説明

内燃機関の油路構造

【課題】 カムシャフトにおける駆動端側の剛性向上や潤滑経路の適切化等を実現した内燃機関の油路構造を提供する。
【解決手段】 第1カムホルダ11には、図示しないオイルメインギャラリからの潤滑油がシリンダヘッド3の上面から流入する第1潤滑油供給油路61が形成されている。連結カムキャップ25の右端側には、第1潤滑油供給油路61に接続する連絡油路51が形成されている。第2カムホルダ12には、連絡油路51に接続する第2潤滑油供給油路71が形成されている。第1潤滑油供給油路61に流入した潤滑油は、一部がジャーナル供給側油路61cから排気側ジャーナル支持面11bの円弧状溝62に供給される。第1潤滑油供給油路61に流入した潤滑油の大部分は、連絡油路51を経由して第2カムホルダ12の第2潤滑油供給油路71に流入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本のカムシャフトとカム位相可変機構とを備えた内燃機関の油路構造に係り、カムシャフトにおける駆動端側の剛性向上や潤滑経路の最適化等を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
4サイクルエンジン(以下、単にエンジンと記す)では、出力および燃費の向上や有害排出ガス成分の低減等を図るべく、種々の可変動弁機構を搭載したものが多くなっている。可変動弁機構としては、低速型カムと高速型カムとを切り換えるものが従来より存在するが、近年ではカム位相とバルブリフトとを個別に連続可変制御することで過渡特性の更なる向上やスロットルレス化等を実現したものが主流となってきている。カム位相の可変制御に供されるバルブタイミングコントロール装置(Variable Timing Control Device:以下、VTCと記す)は、シリンダヘッドにおけるカムシャフトの端部付近に設置された油圧アクチュエータ(以下、VTCアクチュエータと記す)や、VTCアクチュエータへの作動油(エンジンオイル)の供給制御を行う油圧制御弁等から構成されている。
【0003】
VTCが搭載されたエンジンでは、VTCアクチュエータの駆動とカムシャフトの潤滑とはともにメインギャラリから供給されたエンジンオイルによって行われるが、供給油圧の安定化等を図るべく、VTCアクチュエータ側の作動油経路とカムシャフト側の潤滑油経路とを分ける技術が公知となっている(特許文献1参照)。一方、カムシャフトは、カムホルダとカムキャップとによってシリンダヘッドの上部に支持されるが、隣接するカムキャップを連結部によって連結した連結カムキャップを設けるとともに、連結カムキャップの側面に穿設された開口部からカムローブにエンジンオイルを噴射する技術が公知となっている(特許文献2参照)。また、ブローバイガスの気液分離室がヘッドカバーの上部に形成されたエンジンでは、カムシャフトの回転に伴って飛散したエンジンオイルが気液分離室に進入しないように、軸方向で隣接したカムキャップを飛散防止を兼ねたステーによって連結する技術が公知となっている(特許文献3参照)。また、VTCアクチュエータの直上にオイルフィラーキャップが位置するエンジンでは、VTCアクチュエータの回転に伴って飛散したエンジンオイルがオイルフィラーキャップに付着しないように、VTCアクチュエータとオイルフィラーキャップとの間にプレートを設置する技術が公知となっている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特許3821342号公報
【特許文献2】実開昭63−108507号公報
【特許文献3】特開2011−64086号公報
【特許文献4】特開2009−209863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、吸気カムシャフトの駆動端にVTCアクチュエータが設けられたDOHCエンジンにおいて、駆動端側(VTCアクチュエータ側)のエンドカムキャップに隣接する吸排気センタカムキャップに潤滑用オイルパイプを接続し、これら吸排気センタカムキャップから吸気カムシャフトおよび排気カムシャフトの内部に形成されたカムシャフト内油路に潤滑油を供給している。しかしながら、特許文献1の場合、2本の潤滑用オイルパイプを用いることから、部品点数や組付工数が増大することが避けられなかった。また、特許文献1の排気カムシャフトは、カムシャフト内油路が駆動端側(カムスプロケット側)まで穿設されているためにその剛性や強度が比較的低くなり、エンジン運転時にカムスプロケットから大きな力が加わった場合に撓みやすい問題があった。
