説明

写真廃液処理方法および写真廃液処理装置

【課題】 本発明の課題は、環境汚染要因を低減する写真廃液の処理方法および装置を提供することである。
【解決手段】 写真廃液を酸化分解処理した後、20℃の水への溶解度が30質量%以下の固体アルカリを添加することで、pHを7.5以上(好ましくは9.0以下)に調整する写真廃液の処理方法、好ましくは、写真廃液を酸化分解処理した後、有機高分子凝集剤の含有率が30質量%以下である固体無機系凝集剤を添加する写真廃液の処理方法、及び、前記固体アルカリ、更に好ましくは前期固体無機系凝集剤を自動添加することを特徴とする前記写真廃液の処理方法に用いる写真廃液処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は写真廃液の処理方法および写真廃液処理装置に関するものであり、特に写真廃液中の環境汚染要因を低減する(以後「環境汚染要因を低減する」ことを「無害化する」と表現することもある)処理方法および装置に関し、具体的には処理済み廃液に固体薬品を添加する処理方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
写真廃液は高濃度のBOD、COD、窒素、リンを含み、且つ、生物処理又は化学処理によっても難分解性成分が多量に含まれている。写真廃液、特にカラー現像液は種々の工業廃液の中でも最も処理が困難なものの1つであって、従来から多くの処理法が開示されているが、無害化の達成度と処理コストの両面で尚多くの問題がある。
【0003】
写真廃液処理に関して従来開示されている方法は、主として生物処理、酸化分解処理及び物理処理である。生物処理法は、例えば活性汚泥法によるもののほかに写真廃液が高塩濃度で鉄・有機カルボン酸錯体を含むことから海洋性菌や有機カルボン酸分解菌による生物分解法が開示されている。酸化分解処理は、オゾン酸化法、過酸化水素−第一鉄塩法(フェントン法)、過硫酸酸化法、ハロゲン酸酸化法、電解酸化法等がある。物理処理には高圧加熱法、噴霧焼却法、蒸発乾燥法等がある。
【0004】
これらの開示された写真廃液処理手段の中で、生物処理法はスケールメリットがあるが大スペースを要し、物理処理法は分解率が低く装置の損耗も早いのに対して、酸化分解処理法は、酸素消費量や全窒素量を比較的効果的に低減でき、かつ現像所の限られたスペースでも実施できて、しかも作業量の負担も少ないことなどの利点を有している。これらの利点を活かし、酸化分解処理方法について多くの検討が進められている。例えば、写真廃液を硫酸酸性にして電気分解する廃液処理方法(例えば、特許文献1参照。)が開示されている。
【0005】
下水放流については、BOD値、COD値に加え、pH値についても規制が存在する。
pH値の調整には、人手を要しないで処理工程に組み込みやすいという利点から、劇物である水酸化ナトリウム等の強アルカリ水溶液を用いる態様が一般的である。しかし、この態様は、例えばオンサイトでの実施を考えた場合には危険を伴うものとなっている。また、pHを調整できる写真廃液の処理装置としては、電解中に次亜塩素酸を安定化するための条件の調整が提案されている(例えば、特許文献2参照。)が、電解の安定化を目的とするものであり、放流規制への直接的な調整を行うものではない。
【0006】
更に、酸化分解処理によって銀とともに懸濁物が生成するため、下水放流するためには浮遊物質量を規制値以下にする必要がある。特許文献2には電解酸化分解処理した写真廃液を濾過する方法も開示されているが、生成源の多様性のため粒子サイズ分布が広くフィルターのポアサイズが大きければ捕集率が低下し、ポアサイズを小さくすると濾過時間が長くなり、目詰まりを起こし易くなる。いずれの支障も回避できる適性ポアサイズは存在しないという問題を有する。
【0007】
また微細な粒子を凝集させ粒子サイズを大きくすることで固液分離を速やかに行えるよう、凝集剤を添加する方法が広く知られている。アルミニウム塩や鉄塩等の無機系凝集剤が広く使用されてきたが、効果が不十分であったため、更にポリアクリルアミド系に代表される有機高分子系の凝集剤を併用したり、或いはこれを単独で添加する方法が用いられるようになってきた。しかしながら、有機系凝集剤は事前に凝集剤を溶解するための工程が必要となることに加え、得られた凝集剤水溶液は希薄溶液でもかなりの高粘度となり、添加量を自動で管理するなど取り扱いが容易ではなく装置コスト、サイズおよび設置スペースの点でのデメリットは大きい。
【0008】
このように、写真廃水の酸化分解処理は、作業負荷が少ない点で優れているものの、一般廃水基準の酸素消費量、全窒素量、浮遊物質量、その他廃水基準に該当する成分含有量などのすべての基準値をクリアすることは困難であり、その解決が求められている。
【特許文献1】特開平7−323290号公報
【特許文献2】特開平8−206660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
写真廃液について、酸素消費量、全窒素量、浮遊物質量、溶存鉄イオン量の下水放流基準値を満す処理方法及び処理装置を提示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは写真処理廃液の成分について詳細に調査を行った。その結果、有機成分や窒素化合物を下水放流可能なレベルまで除去すべく高度に酸化分解処理を施した場合、pH値は下水放流基準値を下回る傾向であることが判明した。また、酸化分解処理によって各種有害物質の多くは酸化除去されるが、溶存鉄イオンを多く含有する写真処理廃液では、溶存鉄濃度が基準値をクリアし難いことも明らかとなった。特にこの点についてはこれまで殆ど議論されておらず、新たな知見であった。
【0011】
本発明者らは、新たな知見に基づき研究を重ね、高度な酸化分解処理を施した後、最終的に溶存鉄濃度を下水放流基準値以下にするためには、pHを高めに調整することが有益であることを明らかにした。
【0012】
尚、浮遊物質量を規制値以下にするためには一般に凝集剤が添加されるが、水処理ではマイナスに帯電したコロイド粒子を除去することが多いため、プラスの価数の高いアルミニウム塩や鉄塩等の無機系凝集剤が広く用いられている。上記のように、溶存鉄イオンを除去したことによってコロイド粒子が帯電しやすくなり、粒子どうしの反発によって凝集が起こり難い状態となった。
