説明

光学部材、その製造のための組成物

【解決手段】 重合性モノマー組成物と、前記重合性モノマー組成物と異なる屈折率を有する化合物であって、Hammett値(但し、置換基が複数ある場合にはそれらのHammett値の和平均)が0.04以下となる置換基で置換されたベンゼン環を有する化合物とを含有する、850nm用光学部材用重合性組成物を開示する。また、C7-20の脂環式(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種を含有する重合性モノマー組成物と、該重合性モノマー組成物と屈折率が異なり、溶解度パラメーターが10.9以下であり、上記条件の置換基で置換されたベンゼン環を有する化合物とを含む光学部材用の重合性組成物が

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材、具体的には、プラスチック光ファイバ、光導波路又は光学レンズに好ましく適用されるプラスチック光学部材、及びその製造用の重合性組成物の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光学部材は、同一の構造を有する石英系の光学部材と比較して、製造および加工が容易であること、および低価格であること等の利点があり、近年、光ファイバおよび光レンズ、光導波路など種々の応用が試みられている。特にこれら光学部材の中でも、プラスチック光ファイバは、素線が全てプラスチックで構成されているため、伝送損失が石英系と比較してやや大きいという短所を有するものの、良好な可撓性を有し、軽量で、加工性がよく、石英系光ファイバと比較して口径の大きいファイバとして製造し易く、さらに低コストに製造可能であるという長所を有する。従って、伝送損失の大きさが問題とならいない程度の短距離用の光通信伝送媒体として種々検討されている(例えば、POFコンソーシアム編「プラスチック光ファイバー」共立出版、1997年、第1〜8頁参照)。
【0003】
プラスチック光ファイバは、一般的には、重合体をマトリックスとする有機化合物からなる芯(本明細書において「コア部」と称する)とコア部と屈折率が異なる(一般的には低屈折率の)有機化合物からなる外殻(本明細書において「クラッド部」と称する)とから構成される。特に、中心から外側に向かって屈折率の大きさに分布を有するコア部を備えた屈折率分布型プラスチック光ファイバは、伝送する光信号の帯域を大きくすることが可能なため、高い伝送容量を有する光ファイバとして最近注目されている。この様な屈折率分布型光学部材の製法の一つに、界面ゲル重合を利用して、光学部材母材(本明細書において、「プリフォーム」と称する)を作製し、その後、前記プリフォームを延伸する方法が提案されている(例えば、POFコンソーシアム編「プラスチック光ファイバー」共立出版、1997年、第66〜72頁、及び国際公開WO93/08388号公報参照)。
【0004】
光伝送体には、高い伝送容量だけでなく、伝送損失が小さいことが要求される。特にプラスチック光ファイバでは、用いる光源波長が850nmの近赤外光域の場合、原子間の結合の伸縮振動の倍音による吸収が伝送損失を増大させる原因となっている。マトリックス材料においては、ポリマーの構成基であるC−H結合の伸縮振動の倍音が吸収損失を悪化させるため、水素原子をより重い原子(重水素あるいはフッ素など)に置換することが行われている(例えば、 POFコンソーシアム編「プラスチック光ファイバー」共立出版、1997年、第41〜66頁参照)。また、所望の屈折率分布に制御し、かつコア中心部位とコア外周部位との屈折率差を充分に確保するために添加される、マトリックス材料とは屈折率の異なる化合物(屈折率上昇剤もしくはドーパントと称される。それらは重合性であっても非重合性であってもよい化合物である)に関しては、大半がベンゼン環を含んだ化合物であり、芳香族C−H伸縮振動の4倍音吸収が伝送損失を増大させることが知られている。そのため、マトリックス材料同様、屈折率上昇剤についても重水素化が行われている(例えば、WO93/08488 第20−22頁参照)。前述したように、伝送損失低減化のために、屈折率上昇剤については、重水素化が行われているが、その場合、著しい低損失化は達成されるものの、化合物が一般に非常に高価であり、入手できる種類もごく限られるという問題点がある。
さらに、マトリックス材料とドーパントとの相溶性も伝送損失に大きく影響を与えることが知られている。また850nm付近には水酸基の倍音吸収が存在するため、ドーパントを含めたマトリックス材料の吸湿性も伝送損失に影響を与えることが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、850nmにおける光伝送損失が小さい光学部材を安価に製造可能な重合性組成物を提供することである。
本発明の他の課題は、850nmにおける光伝送損失が小さい光学部材を安価に提供することを課題とする。
本発明の他の課題は、850nmにおける光伝送損失が小さく、かつ、耐湿熱性の良好な光学部材を作製可能な光学部材用重合性組成物を提供することを課題とする。
本発明の他の課題は、850nmにおける光伝送損失が小さく、かつ耐湿熱性の良好な光学部材を安価に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ベンゼン環のC−H伸縮振動4倍音の吸収極大波長が置換基のHammett値と相関関係にあり、ベンゼン環に置換基として電子供与性基を導入した場合、前記吸収極大が長波長シフトすることを見出した。さらに種々の検討、例えば、溶解度パラメーターの観点で、該ドーパントとマトリックス材料の疎水化との組み合わせについての種々検討を、重ねた後、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0007】
一側面において、本発明は、
重合性モノマー組成物、
重合開始剤、および
前記重合性モノマー組成物と異なる屈折率を有する化合物であって、置換基を有するベンゼン環を含み、前記置換基のHammett値もしくは前記置換基が複数ある場合にはそれらのHammett値の和平均が0.04以下である化合物を含有する、
光源波長850nmに対応した光学部材用重合性組成物を提供する。
【0008】
本発明の態様として、前記重合性モノマー組成物が、プロペン酸及びその誘導体のエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含有する前記重合性組成物;前記重合性モノマー組成物が、(メタ)アクリル酸及びその誘導体のエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含有する前記重合性組成物;前記重合性モノマー組成物が、C−F結合を含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する前記重合性組成物;及び前記重合性モノマー組成物が、C−D(重水素)結合を含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である前記重合性組成物;が提供される。
【0009】
他の側面において、本発明は、前記組成物を重合して、屈折率の大きさに分布がある屈折率分布領域を形成してなる光学部材を提供する。
また、他の側面において、本発明は、(メタ)アクリル酸エステル類の重合体から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂組成物と、ベンゼン環上のC−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長が875nm以上であり、且つ前記樹脂組成物単体の屈折率と異なる屈折率を有する化合物とを含む光源波長850nmに対応した光学部材を提供すする。
【0010】
本発明の態様として、前記化合物が、下記一般式(1)で表される化合物から選択される前記光学部材;
【0011】
【化1】

式中、R1〜R10はそれぞれ水素原子もしくはアルキル基、アルケニル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基またはジアルキルアミノ基を表し、少なくとも4つはアルキル基、アルケニル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基またはジアルキルアミノ基である;屈折率の大きさに分布がある領域を有する前記光学部材;及び屈折率の大きさが中央から外側に向かって変化する領域を含む前記光学部材;が提供される。
【0012】
他の側面において、本発明は、一般式(2);
【0013】
【化2】

