説明

光学物品及び光学物品の製造方法

【課題】光学波面のバラツキがないとともに、両端部を把持しても互いに接合された光学基材が剥がれる恐れのない光学物品の提供
【解決手段】位相差板12とIRカットガラス板13とを分子接合して接合層10を構成し、この接合層10をプラズマ重合膜とした。基材の接合のための接着剤が不要となるから、位相差板12とIRカットガラス板13との接合部分に厚さのバラツキがなくなって波面収差がなくなる。しかも、接合層10の外周縁は位相差板12とIRカットガラス板13との双方の外周縁から寸法tだけ離れて形成されているため、位相差板12とIRカットガラス板13との端部をピンセット等で把持する際、これらのプラズマ重合膜にピンセット等が触れて膜剥れをお越し、接合部分に粉塵として付着することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光学基材を接合して形成される光学物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学物品として、複屈折板と赤外線をカットする吸収層が設けられたガラス板(IRカットガラス板)とを接合して形成される光学ローパスフィルタ、2枚の水晶板を接合して形成される積層波長板、さらには、薄い水晶板を水晶保持用ガラス板に接合して形成される波長板等、複数の光学基材を接合して形成されるものが知られている。
【0003】
これらの光学物品のうち、光学ローパスフィルタを製造する従来例として、赤外線カットガラス板と水晶板とを接着剤で接合するものがある(特許文献1)。
この特許文献1では、赤外線カットガラス板と水晶板との厚さを一定にするために接着剤を赤外線カットガラス板と水晶板との接合面に対してまんべんなく行き渡らせる必要から、接着剤が赤外線カットガラス板と水晶板との外周縁部からはみ出ることを前提とされている。そして、はみ出た接着剤を拭き取らないと不良品とされるので、特許文献1では、赤外線カットガラス板の周縁部と水晶板の周縁部とに接着剤の溜まり部を有する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−58427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示される従来例では、赤外線カットガラス板と水晶板との接合を接着剤で行っているので、接着剤の層の厚みがばらつき、その結果、波面がばらつくという課題がある。特許文献1では、赤外線カットガラス板と水晶板との厚さを一定にするために接着剤をまんべんなく行き渡らせるという手段が採用されているが、接着剤をまんべんなく行き渡らせても、その後、接着剤を挟んで赤外線カットガラス板と水晶板とを正確に平行となるように押圧しなければならず、押圧力が板面に対して均等となっていないと接着剤の層の厚さがばらつくことになる。特に、赤外線カットをするための薄膜やその他の薄膜がガラス板に形成されているので、ガラス板にそりが生じ、この点からも接着剤の厚さがばらつくことになる。さらに、特許文献1の従来例では、接着剤が劣化することで、耐熱性や耐光性が低下するという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、波面のバラツキがないとともに、両端部を把持しても互いに接合された光学基材が剥がれる恐れのない光学物品及び光学物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例にかかる光学物品の製造方法は、分子接合する接合層を備えた光学物品の製造方法であって、第一光学基材の外周部の一端部と第二光学基材の外周部の一端部とを当接し、この当接した部分を回動中心として、他端部同士を近接しながら貼り合わせる貼合工程を有することを特徴とする。
この構成の本適用例では、第一光学基材と第二光学基材とを外周部の一端部から他端部に従って貼合作業を行うので、この貼合作業に伴って基材とプラズマ重合膜との間の気泡が当該他端部側に追い出されるから、気泡の混入がなくなり、適正な光学物品を提供することができる。その上、プラズマ重合膜の外縁が基材の外縁から離れて形成されているから、第一光学基材と第二光学基材との一端部同士を当接させた際に、プラズマ重合膜が基材の角で削られることがない。そのため、プラズマ重合膜が基材角部で削られることに伴って粉塵が巻き上がることがなく、その結果、粉塵が基板の間に混入して品質を悪化させることがない。
【0008】
[適用例2]
