説明

写真廃液の処理方法

【課題】 化学酸化した写真廃液中の懸濁物を下水道に係る一般廃水基準を満たすレベルまで低減する方法を提示すること、及びそれによって酸素消費量、全窒素量、鉄含有量、浮遊物質量のすべての基準値を満すことができる写真廃液の処理方法を提示すること。
【解決手段】 写真廃液を化学酸化して無害化する廃液処理方法において、予め写真廃液が含有する鉄を実質的に除去してから該化学酸化処理を施すことを特徴とする写真廃液の処理方法。特に電解酸化処理を用いる上記写真廃液の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は写真廃液の処理方法に関するものであり、特に写真廃液中の環境汚染要因を低減する(以後「環境汚染要因を低減する」ことを「無害化する」と表現することもある)処理方法に関し、具体的には処理済み廃液の化学酸化による環境汚染要因の除去に関するものである。
【背景技術】
【0002】
写真廃液は高濃度のBOD 、COD 、窒素、リンを含み、且つ、生物処理または化学処理によっても難分解な成分が多量に含まれている。写真廃液特にカラー現像液は種々の工業廃液の中でも最も処理が困難なものの1つであって、従来から多くの処理法が開示されているが、無害化の程度と処理コストの両面で尚多くの問題がある。
【0003】
写真廃液処理に関して従来開示されている方法は、主として生物処理、化学酸化処理及び物理処理である。生物処理法は、例えば活性汚泥法によるもののほかに写真廃液が高塩濃度で鉄・有機カルボン酸錯体を含むことから海洋性菌や有機カルボン酸分解菌による生物分解法が開示されている。化学酸化処理は、オゾン酸化法、過酸化水素−第一鉄塩法(フェントン法)、過硫酸酸化法、ハロゲン酸酸化法、電解酸化法等がある。物理処理には高圧加熱法、噴霧焼却法、蒸発乾燥法等がある。
【0004】
これらの開示された写真廃液処理手段の中では、生物処理法はスケールメリットがあるが大スペースを要すること、物理処理法は分解率が低く装置の損耗も早いことなどの問題があるのに対して、化学酸化処理法は、酸素消費量や全窒素量を比較的効果的に低減でき、かつ現像所の限られたスペースでも実施できて、しかも作業量の負担も少ないことなどの利点を有しているので、多くの検討が進められている。例えば、特許文献1には、写真廃液を硫酸酸性にして電気分解する廃液処理方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、化学酸化処理は、写真廃液中の成分の酸化分解が進むに伴って酸素消費量や全窒素量の低減とともに難溶解性の酸化分解物が生成して懸濁物となって廃液中に分散するようになり、懸濁物質量が一般排水基準を満たさないレベルまで増加するという問題を生じる。難溶解性の懸濁物の主成分は、鉄(III)錯塩が配位子の酸化によって生じる難溶解性鉄塩と、銀錯体がチオ硫酸イオンの酸化によって分解して生じる難溶解性の硫化銀である。
【0006】
以上のように写真廃液中のCOD、BOD成分や窒素化合物を分解除去するために多くの検討が行われているが、写真廃液を酸化分解処理することによって鉄に由来する懸濁物(銀含有廃液の場合は銀由来懸濁物も)が生じる。そのため化学酸化処理済みの写真廃液は、一般排水基準の浮遊物質量の規定を満たすようにしなければならない。
特に電解酸化によって発生する懸濁物を除去する方法として、電解処理の循環ライン中に設けたフィルターにより除去する方法(特許文献2)、電解後に濾過する方法(特許文献3)等が提案されている。しかし、上記した懸濁物の生成に加えて、酸化分解中に廃液中の被酸化成分の分解速度が低下してゆくという問題があり、これまでの方法では、効率的に写真廃液を無害化レベル(下水排出可能レベル)まで処理することが難しかった。
写真廃水の化学酸化処理は、現像所でオンサイトで行うことができて作業負荷も少ない点で優れているが、酸化処理に伴う沈殿生成と酸化分解効率の経時低下が処理後の排水について一般廃水基準の酸素消費量、全窒素量、鉄含有量、浮遊物質量などのすべての基準値の充足を困難にしており、かつ上記の酸化分解効率の経時低下現象が解明できていないためにその技術的解決をも困難にしている。
【0007】
この出願の発明に関連する前記の先行技術には、次ぎの文献がある。
【特許文献1】特開平7−323290号公報
【特許文献2】特開2003−126860号公報
【特許文献3】特開平8−206660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の背景からなされたものである。
その目的は、写真廃液の化学酸化処理において、処理済みの排水が酸素消費量、全窒素量及び浮遊物質量について下水道に係る一般排水基準を満たすレベルまで低減することができる写真廃液の処理方法を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、廃液の化学酸化分解中に廃液中の被酸化成分の分解速度が低下する原因の解析を鋭意進めた結果、酸化分解中に発生する沈殿物が分解効率低下の原因であることが判明した。この機構は不明であるが、電極表面の鉄化合物による被毒(電解酸化の場合)や酸化処理の活性種の鉄沈殿物への吸着・不活性化(電解酸化を含む各種化学酸化の場合)などが原因と推定される。
この新たな知見に基いて本発明者は、鉄含有沈殿の化学酸化反応阻害作用を除去する方法を鋭意検討した結果、下記の本発明に到達した。
【0010】
(1)写真廃液を化学酸化して無害化する廃液処理方法において、予め写真廃液が含有する鉄を実質的に除去してから該化学酸化処理を施すことを特徴とする写真廃液の処理方法。
(2)予め写真廃液が含有する鉄と銀とを実質的に除去してから該化学酸化処理を施すことを特徴とする上記(1)に記載の写真廃液の処理方法。
(3)写真廃液のpHを12以上に調整し、生ずる鉄含有不溶解物を該廃液から分離・除去することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の写真廃液の処理方法。
(4)写真廃液のpHを12以上に調整したのち、該廃液に空気を吹き込んで廃液中のアンモニアをストリッピングして実質的に除去することを特徴とする上記(3)に記載の写真廃液の処理方法。
(5)化学酸化処理が電解酸化処理であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の写真廃液の処理方法。
【0011】