一方、浮遊物の凝集は、pH値によっても大きく影響を受けるため、溶存鉄イオンの除去と同様、浮遊物質の除去を行う際にも、廃液のpH値は極めて重要な要因であることが判明した。そこで、pH値の調整について更なる鋭意研究を行ったところ、溶存鉄イオンと浮遊物質の除去を最も効率良く行うためには、pH調整剤によるpH値の変動速度と、最終的なpH値とが、極めて重要であることが判明した。
本発明者らは、これらの課題に対して、20℃の水への溶解度が30質量%以下の固体アルカリを用いることで、酸化分解処理後のpH値の調整と、pH値の変動スピードを調整する下記発明に至った。
【0013】
すなわち、以下の写真廃液の処理方法及び写真廃液処理装置により、本発明の課題解決に至った。
【0014】
<1> 写真廃液を酸化分解処理した後、20℃の水への溶解度が30質量%以下の固体アルカリを添加し、pHを7.5以上に調整する写真廃液の処理方法。
【0015】
<2> 前記pHを7.5以上9.0以下に調整することを特徴とする前記<1>に記載の写真廃液の処理方法。
【0016】
<3> 写真廃液を酸化分解処理した後、有機高分子凝集剤の含有率が30質量%以下である無機系固体凝集剤を添加することを特徴とする前記<1>又は<2>に記載の写真廃液の処理方法。
【0017】
<4> 酸化分解処理槽と、酸化分解処理後の処理液に対して20℃の水への溶解度が30質量%以下の固体アルカリを自動添加する固体アルカリ補充手段と、を備えることを特徴とする写真廃液処理装置。
【0018】
<5> 前記<3>に記載の固体凝集剤を自動添加する固体凝集剤補充手段を備えることを特徴とする前記<4>に記載の写真廃液処理装置。
【発明の効果】
【0019】
酸化分解処理後に、20℃の水への溶解度が30質量%以下の固体アルカリを用いてpHを調整する本発明の写真廃液の処理方法および装置によって、酸素消費量、全窒素量、浮遊物質量、溶存鉄イオン量の下水放流基準値を満すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
まず、取り扱う対象である処理廃液について説明を行う。次に、廃液処理方法について詳細に説明し、続いて廃液処理装置について具体的に詳述する。
【0021】
1.被処理廃液
本発明の実施の形態の説明に先だって、処理対象である写真処理廃液について述べる。
写真処理液は、カラー感光材料と黒白感光材料の処理に用いられるが、処理されるカラー感光材料としてはカラーペーパー、カラー反転ペーパー、撮影用カラーネガフィルム、カラー反転フィルム、映画用ネガもしくはポジフィルム、直接ポジカラー感光材料などを挙げることができ、黒白感光材料としては、Xレイフィルム、印刷用感光材料、マイクロフィルム、撮影用黒白フィルムなどを挙げることができる。
【0022】
本発明に適用される写真処理廃液は、写真処理液成分を主成分としているが、写真処理廃液には、写真処理過程で生成した現像主薬の酸化体、硫酸塩、ハライドなどの反応生成物や、感光材料から溶け出した微量のゼラチン、感光色素、界面活性剤、及び処理液処方に含まれて消費されなかった構成薬品などの成分を含む。
【0023】
写真処理廃液は、カラー写真或いはモノクローム写真の現像廃液の他、定着廃液又は写真製版等写真工業で発生した多くの種類の廃液が含まれている。写真処理液にはカラー処理液、黒白処理液、製版作業に伴う減力液、現像処理タンク洗浄液などがあり、黒白現像液、カラー現像液、定着液、漂白液、漂白定着液、画像安定化液などが挙げられる。定着廃液は溶存している銀を回収した残液が処理の対象となる。通常これら種々の写真処理工程からの廃液は混合された状態で回収されて、処理される。
【0024】
カラー現像液は、通常、芳香族第一級アミンカラー現像主薬を主成分として含有する。それは主にp−フェニレンジアミン誘導体であり、代表例はN,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン、2−アミノ−5−ジエチルアミノトルエン、2−メチル−4−〔N−エチル−N−(β−ヒドロキシエチル)アミノ〕アニリン、N−エチル−N−(β−メタンスルホンアミドエチル)−3−メチル−4−アミノアニリンである。また、これらのp−フェニレンジアミン誘導体は硫酸塩、塩酸塩、亜硫酸塩、p−トルエンスルホン酸塩などの塩である。該芳香族第一級アミン現像主薬の含有量は一般に現像液1リットル当り約0.5g〜約10gの範囲である。
【0025】
また黒白現像液中には、1−フェニル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−4−ヒドロキシメチル−4−メチル−3−ピラゾリドン、N−メチル−p−アミノフェノール及びその硫酸塩、ヒドロキノン及びそのスルホン酸塩などが含まれている。
【0026】
カラー及び黒白現像液には保恒剤として、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、メタ亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸カリウム等の亜硫酸塩や、カルボニル亜硫酸付加物を含有するのが普通で、これらの含有量は一般に現像液1リットル当たりカラー現像液では5g以下、多くは3g以下(無添加も含む)、黒白現像液では0g〜50gである。
【0027】
カラー及び黒白現像液中には、保恒剤として種々のヒドロキシルアミン類を含んでいる。ヒドロキシルアミン類は置換又は無置換いずれも用いられる。置換体としてはヒドロキシアルミン類の窒素原子が低級アルキル基によって置換されているもの、とくに2個のアルキル基(例えば炭素数1〜3)によって置換されたN,N−ジアルキル置換ヒドロキシルアミン類が挙げられる。またN,N−ジアルキル置換ヒドロキシルアミンとトリエタノールアミンなどのアルカノールアミンの組合せも用いられる。ヒドロキシルアミン類の含有量は一般に現像液1リットル当り0〜5gである。
【0028】
カラー及び黒白現像液は、pH9〜12である。上記pHを保持するためには、各種緩衝剤が用いられる。緩衝剤としては、炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、四ホウ酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、グリシン塩、N,N−ジメチルグリシン塩、ロイシン塩、ノルロイシン塩、グアニン塩、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン塩、アラニン塩、アミノ酪酸塩、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール塩、バリン塩、プロリン塩、トリスヒドロシアミノメタン塩、リシン塩などを用いることができる。特に炭酸塩、リン酸塩、四ホウ酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩は、溶解性やpH9.0以上の高pH領域での緩衝能に優れ、現像液に添加しても写真性能面への悪影響(カブリなど)がなく、安価であるといった利点を有し、これらの緩衝剤が多く用いられる。該緩衝剤の現像液への添加量は通常現像液1リットル当たり0.1モル以上1モル以下である。
