説明

再帰性反射シートとその再帰性反射シートに用いられるフィルム

本発明は、小さい入射角でも適度の再帰反射性を有しハレーションを起こさず、入射角特性が良好で、方向特性に優れた再帰性反射シート、および該再帰性反射シートに好適に用いられるフィルムを提供することにある。特定の形状を有する三角錐台型反射素子が一方の面に最密充填状に配置された三角錐台型プリズム再帰反射シートとすることにより、上記特性を有する再帰性反射シートを得ることができる。本発明における三角錐台の形状は、下底面の一辺の長さが50〜400μm、最長の辺と最短の辺の差が200μm以下であり、最長の稜線の長さが30〜400μm、最長の稜線と最短の稜線の差が100μm以下であり、下底面から垂線を引いた際に上底面と交わる線の中で最も長い線の長さが20〜250μmであり、かつ、側面と側面の成す角が85〜95度の条件を満たすものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規な構造のプリズム再帰性反射シートに関する。さらに詳しくは、本発明は、新規な構造の三角錐台型プリズムを反射素子層として有していることを特徴とする三角錐台型プリズム再帰性反射シート、およびそれを構成する樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
再帰性反射シートは、道路標識、工事標識等の標識類、自動車やオートバイ等の車輛のナンバープレートや追突防止板類、衣料、救命具等の安全資材類に利用されている。
再帰性反射を得る方法として、樹脂シート中に微小なガラスビーズを施工し、ガラスビーズの屈折を利用して再帰性反射を行うものがある(特開平6−160615号公報、特開平6−347623号公報および特開平9−212115号公報参照)。これらの方法では、シート面の垂直線と入射光との成す角(以下、入射角という)が増大しても、再帰反射効率(再帰反射係数という場合もある)の低下は小さい(すなわち、入射角特性は優れる)が、そもそも輝度率(再帰反射係数)の絶対値が小さく、充分な再帰性反射が得られない。そのうえ、ガラスビーズと樹脂が分離できないため分別リサイクルが不可能であり、焼却処分ができないため、埋め立てによる廃棄しかできない等、環境への負荷が大きい。
これらの問題点を解決するために、三角錐型キューブコーナー再帰性反射シートが紹介されている。分別リサイクルが可能になり環境負荷への影響が少なくなるが、この方法では、輝度率(再帰反射係数)は格段に向上し、特定の入射角での光線に対する再帰性反射は良いが、入射角特性が劣る。すなわち、入射角が小さい角度の範囲では良好な再帰反射効率を示すが、入手角が増大するに従って、再帰反射効率が急激に低下する。
また、三角錐型キューブコーナー再帰性反射シートは、ガラスビーズ型再帰性反射シートに比較して、反射光が広い角度に発散して反射されることは少ない。そのため、再帰反射光の狭い発散角度の為に、実用面においては、例えば、自動車のヘッドランプから発せられた光が交通標識で再帰反射した際、その光軸から離れた位置にいる運転者の目には達しにくいという不都合が生じ易い。このような不都合は、特に自動車と交通標識との距離が接近したときに、光線の入射軸と運転者との反射点とを結ぶ軸(観察軸)とが成す角度(以下、観察角という)が増大するために益々大きくなる(すなわち、観測角特性が劣る)。
これらの問題点を改良する方法として、薄いシートの上に様々な形状の三角錐型反射素子を設置する再帰反射シートおよびそれらシートの製造方法について述べられている(米国特許第2,481,757号公報参照)。三角錐型反射素子としては、三角錐の頂点を底面三角形の中心に位置した光学軸の傾斜のない三角錐型反射素子や頂点の位置が底面三角形の中心に位置していない光学軸の傾斜を有する三角錐反射素子が例示されており、接近してくる自動車に対して効率的に光を反射させることが記載されている。しかし、この方法には、きわめて小さい三角錐型反射素子についての具体的な開示はなく三角錐型反射素子がどのような大きさ及び光学軸傾斜を有することが望ましいか等に関して例示されていない。