本発明の特徴は、写真廃液中の鉄化合物を化学酸化処理に先立って不溶化して沈殿として固液分離して廃液から実質的に除去してしまうことにある。従来から写真廃液やその他の廃液を電解酸化する際には、電解の進行と共に分解効率が低下する現象は知られていたが、その原因は電解作用の結果、廃液中の有機化合物が電極不活性(高酸化電位)の高次酸化物(カルボン酸など)に変化するためであると理解されていたので、それ以上の検討はなされなかった。本発明者は、高次酸化物の分解可能性の追及を進める過程で、分解効率の経時低下には、高次酸化物による上記原因も存在するが、鉄化合物の酸化分解の結果生成する鉄含有沈澱が酸化反応を抑制する作用が顕著であることを発見し、鉄含有沈澱の生成の抑止手段の考案によって本発明を達成するに至った。
鉄化合物の除去方法としては、単純にpHを12以上にあげて鉄の水酸化物主体の不溶性沈澱とする方法が好ましい。銀含有廃液であれば、銀も同じに除去され、沈澱物は含銀物として銀回収することもできる。
また、近年の写真処理液はアンモニウム塩を多量に使用するので、廃液中にもアンモニウム塩が含まれて環境水の富栄養化の点で好ましくない状態にあるが、本発明の副次的かつ有利な態様として、上記鉄除去操作のためにpHを12以上にあげるとともに、廃液中に空気吹き込みを行なってアンモニアを気体として回収することもできる。
本発明の廃液処理方法における化学酸化処理には、いずれの化学酸化処理でも適用できるが、電解酸化処理がとくに好ましい。
【発明の効果】
【0012】
予め写真廃液が含有する鉄を実質的に除去してから酸化処理を施すことを特徴とする本発明の写真廃液の処理方法によって、写真廃液を下水道に係る一般排水基準を満たすレベルまで低減できる写真廃液の処理方法が得られる。
写真廃液が銀含有廃液の場合は、生成する鉄含有沈澱が含銀有価物である利点を有する。また、廃液中のアンミニウム化合物からアンモニアをストリッピングして回収することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をさらに具体的に詳述する。
[写真廃液]
本発明の実施の形態の説明に先だって、発明の対象である写真処理廃液について述べる。本明細書においては写真処理廃液以外の写真廃液について記載しないので、写真処理廃液を写真廃液と記すことにしている。写真廃液は、カラー写真或いはモノクローム写真の現像廃液の他、定着廃液または写真製版等写真工業で発生した多くの種類の廃液が含まれている。定着廃液は溶存している銀を回収した残液が処理の対象となる。通常これら種々の写真処理工程からの廃液は混合された状態で回収されて、処理される。
写真廃液を構成する現像廃液は、現像処理の各工程から排出された廃液であって、処理中に感光材料から溶出した例えばゼラチンや感光色素などの成分、処理中に生じた反応生成物、及び処理液処方に含まれて消費されなかった構成薬品(処理液処方の詳細は後述する)などを含んでいる廃液である。
【0014】
したがって、現像廃液には、現像主薬及びその酸化生成物、アルカリ化合物及び緩衝剤、亜硫酸塩やヒドロキシルアミン誘導体などから選択される補恒剤、アルカリハライドなどを主体としており、定着廃液は、チオ硫酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩及び/又は亜硫酸のアンモニウム塩及び/又はナトリウム塩、アルカリハライドなどを主体としており、漂白廃液は、ポリアミノポリカルボン酸鉄(III)錯塩などの漂白剤とそれに由来する反応生成物、アルカリハライド(再ハロゲン化剤)、緩衝塩などを主体としており、漂白定着廃液は、定着廃液と漂白廃液に含まれるものとほぼ同様の成分を主体としており、その他の各工程から排出される廃液もそれらの工程液の機能性化合物とそれに由来する化合物を含有している。したがって、処理される写真廃液の成分は、現像液由来の成分や漂白液・定着液・漂白定着液由来の成分などが感光材料溶出物や処理中の反応生成物と混在しており、例えば緩衝剤(炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、四ホウ酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩など)、発色現像主薬、亜硫酸塩、ヒドロキシルアミン塩、炭酸塩、硬水軟化剤、アルキレングリコール類、ベンジルアルコール類、界面活性剤(アルキルホスホン酸、アリールホスホン酸、脂肪酸カルボン酸、芳香族カルボン酸等)酸化剤(鉄(III)のEDTA錯塩、1,3−ジアミノ−プロパン四酢酸錯塩など)、ハロゲン化物(臭化アルカリ、臭化アンモニウムなど)、チオ硫酸塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩)、酢酸塩など多岐に亘る化学成分を含んでいて、この多様性が効果的な廃液処理手段を見出すことを困難にしている。
【0015】
写真廃液の組成は、処理の種類及びその処理の各工程からの廃液の混合比率によりかなり変動するが、おおよそCOD 30,000〜50,000 mg/l、BOD 5,000 〜15,000 mg/l、TOC(Total Organic Carbon) 10,000〜25,000 mg/l、ケルダール窒素 10,000 〜15,000 mg/l、トータル燐 100〜500mg/l の範囲である。COD:BOD:TOC の比率は概ね 4:1:1.5でCOD が高い特徴があり、またC:N:P の元素比率はほぼ 100:100:1(質量比)でN の含有率が高い特徴がある。
【0016】
[廃液処理工程]
(鉄などの除去)
本発明の写真廃液の処理方法は、予め写真廃液が含有する鉄を実質的に除去してから写真廃液を化学酸化して無害化することを特徴としている。
写真廃液が含有する鉄とは、写真廃液に含まれる各種の鉄化合物の鉄を指しており、写真廃液の項に上記したように、ポリアミノポリカルボン酸鉄(III)錯塩などの漂白液や漂白定着液の構成成分と写真処理過程で生成した上記構成成分の反応生成物が含まれる。反応生成物は上記鉄(III)錯塩の一部が還元された鉄(II)錯塩、鉄(III)錯塩の部分ヒドロキシ化錯塩、多核化鉄錯塩である。
【0017】
本発明においては、廃液処理の第一過程でこれらの鉄を実質的に除去するが、「実質的に除去する」とは後段の化学酸化処理に著しく悪影響しないレベルまで除去することを指しており、具体的には写真廃液が含有する鉄の少なくとも50%、好ましくは70%を除去することを指している。
【0018】
廃液が含有する鉄の除去方法としては、鉄を不溶化して液相から分離する方法であれば、如何なる方法でも本発明に適用できるが、好ましい方法は廃液をアルカリ性にして鉄塩を不溶化する方法である。不溶化した鉄を廃液から分離する方法としては、不溶化物を自然沈降させて分離する方法、不溶化物を濾過(遠心濾過を含む)させて分離する方法、不溶化物を凝集剤を用いて沈降促進させて分離する方法、不溶化物を凝集剤を用いて凝集濾過により分離する方法、不溶化物を凝集浮上させて分離する方法、分散状態の不溶化物を廃液から分離する方法などを選択できる。
