
図7(A)に示すように、ガラス基板14の上にスペーサー13を含む接着剤181を滴下し、その上から水晶基板17を重ね合わせる。このとき、図7(B)に示すように、接着剤181は水晶基板17が押付けられることにより、外周方向へ濡れ広がっていく。そして、図7(C)に示すように、スペーサー13は、接着剤181と同様に外周方向へ分散し、接着層18の厚み方向に重なり合うことなく、単一な層状に配置する。
つまり、接着層18は、ガラス基板14と水晶基板17とに挟み込まれたスペーサー13の粒径と略同じとなる。このため、接着層18は、均一な厚みで形成され、厚みムラが生じ難い。
【0030】
[切断工程]
積層体10を所定形状に切断する切断工程を図8および図9に基づいて説明する。
図8は、本実施形態における積層体の切断を説明するための模式図である。図9は、本実施形態における積層体の切断を説明するための模式図である。
図8で示される通り、積層された第一積層体1Aと第二積層体1Bとに光学素子平面に対してプレートP(図4参照)の配置方向と平行、つまり、光学素子の平面に対して45°の方向Lに沿って所定間隔毎に切断する。これにより、ブロック19は端面が平行四辺形となる。
【0031】
切断後、図9に示される通り、ブロック19の端部を揃えて上下に複数積層し、左右両側部分をトリミングする。つまり、最も左側に位置する偏光分離膜15または反射膜16の上縁同士をつなげ、かつ、最も右側に位置する偏光分離膜15または反射膜16の下縁同士をつなげるようにブロック19の平面に対して垂直な方向Vに沿って切断することにより、偏光変換素子1(図1参照)が得られる。
【0032】
以上の構成の本実施形態では次の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態における偏光変換素子1の製造方法では、接着剤181に球状のスペーサー13が含有されているので、ガラス基板14と水晶基板17とを接着する際、ガラス基板14と水晶基板17とにスペーサー13が挟まれ、接着層18の厚みがスペーサー13の粒径より小さくならない。
【0033】
このため、ガラス基板14と水晶基板17とに一定の加重をかけるだけで、ガラス基板14と水晶基板17とに挟まれるスペーサー13が接着層18の厚み方向に重なり合うことなく、単一な層状に配列されるので、接着層18の厚みをスペーサー13の粒径と同じにすることができる。
したがって、接着剤181にスペーサー13を含有させるだけで、接着層18の厚みムラを容易に解消することができる。
【0034】
(2)本実施形態における偏光変換素子1の製造方法では、スペーサー13が、接着剤181とスペーサー13との屈折率差がヘイズ値で2.0以下となるものを用いているので、接着層18を透過する光は、接着剤181のみを透過する場合と接着剤181およびスペーサー13を透過する場合とで、光学特性上の影響にほとんど差がない。
このため、スペーサー13を含有する接着剤181は、スペーサー13を含有しない接着剤181とほとんど光学特性に差異がない。よって、スペーサーは、接着剤と光学特性上、略同一物となり、従来の接着剤181と同様に用いることができる。
【0035】
(3)本実施形態における偏光変換素子1の製造方法では、スペーサー13が、接着剤181に対して0.1重量%以上3重量%未満の濃度で混合されている。
このため、本実施形態では、スペーサー13が、接着剤181に対して0.1重量%以上3重量%未満の濃度で混合されているので、ガラス基板14と水晶基板17とに挟まれるスペーサー13の数が十分であり、スペーサー13による接着層18の厚み制御が安定して得られ、さらに、接着剤181中のスペーサー13の分散性が良好であり、ガラス基板14と水晶基板17とに挟まれるスペーサー13が接着層18の厚み方向に重なり合うことなく、単一な層状に配列させることができる。よって、接着層18の厚みを均一に形成することができる。
なお、スペーサーの濃度が0.1重量%に満たない場合は、ガラス基板14と水晶基板17とに挟まれるスペーサー13の数が不足し、スペーサー13による接着層18の厚み制御が安定して得られないというおそれがある。
また、スペーサー13の濃度が3重量%を超える場合は、接着剤181中のスペーサー13の分散性が悪くなり、接着剤181の粘性が局所的に上昇してしまい、接着剤181の濡れ拡がりが悪くなり、スペーサー13が接着層18の厚み方向に重なりあった状態で接着層18が形成され、均一な厚みの接着層が形成されないおそれがある。
【0036】
(4)本実施形態における偏光変換素子1の製造方法では、ガラス基板14と水晶基板17とを押圧する際、係合ピン22と挿通穴24とにより回動を規制された台座21と重石板23とを用いる。