これらを解決する方法として、三角錐型反射素子の大きさおよび光学軸傾斜を特定することにより、これらを解決した方法が例示されている(例えば、特開平6−250006号公報および特開2001−264525号公報参照)。しかしながら、その改善は、未だ不充分である上に、入射角・観測角が共に小さい場合、再帰反射係数が大きすぎると、反射光が眩しすぎ、逆に標識等が認識できなくなるハレーションという現象を起こしやすく、運転者が幻惑される問題がある。逆に、入射角をより広角とした場合の再帰性を改善すると、入射角・観測角とも小さい場合の再帰性効率(再帰反射係数)が小さくなるなど、入射角特性についても充分とは言えない。
さらに、シートを貼り付ける際の注意点として、縦向きと横向きで再帰性反射性能が極端に異なる、すなわち方向特性が悪いという問題も有しているが、それを解決する具体的な技術開示も無い。
また、三角錐型反射素子層を有する再帰性反射シートでは、裏打ちフィルム(裏打ちシート)と接合する際に、三角錐型反射素子の背面に空気層を確保するために、再帰性反射シートの構成として凸状支持部を設ける必要がある。しかしながら、凸状支持部が接合された反射素子層は、その総内部反射条件を満足させることができず、三角錐型再帰性反射シートでは再帰反射性が低下するという問題点を有していた。
また、これらの方法による再帰性反射シートは三角錐の先端が非常にシャープであり、裏打ちシートを貼り付ける際に先端が擦れ、形状が変化し、再帰反射性にばらつきを生じさせるために好ましくない上に、プリズムを付与してから、一旦巻き取った際にロールの中で三角錐が擦れ、プリズムが破壊する問題も抱えており、その分は製品とならないために、廃棄処理しなければならないので、環境に対する負荷が大きくなる。
【発明の開示】
本発明は、小さい入射角でも適度の再帰性を持ちハレーションを起こさなく、入射角特性が良好で、方向特性の良好な再帰性反射シート、及び再帰性反射シート用フィルムを提供することにある。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の形状を持つ三角錐台を反射素子(マイクロプリズム)とする再帰反射性シートが、ハレーションも少なく、入射角特性および方向特性に優れた再帰性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(10)に関する。
(1)三角錐台形状の反射素子層が一方の面に最密充填状に配置されている三角錐台型プリズム再帰性反射シートであって、下記の条件を満たす再帰性反射シート、
三角錐台の下底面における、一辺の長さが50〜400μmで、かつ、最長の辺と最短の辺の差が200μm以下、
三角錐台における、最長の稜線の長さが30〜400μmであり、かつ、3本の稜線のうち、最長の稜線と最短の稜線との長さの差が100μm以下、
三角錐台の下底面から垂線を引いた際に、上底面と交わる線の中で最も長い線の長さが20〜250μm、
三角錐台の側面と側面との成す角が85〜95度。
(2)三角錐台の下底面における三辺の長さがそれぞれ異なる、(1)の再帰性反射シート。
(3)三角錐台の上底面の面積が、下底面の面積の1/100〜1/16である、(1)または(2)記載の再帰性反射シート。
(4)反射素子層が、厚みが30〜300μmで、20%以上の全光線透過率を有する樹脂層フィルムに付与される、(1)〜(3)のいずれかに記載の再帰性反射シート、
(5)樹脂からなる裏打ちフィルムを有し、反射素子層との間に空気との界面を有する状態で密封し、部分的に裏打ちフィルムおよび反射素子層を有するフィルムがエンボス加工より得られる凸状支持部を介して、反射素子層の面に接着して複数の気密室を形成してなる、(1)〜(4)のいずれかに記載の再帰性反射シート、
(6)裏打ちフィルムが、凸状支持部を介することなく、三角錐台の上底面に隣接して配置される、(1)〜(5)のいずれかに記載の再帰性反射シート、
(7)一辺の長さが50〜400μm、最長の辺と最短の辺の差が200μm以下である三角形を下底面とし、最長の稜線の長さが30〜400μm、下底面から垂線を引き、上底面と交わる線の中で最も長い線の長さが20〜250μm、側面と側面の成す角が85〜95度からなる三角錐台状である反射素子層が一方の面に細密充填状に配置されていることを特徴とする三角錐台型プリズム再帰性反射シートに用いられる樹脂フィルム。
