説明

光学部材及びその製造方法

【課題】 装置の大型化を防止して、解像度の向上を図る。
【解決手段】
撮像用レンズ1の光軸上に配設されて収差を補正する光学部材である。上記光軸上に配設されるIRカットフィルタ等の平板材4に、補正対象収差に応じた非球面形状に設定した補正膜5を施した。補正膜はレンズの受光素子側に設けた。補正膜5は紫外線硬化性樹脂で成形した。この紫外線硬化性樹脂は、その機能面の外側にまで広げて塗布されて、平板材4をバレル6に固定する接着剤として利用する。収差を補正する補正膜5は、平板材4の一面に紫外線硬化性樹脂を塗布し、押し型10を平板材4の紫外線硬化性樹脂の表面に押し付けた状態で紫外線照射処理を施して成形する。補正対象収差に応じた非球面形状に設定された型に合成樹脂を塗布し、平板材24の一面又は両面に上記合成樹脂を押し付けた状態で硬化処理を施して、正確な非球面形状の補正膜を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像用レンズ等に組み込まれる光学部材及びその製造方法に関し、特に携帯電話機等に用いる撮像用レンズ等のように、小型でレンズ枚数の少ない光学機器に用いて好適な光学部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、携帯電話においては、画像を送受信できる機能が付加されたカメラ付き携帯電話が急速に普及している。
【0003】
携帯電話に組み込まれるカメラにはCCD素子やCMOS素子が用いられている。これらの素子の画素数が30万画素以上の高画質になると、小型でかつ高解像度のレンズが必要となる。このため、各種の収差が小さく、良好な光学的特性を有する小型のレンズが求められている。
【0004】
この良好な光学的特性を実現するために、1枚又は2枚のレンズによって構成したものがある。このようなレンズの例としては、特許文献1,2に記載のものが知られている。
【特許文献1】特開2001−296473号公報
【特許文献2】特開2004−4620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述した従来のレンズのような構成においては、そのレンズだけですべての収差を効率的に補正するのは難しい。このため、収差を補正するためのレンズを組み込む必要が生じるが、収差の補正のために新たなレンズを組み込めば嵩張るため、枚数が少なくて小型で、かつ画質の良好なレンズを実現するのは難しいという問題点がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、小型、薄型の状態を維持しつつ、解像度を向上させることができる光学部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために第1の発明に係る光学部材は、光軸上に配設されて特定機能を果たす平板材でなる光学部材であって、上記平板材の一面又は両面を、当該光学部材が組み込まれる光学系の収差を補正する非球面形状に設定したことを特徴とする。
【0008】
上記構成により、例えば、光軸上に既に配設されているフィルタ等の平板材の場合は当然であるが、光軸上に新たに配設される平板材の場合でも、レンズに比べて薄いため、嵩張らない。この透明な平板材の表面を、補正対象収差に応じた非球面形状に設定することにより、各種の収差を補正することができる。補正対象収差に応じた非球面形状に設定する平板材の面としては、平板材自体を直接上記非球面形状にしてもよく、平板材に膜材を貼付してもよい。また、上記非球面形状にする面は、必要に応じて一面又は両面とする。
【0009】
第2の発明に係る光学部材は、第1の発明に係る光学部材であって、上記平板材の一面又は両面に、上記補正対象収差に応じた非球面形状に設定された補正膜を施したことを特徴とする。
【0010】
上記構成により、上記平板材の一面又は両面に施した補正膜を、例えば数十ミクロン程度の厚さで、上記補正対象収差に応じた非球面形状に設定して、光軸上に配設することで、この光軸上の他のレンズによる収差を補正する。
【0011】
第3の発明に係る光学部材は、第2の発明に係る光学部材であって、上記補正膜が合成樹脂で成形されると共に、当該合成樹脂が、上記平板材に、上記補正対象収差に応じた非球面形状の機能面の外側にまで広げて塗布されて、当該平板材の固定用の接着剤として機能することを特徴とする。
【0012】
上記構成により、上記機能面の外側にまで広げて塗布された合成樹脂が、平板材とこの平板材が取り付けられるバレル等との間にも付着して、これらの間を固定する。
【0013】
第4の発明に係る光学部材は、第1ないし第3のいずれかの発明に係る光学部材であって、上記平板材が、IRカットフィルタであることを特徴とする。
