説明

内燃機関の潤滑装置

【課題】内燃機関の潤滑装置におけるジャーナル軸受を転がり軸受によって構成した場合、その転がり軸受における油漏れの影響をコンロッド大端部軸受に及ぼすことがなく、また、オイルポンプの負荷を減少させることである。
【解決手段】クランク軸21のジャーナル軸受23とコンロッド大端部軸受26に対する給油経路を備えた内燃機関の潤滑装置において、前記ジャーナル軸受23が転がり軸受によって構成され、前記クランク軸21に主給油経路34が設けられ、前記ジャーナル軸受23とコンロッド大端部軸受26に対する給油経路が、それぞれ前記主給油経路34から分岐され相互に独立したジャーナル軸受給油経路38とコンロッド大端部軸受給油経路39によって構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の内燃機関の潤滑装置に関し、特に、オイルポンプの負荷の低減化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は従来の内燃機関の潤滑装置における給油系統を示している(特許文献1)。この給油系統において潤滑の対象となる軸受は、クランク軸1のジャーナル2を支持するジャーナル軸受3、クランクピン4の周りに嵌合されたコンロッド大端部軸受5及びピストンピン6の周りに嵌合されたコンロッド小端部軸受7である。ジャーナル軸受3及びコンロッド大端部軸受5は2分割されたメタル等で構成された滑り軸受である。コンロッド小端部軸受7は、軸受部材を介在させることなく直接コンロッド小端部8をピストンピン6に嵌合することにより滑り軸受を構成している。
【0003】
内燃機関のオイルポンプ9に接続されたメインギャラリ10に、クランク軸1のジャーナル軸受3ごとに分岐されたジャーナル軸受給油経路11が設けられる。各ジャーナル軸受給油経路11は、エンジンブロックに設けられた軸受支持部12からジャーナル軸受3の油穴13を経てジャーナル2を径方向に貫通し、そのジャーナル軸受3の反対側内周面に達する経路によりジャーナル軸受3に給油する。
【0004】
前記のジャーナル軸受給油経路11は、ジャーナル2の内部で斜めに分岐され、分岐された経路によてコンロッド大端部軸受給油経路14が形成される。その給油経路14がコンロッド大端部軸受5の内径面に達しこれに給油する。コンロッド大端部軸受5は油穴15を有する。コンロッド大端部16には当該軸受5からコンロッド大端部16の外周面に達する油噴射穴17が設けられる。その油噴射穴17と、前記メインギャラリ10に通じた油噴射ノズル18との2個所から噴射される潤滑油によって、コンロッド小端部軸受7及びピストン19の摺動面20を潤滑するようにしている。
【0005】
前記のように、従来の潤滑装置におけるジャーナル軸受3とコンロッド大端部軸受5の給油系統はジャーナル軸受給油経路11から油噴射穴17に至る同一系統に属し、給油の流れ方向に見てジャーナル軸受3が上流側、コンロッド大端部軸受5が下流側となる関係にある。
【0006】
一方、ニードル軸受は、軸受投影面積が小さい割には高負荷容量及び高剛性であり、滑り軸受に比べて低摩擦であるとともに、少ない潤滑油量で運転が可能であるという優れた特性を有する。この点に着目して、前記クランク軸1のジャーナル軸受3としてニードル軸受を使用する提案が早くからなされている(特許文献2)。
【0007】
このような提案に基づき、特に、軸受の低摩擦化及び潤滑油量の削減を目的とする場合は、ニードル軸受に限られず、転がり軸受一般を前記のジャーナル軸受3として使用することが考えられる。
【0008】
しかし、一般的に転がり軸受は空間容積が大きいため、潤滑油の漏出によるいわゆる油圧抜けが発生し易い特性がある。このため、上流側のジャーナル軸受を転がり軸受によって構成した場合は、下流側のコンロッド大端部軸受への給油量が減少し、当該コンロッド大端部軸受に潤滑不良の問題を招来する恐れがある。
【0009】
また、前記の従来例(図2参照)と同様にジャーナル軸受として滑り軸受を用いた内燃機関の潤滑装置において、そのジャーナル軸受への給油系統と、コンロッド大端部軸受への給油系統を別系統にすることが従来から知られている(特許文献3、同4参照)。
【0010】
この場合のジャーナル軸受への給油経路は、オイルポンプからエンジンブロックの軸受支持部に設けられた給油経路を経由し、当該ジャーナル軸受の外周面から給油するように構成されている。また、コンロッド大端部軸受への給油経路は、オイルポンプからクランク軸の内部に設けられた給油経路及びクランク軸に設けられた給油穴を経由し、当該コンロッド大端部軸受の内周面から給油する、いわゆるクランク軸センター給油方式となっている。
【0011】
このように、ジャーナル軸受とコンロッド大端部軸受への給油経路を別系統にすることにより、ジャーナル軸受で発生する油漏れの影響が、コンロッド大端部軸受に及ぶことを防止することができる。
【0012】
しかし、ジャーナル軸受とコンロッド大端部軸受の給油経路を別系統にした前記の潤滑装置においては、ジャーナル軸受への給油経路が長くなり、また、該ジャーナル軸受に対する給油の方向がクランク軸の回転による遠心力に逆らう方向となるため、オイルポンプの負荷が増大する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−27126号公報
