説明

凍結防止剤の製造方法

【課題】排ガスから、有害物質の排出基準を満たし、固結防止性の高い凍結防止剤を、経済的且つ効率的に製造する凍結防止剤の製造方法を提供すること。
【解決手段】重金属微粒子を除去する除塵バグフィルタ工程と、除塵バグフィルタ工程で分離された排ガスに炭酸水素ナトリウムを噴霧し、塩化ナトリウム及び炭酸ナトリウムを含む脱塩残渣を固相に捕集する脱塩バグフィルタ工程と、脱塩残渣を水に溶解して水溶液を生成すると共に塩酸を添加して酸性とし、塩化ナトリウムを生成する第1の塩化ナトリウム生成工程と、第1の塩化ナトリウム生成工程で生成された水溶液にpH6〜7となるように水酸化ナトリウムを添加して塩化ナトリウムを生成する第2の塩化ナトリウム生成工程と、第2の塩化ナトリウム生成工程で生成された水溶液から固形の塩化ナトリウムを製造する固形塩化ナトリウム生成工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凍結防止剤の製造方法に関し、詳しくは、ごみ焼却施設などから発生する排ガスから固結防止性の高い凍結防止剤を製造する凍結防止剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「スパイクタイヤ粉塵の発生の防止に関する法律」が平成2年度に施行され、近年ではスパイクタイヤを装着した車両はほとんどいなくなったが、この弊害として、「ツルツル路面」と呼ばれる非常に滑りやすい雪氷路面が発生するようになった。
【0003】
その対策として、道路管理者は、一般的に、凍結防止効果に優れる塩化ナトリウムを凍結防止剤として路面に散布して対応しているが、路面管理のさらなる充実が求められ、凍結防止剤としての塩化ナトリウムの使用量は年々増加している。
【0004】
国土交通省道路局国道・防災課道路防災対策室の検討委員会によって平成16年3月に定められた品質規定によれば、凍結防止剤は、その含有成分が、水質汚濁防止法により定められた有害物質の排水基準(表1)に適合することが適当であるとされている。
【0005】
【表1】

【0006】
一方で、廃棄物などの焼却により生じる排ガスの処理技術が、環境保護の面から注目されている。
【0007】
特に、廃棄物が塩化ビニルなどの塩素系物質や重金属を含む場合、排ガスは塩化水素や重金属を含むこととなり、環境破壊は深刻である。
【0008】
特許文献1には、排ガスからこれら塩化水素や重金属を分離すると共に、工業用の塩化ナトリウム水溶液を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3390433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、排ガスから凍結防止剤を製造することについて鋭意検討し、特許文献1に開示される工業用の塩化ナトリウム水溶液を製造する技術に着目した。
【0011】
まず、特許文献1の技術は、3つの技術を含む。
【0012】
1つ目は、乾式の固体残渣回収工程である。この工程では、排ガス中の塩化水素に炭酸水素ナトリウムを反応させて塩化ナトリウムを生成させて、固体塩化ナトリウムと重金属を含む固体残渣を回収する。
【0013】
2つ目は、湿式による重金属処理工程である。この工程では、塩化ナトリウムと重金属を含む水溶液から、重金属を凝集沈殿分離する。特許文献1は、重金属を沈殿させるために、水溶液をアルカリ性(pH8〜14)にしている。特許文献1は、排ガスに含まれる重金属として、Cd、Hg、Sb、Pb、Co、Cr、Cu、Mn、V、Sn、Fe、Ni、Al、Znなどを挙げている。これらの重金属には、アルカリ側で沈殿するものもあるが、Pb、Cr、Sn、Al、Znは、いわゆる両性金属であるから、アルカリ溶液中で溶解する性質がある。このため、pH8〜14で沈殿しない重金属は、分離されない重大な問題がある。そのため、以下に説明する3つ目の処理工程が必須となる。
【0014】
即ち、特許文献1の3つ目の処理工程として、有害物質である重金属で汚染された塩化ナトリウム溶液をキレート樹脂で処理している。
【0015】
しかし、キレート樹脂は、相当高価であり、イニシャルコストが高くなり、劣化も早く、ランニングコスト上昇を招く問題がある。特に、大量の塩化ナトリウムを必要とする凍結防止剤の製造において、このような高コストな処理工程を用いることは、実用性を満たすものではない。
