説明

内燃機関およびそれを備えた自動二輪車

【課題】シリンダ軸線よりも上方に位置する吸気バルブを備えた内燃機関において、吸気バルブの真上の位置に給油路の開口を形成しなくても、吸気バルブに油を円滑に供給することを可能とする。
【解決手段】ヘッドカバー16の内面における吸気バルブ41よりも高い位置であって且つ吸気バルブ41の真上の位置から外れた位置に、給油路の通路63につながる開口64が形成されている。ヘッドカバー16の内面には、第1リブ81が設けられている。第1リブ81の一端は開口64の側方に位置し、他端は吸気バルブ41の真上に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等の鞍乗型車両に搭載される内燃機関およびそれを備えた自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の鞍乗型車両に搭載される内燃機関として、シリンダが前向きまたは前方斜め上向きに延びるように配置されたものが知られている。内燃機関は、燃焼室を形成するシリンダブロックおよびシリンダヘッドと、燃焼室の吸気口および排気口を開閉する吸気バルブおよび排気バルブと、それらバルブを駆動するカム軸とを備えている。以下、吸気バルブ、排気バルブ、およびこれらバルブを動かすための部品を「動弁系」と称する。カム軸は動弁系の一例である。
【0003】
動弁系は可動部品であるため、給油が必要である。内燃機関の潤滑は、例えば、クランクケース内に配置されたオイルポンプを用いて行われる。ところで、動弁系はシリンダヘッドの内部に配置されているため、クランクケース内に配置されたオイルポンプからは、遠く離れた位置にある。そのため、動弁系に油を供給するために、オイルポンプから動弁系の近傍に至る比較的長い給油路が必要となる。
【0004】
シリンダブロックおよびシリンダヘッドの外部に配管を取り付け、この配管を給油路の一部として利用することが知られている。しかし、シリンダブロック等と別体の配管を設けることとすると、部品点数が多くなり、組み付け作業が面倒となる。そこで、シリンダブロック等の壁の内部に通路を形成し、それらの通路により給油路を形成することが提案されている。
【0005】
シリンダが前向きまたは前方斜め上向きに延びるように配置された内燃機関では、吸気バルブおよび排気バルブのいずれか一つは、シリンダ軸線よりも上方に位置することになる。以下、吸気バルブおよび排気バルブのうち、上側に位置するバルブを上側バルブと称し、下側に位置するバルブを下側バルブと称する。ところで、カム軸に油を供給すると、その油は重力を受けて流れ落ち、下側バルブにも供給される。そのため、下側バルブに対しては、専用の給油路を設けなくても、油を供給することができる。しかし、上側バルブに対しては、カム軸に供給された油をそのまま流下させることはできない。そこで、給油路を上側バルブよりも高い位置にまで形成し、上側バルブに対して上方から油を供給することが提案されている。
【0006】
特許文献1には、そのような給油路が開示されている。特許文献1に開示された給油路は、シリンダブロック、シリンダヘッド、およびシリンダヘッドカバーの壁の内部に形成された複数の通路によって構成されている。シリンダヘッドカバーの上壁の内面には開口が形成され、この開口は上側バルブのバルブステム端部の真上に位置している。オイルポンプから吐出された油は給油路を通過し、上記開口から上側バルブに供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−144520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示された給油路では、上側バルブのバルブステム端部の真上に開口を形成しなければならないという制約がある。この制約のため、給油路の構成が複雑になったり、あるいは、シリンダヘッドまたはシリンダヘッドカバー等が大型化する場合がある。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上側バルブの真上の位置に開口を形成しなくても、上側バルブに対して円滑に油を供給することのできる内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る内燃機関は、クランク軸を収容するケースと、前記ケースと一体化され又は別体に形成され、前記ケースから前向きまたは前方斜め上向きに延びるシリンダブロックと、前記シリンダブロックの先端部に固定され、前記シリンダブロックと共に燃焼室を区画すると共に、前記燃焼室に臨む吸気口および排気口が形成されたシリンダヘッドと、前記シリンダヘッドの先端部に固定されたヘッドカバーと、前記ヘッドカバーおよび前記シリンダヘッドの内部であって且つ少なくとも一部がシリンダ軸線よりも上方に配置され、前記吸気口および前記排気口のいずれか一つを開閉するバルブと、前記ケースの内部に配置されると共に前記クランク軸により駆動され、前記クランク軸の回転速度に応じて吐出量が変化するオイルポンプと、前記シリンダブロック、前記シリンダヘッド、および前記ヘッドカバーの壁の内部に形成された通路を有し、前記オイルポンプから吐出される油を導く給油路と、を備える。