【0029】
その他、現像液中にはカルシウムやマグネシウムの沈澱防止剤として、或いは現像液の安定性向上のために各種キレート剤が添加される。その代表例としてニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ−N,N,N−トリメリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラメチレンホスホン酸、1,3−ジアミノ−2−プロパノール四酢酸、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノプロパン四酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸等を挙げることができる。これらのキレート剤は必要に応じて2種以上併用されることもある。
【0030】
現像液は、各種の現像促進剤を含有する。現像促進剤としては、チオエーテル系化合物、p−フェニレンジアミン系化合物、4級アンモニウム塩類、p−アミノフェノール類、アミン系化合物、ポリアルキレンオキサイド、1−フェニル−3−ピラゾリドン類、ヒドラジン類、メソイオン型化合物、チオン型化合物、イミダゾール類等である。
【0031】
多くのカラーペーパー用カラー現像液は、上記のカラー現像主薬、亜硫酸塩、ヒドロキシルアミン塩、炭酸塩、硬水軟化剤などと共にシルキレングリコール類やベンジルアルコール類を含んでいる。一方カラーネガ用現像液、カラーポジ用現像液、一部のカラーペーパー用現像液は、これらのアルコール類を含んでいない。
【0032】
また、現像液中には、カブリ防止の目的で、臭素イオンを含有することが多いが、塩化銀を主体とする感光材料に対しては臭素イオンを含まない現像液を用いることもある。その他、無機カブリ防止剤としてNaClやKClなどの塩素イオンを与える化合物を含有していることがある。また各種有機カブリ防止剤を含有していていることも多い。有機カブリ防止剤としては、例えば、アデニン類、ベンズイミダゾール類、ベンズトリアゾール類及びテトラゾール類を含有してもよい。これらのカブリ防止剤の含有量は一般に現像液1リットル当り0.010g〜2gである。これらのカブリ防止剤は処理中に感光材料中から溶出し、現像液中に蓄積するものも含まれる。特に本発明において上記したような臭素イオンや塩素イオン等の総ハロゲンイオン濃度が混合液1リットル当たり1ミリモル以上であるような廃液においても有効に処理することができる。特に臭素イオン濃度が混合液1リットル当たり1ミリモル以上の場合に有効である。
【0033】
また、現像液中には、アルキルホスホン酸、アリールホスホン酸、脂肪酸カルボン酸、芳香族カルボン酸等の各種界面活性剤を含有している。
【0034】
黒白写真処理においては、現像処理の後に定着処理が行なわれる。カラー写真処理においては、現像処理と定着処理の間に通常漂白処理が行なわれ、漂白処理は定着処理と同時に漂白定着(ブリックス)で行なわれることもある。漂白液には、酸化剤としてEDTA、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロトリ酢酸、1,3−ジアミノ−プロパン四酢酸、ホスホノカルボン酸、もしくは過硫酸などの鉄(III)又はCo(III)錯塩、そのほかキノン類などが含まれている。そのほか、臭化アルカリ、臭化アンモニウムなどの再ハロゲン化剤、硼酸塩類、炭酸塩類、硝酸塩類を適宜含有する場合もある。定着液や漂白定着液には通常チオ硫酸塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩)、酢酸塩、ホウ酸塩、アンモニウム又はカリ明ばん亜硫酸塩などを含有していている。
ハロゲン化銀写真感光材料の処理においては、定着処理あるいは漂白定着処理を行なった後、水洗及び/又は安定処理を行なうことが一般的である。水洗処理においては、その処理槽にバクテリアが繁殖し、生成した浮遊物が感光材料に付着する等の問題が生じることがある。このような問題の解決策として、水洗水に特開昭61−131632号に記載のカルシウムイオン、マグネシウムイオンを低減させる処理工程を適用することができる。
また、特開昭57−8542号に記載のイソチアゾロン化合物やサイアベンダゾール類
、塩素化イソシアヌール酸ナトリウム等の塩素系殺菌剤、その他ベンゾトリアゾール等、堀口博著「防菌防黴剤の化学」、衛生技術会編「微生物の滅菌、殺菌、防黴技術」、日本防菌防黴学会編「防菌防黴剤事典」に記載の殺菌剤を添加する処理工程を用いることもできる。
【0035】
したがって、現像廃液には、現像主薬及びその酸化生成物、アルカリ化合物及び緩衝剤、亜硫酸塩やヒドロキシルアミン誘導体などから選択される補恒剤、アルカリハライドなどを主体としており、定着廃液は、チオ硫酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩及び/又は亜硫酸のアンモニウム塩及び/又はナトリウム塩、アルカリハライドなどを主体としており、漂白廃液は、ポリアミノポリカルボン酸鉄(III)錯塩などの漂白剤とそれに由来する反応生成物、アルカリハライド(再ハロゲン化剤)、緩衝塩などを主体としており、漂白定着廃液は、定着廃液と漂白廃液に含まれるものとほぼ同様の成分を主体としており、その他の各工程から排出される廃液もそれらの工程液の機能性化合物とそれに由来する化合物を含有している。したがって、処理される写真廃液の成分は、現像液由来の成分や漂白液・定着液・漂白定着液由来の成分などが感光材料溶出物や処理中の反応生成物と混在しており、例えば緩衝剤(炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、四ホウ酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩など)、発色現像主薬、亜硫酸塩、ヒドロキシルアミン塩、炭酸塩、硬水軟化剤、アルキレングリコール類、ベンジルアルコール類、界面活性剤(アルキルホスホン酸、アリールホスホン酸、脂肪酸カルボン酸、芳香族カルボン酸等)酸化剤(鉄(III)のEDTA錯塩、1,3−ジアミノ−プロパン四酢酸錯塩など)、ハロゲン化物(臭化アルカリ、臭化アンモニウムなど)、チオ硫酸塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩)、酢酸塩など多岐に亘る化学成分を含んでいて、この多様性が効果的な廃液処理手段を見出すことを困難にしている。
