説明

兵器物質の金属酸化物汚染除去

【課題】潜在的危険または致死作用のある化学/生物兵器物質または有害物質により汚染された地域に対し、急速かつ緊急に汚染除去を実施するための金属酸化物汚染除去装置(10)を提供する。
【解決手段】この装置(10)は、好ましくはバルブ型の送出ノズルアセンブリ(16)を備えた加圧可能な金属容器(12)を備え、ノズルアセンブリ(16)を操作すると、金属酸化物および/または金属水酸化物粒子を生成するようになされている。これらの粒子は汚染物質を破壊または化学吸着するように、種類および粒子サイズが選択される。好ましい汚染除去剤は、平均サイズがおよそ50nm〜10μmである塊状のMgOである。ノズルアセンブリ(16)が操作された時に、これらの粒子が急速かつ完全に一掃されるようにするため、容器(12)内で、粒子は気体または液体噴射剤と混合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連明細書]
本明細書は2002年5月14日出願の米国特許出願明細書第10/146376号の部分継続明細書であり、これに記載されているので本願に引用して本明細書の内容とする。
【0002】
本発明は、広くは、地域汚染除去装置およびその方法に関し、任意の地域を少なくとも部分的に、かつ急速に汚染除去する必要のある緊急事態に特に有用である。詳細には、本発明は、加圧、または加圧可能な容器であって、反応性金属酸化物および/または水酸化物粒子(例えば、MgO)を含むスプレー用混合物を内部に含み、選択的に動作可能なスプレーノズルアセンブリを接続した容器を含む装置およびその方法に関する。本発明は、各種の生物化学物質および/または有害物質、特に、生物化学兵器の破壊または化学吸着に特に有用である。
【背景技術】
【0003】
近年のテロ増大への懸念などにより、生物化学兵器や他の汚染物質の影響に対して、各国政府の関心が世界的に高まっている。人口密度の高い地域がこれらの物質に汚染された場合には、大惨事となる恐れが高いことは、災害対策専門家にはよく知られている。兵器物質や、同様の物質の取扱いに関する多くの提案がなされてきた。これらは一般に大規模な、汚染除去または浄化作業に関するものである。しかしながら、多くの場合、影響を受けた人々に対するリスクを最小限に留めるために、少なくとも、限られた地域の部分的な汚染除去を直ちに行うことが必要となると考えられている。
【0004】
現在、生物物質の汚染除去方法として、一般的な2つの種類、つまり化学的消毒と物理的汚染除去がある。次亜鉛素酸塩溶液などの化学的消毒剤は有用であるが、ほとんどの金属および繊維、ならびに人間の皮膚に対して腐食性がある。従来から液状の泡消毒剤が使用されており、一般には効率良く使用するために水および加圧ガスを必要とする。物理的汚染除去は、通常、160℃で2時間乾燥加熱する、もしくはおよそ20分間超高温蒸気にさらす。場合によっては紫外線が有効であるが、実用に導入するのが困難である。化学兵器物質に汚染された地域を汚染除去するために用いられる技術は更に多岐にわたり、主としてその物質の特性に依存する。
【0005】
特許文献1には、金属酸化物化合物を吸着剤として利用して、クロロカーボン、クロロフルオロカーボン、およびPCBなどの有害化合物を破壊する方法が記載されている。また、特許文献2には、生物化学兵器物質などの、生物化学汚染物質の破壊的吸着に、金属酸化物ナノ粒子を用いることが記載されている。しかしながら、これらの文献では、緊急時の状況で金属酸化物を急速使用する技術は記載されていない。
【0006】
酸化マグネシウムおよび同様の酸化物は各種の技術を用いて生成可能であることは知られている。MgOの場合、非特許文献1に記載されるような、エーロゲル作製法を用いて、ナノメータ規模の極小粒子を作製するのが最も良い方法である(この場合はAP−MgOと記載される)。AP−MgO作製の具体的な例は前述の特許文献1の実施例1に記載されている。MgO粒子は、例えば、汎用のMgOを沸騰させ、これを電子レンジで乾燥させ、500℃程度の高温真空状態で脱湿する、などの従来の方法を用いても作製することができる(この場合はCP−MgOと記載される)。
【特許文献1】米国特許第5,914,436号
