説明

光学用樹脂組成物及び成形体

【課題】透明樹脂の機械特性及び耐熱性を損なうことなく、複屈折が低下した光学用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】透明樹脂と9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物とで構成された樹脂組成物において、前記フルオレン化合物の割合を、前記透明樹脂100重量部に対して1〜10重量部に調製し、複屈折を低減する。前記透明樹脂は、ポリカーボネート系樹脂及び/又はポリエステル系樹脂であってもよい。前記フルオレン化合物の割合は、透明系樹脂100重量部に対して2〜5量部程度であってもよい。前記光学用樹脂組成物は、厚み0.5mmのフィルムを1.7倍に一軸延伸したフィルムの波長600nmにおける複屈折を、透明樹脂の複屈折に対して50%以上低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的特性及び機械的特性に優れた透明樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
光学樹脂としてのポリカーボネート系樹脂は、透明で屈折率が高いため、光学材料として汎用されている。しかし、ポリカーボネート系樹脂は、延伸などの成形により複屈折が上昇し易く、高度な光学的特性が要求される近年の光学材料(光学レンズなど)では改質が望まれている。一方、フルオレン骨格の9位に芳香族環が結合した化合物は、カルド構造を形成し、高い屈折率及び低い複屈折を有する化合物であり、ポリマーの改質剤又は添加剤としても利用されている。
【0003】
特開2005−162785号公報(特許文献1)には、反応性基を有し、かつベンゼン環が結合されたフルオレン化合物と、熱可塑性樹脂とで構成された樹脂組成物が開示されている。この文献には、フルオレン化合物の割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば、1〜80重量部であると記載され、実施例では、ポリカーボネート100重量部に対して、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル30〜40重量部、ビスフェノキシエタノールフルオレン40重量部、又はビスフェノキシエタノールジアクリレート40重量部が配合され、透明性を有し、高い屈折率を有することが確認されている。さらに、この樹脂組成物は、高い光学的特性(高屈折率や低複屈折など)を有しているため、光学レンズ、光学フィルム、光学シート、ピックアップレンズ、ホログラム、液晶用フィルム、有機EL用フィルムなどに好適に利用できると記載されている。
【0004】
しかし、この文献には、ポリカーボネートの複屈折を低減させることは記載されていない。さらに、この文献の実施例で調製された樹脂組成物は、脆くて強度が低く、ブリードアウトも発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−162785号公報(特許請求の範囲、段落[0060][0079]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、透明樹脂の機械特性及び耐熱性を損なうことなく、複屈折が低下した光学用樹脂組成物及びその成形体を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、射出成形や延伸しても低い複屈折を維持できる光学用樹脂組成物及びその成形体(光学フィルムなどの光学部材など)を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、屈折率が高く、ブリードアウトやゲルの発生が抑制された光学用樹脂組成物及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリカーボネートなどの透明樹脂に対して、少量のフルオレン化合物を配合することにより、樹脂本来の機械特性及び耐熱性を損なうことなく、複屈折を低減できることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の光学用樹脂組成物は、透明樹脂と9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物とで構成された樹脂組成物であって、前記フルオレン化合物の割合が、前記透明樹脂100重量部に対して1〜10重量部である。前記透明樹脂は、ポリカーボネート系樹脂及び/又はポリエステル系樹脂であってもよい。前記ポリエステル系樹脂は、フルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂であってもよい。前記フルオレン化合物は、下記式(1)で表されるフルオレン化合物であってもよい。
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、環Arは芳香族炭化水素環を示し、Rは、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基又は基−[O−(RO)−X](式中、Rはアルキレン基を示し、基Xは水素原子又はグリシジル基を示し、kは0又は1以上の整数を示す。但し、kが0であるとき、Xは水素原子でない)を示し、Rは、アルキル基又はアリール基を示し、mは1〜5の数を示し、nは0〜4の数を示す。但し、Rのうち、少なくとも1つは、ヒドロキシル基又は基−[O−(RO)−X]である]。
【0013】
前記フルオレン化合物の割合は、透明樹脂100重量部に対して2〜5重量部であってもよい。本発明の光学用樹脂組成物は、厚み0.5mmのフィルムをガラス転移温度よりも30℃高い温度で1.7倍に一軸延伸したフィルムの波長600nmにおける複屈折が、透明樹脂の複屈折に対して50%以上低い。
【0014】
本発明には、前記光学用樹脂組成物で形成された成形体も含まれる。また、本発明には、透明樹脂100重量部に9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物1〜10重量部を添加し、複屈折を低減する方法も含まれる。さらに、本発明には、前記光学用樹脂組成物を射出成形し、複屈折を透明樹脂の複屈折に対して50%以上低減させる方法も含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、ポリカーボネートなどの透明樹脂に対して、少量のフルオレン化合物を配合するため、透明樹脂本来の機械的特性及び耐熱性を損なうことなく、複屈折を低下できる。特に、樹脂組成物を射出成形や延伸しても低い複屈折を維持できる。さらに、この光学用樹脂組成物は、屈折率も高く、ブリードアウトやゲルの発生も抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[光学用樹脂組成物]