1は水素原子(H)または重水素原子(D)を表し、2つのX1は同一でも異なっていてもよく;Y1はH、D、CH3基またはCD3基を表し、R1は炭素数7〜20個の脂環式炭化水素基を表し;
で表される化合物から選択される少なくとも1種を含有する重合性モノマー組成物、
重合開始剤、および
前記重合性モノマーとは異なる屈折率を有する化合物であって、置換基を有するベンゼン環を含み、前記置換基のHammett値又は該置換基が複数ある場合にはそれらのHammett値の和平均が、0.04以下であり、かつ溶解度パラメーターが10.9以下である化合物、
を含有する光学部材用重合性組成物を提供する。
【0014】
本発明の態様として、前記重合性モノマー組成物が、前記脂環式メタクリル酸エステルおよびメタクリル酸メチルを主成分として含有する前記重合性組成物;及び前記重合性モノマー組成物が、C−D結合を含む化合物の少なくとも1種を含有する前記重合性組成物;が提供される。
【0015】
他の側面において、本発明は、前記組成物を重合して、屈折率の大きさに分布を有する屈折率分布領域を形成してなる光学部材が提供する。
本発明の態様として、前記組成物を重合して形成されたコア部と、該コア部を被覆するクラッド部とを有する前記光学部材;前記コア部が、屈折率の大きさが中央から外側に向かって変化する領域である前記光学部材;前記クラッド部が、前記コア部と同一種の又は同一の複数種の成分を主成分として含有する重合性モノマー組成物から本質的になる前記光学部材;及び光ファイバ、光導波路および光学レンズのいずれかである前記光学部材;が提供される。
【0016】
他の側面において、本発明は、前記重合性組成物を重合する工程を含む光学部材の製造方法を提供する。
本発明の態様として、前記重合工程において、重合温度が50℃以上である前記方法が提供される。
【発明の実施の形態】
【0017】
以下、本発明の態様について詳細に説明する。
なお、本発明の光学部材用重合性組成物を用いることによって得られる光学部材とは、例えば光ファイバ、光導波路等の光導性素子類、スチールカメラ用、ビデオカメラ用、望遠鏡用、眼鏡用、プラスチックコンタクトレンズ用、太陽光集光用等のレンズ類、凹面鏡、ポリゴン等の鏡類、ペンタプリズム類等のプリズム類が挙げられる。中でも、光導性素子類、レンズ類、鏡類に用いられるのが好ましく、光ファイバ、光導波路、レンズ類に用いられるのがより好ましい。
【0018】
1.重合性組成物
まず、本発明の光学部材用重合性組成物について説明する。
1−1 光学部材用重合性組成物の第1の態様
本発明の重合性組成物の第1の態様は、重合性モノマー組成物と、該重合性モノマーの重合を開始させる重合開始剤と、前記モノマーの屈折率と異なる屈折率を有する化合物(以下、「屈折率上昇剤」または「ドーパント」という場合がある)とを主に含有する。第1の態様では、ドーパントとして、置換基を有するベンゼン環を含み、且つ前記置換基のHammett値が所定の範囲である化合物を用いることによって、重合により作製される光学部材の、ドーパントに起因する光伝送損失を低減させている。第1の態様の重合性組成物は、屈折率の大きさに分布を有する屈折率分布型光学部材の製造に用いることができる。
【0019】
以下、前記第1の態様に用いられる種々の材料について詳細に説明する。
1−1−1 重合性モノマー組成物
前記第1の態様において、重合性モノマー組成物は、プロペン酸およびその誘導体のエステルを主成分とするのが好ましい。前記プロペン酸およびその誘導体には、アクリル酸エステルおよびメタアクリル酸エステル(以下、双方を含めて(メタ)アクリル酸エステル類という)が含まれる。ここで、主成分とするとは、光学的性能を損なわない限りにおいて、他のモノマーを含んでいてもよいことを意味し、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類系モノマーとスチレン、マレイミド化合物等の共重合体などの組成をとってもよいことを意味する。(メタ)アクリル酸エステル類の少なくとも一部の水素が重水素で置換されていると、C−H伸縮振動に起因する光伝送損失を軽減できるので好ましい。また、フッ素原子で置換されている(メタ)アクリル酸エステル類を用いると、フッ素置換されていないモノマーの共重合体との間で屈折率差を大きく持たせやすく、その結果屈折率分布構造を形成し易いので好ましい。
以下に、前記第1の態様に使用可能な、(メタ)アクリル酸エステル類の具体例を列挙するが、以下の具体例に限定されるものではない。
【0020】
(a) フッ素不含メタクリル酸エステルおよびフッ素不含アクリル酸エステル
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルメチル、トリシクロ[5・2・1・02,6]デカニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート等;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸フェニル等;
(b)含フッ素アクリル酸エステルおよび含フッ素メタクリル酸エステル
2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレート等;が例示される。
【0021】
前記(メタ)アクリル酸系エステル以外の重合性モノマーを用いてもよい。以下に、前記第1の態様に使用可能な他の重合性モノマーの具体例を列挙するが、以下の具体例に限定されるものではない。
(c) スチレン系化合物
スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等;
(d) ビニルエステル類
ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテート;
(e)マレイミド類
N―n−ブチルマレイミド、N―t−ブチルマレイミド、N―イソプロピルマレイミド、N―シクロヘキシルマレイミド;
等が例示される。
【0022】
前記第1の態様では、(メタ)アクリ酸エステル類の一種または二種以上を重合性モノマーの主成分として用いる。(メタ)アクリル酸エステル類は、単量体の全質量中50質量%以上であるのが好ましく、60質量%以上であるのがより好ましく、70質量%以上であるのがさらに好ましく、すべてが(メタ)アクリル酸エステル類であることが最も好ましい。
【0023】
前記第1の態様の重合性組成物では、後述する特定のドーパントを用いるので、重合性モノマーは、ドーパントを含有する組成物が無添加の組成物と比較して、またはこれを共重合成分として含む共重合体がこれを含まない重合体と比較して、屈折率差が大きくなるものである。また、重合性モノマー中のC−H結合は、光学部材の光伝送損失を増大させる要因となるので、C−H結合の水素原子がフッ素原子で置換された、C−F結合を含む重合性モノマーを用いるのが好ましい。具体的には、前述のフッ素不含メタクリル酸エステル、フッ素不含アクリル酸エステル、もしくは含フッ素(メタ)アクリル酸エステルとフッ素不含(メタ)アクリル酸エステルとの混合物が好ましい。
さらには、C−H伸縮振動の低倍音吸収による損失を低減させるために、上記モノマーの重水素置換体がより好ましい。
【0024】
1−1−2 重合開始剤
前記組成物は、前記重合性モノマーの重合を開始させる重合開始剤を含有する。重合開始剤としては、用いるモノマーや重合方法に応じて適宜選択することができるが、過酸化ベンゾイル(BPO)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−t−ブチルパーオキシド(PBD)、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル4,4,ビス(t−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物、または2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’―アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3’−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−t−ブチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は2種類以上を併用してもよい。
【0025】
1−1−3 連鎖移動剤
前記第1の態様の組成物は、連鎖移動剤を含有しているのが好ましい。前記連鎖移動剤は、主に重合体の分子量を調整するために用いられるであろう。前記連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択することができる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、該連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
【0026】
例えば、重合性モノマーとしてメチルメタクリレートを用いた場合は、連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール等)などを用いるのが好ましく、中でも、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。
なお、前記連鎖移動剤は、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
1−1−4 ドーパント:屈折率上昇剤
前記第1の態様の重合性組成物は、前記重合性モノマーと異なる屈折率を有する化合物を含有する。ドーパントは非重合性の化合物であっても、重合性の化合物であってもよい。前記ドーパントが重合性化合物の場合は、マトリックスを形成する際に、前記重合性モノマーをドーパントと共重合させるので、種々の特性の制御が一段と困難であるが、耐熱性の面では有利となる可能性がある。前記ドーパントは屈折率上昇剤とも称され、これを含有する組成物が無添加の組成物と比較して、またはこれを共重合成分として含む共重合体がこれを含まない重合体と比較して、屈折率が上昇する性質を有するものをいう。その屈折率差は、0.001以上であるのが好ましい。
【0028】
前記第1の態様では、前記ドーパントとして、置換基を有するベンゼン環を含むベンゼン誘導体を用いる。本発明者らは、置換基のHammett値とベンゼン環C−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長とが、負の相関関係を有することを見出した。即ち、ベンゼン環上のC−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長は、ベンゼン環上の他の炭素の置換基に影響され、該置換基のHammett値が小さくなるほど、長波長シフトすることを見出した。光源波長850nmにおける吸収損失を低減するためには、C−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長を長波長側にシフトさせ、吸収の極大波長やそのピークのすそが850nmから外れるようにする事が望ましい。
波長850nmに対して影響を及ぼさないドーパントの吸収極大波長は875nm以上が好ましく、877nm以上がより好ましく、特に880nm以上が好ましい。吸収極大波長が880nm以上であれば850nmの伝送光に対する吸収損失がほとんど起こらない。
【0029】
C−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長を長波長側にシフトさせるためには、置換基のHammett値が0.04以下であるのが好ましく、−0.05以下であるのがより好ましく、−0.1以下であるのがさらに好ましい。また、下限値としては−0.6以上が好ましい。さらに副次的な効果として、これらの置換基の導入によりC−H結合の数が減少するため、C−H伸縮振動の4倍音吸収に起因する吸収損失自体がさらに低減する。
【0030】
本明細書でいう「置換基のHammett値」とは、置換基が一つの場合は、例えばChemical Reviews,Vol.91,No.2,pp.168−175(1991)に記載されている、置換基のHammett定数をいう。Hammett定数は、通常、オルト位とパラ位に置換している場合では同一の値として扱われるが、メタ位に置換している場合は異なる値になる。例えば、置換基R1で置換されているベンゼン環化合物を想定すると、該化合物には、置換基R1の位置に対してオルト位の水素原子が2つ、パラ位の水素原子が1つ、メタ位の水素原子が2つ存在する。置換基R1のオルト位およびパラ位のHammett定数をσ1p、メタ位のHammett定数をσ1mとすると、Hammett値σは、以下の式によって算出できる。
σ = (σ1p×3+σ1m×2)/5
【0031】
また、置換基が複数ある場合は、「置換基のHammett値」とは、各置換基のHammett値の和平均をいう。以下、複数の置換基がある場合について、ベンゼン環が一つの場合と二つの場合を例に挙げて、置換基のHammett値の算出方法について説明する。
なお、以下では、置換基Ri(iは正の整数)がメタ位に置換している場合のHammett定数をσim、パラ位またはオルト位に置換している場合のHammett定数をσipとする(オルト位の値はパラ位の値を用いることとする)。
【0032】
ベンゼン環が1つの場合の算出方法
【0033】
【化3】

【0034】
上記構造式中、a、bおよびcの位置における置換基R1〜R3のHammett値の和σa、σbおよびσcはそれぞれ、
σa = σ1p + σ2m + σ3m
σb = σ1m + σ2p + σ3p
σc = σ1m + σ2p + σ3p
となる。下記式により求められるσa、σbおよびσcの平均(和平均)が、この化合物が有する置換基のHammett値σとなる。
σ = (σa + σb + σc)/3
【0035】
ベンゼン環が2つの場合の算出方法
【0036】
【化4】

