説明

光通信装置

【課題】量子力学の原理に基づいた従来の暗号通信では量子力学的性質を顕在化させるために、信号当たりの光子数を1個未満、あるいはメゾスコピックな個数にする必要があった。量子力学的暗号通信を実用的なものにするために巨視的な光子数においても量子力学的性質を発揮する通信法を提供することが課題である。
【解決手段】アンチスクイーズした光を、送信基底をランダムにして伝送する。受信者はランダムな送信基底を秘密鍵により知るものとし、それによりアンチスクイジングの影響を受けることなく正確に受信できる。一方、送信基底を知らない盗聴者はでたらめな基底で受信するしかなく、アンチスクイジングの影響を大きく受けて信号検出誤り確率が大きくなる。その結果、意味のあるデータを盗聴できなくなって、正規の送受信者間で安全な通信が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は量子通信、量子暗号、および、光通信に関する。
【背景技術】
【0002】
通信における秘匿性の要求は古来より未来に亘る永遠のテーマであり、近年のネットワーク社会においては暗号学の発展によりその要求を確保してきた。現在普及している公開鍵暗号等の安全性は、解読に非現実的な時間が掛かることを拠り所にしているが、コンピュータ技術は常に進歩し続けており、公開鍵暗号等は将来に亘って安全性が保証されている訳ではない。一方、現在、研究が活発な量子暗号は物理法則的に安全性が保証されたもので、技術が進歩しようとも安全性が落ちることはなく、その実現が望まれている。
【0003】
現在、最も実用段階に近い量子暗号は微弱LD光を用いた量子鍵配送方式である(非特許文献1)。この方式は、送受信者間で必要な共通鍵の共有に量子力学の法則を利用し、共通鍵共有後は通常の暗号通信を行なうものである。共通鍵を共有するプロセスでは、専用の光回線を利用し、1つの信号を光子数1個未満の超微弱光で構成し、乱数信号を伝送する。1つの信号を光子数1個未満にしたために、仮に盗聴があったとしても正規の受信者はその事実を発見できて、盗聴されずに無事に受信できたと確認できた乱数データのみを用いて共通鍵とする。本方式は暗号学的にもその安全性が証明されているが専用回線を必要とし、また1つの信号に対して光子数を1個未満にしているために伝送損失に極めて弱く、例えば、100kmの伝送をすれば、鍵生成レートは数bps程度になってしまう。こういった欠点から、微弱LD光を用いた量子鍵配送方式の導入は限られた用途に限定されると予想される。
【0004】
これに対してYuenらはメゾスコピック(メゾスコピックとは巨視的(macroscopic)と微視的(microscopic)の中間の意味)な数の光子を用いて、鍵配送に留まらず信号そのものを伝送する量子力学的方式を提案した(非特許文献2)。光の2つの直交位相成分(あるいは強度と位相の対)は量子力学的揺らぎの精度以下に同時に決して確定しない。位相変調方式を用いた光送受信系において、送信基底を細かく変化させ、隣り合う送信基底が量子揺らぎの範囲内に含まれるようにすれば、送信基底を知らない盗聴者にとっては盗聴した信号から意味のある情報を取り出せなくなる。この方式では確かに量子揺らぎの範囲内で基底が不確定になるが、基底を変化させる過程で、通常の暗号で用いる擬似乱数を利用した場合には、信号当たりの光子数を大きくした場合に通常の古典暗号程度の安全性にしかならないとの報告もあり(非特許文献3)、まだ研究段階にある。
【0005】
Yuenらの方法はメゾスコピックな光子数にするとの限定が付くものの、1個未満の超微弱光からは脱却し、鍵配送のみならず、信号そのものを送ることを念頭において発明されたものであり、現実的な立場に近づいた発明と言える。
【0006】
【非特許文献1】N. Gisin, G. Ribordy, W. Tittel, and H. Zbinden, Reviews of Modern Physics 74, 145 195 (2002).
【非特許文献2】G. A. Barbosa, E. Corndorf, P. Kumar, and H. Yuen, Physical Review Letters 90, No. 22, 227901 (2003).
【非特許文献3】T. Nishioka, T. Hasegawa, H. Ishizuka, K. Imafuku, and H. Imai, arXiv:quant-ph/0310168 v2 31 Oct 2003 (http://xxx.lanl.gov/).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
量子力学手法を用いた通信法を適用するに当たっては、背景技術でも述べたように制限事項が多く、現状では超微弱光やメゾスコピックな光量で伝送システムを構成しなければならず、量子力学的手法を現実の一般光通信系に適用するのは困難である。現実の立場からは、十分巨視的な光子数を用いることができて、また増幅も可能なことが望ましい。この2つの要求を満足する量子力学的通信法を提供しようとするのが本発明である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
量子力学的状態は一般的に壊れやすい。例えば、伝送路途中に損失があると、理論的には損失分だけ量子状態は損失し、代わって量子力学の真空揺らぎに相当するノイズが損失相当分に流入することになる。
【0009】
