説明

内燃機関の可変圧縮比機構

【課題】気筒毎に圧縮比を変更することができる内燃機関の可変圧縮比機構を提供する。
【解決手段】コンロッド12を介してクランクシャフトに連結されたインナーピストン14と、インナーピストン14にスライド可能に被嵌されたアウターピストン15と、アウターピストン15の頂部裏面15aとインナーピストン14の頂部表面14aとの間に形成された圧力作動室16と、コンロッド12に設けられ、圧力作動室16に作動流体を給排するための作動流体給排通路17と、作動流体給排通路17に配設され、その作動流体給排通路17を開閉する開閉弁26と、開閉弁26を開閉制御する制御部22とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の可変圧縮比機構に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の可変圧縮比機構として、コンロッドがピストンピンに連結されるアッパーコンロッドとクランクシャフトのクランクピンに連結されるロアコンロッドとを連結してなり、ロアコンロッドに揺動アームを連結したもの(特許文献1)、コンロッドがピストンに連結される第1コンロッドとクランクシャフトに連結される第2コンロッドとを連結してなり、第1コンロッドにコントロールロッドを連結したもの(特許文献2)等、種々の装置が考案されている。
【0003】
特許文献1及び2はいずれも、上記の揺動アームやコントロールロッド等を別のアクチュエータで動かし、見かけのコンロッド長さを変えてピストンの上死点位置を変えることで、圧縮比を変えるものである。
【0004】
【特許文献1】特開2001−317383号公報
【特許文献2】特開2000−54873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、多気筒の内燃機関において、各気筒の燃料制御(燃料噴射量)は、ピストンが上死点に至る一定時間前に決定されており、全気筒同時に圧縮比を変えると最適な燃料制御がずれてしまう気筒が存在し、排ガスの悪化を招く虞がある。そのため、気筒毎に圧縮比を変更することが望ましい。
【0006】
更に、特許文献1及び2のように、揺動アームやコントロールロッド等によりコンロッドを揺動させてピストンの上死点位置を変化させる機構は、圧縮比変更に伴ってクランク角に対するピストン速度が変わるため、異なる周波数成分の振動・騒音を誘起してしまうため、その対策が煩雑となる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、気筒毎に圧縮比を変更することができる内燃機関の可変圧縮比機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、コンロッドを介してクランクシャフトに連結されたインナーピストンと、該インナーピストンにスライド可能に被嵌されたアウターピストンと、該アウターピストンの頂部裏面と上記インナーピストンの頂部表面との間に形成された圧力作動室と、上記コンロッドに設けられ、上記圧力作動室に作動流体を給排するための作動流体給排通路と、該作動流体給排通路に配設され、その作動流体給排通路を開閉する開閉弁と、該開閉弁を開閉制御する制御部とを備えたものである。
【0009】
ここで、上記制御部は、上記圧力作動室内に作動流体を供給するときには、吸気行程中に上記開閉弁を開き、上記圧力作動室内から作動流体を排出するときには、圧縮行程中に上記開閉弁を開くものであっても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、気筒毎に圧縮比を変更することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関の可変圧縮比機構の概略図である。なお、ピストンピンとクランクピンとは互いに略平行に延設されるが、図1中の二点鎖線Lより下側の部分は二点鎖線Lより上側の部分の断面と直交する断面を示している。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る可変圧縮比機構10では、ピストン11は、コンロッド(コネクティングロッド)12を介してクランクシャフトのクランクピン13に連結されたインナーピストン14と、インナーピストン14にスライド可能に被嵌された有底円筒状のアウターピストン15とから構成されており、アウターピストン15の頂部裏面15aとインナーピストン14の頂部表面14aとの間に圧力作動室(油圧作動室)16が区画形成されている。コンロッド12には、圧力作動室16に作動流体(本実施形態では、エンジンオイル)を給排するための作動流体給排通路17が設けられている。
【0014】
インナーピストン14は、ピストンピン18を介してコンロッド12の一端(スモールエンド)12aに連結されており、コンロッド12の他端(ビッグエンド)12bは、コンロッドベアリング(図示せず)を介してクランクシャフトのクランクピン13に連結されている。インナーピストン14には、アウターピストン15とインナーピストン14との間の隙間をシールするためのリングシール19が装着されている。
【0015】