(8)樹脂フィルムが、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂およびセルロース系樹脂の群から選ばれた1種の樹脂または2種以上を混合してなる樹脂からなり、厚みが30〜300μmで、20%以上の全光線透過率を有し、反射素子層の付与が可能である、(7)に記載の樹脂フィルム、
(9)樹脂フィルムが、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等から選ばれる紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系等から選ばれる光安定剤、フェノール系、フォスファイト系等からなる酸化防止剤、モンタン酸エステル、ステアリン酸金属塩等の滑剤を添加されてなる、(7)または(8)に記載の樹脂フィルム、
(10)樹脂フィルムが、さらに、チオキサンテン系、クマリン系、ペリレン系、メチン系、ベンゾピラン系、チオインジゴ系、アンスラキノン系等の有機染料、アゾ系、フタロシアニン系等の有機顔料を添加されてなる、(7)〜(9)のいずれかに記載の樹脂フィルム。
【図面の簡単な説明】
第1図 三角錐台プリズムの形状と名称
第2図 三角錐台プリズム再帰性反射シートの俯瞰図
第3図 三角錐台プリズムを使用した再帰性反射シートの構成例
第4図 平行三角錐台プリズムを使用した再帰性反射シートの構成例
第5図 JIS Z8714による再帰性反射係数の測定方法の概念図1
第6図 JIS Z8714による再帰性反射係数の測定方法の概念図2
【符号の説明】
(a):下底面での辺の長さ
、a、a:下底面の三角形の各辺
(b):下底面
(c):上底面
(d):仮想三角錐の最長の稜線
、d、d:仮想三角錐の各稜線
(e):下底面と上底面との距離
、e、e:三角錐台での下底面と上底面との各距離
、f、f:三角錐台での側面と側面とのなす各角度
(1):表面保護層
(2):反射素子層(三角錐台プリズム層)
(3):プリズム含有層
(4):裏打ちフィルム
(5):接合箇所(凸状支持部)
(6):空気層
11:光源
12:再帰性反射体試料(再帰性反射シート)
α: 観測角
β: 照射角(入射角)
d: 観測距離
θ: 再帰性反射体試料の回転角
13:受光開口
14:分光測光器
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の再帰性反射シートは、三角錐台形状の反射素子層が一方の面に最密充填状に配置されている三角錐台型プリズム再帰性反射シートである。
本発明における再帰性反射シートの反射素子であるマイクロプリズムの形状は、三角錐台である。すなわち、マイクロプリズムの形状は、三角形である下底面(b)および下底面を共有する3つの側面(傾斜面)を有する三角錐(以下、仮想三角錐と称する)を平面(上底面(c))で切り、上側の三角錐(以下、仮想三角錐の上部と称する場合がある)を取り除いてできる多面体である、上底面(c)、下底面(b)および3つの側面(傾斜面)を有する三角錐台である。
本発明において、マイクロプリズム形状として三角錐台を採用ことにより、入射角・観測角が共に小さい場合におけるハレーションを低減することができる。また、裏打ちフィルム接着の際にもマイクロプリズムの総内部反射条件を損なわず再帰性反射の低下を防止することができる。さらに、マイクロプリズムの先端欠けによる廃棄物の減少や、プリズム加工性の向上を図ることができる。
本発明における三角錐台の形状に関して、図1を用いて説明する。
本発明における三角錐台の形状のうち、下底面(b)は、一辺の長さ(a)が50〜400μmであり、好ましくは60〜300μmであり、さらに好ましくは100〜250μmであり、かつ、最長の辺と最短の辺との差が200μm以下、好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である三角形である。
