説明

免振装置

【課題】製造が容易であり、かつコンパクトで簡単に取付けができ、建築物や車輪などのあらゆる技術分野での適用が可能であり、しかも寸法の割に大きな振動吸収能力を有する免振装置を提供する。
【解決手段】内側部材10と、囲繞部材20と、内側部材10に外挿され囲繞部材20に内挿される吸振バネ30とを備え、吸振バネ30は、非円形の環状部材である。吸振バネ30は線材を環状に加工するだけでよいため製造が容易である。内側部材10または囲繞部材20に振動外力が加わると、吸振バネ30が変形し、その変形に対抗する応力の発生により振動エネルギーを吸収する。吸振バネ30は密閉空間内で撓み変形するので、吸収エネルギーが大きくとれ吸振効果が高い。吸振バネ30は非円形のため外力がどの方向から作用しても、変形による吸振作用を奏するので全方位吸振が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免振装置に関する。さらに詳しくは、建物やタンクその他の建築物、電源装置、機械装置、配管類、配線類を基礎や土中、建築物その他の部材に取付け、地震、機械振動その他の振動を吸収したり、車輪の走行中の振動を吸収したりする免振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物や建築物、機械、配管等の分野における防振・制振法には、つぎのような技術が用いられている(非特許文献1)。
1)振動の影響を抑制するものとして、ダンパなど
2)振動絶縁のため弾性支持するものとして、防振器や防振マウント
3)振動体の応答を低減するものとして、ガタやゆるみを無くする締結
4)自動制御法を使うものとして、振動入力を検出し、励振力や応答を小さくしたり、逆方向の力を発生させたりして減衰させる方法
【0003】
しかるに前記従来例は、つぎのような問題がある。
(1)の従来技術は、ダンパなどを用いるので装置が嵩張り、スペース的に適用場所が制約される。
(2)の従来技術は、例えば図16に示すように、基礎101と建築物や機械等の取付部材102との間にゴムマウント103を入れ、両部材の間をアンカボルト104とナット105で締結したものである。
このゴムマウント方式は、小さな振動であれば吸振できるが、大きな振動は吸振できないので防振能力に限度があり、またゴムマウントに寿命があり、経時的に能力が低減するという問題がある。
(3)の従来技術は、例えば図17に示すように、基礎101上においた取付部材102をアンカセット106で固定するものであり、アンカセット106のねじ部にバネ座金107を通しナット108で締め付ける構成としている。アンカセット106を基礎101に固着するときは、基礎101に下穴をあけるが、この下穴を手動や穴あけ機であける場合、基礎の材質バラツキにより真直ぐにあかないことがある。この場合、アンカセット106は傾きθをもって取り付けられるため、ナット108を締めても隙間gが生じ、確実に締めることができず、緩みやすくなる。
また、図18に示すように、配管110を建築物111の壁面に取付けた架台112にバンド等113で取付ける方法もあり、この場合はバンド等113の内側にゴム等を巻けば、ある程度の防振効果があるが、大きな防振力を発揮することはできず、地震等の際の配管破裂事故につながる。
(4)の従来例は、制御要素として振動検出器としてのセンサ、減衰のための慣性質量、作動力の発生装置としてのアクチュエータ、制御のためのサーボ機構、動力源などが必要であり、相当大掛かりな機構となる。このため、スペースや費用面で余裕ある場合にしか使うことができない。
(5)さらに上記(1)〜(4)のいずれの従来技術も、車輪などに組込めるコンパクトさと組込み自由度を有するものではない。
【0004】
本願発明者は、これらの課題を解決するため、特許文献1に記載の免振装置を考案している。
図19に示すように、この免振装置は、内側部材114と、囲繞部材115と、内側部材114に外挿され、かつ囲繞部材115に内挿されている吸振バネ116とを備えており、吸振バネ116は、巻形状を三角形や楕円形等の非円形にした巻バネである。
内側部材114または囲繞部材115に振動外力が加わると、吸振バネ116が変形し、その変形に対抗する応力の発生により振動エネルギーを吸収することができる。吸振バネ116は内側部材114と囲繞部材115によって囲まれた密閉空間内で撓み変形するので、吸収エネルギーが大きくとれ吸振効果が高い。
したがって、コンパクトで簡単に取付けができ、建築物や車輪などのあらゆる技術分野での適用が可能であり、しかも寸法の割に大きな振動吸収能力を有する免振装置となっている。
【0005】
