免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質を最適化するための方法
本発明は、Igスーパーファミリーの分子及び派生物の生物物理学的特性を最適化するための方法に関する。この方法は、構造的、安定性、及びフォールディングの役割が未知である未認識のヘリカル構造エレメントが、抗体ドメインの正確で効率的な構造化の重要な決定基として同定されることを特徴とする。抗体特性及びIgフォールディングパターンを有する他のタンパク質の特性にポジティブな影響を与えるための新規方法は、本明細書において、短いヘリカルエレメントの特性の最適化、及び、Igドメイン間のこれらのエレメントの移植からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
技術分野
本発明は、免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーのタンパク質の生物物理学的特性を最適化するための方法に関する。よってそれは、格別に抗体での使用に適する。しかし、それは単にこれらに制限されず、しかし、理論的には、免疫グロブリンスーパーファミリーの全てのメンバー、また、その派生物(例えばFc融合タンパク質など)に拡大できる。よって本発明は、また、この種類のタンパク質の調製方法及びそれらの医学的使用に関する。
【0002】
背景
生体分子(例えばタンパク質、ポリヌクレオチド、多糖類など)が、医薬として、診断用薬剤として、食品添加物、界面活性剤などとして、研究用試薬として、多くの他の適応のための商業的重要性をますます得ている。そのような生体分子の必要性は、通常、例えばタンパク質の場合、天然供給源から分子を単離することによっては、もはや満たすことができず、生物工学的な産生方法の使用が必要となる。
【0003】
タンパク質の生物工学的調製は、典型的には、所望のタンパク質をコードするDNAの単離、及び適した発現ベクター中へのそのクローニングで開始される。適した原核又は真核発現細胞中への組換え発現ベクターのトランスフェクション及びトランスフェクトされた組換え細胞の続く選択後、後者をバイオリアクター中で培養させ、所望のタンパク質を発現させる。次に、細胞又は培養上清を回収し、その中に含まれるタンパク質を処理し、精製する。
【0004】
抗体、特に免疫グロブリンG(IgG)サブクラスは、生物薬剤学的に産生される最も重要なタンパク質の1つである。それらは、基礎研究から、診断を通じ、一連の治療(例、腫瘍の処置)までの広範囲な適用を有する。抗体は複雑なグリコシル化されたタンパク質分子であり、IgGの場合、2つの軽鎖及び2つの重鎖で構成されている(図1を参照のこと)。抗原の認識及び結合は、2つの同一の抗原結合部位、いわゆるパラトープを介して起こる(図1を参照のこと)。抗体の標的構造、抗原は、後者により高度に特異的に認識されるだけでなく、その結合は、また、Fcフラグメントにより媒介される複数のいわゆるエフェクター機能と共役する(図1を参照のこと)。最も重要なエフェクター機能は、とりわけ、補体系(補体依存性細胞傷害:CDC)及び抗体依存的な細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の活性化を含む。
【0005】
一連の適用にもかかわらず、抗体は望まれうるようには未だに広く使用されておらず、主に非常に高い生産コストのためである。従って、種々の戦略が、分子及び生産方法を改善するために採用されてきた。抗体の生物学的特性を改善するための付着点は、例えば、親和性及び抗原特異性に対する改変ならびにFcエフェクター機能の調節である。他のアプローチは、分子の異質性を低下させることに向けられており、例えば、前駆体、加水分解産物、タンパク質のC末端アミノ基の酵素的切断、脱アミノ化、様々なグリコシル化パターンもしくは誤って連結されたジスルフィド架橋、又は抗体の物理化学的特性(例えば安定性及び溶解性など)の改善により起こる。抗体の特性を最適化することは、このように、潜在的に極めて広範囲の適用を有する。
【0006】
すべてのタンパク質が、定義された最終構造に固有のその機能を実行できるように、構造化方法(タンパク質フォールディング(folding)として公知)を受けなければならない。しばしばフォールディング中間体を介して導くこの多段階構造化方法において、ミスフォールディング及び凝集が存在しうる。タンパク質のミスフォールディングに起因しうる、又は、それらに関連する非常に多くの疾患が存在する。なぜなら、タンパク質は、それらの天然のフォールドされた状態を達成しない、又は、この天然の状態のままではないからである。これらは、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び種々のアミロイドーシスを含む。この種類のタンパク質のミスフォールディングが生物工学的な産生方法において起こる場合、これは産物の力価、収率、品質及び/又は安定性を犠牲にしている。
【0007】
多数の科学的研究において抗体の構造化方法(抗体フォールディングとして公知)の明確化が既に扱われてきた(Goto, Y. and Hamaguchi, K., Journal of Molecular Biology 156, 891-910, 1982;Thies, M. J. W. et al., Journal of Molecular Biology 293, 67-79, 1999;Feige, M. J. et al., Journal of Molecular Biology 365, 1232-1244, 2007;Feige, M. J. et al., Journal of Molecular Biology 344, 107-118, 2004)。抗体は、天然において非常に広範囲に及ぶいわゆるIgスーパーファミリーに属する。抗体及びそのフラグメントに関するフォールディング研究の他、このIgスーパーファミリーの他のメンバーもそれらのフォールディング方法について徹底的に研究されてきた(Cota, E. et al., Journal of Molecular Biology 305, 1185-1194, 2001;Hamill, S. J. et al., Journal of Molecular Biology 297, 165- 178, 2000;Paci, E. at al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 100, 394-399, 2003)。研究の現状について以下の絵が浮かび上がっている:Igスーパーファミリーのタンパク質の構造化は、プリーツシート(pleated sheet)構造のコアにおける数個の疎水性アミノ酸の周囲から開始し(特に、鎖B、C、E、及びF)、次に、このフォールディングコアから開始する完全な構造化に終結する。図2は、Igスーパーファミリーのメンバー、ベータ2ミクログロブリンの典型的なトポロジーを示す。鎖B、C、E、及びFに印を付けており、それらは既に言及した通り、一般的にIgタンパク質のフォールディング方法のコアになると仮定される。
【0008】
発明の概要
本発明は、天然ヘリカルエレメント(helical elements)が最適化されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を調製するための生物工学的方法に関する。好ましくは、この最適化は、ヘリックス内部に追加の塩橋を導入すること、及び/又は、ヘリックス破壊剤又はヘリックス不安定化基(プロリン及び/又はグリシン)を除去することにより行われる。
【0009】
別の局面において、本発明は、天然の又は最適化されたヘリカルエレメントが移植されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を調製するための生物工学的方法に関する。この移植は、好ましくは、最適なヘリカルエレメントを有さない、又は、ほとんど有さないドメイン中で行われる。特に好ましい実施態様において、1つ又は複数のヘリカルエレメントが、少なくとも1つの定常ドメインCL、CH2、及び/又はCH3から、少なくとも1つのCH1定常ドメイン及び/又は可変ドメイン(例、VL又はVH)中へ移される。
【0010】
別の局面において、本発明は、Igドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸が、ヘリックス、好ましくはαヘリックスの形成の可能性を増加させる別のアミノ酸により置換されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性を改善するための方法に関する。
【0011】
形成の確率は、好ましくは、アルゴリズム、特にAGADIRアルゴリズムを使用して算出される。好ましくは、置換されたアミノ酸は、特にA型とB型及び/又はE型とF型の2つのβプリーツシート鎖間の領域中に位置付けられる。置換されたアミノ酸は、ヘリカル構造を既に有する領域中に位置付けられうる。既存のヘリカルエレメントにおけるこの種類のアミノ酸交換の目的は、このエレメントでのヘリックス形成の確率を増加させることである。ヘリックス形成は、例えば、Igドメインにおいて置換すべきアミノ酸がプロリン又はグリシンである場合、好ましくは、それが先行するβプリーツシート鎖の後の少なくとも第2の位置(i→i+2)に、又は、次のβプリーツシーツ鎖の前の最大で最後から2番目の位置(i→i−2)に位置付けられる場合に増加しうる。プロリン及びグリシンは、プロリンでもグリシンでもないアミノ酸により、好ましくは、アラニンにより置換される。別の可能性は、荷電側鎖を有するアミノ酸を挿入することによる塩橋の導入であり、反対荷電の側鎖を有するアミノ酸から(i→i+3)、(i→i+4)、又は(i→i+5)の間隔であるようにする。反対荷電を伴う側鎖を有する少なくとも2つのアミノ酸が、場合により、この目的のために挿入され、置換されたアミノ酸の間の間隔によって、側鎖が塩橋を形成できるようにする。好ましい実施態様において、交換されたアミノ酸は、2(i→i+3)、3(i→i+4)、又はそれ以上のアミノ酸(i→i+5)により互いに分離される。生理学的条件下で負荷電している側鎖を伴うアミノ酸は、グルタミン酸又はアスパラギン酸でよく、アルギニン、リジン、又はヒスチジンは、これらの条件下で正荷電している側鎖を有しうる。好ましい実施態様において、アルギニン、リジン、又はヒスチジンが挿入される又は恐らくは既に存在している位置は、グルタミン酸又はアスパラギン酸が挿入される又は場合により既に存在している位置よりも、C末端に近い。このように、二重塩橋を挿入でき、それにおいて配列は生成され、ここで3つのアミノ酸が位置i、及びi+3、i+4又はi+5、ならびにi+7、i+8又はi+9に位置付けられ、ここで位置i、及びi+7、i+8又はi+9のアミノ酸は同じ荷電の側鎖を有するのに対し、位置i+3、i+4又はi+5のアミノ酸は反対荷電を有する。この目的のために、3つの対応するアミノ酸を突然変異により挿入でき、恐らく対応するアミノ酸が開始配列中に既に存在する場合には、さらに少ないアミノ酸を挿入できる。この種類の二重塩橋において、アスパラギン酸、グルタミン酸、又はアルギニンは、好ましくは、中央の位置i+3、i+4、又はi+5に存在する。好ましい実施態様は、交換後に、タンパク質が、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、及び/又はSKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。
【0012】
別の局面において、本発明は、最適なヘリカルエレメントを有さない又はほとんど有さないドメイン(例えば、ベータ2ミクログロブリンのIgドメイン(配列番号3)、可変ドメイン(VL、VH)、又は免疫グロブリンの定常ドメインCH1など)中への適したヘリカルエレメントの移植に関する。移植エレメントは、例えば、免疫グロブリンの定常ドメインCL、CH2、もしくはCH3に起因しうる、又は、本発明の方法により最適化されたそのようなエレメントのバリアントでありうる。移植は、好ましくは、4〜12の連続アミノ酸(好ましくは約10のアミノ酸)が同じ又はより大きい長さのアミノ酸配列により置換される方法を使用して行われ、挿入アミノ酸配列は、置換される配列よりも高いヘリックス形成の確率を有する。好ましい実施態様において、挿入配列は、免疫グロブリンのCL又はCHドメインのβプリーツシート鎖AとB及び/又はEとFの間の領域からのヘリカルエレメントである。適したヘリカルエレメントは、例えば、ヒトCH2ドメイン(配列番号5、配列番号14、又は配列番号15)からの配列KPKDTLMISR(配列番号8)又はそれから最適化されたKAEDTLHISR配列(配列番号9)、マウスカッパCLドメイン(配列番号1)からのTKDEYERH(配列番号10)、ヒトCLドメイン(配列番号13)からのTPEQWKSHRS(配列番号16)、又はヒトカッパCLドメイン(配列番号12)からのSKADYEKHK(配列番号11)を有する。
【0013】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質を調製するための方法に関し、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性を改善するための先に記載した方法を、この種類のタンパク質に適用し、このようにして得られた改変タンパク質を宿主細胞において発現させることを特徴とする。
【0014】
別の局面において、本発明は、先に記載した本発明の方法により産生される、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質に関する。好ましくは、それは、抗体、特に、2つの軽鎖及び2つの重鎖を含む完全な免疫グロブリンである。
【0015】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及び少なくとも1つの可変ドメイン(例、VL又はVH)を有するタンパク質に関し、それは、この可変ドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。好ましくは、このヘリカルエレメントは、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を有する。本発明の好ましい局面において、可変ドメインは、抗原に特異的に結合する能力を有する。
【0016】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH2型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質に関し、それは、この定常ドメインにおいて、ヒトにおいて天然に存在するCH2ドメインのヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又は配列SKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むCH2ドメインを含む。
【0017】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH1型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質に関し、それは、この定常ドメインにおいて、ヒトにおいて天然に存在するCH1ドメインのヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又は配列SKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むCH1ドメインを含む。
【0018】
別の局面において、本発明は改変β2ミクログロブリンに関し、それは、Igドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメント、好ましくは、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを有する。
【0019】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質に関し、それは、Igドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメントを含み、それは、配列 配列番号1、配列番号12、もしくは配列番号13(CL WT)又は配列番号5、配列番号14、もしくは配列番号15(CH2 WT)の1つに含まれるヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有する。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KAEDTLHISR(配列番号9)を有するヘリカルエレメントを含む。
【0020】
別の局面において、本発明は、医学的使用のための先に記載されるタンパク質に関する。
【0021】
別の局面において、本発明は、天然ヘリカルエレメントの最適化が行われることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変するための生物工学的方法に関する。
【0022】
別の局面において、本発明は、天然の又は最適化されたヘリカルエレメントの移植が、最適なヘリカルエレメントを有さない又はほとんど有さないドメインにおいて行われることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変するための生物工学的方法に関する。
【0023】
本発明の利点は、本発明のタンパク質の、より大きなフォールディング効率及び安定性、より少ないミスフォールディング、及び、それによる、最終分析における、より高い価値のタンパク質の質を伴うより高い産物収率、精製方法におけるより大きな柔軟性、より遅いアンフォールディング速度、特にストレス条件下での、溶解性の改善及び凝集のより低い傾向にある。製造方法のより大きな頑強性のおかげで、この新たな方法は先行技術よりも明らかに優れている。本発明は、従って、好ましくは、組換え抗体及びFc融合タンパク質を調製するための方法に適用することができる。本発明は、しかし、免疫グロブリンドメインとの相同性を伴うドメインを含むフラグメント及びその派生物又は融合タンパク質を含む免疫グロブリンスーパーファミリーの他の分子に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】IGGサブクラスの抗体:2つの軽鎖を明色にしており、重鎖を暗く示す。抗原結合に関与する領域(パラトープ)、CH2ドメインのグリコシル化、及びエフェクター機能を媒介するFc部分に標識する。
【図2】Igスーパーファミリーの代表としてのベータ2ミクログロブリン:ヒトベータ2ミクログロブリン(配列番号3)のβプリーツシート鎖B、C、E、及びFに標識する。
【図3】免疫グロブリンGのトポロジー:βプリーツシーツが互いに結合するIgG分子に関連するIgトポロジーにおける短いヘリカルエレメントを暗く示す。
【図4】IGG1 CLドメインにおけるヘリカルエレメントの位置:図中、抗体の定常ドメインにおけるヘリカルエレメントの位置を、ヒトIgG1 CLドメインの例を使用して示す。βプリーツシート鎖A、B、C、D、E、F、及びGならびにヘリカルエレメント、Helix1及びHelix2に標識する。
【図5】NMRスペクトロスコピーによるCLフォールディング中間体の特性付け:この図は、リフォールディングが完成した後の天然ピーク振幅との比較による、各関連群についてのリフォールディング中の最初のNMRスペクトルにおいて得られたピーク振幅を示す。マウスカッパCLドメイン(配列番号1)の構造エレメントを、ピーク振幅の上に図式的に示す。
【図6】IGG CLドメインの構造化:マウスカッパCLドメイン(配列番号1)のフォールディング中間体における構造化の程度をNMRスペクトロスコピーにより決定する。天然構造化領域を暗く示す。
【図7】CD分光学的検査:マウスカッパCLドメイン(破線)(CL WT;配列番号1)、ヒトベータ2ミクログロブリンループを伴うCLドメイン(破線&点線)(CLからβ2m;配列番号2)ならびにヒトベータ2ミクログロブリン(直線)(β2m WT;配列番号3)及びCLヘリックスを伴うベータ2ミクログロブリン(点線)(β2mからCL;配列番号4)のCD分光学的検査を20℃のPBS中で行う。ベータ2ミクログロブリンヘリックスを伴うCL(CLからβ2m;配列番号2)は、アンフォールドされたタンパク質のスペクトルを示し、全ての他のタンパク質は、ベータプリーツシートタンパク質の特徴を有する。
【図8】ベータ2ミクログロブリンアミロイド形成に対するヘリカルエレメントの影響:AFM測定は、CLヘリックス(β2mからCL;配列番号4)の移植による、全ての条件下でのベータ2ミクログロブリン(β2m WT;配列番号3)とのアミロイド形成における低下を例示する。測定は、pH 1.5、3.0で、ならびにPBS中で、シード(=超音波処理により断片化された原線維)の存在及び非存在において行う。
【図9】IGG1分子のCH2ドメイン:ヒトIgG1分子のCH2ドメイン(A)内に最適化されたHelix1を位置付けること(CH2 Helix1突然変異体;配列番号6)、及び、追加の塩橋を挿入すること、及び、ヘリックス破壊剤プロリン(B)を除去することによるHelix1の最適化(突然変異:KPKDTLMISR(配列番号8)からKAEDTLHISR(配列番号9))。
【図10】Helix1最適化された突然変異体を伴う野生型CH2ドメインの構造比較:FUV−CDスペクトル(A)及びNUV−CDスペクトル(B)は、結果的に二次構造及び三次構造であり、実質的に、IgG1 CH2野生型ドメイン(破線)(CH2 WT;配列番号5)及びHelix1突然変異体(実線)(CH2 Helix1突然変異体;配列番号6)について同一である。
【図11】熱安定性研究:野生型CH2ドメイン(破線)(CH2 WT;配列番号5)及びHelix1突然変異体(実線)(CH2 Helix1突然変異体;配列番号6)の熱安定性を、FUV−CDスペクトロスコピーにより218nmで測定する。加熱速度は20℃/時である。野生型の融点は56.0℃に決定され、突然変異体の融点は60.4℃である。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明のこの説明の範囲内で使用される用語及びサインは、以下で定義される以下の意味を有する。一般用語「含む」は、より具体的な用語「からなる」を含む。さらに、用語「単数」及び「複数」は制限的に使用されない。
【0026】
本発明は、生物物理学的特性を改善させるため、特に、安定性、フォールディング効率を増加させるため、及び、免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質ならびにこのようにして改変された実際のタンパク質の凝集を低下させるための方法に関する。免疫グロブリンスーパーファミリーは、現在、760を上回る異なるタンパク質を含む。経済的に最も重要なグループは、免疫グロブリン(抗体)からなる。種々のカテゴリーの免疫グロブリンが存在する:IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、IgY、IgW。他のメンバーは、細胞表面上の抗原受容体(例、T細胞受容体)、免疫系の共受容体及び共刺激分子、抗原提示に関与するタンパク質(例、MHC分子)、及び特定のサイトカイン受容体及び細胞内筋肉タンパク質である。免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質は、共通の構造エレメント、いわゆる免疫グロブリンドメイン(Igドメイン)により特徴付けられる。Igドメインは共通の基本構造を有する。それらは、典型的には、約70〜110のアミノ酸からなり(しかし、200を上回るアミノ酸を伴う例も存在する)、しばしば、分子内ジスルフィド架橋を含む。クラスIgGの抗体は、例えば、4つのサブユニット、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖で構成され、各場合において、それらは、共有結合ジスルフィド架橋により一緒に連結され、y形状構造を形成する。各軽鎖は、2つのIgドメイン、いわゆる可変(VL)及び定常(CL)Igドメインを含み、各重鎖が4つのそのようなIgドメイン(VH、CH1、CH2、及びCH3)を含む。クラスIgM及びIgEの抗体は、追加の定常ドメイン(CH4)を含む。Igドメインは、特徴的な二次構造、免疫グロブリンのフォールディングパターン(英語で、「Igフォールド」)、逆平行βプリーツシート鎖の2つのシートにより形成される疎水性コアを伴うサンドイッチ様構造を有する(図4を参照のこと)。三次元表示は、折り畳みシートを連想させる。ペプチド基はシート中に位置付けられ、介在するC原子は複数の折り畳みシートの端に位置付けられる。複数の鎖のペプチド結合が互いに相互作用する。安定化のために必要とされる水素架橋結合が、ポリペプチド骨格に沿って形成され、約7.0Åの距離の対で生じる。折り畳みシートにおいて、隣接アミノ酸間の間隔は、有意によりコンパクトなαヘリックスにおいてよりもずっと大きい。間隔は、ヘリックス中の0.15nmと比較し、0.35nmである。