多くの写真廃液は、写真処理過程で感光材料に由来する銀を水溶性銀塩の形で採り込んでいる。鉄の除去の過程では、銀塩も不溶化して鉄とともに廃液から分離される。したがって鉄含有沈澱物は含銀有価物として回収される。
【0019】
<不溶化>
廃液を不溶化するには、アルカリ不溶化が実際的であって好ましい。アルカリ不溶化の操作は、廃液にアルカリを添加してpHを11.5以上、好ましくは12以上、より好ましくは、12.5以上に調整して鉄を不溶化して液相から分離する操作である。
pHの調整には、通常のアルカリ剤が用いられる。例えば、炭酸アルカリ、苛性アルカリ、生石灰、消石灰が用いられる。具体的に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、生石灰、消石灰炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、ソーダ灰が挙げられるが、コストと処理後の廃液の排出後の環境条件によって選択される。生石灰や消石灰は取扱い性の点で劣るので顆粒化して使用してもよい。
廃液の種類によって、アルカリ不溶化したのち比較的速い速度で自然沈降する廃液、例えば漂白液や漂白定着液の廃液成分が多い廃液)、液相中に不溶化物が懸濁状態で分散する廃液(リンス液のような希薄成分が多い廃液、定着液や発色現像液の廃液成分が多い廃液)があり、多くの場合沈澱物と分散物とが共存する廃液となる。
したがって、凝集剤を用いて微細懸濁物を粗大化することが分離手段の選択範囲を広げる上にも、分離を容易にするためにも好ましい。
【0020】
<凝集分離>
アルカリ剤を添加してpH調整した初期の廃液では、鉄は不溶化して微細分散しており、廃液の性状に依存して懸濁状態のままであるか、徐々に又は急速に凝集沈降するか、凝集浮上する。凝集剤を加えることによって不溶化の初期に生成した微細懸濁物の凝集粗大化(フロック形成)が進行し、沈降又は浮上が促進され、分離効率も向上する。
【0021】
凝集剤は公知の任意のものを用いることができる。無機凝集剤としては、例えば硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化鉄(III),硫酸鉄(III),などを用いることができる。顆粒化の方法については、特開平11−319848号公報に記載されている。また、顆粒はディーシーアールシステム(株)より市販されている。硫酸バンドとポリ塩化アルミニウムを混合錠剤化して取扱い性を改善した凝集剤は、特開平5−92104号公報に記載されている。
さらに、フロックを形成させる凝集助剤として活性珪酸やアルギン酸ナトリウムを用いることもできる。これらはまた、単独で凝集剤として用いることも出来る。
【0022】
写真廃液の固液分離には、有機高分子凝集剤も用いることができる。好ましい有機高分子凝集剤としては、ポリアクリルアミド(分子量数百万〜千万)、ポリエチレンオキシド(分子量数百万)、尿素−ホルマリン樹脂(分子量数千)、ポリアクリル酸ナトリウム(分子量数万〜数百万)、部分分解したポリアクリルアミド(分子量数万〜数百万)、ポリアクリルアミドーアクリル酸共重合体(分子量数万〜数百万)、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド(分子量数万〜数百万)、ポリアミノアルキルメタクリレート(分子量数万〜数百万)、ポリエチレンイミン(分子量数千〜数百万)、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム(分子量数万〜数百万)、キトサン(分子量数万)などが挙げられる。
【0023】
凝集剤の使用法の更なる詳細は、日本化学会編;化学便覧応用編783〜84頁及び1185〜186頁に記載されている。
本発明において凝集材の添加量は、無機系のものを用いる場合廃液1リットル当り0.001g以上50g以下が好ましく0.01g以上5g以下がより好ましい。また、有機系のものを用いる場合廃液1リットル当り0.0001g以上10g以下が好ましく0.001g以上1g以下が特に好ましい。
【0024】
<分離>
凝集物(沈澱物、分散物又は凝集浮上物)の廃液からの分離には、公知のいかなる固液分離手段をも用い得る。具体的には濾材を用いない方法として、自然沈降、遠心分離、液体サイクロンによる方法、濾材を用いる方法として自然沈降後濾過も含む常圧濾過、加圧または減圧濾過、遠心濾過等をあげることが出来るが、
本発明には特に遠心濾過を用いる方法が好ましい。
本発明に好ましい固液分離手段の一つは遠心分離である。化学酸化処理した写真廃液中の懸濁物は、硫化銀、ハロゲン化銀、種々の原子価と水和度の鉄酸化物混合体など処理液及び感光材料由来の固体粒子であり、生成源の多様性ゆえに粒子サイズ分布が広いので、遠心沈降速度の粒子間差も大きいが、凝集剤を用いることで濾材のない遠心分離はもとより濾材を用いる遠心濾過においても濾過時間の増大や目詰まりを回避できるので、沈殿の状況に合わせて遠心条件を容易に選択することができる。また、目詰まりのリスクが無いために稼動条件の選択範囲も広がって、高速沈降・短時間濾過が可能となる。すなわち、凝集剤を用いることでより高い遠心加速度の値を採用することができて高い固液分離能がしかも短い操作時間で得られる。好ましい遠心加速度の値は10〜2000Gであり、より好ましくは100〜1500Gである。
本発明に用いる遠心分離装置は、市販のものを用いることができ、回分式装置でも連続式装置でも使用できる。市販の竪型遠心脱水機、竪型遠心脱水機、Sharpless型遠心脱水機、De Laval型遠心脱水機、または濾材を用いた上部または底部排出型、スクリュー排出型などの遠心濾過機を用いることができる。
【0025】
別の固液分離手段は、フロック形成させて懸濁微粒子を消滅させ、粗大化粒子と液相の比重差を利用した浮上又は沈降によって処要時間の短縮と分離能の向上の両面で有利となる。
【0026】
(アンモニアの除去)
本発明において鉄含有沈殿を精製させて廃液を除去する際に写真廃液中のアンモニアをも除去する態様も処理済み排水の全窒素負荷を軽減できるので好ましい。廃液からの窒素除去方法としてはストリッピングが簡易である。ストリッピングするためのストリッピングカラムを設けてもよいが、鉄含有沈殿生成槽に送気管を挿入して鉄除去と同時にアンモニアをストッリピングするのが簡便である。ストリッピングカラムに処理水を導びき入れ空気をカラム底部に設けたガラスボールフィルター(気孔径40〜50μm)を通して送気する形式が挙げられる。同様に沈殿槽内に先端に散気用フィルター付きの送気管を挿入して空気を送り込んでもよい。高pH条件であることは鉄含有沈殿の生成に好都合であると共にアンモニアのストリッピング効率も高められる。ストリッピングには空気が用いられるが、水蒸気であってもよい。吹き込みは一般に用いられている散気管が用いられる。