本発明の光学用樹脂組成物は、透明樹脂と9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物とで構成されている。
【0017】
透明樹脂としては、例えば、環状オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチルなど)、アクリロニトリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などが例示できる。これらの透明樹脂のうち、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。これらの透明樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0018】
(ポリカーボネート系樹脂)
ポリカーボネート系樹脂としては、慣用のポリカーボネート、例えば、ビスフェノール類をベースとする芳香族ポリカーボネートなどが利用できる。
【0019】
ビスフェノール類としては、例えば、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシトリル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシキシリル)プロパンなどのビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカンなど]、ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類[例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4−10シクロアルカンなど]、ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなど]、ビス(ヒドロキシアリール)エーテル類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルなど]、ビス(ヒドロキシアリール)ケトン類[例えば、4,4′−ジ(ヒドロキシフェニル)ケトンなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)など]、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシドなど]、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類[例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィドなど]などが挙げられる。
【0020】
これらのビスフェノール類は、C2−4アルキレンオキサイド付加体であってもよい。これらのビスフェノール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのビスフェノール類のうち、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどのビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類などが好ましい。
【0021】
ポリカーボネート系樹脂は、ジカルボン酸成分(脂肪族、脂環族又は芳香族ジカルボン酸又はその酸ハライドなど)を共重合したポリエステルカーボネート系樹脂であってもよい。これらのポリカーボネート系樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましいポリカーボネート系樹脂は、ビス(ヒドロキシフェニル)C1−6アルカン類をベースとする樹脂、例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂である。
【0022】
ポリカーボネート系樹脂の数平均分子量は10000〜100000程度の範囲から選択でき、例えば、10000〜70000、好ましくは15000〜60000、さらに好ましくは20000〜50000(特に22000〜35000)程度である。ポリカーボネート系樹脂の分子量がこの範囲にあると、成形性及びフルオレン化合物の分散性が向上する。
【0023】
ポリカーボネート系樹脂の流動性(MVR)は、ISO1133(300℃、1.2kg荷重(11.8N))に準拠して、例えば、3〜30cm/10分、好ましくは5〜25cm/10分、さらに好ましくは6〜15cm/10分(特に8〜12cm/10分)程度である。
【0024】
ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、100〜250℃程度の範囲から選択でき、例えば、110〜200℃、好ましくは115〜180℃、さらに好ましくは120〜160℃(特に130〜150℃)程度である。
【0025】
(ポリエステル系樹脂)
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ジオール成分とジカルボン酸成分とを反応(縮合反応)させて得られるポリエステルなどが挙げられる。
【0026】
ジオール成分としては、例えば、アルカンジオール(エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのC2−10アルカンジオール、好ましくはC2−6アルカンジオール、さらに好ましくはC2−4アルカンジオール)、ポリアルカンジオール(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ又はトリC2−4アルカンジオールなど)、シクロアルカンジオール(例えば、シクロヘキサンジオールなどのC5−8シクロアルカンジオール)、ジ(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン(例えば、シクロペンタンジメタノール、シクロヘキサンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C5−8シクロアルカンなど)、ジヒドロキシアレーン(ハイドロキノン、レゾルシノールなど)、芳香脂肪族ジオール[1,4−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノールなどのジ(ヒドロキシC1−4アルキル)C6−10アレーンなど]、ビフェノール、ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシフェニル)C1−10アルカンなど]、フルオレン骨格を有するジオール成分[例えば、後述する9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類又はそのアルキレンオキシド付加体など]などが挙げられる。これらのジオール成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0027】
