説明

内燃機関の排気装置

【課題】簡易な構造でエンジン出力特性を向上させるとともにレイアウトの自由度を確保することのできる、内燃機関の排気装置を提供する。
【解決手段】多気筒内燃機関の各気筒の排気口に接続される複数の排気管と、排気管の管壁に形成された連通口を介して、対となる排気管同士を連通する連通管と、を備え、連通管の端部にフランジ部が形成され、該フランジ部が排気管の管壁外周面に対して溶接接続されており、排気管を連通管の長手方向から見たとき、連通管の連通路の断面形状が、排気管の長手方向に沿って延びる扁平形状をしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関の排気管同士を連通することによりエンジン出力特性を向上させる、内燃機関の排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多気筒内燃機関において、対となる排気管同士を連通管で連通することにより、エンジン出力特性を向上させるための排気装置に関して種々の提案がなされている。(例えば、特許文献1を参照すること。)
【0003】
特許文献1に開示された4サイクルエンジンの排気装置は、2つの排気管同士を2本以上の連通管で連通することにより、連通管の連通路での有効連通面積を拡大し、エンジン出力特性の向上を図ろうとしている。ところで、特許文献1に開示された排気装置においては、連通管の連通部分が車体の前方向に突出しているために、側面視、複数の排気管を集合配置した排気管群に対して連通部分が車体の前方向にはみ出るような構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−337156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された、対となる排気管を複数個の連通管で連通する構成においては、1個の連通管で連通する場合よりも有効連通面積を拡大させることが可能になるものの、連通管の数が増えるに従って管壁表面との摩擦に起因した流路抵抗が増加するために、エンジン出力特性の大幅な向上を望むことができない。また、連通管の数が増えると、部品点数の増加によるコストアップや、構造が複雑になることによりレイアウトの自由度低下を招くという問題がある。
【0006】
また、複数の排気管を集合配置した排気管群に対して、車体の前後方向にラジエータやエンジンを配置する構成が一般的であるために、連通管の連通部分が車体の前方向に突出している特許文献1に開示された構成は、レイアウトの自由度を制限するために好ましくない。
【0007】
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、簡易な構造でエンジン出力特性を向上させるとともにレイアウトの自由度を確保することのできる、内燃機関の排気装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下の内燃機関の排気装置が提供される。
【0009】
すなわち、本発明の請求項1に係る内燃機関の排気装置は、多気筒内燃機関の各気筒の排気口に接続される複数の排気管と、前記排気管の管壁に形成された連通口を介して、対となる前記排気管同士を連通する連通管と、を備え、前記連通管の端部にフランジ部が形成され、該フランジ部が前記排気管の管壁外周面に対して溶接接続されており、前記排気管を前記連通管の長手方向から見たとき、前記連通管の連通路の断面形状が、前記排気管の長手方向に沿って延びる扁平形状をしていることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2に係る内燃機関の排気装置では、前記排気管を前記連通管の長手方向から見たとき、前記フランジ部の短径方向の全長が、前記排気管の高さ寸法以下であり、前記連通路の断面形状の長径方向長さが前記排気管の高さ寸法より大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項3に係る内燃機関の排気装置では、前記連通管の長径方向の内壁が、前記連通口に対して離間配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項4に係る内燃機関の排気装置では、前記連通管の短径方向の内壁が、前記連通口に対して離間配置されