説明

内視鏡の可撓管

【課題】網状管と外皮との結合力が強くて、しかも円滑に曲がることのできる内視鏡の可撓管を提供すること。
【解決手段】複数の金属細線を並置した複数の素線束21を編組して形成された網状管20を螺旋管10の外周に被覆して、さらにその外周に可撓性を有する合成樹脂製の外皮30を被覆してなる内視鏡の外装部分に用いられる可撓管において、上記網状管20の編組密度をKとしたとき、Kが0.78≦K≦0.90の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、内視鏡の外装部分に用いられる可撓管に関する。
【0002】
【従来の技術】内視鏡の可撓管は一般に、複数の金属細線を並置した複数の素線束を編組して形成された網状管を、螺旋管の外周に被覆して、さらにその外周に可撓性を有する合成樹脂製の外皮を被覆して形成されている。
【0003】そして、例えば特開平1−232923号には、図11に示されるように、網状管20の軸方向において、各素線束21の交差部分の長さLの合計が可撓管の軸線全長に対して占める比率を73%〜83%にすることが記載されている。
【0004】これを、各素線束21が網状管20の外周表面を覆う面積の割合である編組密度K(図12において、K=(S−s)/S)に置き換えると、1−(1−0.73)2 =0.92711−(1−0.83)2 =0.9711であることから、0.927≦K≦0.971である。なお、各素線束21間に全く隙間がない場合、s=0であり、K=1である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】内視鏡の可撓管は、生体腔内等において、小さな曲率半径で繰り返し曲げられながら使用されるが、上述のように編組密度が大きくて隙間の少ない網状管を用いた可撓管は、網状管と外皮との結合力が弱いので、小さな曲率半径で曲げると外皮が網状管から剥離し易く、その結果、カーブの内側にあたる外皮の部分にシワが発生して、座屈することが少なくない。
【0006】また、網状管と外皮との結合力を強めるために、網状管の編組密度を極度に疎にして、軟化又は溶融した外皮部材を網状管の隙間によく食い込ませるようにすると、外皮部材が網状管の内側の螺旋管部分まで入り込んで、可撓管が円滑に曲がらなくなって使い物にならなくなってしまう。
【0007】そこで本発明は、網状管と外皮との結合力が強くて、しかも円滑に曲がることのできる内視鏡の可撓管を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明の内視鏡の可撓管は、複数の金属細線を並置した複数の素線束を編組して形成された網状管を螺旋管の外周に被覆して、さらにその外周に可撓性を有する合成樹脂製の外皮を被覆してなる内視鏡の外装部分に用いられる可撓管において、上記網状管の編組密度をKとしたとき、Kが0.78≦K≦0.90の範囲にあることを特徴とする。
【0009】なお、上記外皮が、合成樹脂を溶剤に溶かして上記網状管の外周側から塗布して形成されていてもよく、上記外皮が、熱可塑性の合成樹脂を軟化点以上の温度に加熱して上記網状管の隙間内に外側から食い込ませてあってもよい。
【0010】
【発明の実施の形態】図面を参照して実施の形態を説明する。図2は、内視鏡の全体構成を示しており、操作部2に連結された挿入部可撓管1の先端部分には、操作部2に設けられた湾曲操作ノブ3を回動させることにより遠隔的に屈曲される湾曲部4が形成されている。
【0011】そして、湾曲部4のさらに先端側には、対物光学系等を内蔵した先端部本体5が連結されている、また、操作部2に連結された可撓性の連結コード6の端部には、図示されていない光源装置に接続されるコネクタ7が連結されている。
【0012】図1は、可撓管1の構成を示しており、10は、ステンレス鋼又は銅合金などの金属帯を均一な径で螺旋状に巻いて形成された螺旋管であり、一重巻き又は二重以上の多重に巻いて形成される。
【0013】20は、螺旋管10の外周に被覆された網状管であり、ステンレス鋼又は銅合金などの金属細線からなる複数の素線を平行に並べた素線束21を複数編組して形成されている。なお、一つの素線束21に含まれる素線数を持数といい、編組される素線束21の数を打数という。
【0014】螺旋管10と網状管20とは、螺旋管10の外周に網状管20を密着させて、はんだ付けなどにより両端部で互いが固着されている。これによって可撓管1の伸びと捩じれが防止される。その状態において可撓管1の軸線40に対して素線束21の各素線のなす角度αを、編組角度という。