しかし、側基が一緒に近接しているため、大きなプリーツシート領域は、一般的に、側基残基が比較的小さく、全てが等しく荷電していない場合にだけ形成される。
【0027】
βプリーツシートを同定するために、CD(「円二色性」)スペクトロスコピー及びNMR(「核磁気共鳴」)スペクトロスコピーを使用してよく、頻度を統計的に評価するために、ラマチャンドランプロットを使用してよい(Ramachandran, G. N. et al., J. Mol. Biol. 7, 95-99, 1963)。個々のβ鎖を、それらが配列中で現れる順番に従い、A、B、C、D、E、F、G、又はC’、C’’と呼ぶ。Igフォールドの安定化は、サンドイッチの内側の疎水性アミノ酸の相互作用、鎖間の水素架橋、及び存在する場合、B鎖及びF鎖のシステイン基間での高度に保存されたジスルフィド結合により補助される。2つのシステイン間に位置付けられるアミノ酸の数は変動しうるが、一般的に、55〜75の間のアミノ酸である。免疫グロブリンの可変ドメインは、典型的には、9つのβ鎖を含み、定常ドメインは、典型的には、7つのβ鎖を含む。
【0028】
β鎖間の配列領域が、高い配列可変性を伴う非構造化ループにより、又は、特に免疫グロブリンの定常ドメインにおいて、短いヘリカルエレメントにより形成される。ヘリックスは、タンパク質中の右手又は左手スパイラル二次構造であり、それにおいて、主鎖の各NH基が、主鎖のカルボニル基を伴う水素架橋結合に入る。右手αヘリックスにおいて、水素架橋結合により及ぶ距離は、4つのアミノ酸である(i+4→i水素架橋結合)。αヘリックスにおいて、1ターンは、1.5Å(0.15nm)のレベルでの3.6のアミノ酸基に対応する;各アミノ酸は、このように、100°によるオフセットである。さらなるヘリックス形状は、310ヘリックス(i+3→i水素架橋結合)及びπヘリックス(i+5→i水素架橋結合)である。アミノ酸の側鎖は、ヘリックスの外側に位置付けられる。タンパク質中の典型的なヘリックスは、約10のアミノ酸(3ターン又はコイル)で構成されるが、しかし、わずか4つのアミノ酸で構成されるヘリカルエレメント又は40までのアミノ酸で構成されるヘリックスも公知である。タンパク質中のヘリカル二次構造は、それ自体が公知の方法、例えば、x線構造解析又は核磁気共鳴スペクトロスコピー(NMRスペクトロスコピー)を使用して実験的に決定できる。ヘリックス形成の確率は、また、しかし、アミノ酸配列に基づき適したアルゴリズムを使用して決定してよい(Munoz, V. & Serrano, L. (1997). Development of the Multiple Sequence Approximation within the Agadir Model of α-helix Formation. Comparison with Zimm-Bragg and Lifson-Roig Formalisms. Biopolymers 41, 495-509; Lacroix, E., Viguera AR & Serrano, L.(1998). Elucidating the folding problem of a-helices: Local motifs, long-range electrostatics, ionic strength dependence and prediction of NMR parameters.J. Mol. Biol. 284, 173-191)。上記の参考文献において記載されるAGADIRアルゴリズムが、本発明の範囲内で好ましい。免疫グロブリンの定常ドメインの場合において、ヘリカルエレメントは、βプリーツシート鎖AとBならびにEとFの間に位置付けられる。
【0029】
本発明は、ヘリカル構造が、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性に重要であるとの知見に基づく。この種類のヘリカルエレメントを最適化することにより、特にアミノ酸配列を変化させることにより(それによってヘリックス形成、好ましくはαヘリックスの可能性の増加をもたらす)、生物物理学的特性を改善することが可能であり、特に安定性(例、熱安定性、pH安定性)、フォールディング効率、及び溶解性をこのように増加させることができ、アンフォールディング速度ならびにミスフォールディングの傾向、凝集、又はアミロイド形成をこのように低下させることができる。
【0030】
以下でアミノ酸配列中の「先行する」又は「続く」位置を参照する場合、用語「先行する」は配列のN末端に近いことを意味し、用語「続く」は配列のC末端に近いことを意味する。
【0031】
高分解能NMRスペクトロスコピーを使用して、抗体ドメインのフォールディング経路が、実質的な原子分解を用いて明らかにされている(図5及び6を参照のこと)。これは、このドメイン、CLドメインのフォールディングが、天然のシス状態へのTyr34−Pro35結合の異性化により限定されるとの事実により可能になる。低温では、この方法は極めて遅く、故に、フォールディング経路はNMRスペクトロスコピーに直接的に受け入れられる。天然構造への途中で、部分的折り畳み構造、いわゆるフォールディング中間体が形成されることが見出された。フォールディング中間体において、ドメインの短いヘリカルエレメントが既に十分に構造化されており、タンパク質の全ての他の領域がわずかに部分的に構造化されていることが高度に有意である。図5及び6はこの状態を例示しており、特に、抗体ドメインの短いヘリカルエレメントが高度に構造化されているのに対し、フォールディング核と仮定される鎖B、C、E、及びFがそれほど構造化されていないことが明白である。ヘリカルエレメントの特性を最適化することにより、抗体の生物物理学的特性(例、安定性、溶解性、フォールディング効率)は、ポジティブな影響を受けることができ、また、ドメイン間、例えば、可変ドメイン(ヘリカルエレメントに接近できない)中へのヘリカルエレメントの移植によってもポジティブな影響を受けることができる。本発明の別の利点は、本質的にプリーツシート構造を有するタンパク質を最適化することは、その特性が実質的により良く理解されている短いヘリカルエレメントを介して行われ、結果的に、プリーツシート構造よりも容易に改変されるという事実である。
【0032】
本発明は、天然ヘリカルエレメントが最適化されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を産生するための生物工学的方法に関する。好ましくは、この最適化は、ヘリックス内部に追加の塩橋を挿入すること、及び/又は、ヘリックス破壊剤(プロリン及び/又はグリシン)を除去することにより行われる。免疫グロブリンのフォールディングパターンを含むタンパク質とは、本発明の範囲内で、先に記載する構造の少なくとも1つのIgドメインを有するタンパク質を意味する。特に、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバー、及び、従って好ましくは、免疫グロブリンである。しかし、本発明は、また、天然においてこの形態で存在しないが、しかし、Igドメインを有する人工タンパク質、例えば、Fc融合タンパク質(例えば抗リウマチ活性物質(TNFR:Fc)であるエタネルセプトなど)に関する。抗体とは、本発明に関連して、天然において存在し、例えば、哺乳動物を抗原で免疫することにより得ることができる種類の免疫グロブリンだけでなく、パラトープを有し、それ自体で、又は、別のIgドメインと一緒に、抗原に特異的に結合する少なくとも1つのIgドメインを有する場合の、人工タンパク質も意味する。そのようなIgドメインは、例えば、免疫グロブリンの可変ドメイン(VH、VL)である。
【0033】
従来、2つの軽鎖及び2つの重鎖からなる免疫グロブリンの内、サブタイプIgG1、IgG2、及びIgG4の重鎖を伴うクラスIgGの免疫グロブリンが好ましい。これらの免疫グロブリンは、天然でモノクローナル又はポリクローナルでありうる、それらは霊長類(特にヒト)、げっ歯類、又は他の哺乳動物の配列を含みうる、及び、キメラ又はヒト化配列でありうる。ヒト又はヒト化免疫グロブリンが好ましい。免疫グロブリンは、また、それらのドメイン中に、本発明の方法の最適化に加えて、分子の特性を変化させることが可能であるアミノ酸の置換、欠失、及び/又は挿入を含みうる。このように、例えば、エフェクター機能、例えば、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、アポトーシス誘導、又はFcRn媒介性ホメオスタシスなどが調節されうる。潜在的な脱アミド部位、酸化部位、及びグリコシル化部位を除去する、又は、重鎖のC末端リジンを欠失させることにより、例えば、分子の異質性を低下させることができる。
【0034】
完全な免疫グロブリンの他、当業者は、Igドメインを含む、それが由来する多数のタンパク質に精通している。このように、当業者には、例えば、免疫グロブリンのフラグメント(例えばFab、F(ab’)2又はFcフラグメント、Fc融合タンパク質、Fc−Fc融合タンパク質、軽鎖及び重鎖の可変ドメインの融合体からなる単鎖抗体(scFv)、重鎖又は軽鎖の可変ドメインだけからなる単一ドメイン抗体(dAb)、例えばVH VHH又はVL dAb(ラクダ由来のドメイン抗体ならびにこれらのコンストラクトのミニボディ、ジアボディ、トリアボディ、及び融合タンパク質を含む)が公知である。
【0035】
Fabフラグメント(フラグメント抗原結合=Fab)は、隣接する定常領域により一緒に保持される両鎖の可変領域からなる。それらは、例えば、パパインなどのプロテアーゼでの処理により、又は、DNAクローニングにより従来の抗体から産生されうる。他の抗体フラグメントは、ペプシンでのタンパク質消化により産生できるF(ab’)2フラグメントである。
【0036】
遺伝子クローニング又はデノボ遺伝子合成により、重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域だけからなる短くなった抗体フラグメントを調製することも可能である。これらは、Fvフラグメント(フラグメント可変=可変部分のフラグメント)として公知である。定常鎖のシステイン基を介した共有結合が、これらのFvフラグメントにおいて可能ではないため、これらのFvフラグメントは、しばしば、特定の他の方法により安定化される。この目的のために、重鎖及び軽鎖の可変領域は、しばしば、約10〜30のアミノ酸、特に好ましくは15のアミノ酸の短いフラグメントを用いて一緒に連結される。これによって、VHとVLがペプチドリンカーにより一緒に連結される単一のポリペプチド鎖が産生される。そのような抗体フラグメントは、単鎖Fvフラグメント(scFv)とも呼ばれる。scFv抗体の例が公知であり、記載されている。
【0037】
過去数年において、種々の戦略が、多量体scFv派生物を産生するために開発されている。その意図は、薬物動態学的特性が改善され、結合力が増加した組換え抗体を産生することである。scFvフラグメントの多量体化を達成するために、それらを、多量体ドメインを伴う融合タンパク質として産生する。多量体化ドメインは、例えば、IgG又はヘリックス構造(「コイルドコイル構造」)のCH3領域(例えば、ロイシンジッパードメインなど)でありうる。他の戦略において、scFvフラグメントのVH領域とVL領域間の相互作用を、多量体化のために使用する(例、ジア、トリ、及びペンタボディ)。
用語「ジアボディ」を当技術分野において使用し、二価のホモ二量体scFv派生物を示す。scFv分子中のペプチドリンカーを5〜10のアミノ酸に短くすることによって、VH/VL鎖を重ね合わせることによるホモ二量体の形成がもたらされる。ジアボディは、加えて、挿入されたジスルフィド架橋により安定化されうる。ジアボディの例を文献中に見出すことができる。
【0038】
用語「ミニボディ」を当技術分野において使用し、二価のホモ二量体scFv派生物を示す。それは、免疫グロブリン、好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1のCH3領域を、二量体化領域として含む融合タンパク質からなる。これは、ヒンジ領域、またIgG及びリンカー領域を用いて、scFvフラグメントを連結する。
【0039】
用語「トリアボディ」を当技術分野において使用し、三価のホモ三量体scFv派生物を示す。リンカー配列を使用しないVH−VLの直接融合によって、三量体の形成が導かれる。
【0040】
二価、三価、又は四価構造を有する、当技術分野においてミニ抗体として公知のフラグメントも、scFvフラグメントの派生物である。多量体化は、二量体、三量体、又は四量体のコイルドコイル構造を用いて達成される。
【0041】
当業者は、また、IgNAR(「新たな抗原受容体」)として公知であるサメ及びエイからの免疫グロブリンを知っている。これらは、1つの可変領域及び5つの定常領域からなる鎖の二量体を形成する(Flajnik, M. F., Nature Reviews, Immunology 2, 688-698, 2002)。
【0042】
また、当業者は、わずか2つの短くなった重鎖(各々が1つの可変ドメイン及び2つの定常ドメインを有する)からなる、ラマ又はラクダ科の他の動物からの抗体も知っている(Hamers-Casterman, C. et al., Nature 363, 446-448, 1993)。当業者には、これらの短くなった重鎖の1つ又は複数の可変ドメインだけからなるこれらのラクダ抗体の派生物及びバリアントも公知である。そのような分子は、ドメイン抗体としても公知である。単一ドメイン抗体も、他の種からの、例えば、マウス及びヒトからの、又はヒト化形態での配列に基づき公知である(Holt et al., Trends in Biotechnology 21(11)、484 - 490, 2003)。これらのドメイン抗体のバリアントは、複数の可変ドメインからなる分子を含み、ペプチドリンカーにより互いに共有結合される。血清中での半減期を延長するために、ドメイン抗体を他のポリペプチド単位、例えば、免疫グロブリンのFc部分と、又は、血清中に生じるタンパク質、例えばアルブミンなどと融合させてもよい。
【0043】
用語「ヘリカルエレメント」及び「ヘリックス」を、本発明に関連して、同義語として使用する。それらは、4〜12のアミノ酸、好ましくは6〜12の、最も好ましくは8、9、又は10のアミノ酸のアミノ酸配列に関連し、ヘリックスを形成できる。
【0044】
本発明に関連する「最適化」により、タンパク質の一次構造における変化を意味し、それにより、このタンパク質中でヘリカルエレメントを形成する可能性が増加し、又は、それにより、ヘリカルエレメントがこのタンパク質中に作製され、このタンパク質の生物物理学的特性、特にそのフォールディング効率、安定性、溶解性、及び凝集傾向(最適化により低下する)を改善することを目的とする。タンパク質の一次構造を変化させる好ましい方法は、そのアミノ酸配列を突然変異させること、即ち、少なくとも1つのアミノ酸の交換(置換)、除去(欠失)、又は導入(挿入)である。これは、通常、このアミノ酸配列をコードするデオキシリボ核酸(DNA)を対応して変化させ、続いて、この(組換え)DNAを宿主細胞中で発現させることにより行う。当業者は、これを行うために当業者に利用可能な標準的方法を有する。
【0045】
別の局面において、本発明は、天然の又は最適化されたヘリカルエレメントの移植が行われることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を調製するための生物工学的方法に関する。好ましくは、この移植は、最適なヘリカルエレメントを有さない、又は、ほとんど有さないドメイン中に行われる。移植とは、これに関連し、4〜12のアミノ酸のアミノ酸配列の、同じ長さの別のアミノ酸配列による置換を意味する。特に好ましい実施態様において、1つ又は複数のヘリカルエレメントが、少なくとも1つの定常ドメインCL、CH2、及び/又はCH3から、少なくとも1つのCH1定常ドメイン及び/又は可変ドメイン(例、VL又はVH)に移される。
【0046】
別の局面において、本発明は、Igドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸が、ヘリックスの形成の確率を増加させる別のアミノ酸により置換されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性を改善する方法に関する。形成の確率は、好ましくは、アルゴリズム、特にAGADIRアルゴリズムを使用して算出される。好ましくは、交換されるアミノ酸は、特にA型とB型又はE型とF型の2つのβプリーツシート鎖間の領域中にある。置換されるアミノ酸は、ヘリカル構造を既に有する領域中にありうる。既存のヘリカルエレメントにおけるアミノ酸交換の目的は、このエレメントのヘリックス形成の確率を増加させることである。ヘリックス形成は、例えば、Igドメインにおいて置換されるべきアミノ酸がプロリン又はグリシンである場合、好ましくは、それが先行するβプリーツシート鎖の後の少なくとも第2の位置(i→i+2)に、又は、次のβプリーツシーツ鎖の前の最大で最後から2番目の位置(i→i−2)に位置付けられる場合に増加しうる。プロリン又はグリシンは、プロリンでもグリシンでもないアミノ酸により、好ましくは、アラニンにより置換される。別の可能性は、荷電側鎖を有するアミノ酸を導入することによる塩橋の導入であり、反対荷電の側鎖を有するアミノ酸から(i→i+3)、(i→i+4)、又は(i→i+5)の間隔であるようにする。所望の場合、反対荷電の側鎖を有する少なくとも2つのアミノ酸が挿入され、置換されたアミノ酸の間の間隔を選択し、側鎖が塩橋を形成できるようにする。好ましい実施態様において、交換されるアミノ酸は、2(i→i+3)、3(i→i+4)、又はそれ以上のアミノ酸により互いに分離される。生理学的条件下で負荷電している側鎖を伴う、使用されうるアミノ酸の例は、グルタミン酸又はアスパラギン酸を含み、一方、アルギニン、リジン、又はヒスチジンは、これらの条件下で正荷電している側鎖を有する。好ましい実施態様において、アルギニン、リジン、又はヒスチジンが挿入される又は場合により既に存在している位置は、グルタミン酸又はアスパラギン酸が挿入される又は場合により既に存在している位置よりも、C末端に近い。また、二重塩橋を挿入でき、それにおいて配列は生成され、ここで3つのアミノ酸が位置i及び、i+3、i+4又はi+5、ならびにi+7、i+8又はi+9に位置付けられ、ここで位置i及び、i+7、i+8又はi+9のアミノ酸は同じ荷電の側鎖を有するが、しかし、位置i+3、i+4又はi+5のアミノ酸は反対荷電を有する。この目的のために、3つの対応するアミノ酸を突然変異により挿入でき、恐らくは、対応するアミノ酸が開始配列中に既に存在する場合にはさらに少ないアミノ酸を挿入してよい。この種類の二重塩橋において、アスパラギン酸、グルタミン酸、又はアルギニンは、好ましくは、中央の位置i+3、i+4又はi+5中に存在する。好ましい実施態様は、交換後、タンパク質が、ヒトIgG CH2ドメイン(配列番号5、配列番号14、又は配列番号15)からの配列KPKDTLMISR(配列番号8)又はそれから最適化されたヘリックス配列KAEDTLHISR(配列番号9)、マウスカッパCLドメイン(配列番号1)からの配列TKDEYERH(配列番号10)、ヒトラムダCLドメイン(配列番号13)からの配列TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はヒトカッパCLドメイン(配列番号12)からの配列SKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。
【0047】
別の局面において、本発明は、最適なヘリカルエレメントを有さない、又は、ほとんど有さないドメイン(例えば、ベータ2ミクログロブリンのIgドメイン(配列番号3)、可変ドメイン(VL、VH)、又は免疫グロブリンの定常ドメインCH1など)中への適したヘリカルエレメントの移植に関する。移植されるエレメントは、例えば、免疫グロブリンの定常ドメインCL、CH2、もしくはCH3に起因しうる、又は、本発明の方法により最適化されたそのようなエレメントのバリアントでありうる。移植は、好ましくは、4〜12の連続アミノ酸(好ましくは約10のアミノ酸)が同じ又はより大きい長さのアミノ酸配列により置換され、挿入アミノ酸配列が、置換配列よりも高いヘリックス形成の確率を有する方法を使用して行われる。好ましい実施態様において、挿入配列は、免疫グロブリンのCL又はCHドメインのβプリーツシート鎖AとB及び/又はEとFの間の領域からのヘリカルエレメントである。適したヘリカルエレメントは、例えば、ヒトCH2ドメイン(配列番号5、配列番号14、又は配列番号15)からの配列KPKDTLMISR(配列番号8)又はそれから最適化されたKAEDTLHISR配列(配列番号9)、マウスカッパCLドメイン(配列番号1)からの配列TKDEYERH(配列番号10)、ヒトCLドメイン(配列番号13)からの配列TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はヒトカッパCLドメイン(配列番号12)からの配列SKADYEKHK(配列番号11)を有する。
【0048】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質を調製するための方法に関し、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性を改善するための先に記載した方法を、この種類のタンパク質に適用し、このようにして得られた改変タンパク質を宿主細胞において発現させることを特徴とする。宿主細胞における組換えDNAの発現によるタンパク質の調製方法、及び、所望の発現タンパク質(目的のタンパク質)の続く精製の方法は、当業者に十分に周知である。特に、当業者は、真核生物の宿主細胞、好ましくは哺乳動物細胞、最も好ましくはチャイニーズハムスターの卵巣からの細胞株(Cricetulus griseus、CHO細胞)又はマウスミエローマ細胞からの細胞株(例、NS0細胞)において免疫グロブリンを発現させる方法に精通しているであろう。特定の抗体フォーマット、例えばドメイン抗体などを、有利に、原核生物の宿主細胞(例、E. coli)又は酵母細胞において産生してもよい。
【0049】
別の局面において、本発明は、先に記載される本発明の方法により産生される、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質に関する。好ましくは、それは抗体、特に、2つの軽鎖及び2つの重鎖を含む完全免疫グロブリンである。
【0050】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及び少なくとも1つの可変ドメイン(VL又はVH)を有するタンパク質に関し、それはこの可変ドメインにおいてヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。天然の可変ドメインは、この種類のヘリカルエレメントを含まず、そのようなエレメントの導入によりそれらの生物物理学的特性を改善することができる。一実施態様において、この種類の可変ドメインは、免疫グロブリンの可変ドメインにおいて天然に存在する同じ長さの任意のアミノ酸配列よりも高いヘリックス形成の確率を伴うヘリカルエレメントを含む。この種類の天然の可変ドメインについてのレファレンスは、NCBI GenBankのデータベース中に受入番号AAK19936(IgG1 VH)及びAAK62672(IgG1 VL)の下で寄託されている可変ドメインでありうる。好ましい実施態様において、本発明の可変ドメインは、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含む。特に好ましくは、ヘリカルエレメントは、プリーツシート鎖EとFの間に位置付けられる。
【0051】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH2型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質に関し、それは、この定常ドメインにおいて、ヒトにおいて天然に存在するCH2ドメインのヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。配列番号5は、そのようなドメインのためのレファレンスとして役立ちうる。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、配列TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むCH2ドメインを含む。好ましくは、ヘリカルエレメントは、CH2ドメインのプリーツシート鎖AとB及び/又はEとFの間に位置付けられる。
【0052】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH1型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質に関し、それは、この定常ドメインにおいて、ヒトにおいて天然に存在するCH1ドメインのヘリカルエレメント又は同じ長さの任意のアミノ酸配列よりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又は配列SKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むCH1ドメインを含む。好ましくは、ヘリカルエレメントは、CH1ドメインのプリーツシート鎖AとB及び/又はEとFの間に位置付けられる。