しかるに、非円形の巻バネは一般的な円形の巻バネに比べて製造が困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4366365号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】機械工学便覧 エンジニアリング編 C8環境装置 207〜208頁 日本機械学会編
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、製造が容易であり、かつコンパクトで簡単に取付けができ、建築物や車輪などのあらゆる技術分野での適用が可能であり、しかも寸法の割に大きな振動吸収能力を有する免振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の免振装置は、振動源側部材または振動体側部材に取付けられる内側部材と、振動体側部材または振動源側部材に取付けられる囲繞部材と、前記内側部材に外挿され、かつ前記囲繞部材に内挿される吸振バネとを備え、前記吸振バネは、非円形の環状部材であることを特徴とする。
第2発明の免振装置は、第1発明において、前記囲繞部材に溝が形成されており、該溝に前記吸振バネの突出部が嵌められていることを特徴とする。
第3発明の免振装置は、第1または第2発明において、前記吸振バネを複数備えており、該複数の吸振バネは、吸振バネごとに円周方向に角度を変えて挿入されていることを特徴とする。
第4発明の免振装置は、第1,第2または第3発明において、前記吸振バネを前記内側部材の外周面または前記囲繞部材の内周面に対して垂直となるように保持するバネガイドを備えることを特徴とする。
第5発明の免振装置は、第1,第2,第3または第4発明において、前記内側部材と前記囲繞部材との間に、前記吸振バネの吸振方向と直交する方向の振動を吸収するバネを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、吸振バネが非円形の環状部材であるので、線材を環状に加工するだけでよいため、製造が容易である。また、内側部材または囲繞部材に振動外力が加わると、内側部材と囲繞部材の間に挿入されている吸振バネが変形し、その変形に対抗する応力の発生により振動エネルギーを吸収する。吸振バネは内側部材と囲繞部材によって囲まれた密閉空間内で撓み変形するので、吸収エネルギーが大きくとれ吸振効果が高い。さらに、吸振バネは非円形のため外力がどの方向から作用しても、変形による吸振作用を奏するので全方位吸振が可能である。
第2発明によれば、囲繞部材に形成された溝に吸振バネの突出部を嵌めることにより、吸振バネを囲繞部材の円周方向に回転しないように位置を固定することができる。また、囲繞部材に溝を形成するだけでよいので、構造が単純であり、製造が容易である。
第3発明によれば、複数の吸振バネが円周方向に角度を変えて挿入されているので、内側部材の外周面および囲繞部材の内周面に対して円周方向の複数個所で接触するため、接触する方位が多くなり、振動外力がどの方位から作用しても、吸振バネの変形が均等化され、常に高い吸振能力を発揮しうる。
第4発明によれば、吸振バネを内側部材の外周面または囲繞部材の内周面に対して垂直となるように保持することができるので、振動外力により内側部材が囲繞部材に対して傾いても、吸振バネが内側部材または囲繞部材に対して斜めに滑ることがないので、振動外力が吸振バネの真横から働き十分な復元力が得られる。また、複数の吸振バネがバラバラになることがないので均等な復元力が得られる。そのため、確実に振動を吸収することができる。
第5発明によれば、吸振バネで一方向の振動を吸収し、これに直交する方向の振動、例えば水平方向に対する垂直方向の振動を別のバネで吸収できるので、地震等への対処能力が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の免振装置の基本構成の説明図であって、(A)は正面視断面図、(B)は平面図である。
【図2】本発明の免振装置の振動吸収原理の説明図であって、(A)は平常状態の吸振バネの平面図、(B)は振動外力が加わったときの免振装置の平面図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る免振装置の振動吸収原理の説明図であって、(A)は平常状態の吸振バネの平面図、(B)は振動外力が加わったときの免振装置の平面図である。
【図4】(i)は吸振バネを同一方向に向けて挿入した免振装置の説明図、(ii)は吸振バネごとに角度を変えて挿入した免振装置の説明図である。
【図5】(A)はバネガイドを挿入しない免振装置の説明図、(B)はバネガイドを挿入した免振装置の説明図である。