スクイズド状態は典型的な量子力学的状態である。レーザーの出力光であるコヒーレント状態の揺らぎは真空揺らぎと同じ大きさで、2つの直交位相成分の揺らぎは大きさが等しい。スクイズド状態は片側の直交位相成分の揺らぎを小さくし、もう一方を大きくしたもので、スクイズド状態は一部が損失すると真空揺らぎの流入のために、揺らぎの小さくなっていた直交位相成分は簡単に真空揺らぎ(コヒーレント状態の揺らぎ)程度になってしまう。これがスクイズド状態を用いた量子通信が困難な理由である。一方、スクイズド状態で揺らぎが大きくなっていた成分(アンチスクイズド成分)は損失により真空揺らぎが加わっても揺らぎの大まかな特性はもともとの揺らぎの広がったアンチスクイズド成分で決まる。したがって、損失があったとしてもその分だけ揺らぎが小さくなるものの、容易にコヒーレント状態の揺らぎ(真空揺らぎ)程度に戻ることはない。すなわち、アンチスクイズド成分は通常の古典的光通信と同程度に損失に対する耐力がある。
【0010】
したがって、本発明ではアンチスクイズド成分を用いた通信方法を開示する。信号は2値とし、位相空間上に基底に相当する軸をランダムに選ぶ。基底軸の正負の方向をそれぞれ2値の信号に対応させ、アンチスクイジングはその基底軸に垂直な方向にする。基底軸のランダム性を正規の受信者は知り得るものとする。この前提条件により、正規の受信者は基底軸のランダム性のために信号の受信が困難になることはなく、また信号の重畳方向がアンチスクイジングに垂直な方向なので信号のS/N比が劣化することもない。一方、盗聴者がいたとしても、基底軸のランダム性に関する情報を持たないならば、アンチスクイジングの大きい揺らぎを含めて信号を検出することになり、S/N比が大幅に劣化することになり、事実上、盗聴はできない。
【0011】
アンチスクイジングは、その方向を知っている正規の受信者にはS/N比の劣化をもたらさず、その方向を知らない盗聴者にはS/N比の劣化をもたらし、意味ある情報量が盗聴者に渡らないようにすることができる。信号強度を大きくすると、正規の受信者・盗聴者の両者に対してS/N比が大きくなるが、盗聴者に対してはS/N比が小さいことが好ましい。それを達成するためには、信号強度に合わせてアンチスクイジングの強度を大きくすれば良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、メゾスコピックな光子数といった制限はなく、通常の光通信で用いられるような巨視的な光子数においても適用可能な、量子力学的通信方法が実現できる。それ故、巨視的な信号強度においても物理法則的に安全性が保証された通信方法を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施例1)
図1は本発明を実施するための構成の原理を説明するためのブロック図である。送信機100から送信された信号光は伝送路である光ファイバ201を伝送して受信機300に到達する。信号光は、光源であるアンチスクイズド光発生器110の出力光を位相変調器120により位相に信号が重畳されて送信される(PSK:phase-shift keying)。受信機300に於いては信号光と位相レベルで完全に同期した局発光源310からの出力光と50:50のビームスプリッタ340で干渉させ、2つの出力光をそれぞれ光検出器351、352で電気信号に変換し、電気回路360でそれらの差信号を取って出力信号3を得る。
【0014】
この受信方法は平衡型ホモダイン検出と呼ばれるもので、局発光と信号光のそれぞれの強度分がそれぞれ打ち消しあって、局発光と信号光の干渉成分のみ、即ち信号光の位相信号を検出できる。検出光強度は局発光と信号光の振幅に比例するので、局発光の強度が十分に大きければ、たとえ信号光の強度が小さくても感度よく検出できる。
【0015】
送信機100内の位相変調器120では、擬似乱数発生器130からの出力信号と入力信号1を信号合成器140で加算した値で位相変調する。入力信号1は“0”と“1”の2値に選び、これらを位相“0”及び“π”に対応させる。擬似乱数発生器130からの出力は位相φ(0≦φ<2π)に対応させる。以上により位相変調器120での変調位相量は2値の値に対応してφ及びφ+πになる。ランダムなφは、送信基底がランダムであることを意味する。
【0016】
受信機300内の擬似乱数発生器320は送信機100内の擬似乱数発生器130と同じ機能を有するもので、お互いに等しい乱数を出力する。局発光源310からの出力光は、位相変調器330において擬似乱数発生器320の出力によりφに位相変調される。ビームスプリッタ340で干渉する信号光と局発光は常に同じオフセット位相φを有しており、相対的なオフセット位相は0になって、平衡型ホモダイン検出により常に位相“0”あるいは“π”を検出できる。
【0017】
擬似乱数発生器130と320は同じアルゴリズムで同じ乱数を生成するように設定されているが、これは送信者と受信者が擬似乱数発生器の初期値となる種乱数である秘密鍵を何らかの方法で共有していることが前提である。この考え方は、ストリーム暗号と呼ばれる暗号等と同じ考え方である。この後述べるように、本発明では量子力学的性質を利用してストリーム暗号等の安全性をより強固にする。
【0018】
以上述べたように、擬似乱数発生器を用いて送信者と受信者は同じ擬似乱数を共有し、それを用いて暗号化されたデータを送受信する。盗聴者は、送受信者が共有している擬似乱数を知らないので、盗聴者が受信機300を信号検出に利用した場合、位相変調器330での位相変調量はまったくのでたらめに選ぶしかない。例えば、位相変調器330の位相変調量を0に選べば、ビームスプリッタ340での信号光と局発光の相対的なオフセット位相はφになり、正しい検出ができなくなる。
【0019】
本発明では量子力学的性質を利用してストリーム暗号等による通信をより強固なものにする。光の電場を量子力学の演算子で式(1)
【0020】
【数1】

