説明

冷却材料

【課題】各種運動時や衣服が押し潰され、通気流路に荷重が掛かった際にも、送風阻害が小さく、体内からの汗を効率良く蒸発させることで、人体の体温上昇を抑制し且つ運動阻害性が小さい冷却材料の提供。
【解決手段】少なくとも吸水特性に優れる材料(吸汗材料1)と空気の流れる通気流路部2とから構成される冷却材料であって、通気流路部2の圧縮硬度が1kg/Φ200以上10kg/Φ200以下であり、送風面(吸汗材料面)以外が通気性のないカバー材料3によって囲まれる冷却材料、それを用いた冷却衣服。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酷暑下において体内からの汗を吸収、蒸発させることで、効率良く気化熱を奪うことによって、人体の体温上昇を抑制することが可能な冷却材料に関する。詳細には、密閉性の高い防護衣等を着用した際に生じる熱ストレスを抑制できる冷却材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酷暑環境下で使用する冷却ベスト等については、従来から種々提案されている。例えば、冷却服の内側に冷却管を張り巡らせた冷房服等が提案されているが、衣服が各種運動により圧縮されたときの送風の阻害性等については詳細に言及されているものはない。
【0003】
特許文献1には、薄い布帛の二重構成とした胴衣の内部に網状の中間層を挿入して通気流路とし、外皮部にはアルミニウムまたはアルミ銅の金属膜を蒸着して熱の放射と吸収の作用を防止した冷房服が例示されているが、内皮部や通気流路については特に限定された記載はない。
【0004】
特許文献2には、服の身体側に張り巡らせた冷却管の内部に冷水もしくは低温のブラインを流す冷却服であり、送風の阻害性や身体側へ配置する生地等について考慮した記載はない。
【0005】
特許文献3には、アイスパックを用いた冷却服に関する内容であり、アイスパックを使用した場合は、肌が非常に冷たくなり、また、アイスパック表面で水蒸気が結露し、皮膚に不快感をもたらすことを抑制するために、温度依存性形状記憶樹脂の多層構造体を使用し温度調節機能を持たせた冷却服に関する内容である。
【0006】
特許文献4には、水分移行層、空気通過層および空気遮断層とからなり、水分移行層が抗菌性の繊維からなることが例示されているが、送風の阻害性や着用感についての記載はない。
【0007】
特許文献5には、空気流路を確保するためのスペーサーと、スペーサーを覆う空気の漏れ難い上布及び身体側に接する空気の漏れ難い透湿性を有する下布からなる扁平マット及び送風手段を具備した冷却装置が例示されているが、肌側に配置された空気の漏れ難い扁平マットで覆われているため、体内から発散された汗を完全に処理し、蒸発潜熱を有効に利用できるとは考えにくく、スペーサーの送風阻害性についての記載もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭48−036646号公報
【特許文献2】特開平04−333602号公報
【特許文献3】特開平06−257003号公報
【特許文献4】特開2001−288605号公報
【特許文献5】特開2010−091163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、各種運動時や衣服が押し潰され、通気流路に荷重が掛かった際にも、送風阻害が小さく、体内からの汗を効率良く蒸発させることで、人体の体温上昇を抑制し、かつ、運動阻害性が小さい冷却材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)少なくとも吸水特性に優れる材料(吸汗材料)と空気の流れる通気流路部とから構成される冷却材料であって、通気流路部の圧縮硬度が、1kg/φ200以上10kg/φ200以下であり、通気流路部の送風面(吸汗材料面)以外が通気性の無いカバー材料によって囲まれている冷却材料。
(2)通気流路部には、少なくとも1個以上の送風口が具備されている(1)に記載の冷却材料。
(3)(1)または(2)に記載の冷却材料を用いた冷却衣服。
【発明の効果】
【0011】
