説明

共沸溶剤組成物、共沸様溶剤組成物および混合溶剤組成物

【課題】油脂類や塵埃の除去に効果があり、アクリル樹脂を含めた幅広い基材への影響がなく、適度な溶解力を有する溶剤組成物を提供する。
【解決手段】(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン 69質量%、(パーフルオロブトキシ)メタン 31質量%とからなる共沸溶剤組成物。(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン 55〜85質量%、および(パーフルオロブトキシ)メタン 15〜45質量%を含有する共沸様溶剤組成物。(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン 30〜90質量%、および(パーフルオロブトキシ)メタン 10〜70質量%を含有する混合溶剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IC等の電子部品、精密機械部品、ガラス基板、樹脂成型部品等の物品の表面に付着する油脂類、塵埃などの汚れを除去するために用いられる溶剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、精密機械工業、光学機器工業、電気電子工業、およびプラスチック加工業等の製造加工工程において、物品の表面に付着した油脂類や塵埃等を除去するための精密洗浄の洗浄剤としては、クロロフルオロカーボン類、ハイドロクロロフルオロカーボン類等が用いられてきた。
【0003】
しかし、近年では、不燃性で化学的および熱的安定性と乾燥性に優れ、オゾン破壊係数がゼロで地球温暖化効果の小さいという利点を有することから、上記洗浄剤として、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンや(パーフルオロブトキシ)メタン等のハイドロフルオロエーテル類(以下、HFE類という。)が広く使われるようになっている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
しかし、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを、アクリル樹脂やアクリル樹脂をコートした材料を該溶剤に接触させると、当該材料に白化や割れが生じる、アクリル樹脂が溶出する等の問題があることから、被洗浄物品の材質が限られる問題があった。
【0005】
一方、(パーフルオロブトキシ)メタンは、油脂の種類によっては溶解力が十分ではないため、洗浄に用いた場合の洗浄力が不十分となり、被洗浄物品の表面に油脂が残存する洗浄不良を起こす場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開平4−227695号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平10−324897号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アクリル樹脂への影響を改善し、幅広い材料の洗浄に適し、適度な洗浄力を有する溶剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン 69質量%、(パーフルオロブトキシ)メタン 31質量%とからなる共沸溶剤組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン 55〜85質量%、および(パーフルオロブトキシ)メタン 15〜45質量%を含有する共沸様溶剤組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン 30〜90質量%、および(パーフルオロブメトキシ)メタン 10〜70質量%を含有する混合溶剤組成物を提供する。
【0011】
以下、本明細書においては、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンをHFE347といい、(パーフルオロブトキシ)メタンをHFE449という。
【発明の効果】
【0012】
本発明の共沸溶剤組成物、共沸様溶剤組成物、および混合溶剤組成物は、前記混合溶剤組成物はアクリル樹脂への影響が極めて低く、適度な溶解力を有するものであり、様々な物品の洗浄に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の共沸溶剤組成物は、圧力1010hPaにおける沸点が55.2℃である。共沸溶剤組成物は、該溶剤組成物を繰り返し蒸発、凝縮させた場合、組成変化がなく、極めて安定して洗浄性能が得られる利点がある。
【0014】
また、本発明の共沸様溶剤組成物は、蒸発、凝縮を繰り返した場合の組成の変動が小さい組成物である。共沸溶剤組成物とほぼ同等に取り扱え、共沸溶剤組成物と同等の安定した洗浄性能等が得られる利点がある。なかでも、組成範囲が、HFE347 66〜72質量%、HFE449 34〜28質量%であるものは、特に上記組成変動が小さく、実質上、共沸溶剤組成物として取扱うことができるので特に好ましい。
【0015】
本発明の共沸溶剤組成物、共沸様溶剤組成物、および混合溶剤組成物は、アクリル樹脂へ及ぼす影響はきわめて低いが、油脂には適度な溶解力を有するものである。
【0016】
本発明の共沸様溶剤組成物は、HFE347とHFE449のみからなることが好ましいが、共沸様溶剤組成物としての性質を阻害しない範囲であれば、さらに他の化合物を含んでいてもよい。他の化合物の含有割合は、30質量%以下、特には20質量%以下、さらは10質量%以下であるのが好ましい。
【0017】
また、本発明の混合溶剤組成物は、他の化合物を任意に含むことができ、その含有割合は、30質量%以下、特には20質量%以下、さらには10質量%以下とするのが好ましい。
【0018】