【図6】本発明の免振装置ユニットの組み立て説明図である。
【図7】本発明の免振装置ユニットの平面図である。
【図8】図7におけるVIII-VIII線矢視断面図である。
【図9】本発明の免振装置ユニットの振動吸収原理の説明図である。
【図10】本発明の第1実施形態に係る免振装置の取付状態断面図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る免振装置の取付状態断面図である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る免振装置の取付状態断面図である。
【図13】本発明の第4実施形態に係る免振装置の取付状態断面図である。
【図14】本発明の第5実施形態に係る免振装置の取付状態断面図である。
【図15】本発明の第6実施形態に係る免振装置の取付状態断面図である。
【図16】従来のゴムマウント式防振構造の説明図である。
【図17】従来のアンカセットの説明図である。
【図18】従来の配管取付構造の説明図である。
【図19】従来の免振装置の説明図であって、(A)は正面視断面図、(B)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(基本構成)
まず、図1に基づき本発明の免振装置の基本構成を説明する。
10は内側部材であり、後述する吸振バネ30を外挿し、振動外力を吸振バネ30に伝達したり、吸振バネ30から振動を受けたりする部材である。この内側部材10は、中実状の部材または中空状の部材が用いられる。中実状の部材の例としては、ボルトやアンカセット、車軸などがある。中空状の部材としてはガス管等の配管や配線用のパイプ類がある。要するに外形が円形またはこれに近似した多角形の部材であればよく、この要件を満たせば上記例示以外の部材も使用できる。
【0013】
20は囲繞部材であり、後述する吸振バネ30を収容し、振動外力を吸振バネ30に伝達したり、吸振バネ30から振動を受けたりする部材である。この囲繞部材20は、内周面が円筒面またはこれに近似した多角形面であればよく、外周面は任意の形状であってよい。また、この囲繞部材20は、円周方向の一部を欠いていても、後述する吸振バネ30と数点で接触するものであれば、完全に吸振バネ30の周囲を囲まなくてもよい。多くの場合、囲繞部材20には筒状の部材が用いられるが、車輪の場合はボス部に形成された中空部分が該当する。
【0014】
30は吸振バネである。この吸振バネ30は内側部材10に外挿され、かつ囲繞部材20内に内挿される。つまり、内側部材10と囲繞部材20に囲まれた空間内に挿入され、内側壁面と外側壁面に接触される。この吸振バネ30は非円形の環状部材であり、平面視において多角形や楕円形等に形成されている。要するに、内側部材10の外周面と囲繞部材20の内周面に、2点以上で接触するものであればよい。
吸振バネ30は複数個挿入され、その数を増減することで振動外力に対する応力を変えることができる。もちろん、1個だけ挿入してもよい。
【0015】
本実施形態における吸振バネ30は三角形の環状部材である。三角形の環状部材は線材を3等分する2箇所で曲げ加工を施すだけで得られるので製造が容易である。また、内側部材10または囲繞部材20と接触する点が円周方向に120°間隔で均等であるので、全方位の振動をバランスよく吸振することができる。さらに、より多角形にする場合に比べて、内側部材10と囲繞部材20との空間を大きく取れるので、大きな振幅を有する振動でも吸振することができる。
【0016】
囲繞部材20にはその軸方向に回り止め溝21が形成されており、吸振バネ30はその突出部31が回り止め溝21に嵌るように挿入されている。吸振バネ30の突出部31とは、吸振バネ30が多角形の場合にはその一頂点である。要するに、吸振バネ30において外側に突き出した部分であって、回り止め溝21に嵌ることができる部分である。
回り止め溝21に吸振バネ30の突出部31を嵌めることにより、吸振バネ30を囲繞部材20の円周方向に回転しないように位置を固定することができる。また、囲繞部材20に溝を形成するだけでよいので、構造が単純であり、製造が容易である。
【0017】
本実施形態のように、線材を2箇所で曲げ加工して得られる三角形の吸振バネ30は、線材の両端が合わさる頂点が他の曲げ加工により形成した頂点に比べて外側に突き出した形状となっている。そのため、その頂点を突出部31として回り止め溝21に嵌めればよい。
なお、回り止め溝21は囲繞部材20の外周面と内周面を貫通するものでも、内周面にのみ形成されたものでもよい。