【0036】
写真廃液の組成は、処理の種類及びその処理の各工程からの廃液の混合比率によりかなり変動するが、おおよそCOD:30,000〜50,000mg/l、BOD:5,000〜15,000mg/l、TOC(Total Organic Carbon):10,000〜25,000mg/l、ケルダール窒素:10,000〜15,000mg/l、トータル燐:100〜500mg/lの範囲である。COD:BOD:TOCの比率は概ね4:1:1.5でCODが高い特徴があり、またC:N:Pの元素比率はほぼ100:100:1(質量比)でNの含有率が高い特徴がある。
【0037】
2.廃液処理工程
2−1.酸化分解処理
本発明の写真廃液の酸化分解処理は、いずれの方法であっても良いが、化学酸化法が好ましい。化学酸化法は、化学的手段で写真廃液を酸化する写真廃液処理方法であり、オゾン酸化法、過酸化水素酸化法、その他過硫酸塩、次亞塩素酸塩、塩素などの化学酸化剤による酸化法、電解酸化法等がある。その他活性光の照射を組み合わせたオゾン酸化法や過酸化水素酸化法、あるいは過酸化水素−第二鉄塩法(フェントン法)など過酸化水素に触媒を組み合わせた方法も化学酸化法に挙げられる。
本発明において、より好ましい酸化分解処理法は、物理化学的酸化法で写真廃液を酸化分解処理する態様である。
【0038】
物理化学的酸化法は、化学酸化法の中でも、酸化剤が処理済み廃液中に水、酸素、水素、炭酸ガス又は炭酸イオン以外の反応生成物として残ることのない処理を指す。具体的には、酸素、オゾン、過酸化水素、過炭酸から選択される酸化剤による酸化分解処理、これらの酸化剤存在下での紫外線などの活性光照射処理、電解酸化分解処理、及び活性光照射を伴う電解酸化分解処理が挙げられる。
好ましい物理化学的酸化処理は、電解酸化処理、オゾン酸化処理、過酸化水素酸化処理、及びこれらと紫外線照射の組み合わせの処理である。特に好ましい処理は、電解酸化処理である。
【0039】
電解酸化法について述べる。写真廃液は高い腐食性をもっているので、電解槽はこれらの成分に耐える耐食性材料が望ましい。耐食性材料としては、白金、フェライト、ステンレス、酸化皮膜が速やかに形成される鉄、硬質プラスチック等が挙げられる。
【0040】
陽極は、酸化され難い耐蝕材質が望ましい。陽極としては、白金、ステンレス、カーボン(とくにグラファイトや基板上に層形成されたダイヤモンド)、チタン、酸化皮膜が速やかに形成される鉄等が好ましい。中でも好ましい陽極は、いわゆるダイヤモンド電極即ち基板上にダイヤモンド構造の炭素層を形成させた電極である。ダイヤモンド電極の詳細は、特許第3442888号公報に記載されている。
陰極は、電解酸化反応には直接関与しないが、廃液に対して不活性な材質である白金、ステンレス、チタン、カーボン等が好ましい。
例えば、陽極はステンレス電極、ダイヤモンド電極、酸化皮膜が速やかに形成される鉄電極が好ましく、陰極はステンレス、チタンなどの電極が好ましい。また、反応液中には多量の懸濁成分が含まれているため、電極への懸濁物の沈澱を防止して均一な酸化反応を起こさせ、電流効率を高めるためには回転電極を用いることも好ましい。
【0041】
本発明においては、公知の電解槽の構造を各種用いることができる。すなわち、単一室セルであってもよく、又は陽極と陰極が膜で仕切られた分割セルであってもよい。最も簡単な実施態様は、単一室セルである。単一室セルでは、陽極と陰極を隔てるバリヤーがなく、したがって溶質は陽極と陰極間を移動するのに制限を受けない。このような単一室方式は、一般的には陽極で酸化された成分がその後陰極で還元されるという可能性を持っているが、写真廃液成分の電気的酸化分解反応の場合は、酸化種の大半は非可逆的な酸化を受けるのでそのリスクの可能性は少ない。
【0042】
2室セルにおいては、イオン交換膜、ミクロ濾過膜、半透膜、多孔性膜例えば多孔性セラミックスなどの通電性隔膜を陽極と陰極の間に挿入する。イオン交換膜はあるタイプのイオン種のみを陽極液から陰極液へ又はその逆方向へ通過させることができる。膜の機能は、陽極液と陰極液が混合することなく電気的中性を保持することである。また、適当な膜を用いれば、その膜を通過して移動するイオンの性質を制御することができる。例えば、陰極室でチオ硫酸イオンや亜硫酸イオンが還元されて生成した硫黄イオンにとって硫化銀が生成して沈殿し、陰極室内で捕集する本発明の好ましい態様が可能である。なかでもイオン交換膜、半透膜、セラミックスなどが両極を分ける隔膜として好ましい。
【0043】
電解酸化分解処理の温度は常温或いはこれよりやや高い温度が好ましく、また、電圧は5.0〜8.0V、電流密度は、0.5〜100A/dm2が好ましく、より好ましくは5〜50A/dm2がよい。
また、電解は回分法及び連続法の何れでもよい。回分式の好ましい電圧印加方式としては、電解初期(COD低減目標値の2〜10%相当の間)は4〜6A/dm2の比較的低電流密度を適用し、電解の進行と共に電流密度を高めてCOD低減目標値の10%相当程度に電解した後は、定常的な電流密度、例えば12〜20A/dm2の電流密度を適用することによって電気分解を続けるのも好ましい態様である。
【0044】
写真廃液には、写真処理液由来の界面活性剤が含まれているが、電解酸化中の発泡を抑制するために、さらにノニオン性界面活性剤のような消泡剤を使用することができる。例えば、BASF社によって上市されているPluronic(登録商標)シリーズからのもの、好ましくはPluronic−31R1 Polyol(登録商標)(ポリエチレンオキシドとポリプロピレンオキシドとのブロックコポリマーのメタノール溶液)を用いてもよい。しかし、消泡剤を使用する場合、泡の形成を避けるために必要な最低量で使用する。例えば、Pluronic−31R1 Polyol(登録商標)消泡剤では、処理廃液1Lに対して、その添加量は、0.15mL以下でよい。
【0045】