【0016】
このように、特許文献1の技術は、凍結防止剤の製造に適するものではない。
【0017】
さらに、一般的に塩化ナトリウムの保管には、その運搬や散布時の積み込み等の容易さからフレキシブルコンテナ(以下フレコンと略す)が多く用いられ、冬期間は散布に備え各事務所や事業所とその除雪ステーション等の薬剤庫や倉庫にフレコンを2段、3段と積み上げた状態で保管している。
【0018】
しかしながら保管中の塩化ナトリウムが固結して、作業への障害や散布機械への悪影響をもたらすといった問題が生じている。
【0019】
そこで、本発明の課題は、ごみ焼却施設などから発生する排ガスから、有害物質の排出基準を満たし、固結防止性の高い凍結防止剤を、経済的且つ効率的に製造する凍結防止剤の製造方法を提供することにある。
【0020】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0022】
(請求項1)
塩化ナトリウムを主成分とする凍結防止剤の製造方法において、
ごみ焼却施設などから発生する少なくとも塩化水素と重金属微粒子を含む排ガスを、除塵バグフィルタで処理して該重金属微粒子を除去する除塵バグフィルタ工程と、
前記除塵バグフィルタ工程で分離された排ガスに、炭酸水素ナトリウムを噴霧し、排ガス中の塩化水素ガスと反応させると共に、反応生成物である塩化ナトリウム、及び、未反応の炭酸水素ナトリウムが熱分解して生成した炭酸ナトリウムを含む脱塩残渣を固相に捕集する脱塩バグフィルタ工程と、
前記脱塩バグフィルタ工程で捕集された脱塩残渣を水に溶解して水溶液を生成すると共に塩酸を添加して酸性とし、塩酸と炭酸ナトリウムの反応生成物として塩化ナトリウムを生成する第1の塩化ナトリウム生成工程と、
前記第1の塩化ナトリウム生成工程で生成された水溶液に、pH6〜7となるように水酸化ナトリウムを添加して、塩酸と水酸化ナトリウムの反応生成物として塩化ナトリウムを生成する第2の塩化ナトリウム生成工程と、
前記第2の塩化ナトリウム生成工程で生成された水溶液から、固形の塩化ナトリウムを製造する固形塩化ナトリウム生成工程と、
を有することを特徴とする凍結防止剤の製造方法。
【0023】
(請求項2)
排ガスがフッ素ガスを含み、前記第2の塩化ナトリウム生成工程と前記固形塩化ナトリウム生成工程との間に、前記水溶液に塩化カルシウムを添加して、下記反応により塩化ナトリウムを生成すると共に、フッ化カルシウムを固相に捕捉してフッ素の除去を行う第3の塩化ナトリウム生成工程を有することを特徴とする請求項1記載の凍結防止剤の製造方法。
2NaF(可溶)+CaCl→2NaCl+CaF(沈殿)
【0024】
(請求項3)
前記第3の塩化ナトリウム生成工程における塩化カルシウムの添加量が、凍結防止剤中の塩化ナトリウムの純度が95%以上を保持できる範囲で、上記反応に必要な当量以上の過剰量とすることを特徴とする請求項2記載の凍結防止剤の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ごみ焼却施設などから発生する排ガスから、固結防止性の高い凍結防止剤を、経済的且つ効率的に製造する凍結防止剤の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る凍結防止剤の製造方法を示すブロックフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について、好ましい実施の形態に基づいて説明する。
【0028】
本発明において、排ガスは、ごみ焼却施設などから発生する排ガスであり、これらの排ガスには、少なくとも塩化水素と重金属微粒子を含む。
【0029】
凍結防止剤の製造には、これらの排ガスが原料として用いられる。排ガスに含まれる重金属微粒子としては、Cd、Hg、Sb、Pb、Co、Cr、Cu、Mn、V、Sn、Fe、Ni、Al、Znなどの微粒子の1種または2種以上を例示できる。
【0030】
本発明の凍結防止剤の製造方法は、図1に示すように、除塵バグフィルタ工程1と、脱塩バグフィルタ工程2と、第1の塩化ナトリウム生成工程3と、第2の塩化ナトリウム生成工程4と、固形塩化ナトリウム生成工程5とを有する。好ましい態様としては、前記第2の塩化ナトリウム生成工程4と前記固形塩化ナトリウム生成工程5との間に、第3の塩化ナトリウム生成工程6を有する。