【0037】
上記構造式中、a、b、c、d、eおよびfの位置における置換基R1〜R4および−S−Ar基のHammett値の和σa、σb、σc、σd、σeおよびσfはそれぞれ、
σa = σ1p + σ2m + σ(Sph)m
σb = σ1m + σ2p + σ(Sph)p
σc = σ1m + σ2p + σ(Sph)p
σd = σ3m + σ4p + σ(Sph)p
σe = σ3p + σ4m + σ(Sph)m
σf = σ1m + σ2p + σ(Sph)p
となる。但し、−S−Ar基については、すべて−S−Ph(Phは無置換のベンゼン環を表す)とみなして、−S−PhのHammett定数、σ(Sph)mおよびσ(Sph)pを用いた。
下記式により求められるσa〜σfの平均(和平均)が、この化合物が有する置換基のHammett値σとなる。
σ = (σa + σb + σc + σd + σe + σf)/6
【0038】
ベンゼン誘導体のうち、置換基のHammett値が0.04以下となる例としては以下に示すものが挙げられる。
【0039】
【化5】

【0040】
さらに、ベンゼン環が有する置換基のHammett値が0.04以下となる化合物の中でも、重水素化合物ブロモベンゼンd−5の屈折率(1.56)と同等もしくはそれ以上の屈折率を有するものが好ましい。以下にこれらの条件を満たしうる化合物例を示すが、本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。
【0041】
【化6】

【0042】
前記第1の態様では、前記条件を満たし、且つ下記一般式(1)で表される化合物をドーパントとして用いるのが好ましい。
【0043】
【化7】

【0044】
式中、R1〜R10は水素原子もしくはアルキル基、アルケニル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基またはジアルキルアミノ基を表し、少なくとも4つ以上はアルキル基、アルケニル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基またはジアルキルアミノ基である。
【0045】
本発明の重合性組成物において、ドーパントは2種類以上併用してもよい。但し、いずれもベンゼン環を有し、その置換基のHammett値(但し、置換基が複数ある場合にはそれらのHammett値の加重平均)が0.04以下となる化合物でなければならない。
【0046】
本発明の重合性組成物を用いて光学部材を作製する際に、ドーパントの濃度に傾斜を持たせることによって、屈折率分布型の光学部材を作製することができる。ドーパントの濃度に傾斜を持たせる方法としては、後述する界面ゲル重合を利用する方法等がある。
【0047】
前記重合性組成物において、各成分の含有割合の好ましい範囲は、その種類に応じて異なり一概に規定することはできないが、一般的には、重合開始剤は、重合性モノマーに対して0.005〜0.5質量%であるのが好ましく、0.01〜0.5質量%であるのがより好ましい。前記連鎖移動剤は、重合性モノマーに対して0.10〜0.40質量%であるのが好ましく、0.15〜0.30質量%であるのがより好ましい。また、前記ドーパントは、重合性モノマーに対して1〜30質量%であるのが好ましく、1〜25質量%であるのがより好ましい。
なお、ドーパントは添加量が多いと添加したプラスチックに対してガラス転移点(Tg)の低下など熱可塑性を発現させやすくなり、使用時の耐熱性を低下させてしまうため、より少ない添加量で所望の屈折率分布を達成させるものが好ましい。
【0048】
本発明の重合性組成物には、その他、重合時の反応性や光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、耐候性や耐久性などを向上させる目的で、耐酸化剤や耐光剤などの安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。該化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することが可能となり、伝送距離が向上するので、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として使用することができる。
【0049】
前記重合性組成物に熱および/または光等が供与されると、重合開始剤からラジカル等が発生し、前記重合性モノマーの重合が開始される。本発明の重合性組成物はドーパントを含んでいるので、例えば、後述の界面ゲル重合法のように、重合の進行方向を制御して、ドーパントの濃度に傾斜を持たせることによって、もしくはドーパントの前記重合性モノマーとの共重合比に傾斜を持たせることによって、屈折率分布構造を容易に形成することができる。特に、本発明ではベンゼン環のC−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長が850nmの光源波長に対して影響しないように、大きく長波長シフトさせた改良したドーパントを用いているので、ドーパントに由来する伝送損失を低減させることができる。また、重合性モノマーの重合速度および重合度は、前記重合開始剤および所望により添加される前記連鎖移動剤によって制御され、重合体の分子量を所望の分子量に調整することができる。例えば、得られた重合体を延伸により線引きして、光ファイバとする場合は、分子量を調整することによって延伸時における機械的特性を所望の範囲とすることができ、生産性の向上にも寄与する。
【0050】
本発明の重合性組成物を重合させることによって、樹脂組成物と、ドーパントを含み、該ドーパントの濃度分布に基づいて屈折率に分布を有する光学部材を作製することができる。前記ドーパントは、ベンゼン環上のC−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長が875nm以上であるので、ドーパントに由来する伝送損失を著しく低減させることができる。前記ドーパントとしては、前記一般式(1)で表せられる化合物を用いるのが好ましい。また、前記樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸エステル類の単独重合体または共重合体であるのが好ましい。
【0051】
1−2 重合性組成物の第2の態様
第2の態様の重合性組成物は、光源波長850nmに対応した光学部材の製造に用いてもよい。該重合性組成物は、重合性モノマーと、該重合性モノマーの重合を開始させる重合開始剤と前記モノマーの屈折率と異なる屈折率を有する化合物(以下、「屈折率上昇剤」または「ドーパント」という場合がある)とを基本的に含有する。第2の態様では、ドーパントとして、置換基を有するベンゼン環を含み、且つ前記置換基のHammett値が所定の範囲である化合物を用いることによって、850nmでのドーパント自身に起因する光伝送損失を低減させ、さらに、用いるマトリックスとの相溶性を考慮し、溶解度パラメーター値を所定の範囲の化合物を用いることで、重合により作製される光学部材の光伝送損失をもう一段低減させている。本発明の重合性組成物は、光学部材、特に屈折率の大きさに分布を有する屈折率分布型光学部材の製造に用いることができる。
以下、第2の態様に用いられる種々の材料について詳細に説明する。
【0052】
1−2−1 重合性モノマー組成物
前記第2の態様では、重合性モノマー組成物は、プロペン酸およびその誘導体のエステルを主成分とするのが好ましい。前記プロペン酸およびその誘導体には、アクリル酸エステルおよびメタアクリル酸エステル(以下、双方を含めて(メタ)アクリル酸エステル類という)が含まれる。ここで、主成分とするとは、光学的性能を損なわない限りにおいて、他のモノマーを含んでいてもよいことを意味し、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類系モノマーとスチレン、マレイミド化合物等の共重合体などの組成をとってもよいことを意味する。第2の態様においては、特に耐湿熱性を良化させる観点で、下記一般式(2)で表される脂環式(メタ)アクリル酸エステルを用いるのが好ましい。
【0053】
【化8】