下底面(b)である三角形の一辺の長さ(a)が50μm未満の場合は、プリズム加工が難しくなり、入射角特性が低下する傾向があり、400μmを超える場合は、再帰反射性が低下する傾向がある。また、下底面(b)である三角形の3辺のうち、最長の辺と最短の辺との差が200μmを超える場合、すなわち、極端に細長い三角形の場合、入射角特性が低下する傾向がある。
本発明における下底面(b)の三角形においては、方向特性の観点から、3辺の長さは互いに異なる方が好ましい。下底面(b)の三角形の3辺のうち、2辺の長さが等しい場合、すなわち、下底面(b)の三角形が二等辺三角形もしくは正三角形の場合、方向特性が低下する傾向がある。
本発明の三角錐台における仮想三角錐は、最長の稜線(d)の長さが30〜400μmであり、好ましくは50〜300μmであり、さらに好ましくは80〜200μmであり、かつ、3本の稜線のうち、最長の稜線と最短の稜線との差が、100μm以下であり、好ましくは90μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下である三角錐である。
仮想三角錐における最長の稜線(d)の長さが、30μm未満の場合、または、400μmを超える場合、入射角特性や再帰反射性が低下する傾向がある。仮想三角錐における3本の稜線のうち、最長の稜線と最短の稜線の差が100μmを超える場合は、入射角特性や再帰反射性が低下する傾向がある。
本発明における三角錐台の上底面(c)は、仮想三角錐の上部を切り取る平面であり、仮想三角錐の3本の稜線との交点を結ぶ三角形である。
本発明の三角錐台においては、下底面(b)から垂線を引き、上底面(c)に対し、仮想三角錐の3本の稜線との各交点と交わる3本の線の中で、最も長い線の長さ(e)(以下、上底面(c)と下底面(d)との最長距離(e)という)は20〜250μmであり、好ましくは50〜200μmであり、さらに好ましくは70〜150μmである。
上底面(b)と下底面(c)との最長距離(e)が、20μm未満の場合、再帰反射性が低下する傾向があり、250μmを超える場合、入射角特性が低下する傾向がある。
本発明の三角錐台における上底面(c)は、下底面(b)に対して平行であることが好ましい。三角錐台の上底面(c)が下底面に対して平行であることにより、正面からの光線(小さい入射角の光線)に対する上底面(c)での鏡面反射による正面再帰性を向上させることができる。また、裏打ちフィルムとの接着の際にマイクロプリズムの総内部反射条件を損なわず再帰性反射の低下を防止することができる。さらに、プリズム加工を施す際の加工性も改善される。ただし、本発明における三角錐台の上底面(c)は、下底面(b)に対して僅かに傾いていても構わない。
一般に、三角錐台の上底面(c)が下底面(b)に対して平行である場合、上底面(c)の三角形は、下底面(b)の三角形に対して相似形となる。この際、底面(c)の三角形と下底面(b)の三角形の面積比は、仮想三角錐の上部の高さと仮想三角錐の頂点からの想定高さとの比の2乗に比例することが知られている。なお、上底面(c)が下底面(b)と平行な三角錐台においては、上底面(c)と下底面(d)の最長距離(e)は、仮想三角錐の頂点からの想定高さから、仮想三角錐の上部の高さを差し引いた値である。
本発明の三角錐台においては、三角錐台の上底面(c)の面積が、下底面(b)の面積の1/100〜1/16であることが好ましく、1/80〜1/25であることがより好ましい。三角錐台の上底面(c)と下底面(b)との面積比が、1/100未満の場合には、基材との接着性が悪くなる傾向があり、1/16を超える場合には、再帰反射性が低下する傾向がある。
本発明における三角錐台の各側面と側面の成す角度(f)は、85〜95度であり、好ましくは88〜93度であり、さらに好ましくは89〜91度であり、最も好ましくは89.05〜90.05度である。三角錐台の各側面と側面の成す角が85度未満の場合、または、95度を超える場合、再帰反射性が低下する傾向がある。
本発明の三角錐台マイクロプリズムの大きさは、全て統一されていても、大小が混合していても、構わない。