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5に係る内燃機関の排気装置では、前記連通口が円形状であり、前記連通路の断面形状が湾曲部分から構成されるオーバル形状であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項6に係る内燃機関の排気装置では、前記連通管は該連通管の長手方向に延びる継目部を有し、前記継目部が前記気筒寄りに形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項7に係る内燃機関の排気装置の製造方法では、請求項1乃至6に記載された前記連通管は、曲げ加工により平板を丸めてオーバル形状の板状体を作成するとともに該オーバル形の板状体の両側端部に対して前記排気管の管壁形状に沿ったフランジ部を形成し、該オーバル形の板状体の側縁同士を溶接接続することによって作成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る本発明では、連通路の扁平した断面形状において、排気管の外形寸法によって連通路断面の短径方向長さが制限を受ける中で連通路断面の長径方向には延びることができることにより、できるだけ大きな連通路の有効連通面積(内部空間)を確保することができるので、エンジン出力特性を向上させることができる。熔接代としてのフランジ部も連通路断面の長径方向に延びることにより、大きな熔接代を確保することができ、熔接強度をアップさせることができる。そして、扁平した断面形状の連通管は、いわゆるダムのアーチ構造のように複数の異なった曲率半径の円弧を連ねた形状と考えることができ、印加された力を当該形状によって分散させることができるので、真円形状のものよりも連通管の機械的強度が高くなる。また、車体の側面視、連通管の連通部分が排気管で隠れることで、連通管で連通された排気管の美観が向上する。
【0017】
請求項2に係る本発明では、所定の溶接代を確保しつつ、連通路の有効連通面積(内部空間)をできるだけ大きく確保することができる。
【0018】
請求項3に係る本発明では、連通口よりも連通路の内部空間の径を大きくして、連通路の内部空間を共鳴構造として使用することにより、排気特性を適宜に設定することができる。また、連通路の断面形状と重なる排気管の長手方向の管壁部分が、排気管の長手方向の剛性確保に寄与することができる。
【0019】
請求項4に係る本発明では、連通口よりも連通路の内部空間の径を大きくして、連通路の内部空間を共鳴構造として使用することにより、排気特性を適宜に設定することができる。また、連通路の断面形状と重なる排気管の高さ方向の管壁部分が、排気管の高さ方向の剛性確保に寄与することができる。
【0020】
請求項5に係る本発明では、連通路の横断面が湾曲部分で構成されているので、連通管のある部分への応力集中を引き起こしにくくすることができる。
【0021】
請求項6に係る本発明では、継目部が気筒で隠れるので、継目部を有する連通管の美観が向上する。
【0022】
請求項7に係る本発明では、パイプを出発素材として曲げ加工を行う場合よりも、湾曲したフランジ部を容易に形成することができる。また、円筒を2つ割りにした2分割素材から出発する場合よりも、熔接の継ぎ目が少なくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る内燃機関の排気装置を備えた自動二輪車を示す側面図である。
【図2】本発明に係る内燃機関の排気装置の要部を示す斜視図である。
【図3】図2に示した排気装置の左側面図である。
【図4】図2に示した排気装置を車体の前方から見た側面図である。
【図5】図4に示した排気装置のV−V線断面図である。
【図6】図4に示した排気装置のVI−VI線断面図である。
【図7】排気管と連通管との関係を模式的に説明する図であって、図6に示した排気装置のVII−VII線断面図である。
【図8】エンジン出力特性を示す特性図である。
【図9】連通管の製造方法を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る内燃機関10の排気装置13を備えた自動二輪車1を示す側面図である。
【0025】
(自動二輪車の全体構成)