【0014】
上記構成により、光軸上に既に配設されている透明な平板材としてのIRカットフィルタを利用して補正膜を施すことで、IRカットフィルタで赤外線をカットすると共に、補正膜で各種の収差を補正する。
【0015】
第5の発明に係る光学部材は、第1ないし第4のいずれかの発明に係る光学部材であって、上記平板材が、上記光軸上に配設されたレンズの内側に位置することを特徴とする。
【0016】
上記構成により、レンズの内側に位置する平板材が、受光素子に近い位置で収差を補正する。
【0017】
第6の発明に係る光学部材は、第5の発明に係る光学部材であって、上記平板材が、上記光軸上に配設されたレンズの内側であって受光素子の近傍に位置することを特徴とする。
【0018】
上記構成により、受光素子の近傍に位置する平板材が、受光素子のより近い位置で収差を補正する。
【0019】
第7の発明に係る光学部材の製造方法は、光学系の光軸上に配設されて当該光学系の収差を補正する光学部材の製造方法であって、上記光軸上に配設される平板材の一面又は両面に合成樹脂を塗布し、補正対象収差に応じた非球面形状に設定された押し型を上記合成樹脂に押し付けた状態で硬化処理を施して、補正対象収差に応じた非球面形状の補正膜を成形することを特徴とする。
【0020】
上記構成により、押し型の曲面に沿った補正膜を正確にかつ容易に成形することができる。
【0021】
第8の発明に係る光学部材の製造方法は、光学系の光軸上に配設されて当該光学系の収差を補正する光学部材の製造方法であって、補正対象収差に応じた非球面形状に設定された型に合成樹脂を塗布し、上記光軸上に配設される平板材の一面又は両面に上記合成樹脂を押し付けた状態で硬化処理を施して、補正対象収差に応じた非球面形状の補正膜を成形することを特徴とする。
【0022】
上記構成により、合成樹脂は、補正対象収差に応じた非球面形状に設定された型の表面に塗布された状態で硬化処理が施されるため、合成樹脂が完全に固まるまで設定された非球面形状に維持される。
【0023】
第9の発明に係る光学部材の製造方法は、第7又は第8の発明に係る光学部材の製造方法であって、上記合成樹脂が熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂又は速乾性樹脂からなり、上記硬化処理が加熱処理、紫外線照射処理又は乾燥処理からなることを特徴とする。
【0024】
上記構成により、合成樹脂に加熱処理、紫外線照射処理又は乾燥処理を施すことで、短い時間で補正膜を成形することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0026】
(1) 平板材の表面を、補正対象収差に応じた非球面形状に設定することにより、各種の収差を補正することができるため、光学部材を含む光学機器の小型、薄型の状態を維持しつつ解像度を向上させることができる。
【0027】
(2) 平板材の表面に補正膜を施すことで、平板材の表面を補正対象収差に応じた非球面形状にするため、光軸上に既に配設されているIRカットフィルタやカバー等の平板材に対しても容易に、光学部材を成形することができる。
【0028】
さらに、既存のIRカットフィルタ等に補正膜を施すことで、部品点数を増やさずに低コストで光学部材を成形することができる。また、光学部材を嵩張らずに装着することができるため、装置全体の小型化を維持した状態で、画質の良好なレンズを実現することができる。
【0029】
また、平板材を新たに配設する場合も、薄い板材が1枚挿入されるだけなので、装置全体の大型化を防止して、上記同様に、光学部材を容易にかつ低コストで成形できると共に、画質の良好なレンズを実現することができる。
【0030】
(3) 補正膜を成形する合成樹脂を、収差を補正する機能面の外側にまで広げて塗布して、平板材の固定用の接着剤として使うことで、接着作業工程を省略することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0031】
(4) 平板材に合成樹脂を塗布し、押し型を上記平板材の表面に押し付けた状態で硬化処理を施して補正膜を成形することで、補正膜を正確にかつ容易に成形することができるため、精度の高い光学部材を、短時間にかつ安価に製造することができる。
【0032】
(5) 熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂又は速乾性樹脂からなる合成樹脂を、加熱処理、紫外線照射処理又は乾燥処理で硬化させるため、光学部材を短時間に製造することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0033】
