説明

光導波路回路の製造方法および製造装置

【課題】紫外光照射による特性の調整を高精度にできる光導波路回路の製造方法および製造装置を提供すること。
【解決手段】紫外光を吸収して媒質の屈折率を変化させるドーパントを含有するコアと該コアの周囲に形成されたクラッドとを備える光導波路回路の該コアに紫外光を照射する紫外光照射工程と、前記ドーパントからの発光量を測定する発光量測定工程と、を含み、前記測定した発光量の積算値に基づいて前記光導波路回路の特性を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路回路の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
主に光通信の分野において、石英系ガラスを材料とする光導波路回路である平面光波回路(Planar Lightwave Circuit:PLC)により構成したマッハツェンダー光干渉計(Mach-Zehnder interferometer:MZI)やアレイ導波路回折格子(Arrayed-Waveguide Grating:AWG)などの光干渉計素子が用いられている。これらの光導波路回路は、光を導波するコアと、コアの周囲に形成されたクラッドとからなる光導波路を備えている。
【0003】
このような光干渉計素子は光の干渉作用を利用しているため、光導波路の光路長等に製造誤差がある場合には、所望の特性が得られない場合がある。そこで、光干渉計素子の製造の際には、導波路構造を作製した後に、コアの一部分に紫外光を照射してコアの屈折率を高める工程が行われる場合がある。この工程はトリミング工程とも呼ばれる。このトリミング工程によって光導波路の光路長を調整することができるので、素子の特性を調整することができる。なお、コアがゲルマニウム(Ge)を含有している場合には、Geが紫外光を吸収して媒質である石英系ガラスの屈折率を変化させるので、紫外光照射によりコアの屈折率を高めることができる。
【0004】
たとえば、特許文献1では、導波路構造を作製したMZI素子に水素を含浸させた後熱処理を行う水素処理工程を行うことによって、コアに含まれるGeの紫外光吸収係数を増大させている。これによってコアの光誘起屈折率変化の感受性を高めている。その後、コアの一部分にKrFエキシマレーザのレーザ光(波長248nm)を照射して素子の特性を調整している。なお、紫外光源としてはArFエキシマレーザ(波長193nm)を用いる場合もある。また、光導波路に紫外光を照射して素子の特性を調整する方法は、光干渉計素子に限らず使用されている(特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−308546号公報
【特許文献2】特開2001−311847号公報
【特許文献3】特開2004−317802号公報
【特許文献4】特開2005−31359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、素子間または素子内でコアのサイズまたはGeの含有量にばらつきがあると、紫外光の照射時間の調整によってコアの屈折率の変化量を調整しようとすると、素子間または素子内でその調整量にばらつきが生じる。その結果調整後の素子特性にばらつきが生じたり、所望の特性が得られない場合があったりするという問題がある。
【0007】
特に、光導波路に水素処理工程を行う場合、光導波路のクラッドにホウ素(B)やリン(P)が添加されていると、水素処理によってクラッドの紫外光吸収(たとえば波長248nmの吸収)も増大する場合がある。その結果、その後の紫外光照射を行った場合にクラッドの屈折率も変化する場合がある。したがって、素子間または素子内でクラッドの厚さやBまたはPの含有量にばらつきがあると、コアの場合と同様に調整後の素子特性にばらつきが生じたり、所望の特性が得られない場合があったりするというさらなる問題がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、紫外光照射による特性の調整を高精度にできる光導波路回路の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光導波路回路の製造方法は、紫外光を吸収して媒質の屈折率を変化させるドーパントを含有するコアと該コアの周囲に形成されたクラッドとを備える光導波路回路の該コアに紫外光を照射する紫外光照射工程と、前記ドーパントからの発光量を測定する発光量測定工程と、を含み、前記測定した発光量の積算値に基づいて前記光導波路回路の特性を調整する。
【0010】