本発明の三角錐台型再帰性反射シートは、一般に、三角錐台型マイクロプリズムが反転された凹形状として金属製金型上に最密充填状に配置された成形用金型(雌型)を用い、柔軟でかつ光学的透明性に優れた樹脂シート(樹脂フィルム)に転写されることにより、該金型の形状を樹脂シート(樹脂フィルム)上に付与させて製造することができる。
本発明において使用される三角錐台マイクロプリズムを付与させる樹脂シート(樹脂フィルム)は、厚みが30〜300μmであり、好ましくは50〜250μmであり、さらに好ましくは100〜200μmであり、かつ、全光線透過率が20%以上であり、好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。
樹脂シート(樹脂フィルム)の厚みが30μm未満の場合は、プリズム形状を付与する際、ピンホール等の欠陥が発生しやすい傾向があり、300μmを超える場合は、再帰性が低下する傾向がある。また、樹脂シート(樹脂フィルム)の全光線透過率が20%未満の場合は、再帰性が低下する傾向がある。
本発明において使用される三角錐台マイクロプリズムを付与させる樹脂シート(樹脂フィルム)を構成する樹脂としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂およびセルロース系樹脂からなる群より選ばれた1種または2種以上混合してなる樹脂を用いることができる。これらのうちでも、樹脂の透明性、プリズムの加工性の観点から、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリアリレート樹脂が好ましく用いられ、耐候性の観点からアクリル樹脂およびポリアリレート樹脂が好ましく用いられる。
本発明に使用される樹脂シート(樹脂フィルム)を構成する樹脂中には、必要に応じて、耐候性を向上させる目的で、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系およびトリアジン系から選ばれる紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系から選ばれる光安定剤を、熱安定性を向上させる目的でフェノール系、フォスファイト系の酸化防止剤を、また、成形性を改良させる目的でモンタン酸エステル、ステアリン酸金属塩等の滑剤を添加してもよい。
本発明に用いられる樹脂シート(樹脂フィルム)を構成する樹脂中には、着色の目的で必要に応じ、チオキサンテン系、クマリン系、ペリレン系、メチン系、ベンゾピラン系、チオインジゴ系、アンスラキノン系等の有機染料やフタロシアニン等の有機顔料を添加することができる。
三角錐台型マイクロプリズムが反転された凹形状として金属製金型上に最密充填状に配置された成形用金型(雌型)の製造方法は、例えば、以下のように方法を採用することができる。具体的には、表面を平坦に研削された銅などの金属材料である基材の上に、想定三角錐形状から計算される先端角度を有する超硬質のバイト(例えば、ダイアモンドバイト、タングステンカーバイド製バイト等)を用いて、目的の仮想三角錐形状に即して、それぞれの方向の繰り返しピッチ(a、a、a)および溝の深さ(仮想三角錐の高さ)並びに相互の辺のなす角度に従って、断面形状がV字型の平行溝を切削することにより得られる三角錐の上部を、上底面(c)と下底面(d)との距離が所定の高さとなるように切り取ることにより、凸状の微小な三角錐台が最密充填状に配置された雄型金型を作製する。次いで、得られた雄型金型を用いて、電鋳法によりニッケル製の形状が反転された凹形状の雌型金型を作製する。
本発明の反射素子(三角錐台マイクロプリズム)を樹脂シート(樹脂フィルム)に転写させる方法は特に限定されない。上記金型を加熱しプレスする方法、金型をロール又はベルト上に形成し、シートを送りながら、転写させる方法など、公知の方法を採用することができる。
本発明の三角錐台マイクロプリズム再帰性反射シートの好適な構造例の一態様を、その断面図である図3に示す。