【0015】そして本発明においては、この状態において、網状管20の編組密度をKとしたとき、Kが0.78≦K≦0.90の範囲にあるように設定されている。編組密度Kは、前述のとおり、素線束21が網状管20の外周表面を覆う面積の割合(隙間なしの時、K=1)であり、図12において、K=(S−s)/Sである。
【0016】30は、網状管20の外周に被覆された可撓性を有する外皮であり、例えばポリウレタン樹脂等の合成樹脂によって形成されていて、網状管20の隙間に外面側から食い込んでいる。
【0017】螺旋管10に網状管20を被覆した後、さらに網状管20の外面に外皮30を被覆する作業は、次の二種類の方法で行ったが、後述する各実施例における網状管20に対する結合強度等に関して、両方法で作られたものに同等の評価が得られた。
【0018】図3は、螺旋管10に被覆された網状管20にさらに外皮30を被覆する第1の加工方法を示しており、例えばポリウレタンエラストマーペレットをその2倍の量の溶剤に溶かして作られた合成樹脂コンパウンド51を、ダイス52を通して網状管20の表面に塗布するものである。
【0019】ダイス52は、その下面側に一体的に設けられたコンパウンド容器53等の自重で網状管20に沿って降下して、網状管20に対してダイス52の内径の太さにコンパウンド51が塗布されて外皮30が形成される。54はスポンジである。
【0020】そのようなダイス52の内径を少しずつ太くして塗布作業を3回行うことによって、外皮30の外径を所定の寸法に仕上げた後、溶剤が発散して外皮30が固まるまで待つ。
【0021】螺旋管10に被覆された網状管20に外皮30を被覆する第2の加工方法は、図示しないが、例えば熱可塑性ポリウレタンエラストマーによって形成されたチューブを網状管20の外周面に被せる。そして、そのチューブを軟化点温度以上に加熱して(例えば200℃で10分間加熱)、網状管20の編組の目の隙間に食い込ませた後、冷却する。
【0022】なお、連結コード6を上述の可撓管1と同様の構成にして本発明を適用してもよい。
【0023】
【実施例1】図4は、本発明の第1の実施例を示しており、外径が約12mmの大腸用内視鏡の可撓管1について、網状管20の素線径と編組持数の異なる■から■の5種類の可撓管1を作って、その可撓管1の評価を行った。網状管20の素線は、直径が0.1mmのステンレス鋼線である。横向きの矢印は、左側に記載された数字と同じという意味である。
【0024】この実施例によれば、編組密度が0.715の■の場合には、網状管20の網の目に対する外皮30の浸透性が大きくて、網状管20と外皮30の結合性は良好であるが、螺旋管10にまで外皮30が浸透して、曲がりが悪くなり、内視鏡の可撓管として使用することができない。
【0025】編組密度が0.792と0.857の■と■の場合は、可撓管1を切断して内部を肉眼で観察した結果、外皮30が網状管20内に浸透しており、剥離強度試験による両者の結合性も良好であった。
【0026】編組密度が0.91の■においては、外皮30が網状管20内に少し浸透しているが、その量が小さくて、網状管20と外皮30との結合性はやや不良であった。
【0027】編組密度が0.951の■になると、外皮30が網状管20内に浸透せずに外表面に留まるだけなので、網状管20と外皮30との結合性が悪かった。したがって、小さな曲率半径で曲げられると、外皮30が網状管20から容易に剥離してシワが発生する。
【0028】なお、剥離強度の測定は、図5に示されるように、できあがった可撓管1の外皮30にカミソリで5mm幅の切れ目を軸線方向に入れて、その5mm幅の部分をバネばかりで引っ張って剥離するときのバネの目盛りを読んだ。
【0029】
【実施例2】図6は、本発明の第2の実施例を示しており、外径が約9mmの上部消化管用内視鏡の可撓管1について、網状管20の素線径と編組持数の異なる■から■の5種類の可撓管1を作って、その可撓管1の評価を行った。網状管20の素線は、直径が0.08mmのステンレス鋼線である。
【0030】可撓管1の外径が細いこれ以降の実施例においては、外皮30を5mm幅で切断すると平面的な剥離状態を得ることができず、かといって5mm未満の幅で切断して引っ張ると、その外皮30の帯状部がちぎれてしまうことが多くなるため、剥離強度を測定することができない。そこで、網状管20と外皮30との結合性の程度は、網状管20に対する外皮30の浸透性から判断した。