【0005】
また、特許文献2の連結カムキャップは、部品点数の削減や効果的な潤滑を実現するものであるが、シリンダヘッドからカムシャフトに潤滑油を供給する油路としての機能は有していない。また、特許文献3のステーは、カムシャフトの回転によって飛散した潤滑油が気液分離室に侵入することを効果的に防止するが、これもシリンダヘッドからカムシャフトに潤滑油を供給する油路としての機能は有していない。また、特許文献4のプレートは、カムキャップと別体の部品であるために部品点数や組付工数が増大することが避けられず、やはりシリンダヘッドからカムシャフトに潤滑油を供給する油路としての機能は有していない。
【0006】
本発明に係る内燃機関の油路構造は、このような背景に鑑みなされたもので、カムシャフトにおける駆動端側の剛性向上や潤滑経路の適切化等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る内燃機関の油路構造は、シリンダヘッド(3)の上部に気筒列方向に沿って配置された複数のカムホルダ(11〜15)と、前記シリンダヘッドの吸気側および排気側に前記気筒配列方向に沿ってそれぞれ延在するとともに前記各カムホルダによって各々軸支された一対のカムシャフト(23,26)と、一方のカムシャフトの一端側に設けられたカム位相可変用のアクチュエータ(31)とを備えた内燃機関(1)の油路構造であって、前記アクチュエータに最も近い第1カムホルダ(11)に形成され、前記アクチュエータの作動および前記一方のカムシャフトを支持するジャーナル支持面(11a)の潤滑に供される作動油を供給する作動油供給油路(52,53)と、前記第1カムホルダに形成され、前記シリンダヘッドからの潤滑油が流入する第1潤滑油供給油路(61)と、前記第1潤滑油供給油路からの潤滑油を他方のカムシャフトを軸支するジャーナル支持面(11b)に供給するジャーナル供給側油路と、前記第1潤滑油供給油路から前記第1カムホルダの他端側に隣接する第2カムホルダ(12)に潤滑油を供給する連絡油路(51)と、前記第2カムホルダに形成され、前記連絡油路からの潤滑油を当該第2カムホルダの両ジャーナル支持面に潤滑油を供給する第2潤滑油供給油路(71)と、前記両カムシャフトに設けられ、前記第2カムホルダに形成された両カムジャーナル支持面から供給された潤滑油を前記第2カムホルダの他端側に位置するカムホルダに導くカムシャフト内油路(27,28)とを含む。
【0008】
また、本発明の第2の側面では、前記他方のカムシャフトが前記第1カムホルダおよび前記第2カムホルダに締結された連結カムキャップ(25)によって軸支され、前記連絡油路が当該連結カムキャップに形成された。
【0009】
また、本発明の第3の側面では、前記ジャーナル供給側油路は、前記第1潤滑油供給油路から分岐した。
【0010】
また、本発明の第4の側面では、前記シリンダヘッドの上面に取り付けられるヘッドカバー(4)と、前記ヘッドカバーに設けられ、オイルフィラーキャップ(8)によって閉鎖される給油孔(9)と、前記ヘッドカバーに一体的に設けられ、前記内燃機関で発生したブローバイガスから潤滑油を分離するとともに、その下部に動弁室に連通する連通孔(6a)が形成された気液分離室(6)とを有し、前記連結カムキャップには、前記給油孔および前記連通孔に対して前記カムシャフトを覆う遮蔽部(43)が形成された。
【0011】
また、本発明の第5の側面では、前記遮蔽部は、前記カムシャフトの軸線方向に延在するとともに、前記連通孔から落下した潤滑油を当該カムシャフトの外側に案内するガイド部(43a)を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1カムホルダのジャーナル支持面と両カムシャフトとの潤滑が作動油供給油路から供給された作動油と第1潤滑油供給油路から供給された潤滑油によって行われ、第1カムホルダを除くカムホルダのジャーナル支持面と両カムシャフトとの潤滑が第2潤滑油供給油路やカムシャフト内油路から供給された潤滑油によって速やかに行われるため、カムチェーン等の動力伝達機構に近いために大きな荷重が掛かる両カムシャフトの第1カムホルダ側に早期に潤滑油を供給できる。