図3において、(3)は本発明の三角錐台型マイクロプリズム(再帰性反射素子)が一方の面に最密充填状に配置された反射素子層、(2)は反射素子を含有する反射素子含有層(プリズムシート)である。反射素子層(3)および反射素子含有層(2)は通常一体であるが、別々の層を積層しても構わない。本発明における再帰性反射シートには、使用目的、使用環境に応じて、汚染や傷、光や熱による劣化などの物理的または化学的な損傷から防護するための表面保護層(1)および、反射素子(三角錐台プリズム)層の背面に空気の密封封入構造を達成するための裏打ちシート(裏打ちフィルム)(4)を設けることができる。本発明における再帰性反射シートには、さらに、裏打ちシート(裏打ちフィルム)(4)の外側に、該再帰性反射シートを他の構造体に貼付するために用いる接着剤層および剥離剤層も設けることができる。
本発明の再帰性反射シートにおける表面保護層(1)を構成する樹脂は、反射素子含有層(プリズムシート)(2)を構成する樹脂と同一でも異なるものでもよく、耐候性を向上する目的で、反射素子含有層(プリズムシート)(2)と同様の紫外線吸収剤等を添加してもよい。
本発明の再帰性反射シートにおける裏打ちフィルム(裏打ちシート)(4)は、裏打ちフィルム(裏打ちシート)上にエンボス加工により部分的に設けられた凸状支持部(5)において、反射素子層を有するフィルム(反射素子含有層)(2)面上に接着されることにより、反射素子(三角錐台プリズム)層(3)の背面に空気を密封封入させた複数の気密室を形成することができる。反射素子(三角錐台プリズム)の側面(傾斜面)と空気との界面を確保することにより、マイクロプリズムでの総内部反射条件を満足することができ、再帰性反射を向上させることができる。
本発明の再帰性反射シートの裏打ちフィルム(4)に用いられる樹脂も、プリズムシート(2)に用いた樹脂と同一でも異なるものでもよい。
本発明の再帰性反射シートの裏打ちシート(4)と反射素子含有層(2)との接着方法は特に限定されない。それ自身公知の熱融着性樹脂接合法、熱硬化樹脂接合法、紫外線硬化性樹脂接合法、電子線硬化性樹脂接合法などが挙げられる。
一般に、反射素子層(3)と凸状支持部(5)が接着される箇所においては、マイクロプリズムでの総内部反射条件を満足することができず、得られる再帰性反射シートの再帰反射性は低下することが知られている。
本発明の三角錐台型再帰性反射シートにおいて、三角錐台の上底面(c)と下底面(b)とが平行である場合には、図4で示すように、エンボス加工による凸状支持部を介することなく、裏打ちフィルム(4)を三角錐台の上底面(c)に隣接して配置することが可能であり、三角錐台の側面部での総内部反射条件を阻害しないため、再帰反射性の低下を防ぐことができ、また、接着性自体も向上させることができる。
本発明の三角錐台型プリズム再帰性反射シートは、先端部が三角錐型プリズムのようにシャープではないために、三角錐型プリズムでの、プリズム形状を付与された樹脂フィルム(樹脂シート)の保管中、または、裏打ちシートとの接着時に、先端部が擦れ、プリズム形状が変化し、再帰反射性にばらつきを生じさせるという問題点を軽減することが可能である。
以上のように、本発明の三角錐台型プリズムを一方の面に最密充填状に配置した再帰性反射層を有し、裏打ちフィルムを用いて複数の気密室を形成させた再帰性反射シートは、小さい入射角でのハレーションを起こさず、入射角特性が良好で、方向特性にも優れたものである。そのため、本発明の三角錐台型プリズム再帰性反射シートは、道路標識、工事標識等の標識類、自動車やオートバイ等の車輛のナンバープレートや追突防止板類、衣料、救命具等の安全資材類に好適に使用されうる。
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
[実施例1〜7、比較例1〜7]
表1に示す寸法を有する三角錐台プリズムが最密充填状に配列された雌型金型を用い、アクリル樹脂シート(鐘淵化学工業社製、サンデュレンSD009NCT:厚みは200μm、全光線透過率92%)上に三角錐台プリズムを加工した再帰性反射シートを得た。