本適用例にかかる光学物品の製造方法は、前記貼合工程が、前記第一光学基材を基台に設置し、前記第二光学基材を前記基台に揺動自在に取り付けられた天板に設置する設置工程と、前記天板を前記基台に対して揺動させ前記天板に設置された前記第二光学基材を前記基台に設置された前記第一光学基材に対向させるとともに、前記天板を前記基台の平面方向に対して移動させ前記第二光学基材を前記第一光学基材に対して位置合わせする位置合わせ工程と、前記天板を前記基台に対して揺動して前記第一光学基材と前記第二光学基材とを一端部から他端部にかけて近接させてプレスするプレス工程とを備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、基台に天板が揺動自在とされた装置を用いて、簡単に第一光学基材と第二光学基材とを貼り合せることができる。
【0009】
[適用例3]
本適用例にかかる光学物品の製造方法は、前述の光学物品を製造する方法であって、前記第一光学基材の接合面と前記第二光学基材の接合面の少なくとも一方にプラズマ重合膜を形成する重合膜形成工程と、前記接合面に形成された前記プラズマ重合膜を活性化する表面活性化工程と、前記プラズマ重合膜の表面が活性化された前記第一光学基材と前記第二光学基材とを貼り合わせて一体化する貼合工程と、を備え、前記プラズマ重合膜形成工程は、接合面の少なくとも一部の外周縁に沿ってマスキングをした状態で膜形成することを特徴とする。
この構成の本適用例では、重合膜形成工程で、第一光学基材と第二光学基材との少なくとも一方にプラズマ重合膜を形成する際、第一光学基材の接合面と第二光学基材の接合面との少なくとも一方の外周縁に沿ってマスキングを実施し、これらの基材の外周縁から所定寸法離れた領域をプラズマ重合膜が形成されない領域とする。そして、表面活性化工程では表面を効率よく活性化する。表面活性化工程は、例えば、プラズマを照射する方法、オゾンガスに接触させる方法、オゾン水で処理する方法、あるいは、アルカリ処理する方法等を用いることができる。さらに、貼合工程でプラズマ重合膜同士を押し付けて第一光学基材と第二光学基材とをプラズマ重合膜を介して接合する。
【0010】
[適用例4]
本発明の光学物品は、第一光学基材と、第二光学基材と、これらの第一光学基材と第二光学基材とを分子接合する接合層とを備え、前記接合層はプラズマ重合膜であり、前記接合層の外周縁の少なくとも一端部は前記第一光学基材と前記第二光学基材との双方の外周縁の端部から離れて形成されていることを特徴とする。
この構成の本適用例では、第一光学基材と第二光学基材とを分子接合するので、これらの基材の接合のための接着剤が不要となる。
従って、本適用例では、接着剤を使用しないので、第一光学基材と第二光学基材との接合部分に厚さのバラツキがなくなって波面収差がなく、耐光性が向上する。
しかも、接合層の外周縁の少なくとも一端部は第一光学基材と第二光学基材との双方の外周縁の端部から離れて形成されているから、これらの基材同士をピンセット等で把持して互いに位置あわせして接合する場合に、ピンセット等がプラズマ重合膜に触れて、プラズマ重合膜が膜剥れを起し、この膜剥れが粉塵となって接合領域に付着して接合不良となることが無い。
【0011】
[適用例5]
本適用例にかかる光学物品は、前記第一光学基材は位相差板であり、前記第二光学基材は赤外線をカットする薄膜が形成されたIRカットガラス板であることを特徴とする。
この構成の本適用例では、前述の効果を達成することができる光学ローパスフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態にかかる光学物品を示すもので、(A)はその側面図、(B)はその平面図。
【図2】前記実施形態の光学物品の異なる例を示す側面図。
【図3】前記実施形態の光学物品のさらに異なる例を示す側面図。
【図4】プラズマ重合装置の全体を示す概略図。
【図5】プラズマ重合装置の要部の概略を示すもので、(A)は平面図、(B)は断面図。
【図6】接合層がプラズマ重合膜から形成される光学物品の製造方法の手順を説明する概略図。
【図7】貼合装置の概略を示すもので、(A)は側面図、(B)は天板を外した状態の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、本実施形態にかかる光学物品を図1から図3に基づいて説明する。
図1は光学物品として、光学ローパスフィルタの一例を示すもので、(A)はその側面図、(B)はその平面図である。
図1において、光学ローパスフィルタ1は、複屈折板11と、位相差板12と、IRカットガラス板13と、複屈折板14とが間に接合層10を挟んで積層された構造であり、複屈折板14に対向してCCDセンサ15が配置されている。これらの複屈折板11、位相差板12、IRカットガラス板13及び複屈折板14は、その平面が同じ大きさであり、例えば、一辺が10mm〜50mmの平面矩形状とされる。これらの複屈折板11、位相差板12、IRカットガラス板13及び複屈折板14に介装されている接合層10は、その外周縁がこれらの板材の外周縁から所定寸法t、例えば、0.2mm〜3.0mm離れて形成されている。なお、図1では、寸法tは基材の4辺で同じ寸法とされる。