と書くことにする。
【0021】
【数2】

直交位相座標系を導入するために式(3)を定義すれば、
【0022】
【数3】

式(4)となる。
【0023】
【数4】

として、式(5)に示す不確定性関係が導かれる。
【0024】
【数5】

閾値よりも十分に高い状態で発振しているレーザー光はコヒーレント状態と呼ばれる状態でよく記述できることが知られている。コヒーレント状態は式(6)
【0025】
【数6】

で定義される状態でΔq=1/2,Δp=1/2になることが知られている。
【0026】
コヒーレント状態は最小不確定性関係を満たし且つΔq=Δpであり、揺らぎの大まかな範囲は図2(a)に示すように円になる。この円の大きさは量子力学の真空揺らぎと等しく、真空揺らぎの場合は円の中心が原点にある。コヒーレント状態は真空揺らぎをq,pの位相空間内の任意の位置に変位させたものである。真空揺らぎ(コヒーレント状態の揺らぎ)を表す円を楕円にした状態をスクイズド状態と言う(図2(b))。図2(b)では真空揺らぎに比べてΔqが小さくなりΔpが大きくなっている。大きくなった揺らぎはアンチスクイジングと呼ばれるもので本発明で本質的な役割を果たす。
【0027】
アンチスクイーズした状態を用いて2値の信号を伝送することを考える。2値の信号を位相“0”及び“π”に対応させることにすれば、その2つの信号を表すためのアンチスクイーズした状態は図3(a)のように表される。受信機300で行なっている平衡型ホモダイン検出は、局発光の位相に応じてq,p平面内の任意の軸に射影することに対応し、例えば、q軸にアンチスクイーズした状態を射影すれば図3(b)のようになる。射影軸がアンチスクイーズしている方向と垂直なので、受信過程において、アンチスクイジングとして広がった揺らぎの影響を受けない。送信機100内の擬似乱数発生器130と受信機300内の擬似乱数発生器320は同じ乱数を発生するので、ビームスプリッタ340における信号光と局発光の相対的オフセット位相は常に0にすることができる。したがって、正規の受信者は常にq軸方向への射影が出来て、十分に低い誤り確率で信号を受信することができる。
【0028】
一方、乱数情報を保持しない盗聴者はでたらめな方向に射影するしかなく、例えば、受信機における射影軸を常にq軸に固定して受信することになる。信号光には擬似乱数発生器130に基づいた規則性のないオフセット位相φが加わっているので、ある瞬間の受信機での揺らぎの様子は図3(c)のようになり、q軸に射影した信号検出確率分布は図3(d)のようになる。図3(d)から明らかなように2値の信号に対応した検出確率分布に重なりが見られ、受信時の誤り確率が大きくなる。盗聴者に対するこの誤り確率の増加はアンチスクイジングが大きいほど大きい。しかし、正規の受信者の誤り確率は増加しない。
【0029】
受信機における誤り確率は、q軸に射影した確率分布をP(q)とすれば式(7)で与えられる。
【0030】
【数7】

P(q)は準確率密度関数であるウィグナー関数W(q,p)用いて表現することが可能で式(8)である。
【0031】
【数8】

したがって、受信機の誤り確率は、ウィグナー関数の2重積分で書くことができ、式(9)となる。
【0032】
【数9】

スクイズド状態はrをスクイジングパラメタとして、真空揺らぎ(コヒーレント状態の揺らぎ)を短軸側にe−r倍、長軸にe倍したものである。(q,p)に平均振幅を持ち、q方向にスクイーズし、p方向にアンチスクイーズしたスクイズド状態のウィグナー関数は式(10)で与えられる。
【0033】
【数10】

式(10)はスクイズド状態を表す図2(b)や図3(a)の模式的な楕円を数式で表現したものである。オフセット位相φに対応して式(10)のq,pを座標変換したうえで式(9)を実行すると式(11)となる。
【0034】
【数11】