【0027】
アンモニアのストリッピングは、鉄含有沈殿生成槽又はストリッピングカラム中で、常温で行ってもよく、また熱源が容易にえられるなら加熱や吹き込み水蒸気等によって更に加熱されることが好ましい。ストリッピング温度は、常温以上で行われるが、好ましくは常温よりも高い温度が用いられる。その温度は、対象となる写真廃液の中のアンモニアの濃度によって、また作業環境によって差異はあるが、好ましくは常温〜100℃であり、より好ましくは40〜90℃、とくに好ましくは50〜90℃である。
【0028】
本工程でストリッピングカラムを用いる場合、好ましいカラムは、棚段塔や充填塔であるが、アンモニアガスが効率よくストリッピングされるカラムであれば特に限定されない。又、カラムの操作条件も特に限定されることなくストリッピング及び酸化に適した条件が選択される。
ストリッピングされたアンモニアは、アンモニアガスとして回収され、再利用されるのが資源利用上好ましい。しかしながら、気相酸化によって窒素ガスと水に酸化分解されでもよく、その際はアンモニア分解・酸化触媒を存在させることが好ましい。酸化触媒としては、アンモニアの酸化に使用される従来公知の酸化触媒が全て使用できて、例えば、白金、ロジウム、酸化鉄等が挙げられる。また、酸化チタンを主成分とする光触媒、とくにヒドロキシアパタイトー酸化チタンのような複合型チタン触媒も好ましく用いられる。
【0029】
ストリッピングされたアンモニアの排出ガスは、必要により熱交換を行い、さらに亜硫酸塩水溶液などのアンモニア捕集液で処理してから排出するのがよい。
また、排気された使用済み空気を循環・再使用してもよい。
【0030】
(化学酸化処理)
本発明の写真廃液の処理方法は、化学酸化された写真廃液であればいずれにも適用することができる。化学酸化法は化学的手段で写真廃液を酸化する写真廃液処理方法であり、この方法には、オゾン酸化法、過酸化水素酸化法、その他過硫酸塩、次亞塩素酸塩、塩素などの化学酸化剤による酸化法、電解酸化法等がある。その他活性光の照射を組み合わせたオゾン酸化法や過酸化水素酸化法、あるいは過酸化水素−第一鉄塩法(フェントン法)など過酸化水素に触媒を組み合わせた方法も化学酸化法に挙げられる。また、紫外線に代表される活性光の照射のもとに化学酸化を行なう化学的・光化学的組合せ酸化処理も化学酸化処理に含まれる。
本発明に適用される化学酸化処理としては、物理化学的酸化処理が好ましい。物理化学的酸化処理は、化学酸化処理の中で、酸化剤が処理済み廃液中に水、酸素、水素、炭酸ガス又は炭酸イオン以外の反応生成物として残ることのない酸化処理を指す。物理化学的酸化処理は、処理済み排水中に副次的環境懸念物質が生じていない点で好ましい。具体的には、電解酸化法、オゾン酸化法、過酸化水素酸化法、過炭酸酸化法、並びにこれらに光化学的酸化促進手段を併用する処理をも含んでいる。
本発明においては、いずれの物理化学的酸化処理でも好ましいが、とくに好ましい本発明の酸化手段は電解酸化処理、酸素、オゾン、過酸化水素から選択される酸化剤による酸化処理並びにこれらに紫外線などの活性光照射を組み合わせた化学的・光化学的組合せ処理である。
特に好ましい処理は、電解酸化処理である。
【0031】
<電解酸化処理>
電解酸化法について述べる。写真廃液は高い腐食性をもっているので、電解槽はこれらの成分に耐える耐食性材料である白金、フェライト、ステンレス、酸化皮膜が速やかに形成される鉄、硬質プラスチック等を選択する必要がある。
【0032】
陽極は、酸化され難い耐蝕材質である白金、ステンレス、カーボン(とくにグラファイトや基板上に層形成されたダイヤモンド)、チタン、酸化皮膜が速やかに形成される鉄等が好ましい。中でも好ましい陽極は、いわゆるダイヤモンド電極即ち基板上にダイヤモンド構造の炭素層を形成させた電極である。この電極は、水の陽極酸化との競合が少ないので電解効率が優れ、かつ高次酸化レベルに酸化が進行する利点を有する。ダイヤモンド構造の層に良好な導電性を付与するためには原子価の異なる元素を微量添加(ドーピング)することが必要で、例えばリンや硼素を1〜100000ppm 、好ましくは100 〜10000 ppm 程度含有させる。この添加物の原料化合物としては毒性の少ない酸化硼素や五酸化二リンなどが好ましい。ドーピングの方法としては、熱フィラメントCVD(HFCVD)法(Klages, Appl.Phys. A56巻 (1993) 513〜526頁 を参照)や特開平8-225395号公報段落0007に記載されている真空チャンバー内での化学蒸着法が知られている。ダイヤモンド電極の詳細は、特登第3442888号公報に記載されている。
陰極は、電解酸化反応には直接関与しないが、廃液に対して不活性な材質である白金、ステンレス、チタン、カーボン等が好ましい。
例えば、陽極にはステンレス電極、ダイヤモンド電極、酸化皮膜が速やかに形成される鉄電極を、陰極にはステンレス、チタンなどの電極が好ましい。また、反応液中には多量の懸濁成分が含まれているため、電極への懸濁物の沈澱を防止して均一な酸化反応を起こさせ、電流効率を高めるためには回転電極を用いることも好ましい。
【0033】
本発明においては、電解槽の構造は公知の各種の構成で用いることができる。すなわち、一対又は複数対の陰極と陽極が間に隔膜を設けないで直接相対して槽内配置された単一室セルであってもよく、又は陽極と陰極が膜で仕切られた分割セルであってもよい。最も簡単な実施態様は、単一室セルである。単一室セルでは、陽極と陰極を隔てるバリヤーがないので溶質は陽極と陰極間を移動するのに制限を受けない。このような単一室方式は、一般的には陽極で酸化された成分がその後陰極で還元されるという可能性を持っているが、写真廃液成分の電気的酸化分解反応の場合は、酸化種の大半は非可逆的な酸化を受けるのでそのリスクの可能性は少ない。
【0034】
2室セルにおいては、イオン交換膜、ミクロ濾過膜、半透膜、多孔性膜例えば多孔性セラミックスなどの通電性隔膜を陽極と陰極の間に挿入する。イオン交換膜はあるタイプのイオン種のみを陽極液から陰極液へ又はその逆方向へ通過させることができる。膜の機能は、陽極液と陰極液が混合することなく電気的中性を保持することである。また、適当な膜を用いれば、その膜を通過して移動するイオンの性質を制御することができる。例えば、陰極室でチオ硫酸イオンや亜硫酸イオンが還元されて生成した硫黄イオンにとって硫化銀が生成して沈殿し、陰極室内で捕集する本発明の好ましい態様が可能である。なかでもイオン交換膜、半透膜、多孔性セラミックスなどが両極を分ける隔膜として好ましい。
【0035】
電解酸化処理の温度は常温或いはこれよりやや高い温度が好ましく、また、電圧は5.0 〜8.0V、電流密度は、0.5〜100 A/dmが好ましく、より好ましくは5 〜50 A/dmがよい。