図1の光学ローパスフィルタ1では、複屈折板11、位相差板12、IRカットガラス板13及び複屈折板14のうち隣り合う基材に一方、例えば、位相差板12が第一光学基材を構成し、他方、例えば、IRカットガラス板13が第二光学基材を構成する。
【0014】
複屈折板11及び複屈折板14は、それぞれ水晶から構成されており、そのうち光入射側の複屈折板11の外側平面には、必要に応じて反射防止膜が形成されている。この反射防止膜は、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)等の薄膜を真空蒸着により基材に形成して構成される。
位相差板12は水晶から構成される。
IRカットガラス板13は色素混入による吸収または誘電体多層膜による反射によりガラス基材に赤外線をカットする機能が形成されるもので、例えばこの薄膜は、酸化チタン(TiO)と酸化ケイ素(SiO)とが真空蒸着により交互に形成されてなる膜である。
接合層10は、プラズマ重合膜で形成されている。なお、図では、内容を理解しやすくするために、接合層10の厚さは複屈折板11、位相差板12、IRカットガラス板13及び複屈折板14の厚さに比べて厚く図示されている。
なお、上述の構造以外に、複屈折板11に誘電体多層膜によるAR膜またはIR、UV−IRカット膜を形成してもよい。このUV−IRカット膜は5酸化タンタル(Ti)を含んでもよい。
【0015】
図2は図1とは異なる光学ローパスフィルタ2を示す。
図2において、光学ローパスフィルタ2は、複屈折板11、位相差板12、IRカットガラス板13及び複屈折板14を有する構造である点は光学ローパスフィルタ1と同じであるが、複屈折板11、位相差板12及びIRカットガラス板13の相互の間に接合層10が設けられ、複屈折板14がIRカットガラス板13から離隔して配置されている点で光学ローパスフィルタ1と相違する。そして、複屈折板11の表面には赤外線をカットする薄膜が形成されており、複屈折板14はCCDセンサ15のカバーガラスを兼ねている。
図2では、少なくとも、複屈折板11、位相差板12及びIRカットガラス板13の平面が同じ大きさである。そして、これらのうち、互いに隣り合う板材の一方が第一光学基材を構成し、他方が第二光学基材を構成する。なお、光学ローパスフィルタ2の平面形状は図1(B)で示される形状と同じである。
【0016】
図3は図1及び図2とは異なる光学ローパスフィルタ3を示す。
図3において、光学ローパスフィルタ3は、複屈折板11、位相差板12、IRカットガラス板13及び複屈折板14を有する構造である点は光学ローパスフィルタ1と同じであるが、位相差板12及びIRカットガラス板13の相互の間に接合層10が設けられ、複屈折板11が位相差板12から離隔して配置され、かつ、複屈折板14がIRカットガラス板13から離隔して配置されている点で光学ローパスフィルタ1と相違する。
図2では、少なくとも、位相差板12及びIRカットガラス板13の平面が同じ大きさである。そして、位相差板12が第一光学基材を構成し、IRカットガラス板13が第二光学基材を構成する。なお、光学ローパスフィルタ3の平面形状は図1(B)で示される形状と同じである。
【0017】
図4は、本実施形態で使用するプラズマ重合装置の概略図である。
図4において、プラズマ重合装置100は、チャンバー101と、このチャンバー101の内部にそれぞれ設けられる第1電極111及び第2電極112と、これらの第1電極111と第2電極112との間に高周波電圧を印加する電源回路120と、チャンバー101の内部にガスを供給するガス供給部140と、チャンバー101の内部のガスを排出する排気ポンプ150を備えた構造である。
第1電極111は、第一光学基材又は第二光学基材を支持するものであり、第一光学基材や第二光学基材を挟んで第1電極111と第2電極112とが対向配置されている。なお、図4では、第一光学基材として位相差板12が第1電極111に支持されている例を説明する。
【0018】
電源回路120は、マッチングボックス121と高周波電源122とを備える。
ガス供給部140は、液状の膜材料(原料液)を貯蔵する貯液部141と、液状の膜材料を気化して原料ガスに変化させる気化装置142と、キャリアガスを貯留するガスボンベ143とを備えている。このガスボンベ143に貯留されるキャリアガスは、電界の作用によって放電し、この放電を維持するためにチャンバー101に導入するガスであって、例えば、アルゴンガスやヘリウムガスが該当する。