但し、式(11)中のerf(y)は式(12)である。
【0035】
【数12】

=0の場合に、揺らぎの中心点での光子数が10個の場合にスクイジングパラメタrを変数にして、オフセット位相φに対する盗聴者の誤り確率をプロットしたものが図4である。図4においては、aはスクイジングパラメタrが4.0の線、bはスクイジングパラメタrが8.0の線である。その間は、図の右端に示すように、スクイジングパラメタrの変化を線のパターンで表示した。スクイジングパラメタrが4.0より小さい場合、及び、8.0より大きい場合についても、同様にスクイジングパラメタrを変化させ、同じ線のパターンで表示するものとした。しかし、スクイジングパラメタrが4.0より小さい場合は狭い範囲に重なってしまい、スクイジングパラメタrが8.0より大きい場合も、10.0以上は狭い範囲に重なってしまう。
【0036】
1つの信号当たり10個の光子数は通常の光通信で使用する程度の強度に対応し、例えば、信号のビットレートを10Gbps、波長1.55μmの光の場合には1.3mWに相当する。スクイジングパラメタr=0のコヒーレント状態の場合は、φ=90°を除くほぼ全域で誤り確率が10−9以下になり図4のプロットではφ=90°を除いてプロット不能になっている。即ち、10個の巨視的な光子数の場合、オフセット位相φを知らなくても盗聴者はほとんど盗聴できることになる。スクイジングパラメタr>0ではφ=0の近傍以外で誤り確率が次第に上昇する。
【0037】
正規の受信者はオフセット位相φの情報を知っており、常に図4におけるφ=0の測定をできるはずであるが、現実のシステムでは測定誤差のためにφに関して多少ばらつくことが予想される。ばらつきの余裕を10°とすれば、スクイジングパラメタr<7.5のスクイジング強度の場合に正規受信者は10−10以下の誤り確率が保証される。一方、盗聴者はφ<10°以外のほとんどの領域で極めて高い誤り確率を被ることになり、オフセット位相φの情報を知らなければ意味のある盗聴をすることはほとんど不可能になる。
【0038】
図4及び図3(c)の模式図をみれば理解できるように、スクイジングパラメタrが大きいほどアンチスクイジングが大きくなって盗聴者の誤り確率が増加する。rの適当な値は光子数に依存し、光子数が大きいほどrの最適値は大きくなる。言い換えれば、光子数がいくら大きくても最適なrが存在する。この点が重要で、本発明は巨視的な光強度においても量子力学的な暗号通信が可能なのである。
【0039】
量子状態は、一般的に、損失等により容易に元の状態とは異なる状態に変化する。損失はビームスプリッタモデルで記述することが出来、例えば75%の損失とは、元の量子状態がビームスプリッタにより75%だけ伝送路から逸脱し、75%分の真空揺らぎが流入することになる。スクイズド状態の場合に模式的に表現したものが図5である。元々のスクイズド状態901は25%透過のビームスプリッタによりq軸方向及びp軸方向にそれぞれ50%縮小した揺らぎ902になる。また、ビームスプリッタでは75%の真空揺らぎ903が流入し、合計の揺らぎは概ね904のようになる。なお、905は真空揺らぎである。
【0040】
最小不確定性関係のスクイズド状態は純粋状態と呼ばれる量子力学的状態であるが、904のような2つの状態が交じり合った状態は混合状態と呼ばれ、揺らぎの面積は最小不確定性関係にはなっていない。2つの量子状態を混合した場合、元々大きい側の揺らぎが支配的になる。揺らぎ904の場合は、短軸側は75%の真空揺らぎ903が支配的になり、長軸側は25%のスクイズド状態の揺らぎ902が支配的になる。その結果が904であり、スクイズド状態の短軸側の縮小された揺らぎは損失により容易に真空揺らぎ程度に引き戻されてしまうのに対して、長軸側の大きくなった揺らぎは真空揺らぎの影響をほとんど受けない。
【0041】
本発明の重要な点は、拡大した揺らぎにより盗聴者の盗聴を困難にすることであり、縮小された側の揺らぎは重要な量ではない。上記で見たように拡大した側の揺らぎは損失があっても、損失分だけ小さくなるものの、短軸側の揺らぎのように元々の性質が無くなることは無く、本発明の量子状態の利用方法は、量子状態が壊れやすく利用するのが困難といった一般的な性質が当てはまらない。
【0042】
以上の定性的な議論に基づく結論は理論的に正確に導くこともできる。量子状態をウィグナー関数で表現することにし、伝送する量子状態の初期値をW(q,p)、真空状態をW(q,p)、ビームスプリッタを透過後の状態をW’(q,p)とし、ビームスプリッタでの透過率をηとすれば、式(13)の関係式がある。
【0043】
【数13】

(例えば、Leonhardt, 溺easuring the Quantum State of Light pp. 80, Cambridge University Press 1997)。この式(13)の意味は、初期値である量子状態Wと真空状態Wの直交位相変数q,pがビームスプリッタにより座標変換されたうえで、損失相当分のビームスプリッタの出力成分が測定されないことを理由に可能なすべての状態に関して積分することである。初期値の量子状態が(q,p)を振幅に持ち、q方向にスクイーズし、p方向にアンチスクイーズしたスクイズド状態であるとすればウィグナー関数は前述した式(10)で与えられ、式(13)に代入して計算すれば、式(14)となる。
【0044】
【数14】

ビームスプリッタでの透過率ηと(1−η)が同じオーダー、あるいは高々1桁程度の違いで、e>>1の場合に、式(14)を近似して指数関数の部分のみを書けば式(15)になる。
【0045】
【数15】