このため、ガラス基板14と水晶基板17とが押圧される際、互いにズレが生じることがない。また、平板状の台座21と重石板23とを用いるので、均一な圧力でガラス基板14と水晶基板17とを押圧することができる。
したがって、接着層の厚みをより安定して均一なものとすることができる。
【0037】
(5)本実施形態における偏光変換素子1の製造方法では、ガラス基板14上の中心にスペーサー13を含有する接着剤181を滴下するので、ガラス基板14と水晶基板17とを貼り合せる際、ガラス基板14に確実に接着剤181を浸潤させることができる。
【0038】
(6)本実施形態における偏光変換素子1の製造方法では、ガラス基板14と水晶基板17と偏光分離膜15と反射膜16とがスペーサー13を含有する接着剤181を介して積層されるので、ガラス基板14と水晶基板17と偏光分離膜15と反射膜16とを均一な厚みで接着することができる。
したがって、高精度な偏光変換精度を有する偏光変換素子1を製造することができる。
【0039】
次に、本実施形態の偏光変換素子1の製造方法について、実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
<接着剤の調合>
接着剤181に対するスペーサー13の濃度が2wt%となるように調合し、回転数150rpmで2時間攪拌を行った。このとき、スペーサー13の分散性は良好であり、接着剤181中に均一にスペーサー13が分散していることを確認した。
【0041】
<貼り合わせ>
ガラス基板14上にスペーサー13を含有する接着剤181を0.06g滴下し、その上から水晶基板17を載置する。そして、スペーサー13を含有する接着剤181がほぼ全面に濡れ広がったところで、1kNの加重を60sec加える。加圧後、2mW/cmのUVランプを300sec照射し、スペーサー13を含有する接着剤181を硬化させた。接着剤の屈折率は硬化前が1.48であり、完全硬化後は1.51である。硬化する条件により、この屈折率を1.49から1.51の間で調整することができる。なお、上記条件では、屈折率は1.51近くを得ることができる。
【0042】
<貼り合わせ評価>
(厚みムラの評価)
レーザー干渉計(Fujinon社製)を用いて、ガラス基板14と水晶基板17とを貼り合せたものの透過波面収差を測定した。測定領域は偏光変換素子1にした際に光が透過する箇所と一致させてある。具体的には、ガラス基板14および水晶基板17の外周部1.5mmを除いてある。
【0043】
(ヘイズ値の評価)
ヘイズ値の評価については、スガ試験機社製のTMダブルビーム方式ヘーズコンピューターHZ−2を用いて3回測定を行い、算術平均したものを結果とした。
【0044】
<使用部材>
ガラス基板14、水晶基板17、接着剤181およびスペーサー13としては、以下に示すものを使用した。
・ガラス基板14(厚み2.8mm、PV=0.001mm以下、平行度±0.001以下)
・水晶基板17(厚み0.1mm、PV=0.001mm以下)
・接着剤181(サンライズMSI社製:PhotoBond300、紫外線硬化型、硬化後屈折率1.51)
・スペーサー13(日本触媒製:エポスターYS、屈折率1.51、粒径5.0μm、CV値3.5)
【0045】
[実施例2]
実施例2で使用したスペーサー13は以下の通り。
・スペーサー13(早川ゴム社製:ハヤビーズ、屈折率1.50、粒径5.0μm、CV値2.7)
その他は、実施例1と同様の構成である。
【0046】
[実施例3]
実施例3で使用したスペーサー13は以下の通り。
・スペーサー13(積水化成品工業社製:テクポリマー、屈折率1.52、粒径5.5μm、CV値7.2)
その他は、実施例1と同様の構成である。
【0047】
[実施例4]
実施例4で使用したスペーサー13は以下の通り。
・スペーサー13(日揮触媒化学社製:真絲球、屈折率1.45、粒径5.0μm、CV値1.6)
【0048】
[比較例]
比較例では、接着剤181にスペーサー13を調合せず、スペーサー13を含まない接着剤181を用いた。
その他は、実施例1と同様の構成である。
【0049】
<結果>
実施例1〜3および比較例の結果を以下の表1に示す。なお、透過波面収差については、解析結果として得られる鳥瞰図を図10〜図13に示す。
【表1】

【0050】
<まとめ>
スペーサー13を含有する接着剤181とスペーサー13を含有しない接着剤181とでは、透過波面収差が大きく異なる。
具体的には、スペーサー13を含まない場合は、透過波面収差が大きく、接着層18の厚みムラが生じていることが確認できた。
一方、スペーサー13を含む場合は、透過波面収差が著しく小さく、接着層18の厚みムラを飛躍的に解消できることが確認できた。
また、図10〜図13からも、実施例の厚みムラは小さく、比較例の厚みムラは大きいことが明らかである。
【0051】