これらの貯液部141、気化装置142及びガスボンベ143とチャンバー101とが配管102で接続されており、ガス状の膜材料とキャリアガスとの混合ガスをチャンバー101の内部に供給するように構成されている。
貯液部141に貯留される膜材料は、プラズマ重合装置100によって位相差板12に接合層10となるプラズマ重合膜130(図6参照)を形成するための原材料であり、気化装置142で気化されて原料ガスとなる。
【0019】
この原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサン等のオルガノシロキサン、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチル亜鉛、トリエチル亜鉛のような有機金属系化合物、各種炭化水素系化合物、各種フッ素系化合物等が挙げられる。
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜130は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、つまり、ポリオルガノシロキサン、有機金属ポリマー、炭化水素系ポリマー、フッ素系ポリマー等で構成されることになる。
【0020】
ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性を示すが、各種の活性化処理を施すことによって容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化することができる。つまり、ポリオルガノシロキサンは撥水性と親水性との制御を容易に行える材料である。
撥水性を示すポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜130は、それ同士を接触させても、有機基によって接着が阻害されることになり、極めて接着し難い。一方、親水性を示すポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜130は、それ同士を接触させると、特に容易に接着することができる。つまり、撥水性と親水性の制御を容易に行えるという利点は、接着性の制御を容易に行えるという利点につながるため、ポリオルガノシロキサンで構成されたプラズマ重合膜130は、本実施形態では好適に用いられることになる。そして、ポリオルガノシロキサンは比較的柔軟性に富んでいるので、位相差板12と第二光学基材としてのIRカットガラス板13との構成材質が相違して線膨張係数が異なっても、位相差板12とIRカットガラス板13との間に生じる熱膨張に伴う応力を緩和することができる。さらに、ポリオルガノシロキサンは耐薬品性に優れているため、薬品類等に長期にわたって曝されるような部材の接合に効果的に用いることができる。
ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするプラズマ重合膜130は、接着性に優れていることから、本実施形態の接合方法で好適に用いられる。オクタメチルトリシロキサンの重合物は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取扱が容易である。
【0021】
図5はプラズマ重合装置の要部を示す概略図である。
図5は第1電極111に位相差板12が保持された状態を示すものであり、(A)は平面図、(B)は断面図である。
図5において、位相差板12の外周縁は所定寸法tに渡ってマスキングされるように平面矩形状の枠体からなるマスキング用枠160が設けられている。このマスキング用枠160は第1電極111に対して着脱自在に取り付けられている。なお、このマスキング用枠160は、プラズマ重合膜を形成する基材の大きさ、厚さに対応できるように、その大きさ及び厚さが異なるものが複数用意されており、基材に応じて選択使用される。
【0022】
次に、光学物品1〜3の製造方法の手順を図6及び図7に基づいて説明する。
まず、図6(A)〜(C)に示される通り、位相差板12の接合面にプラズマ重合膜を形成する(重合膜形成工程)。
この重合膜形成工程では、プラズマ重合装置100のチャンバー101の第1電極111に、第一光学基材として位相差板12を保持し、マスキング用枠160を位相差板12に取り付ける。そして、チャンバー101の内部に酸素を所定量導入するとともに第1電極111と第2電極112との間に電源回路120から高周波電圧を印加して光学部材自体の活性化(基板活性化)を実施する。
その後、ガス供給部140を作動させると、チャンバー101の内部に原料ガスとキャリアガスとの混合ガスが供給される。供給された混合ガスはチャンバー101の内部に充填され、図6(A)に示される通り、位相差板12に混合ガスが露出される。
【0023】