この場合、ウィグナー関数の広がりはq方向に関しては真空揺らぎの(1−η)1/2倍、p方向に関してeη1/2になって、スクイジングを表すパラメタeが揺らぎの短軸方向に関して消失しているのに対して長軸方向に関しては残っている。即ち、定性的議論で述べたように、揺らぎの長軸方向の性質は損失があっても容易には壊れなく、揺らぎの長軸方向を本質的に使う本発明は損失にも耐えうる強固なものであることが示された。
【0046】
本発明は真空揺らぎの流入に対して耐えうる方法なので、同様な考察で光増幅にも耐えうることがわかる。図6にその様子を模式的に示す。量子状態の初期値であるスクイズド状態911が伝送路の損失により912の状態になる。この状態は図5で述べたように真空揺らぎが流入した混合状態である。どんな量子状態でも、すべて、損失すると真空揺らぎに収束するので、伝送損失が大きすぎると揺らぎの長軸方向の広がりが十分でなくなる。しかし、長軸方向の揺らぎがまだ十分に大きい段階で増幅すれば、912の揺らぎが均等に増幅されて、また自然放出分の真空揺らぎが新たに流入して、揺らぎ913になる。例えば、損失が−0.2dB/kmである光ファイバの場合に50kmの伝送で光強度は1/10になるので、ビームスプリッタの透過率η=0.1と同じである。長軸方向の揺らぎが十分に大きい条件は、式(15)の近似が成り立つ条件と等価でe2r<<η、即ちe>>e1.15である。この条件は容易に達成しうるもので、本発明が光増幅器を用いて長距離伝送システムを構築しうることを示している。この光増幅器は図1に示す構成の場合、位相変調器120の後段や伝送路201の中間部や受信機内のビームスプリッタ340の前段に設けて光信号を増幅する。
【0047】
図4に関して上で述べたように、スクイジングパラメタrの最適値は光強度に応じて変化し、また長距離伝送系を考えた場合、伝送損失にも依存する。これに連動して擬似乱数発生器の出力により決定されるオフセット位相φに必要とされる分解能が求まる。大まかな見積もりをすれば、誤り確率が最大値である1/2とほぼみなせる状態(φ=90°に近い状態)が十分に多数になっていること、言い換えれば、揺らぎの長軸の範囲が原点に対して張る角度に比べて、φの分解能が十分に小さいことが条件になる。揺らぎの分解能Δφをradの単位で表せばΔφ<<Δp/q=e/qになる。q=1000(揺らぎの中心の光子数が10個に対応)、r=5の時、Δφ<<8.5°、r=4の時、Δφ<<3.1°となる。
【0048】
本発明の本質は、例えば、q,pの位相空間を“0”領域と“1”領域の2値に分割したとすると、オフセット位相φを知らない盗聴者には“0”領域と“1”領域の境界領域を正確に測定するすべがないことに因る。したがって、オフセット位相φを0≦φ<2πではなく0≦φ<πに選ぶだけでも盗聴者の誤り確率は正規の受信者に比べて著しく増加する。図4の誤り確率はこの場合の値に相当する。もちろん、通常のストリーム暗号のように2値の信号を擬似乱数発生器からの出力値で暗号化するのが好ましく、0≦φ<2πの場合がそれに相当する。言い換えれば、従来の古典力学的要素をまったく含まない純粋に量子力学的な場合が0≦φ<πに選んだ場合に相当し、量子力学的及び古典力学的を区別することなくすべてを考慮した場合が0≦φ<2πに選んだ場合である。0≦φ<2πの場合に盗聴者に対する図4のプロットをすれば、すべての領域で誤り率1/2になる。
【0049】
本発明を実現する上で重要なアンチスクイズド光(スクイズド光)を発生させる方法は様々な方法が考えられるが、例えば、C. R. Doerr, I. Lyubomirsky, G. Lenz, J. Paye, H. A. Haus, and M. Shirasaki, QELS'93 Technical Digest pp. 281.)や、本願の発明者の提案に係る特願2005−002071の明細書及び図面に記載された方法を応用するのが便利である。
【0050】
図7(a)にそれらを応用したアンチスクイズド光発生器110を示す。レーザー1110からのコヒーレント状態である出力光がサーキュレータ(あるいはアイソレータ)1111を通過して、アンチスクイーザ1115に導入される。アンチスクイーザ1115では、偏光ビームスプリッタ1120にp偏波で入射して透過し、半波長板1131、コリメータレンズ1141を通して偏波保存ファイバ1151に入力する。偏波保存ファイバ1151の2つの光学軸方向に対応した偏光成分がほぼ等しくなるように入力光の偏波が半波長板1131で調整される。コリメータレンズ1142、λ/4波長板1132を透過してミラー1160に達した光は反射して逆向きに光路をたどる。復路では往路と互いに偏波方向が入れ替わり、偏波保存ファイバ1151内の2つの偏光成分は往復によって互いに等しい光路をたどることになる。偏光ビームスプリッタ1120まで戻った2つの偏光成分は、干渉の結果、そのほとんどがレーザー1110側(ポート1)に出力するが、一部の成分がポート2から出力する。この出力光がアンチスクイズド光(スクイズド光)である。ポート1に戻った励起レーザー光はサーキュレータ(アイソレータ)1111によりレーザー1110に戻らないようにする。
【0051】
アンチスクイズド光(スクイズド光)生成過程を模式的に示したものが図7(b)である。光カー効果は光強度に比例して屈折率が大きくなる効果で、光強度に比例して自己位相変調する。コヒーレント光が光カー効果を受けると、その揺らぎに対する位相変調度が揺らぎ円の内側と外側で異なることになり、結果として図7(b)の1191のように楕円化される(即ち、スクイズド状態)。偏波保存ファイバ1151はレーザー光に対して光カー効果を受けさせるためのもので、2つの光学軸方向を用いて楕円化された揺らぎを2つ生成する。出力時の偏光ビームスプリッタ1120の役目は、楕円化された揺らぎをもつ2つの成分を干渉させることで、図7(b)で表現すれば1191と1192を足し合わせることに対応し、揺らぎ1193をもった光が偏光ビームスプリッタ1120のポート2から出力される。1191と1192の原点からの変位量が等しければ1193の中心は原点になって、スクイーズした真空揺らぎとなる。