加えて、両カムシャフトにおける第1カムホルダと第2カムホルダとの間の部分を中実にすることが可能となり、カムスプロケットから大きな力が加わった場合にもカムシャフトの撓みが生じ難くなる。また、第1カムホルダおよび前記第2カムホルダに締結される連結カムキャップを備え、この連結カムキャップに連絡油路を形成したものでは、潤滑用オイルパイプが不要となって部品点数や組立工数が削減される。また、ジャーナル供給側油路が第1潤滑油供給油路から分岐しているものでは、連絡油路を介して第2潤滑油供給油路に十分な圧力および量の潤滑油が供給され、各気筒の動弁機構の潤滑を適切に行うことが可能となる。また、連結カムキャップに給油孔および連通孔に対してカムシャフトを覆う遮蔽部が形成されたものでは、カムシャフトの回転によって飛散した潤滑油のオイルフィラーキャップおよび給油孔への付着や気液分離室への侵入が防止できる。また、遮蔽部がガイド部を有するものでは、連通孔から落下した潤滑油が回転するカムシャフトによって飛散することが防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る自動車用エンジンの上部を示す斜視図である。
【図2】実施形態に係るシリンダヘッドの上部を示す平面図である。
【図3】実施形態に係るシリンダヘッド上部の油路構成を示す斜視図である。
【図4】実施形態に係る第1カムホルダおよびカムキャップの縦断面図である。
【図5】実施形態に係る第2カムホルダおよびカムキャップの縦断面図である。
【図6】実施形態に係る連結カムキャップの斜視図である。
【図7】実施形態に係る連結カムキャップの連結カバー部での縦断面図である。
【図8】実施形態に係る連結カムキャップ設置部位の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明に係る開弁特性可変型内燃機関の一実施形態を詳細に説明する。
【0015】
≪実施形態の構成≫
<全体構成>
図1に示すエンジン1は、自動車に搭載されるDOHC4バルブ型の4サイクル直列4気筒ガソリンエンジンであり、シリンダブロック2やシリンダヘッド3、ヘッドカバー4、カムチェーンカバー5等から外郭が形成されている。ヘッドカバー4の上部には、PCV(Positive Crankcase Ventilation)システムを構成するブリーザチャンバ6(気液分離室)および新規導入チャンバ7が左右に並ぶかたちで一体に形成されており、ブリーザチャンバ6の前端部にはオイルフィラーキャップ8によって閉鎖される給油孔9(破線で示す)が設置されている。なお、シリンダヘッド3左側面には、図示しない排気管が接続される排気管接続フランジ10が形成されている。
【0016】
図2に示すように、シリンダヘッド3の上面には、前方から後方に向けて(すなわち、気筒列方向に)第1カムホルダ11〜第5カムホルダ15が締結されている。図3〜図5にも示すように、第1,第2カムホルダ11,12は、第1,第2吸気側カムキャップ21,22と協働して吸気カムシャフト23を回転自在に支持する一方、連結カムキャップ25と協働して排気カムシャフト26を回転自在に支持している。なお、吸気カムシャフト23および排気カムシャフト26には、第2カムホルダ12の支持部位から第5カムホルダ15の支持部位にかけて、図2中に破線で示す吸気カムシャフト内油路27と排気カムシャフト内油路28がそれぞれ穿設されている。
【0017】
図2に示すように、吸気カムシャフト23の前端には、外周に吸気側カムスプロケット32が形成されたVTCアクチュエータ31が固設されている。吸気側カムスプロケット32と排気カムシャフト26の前端に取り付けられた排気側カムスプロケット33とにはカムチェーン34が巻き掛けられており、このカムチェーン34を介して図示しないクランクスプロケットによって吸気カムシャフト23および排気カムシャフト26が回転駆動される。なお、本実施形態のエンジン1は、吸気側のバルブリフトを可変制御するバルブリフトコントロール機構を備えており、後述する吸気ロッカシャフト37にはその制御油路も設けられているが、煩雑になることを避けるためにその説明を省略する。
【0018】