図1に示す自動二輪車1は、車体フレームの前半部を構成するメインフレーム2の前端に、ヘッドパイプ及びブラケットを介してフロントフォーク3が支持され、このフロントフォーク3の下端に前輪4が支持されている。ブラケットにはハンドル5が取り付けられている。メインフレーム2の後端下部には、スイングアームブラケットを介して、スイングアーム7が、ピボット軸を中心にして上下揺動自在に支持されている。このスイングアーム7の後端には後輪9が支持されている。メインフレーム2の中央下部にはエンジン10が支持され、このエンジン10の前方にラジエータが配置されている。エンジン10は、例えば直列型4気筒4サイクルエンジンであり、エンジン10のクランクケース11(トランスミッションケースを含む)の左側には出力スプロケットが設けられ、この出力スプロケットと、後輪9の左側に設けられた後輪駆動用のスプロケットとの間に、駆動チェーンが巻き掛けられている。
【0026】
(排気装置の構成)
図1に示すように、エンジン10の排気装置13は、シリンダヘッド12の前面に開口した気筒用排気ポートのそれぞれに対して接続フランジ14を介して接続された4本の排気管20A、20B,20C,20Dと、クランクケース11の下側に配置された排気集合管15A及び触媒管15と、後輪9の左右両側に配置された左右一対の排気マフラ17と、を備えている。各排気管20A乃至20Dのそれぞれは、シリンダヘッド12の気筒用排気ポートに接続される接続フランジ14からエンジン10の前側を下方に延び、クランクケース11の前下端近傍位置で後方に湾曲し、クランクケース11の下側で排気集合管15Aに集合している。排気集合管15Aに接続された触媒管15の後端出口は後部排気管16Aを介して排気分岐管16Bに接続されている。排気分岐管16Bの排気出口はそれぞれ排気接続管16Cを介して左右の排気マフラ17に接続されている。
【0027】
(排気管の構成)
図2の斜視図に示すように、車幅方向に並設されている4本の排気管20A,20B,20C,20Dのうち、車幅方向の内側に並設された2つの排気管20Bと排気管20Cとが対をなし、車幅方向の外側に並設された2つの排気管20Aと排気管20Dとが対をなし、排気管20Bと排気管20Cとが合流し、排気管20Aと排気管20Dとが合流しながら、それらの排気管20A乃至20Dが排気集合管15Aで1つに合流している。図3に示すように、4本の排気管20A乃至20Dは全体として大きく湾曲しているものの、対をなす排気管20B,20Cが側面視で大略重なり合うとともに、対をなす排気管20A,20Dが側面視で大略重なり合うように構成されている。
【0028】
図2及び4に示すように、車幅方向の内側に並設された1対の排気管20B,20Cは、排気管20B,20Cの長さ方向に沿って接続フランジ14に近い側において、連通管30Aによって連通されている。連通管30Aは、略水平の長手方向に延在する管本体部32Aと、管本体部32Aの長手方向の両端部にそれぞれ形成されたフランジ部33B,33Cと、を有する。フランジ部33B,33Cは、連通管30Aから径方向外方に突出する外向きフランジを形成して、連通管30Aの長手方向の両端部の外周を一周するリング形状であって、排気管20B,20Cの長手方向に扁平した形状をしている。フランジ部33B,33Cは、それぞれの対向する排気管20B,20Cの管壁と全周にわたって面接触できるように、対向する排気管20B,20Cの管壁形状に沿った湾曲形状に構成されている。そして、フランジ部33B,33Cが、排気管20B,20Cの管壁外周面21B,21Cに対してそれぞれ全周溶接されている。排気管20B,20Cの排気路23B,23Cの各断面は、例えば円形状をしているのに対して、管本体部32Aの連通路31Aの断面は、後に詳述するように、扁平したオーバル形状をしている。
【0029】
同様に、車幅方向の外側に並設された1対の排気管20A,20Dは、排気管20A,20Dの長さ方向に沿って排気集合管15Aに近い側において、連通管30Bによって連通している。すなわち、連通管30Aが排気上流側に位置し、連通管30Bが排気下流側に位置している。上記の連通管30Aと同様に、連通管30Bは、略水平の長手方向に延在する管本体部32Bと、管本体部32Bの長手方向の両端部にそれぞれ形成されたフランジ部33A,33Dと、を有する。フランジ部33A,33Dも、連通管30Bの長手方向の両端部の外周を一周して排気管20B,20Cの長手方向に扁平したリング形状をしているとともに、対向する排気管20A,20Dの管壁と全周にわたって面接触できるように、対向する排気管20B,20Cの管壁形状に沿った湾曲形状をしている。そして、フランジ部33A,33Dが、排気管20A,20Dの管壁外周面21A,21Dに対してそれぞれ全周溶接されている。排気管20A,20Dの排気路23A,23Dの各断面も、例えば円形状をしているのに対して、管本体部32Bの連通路31Bの断面も、扁平したオーバル形状をしている。
