説明

光触媒性塗膜形成用塗料、光触媒性塗膜及び該光触媒性塗膜を備える積層体

【課題】耐久性が良好で、適度な硬度を有し、且つ耐薬品性に優れた光触媒性塗膜を形成するための塗料、及び該塗料により形成された塗膜、基材と該塗膜を備える積層体を提供する
【解決手段】
光触媒性塗膜形成用塗料において、光触媒粒子と、紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤に加えて、光重合開始剤を含有させる。また光触媒性塗膜の形成において、基材面に塗料を塗布した後に、紫外線照射させることによって塗膜中の紫外線重合性官能基を重合させて、塗膜中に架橋構造を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に光触媒性塗膜を形成するために用いられる塗料、及び該塗料を用いて形成される光触媒性塗膜、及びその光触媒性塗膜を備える積層体に関する。より詳しくは、本発明は、耐候性に優れるだけでなく、耐久性、特に耐薬品性、耐摩耗性に優れる光触媒性塗膜を形成するための塗料等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特定の波長領域の光が酸化チタンなどの光触媒粒子に照射された際に、物質の分解や酸化が生じる、所謂光触媒性機能を付加した塗膜を有する成形品やフィルムが提案されており、光触媒粒子とバインダー成分等となる他の材料とを混合して形成される塗工液に関する技術が種々提案されている。
【0003】
また、酸化チタンなどの光触媒粒子は非常に凝集性が高く、何ら表面処理を行わないと塗工液中で凝集してしまい、塗膜中に含有されるには不適当なサイズの凝集体になってしまうことから、光触媒性の塗膜の形成や該塗膜を形成するための塗工液の開発に際し、塗工液中で酸化チタン粒子を良好に分散させるための種々の検討があわせて行われている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、シランカップリング剤などのカップリング剤と光触媒粒子とを有する1液と、アルコキシシランと光酸発生剤とを有機溶媒に溶解させた溶液からなる2液とからなる、2液型の光触媒塗料が開示されている。かかる塗料を用いることにより、1液においてカップリング剤により光触媒粒子の分散性の向上などが図られるとともに、他の1液におけるアルコキシシランにおいて、光酸発生剤から発生する酸により加水分解と重縮合とが進行し、塗膜が基材上に形成されることが記載されている。
【0005】
同様に、下記特許文献2にも、酸化チタン等の無機系紫外線吸収剤が透明熱可塑性樹脂に分散された樹脂組成物の発明であって、上記無機系紫外線吸収剤が、特定のシランカップリング剤により表面処理された樹脂組成物の発明が開示されている。そして特許文献2には、酸化チタンなどの光触媒粒子が非常に凝集性が高いこと、そしてこれに対し組成物中で光触媒粒子を分散させるためにシランカップリング剤を用いることが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、フッ素樹脂粉末と、バインダと、表面自由エネルギーが前記バインダの表面エネルギーよりも小さい物質の添加剤と、光触媒作用を有する酸化チタン粉末を含む塗料の発明が開示されている。上記塗料は、フッ素樹脂粉末、バインダ、及び添加剤をすべてフッ素系で構成することによって、フッ素と他の元素との強い結合力により、酸化チタンの光触媒作用によっても組成物が分解されず、従来課題であってバインダの分解によるチョーキングの問題が解決されることが開示されている。また上記添加物として、フッ素樹脂粉末とバインダの中間の表面自由エネルギーを有する添加剤を用いることにより、添加剤あるいはバインダにフッ素樹脂粉末が混合し、個々のフッ素樹脂粉末間の隙間が埋められ、撥水特性の劣化が防止されることが説明されている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−323189号公報
【特許文献2】特開2006−77075号公報
【特許文献3】特開平10−88061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述する光触媒粒子を用いた従来技術には以下の問題点があった。
【0009】
即ち、シランカップリング剤を用いて光触媒粒子を分散させる特許文献1あるいは2に記載の方法により形成された光触媒粒子含有の塗膜は、一般的に耐候性は良いが、その一方、摩擦力などに対して脆い上に、耐薬品性に劣るものが多く、耐摩耗性、耐薬品性に問題があった。かかる上記塗膜の耐摩耗性、耐薬品性の問題は、本発明者らによれば以下のとおり考察された。
【0010】
シランカップリング剤は、一般的に4つのアルコキシ基を有するものと、1つの機能性官能基を有し、3つのアルコキシル基を有するものとがある。そして、光触媒粒子を有する塗膜中にシランカップリング剤が含有されている場合には、該シランカップリング剤分子における1つのアルコキシ基が基材面、あるいは光触媒粒子と結合し、これとは別の2つのアルコキシ基が加水分解によりそれぞれシラノールとなり、次いで同様にシラノールを有する他のシランカップリング剤分子と縮合重合してシロキサン結合し、これによって耐候性に優れた塗膜が形成されることが可能である。しかしながら、上記シランカップリング剤によって形成される塗膜は、該シロキサン結合よりなる骨格内に有機溶剤が浸透しやすく、塗膜中に浸透した有機溶剤の存在により、該塗膜の膨潤や溶解が促進されることから、上記シランカップリング剤よりなる塗膜の耐薬品性が低いことが推察された。
【0011】