また、本発明に係る光導波路回路の製造方法は、上記発明において、前記測定した発光量の積算値が所定値に到達したときに前記紫外光の照射を停止する。
【0011】
また、本発明に係る光導波路回路の製造方法は、上記発明において、前記ドーパントはゲルマニウムである。
【0012】
また、本発明に係る光導波路回路の製造方法は、上記発明において、前記紫外光の波長は波長193nmである。
【0013】
また、本発明に係る光導波路回路の製造方法は、上記発明において、前記紫外光の波長は波長248nmである。
【0014】
また、本発明に係る光導波路回路の製造方法は、上記発明において、前記光導波路のクラッドはホウ素またはリンを含有する。
【0015】
また、本発明に係る光導波路回路の製造装置は、紫外光を吸収して媒質の屈折率を変化させるドーパントを含有するコアと該コアの周囲に形成されたクラッドとを備える光導波路回路の該コアに紫外光を照射する紫外光源と、前記ドーパントからの発光量を測定する発光量測定器と、を備え、前記測定した発光量の積算値に基づいて前記光導波路回路の特性を調整する。
【0016】
また、本発明に係る光導波路回路の製造装置は、上記発明において、前記測定した発光量の積算値が所定値に到達したときに前記紫外光の照射を停止する制御器を備える。
【0017】
また、本発明に係る光導波路回路の製造装置は、上記発明において、前記ドーパントはゲルマニウムである。
【0018】
また、本発明に係る光導波路回路の製造装置は、上記発明において、前記紫外光の波長は波長193nmである。
【0019】
また、本発明に係る光導波路回路の製造装置は、上記発明において、前記紫外光の波長は波長248nmである。
【0020】
また、本発明に係る光導波路回路の製造装置は、上記発明において、前記光導波路のクラッドはホウ素またはリンを含有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、紫外光照射による光導波路回路の特性の調整を高精度にできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、実施の形態1に係る光導波路回路の製造方法を実施するための製造装置の模式的な構成図である。
【図2】図2は、図1に示すウェハに形成された1つの90度ハイブリッド素子の模式的な平面図である。
【図3】図3は、90度ハイブリッド素子にレーザ光を照射した場合の変化を説明する模式的な断面図である。
【図4】図4は、同一のウェハから作製した異なる90度ハイブリッド素子のサンプルにおけるレーザ光の照射時間と位相シフト量との関係を示す図である。
【図5】図5は、異なる2つのウェハから作製した90度ハイブリッド素子のサンプルにおけるレーザ光の照射時間と位相シフト量との関係を示す図である。
【図6】図6は、異なるウェハから作製した90度ハイブリッド素子のサンプルにおける発光量と位相シフト量との関係を示す図である。
【図7】図7は、実施の形態2に係る光導波路回路の製造方法を実施するための製造装置の模式的な構成図である。
【図8】図8は、図7に示すウェハに形成された1つのAWG素子の模式的な平面図である。
【図9】図9は、AWG素子にレーザ光を照射した場合の変化を説明する模式的な断面図である。
【図10】図10は、ArFエキシマレーザを用いた場合の、入力光導波路と所定の出力導波路との間の調整前後の透過スペクトルを示す図である。
【図11】図11は、同一ウェハから作製した異なるAWG素子のサンプルにおける発光量と位相シフト量との関係を示す図である。
【図12】図12は、KrFエキシマレーザを用いた場合の、入力光導波路と所定の出力導波路との間の調整前後の透過スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して本発明に係る光導波路回路の製造方法および製造装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。
【0024】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る光導波路回路の製造方法を実施するための製造装置の模式的な構成図である。図1に示すように、この製造装置10は、KrFエキシマレーザ11と、ミラー系12aと、コリメートレンズ系13と、ミラー12bと、移動装置14と、受光器15と、測定制御器16とを備えている。
【0025】
KrFエキシマレーザ11は、紫外光である波長248nmのレーザ光L1を出力する。ミラー系12a、コリメートレンズ系13、およびミラー12bは、レーザ光L1をコリメートし、移動装置14に載置されたウェハW1に導くように配置されている。なお、ミラー系12a、コリメートレンズ系13、およびミラー12bによって、レーザ光L1のビーム径はたとえば約10mm×15mmに調整される。
