説明

内周面が処理された樹脂製チューブの製造法

【課題】樹脂製の被処理チューブ(特にフッ素系樹脂製の被処理チューブ)の内周面を処理液によって処理するに際し、チューブの両耳端に折り目がつくことが完全に防止され、しかも処理液による内周面処理が均一かつ円滑になされるようにした内周面処理された樹脂製チューブの製造法を提供する。
【解決手段】被処理チューブ1の内部に1または2以上の内挿体2を配置すること、その内挿体2を保持するための内挿体保持手段3を設けること、チューブ1の内部に配置した内挿体2の上方側の空間に処理液の液溜まりPを形成し、ついでチューブ1または内挿体2の少なくとも一方を移動させることにより、チューブ1の内周面を順次処理液で処理していくことを特徴とする内周面が処理された樹脂製チューブの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その内周面を処理液(たとえば、ナトリウム−液体アンモニア系の処理液や
ナトリウム−ナフタレン系の処理液)で処理することにより、内周面の性質(たとえば、
濡れ性や他材料との接着性)が改良された樹脂製チューブ(特にフッ素系樹脂製のチュー
ブ)を製造する方法に関するものである。殊に、両耳端部に折り目がなくかつ腰折れ(折
れ目)がないため、定着・転写用のロールないしベルトの用途に用いられるチューブ状の
カバー部材として最適の樹脂製チューブを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(はじめに)
フッ素系樹脂製のチューブは、耐熱性、耐薬品性、非粘着性などの性質がすぐれている
ため、たとえば電子複写機の加熱定着ローラに嵌め込んで被覆一体化するカバー材の用途
に最適である。しかしながら、フッ素系樹脂製チューブは加熱定着ローラとの接着性が乏
しいことから、フッ素系樹脂製チューブの内周面を処理して必要な接着力を発揮できるよ
うにしておかなければならない。そのため、以下に述べるような種々の工夫がなされてい
る。
【0003】
(ピンチロールによる挟持方式)
特開平5−59195号公報(特許文献1)の請求項1には、閉塞部5を設けたフッ素
樹脂製チューブ1に、チューブ1の開口端2から表面処理液7を注入して閉塞部5より上
部に貯溜させ、この閉塞部5を上下方向に移動させることにより、チューブ内周面と処理
液7との接触部位を移動させてチューブ1の内周面を処理する方法が示されている。ここ
で閉塞部5とは、具体的には、1対のピンチロール(またはピンチボード)10, 10で挟持
することにより閉塞される部位のことである(請求項3)。なお、この特許文献1の図1
に示されているマンドレル3は、チューブ1の上部開口端2aに装着してその上部開口端2a
をホルダー4に挟持するための部材であり、閉塞部5を形成するためのピンチロール10,
10とは無関係である。
【0004】
(1対のローラーによるS字形押圧方式)
特開2006−241313号公報(特許文献2)の請求項1には、チューブ12の側部
を1対のローラー24, 24で押圧することにより前記チューブ12に閉塞部18を設け、前記閉
塞部18に表面処理液を注入し、前記チューブ12または前記ローラー24, 24を上下に移動さ
せることにより前記閉塞部18の位置を移動し、前記チューブ12の内周面を表面処理するチ
ューブ内周表面処理装置において、一方のローラー24を前記チューブ12に対して1方向に
押圧すると共に、他方のローラー24を前記押圧位置とは異なる位置で他方向に押圧するよ
うに配設されることを特徴とするチューブ内周表面処理装置が示されている。
【0005】
この特許文献2の方式は、「上記の特許文献1の方式による内周表面処理チューブはそ
の両耳端に折り目が生ずるので、その内周表面処理チューブを加熱定着ローラーのカバー
材として用いたときには、そのカバー材の外表面に凹状の折り目が生ずることを免れない
」、という知見に基いてなされたものである。そこで、この特許文献2においては、内周
面処理に際し一方のローラーと他方のローラーの位置をずらしてチューブをS字形に押圧
するという方式を見い出すことにより、内周表面処理チューブの両耳端にそのような折り
目がつかないようにすることを狙っている。
【0006】
(2箇所閉塞の処理帯域方式)
特開平4−288348号公報(特許文献3)、特開平10−60139号公報(特許
文献4)、特開平11−279301号公報(特許文献5)、特開平11−302414
号公報(特許文献6)には、閉塞部材(ピンチロール)によりチューブを2箇所またはそ
れ以上の箇所で閉塞して処理帯域を形成し、その処理帯域に封入した処理液でチューブ内
