説明

内燃機関における低騒音ギヤ

【課題】カムシャフトをバルブタイミングに合わせて正確に回転させ、位相角のズレが生じることがない内燃機関における低騒音ギヤを提供する。
【解決手段】内側部材30の外周面に凹凸部30aを形成し、外側部材31の内周面に内側部材30の凹凸部30aと対応する凹凸部31aを形成し、内側部材30の凹凸部30aと外側部材31の凹凸部31aとの間にゴム製の振動吸収部材33を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関における低騒音ギヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においては、図3に示すようにカムシャフト2は、クランクシャフト1からギヤトレイン18を介して駆動される。なお図3に示すバルブメカニズムはDOHC(ダブルオーバーヘッドカムシャフト)式のため、カムシャフト2が2本ある(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−341307号公報
【特許文献2】特開平10−184381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内燃機関においては、クランクシャフト1は回転変動を伴いながら回転する。またカムシャフト2も、カム山を有しているため回転変動を伴いながら回転する。このため、図3におけるカムギヤ3a,4a(カムシャフト2,2に取り付けられているギヤ)とアイドルドライブギヤ16は、互いに回転変動を伴いながら噛み合っている。また通常、噛み合う2枚の歯車の間には、バックラッシュという隙間がある。そのためカムギヤ3a,4aとアイドルドライブギヤ16の歯面は接触したり、離れたりしながら衝突を繰り返している。それにより、いわゆる「歯打ち音」が発生する。この「歯打ち音」を回避するために、実公平4−13467号公報や実開平5−71519号公報に開示されているシザーズギヤがある。
【0005】
すなわち、図4及び図5に示すように、シザーズギヤ5,5a(シザーズギヤ5aは、シザーズギヤ5と同一であるので、以下シザーズギヤ5について述べる)は、カムシャフト2に固定されるメインギヤ50と、このメインギヤ50に対して相対回動自在なメインギヤ50より歯幅の薄いサブギヤ51と、メインギヤ50及びサブギヤ51の合わせ面である背面側にそれぞれ固定されたノックピン52,52(図5ではサブギヤ51に固定されたノックピン52のみが見えている)と、これらのノックピン52,52に両端部が係合する切欠きリング状のトーションスプリング53とを備え、このトーションスプリング53の弾発力によりメインギヤ50とサブギヤ51とを相対回動させて、これらに噛み合うアイドルドライブギヤ16との間のバックラッシュを除去するように構成されたものである。
【0006】
このようにシザーズギヤ5の場合、メインギヤ50とサブギヤ51からなる2枚のギヤをトーションスプリング53で突っ張ることでバックラッシュをゼロとする。
【0007】
そのため、本来、図5に示すシザーズギヤ5を駆動するのに必要な荷重に、スプリングによる荷重(トーションスプリング53の弾発力)を加えた荷重がギヤの歯面にかかる。したがって歯面で生じる摩擦力がスプリングの荷重分だけ増えてしまい、結果として燃費を悪化させている。
【0008】
また「歯打ち音」の元となる振動は歯面の衝突で生じるが、その振動がカムシャフト2を伝わり、シリンダヘッド8を伝わり、騒音(歯打ち音)として放射される。そのため、従来図6に示すようにギヤ7aの一部にリング状に形成したゴム部材70aを挟み込んで、このゴム部材70aで振動を遮断したものがある。しかしながら図6に示すギヤ7aのままでは、ゴム部材70aの変形(ギヤ7aの回転方向)によりギヤ7aの位相がずれる。多少であれば実害はないが、小さいに越したことはない。
【0009】
特にギヤ7aが、バルブタイミングに合わせて正確に回転させる必要があるカムギヤの場合は、ゴム部材70aが弾性変形するためにギヤ7aの回転を正確にカムシャフト2に伝達することができず、位相角のズレが生じる。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、歯打ち音の発生を回避し、しかも位相角のズレが生じることが少ない内燃機関における低騒音ギヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明の内燃機関における低騒音ギヤは、ギヤを内側部材と外側部材とに分割し、これら内側部材と外側部材の間にゴム製の振動吸収部材を設けた内燃機関における低騒音ギヤにおいて、前記内側部材の外周面に凹凸部を形成し、前記外側部材の内周面に前記内側部材の凹凸部と対応する凹凸部を形成し、前記内側部材の凹凸部と外側部材の凹凸部との間にゴム製の振動吸収部材を設けたことを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、ゴム製の振動吸収部材が円周方向に連続的に凹凸状に形成されているので、回転方向の力を圧縮で受けて変形量を減らすことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、歯打ち音の発生を回避し、しかも位相角のズレが生じることがなく、カムシャフトをバルブタイミングに合わせて正確に回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、内燃機関の概略正面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係るカムギヤを示す図で、(a)は正面図で、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】図3は、内燃機関の一例を示す概略正面図である。