【0052】
本発明で利用するアンチスクイズド光は、揺らぎの中心が原点にはなく変位した状態なので、半波長板1131の調整により偏波保存ファイバ1151内の2つの偏光成分の強度のバランスを少し崩して、図7(c)に示すように変位したスクイズド光1194,1195を生成させ、位相空間内で変位したスクイズド状態の揺らぎを持つスクイズド光1196を生成させる。即ち、半波長板1131の調整により任意の光強度を得ることができる。アンチスクイジングの強度は、入力レーザー光の強度と偏波保存ファイバ1151の長さで調整することができる。
【0053】
図7(a)では光カー効果の媒体として偏波保存ファイバを用いたが、図8に示すように偏波を保存しない単一モードファイバを用いても任意の変位量のスクイズド光を生成することができる。単一モードファイバは各種の分散値のものが市販されており、パルス伝播における最適設計が容易になる。
【0054】
図8では、図7の偏波保存ファイバ1151が単一モードファイバ1153になっている。但し、入力側に例えば10cm程度(この値は入力光のパルス幅に依存する)の偏波保存ファイバ1152を配置して、2つの偏光成分間に遅延を付け、時間的に重ならないようにする。半波長板1131の機能は、図7の場合と同様に、偏波保存ファイバ1152の2つの光学軸に対応する偏光成分がほぼ等しくなるようにするためのものである。ファラデー回転器1133,1134は往路と復路で偏光を入れ替えるためのもので、それぞれ、片道で45°回転する。2つのファラデー回転器を合わせて往復で180°あるいは0°の回転となる。したがって、入力光の大部分がポート1に戻り、スクイーズされたごく一部の光がポート2から出力される。ファイバ1152及び1153内の2つの偏光成分が完全に等しい強度ならばポート2からの出力光はスクイーズした真空揺らぎとなる。変位したスクイズド光を得たい場合は、図7(c)で説明したように、半波長板1131を調整して、2つの偏光成分のバランスを僅かに崩せばよい。アンチスクイジングの強度は、入力レーザー光の強度と単一モードファイバ1153の長さで調整することでできる。
【0055】
以上述べたように、図7、図8の配置で任意の変位量で任意のアンチスクイジング強度の状態を生成できる。図7、図8は原理図であり、特願2005−002071の明細書及び図面に見られるように、他の構成も考えられる。
【0056】
図1の構成では受信機300内に信号光と位相レベルで同期した局発光源310が設置されている。信号光と局発光を位相レベルで同期させる方法は色々と提案、検討されている(例えば、島田禎晉監修:コヒーレント光通信p.25−26、p.49−50、コロナ社、1988年参照)。本発明では、信号に関する位相変調だけでなく、送信基底の変調に相当するランダムな位相φも加わっているので、信号光と局発光の位相合わせは、局発光に対しても位相φを加えて、位相φの効果を相殺したうえで行なう必要がある。
【0057】
また、局発光源を受信機310内に設置するのではなく、送信機内の信号光用の光源からの出力光の一部を利用する方法もある。図7,8の場合では実際にレーザー1110の出力光を一部取り出すことも考えられるが、サーキュレータ1111から出力される、使い終わった励起レーザー光を用いることも出来る。この場合、その局発光は信号光と同じ伝送路201を使って伝送される。信号光とは時間差をつけて互いに重ならないようにする方法もあれば、また信号光と局発光を互いに直交する偏光にして時間的に重なるようにして伝送する方法(例えば、本願の発明者の提案に係る特願2004−183253の明細書及び図面に記載された方法)もある。後者の方法では、同じ光ファイバを使用して送るので、まったく同じ環境下で信号光と局発光を送ることになり、両者の位相関係は完全に保存された状態で伝送できる。
【0058】
(実施例2)
実施例1においてはPSKで変調し、局発光を用いて受信する方法を述べた。実施例1の方法では何らかの方法で局発光を用意しなければならず、この点が技術的困難さを若干招いていた。局発光を信号光自身に見出すことも可能で、その方法を示したのが図9である。
【0059】
図9において、送信機100の構成は、後述する信号合成器141の構成が信号合成器140とは異なる他は、図1に示す構成と同じである。光ファイバ201を介して伝送された信号を受信した受信機300では、遅延線316を用いてビームスプリッタ342で信号光の隣り合うスロットが干渉するように光路長が調整される。信号光の隣のスロットが局発光として働くとも言えるし、また、隣り合うスロット間の位相差として信号を伝送している(差動位相シフトキーイング(DPSK:Differential-phase-shift keying))とも言える。差動位相方式では、送信側あるいは受信側で信号を差動型に対応した形に変換する機能が必要である。受信機100の信号合成器141にその調整機能を持たせた例を図10に示す。信号及び擬似乱数をradの単位で表すことにし、スロット番号をtで表し、送信側の擬似乱数をφ(t)、信号をs(t)とすれば、送るべき信号は[φ(t)+s(t)]になるが、受信側で差動検出することを考慮して、式(16)
【0060】
【数16】