すなわち、表1に示す各寸法から計算される下底面と各側面の成す角度に従って、該先端角度を有するダイアモンドバイトを製作し、以下の工程により、高さ80μmの凸形状である多数の三角錐台プリズムが、最密充填状に配置された銅製雄型を作製した。この銅製雄型を用いて、電鋳法によりニッケル製の形状が反転された凹形状の雌型金型を作製した。例えば、実施例1では、先端角度が58度、86度、92度の3種類のダイアモンドバイトを用意し、表面を平坦に研削した200mm×200mmの銅板上に、先端角度が58度のダイアモンドバイトを用いて、繰り返しピッチが225μm、溝の深さが100μmとなるように、断面形状がV字の平行溝を、繰り返しパターンで切削した。その後、先端角度が86度のダイアモンドバイトを用いて、繰り返しピッチが230μm、深さ100μmであって、辺aとの交差角度が63度となるように、断面形状がV字の平行溝を、繰り返しパターンで切削した。さらに、先端角度が92度のダイアモンドバイトを用いて、繰り返しピッチが215μm、深さ100μmであって、辺aとの交差角度が66度、辺aとの交差角度が51度となるように、断面形状がV字の平行溝を、繰り返しパターンで切削した。得られた三角錐において、上平面が下平面と平行であり、上平面と下平面との距離が80μmとなるように、上部を切り取った。
得られた雌型金型を用いて、熱プレスを施し、アクリルフィルムに、三角錐台プリズム形状を転写させ、200mm×200mmの再帰性反射シートを作成した。得られた再帰性反射シートを下記の評価に供した。
(比較例8)
ガラスビーズタイプの再帰性反射シートであるスコッチライト#8910(住友スリーエム社製)を用い、下記の評価に供した。
(比較例9)
スコッチライトダイヤモンドLDPグレードホワイト(住友スリーエム社製)を用い、下記の評価に供した。
(評価方法)
<再帰性反射係数の算出>
実施例および比較例で得られた再帰性反射シートを用い、下記の条件に基づき、再帰反射性等を評価した。
JIS Z8714に準拠し、図5に示す配置図にて次の各項目を測定し、式1および式2に従い、再帰反射係数を算出した。

R’:再帰反射係数(単位:Cd/Lx・m
I:受光位置から観測する試料の光度(単位:Cd)
Er:図5の配置(入射角α、観測角β)における、受光器上での照度(単位:Lx)
En:試料中心位置における、入射光に垂直な平面上の照度(単位:Lx)
d :試料表面中心から受光器間の距離(単位:m)
A :試料面の面積(単位:m
(1) ハレーションおよび再帰反射性
観測角/入射角を0.2度/5度とした水準での再帰反射係数(A1)に着目して、再帰反射性を評価した。再帰反射係数の数字が大きくなるほど、再帰反射性は良いが、900Cd/Lx・m以上ではハレーションを起こしやすいという判断となる。
ハレーションの判断基準については、
○:再帰反射係数が900Cd/Lx・m未満、
×:再帰反射係数が900Cd/Lx・m以上とした。
(2) 入射角特性
観測角/入射角を0.2度/5度および1度/30度とした2水準にて評価し、各水準での再帰反射係数(A1およびB1)を算出し、その際の再帰反射係数の比B1/A1を、入射角特性の指標とした。数字の大きい方が、入射角特性が良いという判断となる。
(3) 方向特性
観測角/入射角を1度/30度とした水準での再帰反射係数の測定において、プリズムシートを図6のように回転角θ=90度にて回転させて測定した際の、再帰反射係数(B2)を算出した。その際の再帰反射係数の比B2/B1を、方向特性の指標とした。数字の大きい方が、方向特性が良いという判断となる。
実施例および比較例の評価結果を、表2に示す。
本発明の三角錐台マイクロプリズムを反射素子とする再帰性反射シートは、表2に示すとおり、小さな入射角においてもハレーションを引き起こさず、入射角特性に優れ、方向特性に優れた性質を示すものである。


産業上の利用分野
本発明の三角錐台型プリズムを一方の面に最密充填状に配置した再帰性反射層を有し、裏打ちフィルムを用いて複数の気密室を形成させた再帰性反射シートは、小さい入射角でのハレーションを起こさず、入射角特性が良好で、方向特性にも優れたものである。そのため、本発明の三角錐台型プリズム再帰性反射シートは、道路標識、工事標識等の標識類、自動車やオートバイ等の車輛のナンバープレートや追突防止板類、衣料、救命具等の安全資材類に好適に使用されうる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