【特許文献2】米国特許第6,057,488号
【非特許文献1】Utamapanya et al.,Chem. Mater:, 3: 175−181(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術の問題点を解決し、緊急時に急速使用できる汚染除去装置および方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属酸化物および/または金属水酸化物の粒子を利用する地域汚染除去に関する上述の課題を解決し、改良装置および方法を提供する。一般に、好ましい汚染除去装置は、金属酸化物および/または金属水酸化物粒子、およびそれらの混合物を含んだ、加圧されたスプレー可能混合物と、噴射剤とを収容した容器を含む。スプレーノズルが容器に接続され、選択的に動作し、ノズルから金属粒子のスプレーを発生する。緊急事態では、作業者はスプレーノズルを作動して、生物化学兵器物質などの各種の有害物質を(通常は吸着機構を介して)破壊、または化学吸着する効果がある粒子のスプレーまたは霧を生成することができる。
【0009】
他の好ましい装置は、金属酸化物および/または金属水酸化物粒子、およびそれらの混合物を含む加圧可能なスプレー可能混合物を、容器に収容したものである。出口を有するスプレーノズルが容器に接続され、選択的に動作し、ノズル出口から金属粒子のスプレーを発生する。この装置は、容器とノズル出口との間に圧力勾配を作り出し、容器からノズル方向に混合物が流れるようにする手段を更に含み、それにより、混合物へ噴射剤を添加する必要がなくなる。好ましい形態では、この圧力勾配生成手段が、容器内の流体の圧力を増加させるポンプを備えるが、このポンプをノズル出口の圧力を低減するように動作させてもよい。そのようなポンプには、当業者には良く知られている機械および手動の両方で動作可能な容積形ポンプがある。代表的なポンプは、ポンプスプレー装置およびハンドポンプスプレーボトルに見られるポンプである。
【0010】
好ましくは、金属酸化物および/または金属水酸化物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属遷移金属、アクチニドおよびランタニド酸化物および/または水酸化物、およびこれらの混合物を含む群から選ばれる。金属酸化物はその有用性を向上させるためにコーティング、または改質を行ってもよい。好ましい酸化物はMgOである。MgOの作製には、最終的なサイズが、容器から酸化物をスプレーおよびクリーンアウトするのに有効であれば、公知の技術のいずれを用いてもよい。すなわち、酸化物の有効サイズが小さ過ぎる場合は、容器内で固まってしまう傾向にあり、酸化物の有効サイズが大き過ぎる場合は、内部の噴射剤を利用して広域に酸化物を撒くのが困難になる。従って、使用する酸化物についてそれぞれ最適な有効サイズを決定する必要がある。好ましいMgOの場合は、酸化物のナノ結晶を塊状化し、その塊状の平均サイズをおよそ50nm〜10μmとするべきであることがわかっている。
【0011】
金属化合物がナノ結晶体のMgOおよびTiO粒子の混合物を含有することは本発明の範囲内である。MgO対TiOの重量比はおよそ99:1から1:99の間、更に好ましくは、およそ80:20から20:80の間、最も好ましくは70:30から30:70の間である。上述のMgO粒子と同様に、MgOおよびTiO粒子はスプレー効率を最適化するよう凝集されてもよく、その場合、平均サイズはおよそ50nmから10μmである。
【0012】
本汚染除去装置には、窒素、希ガス、二酸化炭素、空気、または揮発性炭化水素や硫化炭素化合物など、任意の適切な液体、または気体の噴射剤を用いることができる。装置内の圧力、または用いる時の圧力は通常、およそ5〜600psiの範囲内である。
【0013】