前記ヘッドカバーの内面における前記バルブよりも高い位置であって且つ前記バルブの真上の位置から外れた位置に、前記給油路につながる開口が形成されている。前記内燃機関は更に、前記ヘッドカバーの内面から突出し、一端が前記開口の側方に位置し、他端が前記バルブの真上に位置する第1リブを備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上側バルブの真上の位置に開口を形成しなくても、上側バルブに対して円滑に油を供給することのできる内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】自動二輪車の側面図である。
【図2】エンジンユニットの断面図である。
【図3】エンジンユニットの鉛直断面図である。
【図4】給油路の構成を示すエンジンの部分側面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】図4のVI−VI線断面図である。
【図7】ヘッドカバーおよび吸気バルブ等を図4の矢印VIIの方向から見た図である。
【図8】図7のVIII−VIII線の断面およびシリンダヘッド等の同断面を示す断面図である。
【図9】給油路の一部、第1リブ、および第2リブ等の構成を示す斜視図である。
【図10】変形例に係る第1リブおよび第2リブ等の斜視図である。
【図11】変形例に係る第1リブの正面図である。
【図12】他の変形例に係る第1リブの正面図である。
【図13】他の変形例に係る第1リブおよび第2リブの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。以下の説明において、前、後、左、右は、それぞれ自動二輪車1の乗員から見た前、後、左、右を意味するものとする。図面に付した符号F、Re、L、Rは、それぞれ前、後、左、右を表す。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る内燃機関が搭載された鞍乗型車両は、スクータ型の自動二輪車1である。自動二輪車1は、車体フレーム2と、ピボット軸3を介して車体フレーム2に揺動可能に支持されたエンジンユニット10とを備えている。エンジンユニット10は、いわゆるユニットスイング式のエンジンユニットである。ただし、本発明に係る内燃機関が搭載される鞍乗型車両は、他の形式の自動二輪車、例えば、モペット型、モータサイクル型の自動二輪車等であってもよい。図示は省略するが、エンジンユニット10は、車体フレームの一部であるアンダーボーンフレームに揺動不能に固定されたエンジンユニットであってもよい。また、鞍乗型車両は自動二輪車に限らず、ATV等の他の鞍乗型車両であってもよい。
【0015】
車体フレーム2の側方は、車体カバー4によって覆われている。エンジンユニット10の上方には、エアクリーナ29が配置されている。車体フレーム2は、ヘッドパイプ2Aを有している。ヘッドパイプ2Aには、フロントフォーク5が支持されている。フロントフォーク5の上部には、ハンドル6が取り付けられている。フロントフォーク5の下端部には、前輪7が支持されている。車体フレーム2は、左右一対のサイドフレーム2Bを有している。サイドフレーム2Bは、側面視において、後方斜め上向きに延びている。エンジンユニット10の後部とサイドフレーム2Bの後部とには、クッションユニット8が架け渡されている。エンジンユニット10の後端部には、後輪9が支持されている。
【0016】
図2に示すように、エンジンユニット10は、内燃機関の一例であるエンジン13と、Vベルト式無段変速機(以下、CVTという)20とを備えている。エンジン13は、クランク軸12と、クランク軸12を収容するクランクケース14とを備えている。クランク軸12の駆動力は、CVT20を介して後輪9に伝達される。
【0017】