図3,図4に示すように、第1カムホルダ11には、第1吸気側カムキャップ21に形成されたジャーナル支持面21aとともに吸気カムシャフト23(図3には示さず)を支持する吸気側ジャーナル支持面11aと、連結カムキャップ25の前部ジャーナル支持面25aとともに排気カムシャフト26(図3には示さず)を支持する排気側ジャーナル支持面11bとが設けられている。また、第1カムホルダ11には、吸気カムシャフト23の下方に配置された吸気ロッカシャフト37(図3には示さず)を支持する吸気ロッカシャフト支持孔11cと、排気カムシャフト26の下方に配置された排気ロッカシャフト38(図3には示さず)を支持する排気ロッカシャフト支持孔11dとが穿設されている。
【0019】
吸気ロッカシャフト37および排気ロッカシャフト38の軸心には、ローラロッカアーム81やバルブステム82等の動弁部品(図7参照)に潤滑油を供給するロッカシャフト内油路37a,38aがそれぞれ形成されている。また、吸気カムシャフト23の前方部分には、VTCアクチュエータ31に進角側作動油あるいは遅角側作動油を供給する進角側油路23aと遅角側油路23bとが形成されている。
【0020】
一方、図3,図5に示すように、第2カムホルダ12には、第2吸気側カムキャップ22に形成されたジャーナル支持面22aとともに吸気カムシャフト23を支持する吸気側ジャーナル支持面12aと、連結カムキャップ25の後部ジャーナル支持面25bとともに排気カムシャフト26を支持する排気側ジャーナル支持面12bとが設けられている。また、第2カムホルダ12にも、吸気カムシャフト23の下方に配置された吸気ロッカシャフト37を支持する吸気ロッカシャフト支持孔12cと、排気カムシャフト26の下方に配置された排気ロッカシャフト38を支持する排気ロッカシャフト支持孔12dとが穿設されている。なお、図5に示すように、吸気カムシャフト23にはその外周側と吸気カムシャフト内油路27とを連通する潤滑油導入孔39が穿設され、排気カムシャフト26にもその外周側と吸気カムシャフト内油路27とを連通する潤滑油導入孔40が穿設されている。
【0021】
<連結カムキャップ>
図6に示すように、連結カムキャップ25は、第1カムホルダ11とともに排気カムシャフト26を支持する前部カムキャップ部41と、第2カムホルダ12とともに排気カムシャフト26を支持する後部カムキャップ部42と、前部カムキャップ部41の上部後面と後部カムキャップ部42の上部前面とを連結する連結カバー部43とからなっている。
【0022】
連結カバー部43は、図7,図8にも示すように、排気カムシャフト26のカムローブ26aの上方を覆う円弧状断面のガイド部43aを有するとともに、カムローブ26aから前後に外れた部位に一対の軽減孔44,45を有している。連結カバー部43の上部には、ブリーザチャンバ6(図7には、底壁のみを示す)の下面に穿設されたブローバイガス導入孔6aと、ブリーザチャンバ6の底壁に一体に形成された異物落下防止板16に穿設された多数の異物混入防止孔16aと、オイルフィラーキャップ8がねじ込まれた給油孔9とが位置しており、連結カバー部43によってこれらブローバイガス導入孔6a、異物混入防止孔16aおよび給油孔9が排気カムシャフト26のカムローブ26aに対して遮蔽されている。
【0023】
一方、連結カムキャップ25の右端側には、後述する油路の一部を構成する連絡油路51が形成されている。連絡油路51は、前部カムキャップ部41の右端で上方に延びる導入部51aと、導入部51aに連続して連結カバー部43の右端で後方に延びる水平部51bと、水平部51bに連続して後部カムキャップ部42の右端で下方に延びる導出部51cとからなっている。なお、導入部51aと導出部51cとは、前部カムキャップ部41および後部カムキャップ部42の下面にそれぞれ開口している。
【0024】
<油路構成>
図3,図4に示すように、第1カムホルダ11には、図示しないオイルコントロールバルブからの進角側作動油および遅角側作動油(どちらも、エンジンオイル)がシリンダヘッド3の上面からそれぞれ流入する進角油路52と遅角油路53とが形成されている。そして、第1カムホルダ11の吸気側ジャーナル支持面11aと第1吸気側カムキャップ21のジャーナル支持面21aとには、進角油路52や遅角油路53から導入された作動油を吸気カムシャフト23の進角側油路23aや遅角側油路23b(図4参照)にそれぞれ導く円弧状溝54〜57が形成されている。