また、電解は回分法及び連続法の何れでもよい。回分式の好ましい電圧印加方式としては、電解初期(COD低減目標値の2〜10%相当の間)は4〜6A/dmの比較的低電流密度を適用し、電解の進行と共に電流密度を高めてCOD低減目標値の10%相当程度に電解した後は、定常的な電流密度、例えば12〜20A/dmの電流密度を適用することによって電気分解を続けるのも好ましい態様である。
【0036】
写真廃液には、写真処理液由来の界面活性剤が含まれているが、電解酸化中の発泡を抑制するために、さらにノニオン性界面活性剤のような消泡剤を使用することができる。例えば、BASF社によって上市されているPluronic(登録商標)シリーズからのもの、好ましくはPluronic−31R1Polyol(登録商標)(ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとのブロックコポリマーのメタノール溶液)を用いてもよい。しかし、消泡剤を使用する場合、泡の形成を避けるために必要な最低量で使用する。例えば、Pluronic−31R1Polyol(登録商標)消泡剤ではその添加量は、0.15mL/処理廃液L以下でよい。
【0037】
本発明の廃水処理方法における電解酸化処理では、高速度攪拌の電解酸化処理装置を用いると効果が増加する。本発明に適用される高速度電解酸化処理装置には、振動板を備えた攪拌装置を用いて電解液を振動板の振動のよって攪拌させて電解酸化を行なう処理方式も好ましく、振動周波数を適当に選択することによって、極めて高い電解酸化速度とCOD低減効果が得られる。
【0038】
本発明に好ましく用いられる攪拌装置の例としては、振動板を電動機と結合させて電動機の回転を振動板の振動に変換させ、その振動によって電解液に攪拌作用を及ぼさせる方式のものが挙げられる。その振動周波数は、10cycle/sec以上100cycle/sec以下であり、好ましくは15cycle/sec以上80cycle/sec以下であり、より好ましくは20cycle/sec以上60cycle/sec以下である。
【0039】
また、前記の好ましい攪拌装置は、少なくとも1個の振動板を有するものであるが、好ましくは複数個の振動板を配列させた構成である。複数個の振動板からなる攪拌装置の場合は、振動板の配列の形態は、好ましくは振動板の板面が一平面内になるように一列に並べた形態、振動板を板面を並行にして板面方向に直角方向に重ね合わせた多段式の形態、あるいは振動板の板面同士は並行であるが、板面が重ね方向と斜めになるように重ね合わせた斜め多段式形態のいずれであってもよいが、いずれの場合も各振動板の間に液流が確保されるように振動板同士は互いに一定間隔を置いて配列される。その間隔は、1〜200mmであり、好ましくは2〜150mm、より好ましくは、3〜100mmである。
【0040】
また、振動板の形状は矩形、楕円形、梯形、正方形、矩形又は正方形の各稜に丸みを持たせた形のいずれでもよいが、好ましくは矩形又はその稜に丸みを与えた形である。振動板のサイズは、電解酸化槽の大きさに応じて適宜選択することができる。目安としては振動板の片面の面積が電解槽断面積の1/1000〜1/5であり、好ましくは1/50〜1/5である。その厚みは振動板が金属板の場合はその長辺(長径)の1/100〜1/5であり、好ましくは1/10〜1/20であり、振動板が樹脂板の場合は、1/50〜1/5であり、好ましくは1/20〜1/10である。
【0041】
(化学酸化処理)
本発明の方法による写真処理廃液の化学酸化処理について述べる。
<化学酸化剤及び処理>
写真廃液は、pHなどの調整後又は調整することなく直接に化学酸化処理、すなわち化学酸化剤(酸化剤と呼ぶ)による酸化処理が施される。本発明に適用される酸化剤は、写真現像液を酸化し得る酸化性化合物であればいずれでもよいが、好ましい酸化剤と酸化処理は、酸化剤としてオゾン、過酸化水素又は過硫酸塩を使用する酸化処理、塩素を使用する酸化処理、次亜塩素酸又はその塩を使用する酸化処理が挙げられる。また、必要に応じて酸化過程で加熱や紫外線照射などを行なったり、或いはその他の酸化剤を併用することができる。本明細書における化学酸化処理とは、酸化剤が写真廃液中の還元性成分や有機成分をある程度分解酸化できる処理を指す。好ましい化学酸化処理は、オゾン酸化処理、過酸化水素酸化処理、及びこれらと紫外線照射の組み合わせ処理並びに過硫酸処理である。
【0042】
上記化学酸化は、主にヒドロキシラジカル、パーヒドロキシラジカル、活性酸素基などの酸化作様によって進行すると考えられ、廃液に化学酸化を施すに当たって、予めこれらの酸化性基の作用に好都合なpH領域に調整することが酸化処理を効率的に進めるのに好都合である。好ましいpH領域は、8〜12である。
【0043】
<オゾン酸化>
オゾン曝気処理について述べる。
オゾン酸化法は、オゾナイザー(オゾン発生装置)から導かれるオゾン含有空気を写真廃液に注入して行われる。注入方法の一態様としては、紫外光を効率良く透過する容器に処理水を導き入れオゾンを容器底部に設けた例えばガラスボールフィルター(気孔径40〜50μm)又はアトマイザーを通して送気する形式が挙げられる。
【0044】
オゾンを発生させるには無声放電を行わせたり、コロナ放電を利用したりあるいは電解反応を利用するなどの方法が採られているが、本発明に用いるオゾン発生装置は、いずれであっても特に制約はなく通常市販されているオゾン発生装置から選択して使用することができる。その中では無声放電を利用する方法が好ましい。無声放電は2つの電極の間に誘電体を介して交流高電圧をかけたとき、その間隙に起る放電現象を指すもので、放電の際にその空間に介在する酸素の一部がオゾンに変化する。誘電体は普通ガラスを用い、空間々隙は数mm、電圧は交流50〜500サイクル数千ボルトから場合によっては2万ボルトぐらいまでが使われる。
【0045】
オゾン発生装置は、平板型の相対する電極群からなるものや、筒状のオゾン発生管を縦型又は横型に配置したものなどがあるが、本発明にはそのいずれも使用できる。また原料は酸素、空気いずれでもよいが、本発明においては空気を使用する方が安価で好ましい。
【0046】
オゾン含有空気の注入とともに紫外光による照射処理を行なうことも好ましい。オゾン送気と同時に紫外光を照射するとオゾンが活性化されて酸化効率が向上する。紫外光は容器底部または内部または周囲に設置した水銀ランプ等の光源より照射される。水銀ランプはランプ内部の水銀蒸気圧により低圧、高圧、超高圧に分類されていてそれぞれ遠紫外の輝線,近遠紫外の輝線と近紫外線値と可視域連続スペクトル,紫外連続スペクトルを発する。本発明の目的にはどの型のものでも使用できるが、オゾンガスの励起波長領域が遠紫外域(UV−C)で強いので低圧水銀灯と組み合せるのが好ましい。別の好ましい組合せとしては、遠紫外域の水銀の輝線で励起されて300〜400nm波長域の蛍光を発するタイプの紫外線蛍光管(ブラックライトと呼ばれる)とその蛍光を吸収して光触媒作用を営む酸化チタンとを組み合せてオゾン酸化を行なわせる光照射・光触媒・オゾン酸化法も好ましい。いずれにしても、酸化剤はオゾンであり、オゾンが高い自由エネルギーを有しながら反応が遅いので反応促進のための触媒として遠紫外域(UV−C)の光照射や酸化チタンとブラックライト光照射が用いられる。