【0054】
式中、X1は水素原子(H)または重水素原子(D)を表し、2つのX1は同一でも異なっていてもよく;Y1はH、D、CH3基またはCD3基を表し、R1は炭素数7〜20個の脂環式炭化水素基を表す。
【0055】
前記一般式(2)で表される重合性モノマーは、炭素数7〜20個の脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレートである。具体的な例としては、(メタ)アクリル酸(ビシクロ−2,2,1−ヘプチル−2)、(メタ)アクリル酸1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸2−アダマンチル、(メタ)アクリル酸3−メチル−1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸3,5−ジメチル−1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸3−エチルアダマンチル、(メタ)アクリル酸3−メチル−5−エチル−1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸3,5,8−トリエチル−1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸3,5−ジメチル−8−エチル−1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸オクタヒドロ−4,7−メンタノインデン−5−イル、(メタ)アクリル酸オクタヒドロ−4,7−メンタノインデン−1−イルメチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデシル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシ−2,6,6−トリメチル−ビシクロ〔3,1,1〕ヘプチル、(メタ)アクリル酸3,7,7−トリメチル−4−ヒドロキシ−ビシクロ〔4,1,0〕ヘプチル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸フエンチル、(メタ)アクリル酸2,2,5−トリメチルシクロヘキシルなどが挙げられる。これら(メタ)アクリル酸エステルの中でも、メタクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フエンチルなどが好ましく、メタクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニルが特に好ましい。
【0056】
第2の態様では、重合性モノマー組成物中に、重合性モノマーとして、二種類以上の(メタ)アクリ酸エステル類を主成分として用いるのが好ましい。その中で、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル類は、単量体の全質量中5質量%以上95質量%以下であるのが好ましく、10質量%以上95質量%以下であるのがより好ましく、10質量%以上90質量%以下であるのがさらに好ましい。その他の(メタ)アクリ酸エステル類の重合性モノマーの成分としては、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル類の脆性、力学物性を補う観点で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸フェニル等が好ましく、その中でもメタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0057】
前記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル類とそれ以外の(メタ)アクリル酸エステル類としてメタクリル酸メチルを用いる場合、適度に疎水化するためには、前記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル類の比率は、好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。メタクリル酸メチルと異なる場合はその限りではない。
【0058】
第2の態様では、さらに前記(メタ)アクリル酸系エステル以外の重合性モノマーを用いてもよい。以下に、第2の態様に使用可能な他の重合性モノマーの具体例を列挙するが、以下の具体例に限定されるものではない。
(c) スチレン系化合物
スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等;
(d) ビニルエステル類
ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテート;
(e)マレイミド類
N―n−ブチルマレイミド、N―t−ブチルマレイミド、N―イソプロピルマレイミド、N―シクロヘキシルマレイミド;
等が例示される。
【0059】
本発明の重合性組成物において、重合性モノマーとして、(メタ)アクリ酸エステル類の二種以上を主成分として用いる場合、該(メタ)アクリル酸エステル類は、重合性モノマーの全質量中50質量%以上であるのが好ましく、60質量%以上であるのがより好ましく、70質量%以上であるのがさらに好ましく、100質量%が(メタ)アクリル酸エステル類であることが最も好ましい。
【0060】
第2の態様では、後述する特定のドーパントを用いるので、好ましい重合性モノマーは、ドーパントを含有する組成物が無添加の組成物と比較して、またはこれを共重合成分として含む共重合体がこれを含まない重合体と比較して、屈折率差が大きくなるものである。また、重合性モノマー中のC−H結合は、特に850nm光源波長に対して、光学部材の光伝送損失を場合によっては増大させる要因となるので、C−H結合の水素原子が重水素原子で置換された、C−D結合を含む重合性モノマーを用いるのがより好ましい。
【0061】
1−2−2 重合開始剤
前記重合性組成物は、前記重合性モノマーの重合を開始させる重合開始剤を含有する。重合開始剤としては、用いるモノマーや重合方法に応じて適宜選択することができるが、過酸化ベンゾイル(BPO)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−t−ブチルパーオキシド(PBD)、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル4,4,ビス(t−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物、または2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’―アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3’−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−t−ブチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は2種類以上を併用してもよい。
【0062】
1−2−3 連鎖移動剤
本発明の重合性組成物は、連鎖移動剤を含有しているのが好ましい。前記連鎖移動剤は、主に重合体の分子量を調整するために用いられる。前記連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択することができる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、該連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
【0063】
例えば、重合性モノマーとしてメチルメタクリレートを用いた場合は、連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール等)などを用いるのが好ましく、中でも、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。
なお、前記連鎖移動剤は、2種類以上を併用してもよい。
【0064】
1−2−4 ドーパント:屈折率上昇剤
前記第2の態様の重合性組成物は、前記重合性モノマーと異なる屈折率を有する化合物(以下、「ドーパント」という場合がある)を含有する。ドーパントは非重合性の化合物であっても、重合性の化合物であってもよい。前記ドーパントが重合性化合物の場合は、マトリックスを形成する際に、前記重合性モノマーをドーパントと共重合させるので、種々の特性の制御が一段と困難であるが、耐熱性の面では有利となる可能性がある。前記ドーパントは屈折率上昇剤とも称され、これを含有する組成物が無添加の組成物と比較して、またはこれを共重合成分として含む共重合体がこれを含まない重合体と比較して、屈折率が上昇する性質を有するものをいう。その屈折率差は、0.001以上であるのが好ましい。
【0065】
第2の態様では、前記ドーパントとして、置換基を有するベンゼン環を含むベンゼン誘導体を用いる。本発明者らは、置換基のHammett値とベンゼン環C−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長とが、負の相関関係を有することを見出した。即ち、ベンゼン環上のC−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長は、ベンゼン環上の他の炭素の置換基に影響され、該置換基のHammett値が小さくなるほど、長波長シフトすることを見出した。光源波長850nmにおける吸収損失を低減するためには、C−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長を長波長側にシフトさせ、吸収の極大波長やそのピークの裾が850nmから外れるようにするが望ましい。
【0066】
波長850nmに対して影響を及ぼさないドーパントの吸収極大波長は875nm以上が好ましく、877nm以上がより好ましく、特に880nm以上が好ましい。吸収極大波長が880nm以上であれば850nmの伝送光に対する吸収損失がほとんど起こらない。
C−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長を長波長側にシフトさせるためには、置換基のHammett値が0.04以下であるのが好ましく、−0.05以下であるのがより好ましく、−0.1以下であるのがさらに好ましい。また、下限値としては−0.6以上が好ましい。
さらに副次的な効果として、これらの置換基の導入によりC−H結合の数が減少するため、C−H伸縮振動の4倍音吸収に起因する吸収損失自体がさらに低減する。
【0067】
本明細書でいう「置換基のHammett値」とは、置換基が一つの場合は、例えばChemical Reviews,Vol.91,No.2,pp.168−175(1991)に記載されている、置換基のHammett定数をいう。Hammett定数は、通常、オルト位とパラ位に置換している場合では同一の値として扱われるが、メタ位に置換している場合は異なる値になる。例えば、置換基R1で置換されているベンゼン環化合物を想定すると、該化合物には、置換基R1の位置に対してオルト位の水素原子が2つ、パラ位の水素原子が1つ、メタ位の水素原子が2つ存在する。置換基R1のオルト位およびパラ位のHammett定数をσ1p、メタ位のHammett定数をσ1mとすると、Hammett値σは、以下の式によって算出できる。
σ = (σ1p×3+σ1m×2)/5
【0068】
また、置換基が複数ある場合は、「置換基のHammett値」とは、各置換基のHammett値の和平均をいう。以下、複数の置換基がある場合について、ベンゼン環が一つの場合と二つの場合を例に挙げて、置換基のHammett値の算出方法について説明する。
なお、以下では、置換基Ri(iは正の整数)がメタ位に置換している場合のHammett定数をσim、パラ位またはオルト位に置換している場合のHammett定数をσipとする(オルト位の値はパラ位の値を用いることとする)。
【0069】
ベンゼン環が1つの場合の算出方法
【0070】
【化9】

【0071】
上記構造式中、a、bおよびcの位置における置換基R1〜R3のHammett値の和σa、σbおよびσcはそれぞれ、
σa=σ1p+σ2m+σ3m
σb=σ1m+σ2p+σ3p
σc=σ1m+σ2p+σ3p
となる。下記式により求められるσa、σbおよびσcの平均(和平均)が、この化合物が有する置換基のHammett値σとなる。
σ=(σa+σb+σc)/3
【0072】
ベンゼン環が2つの場合の算出方法
【0073】
【化10】

【0074】
上記構造式中、a、b、c、d、eおよびfの位置における置換基R1〜R4および−S−Ar基のHammett値の和σa、σb、σc、σd、σeおよびσfはそれぞれ、
σa=σ1p+σ2m+σ(Sph)m
σb=σ1m+σ2p+σ(Sph)p
σc=σ1m+σ2p+σ(Sph)p
σd=σ3m+σ4p+σ(Sph)p
σe=σ3p+σ4m+σ(Sph)m
σf=σ1m+σ2p+σ(Sph)p
となる。但し、−S−Ar基については、すべて−S−Ph(Phは無置換のベンゼン環を表す)とみなして、−S−PhのHammett定数、σ(Sph)mおよびσ(Sph)pを用いた。
下記式により求められるσa〜σfの平均(和平均)が、この化合物が有する置換基のHammett値σとなる。
σ=(σa+σb+σc+σd+σe+σf)/6
【0075】
さらに、用いるマトリックス材料とドーパントとの相溶性も伝送損失も大きく影響する。上述したように、適度に疎水化されたマトリックス材料は、耐湿熱性と力学物性などとの両立が可能である。該マトリックスに対し、良好な相溶性を示すドーパントについて種々検討した結果、ベンゼン誘導体の溶解度パラメーター(SP)値は10.9以下、好ましくは10.8以下、さらに好ましくは10.6以下にすると良好な相溶性を示し、透明性あるいは伝送損失が良好になることを見出した。該ドーパントの置換基のHammett値が0.04以下で、SP値が10.9以下となる例としては以下に示すものが挙げられるが、本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。ここでSP値は、Fedorsの方法(Polymer Engineering and Science 14巻 147〜154頁)にて求めた。
【0076】
【化11】