【0030】
上述したように、対をなす排気管20B,20Cが側面視で大略重なり合っていて、且つ、両者を連通する連通管30Aが略水平方向に直線状に延在するので、側面視で連通管30Aが排気管20B,20Cに重なり合い、図3のように、側面視で連通管30Aが排気管20B,20Cに隠される。その結果、連通管30Aで連結された排気管20B,20Cの美観が向上するとともに、連通管30Aが排気管20B,20Cから突出してはみ出すことが無く、排気管20B,20Cの前後方向の空間が、連通管30Aによって占められることの無い空き空間となるので、排気管20B,20Cの前後方向に配置されるラジエータやエンジンに関するレイアウトの自由度を確保することができる。
【0031】
同様に、対をなす排気管20A,20Dも側面視で大略重なり合っていて、且つ、両者を連通する連通管30Bが略水平方向に直線状に延在している。したがって、側面視で連通管30Bが排気管20A,20Dに重なり合い、側面視で連通管30Bが排気管20A,20Dに隠されるので、上記と同様の作用・効果を奏する。
【0032】
(排気管と連通管との間での連通構造)
次に、図5乃至7を参照しながら、対をなす排気管20B,20Cと連通管30Aとの間での連通構造、及び、対をなす排気管20A,20Dと連通管30Bとの間での連通構造についてそれぞれ説明する。
【0033】
図5に示すように、対をなす排気管20B,20Cを連通する連通管30Aの内部空間には連通路31Aが形成されている。また、対をなす排気管20B,20Cにおいてお互いに対向する内側管壁24B,24Cには、連通口22B,22Cがそれぞれ形成されている。したがって、排気管20Bの内部空間に形成される排気路23Bは、連通口22B、連通路31A及び連通口22Cを通じて、排気管20Cの内部空間に形成される排気路23Cと連通している。
【0034】
図5において、排気路23Bと連通路31Aとの間は、内側管壁24Bによって仕切られていて、排気路23Cと連通路31Aとの間は、内側管壁24Cによって仕切られている。内側管壁24B,24Cが形成されていることで、排気管20B,20Cの連通口22B,22Cの周辺での剛性を確保することができる。また、排気管20B,22Cからの排気ガスは、それぞれ、排気通路下流部である連通路31Aに導かれるが、このとき、連通口22B,22Cを通した連通路31Aのレゾネータ(共鳴器)効果により、排気特性の変更が可能となり、適宜の設定により出力特性の向上や排気騒音低減等の効果が得られる。
【0035】
同様に、図6に示すように、対をなす排気管20A,20Dを連通する連通管30Bの内部空間には連通路31Bが形成されていて、内側管壁24A,24Dの対向する面には、連通口22A,22Dがそれぞれ形成されている。したがって、排気管20Aの内部空間に形成される排気路23Aは、連通口22A、連通路31B及び連通口22Dを通じて、排気管20Dの内部空間に形成される排気路23Dと連通している。そして、排気路23Aと連通路31Bとの間は、内側管壁24Aによって仕切られていて、排気路23Dと連通路31Bとの間は、内側管壁24Dによって仕切られている。したがって、このような連通路31Bや内側管壁24A,24Dの配置構成においても、上記と同様の作用・効果を奏する。
【0036】
図7に例示した管本体部32Bの横断面は、長径方向及び短径方向に対称軸をそれぞれ有して湾曲部分だけで構成されたいわゆる楕円形状をしている。連通管30Bの管本体部32Bは、連通管30Bの長手方向に直交する断面(すなわち横断面)において、排気管20A,20Dの長手方向に沿って延びて、管本体部32Bの長径方向の外形寸法が、管本体部32Bの短径方向の外形寸法よりも大きいように構成された扁平形状であればよい。管本体部32B(すなわち連通路31B)の横断面の扁平形状は、具体的には、長径が排気管20A,20Dの長手方向に沿うオーバル形状又は長円形状に構成されていて、好適にはオーバル形状である。本願明細書では、オーバル(oval)形状というのは、長径の円弧と短径の円弧とで構成されて長径方向及び短径方向のそれぞれに延びる2つの対称軸を有する楕円形と、長径方向に延びる一つの対称軸しか有さない卵形と、を含む概念であって、全体として丸みを持った湾曲部分から構成されているものの総称である。したがって、本願明細書では、長径方向に略平行に延びる1対の平坦部と、当該1対の平坦部を滑らかに接続する半円弧部と、を有する競技トラックのような長円形(角丸長方形:rounded rectangle)は、当該平坦部を有するために、湾曲部分だけから構成されたオーバル形状と区別している。