面を処理する方式が示されている。
【0007】
(2枚の挟み部材で折り目がつかない程度に押圧する方式)
本出願人の出願にかかる特開2006−291083号公報(特許文献7)には、チュ
ーブ1を2枚の挟み部材 2, 20の間に挟んで両耳端部に折り目が付かない程度に押圧して
扁平状に弾性変形させることにより、処理液の流れ方向と直交するチューブ内側の断面積
を小さくし、その状態でチューブ1に処理液を注入して流下させるようにしたフッ素樹脂
薄肉チューブの内面処理方法が示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平5−59195号公報
【特許文献2】特開2006−241313号公報
【特許文献3】特開平4−288348号公報
【特許文献4】特開平10−60139号公報
【特許文献5】特開平11−279301号公報
【特許文献6】特開平11−302414号公報
【特許文献7】特開2006−291083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(従来技術の問題点)
上記の特許文献のうち、ピンチロールによる挟持方式にかかる特許文献1、3〜6の方
式は、フッ素樹脂製チューブの内周面の処理自体は円滑に行うことができるものの、ピン
チロールに挟まれたチューブの両耳端に折り目がつくことを免れないため、この内周面処
理チューブを電子複写機の定着ロールに被覆する保護カバーとして用いたときにその折り
目の跡が転写されてしまうという問題点がある。
【0010】
このように内周面処理チューブの両耳端に折り目がついてしまうという現象、さらには
そのような内周面処理チューブを加熱定着ローラーのカバー材として用いたときの現象や
問題点については、特許文献2において表2のグラフをあげながら詳しく説明してあり、
特許文献7の段落0007においてもその点に触れている。
【0011】
そして、チューブ両耳端の折り目に基く上記の問題点を解消するため、すでに述べたよ
うに、特許文献2においては一方のローラーと他方のローラーの位置をずらしてチューブ
をS字形に押圧するという特別の工夫を講じている。また特許文献7においては、チュー
ブを2枚の挟み部材の間に挟んで両耳端に折り目が付かない程度に押圧して扁平状に弾性
変形させることにより、処理液の流れ方向と直交するチューブ内側の断面積を小さくする
という特別の工夫を講じている。
【0012】
しかしながら、特許文献2の工夫によっても、S字形の押圧に際して処理液の流下量を
チューブ全周にわたって一定にすることが容易ではなく、折り目の防止も完全とまではい
かないという限界があった。また、特許文献7の工夫によっても、チューブを2枚の挟み
部材の間に挟んだときの処理液の偏流を完全になくすことが難しく、そのためチューブ内
周面の均一処理の点で所期の目的を十分には達成しえないという限界があった。
【0013】
(発明の目的)
本発明は、このような背景下において、樹脂製の被処理チューブ(特にフッ素系樹脂製
の被処理チューブ)の内周面を処理液によって処理するに際し、チューブの両耳端に折り
目がつくことが完全に防止され、しかも処理液による内周面処理が均一かつ円滑になされ
るようにした「内周面処理された樹脂製チューブの製造法」を提供することを目的とする
ものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の内周面が処理された樹脂製チューブの製造法は、
樹脂製の被処理チューブ(1) の内部に1または2以上の内挿体(2) を配置すること、
そのときの内挿体(2) の最大径部分の外周部と被処理チューブ(1) の内周面との間の隙
間は、後述の処理液(p) の通過を阻止するかその処理液(p) の液膜が形成される程度に設
定すること、
被処理チューブ(1) の内部に配置された内挿体(2) を保持するための内挿体保持手段(3
) を設けること、
被処理チューブ(1) の内部に配置した内挿体(2) の上方側の空間に、あるいは被処理チ
ューブ(1) の内部に2以上配置した内挿体(2), (2)間の空間に、処理液(p) の液溜まり(P
) を形成させておくこと、
この状態で、被処理チューブ(1) および内挿体(2) のうちの少なくとも一方を移動させ
ることにより、被処理チューブ(1) の内周面を順次処理液(p) で処理していくこと、
を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂製の被処理チューブ(特にフッ素系樹脂製の被処理チューブ)の