(6) 平板材を光軸上に配設されたレンズの内側に位置させて受光素子に近い位置で収差を補正するため、より正確な補正することができる。このとき、平板材を受光素子の近傍に位置させることで、さらに正確な補正することができる。
【0034】
(7) 合成樹脂は、設定非球面形状の型の表面に塗布された状態で硬化処理が施され、合成樹脂が完全に固まるまで設定非球面形状に維持されるため、より正確な補正膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明に係る光学部材及びその製造方法の実施形態を図面を参照しながら詳述する。
【0036】
[第1実施形態]
以下に、本発明の第1実施形態について説明する。図1は本実施形態に係る撮像用レンズを示す側面断面図である。図2は本実施形態に係る光学部材の製造方法を説明するための模式図である。
【0037】
本実施形態に係る撮像用レンズ1は主に、レンズ部2と、光学部材3とから構成されている。
【0038】
レンズ部2は、CCD素子等の受光素子(図示せず)に焦点を絞るためのレンズである。レンズ部2は、非球面の凸レンズ1枚で成形されたり、2枚のレンズを組み合わせて成形されたりする。このレンズ部2で良好な画質が得られるように設計される。しかし、1枚又は2枚のレンズですべての収差を補正するのは容易でなく、補正しきれない収差が出てしまう。
【0039】
光学部材3は、この収差を補正するための部材である。この光学部材3は、平板材4と、補正膜5とから構成されている。平板材4は、光軸上に既に配設されている透明な平板材としてのIRカットフィルタを利用している。この平板材4の外側面にIRカットコートを施して赤外線をカットするフィルタ機能を持たせている。また、光学部材3は、レンズ部2のカバーとしての機能も有する。
【0040】
補正膜5は、レンズ部2で生じる収差を補正するための膜材である。この補正膜5は、平板材4の内側面に一体的に施されている。補正膜5は、10〜80μm程度の厚さで、補正対象収差に応じた非球面形状に設定されている。即ち、補正膜5は通常は非球面状となり、補正対象収差に応じた表面形状に適宜設定される。この補正膜5は、紫外線硬化性樹脂で成形されている。この紫外線硬化性樹脂は、紫外線照射前は液体状であるため、この紫外線硬化性樹脂を平板材4の内側面に塗布する。このとき、紫外線硬化性樹脂は、補正対象収差に応じた非球面形状の機能面を成形する部分だけでなく、その外側にまで広げて塗布される。
【0041】
レンズ部2及び光学部材3はバレル6に取り付けられている。このバレル6は、円筒状の本体部7と、絞りを兼ねた支持板部8とから構成されている。本体部7は、レンズ部2及び光学部材3をホルダー(図示せず)等の部材を介して携帯電話等に取り付けるための部材で、後述する絞り9を外側に向けた状態で配設される。本体部7内にレンズ部2が支持されている。支持板部8は、本体部7の先端部を覆って絞り9を形成するための板部材である。この絞り9は、外部から光を取り込み、光量や光の径を調整するための開口である。支持板部8の内側には平板材4が取り付けられる。この平板材4は、上記紫外線硬化性樹脂によって固定されている。即ち、上記機能面の外側にまで広げて塗布された紫外線硬化性樹脂が、平板材4とこの平板材4が取り付けられるバレル6との間にも付着して接着剤として機能し、これらの間を固定している。
【0042】
次に、光学部材3の製造方法について、図2を基に説明する。
【0043】
まず第1工程として、平板材4をバレル6内に挿入して、この平板材4の内側面に紫外線硬化性樹脂を塗布する。このとき、紫外線硬化性樹脂は、光学部材として機能する機能面よりも広い範囲に塗布する。具体的には、平板材4からはみ出して、バレル6の本体部7及び支持板部8にも付着する程度に塗布する。または、後述する第2工程の押し型10で押されたときに紫外線硬化性樹脂がはみ出して、はみ出し分5Aができ、バレル6の本体部7及び支持板部8にも付着する程度に塗布する。
【0044】
次いで、第2工程として、硬化処理を施す。ここではまず、補正対象収差に応じた非球面形状に設定された押し型10をバレル6内に挿入して平板材4の表面に押し付ける。このとき、押し型10は、バレル6内に挿入できる外径に設定されている。具体的には、バレル6の内径と押し型10の外径とが整合して、押し型10の光軸上の位置決めが正確に行われた状態でバレル6内に挿入するようになっている。
【0045】
この押し型10は、紫外線硬化性樹脂を補正対象収差に応じた非球面形状に成形するために、補正対象収差に応じた非球面形状の曲面を裏返した形状に形成されている。さらに、押し型10は紫外線を透す材料で形成されている。この押し型10を平板材4の表面に押し付けた状態で紫外線を照射して硬化処理を施す。これにより、紫外線硬化性樹脂が短時間で硬化して、補正対象収差に応じた非球面形状の補正膜5が成形される。これと同時に、平板材4がバレル6に固定される。