CVT20は、駆動側のプーリである第1プーリ21と、従動側のプーリである第2プーリ22とを備えている。第1プーリ21と第2プーリ22とには、Vベルト23が巻き掛けられている。第1プーリ21はクランク軸12の左端部に取り付けられている。第2プーリ22はメイン軸24に取り付けられている。メイン軸24は、図示しないギア機構を介して後輪軸25に連結されている。なお、図2では、第1プーリ21の前側部分と後側部分とでは、変速比が異なる状態を表している。第2プーリ22についても同様である。CVT20は、変速機ケース30に収容されている。変速機ケース30は、クランクケース14の左方に配置されている。
【0018】
図3に示すように、エンジン13は、クランクケース14から前方斜め上向きに延びるシリンダブロック11と、シリンダブロック11の先端部に固定されたシリンダヘッド15と、シリンダヘッド15の先端部に固定されたヘッドカバー16とを備えている。これらシリンダブロック11、シリンダヘッド15、およびヘッドカバー16によって、シリンダが構成されている。
【0019】
符号L1はシリンダブロック11の中心線、すなわちシリンダ軸線を表している。シリンダ軸線L1は、前方斜め上向きに延びている。なお、シリンダ軸線L1の向きは前方斜め上向きに限定されず、前向きであってもよい。シリンダ軸線L1は、水平線から傾いていてもよく、水平線と平行であってもよい。ここでは、シリンダ軸線L1の水平線からの傾斜角度は約10度であり、シリンダ軸線L1はほぼ水平に延びている。シリンダ軸線L1の傾斜角度が小さいほど本発明の効果が顕著に発揮されるが、シリンダ軸線L1の傾斜角度は特に限定されず、例えば15度以下であってもよく、30度以下であってもよく、45度以下であってもよい。
【0020】
シリンダブロック11内には、ピストン17が摺動自在に収容されている。ピストン17とクランク軸12とは、コンロッド18を介して連結されている。シリンダブロック11とシリンダヘッド15とピストン17とにより、燃焼室19が区画されている。
【0021】
シリンダヘッド15には、吸気口31および排気口32が形成されている。吸気口31および排気口32は、燃焼室19に臨んでいる。吸気口31はシリンダ軸線L1よりも上方に位置し、排気口32はシリンダ軸線L1よりも下方に位置している。
【0022】
シリンダヘッド15およびヘッドカバー16の内部には、動弁系が配置されている。動弁系は、カム軸35と、第1ロッカーアーム36と、第2ロッカーアーム37と、吸気バルブ41と、排気バルブ42とを備えている。
【0023】
吸気バルブ41は排気バルブ42の上方に配置されている。吸気バルブ41はシリンダ軸線L1よりも上方に配置され、排気バルブ42はシリンダ軸線L1よりも下方に配置されている。そのため、吸気バルブ41は上側のバルブ、排気バルブ42は下側のバルブと言うことができる。吸気バルブ41および排気バルブ42には、従来から内燃機関用の吸気バルブおよび排気バルブとして用いられている各種のバルブを用いることができる。
【0024】
吸気バルブ41は、吸気口31よりも一回り大きな傘部41aと、傘部41aから前方斜め上向きに延びる棒状のバルブステム41bと、バルブステム41bの先端部に設けられたリテーナ41cと、傘部41aが吸気口31を閉じるようにバルブステム41bを付勢するスプリング41dとを有している。リテーナ41cは、バルブステム41bよりも大径に形成されている。リテーナ41cは、スプリング41dの一端部を支持している。
【0025】
排気バルブ42は吸気バルブ41と同様の構成を有しているので、その説明は省略する。ただし、排気バルブ42は吸気バルブ41と異なり、バルブステムが前方斜め下向きに延びるような姿勢に配置されている。
【0026】
カム軸35には、第1カム33と第2カム34とが設けられている。第1カム33と第2カム34とは、カム軸35の軸方向(図3の表裏方向)にずれた位置に配置されている。図6に示すように、カム軸35の左端部にはスプロケット40aが固定されている。スプロケット40aは、チェーン40を介してクランク軸12に連結されている。カム軸35はクランク軸12によって駆動され、クランク軸12と共に回転する。
【0027】
第1ロッカーアーム36は、軸36a(図3参照)を中心として回転可能である。図3に示すように、第1ロッカーアーム36の一端部は第1カム33と接触し、他端部は吸気バルブ41の上端部と接触している。カム軸35の回転に伴って第1カム33が第1ロッカーアーム36の一端部を押し上げると、第1ロッカーアーム36は反時計回り方向に回転し、第1ロッカーアーム36の他端部は吸気バルブ41を後方斜め下向きに押し下げる。すると、傘部41aは吸気口31を開放する。カム軸35が更に回転すると、第1カム33の位置が変わり、第1ロッカーアーム36の一端部は第1カム33によって押し上げられなくなる。すると、スプリング41dがバルブステム41bを前方斜め上向きに押し上げ、吸気バルブ41は前方斜め上向きに移動し、傘部41aは吸気口31を閉じる。第1ロッカーアーム36の他端部は吸気バルブ41によって押し上げられ、第1ロッカーアーム36は時計回り方向に回転する。