【0053】
別の局面において、本発明は、Igドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメント、好ましくは配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを有する改変されたβ2ミクログロブリンに関する。
【0054】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質に関し、それがIgドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメントを含み、それは、配列 配列番号1、配列番号12、もしくは配列番号13(CL WT)又は配列番号5、配列番号14、もしくは配列番号15(CH2 WT)の1つにおいて含まれるヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有する。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KAEDTLHISR(配列番号9)を有するヘリカルエレメントを含む。
【0055】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質に関し、配列 配列番号4、配列番号6、及び/又は配列番号9を含む。
【0056】
別の局面において、本発明は、先に記載される、治療又は診断法における医学的使用のためのタンパク質に関する。Igフォールディングパターンを有する抗体及び他のタンパク質の医学的使用が、当業者に公知であり、多くのそのような物質が薬物として認可されている(例、リツキシマブ、トラスツズマブ、エタネルセプト)。特に、当業者は、そのような物質の製剤を調製し(例えば、生理学的緩衝水溶液)、適応される場合にはこの種類の薬物を投与する(例えば、静脈内注射又は注入)ための方法に精通している。
【0057】
別の局面において、本発明は、天然ヘリカルエレメントが最適化されていることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変するための生物工学的方法に関する。
【0058】
別の局面において、本発明は、天然の又は最適化されたヘリカルエレメントの移植を、好ましくは、ヘリカルエレメントを有さない又はそれほど適さないヘリカルエレメントを有するドメインにおいて行うことを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変する生物工学的方法に関する。
【0059】
以下は、本発明に関連して重要であるさらなる定義及び説明である:
【0060】
本発明のタンパク質は、好ましくは、宿主細胞における組換え発現により産生される。宿主細胞中に導入される発現ベクターを使用する。発現ベクターは「目的の遺伝子」を含み、それは、目的の産物をコードする任意の長さのヌクレオチド配列を含む。遺伝子産物又は「目的の産物」は、一般的に、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、又はそのフラグメントもしくは派生物である。しかし、それはRNA又はアンチセンスRNAでもよい。目的の遺伝子は、その全長で、短くなった形態で、融合遺伝子として又は標識された遺伝子として存在しうる。それは、ゲノムDNA又は好ましくはcDNAもしくは対応するフラグメントもしくは融合物でありうる。目的の遺伝子は天然遺伝子配列でありうる、又は、それは突然変異もしくは別の方法で改変されうる。そのような改変は、特定の宿主細胞に適応するためのコドン最適化及びヒト化を含む。目的の遺伝子は、例えば、分泌型、細胞質内型、核局在型、膜結合型、又は細胞表面結合型ポリペプチドをコードしうる。
【0061】
用語「核酸」、「ヌクレオチド配列」、又は「核酸配列」は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、及びそのフラグメントならびに単鎖又は二重鎖として生じ、遺伝子のコード鎖又は非コード鎖を表わすことができるゲノム又は合成由来のDNAもしくはRNAを示す。核酸配列は、標準的技術、例えば部位特異的突然変異誘発、PCR媒介性の突然変異誘発、又はオリゴヌクレオチド配列からのデノボ合成などを使用して改変してよい。
【0062】
本発明に関連する生物薬剤学的な意義を伴うタンパク質/ポリペプチドは、例えば、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又は免疫グロブリン及び他のタンパク質(例、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバー、及びその派生物又はフラグメント)を含む。一般的に、これらは、アゴニストもしくはアンタゴニスト及び/又は治療的用途もしくは診断的用途を有する物質である。
【0063】
用語「ポリペプチド」又は「タンパク質」をアミノ酸配列又はタンパク質について使用し、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。この用語は、また、反応、例えばグリコシル化、リン酸化、アセチル化、又はタンパク質プロセシングなどにより翻訳後改変されたタンパク質を含む。ポリペプチドの構造を、例えば、アミノ酸の置換、欠失、又は挿入及び他のタンパク質(例えば、免疫グロブリンのFc部分など)との融合により、その生物学的活性を保持しながら改変してよい。また、ポリペプチドは多量体化し、ホモマー及びヘテロマーを形成しうる。
【0064】
発現ベクターは、理論的には、当技術分野において公知の従来方法により調製してよい。また、ベクターの機能的成分(例、適したプロモーター、エンハンサー、ターミネーションシグナル及びポリアデニル化シグナル、抗生物質耐性遺伝子、選択マーカー、複製開始点、及びスプライシングシグナル)に関する記載がある。従来のクローニングベクターを使用してそれらを産生してよい(例、プラスミド、バクテリオファージ、ファージミド、コスミド、又はウイルスベクター、例えばバキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス及び単純ヘルペスウイルス、ならびに合成もしくは人工染色体又はミニ染色体など)。真核生物の発現ベクターは、典型的には、原核生物の配列、例えば、細菌中でのベクターの複製及び選択を可能にする複製起点及び抗生物質耐性遺伝子なども含む。ポリヌクレオチド配列の導入のための複数のクローニング部位を含む、多くの真核生物の発現ベクターが公知であり、一部を、種々の企業、例えば、Stratagene, La Jolla(CA, USA);Invitrogen(Carlsbad, CA, USA);Promega(Madison, WI, USA)又はBD Biosciences Clontech(Palo Alto, CA, USA)などから商業的に入手してよい。
【0065】
真核生物又は原核生物の宿主細胞を、適した発現ベクターを用いてトランスフェクト又は形質転換する。酵母細胞及び哺乳動物細胞は、好ましくは、真核生物の宿主細胞として使用される。前者は、特に、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)、サッカロミセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、及びハンゼヌラ(Hansenula)であり、後者は、特に、げっ歯類細胞、例えば、マウス、ラット、及びハムスター細胞株などである。細菌、特に大腸菌(Escherichia coli)、バシラス・サブティリス(Bacillus subtilis)、シュードモナス(Pseudomonas)(P.エルギノーサ(P. aeruginosa)、P.プチダ(P. putida))、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、サルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)、及びアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)が、好ましくは、原核生物の宿主細胞として使用され、その内、大腸菌が特に好ましい。本発明の発現ベクターを用いた対応する細胞のトランスフェクション又は形質転換の成功は、形質転換細胞、遺伝子改変細胞、組換え細胞、又はトランスジェニック細胞をもたらし、それらも本発明の対象である。
【0066】
本発明の目的のための好ましい真核生物の宿主細胞は、ハムスター細胞、例えばBHK21、BHK TK−、CHO、CHO−K1、CHO−DUKX、CHO−DUKX B1、及びCHO−DG44細胞又はこれらの細胞株の派生体/子孫などである。特に好ましくは、CHO−DG44細胞、CHO−DUKX細胞、CHO−K1細胞、及びBHK21細胞、特にCHO−DG44細胞及びCHO−DUKX細胞である。また、適しているのは、マウスからのミエローマ細胞、好ましくはNS0細胞及びSp2/0細胞ならびにこれらの細胞株の派生体/子孫である。しかし、これらの細胞株の派生体及び子孫、他の哺乳動物細胞(制限はされないが、ヒト、マウス、ラット、サル、げっ歯類の細胞株を含む)、真核細胞(制限はされないが、酵母、昆虫、トリ、及び植物の細胞を含む)も宿主細胞として生物薬剤学的タンパク質の産生のために使用してよい。
【0067】
ポリヌクレオチド又は本発明の発現ベクターの1つを用いた真核生物の宿主細胞のトランスフェクションを、従来の方法により行う。トランスフェクションの適した方法は、例えば、リポソーム媒介性トランスフェクション、リン酸カルシウム共沈殿、エレクトロポレーション、ポリカチオン(例、DEAEデキストラン)媒介性トランスフェクション、プロトプラスト融合、マイクロインジェクション、及びウイルス感染を含む。
【0068】
ポリヌクレオチド又は本発明の発現ベクターの1つを用いた原核生物の宿主細胞の形質転換を、従来の方法を使用して行う。適した方法は、例えば、エレクトロポレーション、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化マンガン、ポリエチレングリコール、又はジメチルスルホキシドを用いた細胞の化学処理、バクテリオファージ形質導入を含む。
【0069】
本発明に従い、安定なトランスフェクションが好ましくは行われ、それにおいて、コンストラクトが、宿主細胞のゲノム中又は人工染色体/ミニ染色体中のいずれかに組込まれる、又は、エピソームとして宿主細胞中に安定に含まれる。問題になっている宿主細胞において異種遺伝子の最適なトランスフェクション頻度及び発現を与えるトランスフェクション方法が好ましい。
【0070】
宿主細胞が、好ましくは、樹立され、順応され、無血清条件下で、場合により、動物タンパク質/ペプチドを含まない培地中で培養される。商業的に入手可能な培地の例は、ハムF12(Sigma, Deisenhofen, DE)、RPMI−1640(Sigma)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Sigma)、最小必須培地(MEM;Sigma)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM;Sigma)、CD−CHO(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)、CHO−S−SFMII(Invitrogen)、無血清CHO培地(Sigma)、無タンパク質CHO培地(Sigma)、YM(Sigma)、YPD(Invitrogen)、及び合成「ドロップアウト」酵母培地(Sigma)を含む。これらの培地の各々には、場合により、種々の化合物、例えば、ホルモン及び/又は他の増殖因子(例、インスリン、トランスフェリン、表皮増殖因子、インスリン様増殖因子)、塩(例、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸)、バッファー(例、HEPES)、ヌクレオシド(例、アデノシン、チミジン)、グルタミン、グルコース又は他の等価の栄養分、抗生物質、及び/又は微量元素を添加してよい。無血清培地が本発明に従って好ましいが、宿主細胞は、適量の血清を混合した培地を使用して培養してもよい。
【0071】
原核生物の宿主細胞の培養のために、商業的にも利用可能な多数の公知の培地が存在する。例は、LB、TB、M9、SOC、YT、及びNZ培地(Sigma)を含む。
【0072】
1つ又は複数の選択可能なマーカー遺伝子を発現する遺伝子改変細胞の選択のために、1つ又は複数の適した選択薬剤を培地に加える、又は、増殖に必須の添加剤(例えば、アミノ酸又はヌクレオチド)を欠く適した「ドロップアウト(drop-out)」培地を使用する。
【0073】
遺伝子発現及び高産生宿主細胞の選択:
用語「遺伝子発現」又は「発現」は、宿主細胞における異種遺伝子配列の転写及び/又は翻訳に関する。発現率は、一般的に、宿主細胞中に存在する対応するmRNAの量に基づき、又は、目的の遺伝子によりコードされる遺伝子産物の産生量に基づき決定することができる。選択されたヌクレオチド配列の転写により産生されるmRNAの量は、例えば、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNA保護、細胞RNAのin situハイブリダイゼーション、又はPCR法(例、定量的PCR)により決定することができる。選択されたヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質は、種々の方法、例えば、ELISA、プロテインA HPLC、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降、タンパク質の生物学的活性の検出、タンパク質の免疫染色、それに続くFACS分析又は蛍光顕微鏡法、FACS分析又は蛍光顕微鏡による蛍光タンパク質の直接検出により決定することもできる。
【0074】
別の局面において、本発明のタンパク質は、産生細胞が増殖し、目的のコード遺伝子産物を産生するために使用される方法において産生される。このために、選択された高産生細胞を、好ましくは無血清培養液において、好ましくは浮遊培養において、目的の遺伝子の発現を可能にする条件下で培養する。目的のタンパク質/産物は、好ましくは、分泌された遺伝子産物として、細胞培養液から得られる。タンパク質が分泌シグナルなしで発現される場合、しかし、遺伝子産物は細胞ライセートから単離することもできる。他の組換えタンパク質及び宿主細胞タンパク質を実質的に含まない純粋で均質な産物を得るために、従来の精製手順を行う。最初に、細胞及び細胞残屑を培養液又はライセートから除去する。所望の遺伝子産物を、次に、混入する可溶性タンパク質、ポリペプチド及び核酸から、例えば、免疫親和性及びイオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC又はセファデックスでのクロマトグラフィー、シリカ又は陽イオン交換樹脂(例えばDEAEなど)により除くことができる。組換え宿主細胞により発現される異種タンパク質の精製をもたらす方法は、当業者に公知であり、文献において記載されている。
【0075】
本発明を、本明細書において、例として一部の実施態様を参照することにより記載する。
【0076】
実施例
略語
AFM:原子間力顕微鏡法
β2m:β2ミクログロブリン
bp:塩基対
CD:円二色性
CH2:重鎖Igの第2定常ドメイン
CHO:チャイニーズハムスター卵巣
CL:軽鎖Igの定常ドメイン
DHFR:ジヒドロ葉酸還元酵素
E. coli:大腸菌
EDTA:エチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸
ELISA:酵素結合免疫吸着検定法
FUV:遠紫外線
GdmCl:塩酸グアニジン
GSH:グルタチオン
GSSG:グルタチオンジスルフィド
HSQC:異核種単一量子コヒーレンス法
HC:重鎖
HT:ヒポキサンチン/チミジン
Ig:免疫グロブリン
IgG:免疫グロブリンG
kb:キロベース
LC:軽鎖
mAk:モノクローナル抗体
MD:分子動力学
MTX:メトトレキサート
NMR:核磁気共鳴
NPT:ネオマイシン−ホスホトランスフェラーゼ
NUV:近紫外線
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
SEAP:分泌型アルカリホスファターゼ
WT:野生型
【0077】
方法
細菌中でのタンパク質産生及び精製
タンパク質の発現のために、組換えE. coli細菌BL21 DE3(Stratagene, CA, USA)を37℃のLB選択培地中で振盪フラスコにおいて300rpmで一晩培養する。NMR測定のためのアイソトープ標識タンパク質を産生するために、組換え細菌を、単一窒素源として15N塩化アンモニウムを、又は、場合により、追加で単一炭素源として13Cグルコースを伴うM9最少培地(Sigma)中で培養する。
【0078】
次に、「封入体」を単離する。このために、細菌を遠心により除去し、100mM Tris/HCl(pH 7.5)、10mM EDTA、100mM NaCl、プロテアーゼインヒビター中に再懸濁させる。細胞をフレンチプレス中で溶解させ、2% v/v Triton X−100と混合し、4℃で30分間撹拌する。遠心(20,000rpm、30分間)により、「封入体」をペレットとして単離し、次に、100mM Tris/HCl(pH 7.5)、10mM EDTA、100mM NaCl、プロテアーゼインヒビター中で2回再懸濁させ、再び遠心(20,000rpm、30分間)して捨てた。タンパク質β2m WT(配列番号3)、β2mからCL(配列番号4)、CH2 WT(配列番号5)、及びCH2 Helix1突然変異体(配列番号6)については、封入体のペレットを次に100mM Tris/HCl(pH 8.0)、10mM EDTA、8M尿素に再懸濁し、100mM Tris/HCl(pH 8.0)、10mM EDTA、5M尿素中で平衡化させたQセファロースカラムに加えた。全てのタンパク質がフロースルー中にあり、4℃の250mM Tris/HCl(pH 8.0)、100mMアルギニン、10mM EDTA、1mM GSSG、0.5mM GSH中での透析により一晩リフォールディングさせる。次に、タンパク質を濃縮させ、最終的に、PBS中で平衡化させたSuperdex75pg ゲルろ過カラムを通して精製する。
【0079】
N末端Hisタグを含むタンパク質CL WT(配列番号1)、CL P35A(配列番号7)、及びCLからβ2m(配列番号2)を精製するために、封入体を100mMリン酸ナトリウム(pH 7.5)、6M GdmCl、20mM β-メルカプトエタノール中で2時間、20℃で可溶化させる。不溶性成分を次に遠心(48000g、25分間、20℃)により除く。上清を、50mMリン酸ナトリウム(pH7.5)、4M GdmCl中で5倍希釈し、ニッケルキレートカラム(Ni-NTA、Qiagen)に加える。5カラム容積での洗浄後、溶出を50mMリン酸ナトリウム(pH 4)、4M GdmClで行う。透折によるリフォールディングを、4℃の250mM Tris/HCl(pH 8.0)、5mM EDTA、1mM酸化グルタチオン中で一晩行う。凝集物を遠心(48000g、25分間、4℃)により除く。N末端Hisタグを除去するために、0.25単位のトロンビン(Novagen)を、4℃で16時間、タンパク質1ミリグラム当たりに加える。さらなる遠心後、タンパク質を、最終的に、20mMリン酸ナトリウム(pH 7.5)、100mM NaCl、1mM EDTA中で平衡化したSuperdex75pgゲルろ過カラムを通して精製する。
【0080】
CDスペクトロスコピー
CD測定をJascoJ−715分光偏光計で行う。測定を20℃のPBS中で行う。
【0081】
遠UV CDスペクトルを、0.2mmの石英ディッシュ中で、タンパク質濃度50μMで195〜250nmから測定し、近UV CDスペクトルを、5mmの石英ディッシュ中で、タンパク質濃度50〜100μMで250〜320nmから測定する。測定を20℃のPBS中で行う。スペクトルを各場合において16倍に蓄積し、平均し、バッファー補正する。温度遷移をそれぞれ218nm(CH2 WT/突然変異体)又は205nm(CL、β2m WT/突然変異体)で、10μMのタンパク質濃度のPBS中で、1mm石英ディッシュにおいて20℃/時の加熱速度で測定する。
【0082】
AFM測定
原線維化実験のために、PBS(1:1)中の100μMタンパク質溶液を、バッファーA(25mM酢酸ナトリウム、25mMリン酸ナトリウム、pH 1.5又は2.5)と混合する。最終pH値は、このように、それぞれpH 1.5又はpH 3.0である。溶液を、7日間、穏やかに傾けながら37℃でインキュベートし、次に20μLの溶液を新しい雲母表面に加えて、滅菌ろ過水で3回洗浄し、次にAFM中で分析する。スキャン速度1.5μm/分のAFM接触モードを使用する。測定を、Digital Instruments Multimode Scanning Probe顕微鏡及びDNP−S20チップを使用して行う。「シード(Seeds)」を、10分間、超音波槽中でインキュベートすることによりベータ2ミクログロブリン原線維(pH 1.5)から生成する。「シーディング(Seeding)」実験のために、2μlの「シード」を100μlの混合物に加える。
【0083】
NMR測定
特記なき場合、全てのスペクトルを25℃で、Bruker DMX600、DMX750、及びAVANCE900分光計において測定する。割当を、標準的な三重共鳴スペクトルを使用して試みる。リフォールディング実験及びリアルタイムHSQC測定のために、CLを、2M塩化グアニジウム中でアンフォールドさせ、次に、氷冷PBSで1:10希釈する。フォールディングプロセス中でのHSQC測定を2℃で14分毎に行い、SPARKYを使用して分析する。
【0084】
遺伝子合成
野生型CH2ドメイン及びCLドメインについての配列領域を、PCRにより、ヒトIgG1抗体遺伝子又はマウス抗体MAK33のカッパ鎖から増幅させる(Augustine, J. G. et al., J. Biol. Chem. 276 (5), 3287-3294, 2001)。P35A突然変異を、CLドメイン中に、変異プラマーを使用したPCR突然変異誘発により挿入する。E. coli中での発現のために、ヘリックス最適化したCH2突然変異体、β2m−WT、及びCLヘリックスを移植したβ2m突然変異体のCH2ドメインについての配列領域をデノボで合成する(www.geneart.com)。CHO−DG44細胞中での完全抗体の発現のために、ヘリックス突然変異を、変異プライマーを使用したPCR突然変異誘発により、IgG1抗体遺伝子の野生型CH2ドメイン中に挿入する。
【0085】
真核細胞の培養及びトランスフェクション
細胞CHO−DG44/dhfr-/-を、細胞培養フラスコにおいて、ヒポキサンチン及びチミジン(HT)(Invitrogen GmbH, Karlsruhe, DE)を添加した無血清CHO−S−SFMII培地中で浮遊細胞として、37℃で、加湿空気及び5% CO2中で持続的に培養する。細胞数及び生存を、Cedex(Innovatis)を用いて決定し、細胞を次に濃度1〜3×105個/mLで播種し、2〜3日毎に継代する。
【0086】
CHO−DG44のトランスフェクションのために、Lipofectamine Plus Reagent(Invitrogen)を使用する。各トランスフェクションバッチについて、合計1.0〜1.1μgのプラスミドDNA、4μLのLipofectamine、及び6μLのPlus試薬を製造者の指示に従って混合し、容積200μL中で、0.8mlのHT添加CHO−S−SFMII培地中の6×105個の細胞に加える。細胞インキュベーター中での37℃で3時間のインキュベーション後、2mLのHT添加CHO−S−SFMII培地を加える。48時間の培養期間後、トランスフェクション混合物を回収するか(一過性トランスフェクション)、又は、選択に供する。1つの発現ベクターがDHFR選択マーカーを含み、他のベクターがNPT選択マーカーを含むため、トランスフェクションから2日後、コトランスフェクトした細胞を、DHFR及びNPTベースの選択のためにヒポキサンチン及びチミジンを加えていないCHO−S−SFMII培地中に移し、G418(Invitrogen)も培地中に濃度400μg/mLで加える。
【0087】
組込まれた異種遺伝子のDHFRベースの遺伝子増幅を、HT不含CHO−S−SFMII培地への濃度5〜2000nMでの選択薬剤MTX(Sigma)の添加により行う。
【0088】
発現ベクター