写真廃液をアルカリハロゲン化物、特にNaClの存在下で電気分解を行なう方法は、特に全窒素量低減の要求に対して特に効果的である。写真廃液の電解酸化処理の際、NaClを添加して次亞塩素酸を生成させ、これを酸化メディエーターとして写真廃液の電解を促進できることは特開平7−100466号公報によって知られている。この方法は、特にアンモニア性窒素量を多く含む写真廃液に対して有効である。本発明に用いられるアルカリハロゲン化物としてはNaClが好ましい。添加量は好ましくは1リットルの写真廃液あたり1g以上100g以下、更に好ましくは5g以上30g以下である。
【0046】
本発明の廃水処理方法における電解酸化処理では、高速度攪拌の電解酸化処理装置を用いると効果が増加する。本発明に適用される高速度電解酸化処理装置には、振動板を備えた攪拌装置を用いて電解液を振動板の振動によって攪拌させて電解酸化を行なう処理方式も好ましく、振動周波数を適当に選択することによって、極めて高い電解酸化速度とCOD低減効果が得られる。
【0047】
本発明に好ましく用いられる攪拌装置の例としては、振動板を電動機と結合させて電動機の回転を振動板の振動に変換させ、その振動によって電解液に攪拌作用を及ぼさせる方式のものが挙げられる。その振動周波数は、10cycle/sec以上100cycle/sec以下であり、好ましくは15cycle/sec以上80cycle/sec以下であり、より好ましくは20cycle/sec以上60cycle/sec以下である。
【0048】
また、前記の好ましい攪拌装置は、少なくとも1個の振動板を有するものであるが、好ましくは複数個の振動板を配列させた構成である。複数個の振動板からなる攪拌装置の場合は、振動板の配列の形態は、好ましくは振動板の板面が一平面内になるように一列に並べた形態、振動板を板面を並行にして板面方向に直角方向に重ね合わせた多段式の形態、あるいは振動板の板面同士は並行であるが、板面が重ね方向と斜めになるように重ね合わせた斜め多段式形態のいずれであってもよいが、いずれの場合も各振動板の間に液流が確保されるように振動板同士は互いに一定間隔を置いて配列される。その間隔は、1〜200mmであり、好ましくは2〜150mm、より好ましくは、3〜100mmである。
【0049】
また、振動板の形状は矩形、楕円形、梯形、正方形、矩形又は正方形の各稜に丸みを持たせた形のいずれでもよいが、好ましくは矩形又はその稜に丸みを与えた形である。振動板のサイズは、電解酸化槽の大きさに応じて適宜選択することができる。目安としては振動板の片面の面積が電解槽断面積の1/1000〜1/5であり、好ましくは1/50〜1/5である。その厚みは振動板が金属板の場合はその長辺(長径)の1/100〜1/5であり、好ましくは1/10〜1/20であり、振動板が樹脂板の場合は、1/50〜1/5であり、好ましくは1/20〜1/10である。
【0050】
2−2.pH値調整手段
下水放流規制値を満たすために、最終的には廃液のpHは5〜9に調整される。ここでpHを7以上に調整すれば、フロック形成させて懸濁微粒子を凝集・消滅させることも出来、比重差を利用した沈降でも処要時間の短縮と分離能の向上の両面で有利となる。
さらに、溶存する鉄イオンを完全に除去するためには廃液のpHを7.5以上にする必要がある。この条件であれば鉄イオンが除去できるだけでなく懸濁物の凝集粗大化が促進され、その状態で遠心沈降を行わせると懸濁物同士の凝集が進んで沈降速度も速くなり、液相と固体粒子との分離性が向上する。
【0051】
廃液のpH値を一旦、下水放流規制値よりも高い値に設定し、溶存する鉄イオンの除去を効率良く行い、同時に懸濁物の凝集粗大化を促進させて、懸濁微粒子も除去した後に、pH値を下水放流規制値内に調整してもよい。一方、pH値を下水放流規制値範囲内に調整しながら、溶存鉄イオンと懸濁微粒子の除去を行うことも、pH調整の工程が少なくなることから好ましい態様の一つである。
【0052】
固液分離、溶存鉄除去に好ましいpH範囲は7.5〜12であり、より好ましくは7.5〜9であり、8〜9が更に好ましい。尚、フロック形成の効果、凝集剤の効果を十分引き出すために、pH調整は、酸化分解処理終了後に行なわれなければならない。但し、酸化分解処理として電解処理を行う場合、電解中に次亜塩素酸を安定化するため等の理由から、pH値を調整することが好ましい。電解中のpH値調整については、特開平8−206660号公報等に記載されているように、5〜7のpHが好ましい。
【0053】
酸化分解処理終了後のpH値調整において、pH変動速度を調節するため、20℃の水への溶解度が30質量%以下の固体アルカリをそのまま用いる。「20℃の水への溶解度が30質量%」とは、20℃飽和水溶液100g中の無水化合物の質量が30gであることをいう。本発明において好ましく用いられる固体アルカリは、水への溶解度が、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。このような固体アルカリとしては、炭酸アルカリ、生石灰、消石灰等を挙げることができる。特に、取り扱い性の観点からは炭酸アルカリが好ましく、その中でも炭酸ナトリウムが特に好ましい。
溶解速度と取り扱い性を両立させるため、固体アルカリの粒子サイズは平均粒径で、1μm以上2000μm以下が好ましく、10μm以上1000μm以下がより好ましい。
【0054】
酸化分解処理後に、劇物でない固体アルカリを用いてpHを調整する本発明の写真廃液の処理方法によって、酸素消費量、全窒素量、浮遊物質量、溶存鉄イオン含有量の下水放流基準値を満すことができる上、写真廃液を現像所でオンサイトで安全に処理することができる。また、pH値調整用のアルカリ溶液を別途作製するためのスペースが不要となるため、小さなスペースにおいて写真廃液の処理を行うことも可能となる。更に、溶存鉄イオン含有量及び浮遊物質量の低減を行うための操作は、主にpH値の調整のみであるため、極めて簡便に処理を行うことができる。
【0055】
2−3.固液分離手段
本発明は、凝集剤を添加して固液分離を行うことが好ましい。凝集剤によりフロック形成させて懸濁微粒子を凝集・消滅させる方法で、酸化分解処理した写真廃液に凝集剤を添加してから比重差利用の沈降による固液分離を行うと、懸濁物粒子が凝集して粗大化し、分離速度が促進され、分離効率も向上する。分離効率は、一般的には、液相中の成分濃度及び固層の液相に対する体積率で評価するのが実際的である。