ジカルボン酸成分としては、例えば、アルカンジカルボン酸(アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのC2−20アルカン−ジカルボン酸、好ましくはC2−14アルカン−ジカルボン酸など)などの脂肪族ジカルボン酸;シクロアルカンジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸などのC5−10シクロアルカン−ジカルボン酸)、ジ又はトリシクロアルカンジカルボン酸(デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸など)などの脂環族ジカルボン酸;アレーンジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸などのC6−14アレーン−ジカルボン酸など)、ビフェニルジカルボン酸(2,2’−ビフェニルジカルボン酸など)、ジフェニルアルカンジカルボン酸(4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、2,2−ジ(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのジフェニルC1−10アルカンジカルボン酸)、ジフェニルケトンジカルボン酸(4,4′−ジフェニルケトンジカルボン酸など)、ジフェニルエーテルジカルボン酸(例えば、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸など)、フルオレン骨格を有する芳香族ジカルボン酸[例えば、後述する式(1)で表される9,9−ビス(カルボキシアリール)フルオレン類など]、これらの誘導体(ジカルボン酸ハライド、ジカルボン酸無水物、低級アルキルエステル(メチルエステル、エチルエステルなどのC1−4アルキルエステル、好ましくはC1−2アルキルエステルなど)など)などが挙げられる。これらのジカルボン酸成分は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0028】
これらのポリエステル系樹脂のうち、光学特性の点から、ポリアルキレンナフタレート系樹脂、フルオレン骨格を有するポリエステル(フルオレン含有ポリエステル系樹脂)が好ましい。
【0029】
ポリアルキレンナフタレート系樹脂としては、アルキレンナフタレート単位(特にエチレン−2,6−ナフタレートなどのC2−4アルキレンナフタレート単位)のホモポリエステル、又はアルキレンナフタレート単位の含有量が80モル%以上(特に90モル%以上)のコポリエステルが挙げられる。コポリエステルを構成する共重合性単量体としては、前述のジカルボン酸成分、ジオール成分、ヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。これらの共重合性単量体のうち、テレフタル酸などのジカルボン酸成分などが汎用される。ポリアルキレンナフタレート系樹脂としては、ポリエチレンナフタレート系樹脂などのポリC2−4アルキレンナフタレート系樹脂)が好ましい。
【0030】
フルオレン含有ポリエステル系樹脂としては、フルオレン骨格を含有していればよいが、通常、ジオール成分がフルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂が使用される。フルオレン骨格を有するジオール成分[特に、BPEFなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシアリール)フルオレン]の割合は、ジオール成分全体に対して、例えば、30モル%以上(例えば、35〜100モル%程度)、好ましくは40モル%以上(例えば、45〜99モル%程度)、さらに好ましくは50モル%以上(例えば、55〜95モル%程度)であってもよい。フルオレン含有ポリエステル系樹脂のジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸などのC6−14アレーン−ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのC5−10シクロアルカン−ジカルボン酸などであってもよい。
【0031】
ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、例えば、3000〜1000000程度の範囲から選択でき、例えば、5000〜800000、好ましくは8000〜600000、さらに好ましくは10000〜500000(例えば、30000〜500000)程度であってもよい。なお、上記重量平均分子量は、ポリスチレンを基準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより評価した値であってもよい。
【0032】
ポリエステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、50〜350℃、好ましくは60〜300℃、さらに好ましくは70〜250℃、特に80〜200℃程度であってもよい。
【0033】
(フルオレン化合物)
フルオレン化合物は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有していればよく、例えば、下記式(1)で表される。
【0034】
【化2】

【0035】
(式中、環Arは芳香族炭化水素環を示し、Rは、炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、N,N−二置換アミノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、N−モノ置換アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基又はその誘導体を示し、Rは、シアノ基、ハロゲン原子又は炭化水素基を示し、mは1〜5の数を示し、nは0〜4の数を示す)
前記式(1)において、環Arで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環(詳細には、少なくともベンゼン環を含む縮合多環式炭化水素環)などが挙げられる。縮合多環式芳香族炭化水素環としては、縮合二環式炭化水素環(例えば、インデン環、ナフタレン環などのC8−20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環)、縮合三環式炭化水素環(例えば、アントラセン環、フェナントレン環など)などの縮合二乃至四環式炭化水素環などが挙げられる。好ましい縮合多環式芳香族炭化水素環としては、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられ、特にナフタレン環が好ましい。なお、フルオレンの9位に置換する2つの環Arは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0036】