CHO−DG44中での発現のために、pAD−CMVベクターに基づく真核生物の発現ベクターを使用し(Werner, R. G. et al., Arzneimittel-Forschung/Drug Research 48, 870-880, 1998)、CMVエンハンサー/CMVプロモーターの組み合わせを介した異種遺伝子の発現を媒介する。第1ベクターpBI−26は、増幅可能な選択マーカーとして作用するdhfrミニ遺伝子を含む。第2ベクターpBI−49において、dhfrミニ遺伝子をNPT遺伝子により置換する。この目的のために、NPT選択マーカー(SV40初期プロモーター及びTKポリアデニル化シグナルを含む)を、市販のプラスミドpBK−CMV(Stratagene, La Jolla, CA, USA)から1640bpのBsu36Iフラグメントとして単離した。Klenow DNAポリメラーゼを用いたフラグメントの平滑化(topping up)反応後、フラグメントを第1ベクターの3750bpのBsu36I/StuIフラグメント(同様にKlenow DNAポリメラーゼを用いて処理した)と連結した。次に、NPT遺伝子を改変した。それはNPTバリアントF240I(Phe240Ile)であり、そのクローニングはWO2004/050884において記載されている。
【0089】
大腸菌BL21 DE3(Stratagene, CA, USA)中での発現のために、ベクターpET28a(Novagen)を使用する。
【0090】
ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)
安定的にトランスフェクトされたCHO−DG44細胞の上清における発現抗体の定量化を、標準的手順に従ってELISAを使用し、一方ではヤギ抗ヒトIgG Fcフラグメント(Dianova, Hamburg, DE)を、他方ではAP抱合ヤギ抗ヒトカッパ軽鎖抗体(Sigma)を使用して行う。使用したスタンダードは、各場合における発現抗体と同じアイソタイプの精製抗体である。
【0091】
SEAPアッセイ
一過性にトランスフェクトされたCHO−DG44細胞からの培養上清中のSEAP力価を、製造者(Roche Diagnostics GmbH)の操作指示に従ってSEAP Reporter Gene Assaysを使用して定量化する。
【0092】
ThermoFluor(登録商標)方法
最適化されたタンパク質/免疫グロブリンの熱安定性を分析するために、ThermoFluor(登録商標)方法に基づくqPCRシステム(Mx3005PTM; Stratagene)を使用する。ソルバトクロミック/環境感受性の蛍光色素が、タンパク質の熱安定性におけるわずかな変化の指標として使用される。この蛍光色素は、水溶液中で小さな量子収率を有し、温度上昇の結果としてアンフォールドするタンパク質の疎水性の非天然構造と相互作用する。既にアンフォールドしたタンパク質ドメインと色素の相互作用は、検出された蛍光における有意な増加をもたらす(Cummings M. D. et al., Journal of Biomolecular Screening 854 - 863, 2006)。
【0093】
25〜95℃の温度範囲における1分当たり1℃の間隔でのタンパク質プローブの測定が容積20μL中で起こり、2μMタンパク質及び4xSyproOrange(5000xSyproOrange原液から調製;Invitrogen)を、各場合において試験すべきバッファー中で使用する。
【0094】
実施例1:免疫グロブリンドメインの生物物理学的特性を改善するための手法
第一工程は、最適化の標的として選択された免疫グロブリンドメイン中にヘリックスが存在しない場合、ヘリカルエレメント又は対応するループを同定することである。抗体の定常ドメインの場合、ヘリックスは、例えば、βプリーツシート鎖AとB及びEとFの間に常に位置付けられる(図4)。これらの領域の同定後、最適化を以下の計画に従って行う:
【0095】
1.全てのプロリン基及び/又はグリシン基を、別のアミノ酸、好ましくはアラニンにより置換する(優先すべきポイント2との不一致が存在しない場合)。置換すべき基が、先行するβプリーツシート鎖の後の最初の基又は続くβプリーツシート鎖の前の最後の基ではない場合にだけ置換を行う。
2.次に、ヘリックスを追加の塩橋の挿入により安定化する。これは、既存のアミノ酸を、異なる荷電の荷電側鎖を有するアミノ酸で置換することにより行う。アルギニン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸、又はグルタミン酸の任意の組み合わせを使用してよい。置換すべき基を、2、3、又は4個のアミノ酸により分離させ、ヘリックス中での塩橋の形成を確実にしなければならず、挿入された荷電基が、例えば、ナンバリングi及びi+3、i及びi+4、又はi及びi+5を有するようにする。上記の基の全ての順列が可能である。好ましくは、しかし、アルギニン、リジン、又はヒスチジンが、アスパラギン酸又はグルタミン酸よりもC末端により近く挿入される。二重塩橋も、それらがヘリックス長と一致し、指定された全ての他の点例えば、基i、及びi+3、i+4又はi+5、及びi+7、i+8又はi+9が、先に記載した通りに置換される場合、理論的に可能である。基i、及びi+7、i+8又はi+9は、各々が同じ荷電を有し、一方、基i+3、i+4又はi+5は反対荷電を有する。位置i+3、i+4又はi+5では、アスパラギン酸、グルタミン酸、又はアルギニンを好ましくは使用すべきである。この工程において、タンパク質の表面上に位置付けられる溶媒暴露基だけを置換すべきである。
3.ポイント1及び/又は2に記載される最適化を受けない全ての残りの基を、αヘリックスの形成の確率の増加をもたらすアミノ酸により置換する。コンピューターアルゴリズムAgadir(Internet ad-dress: http://www.embl.de/Services/serrano/agadir/ agadir-start.html)又はαヘリックスの形成の確率を予測するための任意の他のアルゴリズムが、基礎を形成する。この工程において、タンパク質の表面上に位置付けられる溶媒暴露基だけを置換すべきである。
一般的に、見出されるべきヘリカルエレメントが存在しない抗体の可変ドメイン及び/又は他の抗体のドメイン及び/又は他の免疫グロブリンドメインについて、対応するループを、最初に、抗体の定常ドメイン、好ましくは最適化すべき分子が起因する同じ生物のIgG1サブクラスのCLドメインからのヘリックスにより置換すべきである。次に、最適化を上の手順に従って行う。
【0096】
実施例2:CLドメインのタンパク質フォールディングの研究
抗体ドメインのフォールディング経路の重要な決定基を確かめるために、高分解能構造研究を、マウスMAK33 CLドメイン及びスポット突然変異体(CL−P35A)について行う。タンパク質CL WT(配列番号1)及びCL−P135A(配列番号7)をE. coli中で組換え産生させる。CL WT中の最初の4つのN末端アミノ酸の各々は、発現ベクターpET28a中への選ばれたクローニング戦略に由来し、CLドメインにおいて天然に存在しない。NMRスペクトロスコピーを、変性剤GdmCl中でのアンフォールディング後、リアルタイムに低温でCLドメインのフォールディングをモニターするために使用できる(図5及び6)。鎖AとBの間及び鎖EとFの間の2つの短いヘリカルエレメントが、主なフォールディング中間体において既に完全に構造化されていることが見出される(図5及び6)。このように、それらが、これら及び他の抗体ドメインのフォールディングプロセスにおいて重要な役割を果たすことを仮定することができる。CLドメインをフォールドする速度決定工程は、その前にフォールディング中間体が集合され、プロリン基35のトランスからシスへの異性化である。従って、この基はアラニンについて交換され、それは常にトランスで存在するはずである。この方法では、フォールディング中間体を平衡状態で安定化させることができる。それに関するNMR研究によって、WT−CLドメインに関する動態学的研究が確認される:2つの短いヘリックスは、CLドメイン中の完全に構造化されたエレメントだけである。
【0097】
実施例3:ヘリカルエレメントの移植
CH1ドメイン(わずかに顕著なヘリックスだけを有する)及び可変ドメイン(ヘリックスを有さない)中への、特に、抗体の定常ドメインCL、CH2、及びCH3からのヘリカルエレメントの移入が、1つの可能なアプローチである。ヘリックスの追加の又は代わりの最適化のために、例えば、ヘリックス内に追加の塩橋を用い、ヘリックス破壊剤(プロリン基又はグリシン基)を除くことが可能である。このアプローチでの生存を、マウスIgG及びベータ2ミクログロブリンのカッパ軽鎖のCLドメインに関する試験により実証することができる。遺伝子改変により、βプリーツシート鎖AとB又はEとFを連結するCL中の2つのヘリカルエレメント(図5)を、ベータ2ミクログロブリンからの対応する非構造化領域(図2)(CLからβ2m;配列番号2)と交換する。逆に、ベータ2ミクログロブリン中の非構造化領域を、CLからの対応するヘリカルエレメント(β2mからCL;配列番号4)により置換する。タンパク質CLからβ2m及びβ2mからCLならびに、コントロールとして、野生型配列β2m(配列番号3)及びCL(配列番号1)をE. coli中で組換え産生させる。CL WT中の最初の4つのN末端アミノ酸又はCLからβ2m中の最初のN末端アミノ酸は、各場合において、発現ベクターpET28a中への選ばれたクローニング戦略に起因し、CLドメインにおいて天然で存在しない。CLは、そのヘリックス(=CLからβ2m)の非存在において、その天然構造にもはやフォールドできないのに対し、ベータ2ミクログロブリンは、CLヘリックスがベータ2ミクログロブリン配列(β2mからCL)(図7及び8を参照のこと)中に移植される場合に凝集する傾向が有意に低くなることをCDスペクトロスコピーにより示すことができる。さらに、分子力学シミュレーションによって、ベータ2ミクログロブリンタンパク質に関連してでさえ、CLヘリックスがそれ自体で構造化し、このように、実際に、頑強なフォールディングエレメントを構成することが示されている。これらの測定は、例として、抗体ドメインの構造化における必須の役割及びIgトポロジーに対するポジティブな影響の両方を示すことができる。
【0098】
実施例4:ヒトIGG1 CH2ドメインの最適化
IgG Fcフラグメント(図1)内で、CH2ドメインは安定性の点で最も弱い連結である。また、FcフラグメントはIgG抗体の一般的なプラットフォームとして見なすことができ、CH2ドメインの生物物理学的特性の最適化が、一方で、Fcフラグメントの全安定性を増加するはずであり、他方で、普遍的に適用可能である最適化を構成するはずである。
【0099】
この例について、ヒトIgG1 CH2ドメインの第1ヘリックス(図9A)が最適化のために選択される。追加の塩橋が、標的突然変異誘発によりその中に挿入される(図9B)。両方のCHドメイン、野生型(CH2 WT;配列番号5)及びHelix1突然変異体(CH2 Helix1突然変異体;配列番号6)をE. coli中で発現させる。CH2 Helix1突然変異体中の最初のN末端アミノ酸は、発現ベクターpET28a中への選ばれたクローニング戦略に由来し、CL2ドメインにおいて天然で存在しない。精製タンパク質を用いて行われた分析によって、このアプローチを使用して、二次構造及び三次構造の点で野生型ドメインから実質的に不変であるが(図10)、しかし、4〜5℃高い融点を有する(図11)CH2ドメインを生成することが可能であることが示される。また、第1ヘリックスを最適化することにより、組換えCH2ドメインのリフォールディングにおいてより高い収率を得ることができ、それは、この突然変異ドメインの最適化されたフォールディング特性を直接的に示唆する。
【0100】
実施例5:CHO細胞中での最適化された抗体の発現
CHO−DG44細胞の一過性トランスフェクションにより、最初に、ヘリックス最適化配列エレメントKAEDTLHISR(配列番号9)によるIgG1抗体遺伝子のCH2ドメイン中のヘリカルエレメントKPKDTLMISR(配列番号8)の置換が、IgG1分子の発現に影響を有するか否かを調べた。コトランスフェクションを以下のプラスミドの組み合わせを用いて行う:
a)コントロールプラスミドpBI−26/IgG1−HC及びpBI−49/IgG1−LC、CH2ドメイン中に配列領域KPKDTLMISR(配列番号8)を有するモノクローナルIgG1抗体について(=野生型配置;以下、IgG1−WTと呼ぶ)、
b)pBI−26/IgG1−HChelix1及びpBI−49/IgG1−LC、モノクローナルIgG1抗体について、それにおいて、ヒトVH2ドメイン中の第1ヘリックスが、KAEDTLHISR(配列番号9)による配列領域KPKDTLMISR(配列番号8)の置換により最適化される。
【0101】
3プールを各組み合わせについてトランスフェクトし、等モルの2つのプラスミドを各コトランスフェクションにおいて使用する。48時間後、回収し、細胞培養上清中のIgG1力価をELISAにより決定する。トランスフェクション効率における差を、SEAP発現プラスミドとのコトランスフェクション(各トランスフェクション混合物への100ngのプラスミドの添加)及び続くSEAP活性の測定により補正する。全てにおいて、2つの独立したトランスフェクションシリーズを行う。IgG1分子中のCH2ドメインのヘリックス領域における突然変異が、抗体の発現に悪影響を有さないことを示すことができる。得られた産物の量は、IgG1野生型トランスフェクト細胞の量と同等である。
【0102】
CHO−DG44細胞の安定的トランスフェクションのために、上に記載の同じプラスミドの組み合わせを用いてコトランスフェクションを行う。安定的トランスフェクト細胞の選択は、400μg/mLのG418を添加したHT不含培地中でのトランスフェクションから2日後に起こる。選択後、DHFRベースの遺伝子増幅を、100nM MTXの添加による誘導する。物質産生のために、細胞を振盪フラスコにおいて10日間のフェド−バッチ(fed-batch)方法中で増殖させる。精製は、抗体のWT又はHelix1突然変異体について同一である。プロテインA親和性クロマトグラフィー(MabSelect rProteinA, GE Healthcare)を、製造者の指示に従い、平衡化のためのリン酸バッファー(20mMリン酸ナトリウム、140mM塩化ナトリウム、pH 7.5、伝導度16.5mS/cm)及び溶出のための50mM酢酸(pH 3.3)を使用して行う。溶出は、1M Tris pH 8の添加によりpH 5.5に調整する。2つの抗体バリアントについての精製プロファイルは同等である。
【0103】
抗体の熱安定性は、ThermoFluor(登録商標)方法により決定する。CH2ドメイン中の天然ヘリカルエレメントを最適化することにより、IgG1抗体のHelix1突然変異体の熱安定性を、IgG1−WT抗体と比較し、塩基性及び酸性の両方のバッファー条件下で増加させることができる。pH 7.1のPBS中で、Helix1突然変異体のCH2ドメインは、IgG1−WTのCH2ドメインよりも8℃高い融解温度を呈する。また、100mM酢酸(pH 3.4)中では、それはさらに18℃高い。免疫グロブリンの熱安定性におけるこの有意な増加は、治療用タンパク質の生物薬剤学的調製において非常に大きな利点である。CH2ドメインの天然ヘリカルエレメントの最適化は、KAEDTLHISR(配列番号9)を用いて天然の配列領域KPKDTLMISR(配列番号8)(この配列領域は、例えば、ヒトIgG2(配列番号14)及びIgG4(配列番号15)のCH2ドメインにおいて存在する)を置換することにより、生物工学的に産生された治療用タンパク質の頑強性の有意な改善をもたらす。増加した温度安定性及びpH安定性は、治療用タンパク質の産物安全性を増加させるために、ウイルス不活化の方法工程において特に有利である。なぜなら、この工程は酸性pHで行われるからである。他の利点は、クロマトグラフィーにおける及びタンパク質製剤におけるより大きな柔軟性、より低い凝集傾向、及び改善された保存安定性である。
【技術分野】
【0001】
発明の背景
技術分野
本発明は、免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーのタンパク質の生物物理学的特性を最適化するための方法に関する。よってそれは、格別に抗体での使用に適する。しかし、それは単にこれらに制限されず、しかし、理論的には、免疫グロブリンスーパーファミリーの全てのメンバー、また、その派生物(例えばFc融合タンパク質など)に拡大できる。よって本発明は、また、この種類のタンパク質の調製方法及びそれらの医学的使用に関する。
【0002】
背景
生体分子(例えばタンパク質、ポリヌクレオチド、多糖類など)が、医薬として、診断用薬剤として、食品添加物、界面活性剤などとして、研究用試薬として、多くの他の適応のための商業的重要性をますます得ている。そのような生体分子の必要性は、通常、例えばタンパク質の場合、天然供給源から分子を単離することによっては、もはや満たすことができず、生物工学的な産生方法の使用が必要となる。
【0003】
タンパク質の生物工学的調製は、典型的には、所望のタンパク質をコードするDNAの単離、及び適した発現ベクター中へのそのクローニングで開始される。適した原核又は真核発現細胞中への組換え発現ベクターのトランスフェクション及びトランスフェクトされた組換え細胞の続く選択後、後者をバイオリアクター中で培養させ、所望のタンパク質を発現させる。次に、細胞又は培養上清を回収し、その中に含まれるタンパク質を処理し、精製する。
【0004】
抗体、特に免疫グロブリンG(IgG)サブクラスは、生物薬剤学的に産生される最も重要なタンパク質の1つである。それらは、基礎研究から、診断を通じ、一連の治療(例、腫瘍の処置)までの広範囲な適用を有する。抗体は複雑なグリコシル化されたタンパク質分子であり、IgGの場合、2つの軽鎖及び2つの重鎖で構成されている(図1を参照のこと)。抗原の認識及び結合は、2つの同一の抗原結合部位、いわゆるパラトープを介して起こる(図1を参照のこと)。抗体の標的構造、抗原は、後者により高度に特異的に認識されるだけでなく、その結合は、また、Fcフラグメントにより媒介される複数のいわゆるエフェクター機能と共役する(図1を参照のこと)。最も重要なエフェクター機能は、とりわけ、補体系(補体依存性細胞傷害:CDC)及び抗体依存的な細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の活性化を含む。
【0005】
一連の適用にもかかわらず、抗体は望まれうるようには未だに広く使用されておらず、主に非常に高い生産コストのためである。従って、種々の戦略が、分子及び生産方法を改善するために採用されてきた。抗体の生物学的特性を改善するための付着点は、例えば、親和性及び抗原特異性に対する改変ならびにFcエフェクター機能の調節である。他のアプローチは、分子の異質性を低下させることに向けられており、例えば、前駆体、加水分解産物、タンパク質のC末端アミノ基の酵素的切断、脱アミノ化、様々なグリコシル化パターンもしくは誤って連結されたジスルフィド架橋、又は抗体の物理化学的特性(例えば安定性及び溶解性など)の改善により起こる。抗体の特性を最適化することは、このように、潜在的に極めて広範囲の適用を有する。
【0006】
すべてのタンパク質が、定義された最終構造に固有のその機能を実行できるように、構造化方法(タンパク質フォールディング(folding)として公知)を受けなければならない。しばしばフォールディング中間体を介して導くこの多段階構造化方法において、ミスフォールディング及び凝集が存在しうる。タンパク質のミスフォールディングに起因しうる、又は、それらに関連する非常に多くの疾患が存在する。なぜなら、タンパク質は、それらの天然のフォールドされた状態を達成しない、又は、この天然の状態のままではないからである。これらは、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、及び種々のアミロイドーシスを含む。この種類のタンパク質のミスフォールディングが生物工学的な産生方法において起こる場合、これは産物の力価、収率、品質及び/又は安定性を犠牲にしている。
【0007】
多数の科学的研究において抗体の構造化方法(抗体フォールディングとして公知)の明確化が既に扱われてきた(Goto, Y. and Hamaguchi, K., Journal of Molecular Biology 156, 891-910, 1982;Thies, M. J. W. et al., Journal of Molecular Biology 293, 67-79, 1999;Feige, M. J. et al., Journal of Molecular Biology 365, 1232-1244, 2007;Feige, M. J. et al., Journal of Molecular Biology 344, 107-118, 2004)。抗体は、天然において非常に広範囲に及ぶいわゆるIgスーパーファミリーに属する。抗体及びそのフラグメントに関するフォールディング研究の他、このIgスーパーファミリーの他のメンバーもそれらのフォールディング方法について徹底的に研究されてきた(Cota, E. et al., Journal of Molecular Biology 305, 1185-1194, 2001;Hamill, S. J. et al., Journal of Molecular Biology 297, 165- 178, 2000;Paci, E. at al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 100, 394-399, 2003)。研究の現状について以下の絵が浮かび上がっている:Igスーパーファミリーのタンパク質の構造化は、プリーツシート(pleated sheet)構造のコアにおける数個の疎水性アミノ酸の周囲から開始し(特に、鎖B、C、E、及びF)、次に、このフォールディングコアから開始する完全な構造化に終結する。図2は、Igスーパーファミリーのメンバー、ベータ2ミクログロブリンの典型的なトポロジーを示す。鎖B、C、E、及びFに印を付けており、それらは既に言及した通り、一般的にIgタンパク質のフォールディング方法のコアになると仮定される。
【0008】
発明の概要
本発明は、天然ヘリカルエレメント(helical elements)が最適化されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を調製するための生物工学的方法に関する。好ましくは、この最適化は、ヘリックス内部に追加の塩橋を導入すること、及び/又は、ヘリックス破壊剤又はヘリックス不安定化基(プロリン及び/又はグリシン)を除去することにより行われる。
【0009】
別の局面において、本発明は、天然の又は最適化されたヘリカルエレメントが移植されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を調製するための生物工学的方法に関する。この移植は、好ましくは、最適なヘリカルエレメントを有さない、又は、ほとんど有さないドメイン中で行われる。特に好ましい実施態様において、1つ又は複数のヘリカルエレメントが、少なくとも1つの定常ドメインCL、CH2、及び/又はCH3から、少なくとも1つのCH1定常ドメイン及び/又は可変ドメイン(例、VL又はVH)中へ移される。
【0010】
別の局面において、本発明は、Igドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸が、ヘリックス、好ましくはαヘリックスの形成の可能性を増加させる別のアミノ酸により置換されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性を改善するための方法に関する。
【0011】
形成の確率は、好ましくは、アルゴリズム、特にAGADIRアルゴリズムを使用して算出される。好ましくは、置換されたアミノ酸は、特にA型とB型及び/又はE型とF型の2つのβプリーツシート鎖間の領域中に位置付けられる。置換されたアミノ酸は、ヘリカル構造を既に有する領域中に位置付けられうる。既存のヘリカルエレメントにおけるこの種類のアミノ酸交換の目的は、このエレメントでのヘリックス形成の確率を増加させることである。ヘリックス形成は、例えば、Igドメインにおいて置換すべきアミノ酸がプロリン又はグリシンである場合、好ましくは、それが先行するβプリーツシート鎖の後の少なくとも第2の位置(i→i+2)に、又は、次のβプリーツシーツ鎖の前の最大で最後から2番目の位置(i→i−2)に位置付けられる場合に増加しうる。プロリン及びグリシンは、プロリンでもグリシンでもないアミノ酸により、好ましくは、アラニンにより置換される。別の可能性は、荷電側鎖を有するアミノ酸を挿入することによる塩橋の導入であり、反対荷電の側鎖を有するアミノ酸から(i→i+3)、(i→i+4)、又は(i→i+5)の間隔であるようにする。反対荷電を伴う側鎖を有する少なくとも2つのアミノ酸が、場合により、この目的のために挿入され、置換されたアミノ酸の間の間隔によって、側鎖が塩橋を形成できるようにする。好ましい実施態様において、交換されたアミノ酸は、2(i→i+3)、3(i→i+4)、又はそれ以上のアミノ酸(i→i+5)により互いに分離される。生理学的条件下で負荷電している側鎖を伴うアミノ酸は、グルタミン酸又はアスパラギン酸でよく、アルギニン、リジン、又はヒスチジンは、これらの条件下で正荷電している側鎖を有しうる。好ましい実施態様において、アルギニン、リジン、又はヒスチジンが挿入される又は恐らくは既に存在している位置は、グルタミン酸又はアスパラギン酸が挿入される又は場合により既に存在している位置よりも、C末端に近い。このように、二重塩橋を挿入でき、それにおいて配列は生成され、ここで3つのアミノ酸が位置i、及びi+3、i+4又はi+5、ならびにi+7、i+8又はi+9に位置付けられ、ここで位置i、及びi+7、i+8又はi+9のアミノ酸は同じ荷電の側鎖を有するのに対し、位置i+3、i+4又はi+5のアミノ酸は反対荷電を有する。この目的のために、3つの対応するアミノ酸を突然変異により挿入でき、恐らく対応するアミノ酸が開始配列中に既に存在する場合には、さらに少ないアミノ酸を挿入できる。この種類の二重塩橋において、アスパラギン酸、グルタミン酸、又はアルギニンは、好ましくは、中央の位置i+3、i+4、又はi+5に存在する。好ましい実施態様は、交換後に、タンパク質が、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、及び/又はSKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。