また、吸振バネ30の固定方法は回り止め溝21を用いる方法に限定されず、実施形態に応じて適当な方法で固定すればよい。
【0018】
上記の免振装置において、内側部材10を振動源側部材(例えば、基礎や振動を発生したり伝達したりする機械、建築物など)に取付ける場合には、囲繞部材20は振動体側部材(例えば、基礎上の建築物や機械類、建築物に取付けられる配管類など)に取付けられる。逆に囲繞部材20を振動源側部材に取付ける場合には、内側部材10は振動体側に取付けられる。
【0019】
(振動吸収原理)
つぎに、振動吸収原理を説明する。
図2において、内側部材10に振動外力Faが加わったとする。この振動外力Faの方向は三角形の吸振バネ30の直線部分に向けられている。そのため、内側部材10がその直線部分を押すことになる。そうすると、吸振バネ30の直線部分は二点鎖線の平常状態から実線のように円弧状に湾曲する(B)。この変形によって発生する吸振バネ30の復元力により内側部材10に逆向きの力が働き、元の位置に戻される。
このとき、吸振バネ30やその他の条件により決まる減衰係数によっては、振幅が減衰するものの、内側部材10は元の位置よりも行き過ぎた位置まで動く。
【0020】
この場合、内側部材10には反対向きの振動外力Fbが加わっている。この振動外力Fbの方向は三角形の吸振バネ30の頂点に向けられている。そのため、内側部材10がその頂点を形成する二つの直線部分を押すことになる。そうすると、吸振バネ30の頂点は平常状態から角度が広がるように変形する。この変形によって発生する吸振バネ30の復元力により内側部材10に逆向きの力が働き、元の位置に戻される。
このときにも、減衰係数によっては、振幅が減衰するものの、内側部材10は元の位置よりも行き過ぎた位置まで動く。
以上の動きを繰り返すことで、徐々に振幅が減衰し振動が吸収される。
【0021】
振動外力が前記のFa,Fb以外の方向から作用したときは、前記2パターンが複合し
た変形により吸振される。よって、吸振バネ30を含む平面において、360°どの方向からの振動外力が加わっても、吸振バネ30が変形することで、振動を吸収することができる。つまり、全方位的に振動を吸収することができる。
【0022】
図3に示すように、吸振バネ30を三角形の直線部分を平常状態で内側に湾曲させた形状としてもよい(A)。この場合でも、前記と同様の原理で、振動外力Fa,Fb、およびそれ以外の方向から作用する振動外力が加わっても、吸振バネ30が変形することで、振動を吸収することができる。
この形状の場合、直線部分を内側に湾曲させているから、直線部分を外側に湾曲させる外力に対してより大きな復元力を発生することができる。すなわち、吸振バネ30でより大きな振動エネルギーを吸収することができる。また、直線部分を内側に湾曲させている分、内側部材10と囲繞部材20との空間を大きく取れるので、大きな振幅を有する振動でも吸振することができる。
【0023】
上記の原理説明は、内側部材10に振動外力が加わる例であったが、囲繞部材20に振動外力が加わる場合でも同様であり、同等の振動吸収能力を発揮できる。
なお、共振を避けるために、吸振バネ30の固有振動数を想定される振動外力の振動数から、できるだけ大きく外しておくことが好ましい。
【0024】
以上の吸振効果は、囲繞部材20の内周面と内側部材10の外周面の間のドーナツ状の円筒形空間内で、壁面に密着した状態で吸振バネ30が撓み変形することで行われるが、撓み変形は曲げ変形などに比べ大きな力を要するので、小さな部材を用いる割には吸収エネルギーを大きくとれ、それゆえ吸振効果が高くなる。
また必要な部材は、内側部材10と囲繞部材20と吸振バネ30のわずか3部材であり、かつ構造も単純であるので、容易にかつ安価に製作できるという利点がある。また、非常にコンパクトであるから、取付スペースの小さな部分への適用が可能であり、多くの産業分野に適用できる。
【0025】
図4(i)に示す免振装置は吸振バネ30を複数備えており、囲繞部材20に形成された一の回り止め溝21に全ての吸振バネ30の突出部31が嵌められている。そのため、全ての吸振バネ30が同一の方向を向いて挿入されている。つまり、全ての吸振バネ30が内側部材10および囲繞部材20と接触する位置は平面視で同じ位置となっている。
【0026】
これに対し、図4(ii)に示すように、囲繞部材20に2つの回り止め溝21を形成し、吸振バネ30ごとに突出部31を嵌める回り止め溝21を交互にすれば、各段の吸振バネ30は円周方向に角度を変えて挿入されることになる。そうすると、内側部材10の外周面および囲繞部材20の内周面に対して円周方向の複数個所で接触するため、接触する方位が多くなり、振動外力がどの方位から作用しても、吸振バネ30の変形が均等化され、常に高い吸振能力を発揮しうる。