【図4】図4は、図3の内燃機関におけるシザーズギヤの実例を示す正面図である。
【図5】図5は、図4のC−C断面図である。
【図6】図6は、ギヤの一部にゴムを圧入した従来のギヤを示す図で、(a)は正面図で、(b)は側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお従来例と同様の部分については同一の符号を付して説明する。
【0016】
内燃機関は、図1に示すようにDOHCの場合、カムシャフト2,2は、クランクシャフト1のクランクギヤ10からアイドルギヤ11,12、スプロケット13、チェーン14、スプロケット15、アイドルドライブギヤ16を介してカムギヤ3,4が回転することで駆動される。なお、図1において、6はシリンダブロック、8はシリンダヘッド、14aはチェーンテンション、14bはガイド部材、17はオイルポンプ駆動用ギヤである。
【0017】
図2に示すようにカムギヤ3,4(カムギヤ4は、カムギヤ3と同一であるので、以下カムギヤ3について述べる)は、カムシャフト2に固定される内側部材30と、アイドルドライブギヤ16と噛み合う歯34を有する外側部材31と、内側部材30と外側部材31との間に介在されるゴム製の振動吸収部材33とからなる。内側部材30の中心に形成された軸穴32にカムシャフト2が挿通され、図示しないキー等を介して内側部材30はカムシャフト2と共に回転するようになっている。
【0018】
内側部材30は、その外周面に山と谷からなる凹凸部30aを形成し、外側部材31は、その内周面に山と谷からなる凹凸部31aを形成している。内側部材30の山(谷)と外側部材31の谷(山)とが一致するように、内側部材30の凹凸部30aと外側部材31の凹凸部31aとは互いに対応している。したがって内側部材30と外側部材31との間には、凹凸部30a,31aによって全体に蛇行した隙間35が形成されている。
【0019】
リング状に形成される振動吸収部材33は、その内周面に内側部材30の凹凸部30aに当接する凹凸部33aが形成され、外周面に外側部材31の凹凸部31aに当接する凹凸部33bが形成されている。すなわち振動吸収部材33の周辺形状は、蛇行した隙間35の形状に沿うように凹凸となって、カムギヤ3の回転方向には振動吸収部材33を薄くしている。
【0020】
このように構成されたカムギヤ3は、内側部材30がカムシャフト2に取り付けられ、外側部材31がアイドルドライブギヤ16と噛み合ってクランクギヤ10から回転が伝達される。カムギヤ3とアイドルドライブギヤ16は、互いに回転変動を伴いながら噛み合っているが、カムギヤ3は、内側部材30の外周面に形成された凹凸部30aと外側部材31の内周面に形成された凹凸部31aの間にゴム製の振動吸収部材33を設けているので、回転変動に伴う振動を吸収することができる。
【0021】
音の減衰性や位相ずれ度合いは、振動吸収部材33のゴムの硬度、バネ定数、隙間35のB寸法(図2(a)参照)で調整することができる。
【0022】
図6に示す従来のゴム部材70aは、せん断で受けるため変形が大きいが、本実施形態では、振動吸収部材33のゴム周辺形状が凹凸に形成され、圧縮で受けるようにしているので、騒音低減効果は同じまま、振動吸収部材33の変形(カムギヤ3の回転方向)を減らすことができると共に、変形量を規制することができる。
【0023】
ゴム製の振動吸収部材33は、ゴムだけだと内部損失(内部摩擦抵抗)が少ないので、内部に例えば1〜2mm四方の布チップまたは直径1mm程度の樹脂ボールないしは金属ボールを、ゴム混錬時に混ぜ込んで内部損失を増やすようにしてもよい。
【0024】
以上、本発明によれば内側部材30の外周面に凹凸部30aを形成し、外側部材31の内周面に凹凸部31aを形成し、これらの凹凸部30a,31aの間にゴム製の振動吸収部材33を設けるだけでよく、従来のシザーズギヤに比べて部品点数が少なく、組立が容易で安価である。またシザーズギヤに比べて歯面での摩擦が少ないので、燃費が向上する。
【0025】
またギヤ全体を樹脂とした、いわゆる樹脂ギヤに比べて歯が金属なので、歯の強度が高く、荷重の高い箇所にも使える。
【0026】
また図6に示すようにギヤ7aの一部にリング状に形成したゴム部材70aを挟み込んだものに比べて位相ずれが少ない。
【0027】
なお、本発明は、カムギヤのように位相が問題となるギヤに最適であるが、他の用途のギヤにも適用できる。また回転変動があれば、内燃機関でなくても本発明の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 クランクシャフト
2 カムシャフト
3,4 カムギヤ
6 シリンダブロック
7a ギヤ
8 シリンダヘッド
10 クランクギヤ
13,15 スプロケット
16 アイドルドライブギヤ
30 内側部材
30a 凹凸部
31 外側部材
31a 凹凸部
33 振動吸収部材
33a,33b 凹凸部
35 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギヤを内側部材と外側部材とに分割し、これら内側部材と外側部材の間にゴム製の振動吸収部材を設けた内燃機関における低騒音ギヤにおいて、
前記内側部材の外周面に凹凸部を形成し、
前記外側部材の内周面に前記内側部材の凹凸部と対応する凹凸部を形成し、
前記内側部材の凹凸部と外側部材の凹凸部との間にゴム製の振動吸収部材を設けたことを特徴とする内燃機関における低騒音ギヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−169270(P2011−169270A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34957(P2010−34957)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】