金属酸化物および/または金属水酸化物粒子を、少なくとも部分的汚染除去のために、特定の地域に対して手動で投与することも、本発明の範囲内である。手動投与の際は、粒子を細く分割した粉剤の形にして有害薬剤または有害物質に接触するようにするのが好ましい。これらの粒子は汚染除去対象地域に、散布(sprinkled)、粉振りかけ(dusted)、またはそれ以外の分散(dispersed)などの方法で投与される。好ましくは、これらの粒子が上述のナノ結晶体MgOおよびTiO粒子の混合物を含有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一般に、本発明は、各種の化学生物兵器物質の破壊または化学吸着を目的とし、反応性金属酸化物および/または金属水酸化物粒子をスプレー、および投与するための加圧された、または加圧可能な供給システムおよび混合物に関する。本発明の1実施例を、加圧(または蓄圧)式装置10の形態で図6に示す。この例では、加圧式装置10は、出口ネック14を有する厚壁金属ボトルまたは容器12を含む一般的な消火器型のユニットである。図のように、従来の手動操作バルブアセンブリ16が出口ネック14に取り付けられている。バルブアセンブリは、容器12の内部に下向きに延在するサイフォン管18を更に含む。しかしながら、本発明はいかなる特定のタイプの容器に限定されることなく、任意の容器であって、所定のレベルに加圧可能であり、かつ、粒子を選択的に発生またはスプレーするバルブ、または同様の機構を備えていれば十分であることが理解されるであろう。
【0015】
図6の装置は、バルブアセンブリ16をポンプスプレーアセンブリ(図示せず)に取り替えて変更してもよい。ポンプスプレーアセンブリは、容器12内の圧力の増加、もしくは、サイフォン管18内の圧力の低下(例えば、真空にする)のいずれかにより、出口ネック14に渡って圧力勾配を生成するように動作する。いずれの方法でも、容器12内の圧力はサイフォン管18内の圧力より高くなり、それによって、容器12内の中身が出口ネック14を通りサイフォン管18を介して容器12から外に流れ出ることが可能になる。
【0016】
1つの実施例では、「2 1/2ポンド」ユニットとして市販されている直径3インチの消火器ボトルを用いて地域汚染除去装置が製造された。この例では、汚染除去剤として、95%の粒子が直径2μm未満のサイズであり、表面積(BET)がおよそ250〜300m/gである従来方法で生成されたMgOが用いられた。この装置は、NおよびHeの混合物からなる噴射剤を含む。ボトルは噴射剤によって、およそ195〜200psiのレベルに加圧された。これらの装置は、0.128インチの出口を有する調節可能なノズルを備え、ノズルを作動すると、粉剤の「ジェットストリーム」が発生するようになされた。
【0017】
大型の汚染除去装置は、直径4 3/4インチの“5ポンド”消火器ユニットを用いて同様に製造することができる。その場合は、クリーンアウト時間および比率を補助するために、潤滑剤を追加することが有用である。具体的には、MgOの全重量を100%として、200メッシュの白雲母マイカを重量比5〜10%程度用いることができる。
【0018】
本発明は、Marrs, T. C. , et al.著 Chemical Warfare Agents, Toxicology andTreatment(英国chichester市、John Wiley & Sons:社、1996年発行)および/またはCompton, J. A. F.著、Military Chemical and Biological Agents, Chemical and Toxicological Properties(米国ニュージャージー州、Caldwell市、The Telford Press社1988年発行)および/または Somani, S. M.著、Chemical Warfare Agents(San Diego市、Academic Press社、1992年発行)(上記はすべて引用されて本明細書の内容に含まれる)に記載の多種多様の生物化学有害物質に対して有用である。対象となるその他の材料は、米国特許第5,990,373号に記載されており、特に、C(OH)(NO、C(Br)(CN)、CCHCN、(CFC=CF、HCN、P(O)(OCHCH)(CN)(N(CH)、C1CN、Zn(CHCH、Hg(CH、Fe(CO)、[(CHCHO]P(O)(CH)(F)、S(CHCHC1)、CC(O)CHC−1、C(O)C1、およびCC1OHを含む。