特に、1つの機能性官能基を有するシランカップリング剤の場合には、上述のとおりシロキサン結合により構成される塗膜の表面には、アルコキシ基以外の官能基が存在する。この官能基の存在下では塗膜に良好な柔軟性がもたらされるが、該官能基は、塗膜中に含有される光触媒粒子の酸化作用により酸化されて、塗膜形成後の早い段階でシリカまたはシラノールの状態になる。この結果、塗膜は柔軟性を失う一方、シランカップリング剤の基材面に対する接触角が塗膜形成直後よりも小さくなり濡れ性が上がるため、塗膜には望ましい防汚性が付与されると考えられる。ただし、この上記アルコキシ基以外の官能基の酸化が塗膜の脆さに関与し、結果として耐久性の劣化の原因となると本発明者らは推察した。したがって、特に耐久性を重視する用途分野では、この耐久性の劣化が問題であった。
これに対し、架橋剤の添加により、上記機能性官能基を架橋反応性させることもでき、例えば、アミノプロピル基等と、架橋剤としてのイソシアネート化合物またはエポキシ化合物とを反応させることも可能ではあるが、かかる場合に反応を完全に完了させることが極めて難しいと共に、溶液状態での保管安定性に劣るものでもある。
【0012】
また、官能基でないが、塗膜の柔軟性、寸法安定性や硬化速度等を調整するために併用することで機能性を発揮するシランカップリング剤、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランをテトラアルコキシシランに併用した場合は、メチル基の存在で結晶化を阻害し、塗膜の緻密性に劣り、表面強度や耐摩耗性に劣る塗膜が形成されると考えられる。これは、メチル基が、酸化チタンの光触媒作用により急速に酸化分解し、シリカを形成して塗膜内に空間を形成してしまうために、塗膜形成時には非常に疎水性が強いが、光触媒による酸化分解が進行すると共に親水性に変化していくことから裏付けられる。
【0013】
一方、特許文献3に開示される技術であれば、フッ素樹脂粉末の存在により塗膜に柔軟性が付与されることが期待され、塗膜の脆さが改善され耐久性の向上した光触媒性塗膜を形成することが可能であることが予想される。しかしながら、密度が大きくなるためにフッ素樹脂粉末を塗料中に安定的に分散、保持させることは極めて難しく、しかも耐薬品性や基材等に対する接着性に著しく劣るものであることが問題であった。
【0014】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、耐久性が良好で、適度な硬度を有し、且つ耐薬品性に優れた光触媒性塗膜を形成するための塗料、及び該塗料により形成された塗膜、基材と該塗膜を備える積層体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、従来の光触媒性塗膜の問題に対し、光触媒粒子を特定のシランカップリング剤で分散させるとともに、さらに特定のシランカップリング剤を塗膜形成のバインダとしても使用し、該シランカップリング剤のアルコキシ基以外の官能基が互いに重合する構造を実現することによって、塗膜の耐候性だけでなく、耐久性、特に耐薬品性及び耐摩耗性を向上しうることを見出した。そこで、光触媒性塗膜形成用塗料において、光触媒粒子と、紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤に加えて、光重合開始剤を含有させることにより本発明の光触媒性塗膜形成用塗膜の完成に至った。また、本発明の塗料を基材面に塗布し、次いで紫外線照射することによって、シランカップリング剤のアルコキシ基以外の官能基が互いに重合する構造を有する塗膜を完成した。
【0016】
即ち本発明は、
(1)光触媒粒子と、紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤と、光重合開始剤とを含有する光触媒性塗膜形成用塗料、
(2)上記紫外線重合性官能基がビニル基であるか、または上記紫外線重合性官能基中にビニル基を備えることを特徴とする上記(1)に記載の光触媒性塗膜形成用塗料、
(3)上記光触媒粒子が可視光線応答型であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の光触媒性塗膜形成用塗料、
(4)基材上に、上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の光触媒性塗膜形成用塗料を塗布し、次いで、紫外線を照射することにより形成されることを特徴とする光触媒性塗膜、
(5)基材と、上記(4)に記載の光触媒性塗膜とを備える積層体、
を要旨とするものである。
【0017】
尚、本発明において「紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤」とは、紫外線が照射されることにより、分子間において重合を可能とする官能基を有するシランカップリング剤のことを意味し、即ち「本発明において「シランカップリング剤」とは、ケイ素(Si)に、3つのアルコキシ基と、1つの紫外線重合性官能基を備えるシランカップリング剤のことを意味するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光触媒性塗膜形成用塗料により形成される塗膜は、光触媒粒子が含有されているため、塗膜表面に付着する有機物などの汚れを酸化、分解可能である。しかも、上記光触媒粒子は、上記塗料中に存在するシランカップリング剤により良好に分散されるため、塗膜において均一且つ良好な光触媒性作用を発揮する。
【0019】
また上記シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基を有しており、基材面上においては、1つのアルコキシ基において本発明の塗料が塗布される基材面に対し水素結合的に吸着するとともに、残りの2つのアルコキシ基が加水分解を受けて、次いでシランカップリング剤間において縮合重合するため、基材面上において塗膜が凝集し、これによって良好な耐候性が獲得される。
【0020】