本発明による冷却材料は、吸水特性に優れる材料(吸汗材料)と空気の流路を確保する通気流路部の少なくとも2つ以上から構成されるもので、各種運動時や鞄や装具等を装着し、衣服が押し潰され、通気流路に荷重が掛かった際にも、送風の阻害と装着性に関わる阻害(違和感)が小さく、効果的に空気を送り込むことができ、さらに、吸汗材料を用い、体内からの汗を吸収、蒸発させることで、効率良く気化熱を奪うことによって、人体の体温上昇を抑制することが可能な冷却材料を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の冷却材料の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の通気流通路の正面図と背面図の例を示す図である。
【図3】本発明の冷却材料を使用した冷却衣服の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に係る吸水特性に優れる材料(吸汗材料)は、汗を吸収拡散し、放散しやすい材料が好ましく、本来疎水性であるポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成繊維から適宜選定することが可能で、上記からなる繊維の原糸改質や表面加工により吸水拡散性、吸水速度及び放散性を向上させたもの、さらには、極細化繊維、異形断面形状繊維等を使用することも有効な手段である。また、これら繊維の混合化、複合化及び混繊した糸状からなる繊維集合体等を使用することも有効な手段となる。
【0014】
吸水特性に優れる材料(吸汗材料)の形状としては、通常の衣料用の織物、編物または不織布、紙のいずれでもよい。体等への密着性を考慮すると、織物と編物の形態が好ましい。更に好ましくは、伸縮性に優れる編物がより好ましい。
【0015】
吸水特性に優れる材料(吸汗材料)の質量としては30g/m以上250g/m以下が好ましく、より好ましくは40g/m以上200g/m以下である。30g/m未満であると、強度が問題となる。一方、250g/mより大きくなると衣服とした際の重量や柔軟性が問題となる。
【0016】
吸水特性に優れる材料(吸汗材料)の吸水拡散性は、JIS L 1907の滴下法によって評価され、30μLの水滴を1cmの高さから落としたときに、完全に吸水するまでの時間であり、好ましい性能としては、10秒以下であり、より好ましくは5秒以下である。吸水時間が、10秒を超えると汗を速やかに吸い取ることが出来できず、体内から発汗した汗を有効に吸い上げることができない。
【0017】
吸水特性に優れる材料(吸汗材料)の吸水速度はJIS L 1907のバイレック法により評価され、水槽に10分間浸した後の毛細管現象によって水が上昇した高さによって評価され、好ましい性能としては、70mm以上であることが好ましい。より好ましくは、100mm以上である。吸水速度が、70mm未満であると、極端に水分移行性が悪い結果となる。
【0018】
通気流路部としては、空気の流れを確保できる材料であれば特に限定されないが、熱可塑性樹脂の3次元スプリング構造体、エステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成繊維モノフィラメントを用いたダブルラッセル編物等が挙げられ、使用目的に応じて適宜選定することが可能である。しかし、各種運動時や圧縮時の送風の阻害性、着用性及び加工性等を考慮すると、3次元スプリング構造体が好ましい。この通気流路部の目的は、外部から与えられる機械的な力から通気流路を確保し、送風の阻害を防止することである。
【0019】
通気流路部の圧縮方向の厚みは、5mm以上70mm以下であることが好ましい。より好ましくは10mm以上50mm以下である。5mm未満であると、十分な空間を確保できず、荷重時に空気の流れを妨げる問題が発生する。一方、70mmを超えると、着用した際の装着感を損ね、冷却材料としては適さない。
【0020】
通気流路部の見掛け密度は、10kg/m以上100kg/m以下であることが好ましい。10kg/m未満であると、運動時や圧力が通気流路部に掛かった際に、通気流路を確保できない問題が生じる。一方で、100kg/mを超えると、上記と同様に着用した際の装着感を損ね、冷却材料としては適さない。
【0021】
通気流路部の圧縮硬度は、1.0kg/φ200以上10kg/φ200以下であることが好ましい。1.0kg/φ200未満であると、十分な空間を確保できず、荷重時に空気の流れを妨げる問題が発生する。一方、10kg/φ200を超えると、着用した際の装着感を損ね、冷却材料としては適さない。
【0022】
通気流路部の厚み方向に75%圧縮した後の回復率は、70%以上であることが好ましい。より好ましくは、80%以上である。厚み方向に75%圧縮した後の回復率が70%未満の場合には、各種運動時や荷重が掛かる状態での通気流路の確保が困難となる。
【0023】