【0026】
移動装置14は、光導波路回路である多数の90度ハイブリッド素子が形成されたウェハW1を載置するとともに、ウェハW1を、紙面の左右方向および紙面に垂直方向に移動させることができるように構成されている。これによって、移動装置14は、レーザ光L1がウェハW1の所望の場所に照射されるように、ウェハW1の位置を調整することができる。なお、ウェハW1の表面には、レーザ光L1が照射されるべき場所以外を覆うシャドウマスクM1が形成されている。
【0027】
受光器15は、たとえばフォトダイオードを備えており、90度ハイブリッド素子からの発光を受光できるように配置されている。測定制御器16は、受光器15に接続されている。測定制御器16は、受光器15の受光量をもとに90度ハイブリッド素子からの発光量を測定する照度計と、発光量の積算値を算出し、その積算値をもとにKrFエキシマレーザ11を制御する制御器とを備えている。
【0028】
図2は、図1に示すウェハに形成された1つの90度ハイブリッド素子の模式的な平面図である。図2に示すように、1つの90度ハイブリッド素子1は、入力光導波路1a、1bと、入力光導波路1aに接続したY分岐光導波路1cと、入力光導波路1bに接続したY分岐光導波路1dと、Y分岐光導波路1cに接続したアーム光導波路1e、1fと、Y分岐光導波路1dに接続したアーム光導波路1g、1hと、アーム光導波路1e、1gに接続した方向性結合器からなる3dBカプラ1iと、アーム光導波路1f、1hに接続した方向性結合器からなる3dBカプラ1jと、3dBカプラ1iに接続した出力光導波路1k、1lと、3dBカプラ1jに接続した出力光導波路1m、1nと、を備えている。
【0029】
アーム光導波路1e、1fは同じ光路長である。アーム光導波路1hの光路長とアーム光導波路1gの光路長とは、光路差が光の位相に換算して90度となるように設定されている。たとえば、アーム光導波路1hの光路長はアーム光導波路1e、1fの光路長よりも光の位相に換算してπ/4ラジアン(45度)だけ短く設定され、アーム光導波路1gの光路長はアーム光導波路1e、1fの光路長よりも光の位相に換算してπ/4ラジアンだけ長く設定されている。これによって、90度ハイブリッド素子1は、3dBカプラ1jの出力特性と3dBカプラ1iとで位相が90度異なる干渉特性を有する。
【0030】
この90度ハイブリッド素子1は、たとえば偏波多重四値位相変調(DP−QPSK:Dual Polarization Quadrature Phase Shift Keying)方式を用いる光伝送システムの受光側において、局所発振(Local Oscillation:LO)光と伝送後のDP−QPSK光信号とを混合させて干渉させるために用いられる。たとえば、偏波分離されたLO光とDP−QPSK光信号とが入力光導波路1a、1bのそれぞれに入力され、混合、干渉した後に出力光導波路1k、1l、1m、1nのそれぞれから出力される。出力光導波路1k、1l、1m、1nから出力された光をバランスドフォトディテクタ(Balanced-Photo Detector:B−PD)によって受光することによって、変調信号のIチャネルとQチャネルとを分離して、電気信号として取り出すことができる。
【0031】
この90度ハイブリッド素子1では、アーム光導波路1e、1f、1g、1hの光路長の設計が素子の特性に大きく影響を与える。しかしながら、製造ばらつきなどによって、光導波路構造の作製時には所望の光路長が得られない場合がある。
【0032】
そのため、本実施の形態1では、図1に示す製造装置10によって以下のように光路長の調整(トリミング)を行う。
【0033】
はじめに、ウェハW1に90度ハイブリッド素子1の光導波路構造を作製した後、水素処理を行う。この水素処理は、たとえば圧力15MPa水素ガス下で7日間行う。
【0034】
つぎに、図1に示すように移動装置14に水素処理を行ったウェハW1を載置する。移動装置14によってウェハW1の位置を調整した後、KrFエキシマレーザ11からのレーザ光L1を、ミラー系12a、コリメートレンズ系13、およびミラー12bによって所定の90度ハイブリッド素子1に導き、シャドウマスクM1で覆われていないアーム光導波路のいずれか(たとえばアーム光導波路1e)に照射し、光路長の調整を行う。
【0035】