本実施形態では、作動流体の給排のために、クランクシャフトのクランクピン13には、クランクピン13の長手方向に延出する流体通路(油通路)13aと、流体通路13aに連通させて設けられクランクピン13の径方向に延出する流体穴(油穴)13bとが設けられている。また、ピストンピン18には、コンロッド12のスモールエンド12a内周の流体溝(油溝)12dに連通させて長手方向中間部に設けられピストンピン18の径方向に延出する流体穴(油穴)18aと、流体穴18aに連通させて設けられピストンピン18の長手方向に延出する流体通路(油通路)18bと、流体通路18bに連通させて長手方向端部に設けられピストンピン18の径方向に延出する流体穴(油穴)18cとが設けられている。また、インナーピストン14には、ピストンピン18の流体穴18cに連通させてピストンピン穴14bの内周に設けられピストンピン穴14bの周方向に延出する流体溝(油溝)14cと、流体溝14cと頂部表面14aとを連通する流体穴(油穴)14dとが設けられている。
【0016】
インナーピストン14の頂部には、インナーピストン14に対するアウターピストン15の変位(位置)を検出する変位センサ(本実施形態では、静電容量型変位計)20のセンサ部が取り付けられている。変位センサ20はリード線21を介して、後述する制御部22に電気的に接続されている。
【0017】
コンロッド12のロッド部12c内には、発電部23、蓄圧部24、制御部22、アクチュエータ(本実施形態では、ピエゾソレノイド)25及び開閉弁(チェックバルブ)26が内蔵されている。本実施形態では、上記発電部23、蓄圧部24、制御部22、ピエゾソレノイド25及び開閉弁26をロッド部12c内に内蔵するために、ロッド部12cがビッグエンド12b近傍で分割されており、それら分割された分割部分がスリーブナット27で結合されている。
【0018】
上記開閉弁26は、上記作動流体給排通路17に配設されており、その作動流体給排通路17を開閉するものであり、上記制御部22は、ピエゾソレノイド25を駆動して開閉弁26を開閉制御するものである。
【0019】
図2に、発電部23の概略を示す。発電部23は、外筒28と、外筒28内に設けられたコイル29と、コイル29の内方に区画形成された流体通路(油通路)30と、流体通路30内に往復運動可能に設けられたマグネット(永久磁石)31とを有する。作動流体の給排のために、マグネット31には、流体通路30に連通する流体穴(油穴)31aが設けられている。内燃機関の運転に伴うコンロッド12の上下運動により、マグネット31がコイル29内方の流体通路30内で上下運動することにより起電力が発生する。コイル29内方の流体通路30は、上記作動流体給排通路17の一部をなし、流体通路30内の作動流体でマグネット31の上下運動を減衰させることにより、マグネット31や外筒28等の破損を防止することが可能となる。
【0020】
図3に、制御部22の概略を示す。発電部23で発電された電流は、蓄圧部24において、整流、調圧された後、コンデンサに蓄えられる。コンデンサに蓄えられた電流は、制御部22(ドライバ)の作動やピエゾソレノイド25等の駆動に用いられる。インナーピストン14の頂部に取り付けられた変位センサ20の変位信号は、リード線21を介して制御部22に伝送され、制御部22によってECM(エンジンコントロールモジュール)32に送信される。ECM32は、変位センサ20の変位信号に基づいてアウターピストン15の目標変位を決定し、決定した目標変位に応じたピエゾソレノイド25の駆動信号を制御部22に送信する。制御部22は、ECM32からの駆動信号を受信し、その駆動信号に応じてドライバを作動させてピエゾソレノイド25を駆動して、開閉弁26の開閉を行う。
【0021】
ピエゾソレノイド25を駆動して開閉弁26を開くと、作動流体が、クランクシャフトのクランクピン13(流体通路13a、流体穴13b)、コンロッド12(作動流体給排通路17)内の開閉弁26、ピストンピン18(流体穴18a、流体通路18b、流体穴18c)、インナーピストン14(流体溝14c、流体穴14d)を通り、上記圧力作動室16に供給される。圧力作動室16に供給された作動流体によって、アウターピストン15が押し上げられる。アウターピストン15の変位が所定の変位となったときに、ピエゾソレノイド25を駆動して開閉弁26を閉じれば、圧力作動室16内の作動流体が保持され、要求された圧縮比を得ることが可能となる。
【0022】
つまり、本実施形態では、コンロッド12(作動流体給排通路17)内に設けた開閉弁26を開閉することにより、アウターピストン15とインナーピストン14との間の圧力作動室16内の作動流体の量(油量)を調節することで、ピストン11(アウターピストン15)の頂部高さを変えて、圧縮比を変更する。
【0023】
短時間で安定的に圧縮比の変更を行うために、本実施形態では、制御部22は、圧力作動室16に負圧が作用する吸気行程中に開閉弁26を開き、作動流体を早期に圧力作動室16内に流入させる。このとき、インナーピストン14とアウターピストン15との間の隙間からの作動流体のリーク、エア混入等により、圧縮時にリフトロスが生じるため、制御部22は、吸気行程において、アウターピストン15の変位が目標変位以上となるように作動流体を圧力作動室16内に流入させ、圧力作動室16に正圧が作用する次の圧縮行程中に、開閉弁26の短時間の開閉を変位センサ20の変位信号によりフィードバックして行い、作動流体を圧力作動室16から流出させることで、アウターピストン15の変位を目標変位に一致させる。