通気流路部の吸水特性の優れる材料(吸汗材料)への配置形態については、特に限定されるものではない。例えば、3次元スプリング構造体及びダブルラッセル編物等を使用する場合には、送風の均一性を考慮すると、吸水特性の優れる材料面以外を空気の透過しない材料で囲い、送風の効率を上げることが有効な手段である。空気の透過しない材料とは、特に限定されないが、生地へ樹脂をラミネートもしくはコーティングした材料やフィルムが挙げられ、縫製により囲う場合には、貫通部にシール加工を施すことが、より好ましい形態である。また、通気流路部の吸水特性に優れる面側については、そのままの形態で使用することが可能であるが、通気性が確保できる補強布などで通気流路部を袋状に覆うことも可能である。
【0024】
通気流路部と吸水特性の優れる材料(吸汗材料)の固定方法は、通気流路部を縫製、接着する及び通気流路部を吸汗材料と他の材料で挟み押さえ込む方法等があるが、特に限定されるものではない。通風の均一性や装着性を考慮すると、通気流路部の上から他の材料で押さえ込むことがより好ましい。
【0025】
通気流路部の設置場所は、身体のいかなる部位にも装着することが可能であるが、質量や装着感等を考慮すると、冷却効果の高い部位に選択的に配置することは有効な手段である。
【0026】
通気流路部には、空気を送り込む送風口が少なくとも1個以上設置されていることが好ましい。送風の均一性等を考慮し、送風口の数は適宜設定が可能で、外部からの送風機やライン等からの空気供給が可能となる。送風口としては、空気が送風できる管であれば、特に限定されないが、装着感、重量等を考慮すると樹脂製のものが好ましい。
【実施例】
【0027】
次に実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。尚、実施例に記載の評価は以下に記す方法による。
【0028】
吸水拡散性:JIS L−1907(2010) 滴下法に準拠する。
【0029】
吸水速度:JIS L−1907(2010) バイレック法に準拠する。
【0030】
圧縮硬度:JIS K−6400−2(2004)に準拠する。試料を直径200mmの円形に切断し、加圧板を試料上にセットし、初期厚みの75±2.5%押し込んだ後、直ちに圧縮板を戻し、再び直ちに加圧板を初めの厚さの25±1%押し込み静止後20秒経過後の力を読み取り圧縮硬度とした。尚、押し込み速度は、毎分100±20mmとした。
【0031】
厚み、見掛け密度:JIS K 6401による。試料を15cm×15cmの大きさに切断し、100g/cmの荷重下で4ヶ所の高さを測定し、その平均値を厚みとした。また、その重量を測定し、見掛け密度を算出した。
【0032】
吸水特性に優れる材料(吸汗材料)を以下の方法で作製した。ポリエステルフィラメント(84デシテックス72フィラメント)を使用し、スムース組織で編成後、定法により精錬し、更に分散染料により染色した。その後、親水化剤(高松油脂株式会社製:SR−1000)を1%濃度でパッド、ドライし、親水性を付与した。このようにして得られた編地は、厚さ0.80mm、質量153g/m、吸水拡散性が2sec以下、吸水速度100mmであった。
【0033】
一方、3次元スプリング構造体を使用した通気流路部としては、東洋紡績株式会社製のブレスエアー(登録商標)を使用した。圧縮方向の厚みが20mm、見掛け密度45kg/m、圧縮硬度3.5kg/φ200のブレスエアーをタテ20cm、ヨコ20cmの大きさで通気流路部とした。
【0034】
一方、カバー材料は、ポリウレタンをナイロン織物へコーティングした布帛を使用した。使用したナイロン織物は、78デシテックス96フィラメントからなる質量60g/mの平織物を定法により精錬、染色、撥水処理、乾燥後、コーターを使用し、ウレタン樹脂溶液をコーティングした。これを、130℃のオーブンで十分な皮膜が形成されるまで乾燥処理し、樹脂層厚50μmのカバー材料を得た。得られたカバー材料は、質量68g/mの通気性の無い材料であった。更に、送風面以外をこのカバー材料で覆い送風の均一性を高めたものとし、ポリプロピレン製の長さ5cm、直径15mmの筒状の送風口を通気流路部の右側面へ設置した。
【0035】
着用試験:上記吸汗素材を使用したTシャツを作成し、カバー材料の4隅を吸汗素材に縫いつけた。送風温湿度15℃×30%RH、送風量150L/minで通気流路部へ送風しながら、冷却モニター試験を実施した。モニター試験は、環境温湿度32℃70%RHの人工気候室内で、30分間(5km/hr)トレッドミルで上を駆け足し、30分間での鼓膜温上昇値、最大心拍数及び主観申告により温熱快適感を判定した。更に、送風の阻害性と運動性については、ラジオ体操の各種運動を行った時の流量変動率とアンケートの結果から判定し、総合判定を行った。被験者数は10名とした。