照射光の電力量は、COD値と廃液成分の分解性によって異なるが、目安として廃液量100kgに対して5WHrから600WHrが好ましく、中でも20WHrから500WHrがより好ましい。
【0047】
オゾンガス酸化により分解される適当な量は、廃液中のCOD の10%以上,好ましくはCOD の15〜90%,多くは20〜80%が低減される程度が適切である。
通気したオゾン含有ガスは、そのまま排気してもよいが、循環使用して利用率を高めるのが好ましい。
オゾン酸化処理装置からの排気ガスは、加熱分解又は亜硫酸塩水溶液などのオゾン捕集液で処理してから排出する。
【0048】
上記のオゾンおよび紫外光による処理については水処理技術第32巻1号3頁(1991)、工業用水第349号15頁(1987)、ACS Symposium Ser.(Am. Chem. Soc.) 第259号195頁(1984)などに記載されている。
また、特開平7-47347号合法記載の廃液のオゾン酸化法及び特開平5-968295号公報に記載の紫外線照射しながらオゾン曝気を行なう廃水酸化方法を利用することもできる。
【0049】
<過酸化水素酸化>
オゾンに代えて過酸化水素を用いて化学酸化を行なうこともできる。過酸化水素は、3%、10%あるいは28%水溶液として廃液中に注入される。過酸化水素濃度が35,50又は60%水溶液の製品形態のものをそのまま使用することも可能であるが、安全上前記の濃度に希釈して使用するのが好ましい。過酸化水素による化学酸化の場合も、好ましい酸化度は、オゾンの場合について前記した酸化率と同じである。
過酸化水素はオゾンよりも電位的には酸化活性が低いが、この場合も光照射や光照射と光触媒(酸化チタン)との組み合せによる接触酸化促進が効果的であり、むしろその促進効果はオゾンに対する促進効果よりも大きい。組み合せられる紫外線光源、光触媒もオゾンについて前記したことが当てはまる。
上記の過酸化水素による処理については特開平9−234475号公報などに記載されている技術も利用できる。
【0050】
過酸化水素を用いる写真廃液の一形態として、本発明ではフェントン酸化法を用いることもできる。この酸化法は、過酸化水素の酸化力を利用する方法であるが、過酸化水素は前記したように自由エネルギーは大きいにも拘わらず電子移行が遅いために酸化速度が制約されるので、触媒として第一鉄塩を併用する酸化方法である。この触媒作用によって、生分解性に乏しい高COD物質も効果的に分解される点に特徴がある。
フェントン法では、具体的には、過酸化水素濃度が0.5〜10モル/L,硫酸第一鉄100〜200ミリモル/L,pH2〜3、初期温度10〜30℃で行われる。
フェントン法を利用した廃水処理方法の具体例には、例えば特開平3−262594号公報をあげることができる。また、過酸化水素を酸化剤とする同様の接触酸化方法には、特開平4−235786号公報に記載の鉄粉を触媒に用いた廃水処理方法をあげることができる。
また、過酸化水素を用いる酸化処理に使用できるさらに別の触媒は、特開平9−234475号公報に記載されている。
【0051】
好ましい化学酸化処理法としては、上記の化学的酸化処理のほかに、過硫酸、塩素、次亞塩素酸による酸化処理も挙げられる。
次亞塩素酸を用いる場合は、ナトリウム塩、アンモニウム塩、いわゆる晒し粉(次亞塩素酸カルシウム・塩化カルシウム・水和物)を用いることが好ましい。本明細書では、塩の形のものも含めて次亜塩素酸と呼んでいる。
これらはいずれも市販品を入手できる。
これらの酸化剤を用いて化学酸化処理を行う場合の温度は、室温又は成り行きでよく、また30〜90℃の適当な範囲に温度調節して行なってもよい。とくに、過硫酸塩による酸化の場合は、加熱することによって処理が促進される。
一方,廃液の有機物濃度を短時間に低減させるためには、酸化剤の添加濃度を高める必要があるが、高濃度酸化の場合には処理された写真廃液の酸化剤が残留し易く好ましくない。その場合は、高濃度酸化剤のもとでの酸化の後、十分に長い攪拌放置時間を取って反応時間を十分に長く取ることが好ましい。
上記の塩素および/又は次亞塩素酸による処理については特開昭53−41055号公報などに記載されている技術も利用できる。
また、過硫酸酸化処理については特開昭61−230144号公報などに記載されている技術も利用できる。
【0052】
(銀除去)
写真廃液が銀を含有している場合、前記したように鉄含有沈殿を生成させる過程で、銀・鉄含有沈殿として有価物として銀回収に供する方法は、銀の除去・回収のために付加的な操作を行う必要がない点で有利である。しかしながら、その一方、得られた銀・鉄含有沈殿の含銀有価物としての品位は劣るので、写真廃液中にチオ硫酸銀錯塩などの形で含有されている感光材料由来の銀を廃液処理に先だって事前に回収することが望ましい場合もある。その場合の銀回収方法は、写真廃液の銀回収に通常行なわれる方法のいずれでも適用できる。
好ましい銀回収方法としては、金属置換法と電解法を挙げることができる。金属置換法は、鉄置換法とアルミニウム置換法が用いられるが、鉄置換法がより好ましく、とくにスチールウールを用いる銀回収方法が市販の銀回収装置も普及しており、簡易であり、かつ銀回収業者との回収ネットワークも確立しているので好ましい。
電解回収方法も写真廃液用の電解銀回収装置が市販されている。電解後の廃液は再利用が可能であり、回収銀の品位も高いという利点があるので、定着液や漂白定着液の再生使用には好都合であるが、本発明の目的である廃液の排出可能化処理にはスチールウールを用いる金属置換法が簡易性の点で最も好ましい。
【0053】
[写真処理液]
写真処理液は、カラー感光材料と黒白感光材料の処理に用いられるが、処理されるカラー感光材料としてはカラーペーパー、カラー反転ペーパー、撮影用カラーネガフィルム、カラー反転フィルム、映画用ネガもしくはポジフィルム、直接ポジカラー感光材料などを挙げることができ、黒白感光材料としては、Xレイフィルム、印刷用感光材料、マイクロフィルム、撮影用黒白フィルムなどを挙げることができる。
【0054】
本発明に適用される写真処理廃液は、写真処理液成分を主成分としているが、写真処理廃液には、写真処理液に添加されている素材のほか写真処理過程で生成した現像主薬の酸化体、硫酸塩、ハライドなどの反応生成物や、感光材料から溶け出した微量のゼラチン、感光色素、界面活性剤などの成分が含まれている。