凝集剤は公知の任意のものを用いることができる。無機凝集剤としては、例えば硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化鉄(III),硫酸鉄(III),などを用いることができる。さらに、フロックを形成させる凝集助剤として活性珪酸やアルギン酸ナトリウムを用いることもできる。これらはまた、単独で凝集剤として用いることもできる。
【0056】
酸化分解処理した写真廃液の固液分離には、有機高分子凝集剤も用いることができる。好ましい有機高分子凝集剤としては、ポリアクリルアミド(分子量数百万〜千万)、ポリエチレンオキシド(分子量数百万)、尿素−ホルマリン樹脂(分子量数千)、ポリアクリル酸ナトリウム(分子量数万〜数百万)、部分分解したポリアクリルアミド(分子量数万〜数百万)、ポリアクリルアミドーアクリル酸共重合体(分子量数万〜数百万)、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド(分子量数万〜数百万)、ポリアミノアルキルメタクリレート(分子量数万〜数百万)、ポリエチレンイミン(分子量数千〜数百万)、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム(分子量数万〜数百万)、キトサン(分子量数万)などが挙げられる。
【0057】
凝集剤の使用法の更なる詳細は、日本化学会編;化学便覧応用編783〜84頁及び1185〜186頁に記載されている。
本発明において好ましい凝集剤は前記のような有機凝集剤を重量比で30%以下含む(下限の目安としては約0.1%である)無機系固体凝集剤であり、更に好ましくは0.5%以上20%以下である。粒子サイズは500μm以上5μm以下が好ましい。
本発明において凝集剤の添加量は、無機系のものを用いる場合、廃液1リットル当り0.001g以上50g以下が好ましく0.01g以上5g以下がより好ましい。また、有機系のものを用いる場合廃液1リットル当り0.0001g以上10g以下が好ましく0.001g以上1g以下が特に好ましい。
固液分離手段を経た廃液は、廃液処理の全工程を適切な処理条件で行えば、一般廃水基準の各項目を満たして下水系への排出(放流)が可能となる。また、得られた固化物は一般的には銀を含むので、鉱山や貴金属精錬場に送られて銀精錬が行われる。
【0058】
本発明には、公知のいかなる固液分離手段をも用いられる。具体的には濾材を用いない方法として、自然沈降、遠心分離、液体サイクロンによる方法、濾材を用いる方法として自然濾過、加圧又は減圧濾過、遠心濾過等をあげることができるが、本発明には特に遠心濾過を用いる方法が好ましい。
本発明に好ましい固液分離手段は遠心分離である。酸化分解処理した写真廃液中の懸濁物は、硫化銀、ハロゲン化銀、種々の原子価と水和度の鉄酸化物混合体など処理液及び感光材料由来の固体粒子である。生成源の多様性ゆえに廃液中の懸濁粒子サイズ分布が広いため、最適な遠心沈降速度範囲も広くなりがちであるが、凝集剤を用いることで濾材のない遠心分離はもとより濾材を用いる遠心濾過においても濾過時間の増大や目詰まりを回避できるので、遠心条件を容易に選択することができる。また、目詰まりのリスクが無いために稼動条件の選択範囲も広がって、高速沈降・短時間濾過が可能となる。すなわち、凝集剤を用いることでより高い遠心加速度の値を採用することができて高い固液分離能がしかも短い操作時間で得られる。好ましい遠心加速度の範囲は10G以上2000G以下であり、より好ましくは100G以上1500G以下である。
本発明に用いる遠心分離装置は、市販のものを用いることができ、回分式装置でも連続式装置でも使用できる。市販の竪型遠心脱水機、竪型遠心脱水機、Sharpless型遠心脱水機、De Laval型遠心脱水機、又は濾材を用いた上部又は底部排出型、スクリュー排出型などの遠心濾過機を用いることができる。
【0059】
3.廃液処理装置
3−1.装置
本発明の廃液処理装置においては、少なくとも酸化分解処理槽と、20℃の水への溶解度が30質量%以下の固体アルカリを添加する固体アルカリ補充手段を有する。更に、固体凝集剤を添加する固体凝集剤補充手段を有することが好ましく、固体アルカリ補充手段と、固体凝集剤補充手段とが自動添加する自動添加手段を備えることがより好ましい。
本発明に適用できる廃液処理装置として、特開2004−85949号明細書,特開平8−206660号明細書等を挙げることができる。
【0060】
以下、本発明の写真廃液処理装置の好ましい一実施態様について、図1〜2にしたがって説明する。図1〜2は、本発明の写真廃液処理装置の好ましい一実施態様の概略構成図である。各図の説明において同一の要素には同一の符号を付す。
【0061】
第1の好ましい実施形態である図1の写真廃液処理装置では、酸化処理工程は、電解による酸化処理方法を採用する。
【0062】
電解セル2は電源1に接続された陽極と陰極とを備える。電解セル2と廃液タンク4とは、ポンプ3を備える配管(好ましくは、腐食しない材質からなる配管)で結合される。
廃液タンク4には、マグネチックスターラー7が設けられ、廃液タンク内に攪拌子8を配置する。攪拌子8の回転により内部の廃液組成が均一化される。また、廃液タンク4には、pHセンサー10を有するpHコントローラー9を備える。pHセンサー10は、廃液のpH値を測定するため、少なくとも一部が廃液に漬かるように設置される。
【0063】
廃液タンク4の上部は天面12によって塞がれている。固体アルカリ添加装置6から廃液タンク4に固体アルカリ13が投入される。なお、固体アルカリ添加装置6の上部開口は、開閉可能な蓋14によって覆われることが好ましい。蓋14を閉めることによって固体アルカリ添加装置6の内部を密閉することができ、固体アルカリ13の保存状態を一定に保つことができる。
固体アルカリ添加装置6にはシャッター板15が付設されている。シャッター板15は固体アルカリ添加装置6と廃液タンク4の天面12との間に設けられ、pHコントローラーによって固体アルカリ13の添加量が制御される。このような固体アルカリを定量供給するシステムとして、特開20000−191143号公報、特開2001−46860号公報等を参照できる。
【0064】
固体アルカリ添加装置6には、固体アルカリ13の添加量を計量するための計量手段を備える。計量手段としては、重量センサーや測距センサー等が好ましい。重量センサーとしては任意のものが適用できるが、空気コンデンサー式の重量センサーが好ましい。空気コンデンサー式重量センサーは起歪体や板ばねといった弾性体の変形量に応じて電気的信号を出力する一対の電極板からなるものであり、本発明には任意の空気コンデンサー式重量センサーを適用することができる(例えば、特開2002−71443号等参照。)。空気コンデンサーに用いられている2枚の金属板は多少腐食しても精度に影響が出ることは無いため、低コストで精度も充分な方式である。