【0046】
その後、レンズ部2をバレル6に固定して撮像用レンズ1の組み立てが完了する。次いで、撮像用レンズ1を、ホルダ等を介して携帯電話等の本体に組み込む。
【0047】
以上のように構成された撮像用レンズ1では、光軸上に既に配設されているIRカットフィルタとしての平板材4に補正膜5を施すので、既存のレンズ等の厚みは実質的にほとんど変化せず、嵩張らずに、収差の補正機能を追加することができる。これにより、光学部材を含む光学機器の小型、薄型の状態を維持しつつ、撮像用レンズ1の解像度や歪曲収差等を向上させることができる。
【0048】
また、レンズ部2を1枚のレンズで構成する場合、このレンズ部2と平板材4とで3面の非球面を持つことになり、2枚のレンズでレンズ部2を構成する場合よりもコストを低減することができ、1枚のレンズでレンズ部2を構成する場合よりも光学的性能を向上させることができる。部品点数を増えないため、低コストで光学部材を成形することができる。
【0049】
紫外線硬化性樹脂を機能面の外側にまで広げて塗布して、平板材4の固定用の接着剤として使うため、接着作業工程を省略することができ、製造コストの低減を図ることができる。通常、紫外線硬化性樹脂の液だれは欠点であるが、これを逆手にとって、接着剤として利用することで、接着工程を省略できる。さらに、積極的に液だれするように多くの紫外線硬化性樹脂を塗布するため、液不足による不良を確実に防止することができる。
【0050】
平板材4に紫外線硬化性樹脂を塗布し、押し型10を平板材4の表面に押し付けた状態で硬化処理を施して補正膜5を成形することで、押し型10の表面仕上げに応じて、補正膜5を正確にかつ容易に成形することができる。このため、押し型10の表面を正確に仕上げることで、精度の高い光学部材を、短時間で容易にかつ安価に製造することができる。
【0051】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図3は本実施形態に係る撮像用レンズを示す側面断面図である。図4は本実施形態に係る光学部材の製造方法を説明するための模式図である。
【0052】
本実施形態に係る撮像用レンズ11は主に、レンズ部12と、外側バレル13と、光学部材14とから構成されている。
【0053】
レンズ部12は、CCD素子等(図示せず)に焦点を絞るためのレンズである。レンズ部12は、非球面の凹レンズ1枚で成形されている。なお、このレンズ部12は、上述した第1実施形態のレンズ部2と同様に、レンズ1枚で成形されたり、2枚のレンズを組み合わせて成形されたりする。このレンズ部12で良好な画質が得られるように設計される。そして、1枚又は2枚のレンズで補正しきれない収差を光学部材14で補正する。
【0054】
外側バレル13は、レンズ部12及び光学部材14を支持するための部材である。外側バレル13は、円筒状の本体部16と、支持板部17とから構成されている。
【0055】
本体部16は、レンズ部12及び光学部材14をホルダー(図示せず)等の部材を介して携帯電話等に取り付けるための部材で、支持板部17を外側に向けた状態で配設される。この本体部16内に光学部材14が正確に位置決めされて支持されている。
【0056】
支持板部17は、本体部16の先端側(図3中の上側)に取り付けられた部材である。支持板部17は、第1実施形態の絞り9と同様の穴を有し、レンズ部12の外側を覆って配設されている。
【0057】
光学部材14は、絞り機能とフィルタ機能と収差の補正機能とを備えた部材である。光学部材14は、内側バレル19と、IRカットフィルタ部20とから構成されている。
【0058】
内側バレル19は円筒状に形成されている。内側バレル19の外径は、外側バレル13の内径とほぼ同じ寸法に設定されている。これにより、内側バレル19は、外側バレル13内の設定位置にがたつくことなく安定して確実に支持されている。内側バレル19の光軸方向最外側(携帯電話等に取り付けられた状態での最外側である、図3中の上側)には絞り部21が形成されている。この絞り部21は、外部から光を取り込み、その光量や光の径を調整するための開口である。設定された開口径に合わせて形成されている。
【0059】
内側バレル19の光軸方向最内側には、IRカットフィルタ部20を支持するための円環状の切り欠き22が形成されている。この切り欠き22にIRカットフィルタ部20が取り付けられている。切り欠き22の位置は、後述する補正膜25の設定位置に合わせて正確に形成されている。
【0060】