米国特許第6,057,488号には、バシラスセリウス、バシラスグロビギ、クラミジアおよびリケッチアを含む群から選ばれた物質などの適応可能な生物剤が記載されている。米国特許第5,914,316号には、更に、N、PまたはSを含む群から選ばれた原子、またはハロゲン原子を有するクロロカーボン、クロロフルオレカーボンおよびヘテロ原子複合物などの適応可能な対象物質が記載されている。既に述べたように、本発明に期待される主な有用性は、生物化学兵器の破壊、または化学吸着である。次の表に、本発明に従って良好な効果が期待できる、神経剤および糜爛剤、および一般的な生物兵器を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
本発明の、有用な固体活性粒子は1つまたはそれ以上の金属酸化物および/または金属水酸化物を含み、エーロゲル、または従来から作製されているナノ粒子、もしくは市販の大きめの粒子であってよい。金属酸化物または金属水酸化物は、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アクチニドおよびランタニドの酸化物または水酸化物、およびそれらの混合物を含む群から選ばれる。特に好ましい金属酸化物は、MgO、CaO、ZnO、A1、TiO、およびSnO、ならびにそれらの混合物を含む群から選ばれる。コストおよび使い易さの理由から、MgOが特に好ましい。
【0022】
他の好ましい実施例では、本発明に使用する固体活性粒子は、MgOおよびTiOの混合物である。MgO対TiOの重量比はおよそ99:1から1:99であり、さらに好ましくは、80:20から20:80であり、最も好ましくは70:30から30:70である。本発明に記載の好ましいMgO/TiO混合物は、重量にして、65%のMgOおよび35%のTiOを含有する。上述および図6に示す地域汚染除去装置では、MgO/TiO混合物をMgO混合物の代わりにしてもよい。
【0023】
金属粒子は、非塊状粒子サイズをおよそ2〜20nmとし、さらに好ましくはおよそ4〜10nmであり、また表面積(BET)は200〜700m/gとし、さらに好適にはCP MgOの場合は225〜275m/gとし、AP MgOの場合は、550〜650m/gとする。しかしながら、加圧容器から金属酸化物を最も高速に、しかも容器から一掃されるように、確実に投与するには、粒子の塊状平均サイズが50nm〜10μm、さらに好適には500nm〜2μmになるように塊状化されるとよい。このような塊状のサイズは、より小さいナノ規模の粒子や結晶と比較して、優れた投与結果を出すことが示されている。
【0024】
本発明では、1つまたはそれ以上の金属酸化物を含む、または樹脂、ポリマー、ワックス、油脂などでコーティングした、複合製品を使用することもできる。例えば、米国特許第5,914,436号では、微細に粉砕された複合材料が、第1の金属酸化物とは別の、任意量の第2の金属酸化物で少なくとも部分的にコーティングされた第1の金属酸化物担体からなり、遷移金属酸化物を含む群から選ばれることが記載されている。特に好ましい遷移金属酸化物は、TiO、V、Cr、Mn、Fe、CuO、CuO、NiO、CoO、およびその混合物などのチタニウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、銅、ニッケル、およびコバルトの酸化物を含む。
【0025】
好ましい形態では、第1の金属酸化物はMgOおよびCaOを含む群から選択することが有利であり、一方、第2の金属酸化物ははFe、TiO、VおよびMnであることが好ましい。第1の金属粒子は単一結晶、または多結晶のナノ規模の塊状とし、平均結晶サイズがおよそ20nm以下とし、好ましくはおよそ4〜10nmとする。第2の金属粒子は超薄膜、もしくは第1の金属酸化物の表面を被覆するコーティングの形態とし、その複合材全体の平均サイズはおよそ21nm以下とし、好ましくはおよそ5〜11nmとする。本発明のバルク複合材料の平均表面積はおよそ15m/g以上とし、より好ましくはおよそ30〜600m/gとする。さらに好ましい範囲はおよそ100〜600m/gとし、最も好ましくは、およそ250〜600m/gとする。
【0026】