【0037】
管本体部32B(すなわち連通路31B)の横断面を湾曲部分だけで構成された楕円形状や卵形のようなオーバル形状は、平坦部を有する長円形よりも、連通管30Bのある部分(例えば、長円形における平坦部や、平坦部から湾曲部に急に変化する部分)への応力集中を引き起こしにくく、機械的強度や形状の作り易さの点で有利である。管本体部32Bの排気管20A側の外周縁に形成されるフランジ部33A(図7に図示)や管本体部32Bの排気管20D側のフランジ部33D(図示しない)も、管本体部32Bの横断面形状に略同一又は近似した楕円形状をしている。
【0038】
図示しないが、連通管30Aの管本体部32Aの横断面も楕円形状をしており、管本体部32Aの排気管20B側のフランジ部33Bや管本体部32Aの排気管20C側のフランジ部33Cも、管本体部32Aの断面形状に略同一又は近似した楕円形状をしている。
【0039】
排気管20A乃至20Dのそれぞれに形成された連通口22A乃至22Dは、機械的加工のし易さから好適には円形状をした開口であるが、排気管20Aの長手方向に扁平したオーバル形状をした開口であってもよい。連通口22A乃至22Dを形成するための加工は、エンドミルやレーザー装置等を用いて行われる。
【0040】
(排気管と連通管との間での寸法関係)
図7は、代表的な例として、排気管20Aと連通管30Bとの間での寸法関係を模式的に説明する図であって、図6に示した連通管30BのVII−VII線断面図である。
【0041】
図7において、排気管20Aが左右の長手方向に延びて、連通管30Bが紙面の略直交方向に延びている。連通管30B(連通路31B)の断面形状が排気管20Aの長手方向に扁平したオーバル形状をしているので、連通路31Bの断面形状の長径方向(以下、連通路31Bの長径方向という。)が排気管20Aの長手方向と実質的に一致し、連通路31Bの断面形状の短径方向(以下、連通路31Bの短径方向という。)が排気管20Aの高さ方向と実質的に一致する。
【0042】
排気管20Aの高さ方向の略中央部分に、円形状の連通口22Aが形成されていて、該連通口22Aを囲繞するように扁平したオーバル形状の連通管30Bが、排気管20Aの管壁外周面21Aに対して溶接結合されている。扁平したオーバル形状の連通路31Bの断面形状は、連通路31Bの短径方向(排気管20Aの高さ方向)において連通口22Aの開口径Eよりも大きな短径方向長さBを有し、連通路31Bの長径方向(排気管20Aの長手方向)において長径方向長さAを有する。連通路31Bの短径方向において、連通口22Aの上側部分及び下側部分にそれぞれ長さF1,F2の内側管壁24Aが設けられているので、連通路31Bと連通口22Aと内側管壁24Aとの間には、
連通口の開口径E+内側管壁の長さ(F1+F2)=連通路の短径方向長さB (1)
という関係がある。
すなわち、内側管壁24Aが連通路31Bの短径方向に設けられている場合、管本体部32Bの連通路31Bと連通口22Aとの間には、
連通口の開口径E<連通路の短径方向長さB (2)
という関係になっている。
連通路31Bの短径方向において、連通口22Aの上下にそれぞれ長さF1,F2の内側管壁24Aを設けない場合(すなわち、連通口22Aが連通路31Bに接するように連通口22Aの開口径を拡大する場合)、連通路31Bと連通口22Aとの間には、
連通口の開口径E=連通路の短径方向長さB (3)
という関係を満たしている。
したがって、内側管壁24Aが連通路31Bの短径方向に設けられている場合と設けられない場合の両方を考慮するならば、連通路31Bと連通口22Aとの間には、
連通口の開口径E≦連通路の短径方向長さB (4)
という関係を満たしている。
【0043】