として位相変調器120を駆動する。但し、θ等の位相は0≦θ<2πになるように2nπ(nは整数)を足して調整する。
【0061】
受信機301ではビームスプリッタ341と342で2光路干渉計を構成し、擬似乱数発生器320の出力にしたがって片側の光路316上の位相変調器330により位相変調したうえで、他の光路315を伝送される光と1スロットずつずれた信号光同士で干渉させる。位相変調器330を駆動しない場合に得られる受信信号は[φ(t)+s(t)]になる。乱数発生器320の出力が入力側の乱数発生器130と等しければ、位相変調器330の駆動によりφ(t)を相殺できて、信号s(t)を得られることになる。
【0062】
一般に位相変調器には損失があるので、50:50のビームスプリッタ342における2つの入力強度が等しくなるようにビームスプリッタ341の分割比を決める。2光路干渉計の光路差は位相レベルで十分に安定している必要があり、光路315,316の厳密な温度管理や光路長のフィードバック制御等を行なう。
【0063】
伝送路における安全性は実施例1の場合と同様に考えることができて、正規の受信者はアンチスクイジングの影響を受けずに信号s(t)を復元できるが、送信時のランダムな位相φ(t)を知らない盗聴者はφ(t)を含めた測定をすることになりアンチスクイジングの影響を大きく受ける。
【0064】
図9においては受信機内の位相変調器330を2光路干渉計の片側の光路上に設置したが、図11に示すように2光路干渉計の前段に配置することも可能である。この場合にはビームスプリッタ341の分割比を50:50にすることができる。受信側の位相変調器の位置が変わったので送信側の擬似乱数の乗せ方が変更になる。差動検出することを考慮して信号s(t)をtに関して積算して送る点は図9の場合と同様であるが、擬似乱数分は差動検出することなく2光路干渉計の前段で相殺されるので、擬似乱数φ(t)はtに関して積算せず、位相変調器120で重畳する位相は式(17)
【0065】
【数17】