【0031】
除塵バグフィルタ工程1は、除塵バグフィルタを備え、導入される排ガス中に含まれる灰分や重金属微粒子を分離する。
【0032】
本発明においては、排ガスに含まれる重金属微粒子を分離除去することが重要であり、たとえば、Cd、Sb、Pb、Co、Cr、Cu、Mn、V、Sn、Fe、Ni、Al、Znなどの微粒子は分離除去され、排ガス中から凍結防止剤としての品質上問題となる微粒子は除去される。
【0033】
また、除塵バグフィルタを用いることによって、従来技術における溶液のアルカリ処理では除去が困難であったPb、Cr、Sn、Al、Znのような両性金属微粒子も除去されるので、その後のアルカリ沈澱処理が不要になる効果がある。
【0034】
除塵バグフィルタとしては、排ガス中から凍結防止剤としての品質上問題となる微粒子を除去する観点から、DOP粒子阻止率が99.9%以上の特性を有する濾材を用いる。なお、上記DOP粒子阻止率は、DOP粒子(0.5μmの粒子径を有するフタル酸ジオクチルエアロゾル)を、風速3.2m/minの条件で濾材通過を阻止できる割合(100分率)として示される。
【0035】
排ガスに含まれる重金属粒子の粒径は、1μm〜500μmの範囲であり、その他の微粒子も同様である。従って、上記性能を備える除塵バグフィルタであれば、これら重金属微粒子を除去することができる。
【0036】
除塵バグフィルタの素材は、排ガスの温度が、好ましくは100〜250℃、より好ましくは、150〜200℃の範囲であることから耐熱性の素材であることが好ましく、更に、塩化水素の腐食性を考慮すると、耐食性のある素材であることが好ましく、例えば、PTFEフェルト、PTFEメンブレン加工したガラス織布等が挙げられ、中でもPTFEメンブレン加工したガラス織布が好ましい。
【0037】
脱塩バグフィルタ工程2は、脱塩バグフィルタを備え、脱塩バグフィルタに除塵バグフィルタ工程1で重金属微粒子が除去された排ガスを導入し、該脱塩バグフィルタ内に炭酸水素ナトリウムを噴霧し、塩化水素ガスと反応させて塩化ナトリウム(食塩)を生成する。
【0038】
排ガスに炭酸水素ナトリウムを添加するには、炭酸水素ナトリウムを粒径5μm〜40μmの粉末として供給することが好ましい。
【0039】
炭酸水素ナトリウムは、排ガス中に存在する気体状の塩化水素との下記反応により、脱塩残渣として塩化ナトリウムを固相に生成する。
【0040】
HCl+NaHCO→NaCl+CO+H
【0041】
脱塩バグフィルタ工程2に導入される排ガスは、フッ化水素を含む場合があり、フッ化水素を含む場合は、下記反応により副生したフッ化ナトリウムが脱塩残渣に含まれる。
【0042】
HF+NaHCO→NaF+CO+H
【0043】
これらの結果、反応生成物である塩化ナトリウムやフッ化ナトリウムを含む脱塩残渣が、脱塩バグフィルタによって捕捉される。
【0044】
また、噴霧された炭酸水素ナトリウムのうち排ガス成分との未反応分は、熱分解されることにより炭酸ナトリウムとして捕捉されて、脱塩残渣に含まれることになる。上述したように排ガスの温度が、好ましくは100〜250℃、より好ましくは、150〜200℃の範囲であれば、未反応の炭酸水素ナトリウムが好適に炭酸ナトリウムに熱分解される。
【0045】
一方、脱塩バグフィルタを通過した排ガスは、熱回収後に大気に放散することも可能である。後段の晶析において、熱源として利用してもよい。
【0046】
本発明の脱塩バグフィルタ工程2に用いられる脱塩バグフィルタが備えるフィルタは、フィルタを通過した後、大気に開放されることを考慮し、DOP粒子阻止率は高いほうが望ましい。具体的には、DOP粒子阻止率が99.9%以上の特性を有する濾材を用いることが好ましい。
【0047】
生成する脱塩残渣の粒径は、5μm〜40μmの範囲であり、DOP粒子阻止率が99.9%以上の特性を有するガラス織布製のフィルタ材料を用いれば、脱塩残渣を好適に捕集することができる。
【0048】
本発明は、一段目の除塵バグフィルタで、重金属微粒子を捕集すると共に、塩化水素を気体のまま通過させ、炭酸水素ナトリウムとの反応後に、二段目の脱塩バグフィルタで、重金属微粒子が除去された食塩を主成分とする脱塩残渣を回収することが可能となる。