処理液による内周面処理において、次のようなすぐれた効果が奏される。
・内周面処理チューブの両耳端に折り目がつくのを完全に防止することができる。
・このように両耳端に折り目がつかないので、チューブの内周面の全面にわたって均一
な処理がなされる。
・上記のように本発明により製造された内周面処理チューブにあっては、その両耳端に
折り目がない上、その内周面が濡れ性や接着性の点で均一な処理面に形成されているので
、これをたとえば加熱定着ローラーのカバー材として用いるときの層間接着性が良く、ま
たそのカバー材で被覆された加熱定着ローラーを使用した電子複写機により印刷を行って
も、印刷物に筋状の模様が生ずるなどのトラブルを生じないので、印刷の質を確保するこ
とができる。そのほか、処理操作中にチューブが腰折れし、そのためチューブに「折れ目
」が生ずるという事態も生じない。
・しかも、本発明によれば、処理液によるチューブの内周面処理と洗浄液による洗浄処
理とを連続して行うことも容易であり、また、押出成形機のダイから押し出されたチュー
ブを冷却してそのまま内周面処理に供することもできる。
・このように、本発明は、内周面が処理された樹脂製チューブの工業的な製造法として
極めて有利であり、しかもその製造法を採用したことによる製造物の品質もすぐれている

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
(樹脂製の被処理チューブ(1) )
被処理チューブ(1) については、単層のみならず複層のものを用いることもできる(複
層の場合は樹脂層以外の層を含んでいても差し支えない)。被処理チューブ(1) を構成す
る樹脂層の材質は任意であるが、特にフッ素系樹脂が重要であるので、以下においては樹
脂製の被処理チューブ(1) がフッ素系樹脂製の被処理チューブ(1) である場合を中心に説
明してある。
【0018】
上記のフッ素系樹脂としては、
・PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)
・FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)
・PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)
・EPE(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルコ
キシエチレンターポリマー)
・ETFE(テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体)
・ECTFE(エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体)
・PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)
・PVDF(ポリフッ化ビニリデン)
・PVF(ポリフッ化ビニル)
などがあげられる。これらの中では、PFAが特に重要であり、ついでFEPとPTFE
とが重要である。
【0019】
被処理チューブ(1) の膜厚や直径(または折り径)や長さは、用途に応じて任意に設計
できる。たとえば、通常のケースでは次のように設定することが多い。ただし、用途によ
っては下記の範囲から大きく外れるようにすることができる。
・膜厚については、特に限定はないものの、通常は5〜500μm 、好ましくは10〜
300μm 、特に好ましくは10〜200μm 、さらには15〜150μm とすることが
多い。
・直径については、特に限定はないものの、通常は5〜500mm、好ましくは10〜4
00mm、特に好ましくは10〜350mmとすることが多い。
・長さについては、予め決められた長さの被処理チューブ(1) を用いるときは、0.25m
程度から10m程度までとすることが多いが、製造現場の高さや広さに余裕があればさら
に長いものを用いることができる。しかも、本発明によれば溶融押出によりチューブを成
形しつつその内周面処理を行うことも可能であるので、そのときは被処理チューブ(1) の
長さに上限はない。
【0020】
(処理液(p) )
処理液(p) としては、樹脂製の被処理チューブ(1) の内周面の処理を行う目的に添うも
のであれば任意の処理液を用いることができるが、フッ素系樹脂製の被処理チューブ(1)
の内周面の処理を行う場合には次の1,2の処理液が特に重要である。
1.アルカリ金属−液体アンモニア系の処理液(特に、ナトリウムを液体アンモニアに
溶解した溶液からなる処理液)