三角錐台形状の反射素子層が一方の面に最密充填状に配置されている三角錐台型プリズム再帰性反射シートであって、下記の条件を満たす再帰性反射シート。
三角錐台の下底面における、一辺の長さが50〜400μmで、かつ、最長の辺と最短の辺の差が200μm以下、
三角錐台における、最長の稜線の長さが30〜400μmであり、かつ、3本の稜線のうち、最長の稜線と最短の稜線との長さの差が100μm以下、
三角錐台の下底面から垂線を引いた際に、上底面と交わる線の中で最も長い線の長さが20〜250μm、
三角錐台の側面と側面との成す角が85〜95度。
【請求項2】
三角錐台の下底面における三辺の長さがそれぞれ異なる、請求の範囲第1項記載の再帰性反射シート。
【請求項3】
三角錐台の上底面の面積が、下底面の面積の1/100〜1/16である、請求の範囲第1項または第2項記載の再帰性反射シート。
【請求項4】
反射素子層が、厚みが30〜300μmで、20%以上の全光線透過率を有する樹脂フィルムに付与される、請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の再帰性反射シート。
【請求項5】
樹脂からなる裏打ちフィルムを有し、反射素子層との間に空気との界面を有する状態で密封し、部分的に裏打ちフィルムと反射素子層を有するフィルムがエンボス加工により得られる凸状支持部を介して、反射素子層の面に接着して複数の気密室を形成してなる、請求の範囲第1項〜第4項のいずれかに記載の再帰性反射シート。
【請求項6】
裏打ちフィルムが、凸状支持部を介することなく、三角錐台の上底面に隣接して配置される、請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに再帰性反射シート。
【請求項7】
一辺の長さが50〜400μm、最長の辺と最短の辺の差が200μm以下である三角形を下底面とし、最長の稜線の長さが30〜400μm、下底面から垂線を引き、上底面と交わる線の中で最も長い線の長さが20〜250μm、側面と側面の成す角が85〜95度からなる三角錐台状である反射素子層が、一方の面に最密充填状に配置されていることを特徴とする三角錐台型プリズム再帰性反射シートに用いられる樹脂フィルム。
【請求項8】
樹脂フィルムが、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂およびセルロース系樹脂よりなる群から選ばれた1種の樹脂または2種以上を混合してなる樹脂からなり、厚みが30〜300μmで、20%以上の全光線透過率を有し、反射素子層の付与が可能である、請求の範囲第7項記載の樹脂フィルム。
【請求項9】
樹脂フィルムが、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等から選ばれる紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系等から選ばれる光安定剤、フェノール系、フォスファイト系等からなる酸化防止剤、モンタン酸エステル、ステアリン酸金属塩等の滑剤を添加されてなる、請求の範囲第7項または8記載の樹脂フィルム。
【請求項10】
樹脂フィルムが、チオキサンテン系、クマリン系、ペリレン系、メチン系、ベンゾピラン系、チオインジゴ系、アンスラキノン系等の有機染料、アゾ系、フタロシアニン系等の有機顔料を添加されてなる、請求の範囲第7項〜第9項のいずれかに記載の樹脂フィルム。

【国際公開番号】WO2005/059605
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516377(P2005−516377)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018991
【国際出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】