になる。この方法で送受信した場合の信号の流れを図12に示す。
【0066】
以上、本発明によってPSKとDPSKの場合に安全な通信を行なえることを述べた。しかしながら、本方法の本質はアンチスクイジングとして広がった揺らぎにより盗聴を困難にすることであるから、信号変調方式はPSKとDPSKに限定するものではなく、いかなる変調方式でも良い。
【0067】
また、実施例では直交位相スクイズド状態の場合に本発明の機能を説明してきたが、本発明の本質は揺らぎの広がったアンチスクイジングを用いて安全な通信を達成することなので、他の種類、例えば、図13に示すような振幅スクイジング(位相に関してアンチスクイジング)等を本発明に適用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は巨視的な光強度に対しても量子力学的性質を発揮して安全な通信を可能にする方法を提供している。即ち、現実的な条件下で利用可能な安全な通信方法を提供するものであり、利用可能性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明を具体的に実施するための構成の原理を示すブロック図である。
【図2】(a)は位相空間上のコヒーレント状態の揺らぎの形が円であることを表す図であり、(b)は位相空間上の直交位相スクイズド状態の揺らぎが楕円になることを表す図である。
【図3】(a)は2値の信号を“0”および“π”に対応させて位相空間上に並べたスクイズド状態を示す図、(b)は(a)の2値の信号をq軸に射影した場合の確率分布を示す図、(c)は(a)の2値の信号に対応する2つのスクイズド状態がランダムな位相φのために位相空間上で回転した様子を示す図、(d)は(c)の信号をq軸に射影した場合の確率分布を示す図である。
【図4】図3(b),(d)で述べた検出誤り確率を、位相空間上の半径が1000(揺らぎの中心の光子数が10個)の場合について、スクイジングパラメタrごとにランダムな位相φの関数としてプロットした結果を示す図である。
【図5】直交位相スクイズド状態が損失により如何に変化するかを示す模式図である。
【図6】直交位相スクイズド状態が損失・増幅により変化する様子示す模式図である。
【図7】(a)はアンチスクイズド光を生成するための具体的な構成例を示すブロック図、(b)は光ファイバの光カー効果を用いてアンチスクイズド光を生成する場合の原理を説明する図、(c)は光ファイバの光カー効果を用いて、位相空間上で変位したアンチスクイズド光を生成する場合の原理を説明する図である。
【図8】アンチスクイズド光を生成するための他の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図9】本発明を具体的に実施するための他の構成の原理を示すブロック図である。
【図10】図9の構成によるDPSKによって信号伝送を行なう場合の、送信機から受信機への位相信号の流れを示す図である。
【図11】本発明を具体的に実施するための他の構成の原理を示すブロック図である。
【図12】図11の構成によるDPSKによって信号伝送を行なう場合の、送信機から受信機への位相信号の流れを示す図である。
【図13】振幅スクイズド状態の揺らぎを位相空間上で模式的に表示した図である。
【符号の説明】
【0070】
1…入力信号、100…送信機、1110…レーザー、1111…サーキュレータ(アイソレータ)、1115…アンチスクイーザ、1120…偏光ビームスプリッタ、1131…λ/2波長板、1132…λ/4波長板、1133…ファラデー回転器、1134…ファラデー回転器、1141…コリメータレンズ、1142…コリメータレンズ、1151…偏波保存ファイバ、1152…偏波保存ファイバ、1153…単一モードファイバ、1160…ミラー、1191…スクイズド状態の揺らぎ、1192…スクイズド状態の揺らぎ、1193…スクイーズした揺らぎ、1194…スクイズド状態の揺らぎ、1195…スクイズド状態の揺らぎ、1196…位相空間内で変位したスクイズド状態の揺らぎ、110…アンチスクイズド光発生器、120…位相変調器、130…擬似乱数発生器、140…信号合成器、141…信号合成器、201…光ファイバ、3…出力信号、300…受信機、310…局発光源、315…光路、316…光路、320…擬似乱数発生器、330…位相変調器、340…ビームスプリッタ、341…ビームスプリッタ、342…ビームスプリッタ、351…光検出器、352…光検出器、360…電気回路、901…スクイズド状態の揺らぎ、902…901の揺らぎを25%にしたもの、903…真空揺らぎを75%にしたもの、904…スクイズド状態が損失により混合状態になったときの揺らぎ、905…真空揺らぎ、911…スクイズド状態の揺らぎ、912…スクイズド状態が損失により混合状態になったときの揺らぎ、913…混合状態912を増幅した状態の揺らぎ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光源とそのレーザー光の揺らぎを位相空間内で振幅と直交する方向に拡大させるアンチスクイーザとからなる光源と、位相変調器を具備する光送信機であって、信号光は、2値の信号に対して位相φ及びφ+πで位相変調され、位相φは乱数または擬似乱数で決定されることを特徴とする光送信機。
【請求項2】
請求項1記載のアンチスクイーザは、位相空間で光の振幅を半径とする円周方向に揺らぎを拡大するものである請求項1記載の光送信機。
【請求項3】
請求項1記載のアンチスクイーザで拡大した揺らぎは、信号光の振幅に応じて大きくすることを特徴とする光送信機。
【請求項4】
2つの光検出器と、ビームスプリッタと、送信機の信号光と同期した光源と、位相変調器とを具備する光受信機であって、信号光又は上記光源からの出力光を上記位相変調器を用いて前記送信機から送信されてきた各信号固有の位相φで位相変調した後、信号光と上記光源の出力光を干渉させてホモダイン検出し、アンチスクイジングのために広がった揺らぎの方向からの射影に対応する信号を検出することを特徴とする光受信機。
【請求項5】
2つの光検出器と2つのビームスプリッタと位相変調器を具備する光受信機であって、上記2つのビームスプリッタで光路長の異なる2光路干渉計を構成し、片側の光路あるいは入力側のビームスプリッタの手前に位相変調器を設置し、アンチスクイジングした光に重畳された信号光を、上記位相変調器を用いて各信号固有の位相φで位相変調した後、信号光同士で干渉させてホモダイン検出し、アンチスクイジングのために広がった揺らぎの方向からの射影に対応する信号を検出することを特徴とする光受信機。
【請求項6】
レーザー光源とそのレーザー光の揺らぎを位相空間内で振幅と直交する方向に拡大させるアンチスクイーザとからなる第1の光源と第1の位相変調器を具備した光送信機と、位相検出機能を有する光受信機と、前記光送信機と前記光受信機とを結ぶ光伝送路とからなり、アンチスクイジングした光を搬送波とする光送受信システムであって、
前記光送信機においては、信号光は、2値の信号に対して位相φ及びφ+πで位相変調され、該位相φは乱数または擬似乱数で決定され、
前記受信機においては、局発光あるいは信号光あるいは2分岐して遅延させた信号光の片側を、各信号光固有の位相φを相殺するように第2の位相変調器で位相変調し、それらを用いて信号光をホモダイン検出し、アンチスクイジングのために広がった揺らぎの方向からの射影に対応する信号を検出することを特徴とする光送受信システム。
【請求項7】
前記アンチスクイーザは、位相空間で光の振幅を半径とする円周方向に揺らぎを拡大するものである請求項6記載の光送受信システム。
【請求項8】
前記送信機内の第1の位相変調器で変調する位相φ及びφ+πにおける位相φと、前記受信機内の第2の位相変調器で変調する位相φが一致するように、あらかじめ送信者と受信者の間で位相φの種になる乱数を共有している請求項6記載の光送受信システム。
【請求項9】
前記送信者と前記受信者は同じアルゴリズムの擬似乱数発生器を用いて、前記送信者と受信者の間で共有している位相φの種になる乱数により、前記送信者と前記受信者の両者で共通の一連の位相φを得る請求項8記載の光送受信システム。
【請求項10】
前記送信機側のランダムな位相変調φが前記受信機側で相殺されるために、前記受信機側のランダムな位相変調φを知っている受信者はアンチスクイーザにより拡大した揺らぎの影響を受けずに正確な測定ができ、ランダムな位相変調φの情報を持たない盗聴者はアンチスクイーザにより拡大した揺らぎの影響を受けて信号検出誤り確率の大きい測定となる請求項6記載の光送受信システム。
【請求項11】
前記アンチスクイーザで拡大させる揺らぎは、信号光の振幅に応じて大きくする請求項6記載の光送受信システム。
【請求項12】
前記光送信機は前記第1の位相変調器の後段に光増幅器を具備する請求項6記載の光送受信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2007−129386(P2007−129386A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319032(P2005−319032)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】