2.ナトリウム−ナフタレン−有機溶剤系の処理液
【0021】
(被処理チューブ(1) の内部への内挿体(2) の配置)
本発明においては、被処理チューブ(1) の内部に内挿体(2) (後述のように2以上の内
挿体(2) や多連式の内挿体(2) であってもよい)を配置する。そして、そのときの内挿体
(2) の最大径部分の外周部と被処理チューブ(1) の内周面との間の隙間は、後述の処理液
(p) の通過を阻止するかその処理液(p) の液膜が形成される程度に設定する。後述の液溜
まり(P) からの処理液(p) の多少の流下や漏れは特に支障にはならないが、上記の隙間が
広過ぎるときは、液溜まり(P) に溜められた処理液(p) の漏出量が多くなるため、次のよ
うな不利がある。
(i)1本の被処理チューブ(1) の処理を処理液(p) の補充を行わずに実施する場合に
あっては、未処理部分を残すことがある。
(ii)処理操作中に処理液(p) の補充を行うことを前提とした場合にあっては、処理液
(p) の補充を想定よりも頻繁に行わなければならないことがある。
【0022】
(内挿体(2) )
内挿体(2) の形状は、本発明の目的を達成することができる形状であれば任意であり、
たとえば、魚雷形、砲弾形、樽形、円筒形、円柱形、ラグビーボール形、球形、亜鈴形な
どとすることができる。内挿体(2) の前端側や後端側を尖頭や丸頭に形成することも好ま
しい。内挿体(2) の被処理チューブ(1) の巾方向の断面形状は、通常は円形とするが、楕
円形やそれに類する形状であっても差し支えない。なお、内挿体(2) は中空のものであっ
ても中実のものであってもよい。内挿体(2) が中空である場合は、その中空部にウェイト
を入れて重量調節するようにしてもよい。
【0023】
内挿体(2) の材質については、少なくともその表面側が先に述べた処理液(p) に冒され
ない材質のものを選択すると共に、強度、耐久性、耐摩耗性、重量などについても考慮に
入れる。被処理チューブ(1) がフッ素系樹脂製のチューブであり、処理液(p) がたとえば
上記の「ナトリウム−液体アンモニア系」の溶液や「ナトリウム−ナフタレン系」の溶液
であるときは、内挿体(2) の少なくとも表面側の材質は、ステンレス鋼等の金属材料、ポ
リオレフィン等の樹脂材料、セラミックス材料などとすることが好ましい。
【0024】
内挿体(2) は、その胴部にシールリング(液封用のリング)(2a)を固定的にまたは着脱
可能に設けた構造のものとすることも好ましい。すなわち、内挿体(2) の最大径部分とな
る部位をシールリング(2a)で構成するのである。そのように構成すると、被処理チューブ
(1) の内面処理に際し内挿体(2) のシールリング(2a)の部分が被処理チューブ(1) の内周
面に接触ないし近接することになるが、シールリング(2a)については内挿体(2) の本体部
分に比しその材質や寸法精度を最適なものに設定することが容易である。シールリング(1
a)が着脱可能であるときは、内挿体(2) の交換時機に至ったとき、シールリング(1a)のみ
を交換すればよいので、コスト上も有利である。
【0025】
(被処理チューブ(1) 内への内挿体(2) の配置)
被処理チューブ(1) の内部に1つの内挿体(2) を配置する方式1(「A」)のほか、
・被処理チューブ(1) の内部に2以上の内挿体(2) を間隔をあけて配置する方式2
(「A A」や「A A A」)、
・被処理チューブ(1) の内部に多連式の内挿体(2) (2以上の内挿体(2) が連結した構
造のもの)を配置する方式3
(「A−A」や「A−A−A」)、
・これらの方式を適宜組み合わせた方式4
(「A A−A」や「A A−A A」)
を採用することもできる。
【0026】
方式2、3、4は、処理液(p) による被処理チューブ(1) の内周面処理の確実を期すこ
とができるほか、その処理を被処理チューブ(1) を上下方向ないし斜め上下方向にして行
う場合だけでなく、水平方向や水平に近い方向にして行うことが可能になるので、内周面
処理のための設計時の選択肢として考慮すべきである。
【0027】
というのは、被処理チューブ(1) の内部に配置する内挿体(2) の数や多連式の構造を設
計することにより、該チューブ(1) 内に内挿体(2) で区切られた複数個の処理用空間を形
成することができるのであるが、その処理用空間のうちの少なくとも1つに処理液(p) の
液溜まり(P) を形成させると共に、残余の空間のうちの少なくとも1つに洗浄液(w) の液
溜まり(W) を形成させることが可能になるからである。つまり、処理液(p) による処理後