一般に、第1の金属酸化物は、第2の酸化物に比較して相当量超過して存在するものとする。したがって、第1の金属酸化物は、重量にして、複合材全体のおよそ60〜99%を構成し、より好ましくは重量にして、75〜99%、最も好ましくは95〜99%を構成する。同様に、第2の金属酸化物は重量にして、複合材全体のおよそ1〜40%を構成し、より好ましくは重量にして、1〜25%、最も好ましくは1〜5%を構成する。第2の金属酸化物による第1の金属酸化物の被覆率はかなり広範囲であり、例えば、第1の金属酸化物粒子の表面積の75%以上が第2の酸化物によって被覆され、より好ましくは、その表面積のおよそ90〜100%が被覆されるものとする。
【0027】
さらに、上述のように、本発明では、樹脂、ポリマー、ワックス、油脂などでコーティングした複合製品を使用することができる。これらの複合材料は、これらの材料の1つをコーティングした金属酸化物担体を含有する。好ましくは、コーティングは、上述の第2の金属酸化物によって形成された層と同様の薄層の形態とする。同様に、複合粒子は上述の第2の金属酸化物と同じ重量範囲である、樹脂、ポリマー、ワックス、または油脂のコーティングを含む。
【0028】
上述の複合材を使用する場合は、その塊状の平均サイズは50nm〜10μmとし、さらに好ましくは、500nm〜2μmとする。
本発明では、各種の従来からの噴射剤を用いることができる。上述のように、コストと入手の容易さからNが好ましいことが多いが、実質的には、He、Ar、Kr、Xe、Rnおよびこれらの混合物などの不活性ガスまたは希ガス、あるいは、炭酸ガス、空気、炭化水素ガスなどの、加圧可能な水性または非水性の液体や気体からなる任意の噴射剤を使用することができる。また、噴射剤と共に沈殿防止媒体が用いられることが多いが、代表的な沈殿防止媒体は、炭化水素、フッ化炭化水素、3M社のHFE−7100、7200、および7500(メチルフルオロイソブチルエーテルとメチルノナフルオロブチルエーテルの市販用混合物)などのハイドロフルオロエーテルや、その他の高蒸気圧、低沸点媒体である。本発明の汚染除去装置内の圧力レベルは用途に応じて可変であり、圧力レベルは通常、およそ5〜600psiとし、好ましくはおよそ175〜225psiとする。
【0029】
以下の実施例では、化学兵器物質の破壊または化学吸着における金属粒子の有効性を判断するための一連の試験を説明する。なお、これらの実施例は実例として挙げられており、本発明の全体の範囲に対する制限としてとらえられるべきものではない。
【実施例1】
【0030】
この実施例では、市販の活性炭に対して、各種の酸化マグネシウム粉剤の相対有効性をテストした。特に、ラボ作製AP−MgO、パイロットプラント作製AP−MgO、CP−MgO、および市販MgOをすべてAmbersorb活性炭に対してテストした。各テストでは、マスタードガス化学兵器類似品(CWS)、2−クロロエチル エチル スルフィド(2−CEES)を、円錐底の4ドラム渦混合バイアル内に入れられたおよそ0.15gの反応性ナノ粒子(RNP)の上に、RNP試料に対して25%の割合(CWS/RNPx100)で添加した。RNPの使用可能な量が限られているケースでは、その反応性混合物の量を減らしたが、量に関係なく、添加の割合は一定に保たれた。各混合物に蓋をし、磁気撹拌プレートを用いておよそ20秒間渦混合を行った。破壊/化学吸着反応は室温、大気圧下で120分間実施された。この時間の後、抽出溶剤(10mlのn―ヘキサン)を各バイアルに加え、その後、20分間音波粉砕を行った。次に、各試料を5分間遠心分離し、相分離を行った。溶剤のアリコットを5ml取出し、5μl内標準(n−デカン)を加えた。その後、定量GC/MSを用いて反応生成物の特性分析を行った。
【0031】
このテストの結果を図1のグラフに示す。このグラフでは、左側のバーが、粉剤内に封じ込められた2−CEESの割合を表し、左から2番目のバーが粉剤から抽出された2−CEESの割合を表し、一番右のバー(該当する場合のみ表示)が粉剤から抽出された汚染除去生成物を表す。
【0032】
図1からわかるように、粉剤内に封じ込められた2−CEESの割合については、すべてのMgO製品が、活性炭より優れていた。さらに、粉剤から抽出された2−CEESの割合については、すべてのMgO製品が良かった。最後に、生成物から抽出される汚染除去生成物については、パイロットプラント作製AP−MgOおよびCP−MgOが最も良好な結果を出した。