図3は、90度ハイブリッド素子にレーザ光を照射した場合の変化を説明する模式的な断面図である。図3(a)に示すように、90度ハイブリッド素子1のアーム光導波路1eを含めたすべての光導波路のコアは、たとえばシリコンからなる基板1oの上で、その周囲に形成されたクラッド層1pに囲まれている。コアはGeが添加されており、クラッド層1pはBまたはPが添加されている。なお、アーム光導波路1eを含めた光導波路のコアの断面のサイズはたとえば6μm×6μmである。またクラッド層1pに対するコアの比屈折率差がたとえば0.75%となるようにGeおよびBまたはPが添加されている。
【0036】
90度ハイブリッド素子1にレーザ光L1を照射すると、クラッド層1p中のBまたはP、およびアーム光導波路1eのコア中のGeがレーザ光L1を吸収する。これによって、アーム光導波路1eのコアおよびクラッド層1pのうち、レーザ光L1が照射された領域の屈折率が高くなるように変化する。このように屈折率を変化させることによって光路長を調整することができる。図3(b)の領域1qは屈折率が変化した領域を示している。
【0037】
レーザ光L1を吸収したBまたはPは発光しない。これに対して、レーザ光L1を吸収したGeは波長400nm付近の光を含む蛍光L2を発光する。受光器15は、このGeの蛍光L2を受光してその受光量に対応する電流を出力する。測定制御器16は、受光器15からの電流量に基づいてGeの発光量を測定し、発光量の積算値を算出する。そして、この発光量の積算値が所定値に達したら、測定制御器16がKrFエキシマレーザ11を制御して、レーザ光L1の照射を停止する。これによって、光路長の調整は終了する。なお、レーザ光L1の照射の停止は、測定制御器16が表示する発光量の積算値に基づいて、作業者が停止作業を行っても良い。
【0038】
ここで、たとえば従来のようにレーザ光L1の照射時間に基づいて光路長を調整する場合は、コアのサイズやGeの含有量にばらつきがある場合には、同一の照射時間であっても、コアで吸収されるレーザ光L1のエネルギー量にもばらつきが生じる。その結果、光路長の調整量にもばらつきが生じる。
【0039】
特に、KrFエキシマレーザ11のような波長248nmのレーザ光L1を用いた場合には、クラッド層1p中のBまたはPもレーザ光L1を吸収する。そのため、レーザ光L1の照射開始から所定の時間まではクラッド層1p中のBまたはPが主にレーザ光L1を吸収し、その吸収が飽和した後に、アーム光導波路1eの導波路コア中のGeによるレーザ光L1の吸収が主となる。レーザ光L1の照射開始から、BまたはPの光吸収が飽和するまでの時間は、プレ照射時間とも呼ばれる。このプレ照射時間は、クラッド層1pの厚さのばらつきやBまたはPの含有量のぱらつきに応じてばらつくので、レーザ光L1の照射時間に基づいて光路長を調整する場合は、光路長の調整量のばらつきがさらに大きくなるおそれがある。
【0040】
これに対して、本実施の形態1では、Geが吸収したエネルギー量に比例する蛍光の発光量の積算値に基づいて光路長を調整している。レーザ光L1が照射されたアーム光導波路1eのコアの屈折率の変化量は、吸収されたレーザ光L1のエネルギー量に比例する。吸収されたエネルギー量を直接測定することは困難である。しかしながら、本実施の形態1のように、発光量の積算値に基づきレーザ光L1の照射時間を制御し、光路長を調整することによって、精度よく光路長の調整を行うことができる。
【0041】
なお、光路長の調整後は、たとえば温度80℃で48時間の水素抜き処理と温度300℃以上で10分間の特性安定化処理を行うことで、所望の特性に調整された90度ハイブリッド素子1を製造することができる。
【0042】
つぎに、実施の形態1に従い、90度ハイブリッド素子のアーム導波路にKrFエキシマレーザからの波長248nmのレーザ光を照射して光路長を調整した場合の、3dBカプラの干渉特性の位相シフト量の測定結果について説明する。
【0043】
図4は、同一のウェハから作製した異なる90度ハイブリッド素子のサンプルにおけるレーザ光の照射時間と位相シフト量との関係を示す図である。図4中の実線は、最小二乗法によるデータ点の近似直線を示している。図4において、照射時間が40秒以下のときに位相シフト量がばらついている。このことはプレ照射時間がばらついていることを示している。また、レーザ光の照射時間によって位相シフト量を調整しようとした場合は、同じウェハから作製したサンプルであっても、位相シフト量にばらつきが生じることが分かる。
【0044】
図5は、異なる2つのウェハから作製した90度ハイブリッド素子のサンプルにおけるレーザ光の照射時間と位相シフト量との関係を示す図である。図5中の実線は、あるウェハからのサンプルについての、最小二乗法によるひし形のデータ点の近似直線を示している。図5中の破線は、別のウェハからのサンプルについての、最小二乗法による三角形のデータ点の近似直線を示している。図5から、異なるウェハから作製したサンプル間ではさらに位相シフト量にばらつきが生じることが分かる。