のチューブの洗浄液(w) による洗浄を連続的に行うことができるのである。
【0028】
(内挿体保持手段(3) )
被処理チューブ(1) の内部に内挿体(2) を挿入配置するだけでは、内挿体(2) の位置決
めができない。そこで、その内挿体(2) を保持するための内挿体保持手段(3) を設けるこ
とが必要である。
【0029】
被処理チューブ(1) の内部に配置された内挿体(2) の内挿体保持手段(3) による保持は
、次のようにして行うことができる。
【0030】
−1−
保持方式の1つは、被処理チューブ(1) の「外側」に内挿体保持手段(3) を配置すると
共に、その内挿体保持手段(3) と内挿体(2) とを被処理チューブ(1) を介して接当させる
ことにより行う方式である。このときの接当は、被処理チューブ(1) を介しての両者間の
面状の接当、線状の接当、点状の接当のいずれでもよいが、接当面積をできる小にする方
が有利である。
【0031】
−2−
保持方式の他の1つは、被処理チューブ(1) の「外側」に内挿体保持手段(3) を配置す
ると共に、その内挿体保持手段(3) と内挿体(2) とを被処理チューブ(1) を介して磁着力
により磁着させることにより行う方式である。このときには、
・内挿体(2) と内挿体保持手段(3) との双方に磁石(M) を設置してS極とN極との間の
磁着力を利用する態様、
・内挿体(2) と内挿体保持手段(3) とのどちらかに磁石(M) を設置すると共に、他方に
磁性体(m) を設置するか他方を磁性体(m) で構成する態様、
・内挿体(2) の異なる位置に磁石(M) と磁性体(m) とを設置し、内挿体保持手段(3) の
異なる位置に磁石(M) と磁性体(m) とを設置し、前者と後者とが磁石(M) −磁性体(m) 間
において磁着するようにする態様、
のいずれもが採用できる。
【0032】
−3−
保持方式のさらに他の1つは、被処理チューブ(1) の「開口端」から挿入した内挿体保
持手段(3) を内挿体(2) に連結することにより行う方式である。このときの連結は、柱体
、棒体、ワイヤ、針金、細巾テープ、糸、紐のような線状体を用いて行うことができる。
線状体が柔軟な場合には、被処理チューブ(1) を上下方向に配して上方の「開口端」から
内挿体(2) を吊り下げるようにすればよい。
【0033】
(被処理チューブ(1) の配置方向)
処理操作に際しての被処理チューブ(1) の配置方向は、その長さ方向が鉛直方向となる
場合のみならず、斜め方向や水平方向になるようにしてもよい。このように自在性がある
点が本発明の特徴の1つでもある。
【0034】
(処理液(p) の液溜まり(P) の形成)
−1−
被処理チューブ(1) を鉛直方向または斜め方向に配置すると共に、被処理チューブ(1)
の内部に内挿体(2) を1つ挿入配置する配置方式1を採用するときには、被処理チューブ
(1) の内部に配置した内挿体(2) の上方側の空間に、処理液(p) の液溜まり(P) を形成さ
せておく。
【0035】
−2−
被処理チューブ(1) の内部に2以上の内挿体(2) を間隔をあけて配置する配置方式2、
被処理チューブ(1) の内部に多連式の内挿体(2) (2以上の内挿体(2) が連結した構造の
もの)を配置する配置方式3、あるいはこれらの方式1、2、3を適宜組み合わせた配置
方式4を採用するときは、被処理チューブ(1) の配置方向を任意の方向に設定することが
できるので、被処理チューブ(1) の内部に配置した内挿体(2) の上方側の空間に、あるい
は被処理チューブ(1) の内部に2以上配置した内挿体(2), (2)間の空間に、処理液(p) の
液溜まり(P) を形成させておくことができる。
【0036】
上記−2−の配置方式を採用することにより、被処理チューブ(1) 内に内挿体(2) で区
切られた複数個の処理用空間を形成したときは、その処理用空間のうちの少なくとも1つ
に処理液(p) の液溜まり(P) を形成させると共に、残余の空間のうちの少なくとも1つに
洗浄液(w) の液溜まり(W) を形成させることができる。
【0037】
(被処理チューブ(1) の内周面の処理)
この状態で、被処理チューブ(1) および内挿体(2) のうちの少なくとも一方を移動させ
ることにより、被処理チューブ(1) の内周面を順次処理液(p) で処理していく。内周面が
処理されたフッ素系樹脂チューブが円滑に製造される。
【0038】
−バッチ処理方式−
このときの処理液(p) による被処理チューブ(1) の処理は、所定の長さにカットした被
処理チューブ(1) を用いて、その被処理チューブ(2) の内周面を順次上記の処理液(2) で