【特許文献2】米国特許第1921488号明細書及び図面
【特許文献3】特開2007−224859号公報
【特許文献4】特開平6−66119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、この発明は、内燃機関の潤滑装置におけるジャーナル軸受を転がり軸受によって構成することにより低摩擦化及び潤滑油の削減を図る場合において、その転がり軸受における油漏れの影響がコンロッド大端部軸受に及ぶことがなく、また、オイルポンプの負荷を減少させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するために、この発明は、クランク軸のジャーナル軸受と、コンロッド大端部軸受に対する給油経路を備えた内燃機関の潤滑装置において、前記ジャーナル軸受が転がり軸受によって構成され、前記クランク軸に主給油経路が設けられ、前記ジャーナル軸受とコンロッド大端部軸受に対する給油経路が、それぞれ前記主給油経路から分岐され相互に独立したジャーナル軸受給油経路とコンロッド大端部軸受給油経路によって構成されたものとした。
【0016】
前記主給油通路は、前記クランク軸のジャーナル部分とクランクピン部分においてはこれらの部分のセンターに軸方向に設けられ、前記ジャーナル部分とクランクピン部分の間は、前記センターに対して角度をもった傾斜通路で連通されている構成をとることができる。
【0017】
また、前記ジャーナル軸受給油経路が、前記クランク軸のジャーナル部分において前記主給油経路から径方向に分岐された構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、この発明においては、ジャーナル軸受とコンロッド大端部軸受に対する給油経路が、それぞれクランク軸に設けられた主給油経路から分岐されたジャーナル軸受給油経路とコンロッド大端部軸受給油経路によって構成されたものであるから、ジャーナル軸受とコンロッド大端部軸受に対する給油が相互に独立している。このため、ジャーナル軸受において潤滑油の漏出が生じてもコンロッド大端部軸受への安定した給油量を確保することができる。
【0019】
また、ジャーナル軸受を転がり軸受で構成したことにより従来の滑り軸受による場合に比べて必要油量が少ないことに加え、両方の給油経路ともにクランク軸センター給油方式であるため給油経路が短縮される。また、クランク軸の回転に伴う遠心力による潤滑油のポンプ作用が加わることと相まって、オイルポンプの負荷を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施形態1の給油経路図である。
【図2】図2は、先行技術の給油経路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
[実施形態1]
図1は、実施形態1の内燃機関の潤滑装置を示している。この場合の潤滑対象となる軸受は、従来の場合と同様に、クランク軸21のジャーナル22を支持するジャーナル軸受23、クランクピン24の周りに嵌合されコンロッド大端部25を支持するコンロッド大端部軸受26及びピストンピン27の周りに嵌合されコンロッド小端部28を支持するコンロッド小端部軸受29である。これらの軸受はいずれも転がり軸受(図示の場合はニードル軸受)によって構成される。
【0023】
給油系統は、以下のように構成される。即ち、クランク軸21のジャーナル22のセンターにジャーナル部主給油経路31、クランクピン24にクランクピン部主給油経路32が設けられる。これら各部の主給油経路31、32が相互に傾斜経路33によって連通され、全体として主給油経路34を構成している。このうち、クランク軸21の一端部におけるジャーナル22においては、そのジャーナル部主給油経路31が径方向の導入経路37を経てメインギャラリ36、さらにオイルポンプ35に接続される。
【0024】
また、各ジャーナル22においては、前記のジャーナル部主給油経路31から径方向に分岐されたジャーナル軸受給油経路38が設けられる。このジャーナル軸受給油経路38はジャーナル軸受23の内径面に達し当該軸受23に給油する。また、クランクピン24においては、クランクピン部主給油経路32から前記の傾斜経路33の延長上に同じ傾斜角をもってコンロッド大端部軸受給油経路39が設けられる。このコンロッド大端部軸受給油経路39はコンロッド大端部軸受26の内径面に達し当該軸受26に給油する。
【0025】
前記のように、ジャーナル軸受23及びコンロッド大端部軸受26に対する給油方式は、主給油経路34に対し並列に接続されたジャーナル軸受給油経路38及びコンロッド大端部軸受給油経路39から独立に給油されるクランク軸センター給油方式がとられる。
【0026】
前記コンロッド大端部軸受26の外径面にコンロッド大端部25を斜め貫通した油噴射穴40が設けられる。前記の油噴射穴40と、前記メインギャラリ36に接続された油噴射ノズル41の2個所から噴射される潤滑油によって、コンロッド小端部軸受29及びピストン42の摺動面43を潤滑するようにしている。
【0027】
実施形態1の内燃機関の潤滑装置は以上のように構成され、内燃機関が駆動されると、オイルポンプ35からメインギャラリ36、導入経路37を経てクランク軸21の主給油経路34に潤滑油が供給される。主給油経路34には、ジャーナル軸受給油経路38及びコンロッド大端部軸受給油経路39が接続されていることにより、これらの給油経路38、39を経てそれぞれジャーナル軸受23及びコンロッド大端部軸受26に給油される。