さらに、本発明に用いられる光触媒性塗膜形成用塗料により形成された塗膜は、耐候性だけでなく、耐久性、特に、耐摩擦性及び耐薬品性に優れている。これは、本発明に用いられるシランカップリング剤が、紫外線重合性官能基を有しており、且つ、光重合開始剤が塗料中に存在しているため、紫外線を照射されることによって、上記紫外線重合性官能基同士が重合し、塗膜中に紫外線重合性官能基による架橋構造が形成されるためであると本発明者らは推察する。
【0021】
したがって光触媒性塗膜形成用塗料により形成された塗膜は、優れた耐候性、光触媒作用を示す上、適度な硬度、優れた耐久性、特に耐摩擦性及び耐薬品性を有するので、表面が汚れ難く、また汚れた場合であっても、塗膜の表面を布などの清掃具で清掃することができ、強固に払拭しても塗膜の破壊が良好に防止される。またメタノール、石油シンナー、次亜塩素酸ソーダなどの有機溶剤であって、従来は光触媒性の塗膜を膨潤、あるいは溶解させると考えられてきた溶剤に対しても、非常に優れた耐性を示すことが可能である。
【0022】
特に、上記光触媒粒子が可視光線応答型である本発明では、太陽光(紫外線)が不足するか、あるいは太陽光が届かない場所においても、室内等などの人工光源による可視光線のみで、光触媒作用を発揮させることができる塗膜を提供することができる。したがって、可視光線応答型の光触媒粒子を含有する本発明の塗料により形成された塗膜、あるいは該塗膜を備える化粧版は、室内において使用される化粧シート、化粧板として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
光触媒性塗膜形成用塗料:
以下に本発明を実施するための最良の形態について、まず、本発明の光触媒性塗膜形成用塗料(以下、単に「本発明の塗料」という場合がある)の各成分に関し説明する。
【0024】
[光触媒粒子]
本発明に用いられる光触媒粒子は、一般的に凝集体の状態で存在し、上記凝集体の平均粒子径が10nm以上150nm以下のものを用いることが好ましく、該平均粒子径は10nm以上100nm以下がより好ましく、30nm以上100nm以下であることがより好ましい。光触媒粒子の凝集体の平均粒子径が、150nmを上回ると塗膜が不透明に成り易いため、塗膜を介して基材の色や柄が適切に視認されることが望ましい場合には、平均粒子径が150nm以下、より好ましくは100nm以下の凝集体である光触媒粒子を用いることが望ましい。また、塗膜の表面強度を良好な範囲に維持するという観点からも、上記平均粒子径は150nm以下、好ましくは100nm以下であることが望ましい。また上記凝集体を形成する粒子の種類によっても異なるが、平均粒子径が10nm未満、あるいは30nm未満である場合には、光触媒粒子の1次粒子径に近い寸法となり、分散作業が困難であるとともに、塗膜中に光触媒粒子が完全に埋没し、塗膜表面において好適に酸化作用が発揮されない虞がある。
【0025】
光触媒粒子としては、酸化チタンや酸化タングステンなどが知られている。酸化チタンは、その結晶構造によって、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の3つに大別されるが、本発明においては、アナターゼ型又はブルッカイト型の光触媒粒子を用いることが好ましく、あるいはこれらの2以上の混合物であっても良い。これら光触媒粒子は、一般的には、紫外線応答型であって、紫外線を照射されることによって光触媒作用を発揮するものである。特にアナターゼ型の酸化チタンは、光触媒性能が高く取扱い性も容易であり、本発明においても好ましく用いられる。また酸化タングステン等の酸化チタン以外の光触媒粒子を使用してもよく、酸化タングステンにおいては可視光域における光触媒作用の発揮が可能である。以下、本発明に用いられる光触媒粒子として、主として酸化チタンを例に説明する。ただし、本発明における光触媒粒子は、酸化チタンに限定されず、他の光触媒作用を発揮可能な物質を用いてもよいし、また他の光触媒性粒子と酸化チタンを混合して用いてもよい。
【0026】
上記紫外線応答型の光触媒粒子を従来公知の手法により可視光線応答型に処理して用いることもできる。特に本発明の光触媒性塗膜形成用塗料を用いて形成される塗膜を、室内などの太陽光の照射量が少ない場所あるいは太陽光が届かない場所で使用する場合には、可視光線応答型の光触媒粒子を用いることが望ましい。
【0027】
酸化チタンを紫外線応答型から、可視光線に応答可能にするための手法としては、例えばイオン注入法などにより、紫外線応答型の酸化チタン分子に他の金属イオン等を注入し、酸化チタン結晶中のチタンイオン(Ti4+)あるいは酸素イオン(O2−)と、外部からのイオンとを置換する方法が挙げられる。より詳しく述べると、上記チタンイオンと置換されることによって可視光領域まで吸収のシフトを起こすことが可能なイオンとしては、クロムイオン、バナジウムイオン、マンガンイオン、鉄イオンなどが挙げられる。また上記酸素イオンと置換されることによって可視光領域まで吸収のシフトを起こすことが可能なイオンとしては、窒素イオン、硫黄イオン、炭素イオンなどが挙げられる。特に、窒素と酸素とを置換した窒素ドープ型の光触媒粒子は、他の可視光応答型のものに比較して、二次凝集の程度が極めて少なく、塗料中に添加する際に分散溶媒中で非常に小さい凝集サイズで存在することが可能であるため、本願の塗料に好ましく使用することができる。
【0028】
また、置換させる量は、用いられる光触媒粒子の結晶構造や注入されるイオンなどによっても異なるが、例えば、酸化チタン結晶物中の酸素と窒素イオンとを置換する場合には、酸素イオン全体の8〜10%程度を窒素イオンと置換することによって、有意な可視光領域までの吸収のシフトが実現可能である。
【0029】
[シランカップリング剤]
次に、本発明に用いられるシランカップリング剤について説明する。本発明に用いられるシランカップリング剤は、下記式1で表され、
R−Si(OR’) (式1)