【0045】
一方、図6は、異なるウェハから作製した90度ハイブリッド素子のサンプルにおける発光量と位相シフト量との関係を示す図である。図6中の実線は、最小二乗法によるひし形および三角形のデータ点の近似直線を示している。なお、発光量は、レーザ光の照射開始時からの積算値であり、プレ照射時間において測定した発光も含まれている。発光量の積算値の単位は「J/cm」であり、図6の横軸のスケールはこの単位に比例している。図6から、発光量の積算値と位相シフト量とは比例関係にあり、かつばらつきがきわめて少ないことが分かる。すなわち、発光量の積算値に基づいてレーザ光の照射を制御し、光路差を調整すれば、クラッド層のBまたはPの含有量のばらつきやコアのGeの含有量のばらつき等があったとしても、位相シフト量のばらつきをきわめて少なくできることが分かる。
【0046】
(実施の形態2)
図7は、実施の形態2に係る光導波路回路の製造方法を実施するための製造装置の模式的な構成図である。図7に示すように、この製造装置20は、ArFエキシマレーザ21と、シャッター17と、ミラー12bと、移動装置14と、受光器15と、測定制御器16とを備えている。ミラー12b、移動装置14、受光器15、および測定制御器16は図1に示す製造装置10のものと同一である。
【0047】
ArFエキシマレーザ21は、紫外光である波長193nmのレーザ光L3を出力する。シャッター17はレーザ光L3のビーム径を絞る機能を有する。ミラー12bは、移動装置14に載置されたウェハW2に導くように配置されている。レーザ光L3のビーム径はシャッター17によってたとえば約10mm×10mmに調整される。
【0048】
移動装置14は、光導波路回路である多数のAWG素子が形成されたウェハW2を載置するとともに、レーザ光L3がウェハW2の所望の場所に照射されるようにウェハW2の位置を調整することができる。ウェハW2の表面には、レーザ光L3が照射されるべき場所以外を覆うシャドウマスクM2が形成されている。
【0049】
図8は、図7に示すウェハに形成された1つのAWG素子の模式的な平面図である。図8に示すように、1つのAWG素子2は、入力光導波路2aと、入力スラブ光導波路2bと、m本(たとえば600本)のチャネル光導波路2cと、出力スラブ光導波路2dと、n本(たとえば48本)の出力光導波路2eとがこの順に接続されて構成されている。
【0050】
ここで、各チャネル光導波路2cの光路長は、内周側から外周側に向かって一定の光路長差ΔLで増加するように設定されている。すなわち、隣接するチャネル光導波路2c間の光路長差は等しくΔLである。これによって、AWG素子2は、入力光導波路2aから、光の周波数上に等間隔に配列した波長λ1、・・、λnの信号光からなる波長多重信号光を入力した場合に、各出力光導波路2eからそれぞれ波長λ1、・・、λnの信号光を分離して出力することができる。このとき、たとえば入力光導波路2aと、出力光導波路2eのうち波長λ1に対応する出力光導波路との間の透過スペクトルは、波長λ1において透過率が最大となるピークを有する。
【0051】
このAWG素子2では、各チャネル光導波路2cの光路長の設計が素子の特性に大きく影響を与える。しかしながら、製造ぱらつきなどによって、光導波路構造の作製時には所望の光路長が得られない場合がある。その結果、入力光導波路2aと各出力光導波路2eとの透過スペクトルにおいて、透過率のピークが所望の波長からずれてしまう場合がある。
【0052】
そのため、本実施の形態2では、図7に示す製造装置20によって以下のように光路長の調整(トリミング)を行う。
【0053】
はじめに、ウェハW2にAWG素子2の光導波路構造を作製した後、水素処理を行う。この水素処理は、たとえば圧力15MPa水素ガス下で7日間行う。
【0054】
つぎに、移動装置14に水素処理を行ったウェハW2を載置する。移動装置14によってウェハW2の位置を調整した後、ArFエキシマレーザ21からのレーザ光L3を、シャッター17およびミラー12bを介して所定のAWG素子2に導き、シャドウマスクM2で覆われていないチャネル光導波路2c全体に照射し、光路長の調整を行う。
【0055】
図9は、AWG素子にレーザ光を照射した場合の変化を説明する模式的な断面図である。図9(a)に示すように、AWG素子2のチャネル光導波路2cを含めたすべての光導波路のコアは、たとえばシリコンからなる基板2oの上で、その周囲に形成されたクラッド層2pに囲まれている。コアはGeが添加されており、クラッド層2pはBまたはPが添加されている。なお、各光導波路のコアの断面のサイズはたとえば6μm×6μmである。クラッド層2pに対する光導波路の比屈折率差がたとえば0.75%となるようにGeおよびBまたはPが添加されている。