【0036】
(実施例1)
前記吸汗材料と通気流路部を使用し、着用試験を実施した。得られた着用試験の結果を表1に示す。
【0037】
(実施例2)
前記吸汗材料と厚み25mm、見掛け密度30kg/m、圧縮硬度2kg/φ200の3次元スプリング構造体からなる通気流路部を使用し、着用試験結果を実施した。着用試験結果を表1に示す。
【0038】
(実施例3)
前記吸汗材料と厚み70mm、見掛け密度75kg/m、圧縮硬度9kg/φ200の3次元スプリング構造体からなる通気流路部を使用し、着用試験を実施した。着用試験結果を表1に示す。
【0039】
(実施例4)
前記吸汗材料と厚み5mm、見掛け密度10kg/m、圧縮硬度1kg/φ200の3次元スプリング構造体からなる通気流路部を使用し、着用試験を実施した。着用試験結果を表1に示す。
【0040】
(実施例5)
実施例1における通気流路部と厚さ0.18mm、質量50g/m、吸水拡散性が1sec以下、吸水速度150mmの吸汗材料を使用し、着用試験を実施した。着用試験結果を表1に示す。
【0041】
(実施例6)
実施例1における通気流路部の配置箇所を胸部から背中上部へ配置した以外は同様に着用試験を実施した。得られた着用試験の結果を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
前記吸汗材料と厚み5mm、見掛け密度5kg/m、圧縮硬度0.5kg/φ200の3次元スプリング構造体からなる通気流路部を使用し、着用試験を実施した。着用試験結果を表1に示す。
【0043】
(比較例2)
前記吸汗材料と厚み50mm、見掛け密度110kg/m、圧縮硬度15kg/φ200の3次元スプリング構造体からなる通気流路部を使用し、着用試験を実施した。着用試験結果を表1に示す。
【0044】
(比較例3)
実施例1における通気流路部と厚さ0.8mm、質量147g/mの親水化処理を施していない、吸水拡散性が20sec以下、吸水速度20mmの吸汗材料を使用し、着用試験を実施した。着用試験結果を表1に示す。
【0045】
(比較例4)
実施例1における通気流路部のカバー材料を除いた形態とした以外は同様に着用試験を実施した。得られた着用試験の結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1から6は、鼓膜温及び心拍数の上昇を抑制し、温熱快適感に優れる結果であり、さらには、運動時においても送風性の阻害が小さく、運動に支障をきたさない好適な冷却材料であるのに対し、比較例1、比較例3及び比較例4においては、冷却効果が確認されない結果であり、比較例2については、運動性が劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の冷却材料は、各種運動時における圧縮や冷却材料の上に重量のある鞄や装具等を装着した際にも、送風阻害と運動阻害が小さく、発汗を利用した冷却機構を最大限に利用可能な冷却材料であり、さらにこの冷却材料を使用した冷却衣服を提供することが可能であり、産業界に寄与することが大である。
【符号の説明】
【0049】
1:吸汗材料
2:通気流路部
3:カバー材料
4:送風口
5:通気流路部+カバー材料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも吸水特性に優れる材料(吸汗材料)と空気の流れる通気流路部とから構成される冷却材料であって、通気流路部の圧縮硬度が、1kg/φ200以上10kg/φ200以下であり、送風面(吸汗材料面)以外が通気性の無いカバー材料によって囲まれている冷却材料。
【請求項2】
通気流路部には、少なくとも1個以上の送風口が具備されている請求項1に記載の冷却材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の冷却材料を用いた冷却衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219410(P2012−219410A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87140(P2011−87140)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】