且つ、上記Rが紫外線重合成官能基であって、上記R’がメチル基またはエチル基(即ち、OR’がアルコキシ基)である。
【0030】
上記紫外線重合性官能基としては、塗料中において光触媒粒子の分散性を阻害せず、且つ、塗膜形成後に紫外線を照射した際に、分子間において重合反応可能な官能基であればよい。上記官能基の代表的な例としては、ビニル基が挙げられる。あるいは上記紫外線重合性官能基中にビニル基を備えるもの、例えばアクリロキシ基、あるいはメタクリロキシ基、スチリル基などであってもよい。
【0031】
上記アルコキシ基は、水と接触することによって加水分解しシラノール基を生成する。そしてこのシラノール基同士が縮合重合し、塗膜が形成される。
【0032】
本発明に用いられるシランカップリング剤の具体的な例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルエチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。特に好ましいシランカップリング剤としては、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0033】
本発明の塗料に配合される、上記シランカップリング剤の量は、シランカップリング剤の種類、あるいは塗料を構成する光触媒粒子、溶剤の種類などによって異なるため、光触媒粒子を充分に分散させることができ、且つ、形成される塗膜中に紫外線重合性官能基同士の重合により架橋構造を充分に構築することができる量を勘案して適宜決定される。即ち、光触媒粒子を分散させるための最低限のシランカップリング剤の量だけでは、塗膜中におけるバインダとしてのシランカップリング剤量が不足し、光触媒含有塗膜が形成できないおそれがある。したがって、本発明において用いられる紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤は、光触媒粒子の分散効果及び塗膜におけるバインダ効果のいずれをも担うだけの量が塗料中に配合されることが望ましい。
【0034】
上記事情を勘案して、本発明における紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤の塗料における配合量は、光触媒粒子100重量部に対して3〜100重量部の範囲、より望ましくは、5〜70重量部で使用することによれば、光触媒粒子の分散効果と、塗膜におけるバインダ効果が良好に発揮されて好ましい。シランカップリング剤の添加量が100重量部を越えると光触媒粒子を完全に埋没させた状態となり、光触媒機能が損なわれる虞がある。またシランカップリング剤の添加量が3重量部未満であると、光触媒粒子の分散効果およびバインダ効果が望ましく発揮されない虞がある。
【0035】
[光重合開始剤]
本発明において用いられる光重合開始剤は、紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤を含有する塗膜に対し、紫外線を照射した際に、該紫外線重合性官能基間において重合反応を開始させることが可能なものであれば適宜選択して使用することが可能である。例えば、紫外線の照射により、ラジカルを発生し、そのラジカルが重合のきっかけとなるもので、ベンゾイン誘導体等であり、特に、アルキルフェノン系光重合開始剤であるベンジルジメチルケタール(BDK、例えばチバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製イルガキュア651等)、α‐ヒドロキシアルキルフェノン(例えば、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製イルガキュア184、907、369、379等)が好適に使用可能である。また、紫外線の照射を受けてカチオン(酸)を発生する光酸発生剤や、紫外線の照射によりアニオン(塩基)を発生する光塩基発生剤なども使用することができる。また、上記の3種類の光重合開始剤を単独、若しくは複数を組み合わせて使用することも可能である。
【0036】
尚、本発明では、シランカップリング剤の重合性官能基の重合を特に紫外線により実施するため、重合反応を室温でも進行することができる。したがって、本発明の塗膜を形成するための基材が、ポリエステルやスチレン等の耐熱性が低い材料からなる成形物やシートであっても、該基材の変色や変形等の問題を起こすことなく塗膜を形成することができる。また、紫外線により重合させる場合には、熱重合に比べて、硬化時間も短時間で済むため、重合反応時における塗膜中の材料や基材などの負荷を抑えることができる上、生産効率も向上させることができる。
【0037】
上記光重合開始剤が塗料中に添加される量は、上記紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤100重量部に対して、0.1重量部〜20重量部の範囲であることが好ましく、0.3重量部〜10重量部であることがより好ましく、0.5重量部〜5重量部であることがさらに好ましい。上記好ましい範囲の光重合開始剤の使用により、塗膜を構成するシロキサン結合により結合されたシランカップリング剤の分子間を良好に架橋することができる。
【0038】
[任意添加成分]
本発明の光触媒性塗膜形成用塗料は、以上に説明した光重合開始剤、シランカップリング剤、及び光重合開始剤が少なくとも含有されていればよいが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意の他の成分をさらに添加することができる。例えば任意に添加される成分としては、補助的バインダ成分、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛、難燃剤、酸化防止剤、充填材などが挙げられる。
【0039】