【0065】
図1に示す本実施態様では、固体アルカリ添加装置6の中央部付近および下部付近の外側に重量センサー16が設けられる。重量センサー16により貯留部内に装填された固体アルカリ13の重量を計測する。この重量センサー16はpHコントローラー9に連結されており、固体アルカリ補充手段を動作させる信号がpHコントローラー9より発せられ補充動作が行われたときに、補充動作により固体アルカリ添加装置6より固体アルカリが排出されて生じる重量変化を検出し、1回の動作で排出される所定量と比較し、誤差が定められた量以上になった時に補充異常があったと判断する。
【0066】
また、廃液タンク4内の固体アルカリ残量を計量するための計量手段として、測距センサーを利用することもできる。測距センサーとしては任意のものが適用できるが、赤外線投光式の測距センサーが好ましい。赤外線投光式測距センサーは三角測距の原理を応用した測距装置であり、本発明には任意の赤外線投光式測距センサーを適用することができる(例えば、特開2001−208538号等参照)。赤外線投光式測距センサーを用いることで、精度よく測定することができる。
【0067】
重量センサーと測距センサーとはいずれか一方のみの使用でもよいが、同時に使用することにより、例えば、測距センサーのレンズ表面が粉塵等で汚れた場合にも重量センサーにより補完することができ、また、重量センサーが振動や何かの接触でエラー信号を出しても測距センサーの信号と照らし合わせ、エラー情報を確認してキャンセルすることもできる。
【0068】
更に、廃液タンク4には、固体凝集剤17を廃液タンク4に投入する固体凝集剤添加装置5を備える。固体凝集剤添加装置5の上部開口は、開閉可能な蓋18によって覆われており、蓋18を閉めることによって固体凝集剤添加装置5の内部を密閉することができる。
固体凝集剤添加装置5の中央部付近および下部付近の外側には、重量センサー19が設けられ、廃液タンク4に所定量の凝集剤を投入する。
【0069】
廃液タンク4の下流部には、遠心濾過機11が備えられる。遠心濾過機11は、濾材を用いてもよい。
【0070】
写真廃液は、まず廃液タンク4に蓄えられる。処理廃液はポンプ3の作動により、廃液タンク4、配管及び電解セル2を経由し、再び廃液タンク4へと循環する。
【0071】
廃液タンク4の液は、攪拌子8の回転により均一となり、上記循環を繰り返しながら電解は進行する。この液に一部又は全部が浸漬したpHセンサー10により、廃液のpH値を検知する。電解が終了した後、得られたpH値のデータによりpHコントローラー9が固体アルカリ添加装置6に設けられたシャッター板を開閉させ、廃液への固体アルカリ添加量を制御する。
【0072】
pH値の調整が完了した後、凝集剤添加装置5より所定量の凝集剤が廃液タンク内の廃液に添加される。凝集剤の添加量は、廃液の組成によって大幅に変わることは殆どないため、一定量添加するように設定すればよい。凝集剤の添加後、マグネチックスターラー7によって攪拌子8を回転させ、一定条件で攪拌を行う。生成した凝集物は、遠心濾過機11により固液分離される。
【0073】
凝集剤の種類によっては、温度が著しく低下すると、凝集性能が十分発揮されないことがあるため、廃液タンク4にヒーターを設けて所定の温度に加温することも好ましい。
【0074】
本発明の装置によって、酸素消費量、全窒素量、浮遊物質量、溶存鉄イオン含有量の下水放流基準値を満すことができる。また、20℃の水への溶解度が30質量%以下の固体アルカリを使用するため自動添加が可能であり、写真廃液を現像所でオンサイトで安全に処理することができる。さらに、pH値調整用のアルカリ溶液を別途作製するためのスペースが不要となるため、コンパクトな処理装置となる。
【0075】
第2の好ましい実施形態である図2の写真廃液処理装置において、電解セル2、固体アルカリ添加装置6、及び固体凝集剤添加装置5を備える点は、図1と同様である。但し、廃液タンク4を設けず、固体アルカリ添加装置6と固体凝集剤添加装置5とを電解セル2に設ける。この方法では、電解により酸化処理を行い析出した物質を除去した後、廃液を別途設けた廃液タンク4に送液することなく、電解セル2内でpH値を調整して溶存鉄を析出させ、かつ凝集剤を添加して懸濁物の凝集除去を行う。この態様の装置では、処理タンクが不要なため、よりコンパクトな装置とすることができる。
【実施例1】
【0076】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明の範囲をなんら限定するものではない。
【0077】
(装置の概要)
本実施例の装置においては、有害な写真処理廃液中の有機成分や窒素化合物が電解によりまず分解され、その後アルカリおよび凝集剤を自動添加し、さらに遠心濾過機によって固液分離を行った後、濾液を下水放流規制を満たす無害化水を得ることができる。
【0078】
図1において、まず廃液タンク4に貯蔵された廃液は、ポンプ3によって純粋な白金でコーティングしたSHOWA金属チタンを陽極、陰極に用いた小型電解セル2に、循環される。一定時間の後電解が終了すると、1番の電解電源はOFFとなりマグネチックスターラー7が起動すると攪拌子8を回転し、6のアルカリ自動添加装置より固体アルカリが1g/minの速度で添加される。この時pHセンサー10が所定の値にpHが上昇したことを検知するとpHコントローラー9からの信号で6は停止される。次に凝集剤添加装置5より所定量の粉末無機系凝集剤が添加され、一定条件で攪拌された後、懸濁液は11の(株)コクサン製の遠心分離機H−130ARに移液されてポアサイズ5.0μmの濾布を用いて1200Gで分離が終了するまで運転し、析出物を除去されてから放流される。
【0079】
(廃液の調製)
銀回収系廃液(カラー写真処理CN−16の定着液、CN−16Qの漂白液と定着液の混合液、CP−20の漂白定着液、CP−23の漂白定着液、および水を各々4、1、3、2、2の体積比で混合した後銀回収処理を施したもの)と現像液系廃液(カラー写真処理CN−16、CN−16Q、CP−20、CP−23各々の現像液および水を各々4、1、2、3、2の体積比で混合したもの)とを体積比で1対1で混合した。このように調製された廃液のpHは7.5であった。この液のCODは45000mg/L、NH4−Nは8000mg/L、鉄濃度は3300mg/Lであった。