本発明の共沸様溶剤組成物または混合溶剤組成物が含み得る他の化合物としては、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類(ただし、フッ素系エーテル類を除く。)、エステル類およびグリコールエーテル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0019】
炭化水素類としては、炭素数5〜15の鎖状または環状の飽和または不飽和炭化水素類が好ましく、n−ペンタン、2−メチルブタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,4−ジメチルペンタン、n−オクタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、2,2−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,3−ジメチルヘキサン、2−メチル−3−エチルペンタン、3−メチル−3−エチルペンタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,3,4−トリメチルペンタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2−メチルヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−ノナン、2,2,5−トリメチルヘキサン、n−デカン、n−ドデカン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビシクロヘキサン等が挙げられる。より好ましくは、n−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の炭素数5〜7の炭化水素である。
【0020】
アルコール類としては、炭素数1〜16の鎖状または環状のアルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンチルアルコール、2−ペンチルアルコール、1−エチル−1−プロピルアルコール、2−メチル−1−ブチルアルコール、3−メチル−1−ブチルアルコール、3−メチル−2−ブチルアルコール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキシルアルコール、2−メチル−1−ペンチルアルコール、4−メチル−2−ペンチルアルコール、2−エチル−1−ブチルアルコール、1−ヘプチルアルコール、2−ヘプチルアルコール、3−ヘプチルアルコール、1−オクチルアルコール、2−オクチルアルコール、2−エチル−1−ヘキシルアルコール、1−ノニルアルコール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキシルアルコール、1−デキルアルコール、1−ウンデキルアルコール、1−ドデキルアルコール、シクロヘキシルアルコール、1−メチルシクロヘキシルアルコール、2−メチルシクロヘキシルアルコール、3−メチルシクロヘキシルアルコール、4−メチルシクロヘキシルアルコール、α−テルピネオール、2,6−ジメチル−4−ヘプチルアルコール、ノニルアルコール、テトラデシルアルコール等が挙げられる。より好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数3以下のアルキルアルコールである。
【0021】
ケトン類としては、炭素数3〜9の鎖状または環状のケトン類が好ましく、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン等が挙げられる。より好ましくは、アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3〜4のケトンである。
ハロゲン化炭化水素類としては、炭素数1〜6の飽和または不飽和の塩素化または塩素化フッ素化炭化水素類が好ましく、塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、トランス−1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロプロパン、ジクロロペンタフルオロプロパン、ジクロロフルオロエタン、デカフルオロペンタン等が挙げられる。より好ましくは、塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の炭素数1〜2の塩素化炭化水素である。
【0022】
エーテル類としては、炭素数2〜8の鎖状または環状のエーテル類が好ましく、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アニソール、フェネトール、メチルアニソール、ジオキサン、フラン、メチルフラン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。より好ましくは、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の炭素数4〜6のエーテルである。
【0023】
エステル類としては、炭素数2〜19の鎖状または環状のエステル類が好ましく、具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸メトキシブチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル等が挙げられる。より好ましくは、酢酸メチル、酢酸エチル等の炭素数3〜4のエステルである。
【0024】
グリコールエーテル類としては、炭素数2〜4である2価アルコールの2〜4量体の一方または両方の水酸基の水素原子が炭素数1〜6のアルキル基で置換されたグリコールエーテル類が好ましく、具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノメトキシメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルのグリコールエーテル類である。
【0025】