上記補助的バインダとは、塗膜中に含有される光触媒粒子の酸化作用により、基材が酸化されて劣化することを防止するために、光触媒性塗膜形成用塗料中に添加されてよい成分である。より具体的には、本発明における上記シランカップリング剤と同様に、官能基の加水分解・縮合反応、あるいは紫外線照射による光重合により分子間結合をして、補助的に塗膜を形成する補助的バインダである。かかる補助的バインダの存在により、塗膜の表面では光触媒により酸化作用が発揮されるが、塗膜を支持する基材側において上記酸化作用の影響が防止、あるいは抑制される。
【0040】
上記補助的バインダの具体的な例としては、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、及びこれらの加水分解物あるいは縮合物などが挙げられる。これらの補助的バインダは、少なくとも一部の官能基が加水分解され、次いで縮合反応することにより、架橋構造を形成する。尚、上記縮合物としては、2〜30量体程度のものが好適に使用され、例えばコルコート株式会社製メチルシリケート51、メチルシリケート53A、エチルシリケート40、エチルシリート48、HAS−1、HAS−6、HAS−10、コルコートP、コルコートN103X等などの市販品を使用することができる。
【0041】
また上記補助的バインダの異なる例示としては、紫外線照射により架橋可能なタイプとして、ビニル基含有シリコーン化合物が挙げられる。上記ビニル基含有シリコーン化合物の市販品としては、信越化学株式会社製の両末端メタクリル変性シリコーンオイルX−22−164、あるいは片末端メタクリル変性シリコーンオイルX−22−2475などが好適に使用可能である。また、上記ビニル基含有シリコーン化合物の別の例としては、ビニルトリメトキシシラン(KBM1003)、ビニルトリエトキシシラン(KBE1003)、p−スチリルトリメトキシシラン(KBM1403)、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(KBM502)、3−メタクリロキシプロピルトリルメトキシシラン(KBM503)、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(KBE502)、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(KBE503)、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM5103)等(いずれも信越化学株式会社製)が使用可能な例として挙げられる。
【0042】
またさらなる別の補助的バインダの例として、上述する以外のビニル基含有化合物を挙げることができる。上記ビニル基含有化合物としては、市販のUV硬化型ハードコート剤(例えば、第日本インキ製ディフェンサFH−8000ME)等を挙げることができる。ビニル基含有化合物を本発明における補助的バインダとして使用する場合には、本発明に必須の成分である紫外線架橋性官能基を有するシランカップリング剤で光触媒粒子を予め処理したものを溶剤に添加し、次いでビニル基含有化合物を上記溶剤に添加するか、あるいは、紫外線架橋性官能基を有するシランカップリング剤で光触媒粒子を予め処理したものを溶剤に添加し、これを1液とし、ビニル基含有化合物を別の溶剤に添加して、これを他の1液とし、2液型の塗料として本発明を実施することができる。
【0043】
[溶剤]
本発明における上記各成分は、塗料を製造するために一般的使用される種々の溶剤の中から適宜選択された溶剤を使用することができる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ペンタノールなどのアルコール系溶剤を単独または任意の組合せで、本発明の塗料の溶剤として使用することができる。尚、溶剤は、製造された塗料において溶媒及び溶質の全重量を100としたときに、光触媒粒子の重量(濃度)が、5〜20重量%となるよう調整されることが好ましく、10〜15%の範囲となる調整されることがより好ましい。
【0044】
尚、任意の溶剤中において、光触媒粒子をシランカップリング剤で分散させる方法としては、任意の溶剤に光触媒粒子及びシランカップリング剤を添加し、これに加えてビーズなどの分散剤をさらに加えてビーズミルにより分散させてもよい。同様にボールミル、サンドミルなどの方法を採用してもよい。あるいは、リボンブレンダーやタンブラーなどの各種ブレンダーを用いて、光触媒粒子とシランカップリング剤と溶剤とを混合して塗料を調整することによっても、塗料中の光触媒粒子を良好に分散させることができる。同様に、ヘンシェルミキサーなどのミキサーを用いてもよい。
【0045】
[配合比率]
上述する塗料中の成分および溶剤の使用量は、各項目において説明するとおりであって、目的や用途に応じて適宜、調整することができる。塗料の好ましい配合の例としては、光触媒粒子40〜90重量部、シランカップリング剤5〜30重量部、さらに補助的バインダを使用する場合には、9〜30重量部の範囲内で調整し、塗料中の固形分全量に対して、光触媒粒子が0.5〜3重量%となるよう調整されることが好ましい。また基材面への塗布性などを考慮して、塗料中の全固形分濃度は、塗料全量に対し、1〜15%程度に調整することが好ましく、更に好ましくは3〜10%である。
【0046】
以上に説明する本発明の光触媒性塗膜形成用塗料は、全ての添加成分を混合する1液型として使用することができる。特に、本発明の塗料は紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤及び光重合開始剤を必須の成分とするため、塗料中において光重合が開始する可能性があることから、重合を防止するために、1液型の本発明の塗料を収納する容器としては、遮光容器を使用することが望ましい。また、塗料を遮光することによって、塗料中における光触媒粒子の酸化作用も良好に抑えることができる。尚、厳密に塗料中の光重合を防止することが望まれる場合には、塗料を収納する容器内の空気を不活性ガスで置換してもよい。あるいは、1液型の本発明の塗料において、光重合開始剤を後添加することによって、塗料中における重合を防止することができる。かかる場合には、塗料を基材面に塗布する直前に光重合開始剤を添加することが望ましい。