【0056】
AWG素子2にレーザ光L3を照射すると、チャネル光導波路2c中のGeがレーザ光L3を吸収し、レーザ光L3が照射された領域の屈折率が高くなるように変化する。ただし、KrFエキシマレーザを使用した実施の形態1の場合とは異なり、クラッド層2p中のBまたはPは波長193nmのレーザ光L3を吸収しない。
【0057】
レーザ光L3を吸収したGeは波長400nm付近の光を含む蛍光L4を発光する。受光器15は、このGeの蛍光L4を受光してその受光量に対応する電流を出力する。測定制御器16は、受光器15からの電流量に基づいてGeの発光量を測定し、発光量の積算値を算出する。そして、この発光量の積算値が所定値に達したら、測定制御器16がArFエキシマレーザ21を制御して、レーザ光L3の照射を停止する。これによって、光路長の調整は終了する(図9(b))。なお、レーザ光L3の照射の停止は、測定制御器16が表示する発光量の積算値に基づいて、作業者が停止作業を行っても良い。
【0058】
本実施の形態2では、実施の形態1と同様に、吸収したエネルギー量に比例する蛍光の発光量の積算値に基づいて光路長を調整している。レーザ光L3が照射されたチャネル光導波路2cのコアの屈折率の変化量は、吸収されたレーザ光L3のエネルギー量に比例する。本実施の形態2のように、発光量の積算値に基づきレーザ光L3の照射時間を制御し、光路長を調整することによって、精度よく光路長の調整を行うことができる。
【0059】
特に、本実施の形態2では、ArFエキシマレーザ21の波長193nmのレーザ光L3を使用している。その結果、クラッド層2p中のBまたはPはレーザ光を吸収しないので、プレ照射時間のばらつきの問題が発生しない。したがって、よりいっそう精度よく光路長の調整を行うことができる。
【0060】
なお、光路長の調整後は、たとえば温度80℃で48時間の水素抜き処理と温度300℃以上で10分間の特性安定化処理を行うことで、所望の特性に調整されたAWG素子2を製造することができる。
【0061】
つぎに、実施の形態2に従い、AWG素子のチャネル導波路にArFエキシマレーザからの波長193nmのレーザ光を照射して光路長を調整した場合の透過スペクトルの測定結果について説明する。
【0062】
図10は、ArFエキシマレーザを用いた場合の、入力光導波路と所定の出力導波路との間の調整前後の透過スペクトルを示す図である。なお、透過スペクトルは、TM偏波(AWG素子を形成したウェハの表面に垂直方向の偏波)の光を用いて測定した。
【0063】
図10に示すように、トリミングを行って光路長を調整することによって、所定の出力導波路に関する透過ピーク波長をシフトする調整を行うことができる。
【0064】
図11は、同一ウェハから作製した異なるAWG素子のサンプルにおける発光量と波長シフト量との関係を示す図である。図11中の実線は、最小二乗法によるデータ点の近似直線を示している。なお、発光量は、レーザ光の照射開始時からの積算値である。発光量の積算値の単位は「J/cm」であり、図11の横軸のスケールはこの単位に比例している。図11から、発光量の積算値に基づいてレーザ光の照射を制御し、光路差を調整すれば、波長シフト量のばらつきをきわめて少なくできることが分かる。
【0065】
つぎに、AWG素子のチャネル導波路に、実施の形態1のようにKrFエキシマレーザからの波長248nmのレーザ光を照射して光路長を調整した場合の透過スペクトルを測定した。
【0066】
図12は、KrFエキシマレーザを用いた場合の、入力光導波路と所定の出力導波路との間の調整前後の透過スペクトルを示す図である。なお、透過スペクトルは、TM偏波の光を用いて測定した。
【0067】
図12に示すように、KrFエキシマレーザを用いた場合も同様に、所定の出力導波路に関する透過ピーク波長をシフトする調整を行うことができる。ただし、KrFエキシマレーザを用いた場合は、クラッド層のBまたはPが光を吸収するため、クラッド層の屈折率も変化する。その結果、コアとクラッド層との間の比屈折率差が変化してしまう。これによって、図12に示すように、調整後の透過スペクトルにおいては、中央の透過ピークの両側に小さい透過ピークが現れる。このことは、透過ピーク波長をシフトする調整によって、AWG素子におけるチャネル光導波路間のクロストークが劣化したことを示している。したがって、このようなクロストークの劣化を防止するためには、ArFエキシマレーザを用いて調整を行うことが好ましい。
【0068】