【0077】
前記第2の態様の重合性組成物において、ドーパントは2種類以上併用してもよい。但し、いずれもベンゼン環を有し、その置換基のHammett値(但し、置換基が複数ある場合にはそれらのHammett値の加重平均)が0.04以下でかつ、SP値が10.9以下となる化合物でなければならない。
前記ドーパントの添加量は、屈折率上昇の程度やポリマーマトリクスとの関係によって変化するが、一般的に好ましい範囲としては重合性組成物の1〜30質量%、より好ましくは3〜25質量%、特に好ましくは5〜20質量%である。
【0078】
前記重合性組成物を用いて光学部材を作製する際に、ドーパントの濃度に傾斜を持たせることによって、屈折率分布型の光学部材を作製することができる。ドーパントの濃度に傾斜を持たせる方法としては、後述する界面ゲル重合を利用する方法等がある。
【0079】
前記重合性組成物において、各成分の含有割合の好ましい範囲は、その種類に応じて異なり一概に規定することはできないが、一般的には、重合開始剤は、重合性モノマーに対して0.005〜0.5質量%であるのが好ましく、0.01〜0.5質量%であるのがより好ましい。前記連鎖移動剤は、重合性モノマーに対して0.10〜0.40質量%であるのが好ましく、0.15〜0.30質量%であるのがより好ましい。また、前記ドーパントは、重合性モノマーに対して1〜30質量%であるのが好ましく、1〜25質量%であるのがより好ましい。
【0080】
前記重合性組成物には、その他、重合時の反応性や光伝送性能を低下させない範囲で、その他のドーパントを添加することができる。例えば、耐候性や耐久性などを向上させる目的で、耐酸化剤や耐光剤などの安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。該化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することが可能となり、伝送距離が向上するので、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として使用することができる。
【0081】
前記重合性組成物に熱および/または光等が供与されると、重合開始剤からラジカル等が発生し、前記重合性モノマーの重合が開始される。本発明の重合性組成物はドーパントを含んでいるので、例えば、後述の界面ゲル重合法のように、重合の進行方向を制御して、ドーパントの濃度に傾斜を持たせることによって、もしくはドーパントの前記重合性モノマーとの共重合比に傾斜を持たせることによって、屈折率分布構造を容易に形成することができる。特に、第2の態様では、ベンゼン環のC−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長が850nmの光源波長に対して影響しないように大きく長波長シフトするように改良したドーパントを用いているので、ドーパントに由来する伝送損失を低減することができる。さらに適度に疎水化されたマトリックス材料との相溶性を鑑み、SP値を所定の範囲にすることでもう一段の伝送損失の低減化(耐湿熱性の向上)が図られている。また、重合性モノマーの重合速度および重合度は、前記重合開始剤および所望により添加される前記連鎖移動剤によって制御され、重合体の分子量を所望の分子量に調整することができる。例えば、得られた重合体を延伸により線引きして、光ファイバとする場合は、分子量を調整することによって延伸時における機械的特性を所望の範囲とすることができ、生産性の向上にも寄与する。
【0082】
2.光学部材
以下、第1もしくは第2の態様の重合性組成物を利用した光学部材の製造方法の例について説明する。以下に説明する例は、前記第1又は第2の態様の重合性組成物を、コア部とクラッド部とを有する屈折率分布型プラスチック光学部材のコア部の形成に適用したものである。
GI型プラスチック光学部材は、クラッド部となる円筒管を作製する第1の工程と、前記円筒管の中空部で本発明の重合性組成物を界面ゲル重合させることによりコア部となる領域を形成し、コア部およびクラッド部に各々対応する領域からなるプリフォームを作製する第2の工程と、得られたプリフォームを所望の形態に加工する第3の工程とを含む方法によって製造することができる。
【0083】
前記第1の工程では、クラッド部となる中空状(例えば円筒形状)の管を作製する。中空の円筒管の製法としては、例えばWO93/08488号公報に記載されている様な製造方法が挙げられる。例えば、円筒形状の重合容器に、クラッド部の原料となるモノマーを注入し、該重合容器を回転(好ましくは、円筒の軸を水平に維持した状態で回転)させつつ、前記モノマーを重合させることにより、重合体からなる円筒管を作製することができる。重合容器内には、モノマーとともに、重合開始剤、連鎖移動剤、および所望により添加される安定剤などを注入することができる。重合温度および重合時間は、用いるモノマーによって異なるが、一般的には、重合温度は60〜90℃であるのが好ましく、重合時間は5〜24時間であるのが好ましい。この時に、特開平8−110419号公報に記載されている様に、原料をプレ重合して原料粘度を上昇させてから行ってもよい。また、重合に使用する容器が回転によって変形してしまうと、得られる円筒管に歪みを生じさせることから、十分な剛性を持つ金属管・ガラス管を用いることが望ましい。
【0084】
クラッド部に用いられる重合性モノマーは、後述するコア部の形成時に用いられる重合性組成物中に含有される重合性モノマーと、主成分において等しいのが好ましい。その組成比については同一でなくてもよく、また副成分については等しくなくてもよい。
【0085】
前記第1の態様の重合性組成物を前記第2の工程に用いる場合は、前記第1の工程においてクラッド部形成のために使用可能な重合性組成物については、特に制限されない。メタクリル酸メチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、トリシクロ[5・2・1・02,6]デカニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;および2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレート等のフッ素化(メタ)アクリル酸エステル類;等が挙げられる。1種又は2種以上のモノマーを用いてもよい。2種以上用いる場合は、その組成比については、用いるモノマーの種類等に応じて好ましい範囲を適宜決定することができる。
【0086】
前記第2の工程に、前記第2の態様の重合性組成物を用いる場合は、前記第1の工程においてクラッド部形成のために使用可能な重合性組成物については、特に制限されない。使用可能な重合性モノマーの例は、上記と同様である。前記一般式(2)の化合物から選ばれる少なくとも1種が、前記第1の工程において好ましく用いられる。
【0087】
前記第1の工程に用いられる、前記重合開始剤や連鎖移動剤といった他の材料についても特に制限はなく、用いる重合性モノマーに応じて適宜選択することができる。前述の重合性組成物中に用いられる重合開始剤および連鎖移動剤で例示した材料を用いるのが好ましい。重合開始剤は、一般的にはモノマーに対して、0.10〜1.00質量%添加するのが好ましく、0.40〜0.60質量%添加するのがより好ましい。連鎖移動剤は、一般的にはモノマーに対して、0.10〜0.40質量%添加するのが好ましく、0.15〜0.30質量%添加するのがより好ましい。
【0088】
前記クラッド部となる円筒管は、第2の工程でコア部の原料となる重合性組成物を注入できるように、底部を有しているのが好ましい。底部は前記円筒管を構成している重合体と密着性および接着性に富む材質であるのが好ましい。また、底部を前記円筒管と同一の重合体で構成することもできる。重合体からなる底部は、例えば、重合容器を回転させて重合する(以下、「回転重合」という場合がある)前もしくは後に、重合容器を垂直に静置した状態で、重合容器内に少量の重合性モノマーを注入し、重合することによって形成することができる。
【0089】
前記回転重合後に、残存するモノマーや開始剤を完全に反応させることを目的として、該回転重合の重合温度より高い温度で得られた構造体に加熱処理を施してもよく、所望の中空管が得られた後未重合の組成物を取り除いてもよい。
【0090】
また、前記第1の工程では、一旦、重合体を作製した後、押し出し成形等の成形技術を利用して、所望の形状(本実施の形態では円筒形状)の構造体を得ることもできる。
第2の工程で前記第2の態様の重合性組成物を用いる場合は、使用可能なポリマーの例には、前記第2の態様の重合性組成物を重合して得られた重合体(ただしドーパントを除く)、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、フッ素化(メタ)アクリル酸エステル系樹脂及びアモルファスポリオレフィン樹脂が含まれる。前記フッ素系樹脂はコア部に比べて屈折率が低く、開口数をあげることができるが、コア部に形成するポリマーとの密着性が低減する場合がある。その場合、前記第2の態様の重合性組成物からドーパントを除いた成分からなる重合性組成物を用いて重合によりアウターコア部を形成してもよい。クラッド部とアウターコア部を共押し出し成形等の成形技術を利用して同時に作製してもよい。
【0091】
前記第2の工程では、前記第1の工程で作製したクラッド部となる円筒管の中空部に、前記第1又は第2の態様の重合性組成物を注入し、組成物中の重合性モノマーを重合する。前記アウターコア層を形成した場合は、2層円筒管の中空部に前記重合性組成物を注入する。重合法は、重合後の残留物の観点から溶媒等を用いない界面ゲル重合法(WO93/08488号公報に記載)が特に好ましい。この界面ゲル重合法を用いることで、重合性モノマーの重合は、前記円筒管のゲル効果によって、粘度の高くなった内壁表面から断面の半径方向、中心に向かって進行する。重合性モノマーに前記屈折率調整剤を添加して重合すると、前記円筒管を構成している重合体に対して親和性の高いモノマーが前記円筒管の内壁面に偏在して重合し、外側には屈折率調整剤濃度が低い重合体が形成される。中心に向かうに従って、形成された重合体中の該屈折率調整剤の比率が増加する。このようにして、コア部となる領域内に屈折率調整剤の濃度分布が生じ、この濃度分布に基づいて、連続した屈折率の分布が導入される。また、屈折率調整剤が重合性基を有する場合は、前記円筒管を構成している重合体に対して親和性の高い重合性モノマーが、前記円筒管の内壁表面に偏在して重合し、外側には屈折率調整剤の重合比率が低い重合体が形成される。中心に向かうに従って、形成された重合体中の該屈折率調整剤の重合比率は増加する。このようにして、コア部となる領域内に共重合比の分布が生じ、この共重合比の分布に基づいて、連続した屈折率の分布が導入される。
【0092】
上記説明したように、第2の加熱重合工程において、形成されるコア部となる領域に屈折率の分布が導入されるが、屈折率が互いに異なる部分間は熱挙動も互いに異なるので、重合を一定温度で行うと、その熱挙動の違いからコア部となる領域は、重合反応に対して発生する体積収縮の応答性が変化し、プリフォーム内部に気泡が混入する、もしくはミクロな空隙が発生し、得られたプリフォームを加熱延伸した際に多数の気泡が発生する可能性がある。重合温度が低すぎると、重合効率が低下し、反応終了までに時間がかかってしまい、生産性を著しく損なう。また、重合が不完全となって光透過性が低下し、作製される光ファイバの光伝送能を損なう。一方、初期の重合温度が高すぎると、コア部となる領域の収縮に対して応答緩和できず、気泡発生の傾向が著しい。そのため、モノマーによって適切な温度範囲を選んで重合させることが望ましい。例えば、典型的なメタクリレート系のモノマーを使用した場合には、好ましくは、50℃〜150℃、更に好ましくは80℃〜120℃である。また、重合収縮に対する応答性を高めるために加圧した不活性ガス中で重合させることも好ましい。さらに、重合前のモノマーを減圧雰囲気で脱水および脱気することでさらに気泡の発生を低減させることができる。
【0093】
(1)前記第1の重合性組成物の使用
重合温度および重合時間は、用いるモノマーによって異なるが、一般的には、重合温度は60〜90℃であるのが好ましく、重合時間は5〜24時間であるのが好ましい。また、十時間半減期温度が重合性モノマーの沸点以上である重合開始剤を用い、該重合開始剤の半減期の25%の時間まで重合すると、初期重合速度を減少させ、初期重合における体積収縮応答性を向上させることができ、その結果、プリフォーム中の体積収縮による気泡混入を軽減することができ、生産性を向上することができるので好ましい。ここで、重合開始剤の十時間半減期温度とは、開始剤が分解し十時間でその数が1/2になる温度をいう。重合性モノマーとしてメチルメタクリレート(MMA)を用いた場合、十時間半減期温度がMMAの沸点以上の重合開始剤としては、前述の例示した重合開始剤のうち、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)等が該当する。例えば、重合性モノマーとしてMMAを用い、重合開始剤として後者を用いた場合は、初期重合温度を100〜110℃に48〜72時間維持し、その後、120〜140℃まで昇温して24〜48時間重合するのが好ましく、重合開始剤として前者を用いた場合は、初期重合温度を100〜110℃に4〜24時間維持し、120〜140℃まで昇温して24〜48時間重合するのが好ましい。なお、昇温は段階的に行っても、連続的に行ってもよいが、昇温にかける時間は短いほうがよい。
【0094】
(2)第2の重合性組成物の使用
前記一般式(2)で表される脂環式メタクリルレート系のモノマーを含む第2の重合性組成物についての好ましい重合条件は、典型的なメタクリレート系のモノマーを使用した場合と同様である。従って、50℃〜150℃で重合するのが好ましく、80℃〜140℃で重合するのがより好ましい。また、重合収縮に対する応答性を高めるために加圧した不活性ガス中で重合させることも好ましい。例えば、初期重合温度を100〜110℃に4〜24時間維持し、120〜140℃まで昇温して24〜48時間重合するのが好ましい。重合温度および重合時間によって、用いる開始剤は異なるが、先記重合条件においては、高温分解型の開始剤、例えば、ジ−tert−ブチルパーオキシド(PBD)や2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)などが好ましく用いられる。なお、昇温は段階的に行っても、連続的に行ってもよいが、昇温にかける時間は短いほうがよい。さらに、重合前のモノマーを減圧雰囲気で脱水および脱気することでさらに気泡の発生を低減させることができる。
【0095】
第2の工程において、重合は、加圧状態で行うのが好ましい(以下、加圧状態で行う重合を「加圧重合」という)。加圧重合を行う場合は、前記重合性組成物を注入したクラッド部となる円筒管を、治具の中空部に挿入して、治具に支持された状態で重合を行うのが好ましい。前記治具は、前記構造体を挿入可能な中空を有する形状であり、該中空部は前記構造体と類似の形状を有しているのが好ましい。本実施の形態では、クラッド部となる構造体が円筒管であるので、前記治具も円筒形状であるのが好ましい。治具は、加圧重合中に前記円筒管が変形するのを抑制するとともに、加圧重合が進むに従ってコア部となる領域が収縮するのを緩和可能に支持する。従って、治具の中空部は、前記クラッド部となる円筒管の外径より大きい径を有し、前記クラッド部となる円筒管を非密着状態で支持するのが好ましい。前記治具の中空部は、前記クラッド部となる円筒管の外径に対して0.1%〜40%だけ大きい径を有しているのが好ましく、10〜20%だけ大きい径を有しているのがより好ましい。
【0096】
前記クラッド部となる円筒管を治具の中空部に挿入した状態で、重合容器内に配置することができる。重合容器内において、前記クラッド部となる円筒管は、円筒の高さ方向を垂直にして配置されるのが好ましい。前記治具に支持された状態で前記クラッド部となる円筒管を、重合容器内に配置した後、前記重合容器内を加圧することができる。窒素等の不活性ガスで重合容器内を加圧し、不活性ガス雰囲気下で加圧重合を進行させるのが好ましい。重合時の加圧の好ましい範囲については、用いるモノマーによって異なるが、重合時の圧は、一般的には0.05〜1.0MPa程度が好ましい。
【0097】
前記第1及び第2の工程を経て、光学部材のプリフォームを得ることができる。
【0098】
第3の工程では、作製されたプリフォームを加工して所望の形態の光学部材を得る。例えば、プリフォームを軸方向に垂直にスライスすれば断面が凹凸を有しない円盤状もしくは円柱状のレンズを得ることができる。また、延伸してプラスチック光ファイバを得ることができる。
【0099】
光ファイバは、第3の工程でプリフォームを加熱延伸して作製することができるが、その加熱温度はプリフォームの材質等に応じて、適宜決定することができる。一般的には、180〜250℃中の雰囲気で行われることが好ましい。延伸条件(延伸温度等)は、得られたプリフォームの径、所望のプラスチック光ファイバの径および用いた材料等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、線引張力については、特開平7−234322号公報に記載されている様に、溶融したプラスチックを配向させるために10g以上としたり、特開平7−234324号公報に記載されている様に、溶融延伸後に歪みを残さないようにするために100g以下とすることが好ましい。また、延伸の際に予備加熱を設ける方法などをとることもできる。
【0100】
第3の工程を経て製造されたプラスチック光ファイバは、そのままの形態で種々の用途に供することができる。また、保護や補強を目的として、その外側に被覆層を有する形態、繊維層を有する形態、および/または複数のファイバを束ねた形態で、種々の用途に供することができる。
被覆工程は、例えばファイバ素線に被覆を設ける場合では、ファイバ素線の通る穴を有する対向したダイスにファイバ素線を通し、対向したダイス間に溶融した被覆用の樹脂を満たし、ファイバ素線をダイス間を移動させることで被覆されたファイバを得ることができる。被覆層は可撓時に内部のファイバへの応力から保護するため、ファイバ素線と融着していないことが望ましい。さらにこの時、溶融した樹脂と接することでファイバ素線に熱的ダメージを加わるので、極力ダメージを押さえるような移動速度や低温で延伸できる樹脂を選ぶことも望ましい。この時、被覆層の厚みは被覆材の物性値や素線の引き抜き速度、被覆層の冷却温度による。
その他にも、光学部材に塗布したモノマーを重合させる方法やシートを巻き付ける方法、押し出し成形した中空管に光学部材を通す方法などが知られている。
【0101】
素線を被覆することにより、プラスチック光ファイバケーブル製造が可能となる。その際にその被覆の形態として、被覆材とプラスチック光ファイバ素線の界面が全周にわたって接して被覆されている密着型の被覆と、被覆材とプラスチック光ファイバ素線の界面に空隙を有するルース型被覆がある。ルース型被覆では、たとえばコネクタとの接続部などにおいて被覆層を剥離した場合、その端面の空隙から水分が浸入して長手方向に拡散されるおそれがあるため、通常は密着型が好ましい。しかし、ルース型の被覆の場合、被覆と素線が密着していないので、ケーブルにかかる応力や熱とはじめとするダメージの多くを被覆材層で緩和させることができ、素線にかかるダメージを軽減させることができるため、使用目的によっては好ましく用いることができる。水分の伝播については、空隙部に流動性を有するゲル状の半固体や粉粒体を充填することで、端面からの水分伝播を防止でき、かつ、これらの半固体や粉粒体に耐熱や機械的機能の向上などの水分伝播防止と異なる機能をあわせ持つようにすることでより高い性能の被覆を形成できる。
ルース型の被覆を製造するには、クロスヘッドダイの押出し口ニップルの位置を調整し減圧装置を加減することで空隙層を作ることができる。空隙層の厚みは前述のニップル厚みと空隙層を加圧/減圧することで調整が可能である。
【0102】
さらに、必要に応じて被覆層(1次被覆層)の外周にさらに被覆層(2次被覆層)を設けてもよい。2次被覆層に難燃剤や紫外線吸収剤、酸化防止剤、ラジカル捕獲剤、昇光剤、滑剤などを導入してもよく、耐透湿性能を満足する限りにおいては、1次被覆層にも導入は可能である。
なお、難燃剤については臭素を始めとするハロゲン含有の樹脂や添加剤や燐含有のものがあるが、毒性ガス低減などの安全性の観点で難燃剤として金属水酸化物を加える主流となりつつある。金属水酸化物はその内部に結晶水として水分を有しており、またその製法過程での付着水が完全に除去できないため、金属水酸化物による難燃性被覆は本発明の対透湿性被覆(1次被覆層)の外層被覆(2次被覆層)として設けることが望ましい。
【0103】
また、複数の機能を付与させるために、様々な機能を有する被覆を積層させてもよい。例えば、本発明のような難燃化以外に、素線の吸湿を抑制するためのバリア層や水分を除去するための吸湿材料、例えば吸湿テープや吸湿ジェルを被覆層内や被覆層間に有することができ、また可撓時の応力緩和のための柔軟性素材層や発泡層等の緩衝材、剛性を挙げるための強化層など、用途に応じて選択して設けることができる。樹脂以外にも構造材として、高い弾性率を有する繊維(いわゆる抗張力繊維)および/または剛性の高い金属線等の線材を熱可塑性樹脂に含有すると、得られるケーブルの力学的強度を補強することができることから好ましい。
抗張力繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維が挙げられる。また、金属線としてはステンレス線、亜鉛合金線、銅線などが挙げられる。いずれのものも前述したものに限定されるものではない。その他に保護のための金属管の外装、架空用の支持線や、配線時の作業性を向上させるための機構を組み込むことができる。
【0104】
また、ケーブルの形状は使用形態によって、素線を同心円上にまとめた集合ケーブルや、一列に並べたテープ心線と言われる態様、さらにそれらを押え巻やラップシースなどでまとめた集合ケーブルなど用途に応じてその形態を選ぶことができる。
【0105】
本発明の光学部材は、光信号を伝送するシステムに用いることができ、かかるシステムは、種々の発光素子、受光素子、他の光ファイバ、光バス、光スターカプラ、光信号処理装置、接続用光コネクター等で構成される。それらに関する技術としてはいかなる公知の技術も適用でき、例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)等の他、特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号等の各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号等の各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号等の公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号等の各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号等の公報に記載の光信号処理装置;特開2001−86537号等の公報に記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号等の公報に記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号等の各公報に記載のマルチファンクションシステム;等を参考にすることができる。
以上の光伝送用途以外にも照明、エネルギー伝送、イルミネーション、センサ分野にも用いることができる。
【実施例】
【0106】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。
[実施例1−1]
予定するプリフォームの外径に対応する内径を有する十分な剛性を持った内径22mmおよび長さ600mmの円筒状の重合容器に、モノマー(重水素化メチルメタクリレート(MMA−d8)(重合禁止剤としてのハイドロキノンモノメチルエーテルを除去し、水分を80ppm以下まで除去したもの))溶液を重合開始剤として、過酸化ベンゾイル(BPO)をモノマー溶液に対して0.5質量%、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンをモノマー溶液に対して0.28質量%配合した混合溶液を所定量注入した。上記モノマー混合溶液の注入された重合容器を、80℃湯浴中に入れ、震盪を加えながら2時間予備重合を行った。その後、該重合容器を80℃下にて水平状態(円筒の高さ方向が水平となる状態)に保持し、3000rpmにて回転させながら3時間加熱重合した。その後、100℃で24時間の熱処理し、MMA−d8のポリマーからなる円筒管を得た。
【0107】
次に、コア部の原料であるモノマー(MMA−d8(上記同様に、重合禁止剤としてのハイドロキノンモノメチルエーテルを除去し、水分を80ppm以下まで除去したもの))と、ドーパントとして化合物(13)、(16)または(28)または比較化合物(34)、(35)または(36)をモノマー溶液に対して10質量%混合した。この混合溶液を、精度0.2μmの四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過しつつ、作製した円筒管の中空部に濾液を直接注入した。開始剤として、PBDをモノマー混合溶液に対し0.016質量%、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンをモノマー混合溶液に対し0.27重量%配合した(この系における連鎖移動係数は0.8)。この混合溶液等を注入した該円筒管を、該円筒管外径に対し9%だけ広い内径を持つガラス管内に挿入した状態で、加圧重合容器に垂直に静置した。その後、加圧重合容器内を窒素雰囲気に置換した後、0.6Mpaまで加圧し、100℃で、48時間加熱重合した。その後、加圧状態を維持しながら120℃で、24時間加熱重合および熱処理して、プリフォームを得た。
【0108】
【化12】