混合ガスにおける原料ガスの割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合は20〜70%程度に設定することが好ましく、30〜60%程度に設定することがより好ましい。
第1電極111と第2電極112との間に印加する周波数は、特に限定されないが、1kHz〜100MHz程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度がより好ましい。高周波の出力密度は特に限定されないが、0.01〜10W/cm程度であることが好ましく、0.1〜1W/cm程度であるのがより好ましい。
【0024】
成膜時のチャンバー101の圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5〜200sccm程度が好ましく、1〜100sccm程度がより好ましい。
キャリアガス流量は、5〜750sccm程度が好ましく、10〜500sccm程度がより好ましい。
処理時間は1〜10分程度であることが好ましく、4〜7分程度がより好ましい。
基材としての位相差板12の温度は、25℃以上が好ましく、25〜100℃がより好ましい。
【0025】
第1電極111と第2電極112との間に高周波電圧を印加することにより、これらの電極111,112の間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、図6(B)に示される通り、重合物が位相差板12の表面に付着、堆積する。これにより、図6(C)に示される通り、位相差板12の接合面にプラズマ重合膜130が形成される。
プラズマ重合膜130は、その平均厚さが10〜1000nmであり、50〜500nmが好ましい。プラズマ重合膜130の平均厚さが10nmを下回ると、十分な接合強度を得ることができず、1000nmを超えると、接合体の寸法精度が著しく低下する。
【0026】
その後、図6(D)に示される通り、プラズマ重合膜130を活性化して表面を活性化させる(表面活性化工程)。
表面活性化工程は、例えば、プラズマを照射する方法、オゾンガスに接触させる方法、オゾン水で処理する方法、あるいは、アルカリ処理する方法等を用いることができる。
ここで、活性化させる、とは、プラズマ重合膜130の表面及び内部の分子結合が切断されて終端化されていない結合手が生じた状態や、その切断された結合手にOH基が結合した状態、又は、これらの状態が混在した状態をいう。
この表面活性化工程では、プラズマ重合膜130の表面を効率よく活性化させるためにプラズマを照射する方法が好ましい。プラズマ重合膜130の表面に照射するとしたのは、プラズマ重合膜130の分子構造を必要以上に、例えば、プラズマ重合膜130と位相差板12との境界に至るまで切断しないので、プラズマ重合膜130の特性の低下を避けるためである。
【0027】
本実施形態で使用されるプラズマとしては、例えば、酸素、アルゴン、チッソ、空気、水等を1種又は2種以上混合して用いることができる。これらの中で、酸素を使用するこ
とが好ましい。
このようなプラズマを使用することで、プラズマ重合膜130の特性の著しい低下を防止するとともに、広範囲のムラをなくし、より短時間で処理することができる。そして、プラズマはプラズマ重合膜を形成する装置と同設備で発生させることができるから、製造コストが低減できるという利点もある。
プラズマを照射する時間は、プラズマ重合膜130の表面付近の分子結合を切断し得る程度の時間であれば特に限定されるものではないが、5sec〜30min程度であるのが好ましく、10〜60secがより好ましい。
このようにして活性化されたプラズマ重合膜130の表面には、OH基が導入される。
なお、本実施形態では、プラズマ重合膜形成工程と表面活性化工程との間に位相差板12を洗浄する工程を設けてもよい。この洗浄工程は、薬品、水、その他の適宜な手段を用いて行われる。
【0028】
プラズマ重合膜130の表面が活性化された位相差板12と、IRカットガラス板13とを貼り合わせて一体化する(貼合工程)。
表面が活性化されたプラズマ重合膜130は、その活性状態が経時的に緩和するので、表面活性化工程の後速やかに貼合工程に移行する。具体的には、表面活性化工程の後、60分以内に貼合工程に移行するのが好ましく、5分以内に移行するのがより好ましい。この時間内であれば、プラズマ重合膜130の表面が十分な活性状態を維持しているので、貼り合わせに際して十分な結合強度を得ることができる。
【0029】
貼合工程を実施するための貼合装置を図7に基づいて説明する。図7(A)は貼合装置の側面図、(B)は天板を外した状態の貼合装置の平面図である。