【0049】
本発明者は、除塵バグフィルタ工程1及び脱塩バグフィルタ工程2を併用し、これに排ガスを通す試験を実際に行い、脱塩バグフィルタにおける捕集物の成分分析を行い、フッ素と水銀を除き、重金属類について凍結防止剤の基準を満足する脱塩残渣を回収することが可能であることを確認している(表2)。
【0050】
これに対して、除塵バグフィルタ工程1のみの場合、又は、脱塩バグフィルタ工程2のみの場合について試験を行った場合では、回収された残渣から、フッ素と水銀の他にも、Zn、Pb、Cuが凍結防止剤の基準値を上回って検出される場合があることを確認している。
【0051】
なお、上記各試験において、除塵バグフィルタのろ布はPTFEメンブレン加工したガラス織布とし、脱塩バグフィルタのろ布はガラス織布とした。
【0052】
【表2】

【0053】
除塵バグフィルタ工程1のみの場合、又は、脱塩バグフィルタ工程2のみの場合では、脱塩残渣に、フッ素と水銀の他にも、Zn、Pb、Cuが凍結防止剤の基準値を上回るために、従来は、水酸化物等を添加してアルカリ性下において沈殿処理を行ったり、キレート樹脂で処理したりする工程が必要となり、凍結防止剤を生産する場合に高コスト且つ低効率となる問題があった。
【0054】
これに対して、本発明では、フッ素と水銀を除き、重金属類について凍結防止剤の基準を満足する脱塩残渣を回収することが可能であるから、水酸化物等を添加してアルカリ性下において沈殿処理を行ったり、キレート樹脂で処理したりする工程が不要となる。
【0055】
本発明では、後段の処理において、必要に応じてフッ素と水銀のみを除去できればよい。それ故、後に詳述するが、本発明では、フッ素と水銀の除去のために、低コスト且つ簡易であり、しかも、凍結防止剤の収率増加に繋がる除去方法を好適に用いることができる。
【0056】
第1の塩化ナトリウム生成工程3は、塩溶解槽を備え、脱塩バグフィルタ工程2において固相に捕集された脱塩残渣を導入して、水に溶解して水溶液を生成する。
【0057】
塩溶解槽の滞留時間(槽容積)は、脱塩残渣中の可溶性物質である塩化ナトリウム(食塩)が溶解する時間ないし容積であればよく、溶解水としては、格別限定されないが、後述する晶析で生じた凝縮水を好ましく用いることができる。
【0058】
さらに、第1の塩化ナトリウム生成工程3では、上記のようにして水溶液を生成すると共に、塩酸の添加により該水溶液を酸性にする。具体的には水溶液のpHを、好ましくは3〜6、より好ましくは3〜5の範囲とする。
【0059】
本発明では、脱塩バグフィルタ工程2において炭酸水素ナトリウムを用いたことにより、脱塩残渣は、熱分解生成物として、あるいは、炭酸水素ナトリウムの不純物として炭酸ナトリウム(Na2CO3)を含有している。
【0060】
従って、塩酸の添加により水溶液を好ましくはpH3〜6、より好ましくは3〜5の範囲の酸性とすることにより、塩酸と炭酸ナトリウムの反応生成物として塩化ナトリウムが生成する。
【0061】
第1の塩化ナトリウム生成工程3は、上述した塩溶解槽と別に、塩化ナトリウムを生成するための第1の塩化ナトリウム生成タンクとを各々備えてもよいし、1つのタンクがこれらを兼ねてもよい。
【0062】
また、第1の塩化ナトリウム生成工程3において、塩酸の添加は、脱塩残渣を水に溶解する前乃至後の何れのタイミングであってもよい。例えば、あらかじめ塩酸が溶解された水に脱塩残渣を溶解して水溶液を生成することも、脱塩残渣の溶解速度を向上する等の効果を奏するため好ましいことである。
【0063】
本発明は、上述したように、炭酸ナトリウムを構成するナトリウムを、精製塩の収率向上のために有効利用する点に、一つの特徴を有する。
【0064】
さらに、塩酸の添加により、好ましくはpH3〜6、より好ましくは3〜5の範囲の酸性に調整することで、下記反応により、溶液から炭酸を好適に除去することも可能となる。
【0065】
NaCO+2HCl→2NaCl+CO+H
【0066】