本発明の共沸様溶剤組成物または混合溶剤組成物に炭素数1〜3のアルコール類を加えた場合、なかでもエタノールまたはイソプロピルアルコールを加えた場合は、洗浄力を向上できる上、表面に水分が付着した物品から水分を除去する、いわゆる水切り乾燥用途としても利用できる点で好ましい。共沸様溶剤組成物と炭素数1〜3のアルコール類を混合した溶剤組成物が、共沸組成または共沸様組成を形成する場合は、その共沸溶剤組成物または共沸様溶剤組成物を使用することがさらに好ましい。
【0026】
また、主として安定性を高めるという観点から、以下に挙げる化合物の1種または2種以上を、本発明の各溶剤組成物100質量部に対し0.001〜5質量部の割合で、溶剤組成物に配合してもよい。配合できる化合物としては、以下のものが挙げられる。
【0027】
ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類。ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソ−プロピルアミン、n−ブチルアミン等のアミン類。フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、チモール、p−t−ブチルフェノール、t−ブチルカテコール、カテコール、イソオイゲノール、o−メトキシフェノール、ビスフェノールA、サリチル酸イソアミル、サリチル酸ベンジル、サリチル酸メチル、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール等のフェノール類。2−(2´−ヒドロキシ−5´−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2´−ヒドロキシ−3´−t−ブチル−5´−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−[(N,N−ビス−2−エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール等のトリアゾール類。
【0028】
本発明の各溶剤組成物を用いて洗浄できる物品の材質としては、アクリル樹脂などのプラスチックの他に、ガラス、セラミックス、エラストマー、または金属などが挙げられる。また、上記物品の具体例としては、電子・電気機器、精密機械・器具、光学物品等、およびそれらの部品であるIC、マイクロモーター、リレー、ベアリング、光学レンズ、ガラス基板などが挙げられる。
【0029】
上記物品に付着する汚れとしては、当該物品、または当該物品を構成する部品を製造する際に付着し、最終的に除去されなければならない汚れがある。例えば、汚れを形成する物質としては、油脂類や塵埃等が挙げられる。
【0030】
被洗浄物品から汚れを除去するためには、本発明の各溶剤組成物を被洗浄物品の表面に接触させればよい。具体的手段としては、例えば、手拭き、浸漬、スプレー、浸漬揺動、浸漬超音波洗浄、蒸気洗浄、またはこれらを組み合わせた方法等が採用できる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例を用いて説明する。例1〜10、15〜19は実施例であり、例11〜14および20は比較例である。
【0032】
[例1〜13]
HFE347とHFE449を以下に示す重量比で混合して得られる溶剤組成物300gを、オスマー気液平衡蒸留装置に入れ、1000〜1012hPaの大気圧下で蒸留を行い、気相と液相の温度が平衡状態になった時点で、気相および液相から該溶剤組成物のサンプルを採取し、ガスクロマトグラフでHFE347とHFE449を分析し、両者の組成比を測定する。測定値を表1に示す。
【0033】
[例14〜20]
表2に示す組成を有するHFE347、HFE449からなる溶剤組成物各100mL中に、25mm×30mm×2mmのアクリル樹脂(三菱レイヨン社製品名:アクリライトL)のテストピースを30秒間浸漬した後、引き上げ、テストピースの外観を観察する。試験は全て室温(約21℃)で行い、観察の結果を表2に示す。表中において、○:変化なし、×:白化またはクラックが発生、を示す。
【0034】
次に、密栓のできる100mLのガラススクリュー瓶に、表2に示した各溶剤10gを入れ、これに食用油脂パナセート810(日本油脂製品名)を1.1〜10.0gを加えた後、ガラススクリュー瓶を手で上下に10回強く振盪し、食用油脂が溶剤に溶解するかを観察した。試験は全て室温(約25℃)で実施した。観察の結果を表2に示す。表2における油脂の溶解量(%)は、溶解が確認された油脂の溶解量であって、溶剤組成物と油脂との総重量に対する油脂の重量の割合である。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の溶剤組成物は、IC等の電子部品、精密機械部品、ガラス基板、樹脂成型部品等の物品の表面に付着する油脂類、塵埃などの汚れの除去に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン 69質量%、(パーフルオロブトキシ)メタン 31質量%とからなる共沸溶剤組成物。
【請求項2】
(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン 55〜85質量%、および(パーフルオロブトキシ)メタン 15〜45質量%を含有する共沸様溶剤組成物。
【請求項3】
(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン 30〜90質量%、および(パーフルオロブトキシ)メタン 10〜70質量%を含有する混合溶剤組成物。

【公開番号】特開2006−16445(P2006−16445A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193452(P2004−193452)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】