図7において、貼合装置200は、第一光学基材としての位相差板12を設置する基台201と、第二光学基材としてのIRカットガラス板13を設置する天板202と、この天板202を基台201に対して揺動自在に支持するためのヒンジ部材203とを備えている。このヒンジ部材203に近接して基台201と天板202との間に天板202を基板201の所定位置を回転中心として回動させるための連結金具(図示せず)が設けられている。
【0030】
基台201は、平面が矩形状の厚肉の板状部材であって、その内部に位相差板12を真空吸着するための真空吸着装置(図示せず)が設けられている。そして、基台201の平面には位相差板12を位置決めするための位置決めピン204が4本設けられている。これらの位置決めピン204のうち1本はヒンジ部材203に近接配置され位相差板12の一辺に側面が当接し、この位置決めピン204に位相差板12を挟んで反対側には異なる1本の位置決めピン204が設けられ、残りの2本の位置決めピン204が位相差板12の残りの2辺にそれぞれ当接するように設けられている。この状態では、位相差板12の一辺が基台201のヒンジ部材203が設けられた一辺と平行となる。
【0031】
天板202は、平面が矩形状の厚肉の板状部材であって、その内部にIRカットガラス板13を真空吸着するための真空吸着装置(図示せず)が設けられている。そして、天板202の平面にはIRカットガラス板13を位置決めするための位置決めピン204が4本設けられている。これらの位置決めピン204の配列は基台201に設けられた位置決めピン204と同じである。この状態では、IRカットガラス板13の一辺が天板202のヒンジ部材203が設けられた一辺と平行となる。また、天板202のヒンジ部材203と反対側の位置には取っ手205が設けられている。
【0032】
以上の構成の貼合装置200を用いて、プラズマ重合膜130が設けられた位相差板12にIRカットガラス板13を貼り付ける方法について説明する。
まず、設置工程を実施する。そのため、プラズマ重合膜130を上にして位相差板12を基台201に設置する。その際、位置決めピン204で位相差板12を位置決めするとともに、真空吸着装置で位相差板12がずれないように保持する。同様に、IRカットガラス板13を天板202に保持する。
その後、位置合わせ工程を実施する。そのため、取っ手205を持って天板202を基台201に対して揺動して所定角度で止めて天板202に設置されたIRカットガラス板13を基台201に設置された位相差板12に対向させる。さらに、天板202を基台201の平面方向に対して移動させIRカットガラス板13と位相差板12との一辺同士が一致するように両者を位置合わせする。
【0033】
その後、プレス工程を実施する。図示しない連結金具を連結し、IRカットガラス板13と位相差板12との一辺同士が当接した状態で、当該一辺を回転中心として天板202を基台201に向けて回動する。すると、IRカットガラス板13と位相差板12とが一端部から他端部にかけて順次近接するように位相差板12及びIRカットガラス板13がプレスされる。この際、プラズマ重合膜130は、その外周縁がIRカットガラス板13及び位相差板12の外周縁から寸法tだけ離れて形成されているので、これらの光学基材の外周端同士が当接されても、プラズマ重合膜130に基材の角部が当たって破損することがない。
【0034】
貼合工程の後に、位相差板12とIRカットガラス板13とを加圧する(加圧工程)。この加圧工程では、接合強度を大きくするために、位相差板12とIRカットガラス板13とを大きな力で加圧することが好ましい。具体的には、加圧するための圧力は、位相差板12とIRカットガラス板13の厚さ寸法や装置等の条件によって異なるものの、1〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPaがより好ましい。加圧時間は特に限定されないが、10sec〜30min程度であるのが好ましい。
【0035】
位相差板12とIRカットガラス板13とを加圧したら、これらを貼合装置200から取り外す。そのため、天板202と基台201とにそれぞれ設けられた真空吸着装置を解除し、互いに接合された位相差板12とIRカットガラス板13とをピンセット等で把持する。
そして、互いに接合された位相差板12とIRカットガラス板13とをピンセット等で把持したまま容器に搬送し、その中に収納する。さらに、互いに接合された位相差板12とIRカットガラス板13とを加熱装置に投入し、この加熱装置で加熱する(加熱工程)。これにより、接合強度を高めることができる。
この加熱工程は必要に応じて設けられるものであり、その加熱温度は、25〜100℃であり、好ましくは、50〜100℃である。100℃を超えると、光学物品1〜4が変質・劣化するおそれがある。加熱時間は1〜30min程度であることが好ましい。