【実施例2】
【0033】
この実施例では、275m/gmの比表面積(BET)を有するCP−MgOの有効性を、米軍使用の市販のイオン交換樹脂標準(Ambergard XE−555(M291)比表面積131m/g)に対してテストした。このテストでは、別のCWSであるパラクソンが使用された。各テストでは、200mlのペンタンが入った円形底のフラスコに、パラクソンを9μl加えた。この溶液を撹拌し、ポンプで貫流キュベットに通し、そこで、266nmにおける基準のUV−VISスペクトルを測定した。ベースラインを設定した後、0.2gのテスト粉剤を、撹拌済みの溶液に加え、さらに、1分間隔で、最大10分間、次に5分間隔で合計最大1時間、UV−VISスペクトル(266nm)を測定した。
【0034】
図2は、このテストの結果を表したもので、明らかに、CP−MgOが優れていることが証明された。つまり、吸光度が低いということは、CWSが、イオン交換樹脂よりも、CP−MgOに大きく反応したということを確認するものである。
【実施例3】
【0035】
この実施例では、ヘッドスペースGCを用いて2−CEESの破壊/化学吸着を測定した。実験は、ヘッドスペースオートサンプラーTekmar7000を備えたHP5890ガスクロマトグラフを用いて実施された。ヘッドスペースバイラルに0.1gの試料(CP−MgO および Ambergard XE555 (M291))と23.3μlの2−CEESを添加した。破壊/化学吸着反応を2時間進行させた。ヘッドスペース内の揮発性反応体および分解生成物を、水素炎イオン型分析計(FID)を備えるGCによって分析した。
【0036】
図3はこのテストの結果を示すもので、一番左側の部分はエチル ビニル スルフィドを表し、真中のバーは2−ヒドロキシル エチル スルフィド(分解生成物)を表し、大きなバーは2−CEESを表す。図示したように、イオン交換樹脂は2−CEESのいずれも分解できていないにもかかわらず、CP−MgOの分析では分解生成物の存在が証明された。
【実施例4】
【0037】
この実施例では、275m/gmの比表面積(BET)を有するCP−MgOの有効性を、実施例2で使用したイオン交換樹脂標準に対してテストした。このテストでは、別のCWSであるジエチル フェニルチオメチルフォスフォナート(DEPTMP)が使用された。各テストでは、撹拌された200mlのペンタンが入った円形底のフラスコに、生のDEPTMP (22μl)を加えた。この溶液を撹拌し、ポンプで貫流キュベットに通し、そこでVarian Cary 100 Bio UV−VIS 分光光度計を用いて255nmにおける基準のUV−VISスペクトルを得た。ベースラインが設定された後、0.2gのテスト粉剤を、撹拌済みの溶液に加え、さらに、1分間隔で、最大10分間、次に5分間隔で合計1時間、UV−VISスペクトル(266nm)を測定した。試料によるDEPTMPの破壊/化学吸着は、255nmにおける特性DEPTMP吸着の低下によって評価した。
【0038】
図4は、このテストの結果を表したもので、明らかに、CP−MgOが優れていることを証明した。つまり、吸光度が低いということは、CWSがイオン交換樹脂よりも、CP−MgOにより大きく反応したということを確認するものである。
【実施例5】
【0039】
このテストでは、2−CEESの破壊/化学吸着を、NicoletProtege 460 FT−IR 分光光度計を用いて、FT−IRにより測定した。各試料粉剤(275m/gの比表面積(BET)を有するCP−MgOおよび比表面積131m/gのAmbergard XE555 (M291)0.1g)を、特殊ガス位相赤外線セルの反応フラスコに加えた。このセルを次に真空ラインで10−3トルまで排気して、FT−IRの中に配置した。バックグラウンドスペクトルを取得し、次に2−CEES (12μl)をサイドポートを介してセルの反応フラスコに注入した。試料の気相を時間の関数で最大5時間監視した。1585cm−1におけるビニル ピークの形成により、2−CEESの脱塩酸が観察された。