【0028】
また、コンロッド大端部軸受26を経由して油噴射穴40から噴射される潤滑油及びメインギャラリ36を経由して油噴射ノズル41から噴射される潤滑油が、コンロッド小端部軸受29及びピストン42の摺動面43を潤滑する。
【0029】
前記のように、ジャーナル軸受23及びコンロッド大端部軸受26に対する各給油経路38、39は、相互に独立した別系統の給油経路を構成しているので、ジャーナル軸受23において油漏れが発生したとしても、コンロッド大端部軸受26にその影響が及ぶことを避けることができる。
【0030】
また、前記のように、クランク軸センター給油方式をとることにより、従来の方式(図2参照)に比べ給油経路が短くなる。また、ジャーナル軸受給油経路38及びコンロッド大端部軸受給油経路39は、いずれも主給油経路34から径方向に形成されるので、その経路を経て給油される潤滑油はクランク軸21の回転に伴う遠心力によるポンプ作用が加わる。
【0031】
さらに、ジャーナル軸受23、コンロッド大端部軸受26及びコンロッド小端部軸受29をそれぞれ転がり軸受によって構成したことにより、滑り軸受によって構成された従来の場合より給油量が低減されることと相まって、オイルポンプ35の小型化、負荷の低減が可能となり、内燃機関全体の低燃費化に資することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 クランク軸
2 ジャーナル
3 ジャーナル軸受
4 クランクピン
5 コンロッド大端部軸受
6 ピストンピン
7 コンロッド小端部軸受
8 コンロッド小端部
9 オイルポンプ
10 メインギャラリ
11 ジャーナル軸受給油経路
12 軸受支持部
13 油穴
14 コンロッド大端部軸受給油経路
15 油穴
16 コンロッド大端部
17 油噴射穴
18 油噴射ノズル
19 ピストン
20 摺動面
21 クランク軸
22 ジャーナル
23 ジャーナル軸受
24 クランクピン
25 コンロッド大端部
26 コンロッド大端部軸受
27 ピストンピン
28 コンロッド小端部
29 コンロッド小端部軸受
31 ジャーナル部主給油経路
32 クランクピン部主給油経路
33 傾斜経路
34 主給油経路
35 オイルポンプ
36 メインギャラリ
37 導入経路
38 ジャーナル軸受給油経路
39 コンロッド大端部軸受給油経路
40 油噴射穴
41 油噴射ノズル
42 ピストン
43 摺動面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸のジャーナル軸受とコンロッド大端部軸受に対する給油経路を備えた内燃機関の潤滑装置において、前記ジャーナル軸受が転がり軸受によって構成され、前記クランク軸に主給油経路が設けられ、前記ジャーナル軸受とコンロッド大端部軸受に対する給油経路が、それぞれ前記主給油経路から分岐され相互に独立したジャーナル軸受給油経路とコンロッド大端部軸受給油経路によって構成されたことを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項2】
前記主給油経路は、前記クランク軸のジャーナル部分のセンターに設けられたジャーナル部主給油経路と、クランクピン部分のセンターに設けられたクランクピン部主給油経路と、これらの給油経路相互を連通する傾斜経路によって構成されたことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項3】
前記ジャーナル軸受給油経路が、前記ジャーナル部主給油経路から径方向に分岐することにより形成され、前記コンロッド大端部軸受給油経路が、前記クランクピン部主給油経路から前記傾斜経路の角度をもって径方向に分岐することにより形成されたことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項4】
前記コンロッド大端部にコンロッド大端部軸受の内部に通じた油噴射穴が設けられ、前記油噴射穴から噴射される潤滑油によってコンロッド小端部軸受を潤滑するようにしたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項5】
前記コンロッド大端部軸受及びコンロッド小端部軸受がともに転がり軸受によって構成されたことを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の潤滑装置。
【請求項6】
前記ジャーナル軸受、コンロッド大端部軸受及びコンロッド小端部軸受を構成する転がり軸受が、いずれもニードル軸受であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の内燃機関の潤滑装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236818(P2011−236818A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109186(P2010−109186)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】