なお、上記実施の形態では、光導波路回路である90度ハイブリッド素子およびAWG素子のクラッド層はBまたはPを含有しているが、BまたはPは含有されていなくてもよい。クラッド層にBまたはPが含有されていない場合は、たとえばKrFエキシマレーザを用いる場合でも、上記のようなプレ照射時間のばらつきや、クロストークの劣化を発生しないようにできる。
【0069】
また、上記実施の形態では、紫外光源としてエキシマレーザを使用しているが、紫外光を出力できる光源であれば特に限定されない。また、コアに添加するドーパントはGeに限らず、照射する紫外光を吸収してガラス媒質の屈折率を変化させることができるドーパントであれば特に限定されない。
【0070】
また、上記実施の形態では、光導波路回路として90度ハイブリッド素子およびAWG素子を例示しているが、コアの屈折率を変化させて特性を調整できるものであれば、光導波路回路の種類は特に限定されない。
【0071】
また、上記各実施の形態により本発明が限定されるものではない。上記各実施形態の各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 90度ハイブリッド素子
1a、1b、2a 入力光導波路
1c、1d Y分岐光導波路
1e、1f、1g、1h アーム光導波路
1i、1j 3dBカプラ
1k、1l、1m、1n、2e 出力光導波路
1o、2o 基板
1p、2p クラッド層
1q 領域
2 AWG素子
2b 入力スラブ光導波路
2c チャネル光導波路
2d 出力スラブ光導波路
10、20 製造装置
11 KrFエキシマレーザ
12a ミラー系
12b ミラー
13 コリメートレンズ系
14 移動装置
15 受光器
16 測定制御器
17 シャッター
21 ArFエキシマレーザ
L1、L3 レーザ光
L2、L4 蛍光
M1、M2 シャドウマスク
W1、W2 ウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光を吸収して媒質の屈折率を変化させるドーパントを含有するコアと該コアの周囲に形成されたクラッドとを備える光導波路回路の該コアに紫外光を照射する紫外光照射工程と、
前記ドーパントからの発光量を測定する発光量測定工程と、
を含み、前記測定した発光量の積算値に基づいて前記光導波路回路の特性を調整することを特徴とする光導波路回路の製造方法。
【請求項2】
前記測定した発光量の積算値が所定値に到達したときに前記紫外光の照射を停止することを特徴とする請求項1に記載の光導波路回路の製造方法。
【請求項3】
前記ドーパントはゲルマニウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の光導波路回路の製造方法。
【請求項4】
前記紫外光の波長は波長193nmであることを特徴とする請求項3に記載の光導波路回路の製造方法。
【請求項5】
前記紫外光の波長は波長248nmであることを特徴とする請求項3に記載の光導波路回路の製造方法。
【請求項6】
前記光導波路のクラッドはホウ素またはリンを含有することを特徴とする請求項3〜5のいずれか一つに記載の光導波路回路の製造方法。
【請求項7】
紫外光を吸収して媒質の屈折率を変化させるドーパントを含有するコアと該コアの周囲に形成されたクラッドとを備える光導波路回路の該コアに紫外光を照射する紫外光源と、
前記ドーパントからの発光量を測定する発光量測定器と、
を備え、前記測定した発光量の積算値に基づいて前記光導波路回路の特性を調整することを特徴とする光導波路回路の製造装置。
【請求項8】
前記測定した発光量の積算値が所定値に到達したときに前記紫外光の照射を停止する制御器を備えることを特徴とする請求項7に記載の光導波路回路の製造装置。
【請求項9】
前記ドーパントはゲルマニウムであることを特徴とする請求項7または8に記載の光導波路回路の製造装置。
【請求項10】
前記紫外光の波長は波長193nmであることを特徴とする請求項9に記載の光導波路回路の製造装置。
【請求項11】
前記紫外光の波長は波長248nmであることを特徴とする請求項9に記載の光導波路回路の製造装置。
【請求項12】
前記光導波路のクラッドはホウ素またはリンを含有することを特徴とする請求項9〜11のいずれか一つに記載の光導波路回路の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−33150(P2013−33150A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169408(P2011−169408)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】