第2の塩化ナトリウム生成工程4は、第2の塩化ナトリウム生成タンクを備え、前記第1の塩化ナトリウム生成工程3で生成された水溶液に、pH6〜7となるように水酸化ナトリウムを添加して、第1の塩化ナトリウム生成工程3において添加された塩酸と、水酸化ナトリウムの反応生成物として更なる塩化ナトリウムを生成する。これにより、精製塩の収率が更に向上する効果を奏する。
【0067】
本発明において、好ましい態様として設けられる第3の塩化ナトリウム生成工程6は、第3の塩化ナトリウム生成タンクを備え、第2の塩化ナトリウム生成工程4から送られる水溶液に、塩化カルシウムを添加する。
【0068】
これにより、以下に説明する3つの重要な効果が得られる。
【0069】
第1に、下記式に示すように、水溶液中に排ガスに由来するフッ化ナトリウムが存在する場合に、塩化カルシウムがフッ化ナトリウムと反応することによる塩化ナトリウムの生成である。これにより、精製塩の更なる収率向上が可能となる。
【0070】
2NaF(可溶)+CaCl→2NaCl+CaF(沈殿)
【0071】
第2に、上記の反応において、水溶液中に溶解しているフッ素を固相に補足して除去することが可能となる。これにより、後段で得られる精製塩が、凍結防止剤としての基準を満たすことが容易となり、無害性が更に向上する。
【0072】
さらに、第3の塩化ナトリウム生成工程において、好ましくは塩化カルシウムをフッ素の除去に必要な量(反応に必要な当量)よりも過剰に添加することにより、精製塩(凍結防止剤の原料)の固結防止性を向上することが可能となる効果を奏する。
【0073】
即ち、過剰添加分の塩化カルシウムは、塩化ナトリウムと共に精製塩に含有されることになる。塩化カルシウムを含む精製塩は、塩化カルシウムの高い吸湿性が塩化ナトリウム中の水分子を塩化カルシウムに移動させることにより、2水塩結晶の形成が防止され、塩輸送や保管時における固結が防止され、これを造粒して凍結防止剤の製品を製造する際、固結を解除する等の手間が解消される効果が得られる。
【0074】
国土交通省道路局国道・防災課道路防災対策室の検討委員会によって平成16年3月に定められた品質規定によれば、凍結防止剤として用いられる塩化ナトリウムの純度は95%以上を基本とすることが記載されている。従って、本発明の塩化カルシウム添加工程において過剰添加される塩化カルシウムの量は、精製塩中の塩化ナトリウムの純度が95%以上を保持できる範囲で過剰添加することが好ましい。
【0075】
ただし、本発明の塩化カルシウム添加工程において過剰添加される塩化カルシウムの量は、上記の範囲に限定されず、適量を過剰添加できる。例えば、上述した国土交通省による品質規定は、あくまでも、凍結防止剤として使用する塩化物のうち、塩化ナトリウムに適用するものであり、塩化ナトリウムと他の塩化物等の混合物については検討対象外としている。その一方で、凍結防止剤の固結防止性について、塩化ナトリウムと塩化カルシウムの混合物を検証し、塩化ナトリウムに対して20〜40%の塩化カルシウムを含む混合物が、固結防止性に優れるという調査結果も報告されている(宮本修司、他4名、「凍結防止剤の保管に関する調査」北海道開発土木研究所月報No.593、p.36−41、2002年10月)。
【0076】
塩化カルシウムは、価格が安いこと、毒性などが無いため凍結防止剤に混合して散布することに問題がないことという利点も有する。また塩化カルシウムは、それ自体が凍結防止剤としても用いられており、塩化ナトリウムよりも即効性があることが知られており、混合して用いることによって、塩化ナトリウム単体で用いたときよりも、即効性の改善についても効果が得られることが確認されている。
【0077】
このように、本発明において第3の塩化ナトリウム生成工程は、1つの工程で、塩化ナトリウムの収率向上、フッ素の除去、そして凍結防止剤としての特性の向上を図ることを可能とし、非常に有効である。
【0078】
固形塩化ナトリウム生成工程5は、好ましくは晶析工程であり、蒸発法又は冷却法によって、貯留槽に導入された水溶液中に塩化ナトリウムを析出させて分離する。
【0079】
本発明では、上述したように、第1〜第2の塩化ナトリウム生成工程、好ましくは、第1〜第3の塩化ナトリウム生成工程により、溶液中の塩化ナトリウム濃度が向上しているため、晶析工程における結晶化速度及び結晶生成量が向上し、晶析工程が効率化すると共に、精製塩の収率が向上する。
【0080】