管本体部32Bの排気管20A側の上下の外周縁には、連通路31Bの短径方向において、幅寸法C1,C2のフランジ部33Aがそれぞれ設けられており、フランジ部33Aの全長がCとなる。当該フランジ部33Aは、排気管20Aに対する溶接代として用いられる。
【0044】
排気管20Aの高さ(外径)寸法Dに対してできるだけ大きな連通路31Bを確保しつつ溶接のし易さや美観を確保するために、連通路31Bの短径方向において、フランジ部33Aの全長Cと排気管20Aの高さ寸法Dとの間には、
フランジ部の全長C≦排気管の高さ寸法D (5)
という関係を満たしている。
【0045】
排気管20Aの高さ寸法Dによって連通路31Bの短径方向長さBが制限を受ける中で、扁平したオーバル形状をした連通管30Bが、排気管20Aに対してできるだけ大きな連通路31Bを確保するために、連通路31Bの長径方向において、排気管20Aの高さ寸法Dと連通路31Bの長径方向長さAとの間には、
排気管の高さ寸法D<連通路の長径方向長さA (6)
という関係を満たしている。
したがって、排気管20Aを連通管30Bの長手方向から見たとき、フランジ部33Aの短径方向の全長Cが、排気管20Aの高さ寸法D以下であり、連通路31Bの断面形状の長径方向長さAが排気管20Aの高さ寸法Dより大きいように寸法構成されている。
【0046】
上述した(1)乃至(6)の関係は、図5に示した、排気管20Bと連通管30Aとの関係及び排気管20Cと連通管30Aとの関係や、図6に示した排気管20Dと連通管30Bとの関係においても同様に成立する。
【0047】
(本発明に係る排気装置の効果)
次に、上記のように構成されたエンジン10の排気装置13の効果について図8を参照しながら説明する。
【0048】
エンジン回転数とエンジン出力特性との関係を示す図8において、点線は、本発明に係る排気装置13であって連通路31A,31Bの断面形状がいずれも排気管20A乃至20Dの長手方向に扁平した楕円形状をしている場合であり、実線は、比較のために示した従来例であって連通管の連通路の断面形状が円形状をしている場合であり、その他の構成は共通している。なお、従来例の断面が円形状のものの径は25.4mmであり、本発明の断面が楕円形状のものの径は31.8mm相当である。
【0049】
図8に示すように、低速回転域、中速回転域及び高速回転域の全域にわたって、点線で示した本発明に係る排気装置は、実線で示した比較例に係る排気装置よりもエンジン出力特性が向上している。
【0050】
(断面がオーバル形状をした連通管の製造方法について)
上述したように、本発明に係る連通管30A,30Bの管本体部32B,32Bの横断面は、排気管20A乃至20Dの長手方向に扁平したオーバル形状をしている。当該形状を有する連通管30A,30Bの製造方法について、図9を参照しながら説明する。
【0051】
図9の(1)のように、所望とするオーバル形状と同じ周長を有する平板状の金属素材50を準備する。図9の(2)のように、図示しない第1型を用いて、平板状素材50をU字状に丸める曲げ加工する。U字状の本体部32は、その両端に縁部35,35を有する。図9の(3)のように、図示しない第2型を用いて、U字状の本体部32をオーバル形状に丸める曲げ加工する。このとき、縁部35,35同士が接近するまでU字状の本体部32が丸められている。それとともに、U字状の本体部32の側端部を押し広げることにより当該側端部にフランジ部33,33を形成する。図9の(4)のように、丸められた本体部32及びフランジ部33の縁部35,35同士を溶接で接続することにより、左右の端部にフランジ部33,33を有するとともに内部に連通路31を有する連通管30を製造することができる。このようにして製造された連通管30は、上述した連通管30A,30Bとして使用される。
【0052】
ところで、上記方法によって製造された連通管30の長径方向の中央部には、連通管30の長手方向に延びる継目部36が形成されている。継目部36を有する連通管30を排気管20A乃至20Dに装着・固定したときに、溶接による継目部36が見えることは、美観上好ましくないので、図2に示すように、継目部36をエンジン10の気筒に対面する気筒寄りの位置に配置することが好適である。すなわち、継目部36が車体の後方に対向する配置となるように連通管30が構成されている。したがって、継目部36がエンジン10の気筒で隠れることにより、美観を向上することができる。また、継目部36を連通管30の長径方向の中央部に配置することは、連通管30の短径方向の中央部に配置する場合よりも、荷重がかかった際の溶接強度の低下を防止することができる。