IRカットフィルタ部20は、第1実施形態と同様の部材である。即ち、IRカットフィルタ部20は、光軸上に既に配設されているもので、赤外線をカットするフィルタ機能を備えている。但し、本実施形態のIRカットフィルタ部20は、レンズ部12のカバーとしての機能は備えていない。
【0061】
IRカットフィルタ部20は、平板材24と、補正膜25とから構成されている。
【0062】
平板材24は、透明な板材で構成され、その光軸方向外側表面にIRカットコートが施されている。平板材24の光軸方向内側表面には補正膜25が設けられている。補正膜25は、レンズ部12で生じる収差を補正するための膜材である。補正膜25は、補正対象収差に応じた非球面形状に設定されている。即ち、補正膜25は通常は非球面状となり、補正対象収差に応じた表面形状に適宜設定される。個々では、歪曲収差を主な補正対象収差としている。補正膜25をレンズ部12の内側に設けることで、特に歪曲収差を高い精度で補正することができる。このため、補正膜25(平板材24)は、レンズ部12の内側であって、受光素子により近い位置に設けるのが望ましい。この補正膜25は、紫外線硬化性樹脂で成形されている。
【0063】
次に、光学部材3の製造方法について、図4を基に説明する。
【0064】
まず第1工程として、平板材24を内側バレル19の切り欠き22に固定する。次いで、液体状の紫外線硬化性樹脂を、補正対象収差に応じた表面形状に形成された型27の表面に塗布する。次いで、内側バレル19に装着した平板材24の光軸方向内側表面に紫外線硬化性樹脂を押し付けた状態で、第2工程として、硬化処理を施す。
【0065】
この第2工程では、絞り部21から紫外線を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化させる。これにより、紫外線硬化性樹脂が短時間で硬化して、補正対象収差に応じた非球面形状の補正膜25が成形される。
【0066】
これと並行して、レンズ部12が外側バレル13内に固定される。レンズ部12は、外側バレル13の支持板部17光軸方向内側面に当接して接着剤等で固定される。
【0067】
その後、内側バレル19を外側バレル13内側に装着して設定位置で固定することで、撮像用レンズ11の組み立てが完了する。次いで、撮像用レンズ11を、ホルダ等を介して携帯電話等の本体に組み込む。
【0068】
以上のように構成された撮像用レンズ11では、上述した第1実施形態と同様の作用、効果を奏することができる。特に、本実施形態の撮像用レンズ11では、上記第1実施形態と同様に、光軸上に既に配設されているIRカットフィルタとしての平板材24に補正膜25を施すことで、既存のレンズ等の厚みは実質的にほとんど変化せず、嵩張らずに、収差の補正機能を追加することができ、これにより、光学部材を含む光学機器の小型、薄型の状態を維持しつつ、撮像用レンズ11の解像度や収差等を向上させることができるが、特に本実施形態の撮像用レンズ11では、歪曲収差を吸収する機能に優れた撮像用レンズとすることができる。そしてこの場合、補正膜25を極力、受光素子に近い位置に設けることにより、歪曲収差補正機能をより一層高めることができる。
【0069】
[変形例]
(1) 上記各実施形態では、携帯電話機を例に説明したが、本発明は携帯電話機に限らず、1枚又は2枚程度のレンズで撮像用レンズ1、11を構成する小型の装置であれば、本発明を適用することができ、これによって上記実施形態同様の作用、効果を奏することができる。
【0070】
さらに、3枚以上のレンズで構成される光学機器にも本発明を適用することができる。3枚以上のレンズの中にフィルタやカバー等の平板材があれば、それに補正膜5、25を施すことで、上記実施形態同様の作用、効果を奏することができる。補正膜5、25を施すために新たに平板材を設けてもよい。
【0071】
(2) 上記各実施形態では、補正膜5、25を平板材4、24の内側面に施したが、平板材4、24の外側面に施してもよいことは言うまでもない。さらに、平板材4、24の両側面に施してもよい。補正したい収差に応じて適宜選択する。
【0072】
(3) 上記第1実施形態では、補正膜5、25を施す平板材である、光軸上に配設されて特定機能を果たす平板材として、IRカットフィルタである平板材4、24を利用したが、カバーやUVカットフィルタ等の他の平板材を利用してもよいことは言うまでもない。さらに、新たに平板材を配設し、その平板材に補正膜5、25を施してもよい。新たに平板材を配設する場合でも、平板材自体はあまり厚くないので、撮像用レンズ1、11が大型化することもない。
【0073】
(4) 上記各実施形態では、補正膜5、25を紫外線硬化性樹脂で成形して、紫外線照射処理で硬化させるようにしたが、他の材料を用いてもよい。例えば、熱硬化性樹脂を用いて、加熱処理で補正膜5、25を成形してもよい。さらに、速乾性樹脂を用いて、乾燥処理を施してもよい。これらの場合も、上記実施形態同様に、短い時間で補正膜5、25を成形することができる。