【0028】
第2ロッカーアーム37は、軸37aを中心として回転可能である。第2ロッカーアーム37の一端部は第2カム34と接触し、他端部は排気バルブ42の下端部と接触している。第2カム34および第2ロッカーアーム37により、排気バルブ42も吸気バルブ41と同様にして駆動される。
【0029】
吸気バルブ41および排気バルブ42は、可動部品である。吸気バルブ41および排気バルブ42には、クランクケース14内のオイルポンプ38(図4参照)から油が供給される。次に、吸気バルブ41および排気バルブ42に油を供給する機構について説明する。
【0030】
クランクケース14、シリンダブロック11、シリンダヘッド15、およびヘッドカバー16の壁の内部には、複数の通路が形成されている。エンジン13は、これらの通路によって形成される給油路50を備えている。図4の矢印は、給油路50の油の流れの一部を示している。油は、給油路50を通じて各摺動部分に供給される。以下、給油路50を構成する各通路について説明する。なお、本実施形態では、オイルポンプ38から吸気バルブ41に油を供給する給油路は、以下に説明する通路53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、および63によって構成されている。ただし、オイルポンプ38から吸気バルブ41に油を供給する給油路は、上記通路53等から構成される給油路に限定されない。本発明に係る給油路は、シリンダブロック11、シリンダヘッド15、およびヘッドカバー16の壁の内部に形成された通路を有していればよく、本発明に係る給油路の構造は本実施形態の構造に何ら限定される訳ではない。
【0031】
図5に示すように、クランクケース14の底部14aは、油が溜まるように形成されている。クランクケース14の底部14aは、油溜まり部分となっている。クランクケース14には、右方に延びる通路51が形成されている。通路51の左方にはオイルフィルタ39が設けられている。クランクケース14の底部14aに溜まった油は、オイルフィルタ39を通過し、通路51に流れ込む。
【0032】
通路51の右端部は、上方に延びる通路52とつながっている。通路52の上方には、オイルポンプ38が配置されている。通路52は、オイルポンプ38の吸入口38aとつながっている。オイルポンプ38の吐出口38bは、前方斜め上向きに延びる通路53(図4参照)につながっている。通路53の前端部は、右方に延びる通路54とつながっている。図4に示すように、通路54の右端部は、上方に延びる通路55とつながっている。
【0033】
図6に示すように、通路55の上端部は、左方に延びる通路56とつながっている。通路56の左端部は、前方斜め上向きに延びる通路57と、後方斜め下向きに延びる通路70とに分岐している。通路70を流れる油は、クランク軸12、コンロッド18、およびピストン17に供給される。供給された油は、クランクケース14の底部14aに流れ落ちる。これら通路51〜57および通路70は、クランクケース14に形成されている。
【0034】
図4に示すように、クランクケース14とシリンダブロック11との間には、通路57につながる通路58が形成されている。通路58の上端部は、前方斜め上向きに延びる通路59につながっている。通路59は、シリンダブロック11の壁の内部に形成されている。
【0035】
通路59は、前方斜め上向きに延びる通路60とつながっている。通路60の前端部は、通路61と通路71とに分岐している。図6に示すように、通路71は、カム軸35の内部に形成された通路72につながっている。カム軸35には、径方向に延びる通路73が形成されている。通路72に供給された油は、通路73を通じてカム軸35の外側に吐出される。このようにしてカム軸35の外側に吐出された油は、カム軸35の外周部を潤滑すると共に、重力の作用を受けて流れ落ち、排気バルブ42に供給される。供給後の油は、クランクケース14の底部14aに流れ落ちる。通路60および通路71は、シリンダヘッド15の壁の内部に形成されている。
【0036】
図4に示すように、通路61は前方斜め上向きに延びている。通路61の前端部は、左方斜め上向きに延びる通路62とつながっている。通路62は、後方斜め下向きに延びる通路63とつながっている。通路61、通路62、および通路63は、ヘッドカバー16の壁の内部に形成されている。