【0109】
得られたプリフォームには、重合完了時に体積収縮による気泡の混入はなかった。このプリフォームを230℃の熱延伸により線引きし、直径約700〜800μmのプラスチック光ファイバを製造した。延伸工程において、プリフォームには気泡の発生は観察されず、安定して300mのファイバを得ることができた。
得られたファイバの光伝送損失値(光源波長:850nm)と帯域を、用いたドーパントのベンゼン環が有する置換基のHammett値とベンゼン環C−H伸縮振動4倍音吸収極大波長を併せて表1−1に示す。
なお、ドーパント(35)のベンゼン環が有する置換基のHammett値はC−D結合をC−H結合と見なしたときの値であり、ベンゼン環C−H伸縮振動4倍音吸収極大波長は、d化率が99.5%以上で実質無視できるため表1−1内に記載しなかった。
また、これらドーパントのTg低下の程度を調べるため、MMA−d8に対して各ドーパント10質量%を添加して、バルク重合した際のポリマーのTgを表1−2に示す。
【0110】
[実施例1−2]
クラッド部およびコア部の作製に用いたモノマーとして、MMA−d8(上記同様に、重合禁止剤としてのハイドロキノンモノメチルエーテルを除去し、水分を80ppm以下まで除去したもの)と、以下に示すフッ素含有重水素化モノマー3FM−d7とを、9:1(重量比)で混合したものを使用した。また、ドーパントは実施例1−1で用いた化合物、即ち、(13)、(16)、(28)、(34)、(35)または(36)、をモノマー溶液に対して8質量%添加した。それ以外は、実施例1−1と同様の方法で光ファイバを作製した。
【0111】
【化13】