【0012】
別の局面において、本発明は、最適なヘリカルエレメントを有さない又はほとんど有さないドメイン(例えば、ベータ2ミクログロブリンのIgドメイン(配列番号3)、可変ドメイン(VL、VH)、又は免疫グロブリンの定常ドメインCH1など)中への適したヘリカルエレメントの移植に関する。移植エレメントは、例えば、免疫グロブリンの定常ドメインCL、CH2、もしくはCH3に起因しうる、又は、本発明の方法により最適化されたそのようなエレメントのバリアントでありうる。移植は、好ましくは、4〜12の連続アミノ酸(好ましくは約10のアミノ酸)が同じ又はより大きい長さのアミノ酸配列により置換される方法を使用して行われ、挿入アミノ酸配列は、置換される配列よりも高いヘリックス形成の確率を有する。好ましい実施態様において、挿入配列は、免疫グロブリンのCL又はCHドメインのβプリーツシート鎖AとB及び/又はEとFの間の領域からのヘリカルエレメントである。適したヘリカルエレメントは、例えば、ヒトCH2ドメイン(配列番号5、配列番号14、又は配列番号15)からの配列KPKDTLMISR(配列番号8)又はそれから最適化されたKAEDTLHISR配列(配列番号9)、マウスカッパCLドメイン(配列番号1)からのTKDEYERH(配列番号10)、ヒトCLドメイン(配列番号13)からのTPEQWKSHRS(配列番号16)、又はヒトカッパCLドメイン(配列番号12)からのSKADYEKHK(配列番号11)を有する。
【0013】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質を調製するための方法に関し、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性を改善するための先に記載した方法を、この種類のタンパク質に適用し、このようにして得られた改変タンパク質を宿主細胞において発現させることを特徴とする。
【0014】
別の局面において、本発明は、先に記載した本発明の方法により産生される、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質に関する。好ましくは、それは、抗体、特に、2つの軽鎖及び2つの重鎖を含む完全な免疫グロブリンである。
【0015】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及び少なくとも1つの可変ドメイン(例、VL又はVH)を有するタンパク質に関し、それは、この可変ドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。好ましくは、このヘリカルエレメントは、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を有する。本発明の好ましい局面において、可変ドメインは、抗原に特異的に結合する能力を有する。
【0016】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH2型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質に関し、それは、この定常ドメインにおいて、ヒトにおいて天然に存在するCH2ドメインのヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又は配列SKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むCH2ドメインを含む。
【0017】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH1型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質に関し、それは、この定常ドメインにおいて、ヒトにおいて天然に存在するCH1ドメインのヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又は配列SKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むCH1ドメインを含む。
【0018】
別の局面において、本発明は改変β2ミクログロブリンに関し、それは、Igドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメント、好ましくは、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを有する。
【0019】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質に関し、それは、Igドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメントを含み、それは、配列 配列番号1、配列番号12、もしくは配列番号13(CL WT)又は配列番号5、配列番号14、もしくは配列番号15(CH2 WT)の1つに含まれるヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有する。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KAEDTLHISR(配列番号9)を有するヘリカルエレメントを含む。
【0020】
別の局面において、本発明は、医学的使用のための先に記載されるタンパク質に関する。
【0021】
別の局面において、本発明は、天然ヘリカルエレメントの最適化が行われることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変するための生物工学的方法に関する。
【0022】
別の局面において、本発明は、天然の又は最適化されたヘリカルエレメントの移植が、最適なヘリカルエレメントを有さない又はほとんど有さないドメインにおいて行われることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変するための生物工学的方法に関する。
【0023】
本発明の利点は、本発明のタンパク質の、より大きなフォールディング効率及び安定性、より少ないミスフォールディング、及び、それによる、最終分析における、より高い価値のタンパク質の質を伴うより高い産物収率、精製方法におけるより大きな柔軟性、より遅いアンフォールディング速度、特にストレス条件下での、溶解性の改善及び凝集のより低い傾向にある。製造方法のより大きな頑強性のおかげで、この新たな方法は先行技術よりも明らかに優れている。本発明は、従って、好ましくは、組換え抗体及びFc融合タンパク質を調製するための方法に適用することができる。本発明は、しかし、免疫グロブリンドメインとの相同性を伴うドメインを含むフラグメント及びその派生物又は融合タンパク質を含む免疫グロブリンスーパーファミリーの他の分子に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】IGGサブクラスの抗体:2つの軽鎖を明色にしており、重鎖を暗く示す。抗原結合に関与する領域(パラトープ)、CH2ドメインのグリコシル化、及びエフェクター機能を媒介するFc部分に標識する。
【図2】Igスーパーファミリーの代表としてのベータ2ミクログロブリン:ヒトベータ2ミクログロブリン(配列番号3)のβプリーツシート鎖B、C、E、及びFに標識する。
【図3】免疫グロブリンGのトポロジー:βプリーツシーツが互いに結合するIgG分子に関連するIgトポロジーにおける短いヘリカルエレメントを暗く示す。
【図4】IGG1 CLドメインにおけるヘリカルエレメントの位置:図中、抗体の定常ドメインにおけるヘリカルエレメントの位置を、ヒトIgG1 CLドメインの例を使用して示す。βプリーツシート鎖A、B、C、D、E、F、及びGならびにヘリカルエレメント、Helix1及びHelix2に標識する。
【図5】NMRスペクトロスコピーによるCLフォールディング中間体の特性付け:この図は、リフォールディングが完成した後の天然ピーク振幅との比較による、各関連群についてのリフォールディング中の最初のNMRスペクトルにおいて得られたピーク振幅を示す。マウスカッパCLドメイン(配列番号1)の構造エレメントを、ピーク振幅の上に図式的に示す。
【図6】IGG CLドメインの構造化:マウスカッパCLドメイン(配列番号1)のフォールディング中間体における構造化の程度をNMRスペクトロスコピーにより決定する。天然構造化領域を暗く示す。
【図7】CD分光学的検査:マウスカッパCLドメイン(破線)(CL WT;配列番号1)、ヒトベータ2ミクログロブリンループを伴うCLドメイン(破線&点線)(CLからβ2m;配列番号2)ならびにヒトベータ2ミクログロブリン(直線)(β2m WT;配列番号3)及びCLヘリックスを伴うベータ2ミクログロブリン(点線)(β2mからCL;配列番号4)のCD分光学的検査を20℃のPBS中で行う。ベータ2ミクログロブリンヘリックスを伴うCL(CLからβ2m;配列番号2)は、アンフォールドされたタンパク質のスペクトルを示し、全ての他のタンパク質は、ベータプリーツシートタンパク質の特徴を有する。
【図8】ベータ2ミクログロブリンアミロイド形成に対するヘリカルエレメントの影響:AFM測定は、CLヘリックス(β2mからCL;配列番号4)の移植による、全ての条件下でのベータ2ミクログロブリン(β2m WT;配列番号3)とのアミロイド形成における低下を例示する。測定は、pH 1.5、3.0で、ならびにPBS中で、シード(=超音波処理により断片化された原線維)の存在及び非存在において行う。
【図9】IGG1分子のCH2ドメイン:ヒトIgG1分子のCH2ドメイン(A)内に最適化されたHelix1を位置付けること(CH2 Helix1突然変異体;配列番号6)、及び、追加の塩橋を挿入すること、及び、ヘリックス破壊剤プロリン(B)を除去することによるHelix1の最適化(突然変異:KPKDTLMISR(配列番号8)からKAEDTLHISR(配列番号9))。
【図10】Helix1最適化された突然変異体を伴う野生型CH2ドメインの構造比較:FUV−CDスペクトル(A)及びNUV−CDスペクトル(B)は、結果的に二次構造及び三次構造であり、実質的に、IgG1 CH2野生型ドメイン(破線)(CH2 WT;配列番号5)及びHelix1突然変異体(実線)(CH2 Helix1突然変異体;配列番号6)について同一である。
【図11】熱安定性研究:野生型CH2ドメイン(破線)(CH2 WT;配列番号5)及びHelix1突然変異体(実線)(CH2 Helix1突然変異体;配列番号6)の熱安定性を、FUV−CDスペクトロスコピーにより218nmで測定する。加熱速度は20℃/時である。野生型の融点は56.0℃に決定され、突然変異体の融点は60.4℃である。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明のこの説明の範囲内で使用される用語及びサインは、以下で定義される以下の意味を有する。一般用語「含む」は、より具体的な用語「からなる」を含む。さらに、用語「単数」及び「複数」は制限的に使用されない。
【0026】
本発明は、生物物理学的特性を改善させるため、特に、安定性、フォールディング効率を増加させるため、及び、免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質ならびにこのようにして改変された実際のタンパク質の凝集を低下させるための方法に関する。免疫グロブリンスーパーファミリーは、現在、760を上回る異なるタンパク質を含む。経済的に最も重要なグループは、免疫グロブリン(抗体)からなる。種々のカテゴリーの免疫グロブリンが存在する:IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、IgY、IgW。他のメンバーは、細胞表面上の抗原受容体(例、T細胞受容体)、免疫系の共受容体及び共刺激分子、抗原提示に関与するタンパク質(例、MHC分子)、及び特定のサイトカイン受容体及び細胞内筋肉タンパク質である。免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質は、共通の構造エレメント、いわゆる免疫グロブリンドメイン(Igドメイン)により特徴付けられる。Igドメインは共通の基本構造を有する。それらは、典型的には、約70〜110のアミノ酸からなり(しかし、200を上回るアミノ酸を伴う例も存在する)、しばしば、分子内ジスルフィド架橋を含む。クラスIgGの抗体は、例えば、4つのサブユニット、2つの同一の重鎖及び2つの同一の軽鎖で構成され、各場合において、それらは、共有結合ジスルフィド架橋により一緒に連結され、y形状構造を形成する。各軽鎖は、2つのIgドメイン、いわゆる可変(VL)及び定常(CL)Igドメインを含み、各重鎖が4つのそのようなIgドメイン(VH、CH1、CH2、及びCH3)を含む。クラスIgM及びIgEの抗体は、追加の定常ドメイン(CH4)を含む。Igドメインは、特徴的な二次構造、免疫グロブリンのフォールディングパターン(英語で、「Igフォールド」)、逆平行βプリーツシート鎖の2つのシートにより形成される疎水性コアを伴うサンドイッチ様構造を有する(図4を参照のこと)。三次元表示は、折り畳みシートを連想させる。ペプチド基はシート中に位置付けられ、介在するC原子は複数の折り畳みシートの端に位置付けられる。複数の鎖のペプチド結合が互いに相互作用する。安定化のために必要とされる水素架橋結合が、ポリペプチド骨格に沿って形成され、約7.0Åの距離の対で生じる。折り畳みシートにおいて、隣接アミノ酸間の間隔は、有意によりコンパクトなαヘリックスにおいてよりもずっと大きい。間隔は、ヘリックス中の0.15nmと比較し、0.35nmである。
しかし、側基が一緒に近接しているため、大きなプリーツシート領域は、一般的に、側基残基が比較的小さく、全てが等しく荷電していない場合にだけ形成される。
【0027】
βプリーツシートを同定するために、CD(「円二色性」)スペクトロスコピー及びNMR(「核磁気共鳴」)スペクトロスコピーを使用してよく、頻度を統計的に評価するために、ラマチャンドランプロットを使用してよい(Ramachandran, G. N. et al., J. Mol. Biol. 7, 95-99, 1963)。個々のβ鎖を、それらが配列中で現れる順番に従い、A、B、C、D、E、F、G、又はC’、C’’と呼ぶ。Igフォールドの安定化は、サンドイッチの内側の疎水性アミノ酸の相互作用、鎖間の水素架橋、及び存在する場合、B鎖及びF鎖のシステイン基間での高度に保存されたジスルフィド結合により補助される。2つのシステイン間に位置付けられるアミノ酸の数は変動しうるが、一般的に、55〜75の間のアミノ酸である。免疫グロブリンの可変ドメインは、典型的には、9つのβ鎖を含み、定常ドメインは、典型的には、7つのβ鎖を含む。
【0028】
β鎖間の配列領域が、高い配列可変性を伴う非構造化ループにより、又は、特に免疫グロブリンの定常ドメインにおいて、短いヘリカルエレメントにより形成される。ヘリックスは、タンパク質中の右手又は左手スパイラル二次構造であり、それにおいて、主鎖の各NH基が、主鎖のカルボニル基を伴う水素架橋結合に入る。右手αヘリックスにおいて、水素架橋結合により及ぶ距離は、4つのアミノ酸である(i+4→i水素架橋結合)。αヘリックスにおいて、1ターンは、1.5Å(0.15nm)のレベルでの3.6のアミノ酸基に対応する;各アミノ酸は、このように、100°によるオフセットである。さらなるヘリックス形状は、310ヘリックス(i+3→i水素架橋結合)及びπヘリックス(i+5→i水素架橋結合)である。アミノ酸の側鎖は、ヘリックスの外側に位置付けられる。タンパク質中の典型的なヘリックスは、約10のアミノ酸(3ターン又はコイル)で構成されるが、しかし、わずか4つのアミノ酸で構成されるヘリカルエレメント又は40までのアミノ酸で構成されるヘリックスも公知である。タンパク質中のヘリカル二次構造は、それ自体が公知の方法、例えば、x線構造解析又は核磁気共鳴スペクトロスコピー(NMRスペクトロスコピー)を使用して実験的に決定できる。ヘリックス形成の確率は、また、しかし、アミノ酸配列に基づき適したアルゴリズムを使用して決定してよい(Munoz, V. & Serrano, L. (1997). Development of the Multiple Sequence Approximation within the Agadir Model of α-helix Formation. Comparison with Zimm-Bragg and Lifson-Roig Formalisms. Biopolymers 41, 495-509; Lacroix, E., Viguera AR & Serrano, L.(1998). Elucidating the folding problem of a-helices: Local motifs, long-range electrostatics, ionic strength dependence and prediction of NMR parameters.J. Mol. Biol. 284, 173-191)。上記の参考文献において記載されるAGADIRアルゴリズムが、本発明の範囲内で好ましい。免疫グロブリンの定常ドメインの場合において、ヘリカルエレメントは、βプリーツシート鎖AとBならびにEとFの間に位置付けられる。
【0029】
本発明は、ヘリカル構造が、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性に重要であるとの知見に基づく。この種類のヘリカルエレメントを最適化することにより、特にアミノ酸配列を変化させることにより(それによってヘリックス形成、好ましくはαヘリックスの可能性の増加をもたらす)、生物物理学的特性を改善することが可能であり、特に安定性(例、熱安定性、pH安定性)、フォールディング効率、及び溶解性をこのように増加させることができ、アンフォールディング速度ならびにミスフォールディングの傾向、凝集、又はアミロイド形成をこのように低下させることができる。
【0030】
以下でアミノ酸配列中の「先行する」又は「続く」位置を参照する場合、用語「先行する」は配列のN末端に近いことを意味し、用語「続く」は配列のC末端に近いことを意味する。
【0031】
高分解能NMRスペクトロスコピーを使用して、抗体ドメインのフォールディング経路が、実質的な原子分解を用いて明らかにされている(図5及び6を参照のこと)。これは、このドメイン、CLドメインのフォールディングが、天然のシス状態へのTyr34−Pro35結合の異性化により限定されるとの事実により可能になる。低温では、この方法は極めて遅く、故に、フォールディング経路はNMRスペクトロスコピーに直接的に受け入れられる。天然構造への途中で、部分的折り畳み構造、いわゆるフォールディング中間体が形成されることが見出された。フォールディング中間体において、ドメインの短いヘリカルエレメントが既に十分に構造化されており、タンパク質の全ての他の領域がわずかに部分的に構造化されていることが高度に有意である。図5及び6はこの状態を例示しており、特に、抗体ドメインの短いヘリカルエレメントが高度に構造化されているのに対し、フォールディング核と仮定される鎖B、C、E、及びFがそれほど構造化されていないことが明白である。ヘリカルエレメントの特性を最適化することにより、抗体の生物物理学的特性(例、安定性、溶解性、フォールディング効率)は、ポジティブな影響を受けることができ、また、ドメイン間、例えば、可変ドメイン(ヘリカルエレメントに接近できない)中へのヘリカルエレメントの移植によってもポジティブな影響を受けることができる。本発明の別の利点は、本質的にプリーツシート構造を有するタンパク質を最適化することは、その特性が実質的により良く理解されている短いヘリカルエレメントを介して行われ、結果的に、プリーツシート構造よりも容易に改変されるという事実である。
【0032】
本発明は、天然ヘリカルエレメントが最適化されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を産生するための生物工学的方法に関する。好ましくは、この最適化は、ヘリックス内部に追加の塩橋を挿入すること、及び/又は、ヘリックス破壊剤(プロリン及び/又はグリシン)を除去することにより行われる。免疫グロブリンのフォールディングパターンを含むタンパク質とは、本発明の範囲内で、先に記載する構造の少なくとも1つのIgドメインを有するタンパク質を意味する。特に、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバー、及び、従って好ましくは、免疫グロブリンである。しかし、本発明は、また、天然においてこの形態で存在しないが、しかし、Igドメインを有する人工タンパク質、例えば、Fc融合タンパク質(例えば抗リウマチ活性物質(TNFR:Fc)であるエタネルセプトなど)に関する。抗体とは、本発明に関連して、天然において存在し、例えば、哺乳動物を抗原で免疫することにより得ることができる種類の免疫グロブリンだけでなく、パラトープを有し、それ自体で、又は、別のIgドメインと一緒に、抗原に特異的に結合する少なくとも1つのIgドメインを有する場合の、人工タンパク質も意味する。そのようなIgドメインは、例えば、免疫グロブリンの可変ドメイン(VH、VL)である。
【0033】
従来、2つの軽鎖及び2つの重鎖からなる免疫グロブリンの内、サブタイプIgG1、IgG2、及びIgG4の重鎖を伴うクラスIgGの免疫グロブリンが好ましい。これらの免疫グロブリンは、天然でモノクローナル又はポリクローナルでありうる、それらは霊長類(特にヒト)、げっ歯類、又は他の哺乳動物の配列を含みうる、及び、キメラ又はヒト化配列でありうる。ヒト又はヒト化免疫グロブリンが好ましい。免疫グロブリンは、また、それらのドメイン中に、本発明の方法の最適化に加えて、分子の特性を変化させることが可能であるアミノ酸の置換、欠失、及び/又は挿入を含みうる。このように、例えば、エフェクター機能、例えば、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、アポトーシス誘導、又はFcRn媒介性ホメオスタシスなどが調節されうる。潜在的な脱アミド部位、酸化部位、及びグリコシル化部位を除去する、又は、重鎖のC末端リジンを欠失させることにより、例えば、分子の異質性を低下させることができる。
【0034】
完全な免疫グロブリンの他、当業者は、Igドメインを含む、それが由来する多数のタンパク質に精通している。このように、当業者には、例えば、免疫グロブリンのフラグメント(例えばFab、F(ab’)2又はFcフラグメント、Fc融合タンパク質、Fc−Fc融合タンパク質、軽鎖及び重鎖の可変ドメインの融合体からなる単鎖抗体(scFv)、重鎖又は軽鎖の可変ドメインだけからなる単一ドメイン抗体(dAb)、例えばVH VHH又はVL dAb(ラクダ由来のドメイン抗体ならびにこれらのコンストラクトのミニボディ、ジアボディ、トリアボディ、及び融合タンパク質を含む)が公知である。
【0035】
Fabフラグメント(フラグメント抗原結合=Fab)は、隣接する定常領域により一緒に保持される両鎖の可変領域からなる。それらは、例えば、パパインなどのプロテアーゼでの処理により、又は、DNAクローニングにより従来の抗体から産生されうる。他の抗体フラグメントは、ペプシンでのタンパク質消化により産生できるF(ab’)2フラグメントである。
【0036】
遺伝子クローニング又はデノボ遺伝子合成により、重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域だけからなる短くなった抗体フラグメントを調製することも可能である。これらは、Fvフラグメント(フラグメント可変=可変部分のフラグメント)として公知である。定常鎖のシステイン基を介した共有結合が、これらのFvフラグメントにおいて可能ではないため、これらのFvフラグメントは、しばしば、特定の他の方法により安定化される。この目的のために、重鎖及び軽鎖の可変領域は、しばしば、約10〜30のアミノ酸、特に好ましくは15のアミノ酸の短いフラグメントを用いて一緒に連結される。これによって、VHとVLがペプチドリンカーにより一緒に連結される単一のポリペプチド鎖が産生される。そのような抗体フラグメントは、単鎖Fvフラグメント(scFv)とも呼ばれる。scFv抗体の例が公知であり、記載されている。