また、接着剤181の屈折率と同じ屈折率のスペーサー13を用いた実施例1の場合は、スペーサー13を含まない比較例と同等のヘイズ値であった。このため、接着剤181とスペーサー13とが、同じ屈折率である場合は、スペーサー13による光学特性への影響がなく、スペーサーと接着剤とが光学特性上、同一物となっていることが確認できた。
なお、接着剤の硬化条件により接着剤の屈折率を調整することができるので、逆に接着剤の屈折率をスペーサーの屈折率に近づける硬化作業をおこなってもよい。
また、実施例2〜4の場合には、ヘイズが発生しているが、偏光変換素子1としては光学特性上問題ないことを確認できた。
【0052】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
本実施形態では、水晶基板17を貼り合せた後、薄片化したが、これに限らず、薄片化した水晶基板を貼り合わせることで偏光変換素子1を製造してもよい。
また、本実施形態では、偏光変換素子1の製造方法であったが、これに限らない。例えば、ガラス基板14に接着剤181を用いて水晶基板17を貼り合わせた位相差基板にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、プロジェクタ等の装置に用いられる偏光変換素子、その他の光学物品に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施形態における偏光変換素子の概略図。
【図2】本実施形態におけるガラス基板と水晶基板とを貼り合せる方法を説明するための概略図。
【図3】本実施形態における水晶基板の薄片化工程を説明するための概略図。
【図4】本実施形態における第一積層体と第二積層体とを積層する方法を説明するための概略図。
【図5】本実施形態における第一積層体と第二積層体とを積層した積層体を示す斜視図。
【図6】本実施形態におけるガラス基板と水晶基板とを貼り合わせる方法を説明するための模式図。
【図7】本実施形態における積層体の切断を説明するための模式図。
【図8】本実施形態における積層体の切断を説明するための模式図。
【図9】実施例1における透過波面収差の解析結果を示す鳥瞰図。
【図10】実施例2における透過波面収差の解析結果を示す鳥瞰図。
【図11】実施例3における透過波面収差の解析結果を示す鳥瞰図。
【図12】実施例4における透過波面収差の解析結果を示す鳥瞰図。
【図13】比較例における透過波面収差の解析結果を示す鳥瞰図。
【符号の説明】
【0055】
1…偏光変換素子(光学物品)、1A…第一積層体、1B…第二積層体、13…スペーサー、14…ガラス基板(光学部材)、15…偏光分離膜、16…反射膜、17…水晶基板(結晶性材料)、18…接着層、181…接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学接着剤を有する接着層を介して透光性部材と結晶性基板とを貼りあわせる、貼合工程を備えた光学物品の製造方法であって、
前記接着層は粒状のスペーサー、または棒状のスペーサーの少なくともどちらか一方が混合された前記光学接着剤を備え、前記透光性部材と前記結晶性基板とを貼り合わせることを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学物品の製造方法において、
前記貼合工程の後、前記透光性部材を基準面として前記結晶性基板を薄片加工する薄片加工工程を備えることを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学物品の製造方法において、
前記接着剤と前記スペーサーとの屈折率差を概ね同じにする前記光学接着剤の硬化作業をおこなうことを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の光学物品の製造方法において、
前記スペーサーは、前記接着剤に対して0.1重量%以上3重量%未満の濃度で混合されていることを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光学物品の製造方法において、
前記結晶性基板は、水晶位相板であり、
前記光学物品は、前記透光性部材および前記水晶位相板が積層された第一積層体と、透光性部材に偏光分離膜および反射膜が形成された第二積層体と、が交互に配列された偏光変換素子であることを特徴とする光学物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−190936(P2010−190936A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32337(P2009−32337)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】