【0031】この第2の実施例の結果では、編組密度が0.711の■と、0.948の■が不良であり、編組密度が0.788の■と、0.853の■と、0.906の■とが良好であった。
【0032】
【実施例3】図7は、本発明の第3の実施例を示しており、外径が約5mmの気管支用内視鏡の可撓管1について、網状管20の素線径と編組持数の異なる■から■の5種類の可撓管1を作って、その可撓管1の評価を行った。網状管20の素線は、直径が0.05mmのステンレス鋼線である。
【0033】この第3の実施例の結果では、編組密度が0.705の■と、0.92の■が不良であり、編組密度が0.772の■と、0.83の■と、0.879の■とが良好であった。
【0034】
【実施例4】図8は、本発明の第4の実施例を示しており、外径が約3.5mmの気管支用又は耳咽喉用内視鏡の可撓管1について、網状管20の素線径と編組持数の異なる■から■の6種類の可撓管1を作って、その可撓管1の評価を行った。網状管20の素線は、直径が0.03mmのステンレス鋼線である。
【0035】この第4の実施例の結果では、編組密度が0.735の■と、0.911の■と、0.94の■が不良であり、編組密度が0.788の■と、0.835の■と、0.876の■とが良好であった。
【0036】
【実施例5】図9は、本発明の第5の実施例を示しており、外径が約4.2mmの気管支用内視鏡の可撓管1について、網状管20の素線径と編組持数の異なる■から■の4種類の可撓管1を作って、その可撓管1の評価を行った。
【0037】この実施例においては、直径が0.05mmの細線を潰して、図10に示されるような、厚さが0.022mmで幅が0.089mmの断面形状が偏平の素線で網状管20を編組した。
【0038】その結果、編組密度が0.659の■と、0.972の■は不良で、編組密度が0.801の■と、0.906の■とが良好であり、偏平素線の網状管20を用いても本発明が成り立つことが確かめられた。
【0039】なお、上記各実施例において、網状管20として銅合金製の素線を用いたサンプルでも実験した結果、ステンレス鋼線の素線を用いた場合と差のない結果が得られた。
【0040】
【発明の効果】本発明によれば、編組密度Kを、K≦0.90の範囲にあるようにしたことにより、網状管と外皮との間に強い結合力が得られるので、小さな曲率半径で曲げてもシワが発生しにくく、しかもKが0.78≦Kの範囲にあるようにしたことにより、外皮が螺旋管とは結合しないので、可撓管が円滑に曲がることができて体腔内等に対して良好な挿入性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の内視鏡の可撓管の実施の形態の一部を切除して示す部分側面図である。
【図2】本発明が適用される内視鏡の実施の形態の側面図である。
【図3】本発明の内視鏡の可撓管の外皮を被覆する方法の一つを示す正面断面図である。
【図4】本発明の第1の実施例の内容を示す図表である。
【図5】本発明の第1の実施例の剥離強度測定法を説明するための側面図である。
【図6】本発明の第2の実施例の内容を示す図表である。
【図7】本発明の第3の実施例の内容を示す図表である。
【図8】本発明の第4の実施例の内容を示す図表である。
【図9】本発明の第5の実施例の内容を示す図表である。
【図10】本発明の第5の実施例の網状管の素線の断面図である。
【図11】網状管の部分側面図である。
【図12】網状管の編組密度の説明図である。
【符号の説明】
1 可撓管
10 螺旋管
20 網状管
21 素線束
30 外皮

【特許請求の範囲】
【請求項1】複数の金属細線を並置した複数の素線束を編組して形成された網状管を螺旋管の外周に被覆して、さらにその外周に可撓性を有する合成樹脂製の外皮を被覆してなる内視鏡の外装部分に用いられる可撓管において、上記網状管の編組密度をKとしたとき、Kが0.78≦K≦0.90の範囲にあることを特徴とする内視鏡の可撓管。
【請求項2】上記外皮が、合成樹脂を溶剤に溶かして上記網状管の外周側から塗布して形成されている請求項1記載の内視鏡の可撓管。
【請求項3】上記外皮が、熱可塑性の合成樹脂を軟化点以上の温度に加熱して上記網状管の隙間内に外側から食い込ませてある請求項1記載の内視鏡の可撓管。

【図1】
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【図2】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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