【0047】
上記1液型の本発明の塗料を製造する場合には、適切な溶媒に同時に必要な成分を添加することもできるが、任意の順番で各成分を混合し分散あるいは溶解させることもできる。例えば、第一混合工程として、光触媒粒子を分散させるために必要な量のシランカップリング剤を取り分けて、光触媒粒子と混合し、光触媒粒子を予め処理することによって分散状態とした後、第二混合工程として、残りのシランカップリング剤を添加する方法が好ましい。塗料が浴びる紫外線の量にもよるが、光触媒粒子と紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤とが塗料中に存在する場合に、該光触媒粒子の作用により、該紫外線重合性官能基が重合を開始する場合があるが、上述のとおりシランカップリング剤を2工程に分けて添加する方法では、塗料中に含まれる光触媒粒子の作用による官能基の重合を有意に抑えることが期待されるため好ましい。尚、光重合開始剤は、上記残りのシランカップリング剤と同時に添加するか、さらに後工程で添加するか任意で決定することができるが、塗料中における光重合の開始を防止するという観点からは、光重合開始剤を最後に添加することが望ましい。
【0048】
また本発明の塗料は、2液型とすることもできる。2液型として製造する場合には、上述する成分およびその配合比率などは、2液を混合した場合において全体として含まれる成分、及び比率と理解される。また1つの成分を2つの液に分割して添加しても良い。例えば、第1液には、光触媒粒子の全量と、紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤の全量のうち、上記光触媒粒子を分散するために必要な量の紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤とを含み、第2液には、残りの紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤を含むその他の材料を含むよう調製し、2液型の塗料とすることができる。かかる場合において、光重合開始剤は、第1液あるいは第2役のいずれか一方の塗料液に添加されていてもよいし、2液を混合する際に、あわせて光重合開始剤を添加してもよい。
【0049】
以下に、本発明の光触媒性塗膜及び、該光触媒性塗膜を備える積層体について説明する。
【0050】
光触媒性塗膜:
本発明の光触媒性塗膜は、上述する本発明の塗料を基材に塗布して塗膜を形成することにより得ることができる。本発明の塗料を基材に塗布する方法は、従来公知の方法のいずれかを適宜選択して採用することが出来る。具体的な例としては、ワイヤーバーを用いて塗料を基材面に塗布する方法、スプレー式にして基材面に塗料を吹き付ける方法、グラビアコート法、ロールコート法、浸漬法(ディップコーティング法)等の各種印刷方法においてインキの代わりに本発明の塗料を用いて基材面に塗膜を形成する方法などが挙げられる。
【0051】
尚、上記塗料の塗布は、乾燥後の塗膜の厚みが、0.05〜10μmになるよう適量が塗布されることが望ましい。得られる塗膜の乾燥後の厚みが、10μmを越える場合には、光触媒粒子が塗膜中に完全に埋没し塗膜表面に照射される紫外線により有効な光触媒作用が発揮されない虞があるからである。
【0052】
塗料が塗布された基材は、続いて乾燥処理されることが一般的である。該乾燥処理によって、塗膜中の溶剤が除去されるとともに、シランカップリング剤の加水分解、シラノール基の脱水縮合反応によるシリカ形成反応が促進され、硬化した塗膜が形成される。
【0053】
そして、さらに硬化した塗膜の表面を紫外線で照射することによって、主として塗膜表面側に位置するシランカップリング剤の紫外線重合性官能基を重合反応させ、本発明の光触媒性塗膜が完成する。
【0054】
[基材]
本発明の塗膜を支持するための基材としては、有機基材、無機基材のいずれであってもよい。有機基材の具体的な例としては、プラスチックフィルム、プラスチック成形体、合板、化粧板、人工大理石、紙、皮革、合成皮革、布などの種々の材質のものを基材として用いうる。一方、無機材料の具体的な例としては、ガラス、金属、タイル、コンクリート、セラミック、セメントなどを挙げることができる。中でも有機基材としてはプラスチックフィルム、あるいはプラスチック成形体表面が、無機基材としてはガラスが、本発明の塗料の塗布性が良く、容易に光触媒性塗膜を形成することができる上、得られる塗膜の耐久性も優れていることから望ましい。
【0055】
積層体:
本発明の積層体は、基材と、上記本発明の光触媒性塗膜とから形成される。基材及び光触媒性塗膜の2層から構成されていてもよいし、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらなる任意の層を備える3層以上の積層体であってもよい。3層以上の積層体としては、基材が複数層で形成されているもの、あるいは基材と光触媒性塗膜の間に任意の層が存在していてもよい。
【0056】
本発明の積層体は、光触媒性塗膜をその表面に有していることを特徴とし、紫外線あるいは可視光線が照射可能な場所で設置されるか、あるいは使用されるか、あるいは収納されることが予想されるものの表面において好適に用いられる。例えば、窓ガラス、鏡、建築物の外壁、建築物の内装材である化粧シート、または化粧板、家具、遊具、衣類、食器などの物品自体、あるいは物品の表面に本発明の積層体を用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の可変色性シートの実施例について記載するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