【0040】
図5はこのテストの結果をグラフに表したものであり、CP−MgOが非常に有効な破壊/化学吸着効果を持っており、一方樹脂は持っていなかったことを証明している。
【0041】
実施例1〜5でテストした金属酸化物は、上述のように加圧容器に入れ、室温におよそ2週間保存した。その後、金属酸化物試料を容器から取出し、比較はせずに、上述のテストを繰り返した。保存された金属酸化物粉剤は、CWS剤に対して、実質的に同じ破壊/化学吸着結果を出した。これにより、圧力下での酸化物の保存は、その特性に測定可能な効果の低減をもたらさないことを証明した。
【実施例6】
【0042】
この実施例では、2種類の吸着剤対薬剤比率で、各種の吸着粉剤系について2−CEESの破壊/化学吸着の有効性を比較した。100%MgO、75%MgO/25%TiO、および50%MgO/50%TiOの3種類の粉剤系が用いられた。第1群の試験では、10:1(吸着剤対薬剤)の比率で任意量の2−CEESを、円錐底の4ドラム渦混合バイアル内に添加した。第2群の試験ではこの比率を40:1(吸着剤対薬剤)に下げた。各混合物に、蓋をし、磁気撹拌プレートを用いておよそ20秒間渦混合を行った。破壊/化学吸着反応は室温で75分間実施された。この時間の後、任意量の抽出溶剤(n―ヘキサン)を各バイアルに加え、その後、20分間音波粉砕を行った。次に、各試料を5分間遠心分離し、相分離を行った。溶剤のアリコットを取出し、5μl内標準(n−デカン)を加えた。次に定量GC/MSを用いて反応生成物の特性分析を行った。その結果を次に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
これらの結果は、TiOの量が増加すると、その粉剤系の、マスタードガス類似品である2−CEESを除去する効果が増大したことを示している。また、所期どおり、吸着剤対薬剤比率が高くなると、粉剤系の効果が増大した。
【0045】
ここで記載したすべての特許および参考文献はこの参照により開示に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1に記載の比較試験の結果を示す棒グラフである。
【図2】実施例2に記載の比較試験の結果を示すグラフである。
【図3】実施例3に記載の比較試験の結果を示す棒グラフである。
【図4】実施例4に記載の比較試験の結果を示すグラフである。
【図5】実施例5の比較試験の結果を示す棒グラフである。
【図6】本発明を実現するのに有用な加圧消火器型容器の立面図である。容器内のサイフォンが点線で示されている。
【符号の説明】
【0047】
10 加圧式装置
12 容器
14 出口ネック
16 バルブアセンブリ
18 サイフォン管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地域汚染除去用装置であって、容器と、該容器内に収容され、任意量のMgOおよびTiO粒子と噴射剤とを含んで、MgO対TiOの重量比がおよそ99:1から1:99の間である加圧されたスプレー可能混合物と、前記容器に接続され、選択的に動作して前記粒子のスプレーを生成するスプレーノズルとを備える装置。
【請求項2】
前記MgO対TiOの重量比がおよそ80:20から20:80の間である請求項1の装置。
【請求項3】
前記MgO対TiOの重量比がおよそ70:30から30:70の間である請求項2の装置。
【請求項4】
前記容器が金属製の加圧可能なボトルを備える請求項1の装置。
【請求項5】
前記噴射剤が前記粒子の沈殿防止剤を含む請求項1の装置。
【請求項6】
前記混合物が前記容器内でおよそ29〜175psiのレベルに加圧される、請求項の1の装置。
【請求項7】
前記粒子が塊状として存在し、平均直径がおよそ0.5nm〜10μmである請求項の1の装置。
【請求項8】
前記噴射剤が、N、希ガス、二酸化炭素、空気、揮発性炭化水素、硫化炭素、およびこれらの混合物を含む群から選ばれる請求項の1の装置。
【請求項9】