【0074】
(5) 上記第2実施形態では、平板材24を内側バレル19の切り欠き22に取り付けたが、外側バレル13側に設けても良い。この場合も上記実施形態同様の作用、効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1実施形態に係る撮像用レンズを示す側面断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る光学部材の製造方法を説明するための模式図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る撮像用レンズを示す側面断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る光学部材の製造方法を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0076】
1:撮像用レンズ、2:レンズ部、3:第2レンズ、4:平板材、5:補正膜、6:バレル、7:本体部、8:支持板部、9:絞り、10:押し型、11:撮像用レンズ、12:レンズ部、13:外側バレル、14:光学部材、16:本体部、17:支持板部、19:内側バレル、20:IRカットフィルタ部、21:絞り部、22:切り欠き、24:平板材、25:補正膜、27:型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸上に配設されて特定機能を果たす平板材でなる光学部材であって、
上記平板材の一面又は両面を、当該光学部材が組み込まれる光学系の収差を補正する非球面形状に設定したことを特徴とする光学部材。
【請求項2】
請求項1に記載の光学部材であって、
上記平板材の一面又は両面に、上記補正対象収差に応じた非球面形状に設定された補正膜を施したことを特徴とする光学部材。
【請求項3】
請求項2に記載の光学部材であって、
上記補正膜が合成樹脂で成形されると共に、当該合成樹脂が、上記平板材に、上記補正対象収差に応じた非球面形状の機能面の外側にまで広げて塗布されて、当該平板材の固定用の接着剤として機能することを特徴とする光学部材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学部材であって、
上記平板材が、IRカットフィルタであることを特徴とする光学部材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の光学部材であって、
上記平板材が、上記光軸上に配設されたレンズの内側に位置することを特徴とする光学部材。
【請求項6】
請求項5に記載の光学部材であって、
上記平板材が、上記光軸上に配設されたレンズの内側であって受光素子の近傍に位置することを特徴とする光学部材。
【請求項7】
光学系の光軸上に配設されて当該光学系の収差を補正する光学部材の製造方法であって、
上記光軸上に配設される平板材の一面又は両面に合成樹脂を塗布し、補正対象収差に応じた非球面形状に設定された押し型を上記合成樹脂に押し付けた状態で硬化処理を施して、補正対象収差に応じた非球面形状の補正膜を成形することを特徴とする光学部材の製造方法。
【請求項8】
光学系の光軸上に配設されて当該光学系の収差を補正する光学部材の製造方法であって、
補正対象収差に応じた非球面形状に設定された型に合成樹脂を塗布し、上記光軸上に配設される平板材の一面又は両面に上記合成樹脂を押し付けた状態で硬化処理を施して、補正対象収差に応じた非球面形状の補正膜を成形することを特徴とする光学部材の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の光学部材の製造方法であって、
上記合成樹脂が熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂又は速乾性樹脂からなり、
上記硬化処理が加熱処理、紫外線照射処理又は乾燥処理からなることを特徴とする光学部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−18253(P2006−18253A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165942(P2005−165942)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000108074)セキノス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】