処理していくことにより行うことができる。
【0039】
−連続処理方式−
また、処理液(p) による被処理チューブ(1) の処理は、連続処理方式により行うことも
できる。たとえば、押出成形機のダイから押し出されたチューブを冷却してそのまま内周
面処理に供することにより、押出成形工程と内周面処理工程とを連続的に行うことができ
る。
【0040】
(洗浄液(w) による洗浄処理)
上記のようにして被処理チューブ(1) の内周面を処理液(p) で処理した後は、引き続き
あるいは別工程において、洗浄液(w) により洗浄処理を行うのが通常である。洗浄液(w)
は、使用した処理液(p) に応じて適切なものを用いられる。洗浄液(w) の例は、水、アル
コール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、炭化水素類などであ
る。洗浄は多段階に行うことも多い。
【0041】
先にも触れたように、被処理チューブ(1) 内に内挿体(2) で区切られた複数個の処理用
空間を形成し、その処理用空間のうちの少なくとも1つに処理液(p) の液溜まり(P) を形
成させると共に、残余の空間のうちの少なくとも1つに洗浄液(w) の液溜まり(W) を形成
させるときは、処理液(p) による処理後のチューブの洗浄液(w) による洗浄を連続的に行
うことができる。
【実施例】
【0042】
次に実施例をあげて本発明をさらに説明する。
【0043】
実施例1
図1は、本発明の製造法の一例を示した説明図である。
図2は、図1の内挿体(2) の断面図であり、右半分に正面図を、左半分に側面図を描い
てある。
【0044】
−被処理チューブ(1) −
フッ素系樹脂製の被処理チューブ(1) として、PFA(テトラフルオロエチレン/パー
フルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製の直径(内径)38.2mm、厚み30μ
mのチューブを2m長さに切断したものを準備した。
【0045】
−内挿体(2) −
また、図1、2に示した形状および構造を有する魚雷形の内挿体(2) を準備した。図2
の右半分は、その左半分に対して90°回転させた図である。その円筒状の胴部の上端側
は円錐形に形成され、その胴部の下端側は絞り形状に形成されている。内部は中空となっ
ている。内挿体(2) の本体部の胴部には、シールリング(2a)を嵌着してある。内挿体(2)
のシールリング(2a)部の外径は38mmである。なお、図2の左半分の下端側の(g) は窪
みである(貫通孔ではない)。内挿体(2) の本体部およびシールリング(2a)は、後述の処
理液(p) に冒されない金属またはポリエチレン系のものを用いている。
【0046】
−内挿体保持手段(3) −
図1のように、上記の内挿体(2) はその下端側においてコロ形状の自由回転可能な内挿
体保持手段(3), (3)により保持されるが、このときには内挿体(2) の胴部から下端側の窪
み(g) への移行部の形状やその窪み(g) の度合いを工夫することにより、内挿体保持手段
(3), (3)に内挿体(2) の窪み(g) への移行部がわずかに引っかかるようにして、被処理チ
ューブ(1) に「折れ目」がつかないように留意する。
【0047】
−被処理チューブ(1) の内周面の処理−
上記の被処理チューブ(1) をその長さ方向が鉛直方向になるようにしてから、その被処
理チューブ(1) 内に上記の内挿体(2) を挿入配置すると共に、その内挿体(2) を保持する
ための内挿体保持手段(3) を被処理チューブ(1) の外側に配置した。なお、図示は省略し
てあるが、被処理チューブ(1) の上端には、処理液(p) の充填、チューブ形状維持、チュ
ーブの上方への引き上げのために口金を嵌め込んでおくこともできる。被処理チューブ(1
) の上方への引き上げは、たとえばロール方式やチャッキング方式により行うことができ
る。
【0048】
ついで、被処理チューブ(1) の内挿体(2) よりも上の空間に、ナトリウムを液体アンモ
ニアに溶解した溶液からなる処理液(p) を100ml充填して、液溜まり(P) を形成させ
た。この状態で、被処理チューブ(1) を上方側に引っ張り上げていくことにより(内挿体
保持手段(3) の方を引き下げていくこともできる)、該チューブ(1) の内周面を順次上記
の処理液(p) で処理していった。
【0049】
−洗浄処理−
このようにして製造された内周面が処理されたフッ素系樹脂チューブは、その「両耳端