【0112】
得られたプリフォームには、重合完了時に体積収縮による気泡の混入はなかった。このプリフォームを230℃の熱延伸により線引きし、直径約700〜800μmのプラスチック光ファイバを製造した。延伸工程において、プリフォームには気泡の発生は観察されず、安定して300mのファイバを得ることができた。
得られたファイバの光伝送損失値(光源波長:850nm)を、用いたドーパントのベンゼン環が有する置換基のHammett値と併せて表1−3に示す。
【0113】
[実施例1−3]
クラッド部およびコア部の作製に用いたモノマーとして、MMA−d8(上記同様に、重合禁止剤としてのハイドロキノンモノメチルエーテルを除去し、水分を80ppm以下まで除去したもの)と以下に示す重水素化モノマーtBMA−d14を1:1(重量比)で混合したものを使用した。また、ドーパントは実施例1−1で用いた化合物(13)、(16)、(28)、(34)、(35)または(36)をモノマー溶液に対して10質量%添加した。それ以外は、実施例1−1と同様の方法で光ファイバを作製した。
【0114】
【化14】

【0115】
得られたプリフォームには、重合完了時に体積収縮による気泡の混入はなかった。このプリフォームを230℃の熱延伸により線引きし、直径約700〜800μmのプラスチック光ファイバを製造した。延伸工程において、プリフォームには気泡の発生は観察されず、安定して300mのファイバを得ることができた。
得られたファイバの光伝送損失値(光源波長:850nm)を用いたドーパントのベンゼン環が有する置換基のHammett値と併せて表1−4に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
【表3】

【0119】
【表4】

【0120】
表1〜4にみられるように、Hammett値が本発明で規定した値(0.04)よりも大きな化合物(34)、(36)をドーパントとして使用した場合は、850nmでの伝送損失が大きくなるのに対し、Hammett値が小さな化合物(13、16、28)を用いた場合には、重水素化化合物(35)と同程度まで伝送損失が抑制されたファイバが得られることがわかる。
一方、本発明により得られるドーパントは重水素化化合物(35)と比較して、同じ添加量で広帯域が取れ、かつ、ポリマーのガラス転移点が高いため耐熱性の良好なものが得られる事が分かる。
【0121】
[実施例2−1、2−2および比較例2−1]
予定するプリフォームの外径に対応する内径を有する十分な剛性を持った内径22mmおよび長さ600mmの円筒状の重合容器に、モノマー(重水素化メチルメタクリレート(MMA―d8)とイソボルニルメタクリレート(IBXMA);双方とも重合禁止剤としてのハイドロキノンモノメチルエーテルを除去し、水分を80ppm以下まで除去したものを使用)溶液(質量比率が4/1(MMA―d8/IBXMA))、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(BPO)をモノマー溶液に対して0.5質量%、および連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンをモノマー溶液に対して0.28質量%配合した混合溶液を所定量注入した。上記モノマー混合溶液の注入された重合容器を、80℃湯浴中に入れ、震盪を加えながら2時間予備重合を行った。その後、該重合容器を80℃下にて水平状態(円筒の高さ方向が水平となる状態)に保持し、3000rpmにて回転させながら3時間加熱重合した。その後、100℃で24時間の熱処理し、MMA―d8とIBXMAとの共重合体からなる円筒管を得た。
【0122】
次に、コア部の原料であるモノマー(MMA−d8とIBXMA;上記と同様に、重合禁止剤としてのハイドロキノンモノメチルエーテルを除去し、水分を80ppm以下まで除去したものを使用)溶液(質量比率が4/1(MMA―d8/IBXMA))、ドーパントとして本明細書に記載の例示化合物2−(4)もしくは2−(6)または比較化合物2−(19)を、モノマー溶液に対して12.5質量%混合した。この混合溶液を、精度0.2μmの四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過しつつ、作製した円筒管の中空部に濾液を直接注入した。開始剤として、PBDをモノマー混合溶液に対し0.016質量%、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンをモノマー混合溶液に対し0.27質量%配合した(この系における連鎖移動係数は0.8)。この混合溶液等を注入した該円筒管を、該円筒管外径に対し9%だけ広い内径を持つガラス管内に挿入した状態で、加圧重合容器に垂直に静置した。その後、加圧重合容器内を窒素雰囲気に置換した後、0.2Mpaまで加圧し、100℃で48時間加熱重合した。その後、加圧状態を維持しながら120℃で24時間加熱重合および熱処理して、プリフォームを得た。
【0123】
【化15】