【0037】
図7は、後方からヘッドカバー16の一部等を見た図である。言い換えると、図7は、図4の矢印VIIの方向からヘッドカバー16の一部等を見た図である。図8は、図7のVIII−VIII線断面図である。図9は、ヘッドカバー16の一部等を後方から見た斜視図である。
【0038】
図9に示すように、ヘッドカバー16の上壁16aには、下方に突出する柱状の第1突出部85が設けられている。通路61は、第1突出部85の内部に形成されている。図8に示すように、ヘッドカバー16には、前壁16bから後方(厳密には、後方斜め下向き。以下、特に断らない限り、「後方」には厳密な意味での後方だけでなく、後方斜め下向きも含まれるものとする。)に突出した第2突出部86が設けられている。第2突出部86は、吸気バルブ41の前方にて吸気バルブ41に対向する壁を有しているため、ヘッドカバー16の前壁16bの一部に該当する。また、第2突出部86は、上壁16aと前壁16bとにわたるコーナー部とも言うことができる。第2突出部86の肉厚は、上壁16aおよび前壁16bの肉厚よりも厚くなっている。通路62および通路63は、第2突出部86の内部に形成されている。
【0039】
通路63の後端には、開口64が形成されている。開口64は、ヘッドカバー16の内面における吸気バルブ41よりも高い位置であって且つ吸気バルブ41の真上の位置から外れた位置に形成されている。開口64は後方に向かって開口している。厳密には、開口64は若干斜め下向きに開口している。図9に示すように、開口64の右方には第1リブ81が設けられている。ヘッドカバー16の上壁16aの開口64よりも右方の部分は、斜め下方に傾斜している。第1リブ81は、その傾斜部分の内面に、下方に突出するように形成されている。第1リブ81は概ね後方に向かって延びている。厳密には、第1リブ81は後方斜め下向きに延びている(図8参照)。第1リブ81の下端部は先細り状に形成されている。図7および図8に示すように、第1リブ81の先端部81aは、吸気バルブ41のリテーナ41cの真上の位置に配置されている。
【0040】
図9に示すように、前壁16bの第2突出部86の前面には、開口64の周囲を囲む第2リブ82が設けられている。第2リブ82は、開口64の左方、下方、および右方の一部を囲むように凹状に形成されている。第2リブ82は、開口64から吐出される油を受ける油受けとして機能する。第2リブ82の右端部は第1リブ81と連続している。第1リブ81および第2リブ82は全体として、開口64の下方および側方を囲むように凹状に形成されている。
【0041】
図8に示すように、第2突出部86の下端部86bは、第1ロッカーアーム36の上端部36t、リテーナ41cの上端部41ct、およびバルブステム41bの上端部41btの各々よりも上方に位置している。第1ロッカーアーム36は、リテーナ41cおよびバルブステム41bよりも前方に配置されている。第2突出部86は第1ロッカーアーム36よりも前方に配置されており、開口64は第1ロッカーアーム36よりも前方に位置している。そのため、開口64は、リテーナ41cおよびバルブステム41bよりも前方に位置している。また、開口64は、第1ロッカーアーム36、リテーナ41c、およびバルブステム41bよりも上方に位置している。図7に示すように、後方から見ると、開口64は第1ロッカーアーム36の上端部36tおよびリテーナ41cの上方に位置している。
【0042】
図8に示すように、第1ロッカーアーム36は吸気バルブ41の前方に配置されており、ヘッドカバー16に覆われている。吸気バルブ41は、ヘッドカバー16およびシリンダヘッド15によって覆われている(図3も参照)。開口64は、吸気バルブ41のヘッドカバー16内に位置する部分だけでなく、シリンダヘッド15内に位置する部分にも油を供給するように構成されている。
【0043】
クランク軸12が回転すると、クランク軸12に連結されたオイルポンプ38が駆動する。クランクケース14の底部14aに溜まった油の一部は、通路51〜63を経て、開口64から吐出される。図4に示すように、オイルポンプ38はギア45を介してクランク軸12と連結している。オイルポンプ38はクランク軸12によって駆動される。オイルポンプ38の回転速度は、クランク軸12の回転速度に応じて増減する。クランク軸12の回転速度が小さいとオイルポンプ38の回転速度は小さくなり、クランク軸12の回転速度が大きいとオイルポンプ38の回転速度は大きくなる。オイルポンプ38の吐出量および吐出圧は、クランク軸12の回転速度に応じて変化する。
【0044】