【0025】
また、第1カムホルダ11には、図示しないオイルメインギャラリからの潤滑油(エンジンオイル)がシリンダヘッド3の上面から流入する第1潤滑油供給油路61が形成されている。第1潤滑油供給油路61は、水平に左方に延びる水平部61aと、水平部61aから連結カムキャップ25の右端側で上方に延びる立上部61bとからなっており、立上部61bの上端からは排気側ジャーナル支持面11bに形成された円弧状溝62に潤滑油を供給するジャーナル供給側油路61cが分岐している。図3,図4中に符号65で示す部材は、水平部61aの形成時(ドリル加工時)に生じた開口を塞ぐプラグである。
【0026】
図3,図5に示すように、第2カムホルダ12には、連絡油路51の導出部51cからの潤滑油が流入する第2潤滑油供給油路71が形成されている。第2潤滑油供給油路71は、連結カムキャップ25の右端側で下方に延びる立下部71aと、排気側ジャーナル支持面12bに形成された円弧状溝72に潤滑油を供給するジャーナル供給側油路71bと、立下部71aの下端に連続して水平に延びる水平部71cと、水平部71cの右端から第2カムホルダ12の左端に沿って立ち上がる立上部71dと、立上部71dの上端から吸気側ジャーナル支持面12aに形成された円弧状溝73に潤滑油を供給するジャーナル供給側油路71eとからなっている。また、第2カムホルダ12には、水平部71cから排気ロッカシャフト支持孔12dに潤滑油を供給する排気ロッカシャフト側供給油路75と、円弧状溝73から吸気ロッカシャフト支持孔12cに潤滑油を供給する吸気ロッカシャフト側供給油路76とが形成されている。なお、図5に示すように、吸気ロッカシャフト37にはその外周側とロッカシャフト内油路37aとを連通する潤滑油導入孔37bが穿設され、排気ロッカシャフト38にもその外周側とロッカシャフト内油路38aとを連通する潤滑油導入孔38bが穿設されている。
【0027】
≪実施形態の作用≫
運転者がエンジン1を始動させると、クランクシャフトに駆動されたオイルポンプからエンジンオイルが所定の吐出圧をもって吐出され、このエンジンオイルがオイルメインギャラリを介してシリンダヘッド3やクランクシャフトのジャーナル支持面等に供給される。シリンダヘッド3に供給されたエンジンオイルは、一部が作動油としてVTCアクチュエータ31用のオイルコントロールバルブやバルブリフトコントロールバルブに供給され、その他は潤滑油として第1カムホルダ11の第1潤滑油供給油路61に流入する。
【0028】
オイルコントロールバルブに供給された作動油は、図示しないエンジンECUの駆動指令によってオイルコントロールバルブが作動すると、第1カムホルダ11や第1吸気側カムキャップ21に形成された進角油路52や遅角油路53、円弧状溝54〜57に流入し、吸気カムシャフト23内の進角側油路23aや遅角側油路23bを経由してVTCアクチュエータ31に供給される。これにより、VTCアクチュエータ31が進角側あるいは遅角側に作動して吸気カムシャフト23のカム位相が変化する。この際、作動油は、円弧状溝54〜57から第1カムホルダ11の吸気側ジャーナル支持面11aや第1吸気側カムキャップ21のジャーナル支持面21aに漏出し、これらジャーナル支持面11a,21aと吸気カムシャフト23との潤滑を行う潤滑油として機能する。
【0029】
第1潤滑油供給油路61に流入した潤滑油は、水平部61aおよび立上部61bを経た後に一部がジャーナル供給側油路61cから排気側ジャーナル支持面11bの円弧状溝62に供給され、両ジャーナル支持面11b,25aと排気カムシャフト26との潤滑を行う。また、第1潤滑油供給油路61に流入した潤滑油の大部分は、立上部61bから連結カムキャップ25に形成された連絡油路51の導入部51aに流入し、水平部51bおよび導出部51cを経て第2カムホルダ12の第2潤滑油供給油路71に流入する。本実施形態では、ジャーナル供給側油路61cが第1潤滑油供給油路61から分岐するため、連絡油路51を介して第2潤滑油供給油路に十分な潤滑油が速やかに供給される。
【0030】