なお、この加熱工程は加圧工程の後で単独に行ってもよいが、加圧工程と同時に行うことが接合強度を強める上で好ましい。
【0036】
以上の工程から、図3で示される位相差板12とIRカットガラス板13とが積層された部材が製造される。図3で示される光学ローパスフィルタ3は、この積層された部材の両側に、別途製造された複屈折板11,14を配置して製造される。
そして、図2で示される光学ローパスフィルタ2は位相差板12がプラズマ重合膜130で接合されたIRカットガラス板13を第一光学基材とし、複屈折板11を第二光学基材として、前述と同様のプラズマ重合膜形成工程、表面活性化工程及び貼合工程を実施して積層体を製造し、この積層体に、別途製造された複屈折板14を配置して製造される。
図1で示される光学ローパスフィルタ1は、複屈折板11を第一光学基材とし、位相差板12を第二光学基材として前述のプラズマ重合膜形成工程、表面活性化工程及び貼合工程を実施して第一積層体を製造し、IRカットガラス板13を第一光学基材とし、複屈折板14を第二光学基材として前述のプラズマ重合膜形成工程、表面活性化工程、貼合工程を実施して第二積層体を製造し、さらに、第一積層体を第一光学基材とし、第二積層体を第二光学基材として前述のプラズマ重合膜形成工程、表面活性化工程及び貼合工程を実施して製造される。
【0037】
従って、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)第一光学基材としての位相差板12と、第二光学基材としてのIRカットガラス板13と、これらの位相差板12とIRカットガラス板13とを分子接合する接合層10とを備え、この接合層10はプラズマ重合膜130とした。そのため、基材の接合のための接着剤が不要となるから、位相差板12とIRカットガラス板13との接合部分に厚さのバラツキがなくなって波面収差がなく、さらに、接着剤を使用しないことで、耐光性が向上する。
【0038】
(2)位相差板12の接合面にプラズマ重合膜130を形成し、このプラズマ重合膜130を活性化し、プラズマ重合膜130の表面が活性化された位相差板12とIRカットガラス板13とを貼り合わせて一体化して位相差板12とIRカットガラス板13との積層体を製造する。そして、重合膜を形成するにあたり、位相差板12の接合面の外周縁に沿ってマスキングをし、位相差板12の外周縁から所定寸法tだけ離れた領域をプラズマ重合膜が形成されない領域とする。従って、位相差板12とIRカットガラス板13とを有する光学ローパスフィルタ1〜3を容易に製造することができる製造方法を提供することができる。
【0039】
(3)位相差板12とIRカットガラス板13とを貼り合せるために、位相差板12とIRカットガラス板13とを一端部同士を当接し、この当接した部分を回動中心として他端部同士を貼り合わせるようにしたから、この貼合作業に伴ってIRカットガラス板13とプラズマ重合膜130との間の気泡が一端部から他端部側に追い出されることになり、気泡の混入がなくなり、高品質な光学ローパスフィルタ1〜3を提供することができる。
【0040】
(4)プラズマ重合膜130を位相差板12の外周端から寸法tだけ離しているから、位相差板12とIRカットガラス板13との端部同士を当接させる際に、これらがずれても、プラズマ重合膜130をIRカットガラス板13の角部で削ることがない。そのため、プラズマ重合膜130が削れて粉が舞い散って接合部分に混入することがないから、高品質の光学ローパスフィルタ1〜3を提供することができる。
【0041】
(5)位相差板12とIRカットガラス板13とを貼り合せるために、位相差板12を基台201に設置し、IRカットガラス板13を天板202に設置し、この天板202を基台201に対して揺動させてIRカットガラス板13を位相差板12に対向させるとともに、天板202を基台201の平面内で相対的に移動させて位相差板12とIRカットガラス板13とを位置合わせし、天板202を基台201に対してさらに揺動させて位相差板12とIRカットガラス板13とを一端部から他端部にかけてプレスした。そのため、位相差板12とIRカットガラス板13とを貼り合せるための工程を、基台201と天板202とが揺動自在に取り付けられた貼合装置200を用いて簡単に実施することができるから、生産効率が高いものとなる。
【0042】
(6)基台201に配置される位相差板12の四方を4本の位置決めピン204で位置決めし、天板202に配置されるIRカットガラス板13の四方を4本の位置決めピン204で位置決めしたから、位相差板12とIRカットガラス板13とがそれぞれその平面内での移動が規制されることになり、貼合作業を正確に実施することができる。