クランク軸12の回転速度が小さいとき、例えば、自動二輪車1のアイドリング時等では、オイルポンプ38の吐出圧は小さくなり、開口64から吐出される油の勢いは小さくなる。この場合、開口64から吐出される油は、ヘッドカバー16の内面を伝って、第1リブ81に至る。開口64の周りには第2リブ82が設けられているので、いったん開口64の下方に流れた油も、第2リブ82を経由して、第1リブ81に導かれる。図8の矢印F1で示すように、第1リブ81の表面を流れる油は、重力を受けて第1リブ81から流れ落ち、第1ロッカーアーム36および吸気バルブ41に供給される。
【0045】
第1リブ81の先端部81aは、吸気バルブ41のリテーナ41cの真上に位置している。第1リブ81の先端部81aから流れ落ちた油は、吸気バルブ41に供給される。なお、先端部81aは第1リブ81の最下端部でもあり、最も油が流れ落ちやすい部分である。リテーナ41cはバルブステム41bに比べて、平面視面積の大きな部分である。リテーナ41cは、最も油を受け止めやすい部分である。このように、吸気バルブ41のうち最も油を受け止めやすい部分であるリテーナ41cの上方に、第1リブ81のうち最も油が流れ落ちやすい部分である先端部81aを配置することにより、吸気バルブ41に十分な量の油を供給することができる。
【0046】
クランク軸12の回転速度が大きいとき、例えば、自動二輪車1が高速走行中の時などでは、オイルポンプ38の吐出圧は高くなり、油は開口64から勢いよく吐出される。例えば、油は開口64から噴射される。図8の矢印F2に示すように、吐出された油は、第1ロッカーアーム36および吸気バルブ41に直接供給される。
【0047】
以上のように、エンジン13によれば、ヘッドカバー16の内面における吸気バルブ41よりも高い位置であって且つ吸気バルブ41の真上の位置から外れた位置に、給油路50の通路63につながる開口64が形成されている。クランク軸12の回転速度が大きいときには、開口64から油が勢いよく吐出される。そのため、開口64が吸気バルブ41の真上に位置していなくても、吸気バルブ41に油を供給することができる。一方、クランク軸12の回転速度が小さいときには、開口64から吐出される油の勢いは小さくなる。しかし、開口64の側方には、先端部81aが吸気バルブ41のリテーナ41cの真上に位置する第1リブ81が設けられている。開口64から吐出された油は、ヘッドカバー16の内面および第1リブ81の表面を流れ、第1リブ81の先端部81aから吸気バルブ41に流れ落ちる。そのため、開口64が吸気バルブ41の真上に位置していなくても、吸気バルブ41に油を供給することができる。エンジン13によれば、オイルポンプ38の吐出圧が低くなるアイドリング時等であっても、吸気バルブ41に油を良好に供給することができる。
【0048】
また、エンジン13によれば、前述の従来技術(特許文献1参照)と比べて、ヘッドカバー16に形成される通路が少ないため、ヘッドカバー16を小型化することができる。
【0049】
図9に示すように、ヘッドカバー16の内面には、開口64の下方から突出し、第1リブ81に連続する第2リブ82が設けられている。いったん開口64の下方に流れた油は、第2リブ82によって受け止められ、第1リブ81に案内される。そのため、第1リブ81から吸気バルブ41に供給される油の量を多くすることができる。クランク軸12の回転速度が小さい場合であっても、吸気バルブ41に対して十分な量の油を供給することができる。
【0050】
図9に示すように本実施形態では、第1リブ81および第2リブ82は、開口64の下方および側方を囲むように凹状に形成されている。第2リブ82は、開口64の第1リブ81側と反対側、すなわち開口64の左方も囲んでいる。そのため、開口64から第1リブ81に対し、より多くの油を導くことができる。したがって、吸気バルブ41に対し、より多くの油を供給することができる。
【0051】
ただし、第2リブ82の形状および寸法は、特に限定される訳ではない。例えば、図10に示すように、凹状の第2リブ82の代わりに、第1リブ81から左方に延びる突起状の第2リブ83を設けることも可能である。このように、第2リブ83は、開口64の第1リブ81側の一部の下方に配置されていてもよい。あるいは、第2リブは水平方向に延びる板状であってもよい。
【0052】
図9に示すように、第1リブ81は、ヘッドカバー16の上壁16aの内面に形成されている。このことにより、クランク軸12の回転速度が小さいときに吸気バルブ41に油を供給する手段を、簡単な構成により実現することができる。
【0053】