【0053】
なお、扁平したオーバル形状をしている連通管30A,30Bは、上記製造方法に限定されるものではなく、例えば、所望とするオーバル形状と同じ周長さを有する円筒状素材を準備し、円筒状素材を上下から圧縮して、扁平したオーバル形状に加工し、曲げ加工により両端部にフランジ部を形成する方法によって製造することもできる。また、所望とするオーバル形状と同じ周長さを有する円筒を2つ割りにした2分割素材を準備し、2分割素材に対して扁平したオーバル形状となる加工を施し、曲げ加工により両端部にフランジ部を形成したあと、両素材を熔接接合する方法によって製造することもできる。
【0054】
なお、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。すなわち、上記実施形態では、排気管20A,20Dが対をなし、排気管20B,20Cが対をなす構成であるが、例えば、排気管20A,20Bが対をなして両者を連通管30Aで連通し、排気管20C,20Dが対をなし両者を連通管30Bで連通する構成であってもよい。また、対をなす排気管を連通する連通管30A,30Bのそれぞれの位置は、エンジン出力特性を考慮しながら、対をなす排気管の長さ方向に適宜に決定することができる。また、連通管30A,30Bの管本体部32A,32Bはそれぞれ略水平方向に直線状に延在しているが、できるだけ大容量の連通路31A,31Bを得るために管本体部32A,32Bのそれぞれが水平面に対して傾斜した構成であってもよい。さらに、本発明を限定しない好適な連通路の断面形状(楕円形状)を例示するならば、楕円の扁平比率(短径に対する長径の比)が、1.1乃至3程度であることが好適であり、エンジン出力特性の向上を得ることができる。当該扁平比率が1.1より小さければ、円形状のものとの比較で有効連通面積の拡大に寄与しないためにエンジン出力特性の向上度合いが小さい。当該扁平比率が3より大きければ、扁平程度が大きすぎて管壁表面との摩擦に起因して流路抵抗が増加するためにエンジン出力特性の向上を得ることができない。
【0055】
上述したように、連通管30A,30Bは、少なくとも両端部分の断面形状が扁平形状であればよく、中間部分の断面形状は、円形であってもよく、また両端部分よりも拡径した形状であってもよい。また、排気管20A乃至20Dについても、円形以外の形状(例えば、扁平形状)でもよい。なお、本願では、自動二輪車を用いて例示しているが、自動二輪車以外の車両に搭載される内燃機関の排気装置にも本発明を適用することができる。
【0056】
以上のように、本発明に係る内燃機関の排気装置は、次のような優れた効果を備えている。
【0057】
(1)連通管における連通路の断面形状が、排気管の長手方向に扁平した形状であるという構成によれば、排気管の外形寸法によって連通路断面の短径方向長さが制限を受ける中で連通路断面の長径方向には延びることができ、できるだけ大きな連通路の有効連通面積(内部空間)を確保することができるので、エンジン出力特性を向上させることができる。熔接代としてのフランジ部も連通路断面の長径方向に延びることにより、大きな熔接代を確保することができ、熔接強度をアップさせることができる。そして、扁平した断面形状の連通管は、いわゆるダムのアーチ構造のように複数の異なった曲率半径の円弧を連ねた形状と考えることができ、印加された力を当該形状によって分散させることができるので、真円形状のものよりも連通管の機械的強度が高くなる。また、車体の側面視、連通管の連通部分が排気管で隠れることで、連通管で連通された排気管の美観が向上する。
【0058】
(2)排気管の高さ寸法とフランジ部の短径方向の全長と連通路の長径方向の長さとの間での寸法関係を所定のものとすることによれば、所定の溶接代を確保しつつ、連通路の有効連通面積(内部空間)をできるだけ大きく確保することができる。
【0059】
(3)連通路の長径方向において連通管の内壁と連通口との間に間隔を空けることによれば、連通口よりも連通路の内部空間の径を大きくして、連通路の内部空間を共鳴構造として使用することができるので、排気特性を適宜に設定することができる。また、連通路の断面形状と重なる排気管の長手方向の管壁部分が、排気管の長手方向の剛性確保に寄与することができる。