【0024】
即ち、圧縮時のリフトロスにより吸気行程中の開閉弁26の開閉(作動流体の供給)のみでアウターピストン15の変位を目標変位に一致させることは難しいことから、本実施形態では、吸気行程中に開閉弁26を開いて、アウターピストン15の変位が目標変位以上となるように作動流体を多めに圧力作動室16内に流入させ、次の圧縮行程中に開閉弁26を開いて、多めに流入させた作動流体の一部を圧力作動室16から流出させることで、アウターピストン15の変位を目標変位に一致させるようにしている。
【0025】
ここで、内燃機関の負荷に応じて気筒毎に圧縮比を変えることは、中・低速領域の燃費を改善するのに大変有効である。
【0026】
ガソリンエンジンに於いては、ガソリンエンジンの高負荷領域での異常燃焼(デトネーション)を防止するために、高負荷領域のみ圧縮比を下げて、中・低負荷領域の圧縮比を高いまま維持することにより、中・低速領域の燃費を高めることが可能となる。
【0027】
ディーゼルエンジンに於いては、近年の排ガス対策により、EGRガス量の増大が予想されている。燃料噴射量の多い高負荷領域では筒内圧が著しく増加するため、NOxの低減のために、圧縮比を下げることが有効である。また、筒内圧の増加に伴う、エンジンの強度アップを避けるために、高負荷領域では圧縮比を下げる必要もある。
【0028】
本実施形態では、コンロッド12を介してクランクシャフトに連結されたインナーピストン14と、インナーピストン14にスライド可能に被嵌されたアウターピストン15と、アウターピストン15の頂部裏面15aとインナーピストン14の頂部表面14aとの間に形成された圧力作動室16と、コンロッド12に設けられ、圧力作動室16に作動流体を給排するための作動流体給排通路17と、作動流体給排通路17に配設され、その作動流体給排通路17を開閉する開閉弁26と、開閉弁26を開閉制御する制御部22とを備えるので、開閉弁26を開閉して圧力作動室16に対する作動流体の給排を行うことで、インナーピストン14に対するアウターピストン15の変位(位置)を変えることができ、気筒毎に圧縮比を変えることが可能となる。
【0029】
即ち、公知の可変圧縮比機構では、全気筒同時に圧縮比を変えるため、最適な燃料制御がずれてしまう気筒が存在し、排ガスの悪化を招く虞があったが、本実施形態に係る可変圧縮比機構10では、気筒毎に圧縮比を吸気行程中、圧縮行程中に変えるため、燃料制御上の問題も無く、排ガスの悪化を招くことも無く、燃費の向上を図ることができる。
【0030】
また、本実施形態では、圧縮比変更に伴ってクランク角に対するピストン速度が変わらないので、異なる周波数成分の振動・騒音を誘起してしまうことはない。
【0031】
また、本実施形態では、制御部22は、圧力作動室16内に作動流体を供給するときには、圧力作動室16に負圧が作用する吸気行程中に開閉弁26を開き、圧力作動室16内から作動流体を排出するときには、圧力作動室16に正圧が作用する圧縮行程中に開閉弁26を開くので、圧力作動室16内の圧力(負圧或いは正圧)を利用して圧力作動室16に対する作動流体の給排を行うことができ、機構が大型化、重量化することを抑制することが可能となる。
【0032】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関の可変圧縮比機構の側断面図である。
【図2】図2は、発電部の概略を示す図である。
【図3】図3は、制御部の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
10 可変圧縮比機構
11 ピストン
12 コンロッド(コネクティングロッド)
14 インナーピストン
14a 頂部表面
15 アウターピストン
15a 頂部裏面
16 圧力作動室
17 作動流体給排通路
22 制御部
26 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンロッドを介してクランクシャフトに連結されたインナーピストンと、該インナーピストンにスライド可能に被嵌されたアウターピストンと、該アウターピストンの頂部裏面と上記インナーピストンの頂部表面との間に形成された圧力作動室と、上記コンロッドに設けられ、上記圧力作動室に作動流体を給排するための作動流体給排通路と、該作動流体給排通路に配設され、その作動流体給排通路を開閉する開閉弁と、該開閉弁を開閉制御する制御部とを備えたことを特徴とする内燃機関の可変圧縮比機構。
【請求項2】
上記制御部は、上記圧力作動室内に作動流体を供給するときには、吸気行程中に上記開閉弁を開き、上記圧力作動室内から作動流体を排出するときには、圧縮行程中に上記開閉弁を開く請求項1に記載の内燃機関の可変圧縮比機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−112286(P2010−112286A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286280(P2008−286280)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)