【0027】
本実施形態のように、三角形の吸振バネ30を用いる場合には、2つの回り止め溝21を60°回転させた位置に形成すれば、各段の吸振バネ30は対称に配置されるので、内側部材10および囲繞部材20と接触する位置がバランスよくなり好適である。
なお、回り止め溝21をより多数形成して、吸振バネ30の角度をより細かく変化させる実施形態としてもよい。
また、前記各図では複数の防振バネ30を用いる場合の各バネ材の線径は同一寸法を基本としているが外力である地震、機械振動、その他の振動による共振を避けるための配慮が必要な場合の対応として、その条件に応じて適切に各バネ毎にバネ材の線径を変えてもよい。更には前記各実施形態では複数の三角形の吸振バネを前提にしたものになっているが、一本の三角形の巻バネを使用することにより吸振効果を発揮させることも可能である。もちろんその場合は回り止め溝21は不要となる。また、本発明における吸振バネは非円形を特徴とするものであって、図示以外の種々の多角形バネも本発明に含まれる。
【0028】
図5(A)に示すように、吸振バネ30は平面状の部材であるため、内側部材10と囲繞部材20に囲まれた空間内に挿入しただけでは、振動外力により内側部材10が囲繞部材20に対して傾いた場合、内側部材10の外周面および囲繞部材20の内周面に対して傾いてしまう。複数の吸振バネ30を挿入した場合には、それぞれがバラバラになり異なった角度に傾いてしまう。傾いた吸振バネ30には振動外力が真横から働かないため十分な復元力が得られなくなる。また、複数の吸振バネ30がバラバラになると均等な復元力が得られなくなる。そのため、振動外力を十分に吸収することができなくなる。
【0029】
そこで、図5(B)に示すように、内側部材10にバネガイド40を挿入し、そのバネガイド40に吸振バネ30を挿入するようにする。バネガイド40は円筒状の部材であり、その内径が内側部材10の外径とほぼ等しく、内側部材10に対してガタがないように挿入できる部材である。また、その上端および下端にはフランジ部が形成されており、このフランジ部の間隔は、挿入される吸振バネ30の線材の径に吸振バネ30の本数をかけた寸法とほぼ等しく、複数の吸振バネ30を重ねた状態で保持できるようになっている。
このバネガイド40により、吸振バネ30は内側部材10の外周面に対して垂直となるように保持される。そのため、振動外力により内側部材10が囲繞部材20に対して傾いても、吸振バネ30が内側部材10に対して斜めに滑ることがないので、振動外力が吸振バネ30の真横から働き、十分な復元力が得られる。また、複数の吸振バネ30がバラバラになることがないので均等な復元力が得られる。そのため、確実に振動を吸収することができる。
【0030】
また、バネガイドを囲繞部材20側に設けて、吸振バネ30を囲繞部材20の内周面に対して垂直となるように保持してもよい。この場合には、振動外力により内側部材10が囲繞部材20に対して傾いても、吸振バネ30が囲繞部材20に対して斜めに滑ることがないので、同様の効果を奏することができる。
【0031】
なお、バネガイドを内側部材10側と囲繞部材20側の両方に設けてもよい。また、バネガイドは前述の形状に限定されず、吸振バネ30を内側部材10の外周面または囲繞部材20の内周面に対して垂直となるように保持するものであればよい。
【0032】
(免振装置ユニット)
つぎに、電源装置等の免振に用いられる免振装置ユニットAを説明する。
【0033】
図6,7,8に示すように、有底円筒状の囲繞部材である本体20に下バネ51が挿入され、その上から内側部材である軸10が挿入されている。下バネ51は電源装置の重量を支え、かつ垂直方向の振動を吸振する必要があるため、強度の強いバネが用いられる。下バネ51と接触する軸10の下端はドーム型の頭部11となっており、軸10が頭部11を中心に本体20に対して傾くことができ、かつ常に頭部11が下バネ51と接触できるようになっている。また、軸10は本体20内で上下に動くことができるようになっている。
【0034】
軸10には上バネ52が挿入され、その上からバネガイド40が挿入される。したがって、上バネ52は軸10の頭部11とバネガイド40とで挟まれた状態となる。なお、この上バネ52を挿入しない実施形態としてもよい。
【0035】
バネガイド40には複数の吸振バネ30が挿入されている。バネガイド40は円筒状の部材であり、その内径が軸10の外径とほぼ等しく、軸10に対してガタがないように挿入できる部材である。また、バネガイド40は軸10に対してスムーズに摺動できるように、内周面にグリス等を保持できるグリス保持溝41が形成されている。さらに、上端および下端にはフランジ部が形成されており、このフランジ部の間隔は、挿入される吸振バネ30の線材の径に吸振バネ30の本数をかけた寸法とほぼ等しく、複数の吸振バネ30を重ねた状態で保持できるようになっている。