地域汚染除去用装置であって、容器と、該容器内に収容され、任意量のMgOおよびTiO粒子と噴射剤とを含んで、MgO対TiO重量比がおよそ99:1から1:99の間である加圧されたスプレー可能混合物と、前記容器に接続し、選択的に動作し前記粒子のスプレーを生成するスプレーノズルと、前記容器と前記ノズルとの間に圧力勾配を作り出し前記容器から前記ノズル方向に前記混合物が流れるようにする手段とを備えることを特徴とする装置。
【請求項10】
前記圧力勾配生成手段が前記容器内の圧力を増加させるように動作可能である請求項9の装置。
【請求項11】
前記MgO対TiOの重量比がおよそ80:20から20:80の間である請求項9の装置。
【請求項12】
前記MgO対TiOの重量比がおよそ70:30から30:70の間である請求項11の装置。
【請求項13】
容器内に配置するようになされた加圧混合物であって、該混合物は、MgO対TiOの重量比がおよそ99:1から1:99の間である任意量のMgOおよびTiO粒子と噴射剤を含有する混合物。
【請求項14】
前記MgO対TiOの重量比がおよそ80:20から20:80の間である請求項13の混合物。
【請求項15】
前記MgO対TiOの重量比がおよそ70:30から30:70の間である請求項14の混合物。
【請求項16】
前記噴射剤が前記金属酸化粒子の沈殿防止剤を含む請求項13の混合物。
【請求項17】
前記混合物がおよそ185〜225psiのレベルに加圧される請求項の13の混合物。
【請求項18】
前記粒子が塊状として存在し、平均直径がおよそ0.5nm〜10μmである請求項13の混合物。
【請求項19】
前記噴射剤が、N、希ガス、二酸化炭素、空気、揮発性炭化水素、硫化炭素、およびこれらの混合物を含む群から選ばれる請求項の13の混合物。
【請求項20】
有害薬剤または有害物質に汚染された地域を少なくとも部分的に汚染除去する方法であって、請求項1の汚染除去装置を提供し、前記スプレーノズルを操作し、ノズルから金属酸化物のスプレーを生成することを有する方法。
【請求項21】
有害薬剤または有害物質に汚染された地域を少なくとも部分的に汚染除去する方法であって、前記地域の近傍に請求項13の混合物をスプレーすることを有する方法。
【請求項22】
有害薬剤または有害物質に汚染された地域を少なくとも部分的に汚染除去する方法であって、容器と、該容器内に収容され、MgO対TiOの重量比がおよそ99:1から1:99の間である任意量のMgOおよびTiO粒子を含むスプレー用混合物と、前記容器に接続され、出口を有するスプレーノズルで、選択的に動作し前記ノズル出口から前記粒子のスプレーを生成するスプレーノズルとを提供することと、前記容器内部と前記ノズル出口との間に圧力勾配を作り出し、前記容器から前記ノズル方向へ前記混合物が流れるようにすることと、前記スプレーノズルを操作して該ノズルから金属酸化物のスプレーを発生させることを有する方法。
【請求項23】
前記圧力勾配を作り出すステップが、前記容器内の圧力を増加することを有する請求項24の方法。
【請求項24】
有害薬剤または有害物質に汚染された地域を少なくとも部分的に汚染除去する方法であって、前記有害薬剤または有害物質を、MgO対TiO重量比がおよそ99:1から1:99の間である任意量のMgOおよびTiO粒子に接触させることを有する方法。
【請求項25】
前記MgO対TiOの重量比がおよそ80:20から20:80の間である請求項24の方法。
【請求項26】
前記MgO対TiOの重量比がおよそ70:30から30:70の間である請求項25の方法。
【請求項27】
前記粒子が塊状として存在し、平均直径がおよそ0.5nm〜10μmである請求項24の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−526427(P2006−526427A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500651(P2005−500651)
【出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2003/040108
【国際公開番号】WO2004/108172
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(504450626)ナノスケール マテリアルズ アイエヌシー. (11)
【Fターム(参考)】