【0060】
(4)連通路の短径方向において連通管の内壁と連通口との間に間隔を空けることによれば、連通口よりも連通路の内部空間の径を大きくして、連通路の内部空間を共鳴構造として使用することができるので、排気特性を適宜に設定することができる。また、連通路の断面形状と重なる排気管の高さ方向の管壁部分が、排気管の高さ方向の剛性確保に寄与することができる。
【0061】
(5)連通路の断面形状を湾曲部分から構成されるオーバル形状にすることによれば、連通路の横断面が湾曲部分で構成されているので、連通管のある部分への応力集中を引き起こしにくくすることができる。
【0062】
(6)継目部が気筒で隠れるので、継目部を有する連通管の美観が向上する。
【0063】
(7)平板を出発素材として曲げ加工を行うという排気装置の製造方法によれば、パイプを出発素材として曲げ加工を行う場合よりも、湾曲したフランジ部を容易に形成することができる。また、円筒を2つ割りにした2分割素材から出発する場合よりも、熔接の継ぎ目が少なくて済む。
【符号の説明】
【0064】
1:自動二輪車
10:エンジン
13:排気装置
14:接続フランジ
15A:排気集合管
17:排気マフラ
20A,20B,20C,20D:排気管
21A,21B,21C,21D:管壁外周面
22A,22B,22C,22D:連通口
23A,23B,23C,23D:排気路
24A,24B,24C,24D:内側管壁
30A,30B:連通管
31A,31B:連通路
32A,32B:管本体部
33A,33B,33C,33D:フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒内燃機関の各気筒の排気口に接続される複数の排気管と、
前記排気管の管壁に形成された連通口を介して、対となる前記排気管同士を連通する連通管と、を備え、
前記連通管の端部にフランジ部が形成され、該フランジ部が前記排気管の管壁外周面に対して溶接接続されており、
前記排気管を前記連通管の長手方向から見たとき、前記連通管の連通路の断面形状が、前記排気管の長手方向に沿って延びる扁平形状をしていることを特徴とする、内燃機関の排気装置。
【請求項2】
前記排気管を前記連通管の長手方向から見たとき、前記フランジ部の短径方向の全長が、前記排気管の高さ寸法以下であり、前記連通路の断面形状の長径方向長さが前記排気管の高さ寸法より大きいことを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の排気装置。
【請求項3】
前記連通管の長径方向の内壁が、前記連通口に対して離間配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の排気装置。
【請求項4】
前記連通管の短径方向の内壁が、前記連通口に対して離間配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の排気装置。
【請求項5】
前記連通口が円形状であり、前記連通路の断面形状が湾曲部分から構成されるオーバル形状であることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の排気装置。
【請求項6】
前記連通管は該連通管の長手方向に延びる継目部を有し、前記継目部が前記気筒寄りに形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の排気装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかひとつに記載された前記連通管は、曲げ加工により平板を丸めてオーバル形状の板状体を作成するとともに該オーバル形の板状体の両側端部に対して前記排気管の管壁形状に沿ったフランジ部を形成し、該オーバル形の板状体の側縁同士を溶接接続することによって作成されることを特徴とする、内燃機関の排気装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−24201(P2013−24201A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162142(P2011−162142)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】