【0124】
得られたプリフォームには、重合完了時に体積収縮による気泡の混入はなかった。このプリフォームを230℃の熱延伸により線引きし、直径約700〜800μmのプラスチック光ファイバを製造した。延伸工程において、プリフォームには気泡の発生は観察されなかった。
得られたファイバの光伝送損失値(光源波長:850nm)と、該ファイバを温度25℃、相対湿度95%の条件下に300時間放置した後、850nmにおける損失値を測定した。損失値の上昇値を表2−1に示す。
【0125】
[実施例2−3、2−4および比較例2−2]
まず、クラッド部として呉羽化学製PVDF樹脂(KF−#850)を押出し成形により外径20mm、内径19mmおよび長さ600mmの中空管(厚み0.5mm)を作製した。
次にアウターコア部として、モノマー(重水素化メチルメタクリレート(MMA―d8)とメタクリレート部が重水素化されたイソボルニルメタクリレート(IBXMA―d5);両者とも重合禁止剤としてのハイドロキノンモノメチルエーテルを除去し、水分を80ppm以下まで除去したものを使用)溶液(質量比率が7/3(MMA―d8/IBXMA―d5))を重合開始剤として、過酸化ベンゾイル(BPO)をモノマー溶液に対して0.5質量%、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンをモノマー溶液に対して0.28質量%配合した混合溶液を所定量注入した。上記モノマー混合溶液の注入されたPVDF管を、80℃湯浴中に入れ、震盪を加えながら2時間予備重合を行った。その後、該管を80℃下にて水平状態(円筒の高さ方向が水平となる状態)に保持し、3000rpmにて回転させながら3時間加熱重合した。その後、100℃で24時間の熱処理した。その様にして、上記共重合体からなるアウターコア部を作製した。
【0126】
次に、コア部の原料であるモノマー(MMA−d8とIBXMA―d5;上記同様に、重合禁止剤としてのハイドロキノンモノメチルエーテルを除去し、水分を80ppm以下まで除去したものを使用)溶液(質量比率が7/3(MMA―d8/IBXMA))と、ドーパントとして例示化合物2−(4)もしくは2−(6)または上記比較化合物2−(19)をモノマー溶液に対して12.5質量%混合した。この混合溶液を、精度0.2μmの四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過しつつ、作製した円筒管の中空部に濾液を直接注入した。開始剤として、PBDをモノマー混合溶液に対し0.016質量%、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンをモノマー混合溶液に対し0.27質量%配合した(この系における連鎖移動係数は0.8)。この混合溶液等を注入した該円筒管を、該円筒管外径に対し9%だけ広い内径を持つガラス管内に挿入した状態で、加圧重合容器に垂直に静置した。その後、加圧重合容器内を窒素雰囲気に置換した後、0.2Mpaまで加圧し、100℃で、48時間加熱重合した。その後、加圧状態を維持しながら120℃で、24時間加熱重合および熱処理して、プリフォームを得た。
【0127】
得られたプリフォームには、重合完了時に体積収縮による気泡の混入はなかった。このプリフォームを230℃の熱延伸により線引きし、直径約500μmのプラスチック光ファイバを製造した。延伸工程において、プリフォームには気泡の発生は観察されなかった。
得られたファイバの光伝送損失値(光源波長:850nm)と、該ファイバを温度25℃、相対湿度95%の条件下に300時間放置した後、850nmにおける損失値の上昇値を表2−2に示す。
【0128】
次に、実施例および比較例のファイバの外側をポリエチレンで厚み0.75mmの一次被覆を行い、さらにカーボンを3%含有したポリエチレンで厚み0.75mmの2次被覆を行い被覆ファイバを得た。それらについての曲げ損失試験を行った。特開平7−244220号公報に記載の実験方法によって曲げ試験を実施した。実験条件は、マンドレルの直径 60mmで、該ファイバを該マンドレルに90度に1回の曲げを与え損失分を測定した。該損失の増大の最大値を表2−2に併せて記載した。
【0129】
【表5】

【0130】
【表6】

【0131】
表2−1および2−2にみられるように、SP値が本発明で規定した値(10.9)よりも大きな化合物(19)をドーパントとして使用した場合は、850nmでの初期伝送損失、湿熱下での損失上昇が大きくなるのに対し、SP値が小さな化合物(例示化合物2−(4)および2−(6)を用いた場合には、良好な結果が得られることがわかる。さらにそれらの素線ファイバを被覆しても同様に、本発明の場合小さい曲げ損失値が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
一側面において、本発明によれば、光源波長850nmにおける光伝送損失が小さい光学部材を作製可能な光学部材用重合性組成物を提供でき、及び光源波長850nmにおける光伝送損失が小さい光学部材を安価に提供することができる。
また、他の側面において、本発明によれば、光源波長850nmにおける光伝送損失および耐湿熱性が良好な光学部材を作製可能な光学部材用重合性組成物を提供でき、及び光源波長850nmにおける光伝送損失および耐湿熱性が良好な光学部材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性モノマー組成物、
重合開始剤、および
前記重合性モノマー組成物と異なる屈折率を有する化合物であって、置換基を有するベンゼン環を含み、前記置換基のHammett値もしくは前記置換基が複数ある場合にはそれらのHammett値の和平均が0.04以下である化合物を含有する、
光源波長850nmに対応した光学部材用重合性組成物。
【請求項2】
前記重合性モノマー組成物が、プロペン酸及びその誘導体のエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含有する請求項1の重合性組成物。
【請求項3】
前記重合性モノマー組成物が、(メタ)アクリル酸及びその誘導体のエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を主成分として含有する請求項2の重合性組成物。
【請求項4】
前記重合性モノマー組成物が、C−F結合を含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1の重合性組成物。
【請求項5】
前記重合性モノマー組成物が、C−D(重水素)結合を含む化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1の重合性組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の組成物を重合して、屈折率の大きさに分布がある屈折率分布領域を形成してなる光学部材。
【請求項7】
(メタ)アクリル酸エステル類の重合体から選ばれる少なくとも1種を含む樹脂組成物と、ベンゼン環上のC−H伸縮振動の4倍音吸収極大波長が875nm以上であり、且つ前記樹脂組成物単体の屈折率と異なる屈折率を有する化合物とを含む光源波長850nmに対応した光学部材。
【請求項8】
前記化合物が、下記一般式(1)で表される化合物から選択される請求項7の光学部材;
【化1】

1〜R10はそれぞれ水素原子もしくはアルキル基、アルケニル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基またはジアルキルアミノ基を表し、少なくとも4つはアルキル基、アルケニル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基またはジアルキルアミノ基である。
【請求項9】
屈折率の大きさに分布がある領域を有する請求項7の光学部材。
【請求項10】
屈折率の大きさが中央から外側に向かって変化する領域を含む請求項7の光学部材。
【請求項11】
【化2】

1は水素原子(H)または重水素原子(D)を表し、2つのX1は同一でも異なっていてもよく;Y1はH、D、CH3基またはCD3基を表し、R1は炭素数7〜20個の脂環式炭化水素基を表し;
で表される化合物から選択される少なくとも1種を含有する重合性モノマー組成物、
重合開始剤、および
前記重合性モノマーとは異なる屈折率を有する化合物であって、置換基を有するベンゼン環を含み、前記置換基のHammett値又は該置換基が複数ある場合にはそれらのHammett値の和平均が、0.04以下であり、かつ溶解度パラメーターが10.9以下である化合物、
を含有する光学部材用重合性組成物。
【請求項12】
前記重合性モノマー組成物が、前記脂環式メタクリル酸エステルおよびメタクリル酸メチルを主成分として含有する請求項11の重合性組成物。
【請求項13】
前記重合性モノマー組成物が、C−D結合を含む化合物の少なくとも1種を含有する請求項12の重合性組成物。
【請求項14】
請求項11の組成物を重合して、屈折率の大きさに分布を有する屈折率分布領域を形成してなる光学部材。
【請求項15】
請求項11の組成物を重合して形成されたコア部と、該コア部を被覆するクラッド部とを有する請求項14の光学部材。
【請求項16】
前記コア部が、屈折率の大きさが中央から外側に向かって変化する領域である請求項15の光学部材。
【請求項17】
前記クラッド部が、前記コア部と同一種の又は同一の複数種の成分を主成分として含有する重合性モノマー組成物から本質的になる請求項15の光学部材。
【請求項18】
光ファイバ、光導波路および光学レンズのいずれかである請求項15の光学部材。
【請求項19】
請求項1の重合性組成物を重合する工程を含む光学部材の製造方法。
【請求項20】
前記重合工程において、重合温度が50℃以上である請求項19の方法。



【公表番号】特表2006−506502(P2006−506502A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553169(P2004−553169)
【出願日】平成15年11月14日(2003.11.14)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014510
【国際公開番号】WO2004/046203
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】