図8に示すように、開口64は吸気バルブ41の前端41fよりも前方に位置し、第1リブ81は後方斜め下向きに延びている。開口64は、ヘッドカバー16の前壁16bの内面(詳しくは、前壁16bの第2突出部86の表面)に形成され、第1リブ81は後方斜め下向きに延びている。このことにより、クランク軸12の回転速度が小さいときに吸気バルブ41に油を供給する手段を、シリンダ軸線L1(図3参照)が前向きまたは前方斜め上向きに延びるエンジン13の形状の特徴を活かして、簡単な構成により実現することができる。
【0054】
図7および図9に示すように、第1リブ81の下端部は下方に向かって先細り状に形成されている。第1リブ81の下面は、下方に向かって凸状に湾曲している。これにより、油は第1リブ81から円滑に流れ落ちる。したがって、第1リブ81から吸気バルブ41に対して、油を円滑に供給することができる。
【0055】
ただし、第1リブ81の形状は特に限定されない。例えば、図11に示すように、第1リブ81の下端は逆三角形状に形成されていてもよい。第1リブ81の下端は尖っていてもよい。また、図12に示すように、第1リブ81の下端部は、必ずしも先細り状に形成されていなくてもよい。
【0056】
吸気バルブ41のうち、リテーナ41cはバルブステム41bに比べて、平面視の面積が大きい(図7等参照)。図7に示すように、第1リブ81の先端部81aは、リテーナ41cの真上に位置している。より詳しくは、第1リブ81の先端部81aは、リテーナ41cの右端部の真上に位置している。第1リブ81によれば、吸気バルブ41のうち平面視面積の大きい部分に油を流下させることができる。よって、吸気バルブ41に対して安定的に油を供給することができる。
【0057】
図9に示すように、ヘッドカバー16は、上壁16aの内面から下方に突出した第1突出部85を有している。また、図8に示すように、ヘッドカバー16は、前壁16bの内面から後方に突出した第2突出部86を有している。通路61は第1突出部85の内部に形成され、通路62および通路63は第2突出部86の内部に形成されている。第1突出部85および第2突出部86は、他の部分よりも厚みが大きい。したがって、通路61〜63を薄肉の部分に形成する必要はなく、通路61〜63を容易に形成することができる。また、通路61〜63の形成に伴ってヘッドカバー16の強度が低下することを避けることができる。ヘッドカバー16の大型化を抑制することができる。
【0058】
本実施形態では、開口64はヘッドカバー16の前壁16bの内面に形成されていた。しかし、開口64は、ヘッドカバー16の上壁16aの内面に形成されていてもよい。また、開口64は、ヘッドカバー16の上壁16aの内面および前壁16bの内面にわたって形成されていてもよい。言い換えると、開口64は、上壁16aの内面と前壁16bの内面との境界部に形成されていてもよい。
【0059】
図9に示すように、本実施形態では、第1リブ81の下端は第2リブ82の下端よりも高い位置に配置されていた。しかし、図13に示すように、第1リブ81の下端81bと第2リブ82の下端82bとは、同一の高さに位置していてもよい。また、第1リブ81の下端は、第2リブ82の下端よりも低い位置に配置されていてもよい。
【0060】
第1リブ81は、後方に延びていなくてもよく、左方または右方に傾斜していてもよい。第1リブ81は、直線状に延びていなくてもよく、曲がっていてもよい。第1リブ81の形状および寸法は、特に限定される訳ではない。
【0061】
本実施形態では、第1リブ81の先端部81aは、リテーナ41cの真上に位置していた。しかし、第1リブ81の先端部81aの位置は特に限定されない。第1リブ81の先端部81aは、バルブステム41bの真上に位置していてもよい。第1リブ81の先端部81aは、吸気バルブ41に油を供給できる任意の位置に配置することができる。
【0062】
本実施形態では、クランクケース14の内部に、オイルポンプ38を収容する閉空間が形成されていた。しかし、クランクケースと他の1または2以上のケースとが結合されることによって、オイルポンプ38を収容する閉空間が形成されていてもよい。本発明に係る「ケース」は、シリンダブロック等と共に、クランク軸およびオイルポンプを収容する閉空間を形成するものである。「ケース」は、クランクケースのみで構成されていてもよく、クランクケースと他のケースとにより構成されていてもよい。「ケース」は、単一の部品であってもよく、複数の部品が組み合わせられて構成されていてもよい。
【0063】