【0055】
写真処理液にはカラー処理液、黒白処理液、製版作業に伴う減力液、現像処理タンク洗浄液などがあり、黒白現像液、カラー現像液、定着液、漂白液、漂白定着液、画像安定化液などが挙げられる。
【0056】
カラー現像液は、通常、芳香族第一級アミンカラー現像主薬を主成分として含有する。それは主にp−フェニレンジアミン誘導体であり、代表例はN,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン、2−アミノ−5−ジエチルアミノトルエン、2−メチル−4−〔N−エチル−N−(β−ヒドロキシエチル)アミノ〕アニリン、N−エチル−N−(β−メタンスルホンアミドエチル)−3−メチル−4−アミノアニリンである。また、これらのp−フェニレンジアミン誘導体は硫酸塩、塩酸塩、亜硫酸塩、p−トルエンスルホン酸塩などの塩である。該芳香族第一級アミン現像主薬の含有量は現像液1リットル当り約0.5g〜約10gの範囲である。
【0057】
また黒白現像液中には、1−フェニル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−4−ヒドロキシメチル−4−メチル−3−ピラゾリドン、N−メチル−p−アミノフェノール及びその硫酸塩、ヒドロキノン及びそのスルホン酸塩などが含まれている。
【0058】
カラー及び黒白現像液には保恒剤として、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、メタ亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸カリウム等の亜硫酸塩や、カルボニル亜硫酸付加物を含有するのが普通で、これらの含有量は現像液1リットル当たりカラー現像液では5g以下、多くは3g以下(無添加も含む)、黒白現像液では0g〜50gである。
【0059】
カラー及び黒白現像液中には、保恒剤として種々のヒドロキシルアミン類を含んでいる。ヒドロキシルアミン類は置換又は無置換いずれも用いられる。置換体としてはヒドロキシアルミン類の窒素原子が低級アルキル基によって置換されているもの、とくに2個のアルキル基(例えば炭素数1〜3)によって置換されたN,N−ジアルキル置換ヒドロキシルアミン類が挙げられる。またN,N−ジアルキル置換ヒドロキシルアミンとトリエタノールアミンなどのアルカノールアミンの組合せも用いられる。ヒドロキシルアミン類の含有量は現像液1リットル当り0〜5gである。
【0060】
カラー及び黒白現像液は、pH9〜12である。上記pHを保持するためには、各種緩衝剤が用いられる。緩衝剤としては、炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、四ホウ酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、グリシン塩、N,N−ジメチルグリシン塩、ロイシン塩、ノルロイシン塩、グアニン塩、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン塩、アラニン塩、アミノ酪酸塩、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール塩、バリン塩、プロリン塩、トリスヒドロシアミノメタン塩、リシン塩などを用いることができる。特に炭酸塩、リン酸塩、四ホウ酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩は、溶解性やpH9.0以上の高pH領域での緩衝能に優れ、現像液に添加しても写真性能面への悪影響(カブリなど)がなく、安価であるといった利点を有し、これらの緩衝剤が多く用いられる。該緩衝剤の現像液への添加量は通常現像液1リットル当たり0.1モル〜1モルである。
【0061】
その他、現像液中にはカルシウムやマグネシウムの沈澱防止剤として、或いは現像液の安定性向上のために各種キレート剤が添加される。その代表例としてニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ−N,N,N−トリメリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン−N,N,N′,N′−テトラメチレンホスホン酸、1,3−ジアミノ−2−プロパノール四酢酸、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノプロパン四酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸等を挙げることができる。これらのキレート剤は必要に応じて2種以上併用されることもある。
【0062】
現像液は、各種の現像促進剤を含有する。現像促進剤としては、チオエーテル系化合物、p−フェニレンジアミン系化合物、4級アンモニウム塩類、p−アミノフェノール類、アミン系化合物、ポリアルキレンオキサイド、1−フェニル−3−ピラゾリドン類、ヒドラジン類、メソイオン型化合物、チオン型化合物、イミダゾール類等である。
【0063】
多くのカラーペーパー用カラー現像液は、上記のカラー現像主薬、亜硫酸塩、ヒドロキシルアミン塩、炭酸塩、硬水軟化剤などと共にシルキレングリコール類やベンジルアルコール類を含んでいる。一方カラーネガ用現像液、カラーポジ用現像液、一部のカラーペーパー用現像液は、これらのアルコール類を含んでいない。
【0064】
また、現像液中には、カブリ防止の目的で、臭素イオンを含有することが多いが、塩化銀を主体とする感光材料に対しては臭素イオンを含まない現像液を用いることもある。その他、無機カブリ防止剤としてNaClやKClなどの塩素イオンを与える化合物を含有していることがある。また各種有機カブリ防止剤を含有していていることも多い。有機カブリ防止剤としては、例えば、アデニン類、ベンズイミダゾール類、ベンズトリアゾール類及びテトラゾール類を含有していてせよい。これらのカブリ防止剤の含有量は現像液1リットル当り0.010g〜2gである。これらのカブリ防止剤は処理中に感光材料中から溶出し、現像液中に蓄積するものも含まれる。特に本発明において上記したような臭素イオンや塩素イオン等の総ハロゲンイオン濃度が混合液1リットル当たり1ミリモル以上であるような廃液においても有効に処理することができる。特に臭素イオン濃度が混合液1リットル当たり1ミリモル以上の場合に有効である。
【0065】
また、現像液中には、アルキルホスホン酸、アリールホスホン酸、脂肪酸カルボン酸、芳香族カルボン酸等の各種界面活性剤を含有している。
【0066】