」に「折り目」が全く認められなかった。また、従来のピンチロールによる挟持方式のよ
うにチューブを直径方向に押圧する工程がないので、チューブが腰折れすることによる「
折れ目」が生ずる事態も全く生じなかった。上記の処理により内周面は淡褐色に着色する
が、その着色状態は内周面の全面にわたり極めて均一であり、着色ムラが認められなかっ
た。
【0050】
実施例2
図3(イ),(ロ)は本発明の製造法の他の一例を示した説明図である。なお、図3(
イ)の左半分は図3(ロ)のA−O線断面図、図3(イ)の右半分は図3(ロ)のB−O
線断面図である。
【0051】
この実施例2においては、被処理チューブ(1) の内部に配置する内挿体(2) に磁性体(m
) (たとえばSUS630)を設置すると共に、その磁性体(m) に対向して磁石(M) から
なる内挿体保持手段(3) ((3a))を被処理チューブ(1) の外側に配置することにより、磁
性体(m) −磁石(M) 間の磁着力により被処理チューブ(1) を介しての内挿体(2) の保持(
Z軸方向の位置決め)がなされるようにしてある。また、ローラからなる4個の内挿体保
持手段(3) ((3b))を被処理チューブ(1) の外側から内挿体(2) に対向して設けることに
より、被処理チューブ(1) を介して内挿体(2) の保持(X軸・Y軸方向の位置決め)がな
されるようにしてある。
【0052】
実施例3
図4は、本発明の製造法の他の例を模式的に示した説明図である。
この実施例3においては、図4に示したように、被処理チューブ(1) の外側から内挿体
(2) に対向してロール状の内挿体保持手段(3) を設けると共に、被処理チューブ(1) の開
口端から挿入した内挿体保持手段(3) を内挿体(2) に連結することにより、その内挿体(2
) の上方側のスペースに充填してある処理液(p) で被処理チューブ(1) の内周面の処理を
行うようにしてある。(P) は処理液(p) の液溜まりである。
【0053】
実施例4
図5は、本発明の製造法の他の例を模式的に示した説明図である。
この実施例4においては、図5に示したように、被処理チューブ(1) 内に間隔をあけて
2つの内挿体(2), (2)を配置し、被処理チューブ(1) の外側からそれぞれの内挿体(2) に
対向してロール状の内挿体保持手段(3) を設けると共に、それらの内挿体(2), (2)間のス
ペースに充填してある処理液(p) で被処理チューブ(1) の内周面の処理を行うと共に、引
き続き上の内挿体(2) の上方側のスペースに充填してある洗浄液(w) により洗浄を行うよ
うにしてある。(W) は洗浄液(w) の液溜まりである。
【0054】
実施例5
図6は、本発明の製造法の他の例を模式的に示した説明図である。
この実施例5においては、図6に示したように、被処理チューブ(1) 内の下側に3連式
の内挿体(2), (2), (2) を配置し、被処理チューブ(1) の外側からそれぞれの内挿体(2)
に対向してロール状の内挿体保持手段(3) を設けると共に、下側の2つの内挿体(2), (2)
間のスペースに充填してある処理液(p) で被処理チューブ(1) の内周面の処理を行い、引
き続き下から2番目と3番目の内挿体(2), (2)間のスペースおよび下から3番目の内挿体
(2) の上方側のスペースにそれぞれ充填してある洗浄液(w) により、処理後の被処理チュ
ーブ(1) の洗浄を2段階で行うようにしてある。(P) は処理液(p) の液溜まり、(W) は洗
浄液(w) の液溜まりである。
【0055】
実施例6
図7は、本発明の製造法の他の例を模式的に示した説明図である。
押出成形におけるマンドレル法とは、金型内部にサイジングのためのマンドレルを取り
付け、マンドレルの表面をパイプが通過するときに外部から水または空気で冷却し、サイ
ジングする方法である。実施例7においては、押出機のダイ(4) から溶融押出しされたチ
ューブを、インサイドマンドレル(5) 、引き取りロール(6) を経て、被処理チューブ(1)
に成形すると共に、引き続きその被処理チューブ(1) 内に配置した2連式の内挿体(2), (
2)(内挿体保持手段(3) としての位置決めロールで被処理チューブ(1) の外側から保持し
てある)間のスペースに充填してある処理液(p) で被処理チューブ(1) の内周面の処理を
行うようにしてある。この方式は、被処理チューブ(1) の連続処理が可能になること、被
処理チューブ(1) の水平方向での内面処理が可能になること、の点で有利である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に従って製造した内周面が処理された樹脂製チューブは、種々の用途に使用しう