上記した各液CN−16、CN−16Q、CP−20、CP−23は、いずれも富士写真フイルム(株)製の処理液の商品名である。
【0080】
(電解−固液分離処理)
本実施例においては以下の電解処理を行った。
NaCl10gを添加した上記写真廃液1Lを上記装置の廃液タンク内に満たした後、2L/分の速度で電解装置内を循環させた。電流密度は3.5A/dm2であった。電解酸化は定電流電解方式で、電流の強さを10Aに設定し、温度を25℃に維持して36時間実施した。電解開始時のpHは7.5であった。
上記の一連の処理を8回行い、得られた試料(試料1〜8)にそれぞれ異なるパターンで薬品を添加し遠心濾過後、濾液を回収した。
【0081】
(薬品準備)
pH調整の為に自動添加される固形アルカリとしては、粒状炭酸ナトリウムを用いた。凝集剤としては(株)荏原製作所製スーパーグロースA−121(ポリアクリルアミド系凝集剤)そのものと、同凝集剤を粉末状硫酸アルミニウムと硫酸鉄の混合物に対し0.5重量%混合し調整した粉末凝集剤(凝集剤Bとする)を用意した。
【0082】
(薬品添加)
前記で得られた酸化分解液試料1〜8に対して薬品の添加は以下のようにした。
(1)全く何も添加しない。
(2)電解中にpHを6.0にコントロールするよう炭酸ナトリウムを添加し電解後は何も添加しない。
(3)電解終了後にスーパーグロースA−121を0.5g添加する。
(4)電解終了後に凝集剤Bを0.5g添加する。
(5)電解終了後にpHを6.0にコントロールするように炭酸ナトリウムを添加する。
(6)電解終了後にpHを8.5にコントロールするように炭酸ナトリウムを添加する。
(7)電解終了後にpHを8.2にコントロールするように炭酸ナトリウムを添加した後、スーパーグロースA−121を0.5g添加する。
(8)電解終了後にpHを6.0にコントロールするように炭酸ナトリウムを添加した後、凝集剤Bを0.5g添加する。
【0083】
(処理澄み廃液の環境特性試験)
8試料のそれぞれの固液分離後の液相のpH(最終pHと記す)、化学的酸素消費量、全窒素量及び溶存鉄の濃度を測定した。測定方法は、JIS法(JISK0101工業排水試験方法)によった。さらに全試料について濾液の濁りの状況を目視で観察した。薬品添加の概略と共に、結果を表1に示した。
【0084】
【表1】

【0085】
<濁り評価>
ひどい濁り ・・・・・・×
濁り有り ・・・・・・△
わずかな濁り・・・・・・○
透明 ・・・・・・◎
【0086】
比較例である試料1に対して、従来法により電解処理中にアルカリでpH調整を行った試料2では全窒素量が若干減少する以外には大きな効果は見られない上に、濾過性も試料1と同程度のものであった。
また、有機系凝集剤を用いた比較例の試料3では、濾過性に多少の改善効果は見られるものの、また鉄イオンの残存量も多いため、とても下水放流できるレベルではなかった。濾過性の改善効果が小さい理由としては、通常は別溶解工程を経て溶液添加される有機系凝集剤を、直接添加の方法に転用しても本来の効果を引き出せていないためと推測される。
有機系凝集剤の含有率を30%以下とした固体凝集剤を用いた試料4では、凝集効果で下水放流できるレベルの濾液が得られているが、液中にまだかなりの溶存鉄イオンが検出された。
弱酸性の試料5では鉄イオンは少なくなっているが不十分であり、COD値や全窒素濃度が高い値となっていた。
【0087】
これら比較例に対して、本発明に従ってpHを7.5以上に調整した試料6〜8では、鉄イオンを検出限界以下にまで低減できた。濾過性も良好である。
特に本発明に従って有機系凝集剤を30%以下に押さえた固体無機系凝集剤添加と電解処理後のpH設定を組み合わせて行った試料8では、鉄イオンの除去が極めて良好であり、かつ濾液に全く濁りが見られない完全な濾過性をも呈していた。
【0088】
本発明の処理を行った試料では、さらに副次的な効果としてCOD全窒素量の低減効果も見られた。実施例においては、以上の操作をオンサイトでも可能な省スペース化された装置で、しかも安全に実施することができた。固体を精度良く、また十分遅い速度で添加することが可能になったことによって、(1)劇物を用いずpH調整が可能となったこと、(2)凝集剤の溶解工程を省略できたこと、の2つによるものである。本発明の方法により、省スペース化の要求に対応できるコンパクトな装置を提供できるため、写真廃液を安全に下水放流することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の写真廃液処理装置についての概略構成の一例図。
【図2】本発明の写真廃液処理装置についての概略構成の他の一例図。
【符号の説明】
【0090】
1 電源
2 電解セル
3 ポンプ
4 廃液タンク
5 固体凝集剤添加装置
6 固体アルカリ添加装置
7 マグネチックスターラー
8 攪拌子
9 pHコントローラー
10 pHセンサー
11 遠心濾過機
12 天面
13 固体アルカリ
14,18 蓋
15 シャッター板
16,19 重量センサー
17 固体凝集剤
20 ドレイン
21 攪拌翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
写真廃液を酸化分解処理した後、20℃の水への溶解度が30質量%以下の固体アルカリを添加し、pHを7.5以上に調整する写真廃液の処理方法。
【請求項2】
前記pHを7.5以上9.0以下に調整することを特徴とする請求項1に記載の写真廃液の処理方法。
【請求項3】
写真廃液を酸化分解処理した後、有機高分子凝集剤の含有率が30質量%以下である無機系固体凝集剤を添加することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の写真廃液の処理方法。
【請求項4】
酸化分解処理槽と、酸化分解処理後の処理液に対して20℃の水への溶解度が30質量%以下の固体アルカリを自動添加する固体アルカリ補充手段と、を備えることを特徴とする写真廃液処理装置。
【請求項5】
請求項3に記載の固体凝集剤を自動添加する固体凝集剤補充手段を備えることを特徴とする請求項4に記載の写真廃液処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−53188(P2006−53188A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−232676(P2004−232676)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】