【0036】
吸振バネ30は三角形の環状部材である。本体20にはその軸方向に回り止め溝21が2つ形成されており、2つの回り止め溝21は60°回転させた位置に形成されている。複数の吸振バネ30は、それぞれの一頂点31を2つの回り止め溝21に交互に嵌められ、各段の吸振バネ30が円周方向に角度を変えて挿入されている。
【0037】
また、本体20には内径が大きい吸振バネ保持部22が形成されており、この吸振バネ保持部22に吸振バネ30が挿入されるようになっている。吸振バネ保持部22の縦寸法は挿入される吸振バネ30の線材の径に吸振バネ30の本数をかけた寸法とほぼ等しく、吸振バネ30が上下に逃げないようになっている。なお、回り止め溝21は吸振バネ保持部22と上下同位置に形成されている。
【0038】
本体20の上端には本体蓋23がボルトで固定され、吸振バネ30を本体20内に封入するようになっている。また、本体蓋23で吸振バネ30が上に逃げないように押さえている。
この本体蓋23は上面の中心に円形の孔が形成されており、その孔に軸10が通されている。この本体蓋23の孔の径は軸10の径より大きく、軸10が本体20に対して傾くことができるようになっている。
【0039】
免振装置ユニットAは本体20が基礎ベースに固定され、軸10に電源装置側の取付板Cが固定される。
軸10の本体蓋23より上方に突き出した部分には径が細くなった段部12が形成されており、その段部12の径より若干大きな径の孔を有する取付板Cが軸10の上方から挿入されている。そのため、取付板Cは軸10の段部12で支えられるようになる。
軸10には取付板Cの上から押えバネ53が挿入され、軸10の上端に形成された雌ネジにナットが螺合されて、押えバネ53で取付板Cを押さえつけるように固定される。なお、取付板Cと押えバネ53との間、および押えバネ53とナットとの間には座金が挿入される。また、ナットで固定するときに軸10が回転しないように、スパナ等が入る凹部13や棒を差し込むことができる貫通孔14が軸10に加工されている。
電源装置は、例えばその底面四隅に免振装置ユニットA取り付けられ、これらにより支えられる。
【0040】
つぎに、免振装置ユニットAの振動吸収原理を説明する。
図9に示すように、地震等により基礎ベースあるいは電源装置に水平方向の振動外力が加わると、軸10が頭部11を中心に本体20に対して揺動する。この揺動により吸振バネ30に真横からの力が働き、吸振バネ30が変形することで、振動を吸収することができる。軸10は水平方向の全方向に傾くことができ、吸振バネ30は水平方向の全方向の振動外力を吸振できるので、あらゆる方向の振動外力を吸振することができる。
【0041】
取付板Cは電源装置の底面に取り付けられるため、軸10が傾いても取付板Cは傾くことができない。しかし、軸10と取付板Cの孔との間に遊びを持たせることにより、取付板Cは水平を保ちつつ、段部12に対して斜めになりながら水平方向に振動することができる。このとき、押えバネ53が作用して、取付板Cを段部12に押さえている。
【0042】
また、地震等により基礎ベースあるいは電源装置に垂直方向の振動外力が加わると、軸10が本体20に対して上下に振動する。軸10に下向きの振動外力が加わった時には頭部11が下バネ51を押すので、下バネ51の弾性により軸10に上向きの力が働き、元の位置に戻そうとする。一方、軸10に上向きの振動外力が加わった時には頭部11が上バネ52を押すので、上バネ52の弾性により軸10に下向きの力が働き、元の位置に戻そうとする。すなわち、垂直方向の振動は下バネ51および上バネ52によって吸振することができる。
このように、吸振バネ30の吸振方向(水平方向)と直行する方向(垂直方向)の振動を吸収する下バネ51、上バネ52を備えることにより、地震等への対処能力を高くすることができる。
【0043】
以下に、本発明の他の実施形態を説明する。
(第1実施形態)
図10に示す第1実施形態は、前述の免振装置ユニットAを住宅等の建物Dに取り付けた免振装置である。
免振装置ユニットAの本体20はアンカボルト61によって基礎ベースBに固定されている。軸10には断面視U字形の取付板Cが固定されており、その取付板Cは建物Dの根太にボルト・ナット62で固定されている。したがって、軸10の上端が取付板Cと建物Dの根太との空間内に位置するようになっている。