【0037】
過去数年において、種々の戦略が、多量体scFv派生物を産生するために開発されている。その意図は、薬物動態学的特性が改善され、結合力が増加した組換え抗体を産生することである。scFvフラグメントの多量体化を達成するために、それらを、多量体ドメインを伴う融合タンパク質として産生する。多量体化ドメインは、例えば、IgG又はヘリックス構造(「コイルドコイル構造」)のCH3領域(例えば、ロイシンジッパードメインなど)でありうる。他の戦略において、scFvフラグメントのVH領域とVL領域間の相互作用を、多量体化のために使用する(例、ジア、トリ、及びペンタボディ)。
用語「ジアボディ」を当技術分野において使用し、二価のホモ二量体scFv派生物を示す。scFv分子中のペプチドリンカーを5〜10のアミノ酸に短くすることによって、VH/VL鎖を重ね合わせることによるホモ二量体の形成がもたらされる。ジアボディは、加えて、挿入されたジスルフィド架橋により安定化されうる。ジアボディの例を文献中に見出すことができる。
【0038】
用語「ミニボディ」を当技術分野において使用し、二価のホモ二量体scFv派生物を示す。それは、免疫グロブリン、好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1のCH3領域を、二量体化領域として含む融合タンパク質からなる。これは、ヒンジ領域、またIgG及びリンカー領域を用いて、scFvフラグメントを連結する。
【0039】
用語「トリアボディ」を当技術分野において使用し、三価のホモ三量体scFv派生物を示す。リンカー配列を使用しないVH−VLの直接融合によって、三量体の形成が導かれる。
【0040】
二価、三価、又は四価構造を有する、当技術分野においてミニ抗体として公知のフラグメントも、scFvフラグメントの派生物である。多量体化は、二量体、三量体、又は四量体のコイルドコイル構造を用いて達成される。
【0041】
当業者は、また、IgNAR(「新たな抗原受容体」)として公知であるサメ及びエイからの免疫グロブリンを知っている。これらは、1つの可変領域及び5つの定常領域からなる鎖の二量体を形成する(Flajnik, M. F., Nature Reviews, Immunology 2, 688-698, 2002)。
【0042】
また、当業者は、わずか2つの短くなった重鎖(各々が1つの可変ドメイン及び2つの定常ドメインを有する)からなる、ラマ又はラクダ科の他の動物からの抗体も知っている(Hamers-Casterman, C. et al., Nature 363, 446-448, 1993)。当業者には、これらの短くなった重鎖の1つ又は複数の可変ドメインだけからなるこれらのラクダ抗体の派生物及びバリアントも公知である。そのような分子は、ドメイン抗体としても公知である。単一ドメイン抗体も、他の種からの、例えば、マウス及びヒトからの、又はヒト化形態での配列に基づき公知である(Holt et al., Trends in Biotechnology 21(11)、484 - 490, 2003)。これらのドメイン抗体のバリアントは、複数の可変ドメインからなる分子を含み、ペプチドリンカーにより互いに共有結合される。血清中での半減期を延長するために、ドメイン抗体を他のポリペプチド単位、例えば、免疫グロブリンのFc部分と、又は、血清中に生じるタンパク質、例えばアルブミンなどと融合させてもよい。
【0043】
用語「ヘリカルエレメント」及び「ヘリックス」を、本発明に関連して、同義語として使用する。それらは、4〜12のアミノ酸、好ましくは6〜12の、最も好ましくは8、9、又は10のアミノ酸のアミノ酸配列に関連し、ヘリックスを形成できる。
【0044】
本発明に関連する「最適化」により、タンパク質の一次構造における変化を意味し、それにより、このタンパク質中でヘリカルエレメントを形成する可能性が増加し、又は、それにより、ヘリカルエレメントがこのタンパク質中に作製され、このタンパク質の生物物理学的特性、特にそのフォールディング効率、安定性、溶解性、及び凝集傾向(最適化により低下する)を改善することを目的とする。タンパク質の一次構造を変化させる好ましい方法は、そのアミノ酸配列を突然変異させること、即ち、少なくとも1つのアミノ酸の交換(置換)、除去(欠失)、又は導入(挿入)である。これは、通常、このアミノ酸配列をコードするデオキシリボ核酸(DNA)を対応して変化させ、続いて、この(組換え)DNAを宿主細胞中で発現させることにより行う。当業者は、これを行うために当業者に利用可能な標準的方法を有する。
【0045】
別の局面において、本発明は、天然の又は最適化されたヘリカルエレメントの移植が行われることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を調製するための生物工学的方法に関する。好ましくは、この移植は、最適なヘリカルエレメントを有さない、又は、ほとんど有さないドメイン中に行われる。移植とは、これに関連し、4〜12のアミノ酸のアミノ酸配列の、同じ長さの別のアミノ酸配列による置換を意味する。特に好ましい実施態様において、1つ又は複数のヘリカルエレメントが、少なくとも1つの定常ドメインCL、CH2、及び/又はCH3から、少なくとも1つのCH1定常ドメイン及び/又は可変ドメイン(例、VL又はVH)に移される。
【0046】
別の局面において、本発明は、Igドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸が、ヘリックスの形成の確率を増加させる別のアミノ酸により置換されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性を改善する方法に関する。形成の確率は、好ましくは、アルゴリズム、特にAGADIRアルゴリズムを使用して算出される。好ましくは、交換されるアミノ酸は、特にA型とB型又はE型とF型の2つのβプリーツシート鎖間の領域中にある。置換されるアミノ酸は、ヘリカル構造を既に有する領域中にありうる。既存のヘリカルエレメントにおけるアミノ酸交換の目的は、このエレメントのヘリックス形成の確率を増加させることである。ヘリックス形成は、例えば、Igドメインにおいて置換されるべきアミノ酸がプロリン又はグリシンである場合、好ましくは、それが先行するβプリーツシート鎖の後の少なくとも第2の位置(i→i+2)に、又は、次のβプリーツシーツ鎖の前の最大で最後から2番目の位置(i→i−2)に位置付けられる場合に増加しうる。プロリン又はグリシンは、プロリンでもグリシンでもないアミノ酸により、好ましくは、アラニンにより置換される。別の可能性は、荷電側鎖を有するアミノ酸を導入することによる塩橋の導入であり、反対荷電の側鎖を有するアミノ酸から(i→i+3)、(i→i+4)、又は(i→i+5)の間隔であるようにする。所望の場合、反対荷電の側鎖を有する少なくとも2つのアミノ酸が挿入され、置換されたアミノ酸の間の間隔を選択し、側鎖が塩橋を形成できるようにする。好ましい実施態様において、交換されるアミノ酸は、2(i→i+3)、3(i→i+4)、又はそれ以上のアミノ酸により互いに分離される。生理学的条件下で負荷電している側鎖を伴う、使用されうるアミノ酸の例は、グルタミン酸又はアスパラギン酸を含み、一方、アルギニン、リジン、又はヒスチジンは、これらの条件下で正荷電している側鎖を有する。好ましい実施態様において、アルギニン、リジン、又はヒスチジンが挿入される又は場合により既に存在している位置は、グルタミン酸又はアスパラギン酸が挿入される又は場合により既に存在している位置よりも、C末端に近い。また、二重塩橋を挿入でき、それにおいて配列は生成され、ここで3つのアミノ酸が位置i及び、i+3、i+4又はi+5、ならびにi+7、i+8又はi+9に位置付けられ、ここで位置i及び、i+7、i+8又はi+9のアミノ酸は同じ荷電の側鎖を有するが、しかし、位置i+3、i+4又はi+5のアミノ酸は反対荷電を有する。この目的のために、3つの対応するアミノ酸を突然変異により挿入でき、恐らくは、対応するアミノ酸が開始配列中に既に存在する場合にはさらに少ないアミノ酸を挿入してよい。この種類の二重塩橋において、アスパラギン酸、グルタミン酸、又はアルギニンは、好ましくは、中央の位置i+3、i+4又はi+5中に存在する。好ましい実施態様は、交換後、タンパク質が、ヒトIgG CH2ドメイン(配列番号5、配列番号14、又は配列番号15)からの配列KPKDTLMISR(配列番号8)又はそれから最適化されたヘリックス配列KAEDTLHISR(配列番号9)、マウスカッパCLドメイン(配列番号1)からの配列TKDEYERH(配列番号10)、ヒトラムダCLドメイン(配列番号13)からの配列TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はヒトカッパCLドメイン(配列番号12)からの配列SKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。
【0047】
別の局面において、本発明は、最適なヘリカルエレメントを有さない、又は、ほとんど有さないドメイン(例えば、ベータ2ミクログロブリンのIgドメイン(配列番号3)、可変ドメイン(VL、VH)、又は免疫グロブリンの定常ドメインCH1など)中への適したヘリカルエレメントの移植に関する。移植されるエレメントは、例えば、免疫グロブリンの定常ドメインCL、CH2、もしくはCH3に起因しうる、又は、本発明の方法により最適化されたそのようなエレメントのバリアントでありうる。移植は、好ましくは、4〜12の連続アミノ酸(好ましくは約10のアミノ酸)が同じ又はより大きい長さのアミノ酸配列により置換され、挿入アミノ酸配列が、置換配列よりも高いヘリックス形成の確率を有する方法を使用して行われる。好ましい実施態様において、挿入配列は、免疫グロブリンのCL又はCHドメインのβプリーツシート鎖AとB及び/又はEとFの間の領域からのヘリカルエレメントである。適したヘリカルエレメントは、例えば、ヒトCH2ドメイン(配列番号5、配列番号14、又は配列番号15)からの配列KPKDTLMISR(配列番号8)又はそれから最適化されたKAEDTLHISR配列(配列番号9)、マウスカッパCLドメイン(配列番号1)からの配列TKDEYERH(配列番号10)、ヒトCLドメイン(配列番号13)からの配列TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はヒトカッパCLドメイン(配列番号12)からの配列SKADYEKHK(配列番号11)を有する。
【0048】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質を調製するための方法に関し、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性を改善するための先に記載した方法を、この種類のタンパク質に適用し、このようにして得られた改変タンパク質を宿主細胞において発現させることを特徴とする。宿主細胞における組換えDNAの発現によるタンパク質の調製方法、及び、所望の発現タンパク質(目的のタンパク質)の続く精製の方法は、当業者に十分に周知である。特に、当業者は、真核生物の宿主細胞、好ましくは哺乳動物細胞、最も好ましくはチャイニーズハムスターの卵巣からの細胞株(Cricetulus griseus、CHO細胞)又はマウスミエローマ細胞からの細胞株(例、NS0細胞)において免疫グロブリンを発現させる方法に精通しているであろう。特定の抗体フォーマット、例えばドメイン抗体などを、有利に、原核生物の宿主細胞(例、E. coli)又は酵母細胞において産生してもよい。
【0049】
別の局面において、本発明は、先に記載される本発明の方法により産生される、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質に関する。好ましくは、それは抗体、特に、2つの軽鎖及び2つの重鎖を含む完全免疫グロブリンである。
【0050】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及び少なくとも1つの可変ドメイン(VL又はVH)を有するタンパク質に関し、それはこの可変ドメインにおいてヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。天然の可変ドメインは、この種類のヘリカルエレメントを含まず、そのようなエレメントの導入によりそれらの生物物理学的特性を改善することができる。一実施態様において、この種類の可変ドメインは、免疫グロブリンの可変ドメインにおいて天然に存在する同じ長さの任意のアミノ酸配列よりも高いヘリックス形成の確率を伴うヘリカルエレメントを含む。この種類の天然の可変ドメインについてのレファレンスは、NCBI GenBankのデータベース中に受入番号AAK19936(IgG1 VH)及びAAK62672(IgG1 VL)の下で寄託されている可変ドメインでありうる。好ましい実施態様において、本発明の可変ドメインは、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含む。特に好ましくは、ヘリカルエレメントは、プリーツシート鎖EとFの間に位置付けられる。
【0051】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH2型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質に関し、それは、この定常ドメインにおいて、ヒトにおいて天然に存在するCH2ドメインのヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。配列番号5は、そのようなドメインのためのレファレンスとして役立ちうる。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、配列TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むCH2ドメインを含む。好ましくは、ヘリカルエレメントは、CH2ドメインのプリーツシート鎖AとB及び/又はEとFの間に位置付けられる。
【0052】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH1型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質に関し、それは、この定常ドメインにおいて、ヒトにおいて天然に存在するCH1ドメインのヘリカルエレメント又は同じ長さの任意のアミノ酸配列よりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又は配列SKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを含むCH1ドメインを含む。好ましくは、ヘリカルエレメントは、CH1ドメインのプリーツシート鎖AとB及び/又はEとFの間に位置付けられる。
【0053】
別の局面において、本発明は、Igドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメント、好ましくは配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を有するヘリカルエレメントを有する改変されたβ2ミクログロブリンに関する。
【0054】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質に関し、それがIgドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメントを含み、それは、配列 配列番号1、配列番号12、もしくは配列番号13(CL WT)又は配列番号5、配列番号14、もしくは配列番号15(CH2 WT)の1つにおいて含まれるヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有する。好ましい実施態様において、この種類のタンパク質は、配列KAEDTLHISR(配列番号9)を有するヘリカルエレメントを含む。
【0055】
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質に関し、配列 配列番号4、配列番号6、及び/又は配列番号9を含む。
【0056】
別の局面において、本発明は、先に記載される、治療又は診断法における医学的使用のためのタンパク質に関する。Igフォールディングパターンを有する抗体及び他のタンパク質の医学的使用が、当業者に公知であり、多くのそのような物質が薬物として認可されている(例、リツキシマブ、トラスツズマブ、エタネルセプト)。特に、当業者は、そのような物質の製剤を調製し(例えば、生理学的緩衝水溶液)、適応される場合にはこの種類の薬物を投与する(例えば、静脈内注射又は注入)ための方法に精通している。
【0057】
別の局面において、本発明は、天然ヘリカルエレメントが最適化されていることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変するための生物工学的方法に関する。
【0058】
別の局面において、本発明は、天然の又は最適化されたヘリカルエレメントの移植を、好ましくは、ヘリカルエレメントを有さない又はそれほど適さないヘリカルエレメントを有するドメインにおいて行うことを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変する生物工学的方法に関する。
【0059】
以下は、本発明に関連して重要であるさらなる定義及び説明である:
【0060】
本発明のタンパク質は、好ましくは、宿主細胞における組換え発現により産生される。宿主細胞中に導入される発現ベクターを使用する。発現ベクターは「目的の遺伝子」を含み、それは、目的の産物をコードする任意の長さのヌクレオチド配列を含む。遺伝子産物又は「目的の産物」は、一般的に、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、又はそのフラグメントもしくは派生物である。しかし、それはRNA又はアンチセンスRNAでもよい。目的の遺伝子は、その全長で、短くなった形態で、融合遺伝子として又は標識された遺伝子として存在しうる。それは、ゲノムDNA又は好ましくはcDNAもしくは対応するフラグメントもしくは融合物でありうる。目的の遺伝子は天然遺伝子配列でありうる、又は、それは突然変異もしくは別の方法で改変されうる。そのような改変は、特定の宿主細胞に適応するためのコドン最適化及びヒト化を含む。目的の遺伝子は、例えば、分泌型、細胞質内型、核局在型、膜結合型、又は細胞表面結合型ポリペプチドをコードしうる。
【0061】
用語「核酸」、「ヌクレオチド配列」、又は「核酸配列」は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、及びそのフラグメントならびに単鎖又は二重鎖として生じ、遺伝子のコード鎖又は非コード鎖を表わすことができるゲノム又は合成由来のDNAもしくはRNAを示す。核酸配列は、標準的技術、例えば部位特異的突然変異誘発、PCR媒介性の突然変異誘発、又はオリゴヌクレオチド配列からのデノボ合成などを使用して改変してよい。
【0062】
本発明に関連する生物薬剤学的な意義を伴うタンパク質/ポリペプチドは、例えば、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又は免疫グロブリン及び他のタンパク質(例、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバー、及びその派生物又はフラグメント)を含む。一般的に、これらは、アゴニストもしくはアンタゴニスト及び/又は治療的用途もしくは診断的用途を有する物質である。
【0063】
用語「ポリペプチド」又は「タンパク質」をアミノ酸配列又はタンパク質について使用し、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。この用語は、また、反応、例えばグリコシル化、リン酸化、アセチル化、又はタンパク質プロセシングなどにより翻訳後改変されたタンパク質を含む。ポリペプチドの構造を、例えば、アミノ酸の置換、欠失、又は挿入及び他のタンパク質(例えば、免疫グロブリンのFc部分など)との融合により、その生物学的活性を保持しながら改変してよい。また、ポリペプチドは多量体化し、ホモマー及びヘテロマーを形成しうる。
【0064】
発現ベクターは、理論的には、当技術分野において公知の従来方法により調製してよい。また、ベクターの機能的成分(例、適したプロモーター、エンハンサー、ターミネーションシグナル及びポリアデニル化シグナル、抗生物質耐性遺伝子、選択マーカー、複製開始点、及びスプライシングシグナル)に関する記載がある。従来のクローニングベクターを使用してそれらを産生してよい(例、プラスミド、バクテリオファージ、ファージミド、コスミド、又はウイルスベクター、例えばバキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス及び単純ヘルペスウイルス、ならびに合成もしくは人工染色体又はミニ染色体など)。真核生物の発現ベクターは、典型的には、原核生物の配列、例えば、細菌中でのベクターの複製及び選択を可能にする複製起点及び抗生物質耐性遺伝子なども含む。ポリヌクレオチド配列の導入のための複数のクローニング部位を含む、多くの真核生物の発現ベクターが公知であり、一部を、種々の企業、例えば、Stratagene, La Jolla(CA, USA);Invitrogen(Carlsbad, CA, USA);Promega(Madison, WI, USA)又はBD Biosciences Clontech(Palo Alto, CA, USA)などから商業的に入手してよい。
【0065】
真核生物又は原核生物の宿主細胞を、適した発現ベクターを用いてトランスフェクト又は形質転換する。酵母細胞及び哺乳動物細胞は、好ましくは、真核生物の宿主細胞として使用される。前者は、特に、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)、サッカロミセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、及びハンゼヌラ(Hansenula)であり、後者は、特に、げっ歯類細胞、例えば、マウス、ラット、及びハムスター細胞株などである。細菌、特に大腸菌(Escherichia coli)、バシラス・サブティリス(Bacillus subtilis)、シュードモナス(Pseudomonas)(P.エルギノーサ(P. aeruginosa)、P.プチダ(P. putida))、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、サルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)、及びアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)が、好ましくは、原核生物の宿主細胞として使用され、その内、大腸菌が特に好ましい。本発明の発現ベクターを用いた対応する細胞のトランスフェクション又は形質転換の成功は、形質転換細胞、遺伝子改変細胞、組換え細胞、又はトランスジェニック細胞をもたらし、それらも本発明の対象である。
【0066】
本発明の目的のための好ましい真核生物の宿主細胞は、ハムスター細胞、例えばBHK21、BHK TK−、CHO、CHO−K1、CHO−DUKX、CHO−DUKX B1、及びCHO−DG44細胞又はこれらの細胞株の派生体/子孫などである。特に好ましくは、CHO−DG44細胞、CHO−DUKX細胞、CHO−K1細胞、及びBHK21細胞、特にCHO−DG44細胞及びCHO−DUKX細胞である。また、適しているのは、マウスからのミエローマ細胞、好ましくはNS0細胞及びSp2/0細胞ならびにこれらの細胞株の派生体/子孫である。しかし、これらの細胞株の派生体及び子孫、他の哺乳動物細胞(制限はされないが、ヒト、マウス、ラット、サル、げっ歯類の細胞株を含む)、真核細胞(制限はされないが、酵母、昆虫、トリ、及び植物の細胞を含む)も宿主細胞として生物薬剤学的タンパク質の産生のために使用してよい。
【0067】
ポリヌクレオチド又は本発明の発現ベクターの1つを用いた真核生物の宿主細胞のトランスフェクションを、従来の方法により行う。トランスフェクションの適した方法は、例えば、リポソーム媒介性トランスフェクション、リン酸カルシウム共沈殿、エレクトロポレーション、ポリカチオン(例、DEAEデキストラン)媒介性トランスフェクション、プロトプラスト融合、マイクロインジェクション、及びウイルス感染を含む。
【0068】
ポリヌクレオチド又は本発明の発現ベクターの1つを用いた原核生物の宿主細胞の形質転換を、従来の方法を使用して行う。適した方法は、例えば、エレクトロポレーション、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化マンガン、ポリエチレングリコール、又はジメチルスルホキシドを用いた細胞の化学処理、バクテリオファージ形質導入を含む。
【0069】