る。その中でも特に、内周面が処理されたフッ素系樹脂製のチューブは、電子複写機の定
着・転写用のロールないしベルトの用途に用いられるチューブ状のカバー部材として極め
て有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の製造法の一例を示した説明図である。
【図2】図1の内挿体(2) の断面図であり、右半分に正面図を、左半分に側面図を描いてある。
【図3】本発明の製造法の他の一例を示した説明図である。
【図4】本発明の製造法の他の例を模式的に示した説明図である。
【図5】本発明の製造法の他の例を模式的に示した説明図である。
【図6】本発明の製造法の他の例を模式的に示した説明図である。
【図7】本発明の製造法の他の例を模式的に示した説明図である。
【符号の説明】
【0058】
(1) …被処理チューブ、(1a)…溶融体、
(2) …内挿体、(2a)…シールリング、(g) …窪み、
(3), (3a), (3b) …内挿体保持手段、
(4) …押出機のダイ、
(5) …インサイドマンドレル、
(6) …引き取りロール、
(p) …処理液、(P) …処理液(p) の液溜まり、
(w) …洗浄液、(W) …処理液(w) の液溜まり、
(M) …磁石、(m) …磁性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の被処理チューブ(1) の内部に1または2以上の内挿体(2) を配置すること、
そのときの内挿体(2) の最大径部分の外周部と被処理チューブ(1) の内周面との間の隙
間は、後述の処理液(p) の通過を阻止するかその処理液(p) の液膜が形成される程度に設
定すること、
被処理チューブ(1) の内部に配置された内挿体(2) を保持するための内挿体保持手段(3
) を設けること、
被処理チューブ(1) の内部に配置した内挿体(2) の上方側の空間に、あるいは被処理チ
ューブ(1) の内部に2以上配置した内挿体(2), (2)間の空間に、処理液(p) の液溜まり(P
) を形成させておくこと、
この状態で、被処理チューブ(1) および内挿体(2) のうちの少なくとも一方を移動させ
ることにより、被処理チューブ(1) の内周面を順次処理液(p) で処理していくこと、
を特徴とする内周面が処理された樹脂製チューブの製造法。
【請求項2】
樹脂製の被処理チューブ(1) がフッ素系樹脂製のチューブである請求項1記載の製造法

【請求項3】
被処理チューブ(1) の内部に配置された内挿体(2) の内挿体保持手段(3) による保持を
、(イ)被処理チューブ(1) の外側に内挿体保持手段(3) を配置すると共に、その内挿体
保持手段(3) と内挿体(2) とを被処理チューブ(1) を介して接当させることにより行うか
、(ロ)被処理チューブ(1) の外側に内挿体保持手段(3) を配置すると共に、その内挿体
保持手段(3) と内挿体(2) とを被処理チューブ(1) を介して磁着力により磁着させること
により行うか、あるいは(ハ)被処理チューブ(1) の開口端から挿入した内挿体保持手段
(3) を内挿体(2) に連結することにより行うこと、を特徴とする請求項1または2記載の
製造法。
【請求項4】
被処理チューブ(1) の内部に配置する内挿体(2) の数や多連式の構造を設計することに
より、該チューブ(1) 内に内挿体(2) で区切られた複数個の処理用空間を形成すること、
そして、その処理用空間のうちの少なくとも1つに処理液(p) の液溜まり(P) を形成させ
ると共に、残余の空間のうちの少なくとも1つに洗浄液(w) の液溜まり(W) を形成させる
こと、を特徴とする請求項1または2記載の製造法。
【請求項5】
押出成形機のダイから押し出されたチューブを冷却してそのまま内周面処理に供するこ
とにより、押出成形工程と内周面処理工程とを連続的に行うこと、を特徴とする請求項1
または2記載の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−116024(P2011−116024A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275334(P2009−275334)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(591056097)淀川ヒューテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】