好ましい環Arには、ベンゼン環及びナフタレン環が含まれる。なお、環Arが、縮合多環式芳香族炭化水素環である場合、フルオレンの9位に置換する環Arの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9位に置換するナフチル基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
【0037】
基Rで表される置換基としては、例えば、炭化水素基[例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基などのC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基、キシリル基などなどのC6−10アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)など]、アルコキシ基(メトキシ基などのC1−4アルコキシ基など)、アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など)、N,N−二置換アミノ基(ジメチルアミノ基などのN,N−ジC1−6アルキルアミノ基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子など)、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、N−モノ置換アミノ基(メチルアミノ基などのN−モノC1−6アルキルアミノ基など)、カルボキシル基、ヒドロキシル基又はその誘導体などが挙げられる。
【0038】
ヒドロキシル基の誘導体としては、例えば、基−[O−(RO)−X](式中、Rはアルキレン基を示し、基Xは水素原子又はグリシジル基を示し、kは0又は1以上の整数を示す。但し、kが0であるとき、Xは水素原子でない)などが挙げられる。
【0039】
基Rで表されるアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、C2−4アルキレン基(エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基など)などが例示でき、特に、C2−3アルキレン基(特に、エチレン基、プロピレン基)が好ましい。なお、Rは、対応する活性水素含有基R(又はR)において、同一の又は互いに異なるアルキレン基であってもよいが、通常、同一である。
【0040】
アルキレンオキシ単位の置換数(又は付加数)kは、同一又は異なって、0又は1〜15程度の範囲から選択でき、例えば、0又は1〜12、好ましくは0又は1〜8、さらに好ましくは0又は1〜6、特に0又は1〜4程度であってもよい。なお、kが2以上の場合、ポリアルコキシ基(ポリアルキレンオキシ基)は、同一のアルキレン基で構成されていてもよく、異種のアルキレン基(例えば、エチレン基とプロピレン基)が混在して構成されていてもよいが、通常、同一のアルキレン基で構成されている場合が多い。
【0041】
これらのうち、基Rとしては、アルキル基(C1−4アルキル基)、アリール基(C6−8アリール基)、ヒドロキシル基、前記基−[O−(RO)−X]が好ましい。さらに、Rのうち、少なくとも1つは、ヒドロキシル基又は前記基−[O−(RO)−X]であるのが特に好ましい。
【0042】
基Rは、単独で又は2種以上組み合わせてベンゼン環に置換していてもよい。また、基Rは互いに同一又は異なっていてもよいが、通常、同一である。さらに、基Rは、同一のベンゼン環において、異なっていてもよく、同一であってもよい。
【0043】
なお、基Rの置換位置は、特に限定されず、フルオレンの9位に置換するフェニル基の2〜6位から選択できる。通常、1つのヒドロキシル基又は前記基−[O−(RO)−X]が、フルオレンの9位に置換するフェニル基の4位(すなわち、フェニル基に対して4位)に置換していてもよい。
【0044】
好ましい置換数mは、1〜4、さらに好ましくは1〜3(特に1〜2)である。また、置換数mのうち、ヒドロキシル基又は前記基−[O−(RO)−X]の数は、1〜3、特に1〜2が好ましい。例えば、mが2であるとき、2つの基Rのうち1又は2の基がヒドロキシル基又は前記基−[O−(RO)−X]であってもよい。
【0045】
基Rで表される置換基としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などが挙げられ、特に、アルキル基、アリール基(特にアルキル基、特にメチル基)である場合が多い。基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、基Rは、同一のベンゼン環において、異なっていてもよく、同一であってもよい。なお、フルオレン骨格を構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数nは、0又は1、特に、0である。なお、置換数nは、異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0046】
具体的なフルオレン化合物には、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類又はその誘導体などが含まれる。さらに、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類としては、9,9−ビス(モノヒドロキシアリール)フルオレン類、9,9−ビス(ジヒドロキシアリール)フルオレン類などが挙げられる。
【0047】
9,9−ビス(モノヒドロキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン[9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスフェノールフルオレン、BPF)、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレン(BNF)などの9,9−ビス(ヒドロキシC6−10アリール)フルオレンなど]、置換基を有する9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン{例えば、9,9−ビス(アルキル−ヒドロキシアリール)フルオレン[9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレン、BCF)、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−5−メチル−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジC1−4アルキル−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレンなど]、9,9−ビス(シクロアルキル−ヒドロキシアリール)フルオレン[9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C5−8シクロアルキル−モノヒドロキシC6−10アリール)フルオレンなど]、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−8アリール−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレンなど]、9,9−ビス(アラルキル−ヒドロキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−ベンジルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−8アリールC1−2アルキル−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレンなど]など}などが挙げられる。