本実施形態では、クランクケース14とシリンダブロック11とは別体であり、互いに組み立てられていた。しかし、クランクケース14とシリンダブロック11とは、一体物であってもよい。エンジン13は単気筒のエンジンに限らず、多気筒のエンジンであってもよい。例えば、多気筒エンジンにおいて、クランクケース14の上部と下部とが別体に形成され、シリンダブロック11がクランクケース14の上部と一体化されていてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 エンジンユニット
11 シリンダブロック
12 クランク軸
13 エンジン
14 クランクケース
15 シリンダヘッド
16 ヘッドカバー
31 吸気口
32 排気口
38 オイルポンプ
41 吸気バルブ
50 給油路
64 開口
81 第1リブ
82 第2リブ
L1 シリンダ軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸を収容するケースと、
前記ケースと一体化され又は別体に形成され、前記ケースから前向きまたは前方斜め上向きに延びるシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの先端部に固定され、前記シリンダブロックと共に燃焼室を区画すると共に、前記燃焼室に臨む吸気口および排気口が形成されたシリンダヘッドと、
前記シリンダヘッドの先端部に固定されたヘッドカバーと、
前記ヘッドカバーおよび前記シリンダヘッドの内部であって且つ少なくとも一部がシリンダ軸線よりも上方に配置され、前記吸気口および前記排気口のいずれか一つを開閉するバルブと、
前記ケースの内部に配置されると共に前記クランク軸により駆動され、前記クランク軸の回転速度に応じて吐出量が変化するオイルポンプと、
前記シリンダブロック、前記シリンダヘッド、および前記ヘッドカバーの壁の内部に形成された通路を有し、前記オイルポンプから吐出される油を導く給油路と、を備え、
前記ヘッドカバーの内面における前記バルブよりも高い位置であって且つ前記バルブの真上の位置から外れた位置に、前記給油路につながる開口が形成され、
前記ヘッドカバーの内面から突出し、一端が前記開口の側方に位置し、他端が前記バルブの真上に位置する第1リブを備えた、内燃機関。
【請求項2】
少なくとも一部が前記ヘッドカバーの内面の前記開口の下方から突出し、前記第1リブと連続した第2リブを備えている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記第1リブおよび前記第2リブは、前記開口の下方および側方を囲むように凹状に形成されている、請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記第1リブは、前記ヘッドカバーの上壁の内面に形成されている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記開口は、前記バルブの前端よりも前方に位置し、
前記第1リブは、後方斜め下向きに延びている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記開口は、前記ヘッドカバーの前壁の内面に形成され、
前記第1リブは、後方斜め下向きに延びている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記第1リブの下端は、下方に向かって先細り状に形成されている、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項8】
前記バルブは、前方斜め上向きに延びるバルブステムと、バルブステムの先端に設けられたリテーナと、を有し、
前記第1リブの前記他端は、前記リテーナの真上に位置している、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項9】
前記ヘッドカバーは、上壁の内面から下方に突出した第1突出部と、前壁の内面から後方に突出した第2突出部とを有し、
前記給油路は、前記第1突出部の内部に形成された通路と、前記第2突出部の内部に形成された通路とを有している、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項10】
請求項1に記載の内燃機関を備えた自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−246839(P2012−246839A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119344(P2011−119344)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】