この免振装置ユニットAは、例えば建物Dの底面の複数個所に取り付けられる。
【0044】
地震等により、基礎ベースBあるいは建物Dに水平方向の振動外力が加わると、免振装置ユニットAの吸振バネ30により吸振することができ、また、垂直方向の振動外力が加わると、免振装置ユニットAの下バネ51および上バネ52により吸振することができる。
【0045】
(第2実施形態)
図11に示す第2実施形態は、第1実施形態において、免振装置ユニットAの本体20の周囲をコンクリートで固め、基礎ベースBに強固に固定した免振装置である。その余の構成は第1実施形態と同様であるので、同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
本体20を基礎ベースBに強固に固定することができるので、地震等により強い振動外力が加わったとしても、その振動外力に耐えることができる。
【0046】
(第3実施形態)
図12に示す第3実施形態は、免振装置ユニットAの軸10と取付部材Cとの接続部分に特徴を有する。
取付部材Cは、内面がドーム形の摺動面71と、中央に孔を有する底板72と、摺動面71と底板72とを接続する円筒状の吸振バネ保持部73で囲まれた空間を有する。この取付部材Cは建物Dの根太にボルト・ナット62で固定されている。
底板72の孔の径は免振装置ユニットAの軸10の径より若干大きく形成されており、軸10の上端を取付部材Cの前記空間内に挿入できるようになっている。軸10の上端にはドーム形の摺動部材15が取り付けられており、摺動面71に摺動部材15が当接することにより、建物Dの重量を軸10で支えるようになっている。摺動面71と摺動部材15は湾曲しているので、摺動部材15が摺動面71に対して摺動しても常に面接触するようになっている。
【0047】
さらに、取付部材Cの前記空間内において、軸10にはバネガイド42が挿入されており、そのバネガイド42には吸振バネ32が挿入されている。バネガイド42は本体20内に挿入されるバネガイド40と同様の形状を有しており、複数の吸振バネ32を重ねた状態で保持することができるようになっている。
吸振バネ32も本体20内に挿入される吸振バネ30と同様の形状を有しており、バネガイド42と吸振バネ保持部73との間に挿入されるのに適した寸法となっている。吸振バネ32は吸振バネ保持部73に保持され上下に逃げないようになっている。
その余の構成は第2実施形態と同様であるので、同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
このような構成であるから、地震等により、基礎ベースBあるいは建物Dに水平方向の振動外力が加わると、吸振バネ30に加えて、吸振バネ32により吸振することができる。また、垂直方向の振動外力が加わると、免振装置ユニットAの下バネ51および上バネ52により吸振することができる。さらに、軸10と取付部材Cとが常に面接触するので、接続部分に無理な力が働かず、破損することを防ぐことができる。
【0049】
(第4実施形態)
図13に示す第4実施形態は、第3実施形態において、建物Dの根太に凹部が形成されており、その凹部に取付部材Cが嵌められた構成を有している。その余の構成は第3実施形態と同様であるので、同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
取付部材Cが建物Dの根太に嵌められた分、建物Dの底面と基礎ベースBとの間を狭くすることができる。また、第3実施形態と同様の免振効果を奏することができる。
【0050】
(第5実施形態)
図14に示す第5実施形態は、土中等に埋設した配管の免震構造である。
図14において、10は内側部材であるパイプ、20は囲繞部材であるバネケースである。本実施形態は、土中Gに埋設した2本のパイプ10,10の結合部分に、2個の免振装置E,Eを合体して取付けたものである。バネケース20にはパイプ10のフランジ10aを挟むことができる挾持部20aが形成されており、さらに2つのバネケース20,20をボルトで結合することができるフランジ20bが形成されている。
したがって、2本のパイプ10,10のフランジ10a同士を2つのバネケース20,20の挾持部20aで挟み、フランジ20b同士をボルトで結合することで、パイプ10同士を結合することができる。
【0051】
吸振バネ30はパイプ10に外挿され、かつバネケース20内に内挿される。なお、バネケース20の内部に土砂等を入れないように適当なシール材で密封しておくとよい。
本実施形態では、配管の一番弱い継ぎ目での振動を吸収できるという利点がある。
【0052】
(第6実施形態)
図15に示す第6実施形態は、免振装置ユニットAの高さを低くできるようにした構造に特徴がある。