【0048】
9,9−ビス(ジヒドロキシアリール)フルオレン類としては、上記9,9−ビス(モノヒドロキシアリール)フルオレン類に対応するフルオレン類、例えば、9,9−ビス(ジヒドロキシアリール)フルオレン[9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスカテコールフルオレン(BCAF))などの9,9−ビス(ジヒドロキシC6−10アリール)フルオレンなど]、置換基を有する9,9−ビス(ジヒドロキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−5−メチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−ジヒドロキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(2,4−ジヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジC1−4アルキル−ジヒドロキシC6−10アリール)フルオレンなど]などが例示できる。
【0049】
なお、ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類は、種々の合成方法、例えば、(a)塩化水素ガス及びメルカプトカルボン酸の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(文献[J. Appl. Polym. Sci., 27(9), 3289, 1982]、特開平6−145087号公報、特開平8−217713号公報)、(b)酸触媒(及びアルキルメルカプタン)の存在下、9−フルオレノンとアルキルフェノール類とを反応させる方法(特開2000−26349号公報)、(c)塩酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法(特開2002−47227号公報)、(d)硫酸及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させ、炭化水素類と極性溶媒とで構成された晶析溶媒で晶析させてビスフェノールフルオレンを製造する方法(特開2003−221352号公報)などを利用して製造できる。
【0050】
また、9,9−ビス(ジヒドロキシアリール)フルオレン類は、前記9,9−ビス(モノヒドロキシアリール)フルオレン類の製造方法において、フェノール類の代わりに、ジヒドロキシフェノール類を使用することにより製造できる。これらの方法のうち、特に、塩酸を使用する方法(c)、又は特定の晶析溶媒を使用する方法(d)を応用すると、より高収率でかつ高純度の生成物が得られる場合が多い。
【0051】
9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類の誘導体としては、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類のアルキレンオキシド付加体、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類又はそのアルキレンオキシド付加体のグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0052】
(アルキレンオキシド付加体)
9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類のアルキレンオキシド付加体としては、前記例示のビス(モノ乃至ジヒドロキシアリール)フルオレン類にアルキレンオキシド(C2−4アルキレンオキシド、特にC2−3アルキレンオキシド)が付加した化合物が挙げられる。アルキレンオキシド単位の付加数(前記式におけるk)は、前記と同様(例えば、1〜12、好ましくは1〜8、さらに好ましくは1〜6、特に1〜4程度)であり、特に限定されないが、以下に、一例として、kが1の化合物を例示する。
【0053】
代表的なアルキレンオキシド付加体には、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレン,BPEF)、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシC2−4アルコキシ)−C6−10アリール]フルオレンなど]、置換基を有する9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシアリール)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン(ビスクレゾールエタノールフルオレン,BCEF)などの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−C1−4アルキルC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス[(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC2−4アルコキシ−ジC1−4アルキルC6−10アリール)フルオレンなど}などが挙げられる。
【0054】
なお、9,9−ビス(モノヒドロキシアリール)フルオレン類のアルキレンオキシド付加体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類と、対応するアルキレンオキサイド(C2−4アルキレンオキシド)又はアルキレンカーボネート(C2−4アルキレンカーボネート)とを、必要に応じて触媒(塩基触媒など)の存在下で反応させる方法や、フルオレノンと対応するフェノキシC2−4アルコール類とを反応させる方法(例えば、特開平11−349657号公報)などにより製造してもよい。また、9,9−ビス(ジヒドロキシアリール)フルオレン類のアルキレンオキシド付加体は、前記製造方法において、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類又はフェノキシC2−4アルコール類に代えて、対応するアルコール類[9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン類、ジ(ヒドロキシC2−4アルコキシ)ベンゼン類など]を使用することにより製造できる。