本発明に従い、安定なトランスフェクションが好ましくは行われ、それにおいて、コンストラクトが、宿主細胞のゲノム中又は人工染色体/ミニ染色体中のいずれかに組込まれる、又は、エピソームとして宿主細胞中に安定に含まれる。問題になっている宿主細胞において異種遺伝子の最適なトランスフェクション頻度及び発現を与えるトランスフェクション方法が好ましい。
【0070】
宿主細胞が、好ましくは、樹立され、順応され、無血清条件下で、場合により、動物タンパク質/ペプチドを含まない培地中で培養される。商業的に入手可能な培地の例は、ハムF12(Sigma, Deisenhofen, DE)、RPMI−1640(Sigma)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Sigma)、最小必須培地(MEM;Sigma)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM;Sigma)、CD−CHO(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)、CHO−S−SFMII(Invitrogen)、無血清CHO培地(Sigma)、無タンパク質CHO培地(Sigma)、YM(Sigma)、YPD(Invitrogen)、及び合成「ドロップアウト」酵母培地(Sigma)を含む。これらの培地の各々には、場合により、種々の化合物、例えば、ホルモン及び/又は他の増殖因子(例、インスリン、トランスフェリン、表皮増殖因子、インスリン様増殖因子)、塩(例、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸)、バッファー(例、HEPES)、ヌクレオシド(例、アデノシン、チミジン)、グルタミン、グルコース又は他の等価の栄養分、抗生物質、及び/又は微量元素を添加してよい。無血清培地が本発明に従って好ましいが、宿主細胞は、適量の血清を混合した培地を使用して培養してもよい。
【0071】
原核生物の宿主細胞の培養のために、商業的にも利用可能な多数の公知の培地が存在する。例は、LB、TB、M9、SOC、YT、及びNZ培地(Sigma)を含む。
【0072】
1つ又は複数の選択可能なマーカー遺伝子を発現する遺伝子改変細胞の選択のために、1つ又は複数の適した選択薬剤を培地に加える、又は、増殖に必須の添加剤(例えば、アミノ酸又はヌクレオチド)を欠く適した「ドロップアウト(drop-out)」培地を使用する。
【0073】
遺伝子発現及び高産生宿主細胞の選択:
用語「遺伝子発現」又は「発現」は、宿主細胞における異種遺伝子配列の転写及び/又は翻訳に関する。発現率は、一般的に、宿主細胞中に存在する対応するmRNAの量に基づき、又は、目的の遺伝子によりコードされる遺伝子産物の産生量に基づき決定することができる。選択されたヌクレオチド配列の転写により産生されるmRNAの量は、例えば、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNA保護、細胞RNAのin situハイブリダイゼーション、又はPCR法(例、定量的PCR)により決定することができる。選択されたヌクレオチド配列によりコードされるタンパク質は、種々の方法、例えば、ELISA、プロテインA HPLC、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降、タンパク質の生物学的活性の検出、タンパク質の免疫染色、それに続くFACS分析又は蛍光顕微鏡法、FACS分析又は蛍光顕微鏡による蛍光タンパク質の直接検出により決定することもできる。
【0074】
別の局面において、本発明のタンパク質は、産生細胞が増殖し、目的のコード遺伝子産物を産生するために使用される方法において産生される。このために、選択された高産生細胞を、好ましくは無血清培養液において、好ましくは浮遊培養において、目的の遺伝子の発現を可能にする条件下で培養する。目的のタンパク質/産物は、好ましくは、分泌された遺伝子産物として、細胞培養液から得られる。タンパク質が分泌シグナルなしで発現される場合、しかし、遺伝子産物は細胞ライセートから単離することもできる。他の組換えタンパク質及び宿主細胞タンパク質を実質的に含まない純粋で均質な産物を得るために、従来の精製手順を行う。最初に、細胞及び細胞残屑を培養液又はライセートから除去する。所望の遺伝子産物を、次に、混入する可溶性タンパク質、ポリペプチド及び核酸から、例えば、免疫親和性及びイオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC又はセファデックスでのクロマトグラフィー、シリカ又は陽イオン交換樹脂(例えばDEAEなど)により除くことができる。組換え宿主細胞により発現される異種タンパク質の精製をもたらす方法は、当業者に公知であり、文献において記載されている。
【0075】
本発明を、本明細書において、例として一部の実施態様を参照することにより記載する。
【0076】
実施例
略語
AFM:原子間力顕微鏡法
β2m:β2ミクログロブリン
bp:塩基対
CD:円二色性
CH2:重鎖Igの第2定常ドメイン
CHO:チャイニーズハムスター卵巣
CL:軽鎖Igの定常ドメイン
DHFR:ジヒドロ葉酸還元酵素
E. coli:大腸菌
EDTA:エチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸
ELISA:酵素結合免疫吸着検定法
FUV:遠紫外線
GdmCl:塩酸グアニジン
GSH:グルタチオン
GSSG:グルタチオンジスルフィド
HSQC:異核種単一量子コヒーレンス法
HC:重鎖
HT:ヒポキサンチン/チミジン
Ig:免疫グロブリン
IgG:免疫グロブリンG
kb:キロベース
LC:軽鎖
mAk:モノクローナル抗体
MD:分子動力学
MTX:メトトレキサート
NMR:核磁気共鳴
NPT:ネオマイシン−ホスホトランスフェラーゼ
NUV:近紫外線
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
SEAP:分泌型アルカリホスファターゼ
WT:野生型
【0077】
方法
細菌中でのタンパク質産生及び精製
タンパク質の発現のために、組換えE. coli細菌BL21 DE3(Stratagene, CA, USA)を37℃のLB選択培地中で振盪フラスコにおいて300rpmで一晩培養する。NMR測定のためのアイソトープ標識タンパク質を産生するために、組換え細菌を、単一窒素源として15N塩化アンモニウムを、又は、場合により、追加で単一炭素源として13Cグルコースを伴うM9最少培地(Sigma)中で培養する。
【0078】
次に、「封入体」を単離する。このために、細菌を遠心により除去し、100mM Tris/HCl(pH 7.5)、10mM EDTA、100mM NaCl、プロテアーゼインヒビター中に再懸濁させる。細胞をフレンチプレス中で溶解させ、2% v/v Triton X−100と混合し、4℃で30分間撹拌する。遠心(20,000rpm、30分間)により、「封入体」をペレットとして単離し、次に、100mM Tris/HCl(pH 7.5)、10mM EDTA、100mM NaCl、プロテアーゼインヒビター中で2回再懸濁させ、再び遠心(20,000rpm、30分間)して捨てた。タンパク質β2m WT(配列番号3)、β2mからCL(配列番号4)、CH2 WT(配列番号5)、及びCH2 Helix1突然変異体(配列番号6)については、封入体のペレットを次に100mM Tris/HCl(pH 8.0)、10mM EDTA、8M尿素に再懸濁し、100mM Tris/HCl(pH 8.0)、10mM EDTA、5M尿素中で平衡化させたQセファロースカラムに加えた。全てのタンパク質がフロースルー中にあり、4℃の250mM Tris/HCl(pH 8.0)、100mMアルギニン、10mM EDTA、1mM GSSG、0.5mM GSH中での透析により一晩リフォールディングさせる。次に、タンパク質を濃縮させ、最終的に、PBS中で平衡化させたSuperdex75pg ゲルろ過カラムを通して精製する。
【0079】
N末端Hisタグを含むタンパク質CL WT(配列番号1)、CL P35A(配列番号7)、及びCLからβ2m(配列番号2)を精製するために、封入体を100mMリン酸ナトリウム(pH 7.5)、6M GdmCl、20mM β-メルカプトエタノール中で2時間、20℃で可溶化させる。不溶性成分を次に遠心(48000g、25分間、20℃)により除く。上清を、50mMリン酸ナトリウム(pH7.5)、4M GdmCl中で5倍希釈し、ニッケルキレートカラム(Ni-NTA、Qiagen)に加える。5カラム容積での洗浄後、溶出を50mMリン酸ナトリウム(pH 4)、4M GdmClで行う。透折によるリフォールディングを、4℃の250mM Tris/HCl(pH 8.0)、5mM EDTA、1mM酸化グルタチオン中で一晩行う。凝集物を遠心(48000g、25分間、4℃)により除く。N末端Hisタグを除去するために、0.25単位のトロンビン(Novagen)を、4℃で16時間、タンパク質1ミリグラム当たりに加える。さらなる遠心後、タンパク質を、最終的に、20mMリン酸ナトリウム(pH 7.5)、100mM NaCl、1mM EDTA中で平衡化したSuperdex75pgゲルろ過カラムを通して精製する。
【0080】
CDスペクトロスコピー
CD測定をJascoJ−715分光偏光計で行う。測定を20℃のPBS中で行う。
【0081】
遠UV CDスペクトルを、0.2mmの石英ディッシュ中で、タンパク質濃度50μMで195〜250nmから測定し、近UV CDスペクトルを、5mmの石英ディッシュ中で、タンパク質濃度50〜100μMで250〜320nmから測定する。測定を20℃のPBS中で行う。スペクトルを各場合において16倍に蓄積し、平均し、バッファー補正する。温度遷移をそれぞれ218nm(CH2 WT/突然変異体)又は205nm(CL、β2m WT/突然変異体)で、10μMのタンパク質濃度のPBS中で、1mm石英ディッシュにおいて20℃/時の加熱速度で測定する。
【0082】
AFM測定
原線維化実験のために、PBS(1:1)中の100μMタンパク質溶液を、バッファーA(25mM酢酸ナトリウム、25mMリン酸ナトリウム、pH 1.5又は2.5)と混合する。最終pH値は、このように、それぞれpH 1.5又はpH 3.0である。溶液を、7日間、穏やかに傾けながら37℃でインキュベートし、次に20μLの溶液を新しい雲母表面に加えて、滅菌ろ過水で3回洗浄し、次にAFM中で分析する。スキャン速度1.5μm/分のAFM接触モードを使用する。測定を、Digital Instruments Multimode Scanning Probe顕微鏡及びDNP−S20チップを使用して行う。「シード(Seeds)」を、10分間、超音波槽中でインキュベートすることによりベータ2ミクログロブリン原線維(pH 1.5)から生成する。「シーディング(Seeding)」実験のために、2μlの「シード」を100μlの混合物に加える。
【0083】
NMR測定
特記なき場合、全てのスペクトルを25℃で、Bruker DMX600、DMX750、及びAVANCE900分光計において測定する。割当を、標準的な三重共鳴スペクトルを使用して試みる。リフォールディング実験及びリアルタイムHSQC測定のために、CLを、2M塩化グアニジウム中でアンフォールドさせ、次に、氷冷PBSで1:10希釈する。フォールディングプロセス中でのHSQC測定を2℃で14分毎に行い、SPARKYを使用して分析する。
【0084】
遺伝子合成
野生型CH2ドメイン及びCLドメインについての配列領域を、PCRにより、ヒトIgG1抗体遺伝子又はマウス抗体MAK33のカッパ鎖から増幅させる(Augustine, J. G. et al., J. Biol. Chem. 276 (5), 3287-3294, 2001)。P35A突然変異を、CLドメイン中に、変異プラマーを使用したPCR突然変異誘発により挿入する。E. coli中での発現のために、ヘリックス最適化したCH2突然変異体、β2m−WT、及びCLヘリックスを移植したβ2m突然変異体のCH2ドメインについての配列領域をデノボで合成する(www.geneart.com)。CHO−DG44細胞中での完全抗体の発現のために、ヘリックス突然変異を、変異プライマーを使用したPCR突然変異誘発により、IgG1抗体遺伝子の野生型CH2ドメイン中に挿入する。
【0085】
真核細胞の培養及びトランスフェクション
細胞CHO−DG44/dhfr-/-を、細胞培養フラスコにおいて、ヒポキサンチン及びチミジン(HT)(Invitrogen GmbH, Karlsruhe, DE)を添加した無血清CHO−S−SFMII培地中で浮遊細胞として、37℃で、加湿空気及び5% CO2中で持続的に培養する。細胞数及び生存を、Cedex(Innovatis)を用いて決定し、細胞を次に濃度1〜3×105個/mLで播種し、2〜3日毎に継代する。
【0086】
CHO−DG44のトランスフェクションのために、Lipofectamine Plus Reagent(Invitrogen)を使用する。各トランスフェクションバッチについて、合計1.0〜1.1μgのプラスミドDNA、4μLのLipofectamine、及び6μLのPlus試薬を製造者の指示に従って混合し、容積200μL中で、0.8mlのHT添加CHO−S−SFMII培地中の6×105個の細胞に加える。細胞インキュベーター中での37℃で3時間のインキュベーション後、2mLのHT添加CHO−S−SFMII培地を加える。48時間の培養期間後、トランスフェクション混合物を回収するか(一過性トランスフェクション)、又は、選択に供する。1つの発現ベクターがDHFR選択マーカーを含み、他のベクターがNPT選択マーカーを含むため、トランスフェクションから2日後、コトランスフェクトした細胞を、DHFR及びNPTベースの選択のためにヒポキサンチン及びチミジンを加えていないCHO−S−SFMII培地中に移し、G418(Invitrogen)も培地中に濃度400μg/mLで加える。
【0087】
組込まれた異種遺伝子のDHFRベースの遺伝子増幅を、HT不含CHO−S−SFMII培地への濃度5〜2000nMでの選択薬剤MTX(Sigma)の添加により行う。
【0088】
発現ベクター
CHO−DG44中での発現のために、pAD−CMVベクターに基づく真核生物の発現ベクターを使用し(Werner, R. G. et al., Arzneimittel-Forschung/Drug Research 48, 870-880, 1998)、CMVエンハンサー/CMVプロモーターの組み合わせを介した異種遺伝子の発現を媒介する。第1ベクターpBI−26は、増幅可能な選択マーカーとして作用するdhfrミニ遺伝子を含む。第2ベクターpBI−49において、dhfrミニ遺伝子をNPT遺伝子により置換する。この目的のために、NPT選択マーカー(SV40初期プロモーター及びTKポリアデニル化シグナルを含む)を、市販のプラスミドpBK−CMV(Stratagene, La Jolla, CA, USA)から1640bpのBsu36Iフラグメントとして単離した。Klenow DNAポリメラーゼを用いたフラグメントの平滑化(topping up)反応後、フラグメントを第1ベクターの3750bpのBsu36I/StuIフラグメント(同様にKlenow DNAポリメラーゼを用いて処理した)と連結した。次に、NPT遺伝子を改変した。それはNPTバリアントF240I(Phe240Ile)であり、そのクローニングはWO2004/050884において記載されている。
【0089】
大腸菌BL21 DE3(Stratagene, CA, USA)中での発現のために、ベクターpET28a(Novagen)を使用する。
【0090】
ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)
安定的にトランスフェクトされたCHO−DG44細胞の上清における発現抗体の定量化を、標準的手順に従ってELISAを使用し、一方ではヤギ抗ヒトIgG Fcフラグメント(Dianova, Hamburg, DE)を、他方ではAP抱合ヤギ抗ヒトカッパ軽鎖抗体(Sigma)を使用して行う。使用したスタンダードは、各場合における発現抗体と同じアイソタイプの精製抗体である。
【0091】
SEAPアッセイ
一過性にトランスフェクトされたCHO−DG44細胞からの培養上清中のSEAP力価を、製造者(Roche Diagnostics GmbH)の操作指示に従ってSEAP Reporter Gene Assaysを使用して定量化する。
【0092】
ThermoFluor(登録商標)方法
最適化されたタンパク質/免疫グロブリンの熱安定性を分析するために、ThermoFluor(登録商標)方法に基づくqPCRシステム(Mx3005PTM; Stratagene)を使用する。ソルバトクロミック/環境感受性の蛍光色素が、タンパク質の熱安定性におけるわずかな変化の指標として使用される。この蛍光色素は、水溶液中で小さな量子収率を有し、温度上昇の結果としてアンフォールドするタンパク質の疎水性の非天然構造と相互作用する。既にアンフォールドしたタンパク質ドメインと色素の相互作用は、検出された蛍光における有意な増加をもたらす(Cummings M. D. et al., Journal of Biomolecular Screening 854 - 863, 2006)。
【0093】
25〜95℃の温度範囲における1分当たり1℃の間隔でのタンパク質プローブの測定が容積20μL中で起こり、2μMタンパク質及び4xSyproOrange(5000xSyproOrange原液から調製;Invitrogen)を、各場合において試験すべきバッファー中で使用する。
【0094】
実施例1:免疫グロブリンドメインの生物物理学的特性を改善するための手法
第一工程は、最適化の標的として選択された免疫グロブリンドメイン中にヘリックスが存在しない場合、ヘリカルエレメント又は対応するループを同定することである。抗体の定常ドメインの場合、ヘリックスは、例えば、βプリーツシート鎖AとB及びEとFの間に常に位置付けられる(図4)。これらの領域の同定後、最適化を以下の計画に従って行う:
【0095】
1.全てのプロリン基及び/又はグリシン基を、別のアミノ酸、好ましくはアラニンにより置換する(優先すべきポイント2との不一致が存在しない場合)。置換すべき基が、先行するβプリーツシート鎖の後の最初の基又は続くβプリーツシート鎖の前の最後の基ではない場合にだけ置換を行う。
2.次に、ヘリックスを追加の塩橋の挿入により安定化する。これは、既存のアミノ酸を、異なる荷電の荷電側鎖を有するアミノ酸で置換することにより行う。アルギニン、リジン、ヒスチジン、アスパラギン酸、又はグルタミン酸の任意の組み合わせを使用してよい。置換すべき基を、2、3、又は4個のアミノ酸により分離させ、ヘリックス中での塩橋の形成を確実にしなければならず、挿入された荷電基が、例えば、ナンバリングi及びi+3、i及びi+4、又はi及びi+5を有するようにする。上記の基の全ての順列が可能である。好ましくは、しかし、アルギニン、リジン、又はヒスチジンが、アスパラギン酸又はグルタミン酸よりもC末端により近く挿入される。二重塩橋も、それらがヘリックス長と一致し、指定された全ての他の点例えば、基i、及びi+3、i+4又はi+5、及びi+7、i+8又はi+9が、先に記載した通りに置換される場合、理論的に可能である。基i、及びi+7、i+8又はi+9は、各々が同じ荷電を有し、一方、基i+3、i+4又はi+5は反対荷電を有する。位置i+3、i+4又はi+5では、アスパラギン酸、グルタミン酸、又はアルギニンを好ましくは使用すべきである。この工程において、タンパク質の表面上に位置付けられる溶媒暴露基だけを置換すべきである。
3.ポイント1及び/又は2に記載される最適化を受けない全ての残りの基を、αヘリックスの形成の確率の増加をもたらすアミノ酸により置換する。コンピューターアルゴリズムAgadir(Internet ad-dress: http://www.embl.de/Services/serrano/agadir/ agadir-start.html)又はαヘリックスの形成の確率を予測するための任意の他のアルゴリズムが、基礎を形成する。この工程において、タンパク質の表面上に位置付けられる溶媒暴露基だけを置換すべきである。
一般的に、見出されるべきヘリカルエレメントが存在しない抗体の可変ドメイン及び/又は他の抗体のドメイン及び/又は他の免疫グロブリンドメインについて、対応するループを、最初に、抗体の定常ドメイン、好ましくは最適化すべき分子が起因する同じ生物のIgG1サブクラスのCLドメインからのヘリックスにより置換すべきである。次に、最適化を上の手順に従って行う。
【0096】
実施例2:CLドメインのタンパク質フォールディングの研究
抗体ドメインのフォールディング経路の重要な決定基を確かめるために、高分解能構造研究を、マウスMAK33 CLドメイン及びスポット突然変異体(CL−P35A)について行う。タンパク質CL WT(配列番号1)及びCL−P135A(配列番号7)をE. coli中で組換え産生させる。CL WT中の最初の4つのN末端アミノ酸の各々は、発現ベクターpET28a中への選ばれたクローニング戦略に由来し、CLドメインにおいて天然に存在しない。NMRスペクトロスコピーを、変性剤GdmCl中でのアンフォールディング後、リアルタイムに低温でCLドメインのフォールディングをモニターするために使用できる(図5及び6)。鎖AとBの間及び鎖EとFの間の2つの短いヘリカルエレメントが、主なフォールディング中間体において既に完全に構造化されていることが見出される(図5及び6)。このように、それらが、これら及び他の抗体ドメインのフォールディングプロセスにおいて重要な役割を果たすことを仮定することができる。CLドメインをフォールドする速度決定工程は、その前にフォールディング中間体が集合され、プロリン基35のトランスからシスへの異性化である。従って、この基はアラニンについて交換され、それは常にトランスで存在するはずである。この方法では、フォールディング中間体を平衡状態で安定化させることができる。それに関するNMR研究によって、WT−CLドメインに関する動態学的研究が確認される:2つの短いヘリックスは、CLドメイン中の完全に構造化されたエレメントだけである。
【0097】
実施例3:ヘリカルエレメントの移植
CH1ドメイン(わずかに顕著なヘリックスだけを有する)及び可変ドメイン(ヘリックスを有さない)中への、特に、抗体の定常ドメインCL、CH2、及びCH3からのヘリカルエレメントの移入が、1つの可能なアプローチである。ヘリックスの追加の又は代わりの最適化のために、例えば、ヘリックス内に追加の塩橋を用い、ヘリックス破壊剤(プロリン基又はグリシン基)を除くことが可能である。このアプローチでの生存を、マウスIgG及びベータ2ミクログロブリンのカッパ軽鎖のCLドメインに関する試験により実証することができる。遺伝子改変により、βプリーツシート鎖AとB又はEとFを連結するCL中の2つのヘリカルエレメント(図5)を、ベータ2ミクログロブリンからの対応する非構造化領域(図2)(CLからβ2m;配列番号2)と交換する。逆に、ベータ2ミクログロブリン中の非構造化領域を、CLからの対応するヘリカルエレメント(β2mからCL;配列番号4)により置換する。タンパク質CLからβ2m及びβ2mからCLならびに、コントロールとして、野生型配列β2m(配列番号3)及びCL(配列番号1)をE. coli中で組換え産生させる。CL WT中の最初の4つのN末端アミノ酸又はCLからβ2m中の最初のN末端アミノ酸は、各場合において、発現ベクターpET28a中への選ばれたクローニング戦略に起因し、CLドメインにおいて天然で存在しない。CLは、そのヘリックス(=CLからβ2m)の非存在において、その天然構造にもはやフォールドできないのに対し、ベータ2ミクログロブリンは、CLヘリックスがベータ2ミクログロブリン配列(β2mからCL)(図7及び8を参照のこと)中に移植される場合に凝集する傾向が有意に低くなることをCDスペクトロスコピーにより示すことができる。さらに、分子力学シミュレーションによって、ベータ2ミクログロブリンタンパク質に関連してでさえ、CLヘリックスがそれ自体で構造化し、このように、実際に、頑強なフォールディングエレメントを構成することが示されている。これらの測定は、例として、抗体ドメインの構造化における必須の役割及びIgトポロジーに対するポジティブな影響の両方を示すことができる。
【0098】
実施例4:ヒトIGG1 CH2ドメインの最適化
IgG Fcフラグメント(図1)内で、CH2ドメインは安定性の点で最も弱い連結である。また、FcフラグメントはIgG抗体の一般的なプラットフォームとして見なすことができ、CH2ドメインの生物物理学的特性の最適化が、一方で、Fcフラグメントの全安定性を増加するはずであり、他方で、普遍的に適用可能である最適化を構成するはずである。
【0099】