第2潤滑油供給油路71に流入した潤滑油は、その一部がジャーナル供給側油路71bから排気側ジャーナル支持面12bの円弧状溝72に供給され、両ジャーナル支持面12b,25bと排気カムシャフト26との潤滑を行うとともに、円弧状溝72から潤滑油導入孔40を介して排気カムシャフト内油路28に流入する。排気カムシャフト内油路28内に流入した潤滑油は、第3カムホルダ13〜第5カムホルダ15の排気側に供給され、図示しないジャーナル支持面と排気カムシャフト26との潤滑を行う。第2潤滑油供給油路71に流入した潤滑油の残部は、立下部71aを経て水平部71cに流入した後、その一部が排気ロッカシャフト側供給油路75を経て排気ロッカシャフト支持孔12dに流入し、潤滑油導入孔38bからロッカシャフト内油路38aに供給される。
【0031】
第2潤滑油供給油路71の水平部71cに流入した潤滑油の大部分は、立上部71dおよびジャーナル供給側油路71eを経て円弧状溝73に供給され、両ジャーナル支持面12a,22aと吸気カムシャフト23との潤滑を行うとともに、円弧状溝73から潤滑油導入孔39を介して吸気カムシャフト内油路27に流入する。第3カムホルダ13〜第5カムホルダ15の吸気側に供給され、図示しないジャーナル支持面と吸気カムシャフト23との潤滑を行うとともに、円弧状溝73から潤滑油導入孔39を介して吸気カムシャフト内油路27に流入する。吸気カムシャフト内油路27内に流入した潤滑油は、第3カムホルダ13〜第5カムホルダ15の吸気側に供給され、図示しないジャーナル支持面と吸気カムシャフト23との潤滑を行う。円弧状溝73に流入した潤滑油は、その一部が更に吸気ロッカシャフト側供給油路76を経て吸気ロッカシャフト支持孔12cに流入し、潤滑油導入孔37bからロッカシャフト内油路37aに供給される。
【0032】
<連結カバー部の作用>
図7に示すように、エンジン1の運転に伴って排気カムシャフト26が回転すると、カムローブ26aに付着した潤滑油が遠心力によって周囲に飛散する。しかし、本実施形態では、第1カムホルダ11と第2カムホルダ12との間では、連結カムキャップ25を構成する円弧状断面の連結カバー部43によってカムローブ26aの上方が覆われているため、飛散した潤滑油が連結カバー部43の下面に衝突した後に左側方に落下する。これにより、カムローブ26aの上方に位置するオイルフィラーキャップ8やブローバイガス導入孔6a、異物混入防止孔16aに潤滑油が付着し難くなり、オイルフィラーキャップ8を取り外す際に作業者の手に潤滑油が付着することや、オイルフィラーキャップ8の取り付けを忘れた際に潤滑油がエンジンルーム内に飛散することが防止され、加えて、飛散した潤滑油がブリーザチャンバ6内に侵入することも抑制される。一方、ブローバイガス導入孔6aからはブリーザチャンバ6で分離された潤滑油が落下するが、この潤滑油は、連結カバー部43に遮られることでカムローブ26aの上には落下せず、ガイド部43aを伝って左側方に落下することになるため、カムローブ26aによる潤滑油の飛散やオイルミスト化を抑制することができる。
【0033】
本実施形態の場合、吸気カムシャフト23および排気カムシャフト26は、第1カムホルダ11の支持部位から第2カムホルダ12の支持部位にかけて中実となっているため、VTCアクチュエータ31や吸気側および排気側カムスプロケット32,33から大きな力が入力しても撓みにくくなり、動弁機構の駆動を高精度に行えるようになる。また、連結カムキャップ25に連絡油路51を有する連結カバー部43を形成したため、従来装置で用いられていたオイルパイプ等が不要となり、構成部品点数や組立工数を削減することができた。
【0034】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれらに限られるものではない。例えば、上記実施形態は吸気側にのみVTCアクチュエータを備えたエンジンに本発明を適用したものであるが、排気側にもVTCアクチュエータを備えるようにしてもよい。また、上記実施形態では連絡油路を有する連結カムキャップを採用したが、連絡油路をシリンダヘッド等に形成するようにしてもよいし、連結カムキャップに代えて通常のカムキャップを採用するようにしてもよい。その他、各カムホルダやカムキャップの具体的形状や油路の具体的構成等についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 エンジン
3 シリンダヘッド
4 ヘッドカバー
6 ブリーザチャンバ(気液分離室)
6a ブローバイガス導入孔