【0055】
(グリシジルエーテル)
9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類のグリシジルエーテルとしては、前記例示の9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類のグリシジルエーテル化物が挙げられる。
【0056】
代表的な9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類のグリシジルエーテルとしては、例えば、9,9−ビス(グリシジルオキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン(ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル,BPFG)、9,9−ビス[6−グリシジルオキシ−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレンなど]、置換基を有する9,9−ビス(グリシジルオキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレンジグリシジルエーテル,BCFG)などの9,9−ビス(C1−4アルキル−グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9などの9,9−ビス(ジC1−4アルキル−グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレンなど]などが挙げられる。
【0057】
代表的なアルキレンオキシド付加体のグリシジルエーテルとしては、前記例示の9,9−ビス(モノヒドロキシアリール)フルオレン類のアルキレンオキシド付加体のグリシジルエーテル、例えば、9,9−ビス(グリシジルオキシアルコキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−グリシジルオキシエトキシフェニル)フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル,BPEFG)などの9,9−ビス(グリシジルオキシC2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレンなど]、置換基を有する9,9−ビス(グリシジルオキシアルコキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−グリシジルオキシエトキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキルグリシジルオキシC2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシエトキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジC1−4アルキルグリシジルオキシC2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレンなど]などが挙げられる。
【0058】
なお、グリシジルエーテルは、9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類又はそのアルキレンオキシド付加体と、エピクロルヒドリンとを反応させることにより得ることができる。
【0059】
これらのフルオレン化合物のうち、ヒドロキシル基又はエポキシ基を含むフルオレン化合物、例えば、BPFやBNFなどの9,9−ビス(ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン、BCFや9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(モノ又はジC1−4アルキル−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−8アリール−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン、BCAFなどの9,9−ビス(ジヒドロキシC6−10アリール)フルオレン、BPEFなどの9,9−ビス[(2−ヒドロキシC2−4アルコキシ)−C6−10アリール]フルオレン、BPFGなどの9,9−ビス(グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン、BPEFG)などの9,9−ビス(グリシジルオキシC2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレンなどが好ましい。
【0060】
フルオレン化合物の割合は、透明樹脂(例えば、ポリカーボネート系樹脂及び/又はフルオレン含有ポリエステル系樹脂、特にポリカーボネート系樹脂)100重量部に対して10重量部以下(例えば、1〜10重量部)であればよく、例えば、1.2〜10重量部(例えば、1.5〜8重量部)、好ましくは1.5〜7.5重量部(例えば、2.5〜7.5重量部)、さらに好ましくは2〜6重量部(特に2.5〜5重量部)程度である。本発明では、フルオレン化合物をこのような割合で透明樹脂に配合することにより、透明樹脂の機械的特性を損なうことなく、複屈折を低下できる。さらに、フルオレン化合物の割合を5重量部以下とすることにより、例えば、ヒドロキシル基を有するフルオレン化合物を配合する場合には、強度が低下し脆くなるのが抑制され、エポキシ基を有するフルオレン化合物を配合する場合には、ゲルの発生を抑制できる。エポキシ基を有するフルオレン化合物の場合、ゲル抑制の点から、7.5重量部以下(例えば、1〜7.5重量部)であってもよい。
【0061】
(光学用樹脂組成物及びその特性)
本発明の光学用樹脂組成物は、透明性や複屈折などの光学特性を損なわない範囲で、慣用の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、安定剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、耐熱性改良剤又は撥水性改良剤などが利用できる。これらの添加剤は、それぞれ、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。添加剤の割合は、透明樹脂100重量部に対して、例えば、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部程度であってもよい。
【0062】