本発明の塗料を調製するために、第一混合工程として、以下のとおり光触媒分散液を得た。まず、光触媒粒子として、窒素ドープ型可視光線応答型光触媒(豊田通商株式会社製、VCT02、一次粒子径7nm)500g、上記光触媒粒子を分散させるための紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM503)100g、溶剤としてイソプロピルアルコール4400g、及びジルコニアビーズ(ニッカトー製、粒子径30μm)150gを、三井鉱山株式会社製ビーズミルMSC100にセットし、周速10m/sec、循環量0.8L/min、液温度32℃で、3時間質式粉砕して平均粒子径50nmの光触媒粒子の凝集体が分散された光触媒分散液を得た。尚、上記光触媒粒子の平均粒子径は、粒子径測定装置として日機装株式会社製マイクロトラックUPA−EX150を用いて測定した。
【0059】
次に、第二混合工程として以下の内容の化合物及び溶剤を用い、塗料を調製した。上記光触媒分散液100重量部に対して、さらに基材表面にシロキサン結合により骨格を形成するために3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM503)を2.3重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184を0.43重量部、縮合水としてイオン交換水を4.3重量部、希釈溶剤としてイソブタノールを179重量部配合し、ホモジナイザーにて、5000rpmで10分間攪拌することによって、光触媒性塗膜形成用塗料を作製し、これを本発明の塗料1とした。
【0060】
基材として、厚み50μmの高耐候性PETフィルム(帝人デュポン社製)の一方の面に上記塗料1をワイヤーバーにて5g/m(Wet)の厚みになるよう塗布した後、乾燥オーブン内に上記基材を設置して、80℃、15分加熱乾燥した。次いで、乾燥オーブンから取り出し、室温に戻るのを待って、岩崎電気製コンベア付紫外線硬化装置(使用ランプ:6kW×1灯、160W/cm、照射器:アルミミラー集光型、コンベアスピード:2〜20m/min、照射距離:120〜170mm)に設置し、塗膜表面に紫外線照射することにより、基材と塗膜とからなる積層体を得て実施例1とした。尚、上記紫外線照射は、コンベアスピード2.5m/min、照射距離150mmの条件で実施した。
【0061】
(実施例2)
光重合開始剤として、イルガキュア651を0.043重量部使用した以外は、塗料1と同様に、光触媒性塗膜形成用塗料を作成し、これを本発明の塗料2とした。そして塗料2を用いたこと以外は、実施例1と同様に積層体を作製し、実施例2とした。
【0062】
(比較例1)
イルガキュア184を配合しない(光重合開始剤を用いない)以外は、塗料1と同様に光触媒性塗膜形成用塗料を作成し、これを比較例である塗料3とした。そして塗料3を用いた以外は実施例1と同様に積層体を作製し、比較例1とした。
【0063】
(比較例2)
後から配合した3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM503)2.3重量部の代わりに、ビニル基を有しないエチルシルケート加水分解液であるHAS10(コルコート株式会社製)を23重量部用いたこと以外は、塗料1と同様に光触媒性塗膜形成用塗料を作成、これを比較例である塗料4とした。そして塗料4を用いたこと以外は実施例1と同様に積層体を作製し、比較例2とした。
【0064】
(比較例3)
実施例1に記載の塗料1を用い、紫外線硬化装置による紫外線照射処理を行わないこと以外は、実施例1と同様に積層体を作製し、比較例3とした。
【0065】
(比較例4)
実施例2に記載の塗料2を用い、紫外線硬化装置による紫外線照射処理を行わないこと以外は、実施例2と同様に積層体を作製し、比較例4とした。
【0066】
(耐薬品性評価)
メタノールを染み込ませた綿布を準備し、実施例1、実施例2及び比較例1〜4の塗膜表面を、それぞれ手動で100回往復して塗膜表面を拭いた。その後、塗膜表面を肉眼で観察し、以下のとおり評価した。評価結果は、表1にまとめて示す。また後述する評価結果についても同様に表1にまとめて示す。
【0067】
塗膜表面に全く傷が観察されなかった・・・・・○
塗膜表面に明らかに傷が観察された・・・・・・×
【0068】
(鉛筆硬度試験)
JIS K5400に準じ、500g荷重にて実施例1、実施例2及び比較例1〜4の塗膜表面を各硬さの鉛筆を用い鉛筆引掻塗膜硬さ試験機((株)東洋精機製作所製)で塗膜表面を5箇所引っかき、2箇所以上で傷が確認された場合には、当該鉛筆の硬度よりも1つ下の硬度が塗膜の硬度であるとして、測定した。
【0069】
(光触媒性能の評価)
実施例1、実施例2及び比較例1〜6の塗膜表面をブラックライト(FL20S・BLB 2本 東芝ライテック社製)(10mW/cm、照射距離18cm)を16時間照射後、イオン交換水にて洗浄、室温にて乾燥を行い、光触媒性能評価の前処理を行った。
【0070】
(メチレンブルー褪色試験)
次いで、メチレンブルー(MB)褪色試験を以下のとおり実施した。まず、上述のとおり前処理を行った塗膜表面に、イオン交換水をスポイトで2滴垂らし、その水滴上に3cm角のOHPフィルムを塗膜面との界面に空気が入らないように被せ、色彩色差計(ミノルタカメラ(株)社製 CR−200B)により、L、a、b(0)を測定し試料の色味を測定した。