黒白写真処理においては、現像処理の後に定着処理が行なわれる。カラー写真処理においては、現像処理と定着処理の間に通常漂白処理が行なわれ、漂白処理は定着処理と同時に漂白定着(ブリックス)で行なわれることもある。漂白液には、酸化剤として鉄(III) 又はCo(III) のEDTA、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロトリ酢酸、1,3−ジアミノ−プロパン四酢酸塩、ホスホノカルボン酸塩そのほか過硫酸塩、キノン類などが含まれている。そのほか、臭化アルカリ、臭化アンモニウムなどの再ハロゲン化剤、硼酸塩類、炭酸塩類、硝酸塩類を適宜含有する場合もある。定着液や漂白定着液には通常チオ硫酸塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩)、酢酸塩、ホウ酸塩、アンモニウム又はカリ明ばん亜硫酸塩などを含有していている。
【0067】
ハロゲン化銀写真感光材料の処理においては、定着処理あるいは漂白定着処理行なった後、水洗及び/又は安定処理を行なうことが一般的である。水洗処理においては、その処理槽にバクテリアが繁殖し、生成した浮遊物が感光材料に付着する等の問題が生じることがある。このような問題の解決策として、水洗水に特開昭61−131632号に記載のカルシウムイオン、マグネシウムイオンを低減させる方法を用いることができる。また、特開昭57−8542号に記載のイソチアゾロン化合物やサイアベンダゾール類、塩素化イソシアヌール酸ナトリウム等の塩素系殺菌剤、その他ベンゾトリアゾール等、堀口博著「防菌防黴剤の化学」、衛生技術会編「微生物の滅菌、殺菌、防黴技術」、日本防菌防黴学会編「防菌防黴剤事典」に記載の殺菌剤を用いることもある。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明の範囲をなんら限定するものではない。
(廃液の調製)
銀回収系廃液(カラー写真処理CN−16 の定着液、CN−16Qの漂白液と定着液の混合液、CP−20の漂白定着液、CP−23の漂白定着液、および水を各々4、1、3、3、3の体積比で混合した後銀回収処理を施したもの)と現像液系廃液(カラー写真処理CN−16、CN−16Q、CP−20、CP−23各々の現像液および水を各々4、1、2、3、3の体積比で混合したもの)とを体積比で1対1で混合した。このように調製された廃液のpHは7.5であった。この液のCODは42000mg/L、全窒素濃度は8800mg/Lであり、沈殿物は目視では確認できなかった。上記した各液CN−16、CN−16Q、CP−20、CP−23は、いずれも富士写真フイルム(株)製の処理液の商品名である。
調整した廃液は5等分され、以下の処理を施した。
【0069】
(電解処理)
本実施例においては以下の電解処理を行った。
純粋な白金でコーティングした金属チタン陽極((株)SHOWA製)と、交互に積層した金属チタン陰極対を装備した小型電解槽に上記写真廃液1Lを満たした。上記調製した写真廃液を、2L/分の速度で電解装置内を循環させた。電流密度は3.5A/dm2 であった。電解酸化は定電流電解方式で実施し、電流の強さを10Aに設定した。温度を25℃に維持して連続で24時間運転した。
【0070】
(沈殿物除去)
5つの試料に対し、以下の3種類の方法のいずれかを用いた。
・ 電解処理が終了した後、直径50mm、ポアサイズ4.5μmのポリプロピレンフィルターを用い、アスピレーターで5kPaに減圧し吸引濾過した。
・ 電解処理時の処理液循環系にポアサイズ4.5μmのポリプロピレンフィルター、ミクロピュアアMPX(ロキテクノ製)を導入し、電解処理中に濾過による沈殿物除去を行った。
・ 電解処理前に48%水酸化ナトリウム溶液でpHを12に調整し、生じた沈殿物を(1)同様に濾過した。
(アンモニア除去)
上記沈殿物除去法(3)を施した試料液の一つに、液温を40℃に設定して2個のボールフィルター(孔径グレード2G、25mmφ、木下理化工業製)を用いて0.5L/minの通気速度でエアー曝気を6時間行った。
【0071】
(処理澄み廃液の環境特性試験)
5試料のそれぞれの処理後液の、化学的酸素消費量(COD)、全窒素量(T−N)、を測定して測定結果を、全試料に施した処理の一覧と共に表1に示した。測定方法は、JIS法(JISK0101工業排水試験方法)によった。
結果を表1に示す。表1において、試料1〜4についての上記の試験条件を○×で記載したものであり、○は実施したことを、×は行わなかったことを意味している。
【0072】
【表1】

【0073】
試料No1では、電解処理後に多量の沈殿物の発生が確認された。これを濾過することにより濁のない液は得られたが、表1の結果の通り化学的酸素消費量、全窒素量とも残存量が多い。これに対して、途中にフィルターを設けて濾過を行いながら電解処理を行った試料2は、特に化学的酸素消費量を低減する効果が見られたが、不十分である。一方、本発明の、予め銀、鉄を沈殿させ除去した試料3,4では24時間の電解時間であっても十分な化学的酸素消費量の低減効果が見られた。特にエアー曝気によるアンモニア除去を併用した試料4では全窒素量低減効果が見られるばかりでなく、化学的酸素消費量についてもさらに大きな低減効果が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
写真廃液を化学酸化して無害化する廃液処理方法において、予め写真廃液が含有する鉄を実質的に除去してから該化学酸化処理を施すことを特徴とする写真廃液の処理方法。
【請求項2】
予め写真廃液が含有する鉄と銀とを実質的に除去してから該化学酸化処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の写真廃液の処理方法。
【請求項3】
写真廃液のpHを12以上に調整し、生ずる鉄含有不溶解物を該廃液から分離・除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の写真廃液の処理方法。
【請求項4】
写真廃液のpHを12以上に調整したのち、該廃液に空気を吹き込んで廃液中のアンモニアをストリッピングして実質的に除去することを特徴とする請求項3に記載の写真廃液の処理方法。
【請求項5】
化学酸化処理が電解酸化処理であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の写真廃液の処理方法。

【公開番号】特開2006−98445(P2006−98445A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281097(P2004−281097)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】