8 オイルフィラーキャップ
9 給油孔
11 第1カムホルダ
11a 吸気側ジャーナル支持面
11b 排気側ジャーナル支持面
12 第2カムホルダ
12a 吸気側ジャーナル支持面
12b 排気側ジャーナル支持面
16 異物落下防止板
16a 異物混入防止孔
21 第1吸気側カムキャップ
21a ジャーナル支持面
22 第2吸気側カムキャップ
22a ジャーナル支持面
23 吸気カムシャフト
23a 進角側油路
23b 遅角側油路
24 排気カムシャフト
25 連結カムキャップ
25a 前部ジャーナル支持面
25b 後部ジャーナル支持面
26 排気カムシャフト
26a カムローブ
27 吸気カムシャフト内油路
28 排気カムシャフト内油路
31 VTCアクチュエータ
41 前部カムキャップ部
42 後部カムキャップ部
43 連結カバー部
43a ガイド部
51 連絡油路
52 進角油路(作動油供給油路)
53 遅角油路(作動油供給油路)
61 第1潤滑油供給油路
71 第2潤滑油供給油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドの上部に気筒列方向に沿って配置された複数のカムホルダと、前記シリンダヘッドの吸気側および排気側に前記気筒配列方向に沿ってそれぞれ延在するとともに前記各カムホルダによって各々軸支された一対のカムシャフトと、一方のカムシャフトの一端側に設けられたカム位相可変用のアクチュエータとを備えた内燃機関の油路構造であって、
前記アクチュエータに最も近い第1カムホルダに形成され、前記アクチュエータの作動および前記一方のカムシャフトを支持するジャーナル支持面の潤滑に供される作動油を供給する作動油供給油路と、
前記第1カムホルダに形成され、前記シリンダヘッドからの潤滑油が流入する第1潤滑油供給油路と、
前記第1潤滑油供給油路からの潤滑油を他方のカムシャフトを軸支するジャーナル支持面に供給するジャーナル供給側油路と、
前記第1潤滑油供給油路から前記第1カムホルダの他端側に隣接する第2カムホルダに潤滑油を供給する連絡油路と、
前記第2カムホルダに形成され、前記連絡油路からの潤滑油を当該第2カムホルダの両ジャーナル支持面に潤滑油を供給する第2潤滑油供給油路と、
前記両カムシャフトに設けられ、前記第2カムホルダに形成された両カムジャーナル支持面から供給された潤滑油を前記第2カムホルダの他端側に位置するカムホルダに導くカムシャフト内油路と
を含むことを特徴とする内燃機関の油路構造。
【請求項2】
前記他方のカムシャフトが前記第1カムホルダおよび前記第2カムホルダに締結された連結カムキャップによって軸支され、前記連絡油路が当該連結カムキャップに形成されたことを特徴とする、請求項1に記載された内燃機関の油路構造。
【請求項3】
前記ジャーナル供給側油路は、前記第1潤滑油供給油路から分岐したことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載された内燃機関の油路構造。
【請求項4】
前記シリンダヘッドの上面に取り付けられるヘッドカバーと、
前記ヘッドカバーに設けられ、オイルフィラーキャップによって閉鎖される給油孔と、
前記ヘッドカバーに一体的に設けられ、前記内燃機関で発生したブローバイガスから潤滑油を分離するとともに、その下部に動弁室に連通する連通孔が形成された気液分離室とを有し、
前記連結カムキャップには、前記給油孔および前記連通孔に対して前記カムシャフトを覆う遮蔽部が形成されたことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された内燃機関の油路構造。
【請求項5】
前記遮蔽部は、前記カムシャフトの軸線方向に延在するとともに、前記連通孔から落下した潤滑油を当該カムシャフトの外側に案内するガイド部を有することを特徴とする、請求項4に記載された内燃機関の油路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−113148(P2013−113148A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257919(P2011−257919)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】