この例について、ヒトIgG1 CH2ドメインの第1ヘリックス(図9A)が最適化のために選択される。追加の塩橋が、標的突然変異誘発によりその中に挿入される(図9B)。両方のCHドメイン、野生型(CH2 WT;配列番号5)及びHelix1突然変異体(CH2 Helix1突然変異体;配列番号6)をE. coli中で発現させる。CH2 Helix1突然変異体中の最初のN末端アミノ酸は、発現ベクターpET28a中への選ばれたクローニング戦略に由来し、CL2ドメインにおいて天然で存在しない。精製タンパク質を用いて行われた分析によって、このアプローチを使用して、二次構造及び三次構造の点で野生型ドメインから実質的に不変であるが(図10)、しかし、4〜5℃高い融点を有する(図11)CH2ドメインを生成することが可能であることが示される。また、第1ヘリックスを最適化することにより、組換えCH2ドメインのリフォールディングにおいてより高い収率を得ることができ、それは、この突然変異ドメインの最適化されたフォールディング特性を直接的に示唆する。
【0100】
実施例5:CHO細胞中での最適化された抗体の発現
CHO−DG44細胞の一過性トランスフェクションにより、最初に、ヘリックス最適化配列エレメントKAEDTLHISR(配列番号9)によるIgG1抗体遺伝子のCH2ドメイン中のヘリカルエレメントKPKDTLMISR(配列番号8)の置換が、IgG1分子の発現に影響を有するか否かを調べた。コトランスフェクションを以下のプラスミドの組み合わせを用いて行う:
a)コントロールプラスミドpBI−26/IgG1−HC及びpBI−49/IgG1−LC、CH2ドメイン中に配列領域KPKDTLMISR(配列番号8)を有するモノクローナルIgG1抗体について(=野生型配置;以下、IgG1−WTと呼ぶ)、
b)pBI−26/IgG1−HChelix1及びpBI−49/IgG1−LC、モノクローナルIgG1抗体について、それにおいて、ヒトVH2ドメイン中の第1ヘリックスが、KAEDTLHISR(配列番号9)による配列領域KPKDTLMISR(配列番号8)の置換により最適化される。
【0101】
3プールを各組み合わせについてトランスフェクトし、等モルの2つのプラスミドを各コトランスフェクションにおいて使用する。48時間後、回収し、細胞培養上清中のIgG1力価をELISAにより決定する。トランスフェクション効率における差を、SEAP発現プラスミドとのコトランスフェクション(各トランスフェクション混合物への100ngのプラスミドの添加)及び続くSEAP活性の測定により補正する。全てにおいて、2つの独立したトランスフェクションシリーズを行う。IgG1分子中のCH2ドメインのヘリックス領域における突然変異が、抗体の発現に悪影響を有さないことを示すことができる。得られた産物の量は、IgG1野生型トランスフェクト細胞の量と同等である。
【0102】
CHO−DG44細胞の安定的トランスフェクションのために、上に記載の同じプラスミドの組み合わせを用いてコトランスフェクションを行う。安定的トランスフェクト細胞の選択は、400μg/mLのG418を添加したHT不含培地中でのトランスフェクションから2日後に起こる。選択後、DHFRベースの遺伝子増幅を、100nM MTXの添加による誘導する。物質産生のために、細胞を振盪フラスコにおいて10日間のフェド−バッチ(fed-batch)方法中で増殖させる。精製は、抗体のWT又はHelix1突然変異体について同一である。プロテインA親和性クロマトグラフィー(MabSelect rProteinA, GE Healthcare)を、製造者の指示に従い、平衡化のためのリン酸バッファー(20mMリン酸ナトリウム、140mM塩化ナトリウム、pH 7.5、伝導度16.5mS/cm)及び溶出のための50mM酢酸(pH 3.3)を使用して行う。溶出は、1M Tris pH 8の添加によりpH 5.5に調整する。2つの抗体バリアントについての精製プロファイルは同等である。
【0103】
抗体の熱安定性は、ThermoFluor(登録商標)方法により決定する。CH2ドメイン中の天然ヘリカルエレメントを最適化することにより、IgG1抗体のHelix1突然変異体の熱安定性を、IgG1−WT抗体と比較し、塩基性及び酸性の両方のバッファー条件下で増加させることができる。pH 7.1のPBS中で、Helix1突然変異体のCH2ドメインは、IgG1−WTのCH2ドメインよりも8℃高い融解温度を呈する。また、100mM酢酸(pH 3.4)中では、それはさらに18℃高い。免疫グロブリンの熱安定性におけるこの有意な増加は、治療用タンパク質の生物薬剤学的調製において非常に大きな利点である。CH2ドメインの天然ヘリカルエレメントの最適化は、KAEDTLHISR(配列番号9)を用いて天然の配列領域KPKDTLMISR(配列番号8)(この配列領域は、例えば、ヒトIgG2(配列番号14)及びIgG4(配列番号15)のCH2ドメインにおいて存在する)を置換することにより、生物工学的に産生された治療用タンパク質の頑強性の有意な改善をもたらす。増加した温度安定性及びpH安定性は、治療用タンパク質の産物安全性を増加させるために、ウイルス不活化の方法工程において特に有利である。なぜなら、この工程は酸性pHで行われるからである。他の利点は、クロマトグラフィーにおける及びタンパク質製剤におけるより大きな柔軟性、より低い凝集傾向、及び改善された保存安定性である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ヘリカルエレメントが最適化されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を調製するための生物工学的方法。
【請求項2】
最適化が、ヘリックス内部に追加の塩橋を導入すること、及び/又は、ヘリックス破壊剤を除去することにより行われることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
天然の又は最適化されたヘリカルエレメントが移植されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を調製するための生物工学的方法。
【請求項4】
1つ又は複数のヘリカルエレメントが、少なくとも1つの定常ドメインCL、CH2、及び/又はCH3から、少なくとも1つのCH1定常ドメイン及び/又は可変ドメイン中へ移されることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
Igドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸が、ヘリックスの形成の可能性を増加させる別のアミノ酸により置換されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性を改善するための方法。
【請求項6】
形成の確率がアルゴリズムを使用して算出される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
置換アミノ酸が、2つのβプリーツシート鎖間の領域中に位置付けられることを特徴とする、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
置換アミノ酸が、A型とB型の2つのβプリーツシート鎖間及び/又はE型とF型の2つのβプリーツシート鎖間の領域中に位置付けられることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
置換アミノ酸が、ヘリカル構造を既に有する領域中に位置付けられることを特徴とする、請求項5〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
プロリン又はグリシンが、プロリンでもグリシンでもないアミノ酸により置換されることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
荷電側鎖を有するアミノ酸が、反対荷電の側鎖を有するアミノ酸から(i→i+3)、(i→i+4)、又は(i→i+5)の間隔であるように挿入されることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
反対荷電を有する側鎖を有する少なくとも2つのアミノ酸が挿入され、2つのアミノ酸間の間隔によって、側鎖が塩橋を形成できるようにすることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
2つの置換アミノ酸が、2つ又はそれ以上のアミノ酸((i→i+3)、(i→i+4)、又は(i→i+5))により互いに分離されることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
2つの挿入アミノ酸の1つがグルタミン酸又はアスパラギン酸であり、他のアミノ酸がアルギニン、リジン、又はヒスチジンであることを特徴とする、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
アルギニン、リジン又はヒスチジンが挿入される又は恐らく既に存在している位置が、グルタミン酸又はアスパラギン酸が挿入される又は場合により既に存在している位置よりも、C末端に近いことを特徴とする、請求項11〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
配列が生成される、ここで3つまでのアミノ酸が位置i及び、i+3、i+4又はi+5ならびに、i+7、i+8又はi+9に挿入され、位置i及び、i+7、i+8又はi+9のアミノ酸が同じ荷電の側鎖を有するのに対し、位置i+3、i+4又はi+5のアミノ酸が反対荷電を有することを特徴とする、請求項11〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
中央位置i+3、i+4又はi+5で、アスパラギン酸、グルタミン酸、又はアルギニンが導入される又は場合により既に存在していることを特徴とする、請求項16記載の方法。
【請求項18】
交換後に、タンパク質が、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、SKADYEKHK(配列番号11)、及び/又はTPEQWKSHRS(配列番号16)を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
4〜12の連続アミノ酸が同じ又はより大きい長さのアミノ酸配列により置換され、挿入アミノ酸配列が、置換配列よりも高いヘリックス形成の確率を有することを特徴とする、請求項1〜18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
挿入配列が、免疫グロブリンの軽鎖(CL)又は重鎖(CH)の定常ドメインからのヘリカルエレメントであることを特徴とする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
挿入配列が、免疫グロブリンのCL又はCHドメインのβプリーツシート鎖AとB及び/又はEとF間の領域からのヘリカルエレメントであることを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
挿入配列が、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、SKADYEKHK(配列番号11)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はKPKDTLMISR(配列番号8)を含むことを特徴とする、請求項19〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質を調製するための方法であって、請求項1〜22のいずれか一項記載の方法をこのタンパク質に適用し、このようにして得られたタンパク質を宿主細胞において発現させることを特徴とする、方法。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか一項記載の方法により調製される、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質。
【請求項25】
抗体であることを特徴とする、請求項24記載のタンパク質。
【請求項26】
免疫グロブリンのフォールディングパターン及び少なくとも1つの可変ドメインを有するタンパク質であって、それがこの可変ドメイン中にヘリカルエレメントを含むことを特徴とする、タンパク質。
【請求項27】
免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH2型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質であって、それが、この定常ドメインにおいて、配列 配列番号5を有するCH2ドメインのヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする、タンパク質。
【請求項28】
免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH1型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質であって、それが、この定常ドメインにおいて、ヒトにおいて天然に存在するCH1ドメインのヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする、タンパク質。
【請求項29】
ヘリカルエレメントが、配列KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を含むことを特徴とする、請求項27記載のタンパク質。
【請求項30】
ヘリカルエレメントが、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を含むことを特徴とする、請求項26又は28記載のタンパク質。
【請求項31】
Igドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメントを有し、それが、配列 配列番号1、配列番号12又は配列番号13(CL WT)又は配列番号5、配列番号14又は配列番号15(CH2 WT)の1つにおいて含まれるヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有する、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質。
【請求項32】
ヘリカルエレメントが配列KAEDTLHISR(配列番号9)を含むことを特徴とする、請求項31記載のタンパク質。
【請求項33】
医薬使用のための請求項24〜31のいずれか一項記載のタンパク質。
【請求項34】
天然ヘリカルエレメントの最適化が行われることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変するための生物工学的方法。
【請求項35】
天然の又は最適化されたヘリカルエレメントの移植が行われることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変するための生物工学的方法。
【請求項1】
天然ヘリカルエレメントが最適化されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を調製するための生物工学的方法。
【請求項2】
最適化が、ヘリックス内部に追加の塩橋を導入すること、及び/又は、ヘリックス破壊剤を除去することにより行われることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
天然の又は最適化されたヘリカルエレメントが移植されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質を調製するための生物工学的方法。
【請求項4】
1つ又は複数のヘリカルエレメントが、少なくとも1つの定常ドメインCL、CH2、及び/又はCH3から、少なくとも1つのCH1定常ドメイン及び/又は可変ドメイン中へ移されることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
Igドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸が、ヘリックスの形成の可能性を増加させる別のアミノ酸により置換されることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質の生物物理学的特性を改善するための方法。
【請求項6】
形成の確率がアルゴリズムを使用して算出される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
置換アミノ酸が、2つのβプリーツシート鎖間の領域中に位置付けられることを特徴とする、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
置換アミノ酸が、A型とB型の2つのβプリーツシート鎖間及び/又はE型とF型の2つのβプリーツシート鎖間の領域中に位置付けられることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
置換アミノ酸が、ヘリカル構造を既に有する領域中に位置付けられることを特徴とする、請求項5〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
プロリン又はグリシンが、プロリンでもグリシンでもないアミノ酸により置換されることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
荷電側鎖を有するアミノ酸が、反対荷電の側鎖を有するアミノ酸から(i→i+3)、(i→i+4)、又は(i→i+5)の間隔であるように挿入されることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
反対荷電を有する側鎖を有する少なくとも2つのアミノ酸が挿入され、2つのアミノ酸間の間隔によって、側鎖が塩橋を形成できるようにすることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
2つの置換アミノ酸が、2つ又はそれ以上のアミノ酸((i→i+3)、(i→i+4)、又は(i→i+5))により互いに分離されることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
2つの挿入アミノ酸の1つがグルタミン酸又はアスパラギン酸であり、他のアミノ酸がアルギニン、リジン、又はヒスチジンであることを特徴とする、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
アルギニン、リジン又はヒスチジンが挿入される又は恐らく既に存在している位置が、グルタミン酸又はアスパラギン酸が挿入される又は場合により既に存在している位置よりも、C末端に近いことを特徴とする、請求項11〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
配列が生成される、ここで3つまでのアミノ酸が位置i及び、i+3、i+4又はi+5ならびに、i+7、i+8又はi+9に挿入され、位置i及び、i+7、i+8又はi+9のアミノ酸が同じ荷電の側鎖を有するのに対し、位置i+3、i+4又はi+5のアミノ酸が反対荷電を有することを特徴とする、請求項11〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
中央位置i+3、i+4又はi+5で、アスパラギン酸、グルタミン酸、又はアルギニンが導入される又は場合により既に存在していることを特徴とする、請求項16記載の方法。
【請求項18】
交換後に、タンパク質が、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、SKADYEKHK(配列番号11)、及び/又はTPEQWKSHRS(配列番号16)を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
4〜12の連続アミノ酸が同じ又はより大きい長さのアミノ酸配列により置換され、挿入アミノ酸配列が、置換配列よりも高いヘリックス形成の確率を有することを特徴とする、請求項1〜18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
挿入配列が、免疫グロブリンの軽鎖(CL)又は重鎖(CH)の定常ドメインからのヘリカルエレメントであることを特徴とする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
挿入配列が、免疫グロブリンのCL又はCHドメインのβプリーツシート鎖AとB及び/又はEとF間の領域からのヘリカルエレメントであることを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
挿入配列が、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、SKADYEKHK(配列番号11)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はKPKDTLMISR(配列番号8)を含むことを特徴とする、請求項19〜21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質を調製するための方法であって、請求項1〜22のいずれか一項記載の方法をこのタンパク質に適用し、このようにして得られたタンパク質を宿主細胞において発現させることを特徴とする、方法。
【請求項24】
請求項1〜23のいずれか一項記載の方法により調製される、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質。
【請求項25】
抗体であることを特徴とする、請求項24記載のタンパク質。
【請求項26】
免疫グロブリンのフォールディングパターン及び少なくとも1つの可変ドメインを有するタンパク質であって、それがこの可変ドメイン中にヘリカルエレメントを含むことを特徴とする、タンパク質。
【請求項27】
免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH2型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質であって、それが、この定常ドメインにおいて、配列 配列番号5を有するCH2ドメインのヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする、タンパク質。
【請求項28】
免疫グロブリンのフォールディングパターン及びCH1型の少なくとも1つの定常ドメインを有するタンパク質であって、それが、この定常ドメインにおいて、ヒトにおいて天然に存在するCH1ドメインのヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有するヘリカルエレメントを含むことを特徴とする、タンパク質。
【請求項29】
ヘリカルエレメントが、配列KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を含むことを特徴とする、請求項27記載のタンパク質。
【請求項30】
ヘリカルエレメントが、配列KPKDTLMISR(配列番号8)、KAEDTLHISR(配列番号9)、TKDEYERH(配列番号10)、TPEQWKSHRS(配列番号16)、又はSKADYEKHK(配列番号11)を含むことを特徴とする、請求項26又は28記載のタンパク質。
【請求項31】
Igドメイン中に少なくとも1つのヘリカルエレメントを有し、それが、配列 配列番号1、配列番号12又は配列番号13(CL WT)又は配列番号5、配列番号14又は配列番号15(CH2 WT)の1つにおいて含まれるヘリカルエレメントよりも高いヘリックス形成の確率を有する、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有するタンパク質。
【請求項32】
ヘリカルエレメントが配列KAEDTLHISR(配列番号9)を含むことを特徴とする、請求項31記載のタンパク質。
【請求項33】
医薬使用のための請求項24〜31のいずれか一項記載のタンパク質。
【請求項34】
天然ヘリカルエレメントの最適化が行われることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変するための生物工学的方法。
【請求項35】
天然の又は最適化されたヘリカルエレメントの移植が行われることを特徴とする、免疫グロブリンのフォールディングパターンを有する抗体又はタンパク質の生物物理学的特性を改変するための生物工学的方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2011−526595(P2011−526595A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515444(P2011−515444)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058225
【国際公開番号】WO2010/000758
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058225
【国際公開番号】WO2010/000758
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】
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