本発明の光学用樹脂組成物は、フルオレン化合物の少量の添加により複屈折を低下できる。一方、屈折率は物質に固有の特性であり、屈折率の高い物質の添加量に比例して樹脂組成物の屈折率も増加する。従って、従来の樹脂組成物では、高い屈折率を発現させるために、透明樹脂(特にポリカーボネート系樹脂)に対して比較的多量のフルオレン化合物(フルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂など)が配合されている。これに対して、本発明では、透明樹脂100重量部に対して10重量部以下という少量の割合でフルオレン化合物を添加することにより、透明樹脂の複屈折を低下できる。特に、ポリカーボネート系樹脂の複屈折は、延伸などの成形に供した場合に上昇し易いが、このような場合であっても複屈折の上昇が抑制できる。
【0063】
具体的には、厚み0.5mmのフィルムを透明樹脂のガラス転移温度よりも30℃高い温度で1.7倍に一軸延伸したフィルムの複屈折は、波長600nmにおいて、ポリカーボネート系樹脂の場合、例えば、1×10−5〜10×10−4、好ましくは0.5×10−4〜8×10−4、さらに好ましくは0.6×10−4〜5×10−4(特に0.8×10−4〜4×10−4)程度である。一方、ポリエステル系樹脂(特にフルオレン含有ポリエステル系樹脂)の場合、例えば、1×10−5〜5×10−4、好ましくは0.3×10−4〜4×10−4、さらに好ましくは0.5×10−4〜3×10−4(特に0.6×10−4〜2×10−4)程度である。
【0064】
本発明では、フルオレン化合物を配合することにより複屈折が低下し、配合後の樹脂組成物の複屈折は、配合前の透明樹脂の複屈折に対して50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上(特に80%以上)低下する。
【0065】
さらに、本発明の樹脂組成物は、フルオレン化合物の割合が少ないため、ポリカーボネートなど透明樹脂の耐熱性も維持できる。光学用樹脂組成物のガラス転移温度は、100〜200℃、好ましくは105〜150℃、さらに好ましくは110〜140℃(特に115〜135℃)程度である。
【0066】
[光学用樹脂組成物及び成形体の製造方法]
本発明の光学用樹脂組成物は、ポリカーボネートやポリエステルなどの透明樹脂、フルオレン化合物及び必要により他の成分(前記機能発現剤などの添加剤、溶媒など)を混合することにより製造又は調製できる。混合方法としては、特に限定されず、例えば、リボンブレンダ、タンブルミキサ、ヘンシェルミキサなどの混合機や、オープンローラ、ニーダ、バンバリーミキサ、押出機などの混練機による混合手段などを用いた溶融混練による方法が利用できる。これらの混合方法は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0067】
また、樹脂組成物は、溶媒を混合した塗布液の形態であってもよい。塗布液を構成する溶媒としては、双方を溶解する事が可能であれば特に限定されず、例えば、炭化水素類(ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、エステル類(酢酸エチルなど)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなど)などが例示できる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0068】
溶媒の割合は、塗布性を損なわない範囲であればよく、樹脂組成物の固形分1重量部に対して、溶媒1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部、さらに好ましくは3〜30重量部程度であってもよい。
【0069】
本発明の成形体(又は光学部材)は、前記光学用樹脂組成物の形態(樹脂ペレット、塗布液など)に応じて、公知の成形方法、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法(例えば、Tダイ法、インフレーション法など)、カレンダー法、熱成形法(特に、熱プレス法)、トランスファー成形法、ブロー成形法、キャスティング成形法などを利用して前記樹脂組成物を成形することにより得ることができる。本発明では、特に、射出成形法などの成形方法であっても、複屈折の上昇を抑制できる。
【0070】
本発明の成形体がフィルム状(又はシート状)の場合、未延伸フィルムであってもよいが、延伸(又は延伸処理)されたフィルムであってもよい。フィルム状成形体は光学フィルム又はシートを形成してもよい。延伸は、一軸延伸(例えば、縦延伸又は横延伸)又は二軸延伸(例えば、等延伸又は偏延伸)のいずれであってもよい。延伸倍率は、例えば、一軸延伸及び二軸延伸において各方向(又は一方向)にそれぞれ1.1〜10倍程度であってもよく、好ましくは1.2〜5倍、さらに好ましくは1.3〜3倍(特に1.5〜2倍)程度である。本発明では、延伸処理を施しても、複屈折の上昇を抑制できる。フィルム膜厚は、例えば、1〜1000μm、好ましくは3〜800μm、さらに好ましくは5〜500μm(特に、10〜300μm)程度であってもよい。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における複屈折の評価方法及び成分の略号は以下の通りである。
【0072】
(複屈折)
複屈折は、リタデーション測定装置(大塚電子(株)製、RETS−100)を用いて、波長600nmにおけるリタデーションを測定し、測定部分の厚みで割ることにより算出した。
【0073】
(成分の略号)
PC:ビスフェノールA型ポリカーボネート(住友ダウ(株)製、カリバー301−10)
FBP:フルオレン含有ポリエステル系樹脂(大阪ガスケミカル(株)製、OKP4HT、テレフタル酸とBPEFとエチレングリコールEG(BPEF/EG=70/30(モル比))との重縮合物)
BPEF:9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)
BPFG:9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)
BCF:9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)
【0074】
(比較例1)
PCを押出機(テクノベル(株)製、15mm押出機)を用いて樹脂温度280℃で溶融混練し、樹脂ペレットを得た。次に、得られた樹脂ペレットを用いて、卓上型ホットプレス機(神藤金属工業(株)製、型式NSF−50)を用いて200℃、30MPaでプレスし、厚さ約0.5mmのフィルムを調製した。得られたフィルムをガラス転移温度よりも30℃高い温度で延伸した後、延伸倍率1.7倍部分のリタデーションを測定し、複屈折を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例2)
FBPを押出機(テクノベル(株)製、15mm押出機)を用いて樹脂温度260℃で溶融混練し、樹脂ペレットを得た。次に、得られた樹脂ペレットを用いて、卓上型ホットプレス機(神藤金属工業(株)製、型式NSF−50)を用いて200℃、30MPaでプレスし、厚さ約0.5mmのフィルムを調製した。得られたフィルムをガラス転移温度よりも30℃高い温度で延伸した後、延伸倍率1.7倍部分のリタデーションを測定し、複屈折を算出した。結果を表1に示す。