(7)接合層10の外周縁は、その4辺が位相差板12とIRカットガラス板13との双方の4辺から同じ寸法tだけ離れて形成されているから、位相差板12やIRカットガラス板13を基板201や天板202に設置する際に、設置姿勢が180°変わっていても問題がない。そのため、作業の効率化を図ることができる。
【0043】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、位相差板12の接合面にのみプラズマ重合膜130を形成したが、本発明では、位相差板12とIRカットガラス板13との双方にそれぞれプラズマ重合膜130を形成するものであってもよい。
さらに、前記実施形態では、光学物品として光学ローパスフィルタを例示したが、本発明では、第一光学基材と第二光学基材とを接合層を介して互いに接合する構造のものであれば、他の光学物品、例えば、積層波長板、ガラス板付き波長板等に適用することができる。
【0044】
また、光学ローパスフィルタ1〜3の接合層10が形成される外縁は各基材の各辺から同じ寸法tとされたが、本発明では、この寸法を各辺で相違させるものでもよく、さらには、互いに対向する2辺に形成され残りの2辺は寸法tが0であってもよい。
さらに、本発明では、間に接合層10を挟んだ状態で、第一光学基材と第二光学基材とを互いに平行にしたまま近接させて互いに貼り合わせるようにしてもよい。仮に、貼合装置を使用する場合であっても、位置決めピン204は必ずしも使用することを要しない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、ピックアップ装置、プロジェクタ、その他の装置に用いられる光学物品に利用できる。
【符号の説明】
【0046】
1,2,3…光学ローパスフィルタ(光学物品)、10…接合層、11…複屈折板、12…位相差板(第一光学基材)、13…IRカットガラス板(第二光学基材)、14…複屈折板、130…プラズマ重合膜、200…貼合装置、201…基板、202…天板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子接合する接合層を備えた光学物品の製造方法において、
第一光学基材の外周縁の一端部と第二光学基材の外周縁の一端部とを当接し、この当接した部分を回動中心として、他端部同士を近接しながら貼り合わせる貼合工程を有することを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された光学物品の製造方法において、
前記貼合工程は、前記第一光学基材を基台に設置し、前記第二光学基材を前記基台に揺動自在に取り付けられた天板に設置する設置工程と、前記天板を前記基台に対して揺動して前記天板に設置された前記第二光学基材を前記基台に設置された前記第一光学基材に対向させるとともに、前記天板を前記基台の平面方向に対して移動させ前記第二光学基材を前記第一光学基材に対して位置合わせする位置合わせ工程と、前記天板を前記基台に対して揺動させ前記第一光学基材と前記第二光学基材とを一端部から他端部にかけて近接させてプレスするプレス工程とを備えたことを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された光学物品を製造する方法であって、
前記第一光学基材の接合面と前記第二光学基材の接合面の少なくとも一方にプラズマ重合膜を形成する重合膜形成工程と、
前記接合面に形成された前記プラズマ重合膜を活性化する表面活性化工程と、
前記プラズマ重合膜の表面が活性化された前記第一光学基材と前記第二光学基材とを貼り合わせて一体化する前記貼合工程と、を備え、
前記重合膜形成工程は、接合面の少なくとも一部の外周縁に沿ってマスキングをした状態で膜形成することを特徴とする光学物品の製造方法。
【請求項4】
第一光学基材と、第二光学基材と、これらの第一光学基材と第二光学基材とを分子接合する接合層とを備え、前記接合層はプラズマ重合膜であり、前記接合層の外周縁の少なくとも一端部は前記第一光学基材と前記第二光学基材との双方の外周縁の端部から離れて形成されていることを特徴とする光学物品。
【請求項5】
請求項4に記載された光学物品において、前記第一光学基材は位相差板であり、前記第二光学基材は赤外線をカットする薄膜または吸収層が形成されたIRカットガラス板であることを特徴とする光学物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−191132(P2010−191132A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34876(P2009−34876)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】