次に、同試料に0.1mmol/Lメチレンブルー水溶液をスポイトで2滴垂らし、その水滴上に3cm角のOHPフィルムを空気が入らないように注意して被せ、色彩色差計(ミノルタカメラ(株)社製 CR−200B)により、L、a、b(1)を測定し、L、a、b(0)とL、a、b(1)の差により下記のとおり色差ΔEを算出し、これをメチレンブルー分解前の初期値ΔE(0)とした。
同試料に、アルバック理工(株)社製光触媒活性用光触媒評価チェッカーPCC−2ブラックライト(0.26mW/cm、100LUX、照射距離2.5cm)3時間照射し、色彩色差計にて3時間照射後のL、a、b(3)を測定し、L,a,b(0)とL、a、b(3)の差により下記のとおり色差ΔEを算出し、これをメチレンブルー分解後の色差ΔE(3)とした。
ΔE(0)=((L−L+(a−a+(b−b0.5
ΔE(3)=((L−L+(a−a+(b−b0.5
【0071】
上記メチレンブルー褪色試験の結果について以下のとおり評価した。
ΔE(3)が、ΔE(0)の半分以下であった・・・・・・○
ΔE(3)が、ΔE(0)の半分を上回った・・・・・・・×
【0072】
(アセトアルデヒド(AA)分解試験)
また光触媒性の異なる評価として、上述と同様に前処理を行った塗膜を備える基材である実施例1、2、及び比較例1〜6をA4サイズにカットし、基材の裏面(塗膜を有し有為でていない側)、及び側面にアルミテープを被覆して試験体を作製した。そして、各試験体をそれぞれ5L容量の透明のテドラバック内に設置し、該テドラバック内にアセトアルデヒド(AA)を25ppm封入した。その後、白色蛍光灯(株式会社東芝製、FL20SS W/18、2本、6000lux、塗膜面までの照射距離18cm)を照射し、テドラバック内のアセトアルデヒドの濃度を測定し、以下のとおり評価した。
【0073】
アセトアルデヒドの濃度が5ppm以下であった・・・・・・○
アセトアルデヒドの濃度が5ppmを上回った・・・・・・・×
【0074】
【表1】

【0075】
尚、表1中に使用される略記号の内容は以下の通りである。
KBM503:信越化学工業株式会社製、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
IRGA184:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、1−ヒドロキシ−シクロキシル−フェニルケトン、IRGACURE184
IRGA651:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、IRGACURE651
HAS10:コルコート株式会社製、エチルシリケート加水分解物、固形分10%
VCT:豊田通商株式会社製VCT−02、10重量部に対してKBM503を2重量部、IPAを88重量部配合しビーズミルにて分散した光触媒分散液
【0076】
表1に示されるとおり、各実施例及び各比較例は、いずれも窒素ドープ型可視光線応答型光触媒VCT−02を用いているため、メチレンブルー褪色試験におけるブラックライトの照射によっても、またアセトアルデヒド分解試験における白色蛍光灯の照射によっても、良好な光触媒性機能を発揮することが確認された。
【0077】
また実施例1及び2は、耐薬品性試験において、望ましい耐薬品性を有していることが確認され、且つ、塗膜の硬度もHBと適度な硬度を有していることが確認された。また耐薬品性試験において、綿布で100往復拭いても傷がつかなかったことから、耐摩擦性にも優れ、塗膜の靭性が高いことが確認された。
【0078】
一方、比較例はいずれも耐薬品性が低く、また鉛筆硬度も2Bと非常に塗膜が脆いことが確認された。
【0079】
良好な光触媒性が示された実施例1及び2において、耐薬品性、塗膜硬度が共に優れた評価が示された理由については明らかではないが、実施例1及び2と各比較例との内容を比較した上で、本発明者らは以下のとおり推察する。即ち、本実施例では、第二混合工程において配合された紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤である3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが、光重合開始剤の存在下において紫外線照射されることによって、塗膜中で該紫外線重合性官能基間において重合し、これによって塗膜中に架橋構造が構築されたことにより、塗膜の硬度、塗膜の耐薬品性、耐摩擦性に優れた積層体が得られたものと推察された。またこのような架橋構造下においても、光触媒性機能は良好に維持されることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒粒子と、紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤と、光重合開始剤とを含有する光触媒性塗膜形成用塗料。
【請求項2】
上記紫外線重合性官能基がビニル基であるか、または上記紫外線重合性官能基中にビニル基を備えることを特徴とする請求項1に記載の光触媒性塗膜形成用塗料。
【請求項3】
上記光触媒粒子が可視光線応答型であることを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒性塗膜形成用塗料。
【請求項4】
基材上に、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光触媒性塗膜形成用塗料を塗布し、次いで、紫外線を照射することにより形成されることを特徴とする光触媒性塗膜。
【請求項5】
基材と、請求項4に記載の光触媒性塗膜とを備える積層体。

【公開番号】特開2010−43188(P2010−43188A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208361(P2008−208361)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】