免振装置ユニットAにおける下バネ51は、その上下でバネ座80,85で挟まれている。上方のバネ座80は鍔81と、その中央で凹んだ形状の底部82とからなる。鍔81は、下バネ51の上端面に載せられており、軸10の下端部はバネ座80の内部に挿入され、底部82で支持されている。このようにして軸10が下げられているので、基礎ベースBと建物Dとの間の間隔が小さい場合でも設置が容易となる。
【0053】
下方のバネ座85は鍔部86と、その内側の半球状部87とからなる。鍔部86は下バネ51を下方から支持しており、半球状部87は本体20の底部上面で揺動自在に接触している。
このため、本実施形態では、下方のバネ座85が揺動することで、地震等の水平方向外力を吸収しやすくなっている。
その余の構成は図8の実施形態と同様であるので、同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0054】
図15における取付部材Cは、内面がドーム形の摺動面71を有する支持板75と、支持板75を固定する取付板76からなる。この取付部材Cは建物Dの根太にボルト・ナット62で固定されている。
免振装置ユニットAの軸10の上端にはドーム形の摺動部材15が形成されており、摺動面71に摺動部材15が当接することにより、建物Dの重量を軸10で支えるようになっている。摺動面71と摺動部材15は湾曲しているので、摺動部材15が摺動面71に対して摺動しても常に面接触することとなる。
【0055】
上記のような構成であるから、地震等により、基礎ベースBあるいは建物Dに水平方向の振動外力が加わると、吸振バネ30による吸振が容易となる。また、垂直方向の振動外力が加わると、免振装置ユニットAの下バネ51および上バネ52により吸振することができる。さらに、軸10と取付部材Cとが常に面接触し、これに加えバネ座85が揺動するので、接続部分に無理な力が働かず、破損することを防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、建物やタンク等の建築物の耐震化、土木機械や、電源装置、精密機器、工作機器、鉄道、自動車等の振動吸収に利用できる。とくに、電線、信号線、ガス管、水道管、コンピュータケーブル、石油パイプ、タンク等で地震や振動発生の際、地中埋設はもちろん、空中設置や一般設置を含む振動エネルギーの吸収に利用できる。また、振動体の取付部に適用して、振動源からの振動エネルギーを吸収することができる。さらに、車輪に適用して車輪や走行車両の振動吸収にも利用できる。
【符号の説明】
【0057】
10 内側部材
20 囲繞部材
30 吸振バネ
40 バネガイド
51 下バネ
52 上バネ
A 免振装置ユニット
B 基礎ベース
C 取付板
D 電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動源側部材または振動体側部材に取付けられる内側部材と、
振動体側部材または振動源側部材に取付けられる囲繞部材と、
前記内側部材に外挿され、かつ前記囲繞部材に内挿される吸振バネとを備え、
前記吸振バネは、非円形の環状部材である
ことを特徴とする免振装置。
【請求項2】
前記囲繞部材に溝が形成されており、
該溝に前記吸振バネの突出部が嵌められている
ことを特徴とする請求項1記載の免振装置。
【請求項3】
前記吸振バネを複数備えており、
該複数の吸振バネは、吸振バネごとに円周方向に角度を変えて挿入されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の免振装置。
【請求項4】
前記吸振バネを前記内側部材の外周面または前記囲繞部材の内周面に対して垂直となるように保持するバネガイドを備える
ことを特徴とする請求項1,2または3記載の免振装置。
【請求項5】
前記内側部材と前記囲繞部材との間に、前記吸振バネの吸振方向と直交する方向の振動を吸収するバネを備える
ことを特徴とする請求項1,2,3または4記載の免振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−193814(P2012−193814A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59729(P2011−59729)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【特許番号】特許第4918619号(P4918619)
【特許公報発行日】平成24年4月18日(2012.4.18)
【出願人】(310004460)
【Fターム(参考)】