【0076】
(参考例1及び比較例3)
PCとBPFGとを表1に示す割合でドライブレンドし、押出機(テクノベル(株)製、15mm押出機)を用いて樹脂温度280℃で溶融混練し、樹脂ペレットを得た。次に、得られた樹脂ペレットを用いて、卓上型ホットプレス機(神藤金属工業(株)製、型式NSF−50)を用いて200℃、30MPaでプレスし、厚さ約0.5mmのフィルムを調製した。参考例1については、ゲル化したため、複屈折の測定はできなかった。一方、比較例3については、シート化が困難であり、複屈折の測定はできなかった。
【0077】
(比較例4及び参考例2)
FBPとフルオレン化合物とを表1に示す割合でドライブレンドし、押出機(テクノベル(株)製、15mm押出機)を用いて樹脂温度280℃で溶融混練し、樹脂ペレットを得た。次に、得られた樹脂ペレットを用いて、卓上型ホットプレス機(神藤金属工業(株)製、型式NSF−50)を用いて200℃、30MPaでプレスし、厚さ約0.5mmのフィルムを調製した。比較例4については、シート化が困難であり、複屈折の測定はできなかった。一方、参考例2については、ゲル化したため、複屈折の測定はできなかった。
【0078】
(実施例1〜10)
PCと各種フルオレン化合物とを表1に示す割合でドライブレンドし、押出機(テクノベル(株)製、15mm押出機)を用いて樹脂温度280℃で溶融混練し、樹脂ペレットを得た。次に、得られた樹脂ペレットを用いて、卓上型ホットプレス機(神藤金属工業(株)製、型式NSF−50)を用いて200℃、30MPaでプレスし、厚さ約0.5mmのフィルムを調製した。得られたフィルムをガラス転移温度よりも30℃高い温度で延伸した後、延伸倍率1.7倍部分のリタデーションを測定し、複屈折を算出した。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例11〜14)
FBPとフルオレン化合物とを表1に示す割合でドライブレンドし、押出機(テクノベル(株)製、15mm押出機)を用いて樹脂温度280℃で溶融混練し、樹脂ペレットを得た。次に、得られた樹脂ペレットを用いて、卓上型ホットプレス機(神藤金属工業(株)製、型式NSF−50)を用いて200℃、30MPaでプレスし、厚さ約0.5mmのフィルムを調製した。得られたフィルムをガラス転移温度よりも30℃高い温度で延伸した後、延伸倍率1.7倍部分のリタデーションを測定し、複屈折を算出した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜14のフィルムは、比較例のポリカーボネートフィルムやフルオレンポリエステルフィルムよりも複屈折が低い。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の光学用樹脂組成物及びその成形体は、透明性に優れるとともに、応力歪み(又は成形)に伴う複屈折の増加が非常に抑制されているため、光学用途に有用である。具体的には、光学部材、例えば、CD(コンパクトディスク)[CD−ROM(シーディーロム:コンパクトディスク−リードオンリーメモリー)など]、CD−ROMピックアップレンズ、フレネルレンズ、レーザープリンター用fθ(エフシータ)レンズ、カメラレンズ、リアプロジェクションテレビ用投影レンズなどの光学レンズ;偏光フィルム及びそれを構成する偏光素子と偏光板保護フィルム、位相差フィルム、配向膜(配向フィルム)、視野角拡大(補償)フィルム、拡散板(フィルム)、プリズムシート、導光板、輝度向上フィルム、近赤外吸収フィルム、反射フィルム、反射防止(AR)フィルム、反射低減(LR)フィルム、アンチグレア(AG)フィルム、透明導電(ITO)フィルム、異方導電性(ACF)フィルム、電磁波遮蔽(EMI)フィルム、電極基板用フィルム、カラーフィルタ基板用フィルム、バリアフィルム、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス層、光学フィルム同士の接着層又は離型層などの光学フィルムなどの用途に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂と9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物とで構成された樹脂組成物であって、前記フルオレン化合物の割合が、前記透明樹脂100重量部に対して1〜10重量部である光学用樹脂組成物。
【請求項2】
透明樹脂がポリカーボネート系樹脂及び/又はポリエステル系樹脂である請求項1記載の光学用樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステル系樹脂がフルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂である請求項2記載の光学用樹脂組成物。
【請求項4】
フルオレン化合物が下記式(1)で表されるフルオレン化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の光学用樹脂組成物。
【化1】

[式中、環Arは芳香族炭化水素環を示し、Rは、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基又は基−[O−(RO)−X](式中、Rはアルキレン基を示し、基Xは水素原子又はグリシジル基を示し、kは0又は1以上の整数を示す。但し、kが0であるとき、Xは水素原子でない)を示し、Rは、アルキル基又はアリール基を示し、mは1〜5の数を示し、nは0〜4の数を示す。但し、Rのうち、少なくとも1つは、ヒドロキシル基又は基−[O−(RO)−X]である]
【請求項5】
フルオレン化合物の割合が、透明樹脂100重量部に対して2〜5重量部である請求項1〜4のいずれかに記載の光学用樹脂組成物。
【請求項6】
厚み0.5mmのフィルムをガラス転移温度よりも30℃高い温度で1.7倍に一軸延伸したフィルムの波長600nmにおける複屈折が、透明樹脂の複屈折に対して50%以上低い請求項1〜5のいずれかに記載の光学用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光学用樹脂組成物で形成された成形体。
【請求項8】
透明樹脂100重量部に9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン化合物1〜10重量部を添加し、複屈折を低減する方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の光学用樹脂組成物を射出成形し、複屈折を透明樹脂の複屈折に対して50%以上低減させる方法。

【公開番号】特開2011−8017(P2011−8017A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151228(P2009−151228)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】