晶析工程として蒸発法を用いた場合は、上述したように、第1〜第2の塩化ナトリウム生成工程、好ましくは、第1〜第3の塩化ナトリウム生成工程において発生した熱エネルギーを潜熱として有効利用できる。その際、蒸発した水分を、凝縮水として回収し、水資源を有効利用するために、上述したように第1の塩化ナトリウム生成工程における溶媒(水)として再利用することが好ましい。
【0081】
晶析工程として冷却法を用いた場合は、凝縮水中に塩化ナトリウムが残留するので、収率を向上するために後段の脱水工程で生成した塩水と共に貯留槽に返送することが好ましい。
【0082】
晶析工程において析出した塩は、回収され、脱水工程に供され、凍結防止剤が得られる。 脱水工程としては、塩の脱水が可能なものであれば何れでもよいが、乾燥法や遠心分離法等を好ましく例示できる。
【0083】
脱水工程から生成した塩水は、収率の向上のために、貯留槽に返送して、再度晶析工程に供することが好ましい。
【0084】
脱水工程で得られる精製塩の含水率は、3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。このように、精製塩の含水率を十分に低下させておくことで、凍結防止剤の固結防止性を更に向上することが可能となる。
【0085】
本発明においては、第3の塩化ナトリウム生成工程6で生じた沈殿(CaF)は、砂ろ過工程を備えることによって、水溶液から除去することが可能である。
【0086】
砂ろ過工程に用いる砂ろ過方式としては、固定層式、流動層式の何れでもよく、また、液流の方向としては、下向流方式、上向流方式の何れでもよい。
【0087】
排ガスの成分は、焼却される廃棄物に大きく依存するため、不確定な部分が大きいという実状がある。そのため、第1〜第2の塩化ナトリウム生成工程、好ましくは、第1〜第3の塩化ナトリウム生成工程において用いられる塩酸、水酸化ナトリウム及び塩化カルシウムは、それぞれ脱炭酸、中和及びフッ素除去を好適に行うために、ある程度の余裕を持った過剰量が添加されることが望ましい。一般的に、試薬を過剰に添加することは、コスト増やその他の弊害を誘発する原因になると考えられているが、本発明においては、上述したように、第1〜第2の塩化ナトリウム生成工程、好ましくは、第1〜第3の塩化ナトリウム生成工程における過剰添加分が協働して塩化ナトリウムを増産させるため、精製塩の収率が向上し、更には、収率が向上することにより純度が上昇し、好ましくは塩化カルシウムが共存することによる凍結防止剤の固結防止性の向上という効果を生じる。
【0088】
更に、本発明では、第1〜第2の塩化ナトリウム生成工程、好ましくは、第1〜第3の塩化ナトリウム生成工程において添加される塩酸、水酸化ナトリウム及び塩化カルシウム、が何れも高い水和熱及び中和熱を発生するため、この熱エネルギーを保持して、後段の晶析工程における潜熱として利用することができ、エネルギーコストの低減効果も得られる。
【0089】
ところで、本発明では、上述した除塵バグフィルタ工程において、重金属を取り除いているが、Hgが含まれる場合は、他の重金属に比べて大幅に沸点が低いために、一部が排ガス中に蒸発している場合があり、除塵バグフィルタによる捕集が比較的困難な場合がある。本発明では、更なるHgの除去のために、脱塩残渣を溶解した水溶液を、晶析工程に供する前の段階で、活性炭吸着工程に供することが好ましい。これにより、凍結防止剤の無害性が更に向上する。
【0090】
活性炭は、一般的な重金属に対する吸着性に劣るが、Hgに対しては高い吸着性を示すことが知られている。本発明では、Hg以外の重金属が除塵バグフィルタ工程で除去されているため、活性炭吸着法を好ましく用いることができる。活性炭吸着法には、コストが低いというメリットがあり、大量の精製塩を製造する必要がある凍結防止剤の製造方法において、特に好適である。これに対して、水銀除去工程としてキレート樹脂吸着法を用いた場合は、工程が高コスト化し、大量の精製塩を製造する必要がある凍結防止剤の製造方法において、実用性を損なうため好ましくない。
【0091】
本発明において得られた精製塩は、そのまま凍結防止剤として用いてもよいし、適宜添加剤を配合して用いてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1:除塵バグフィルタ工程
2:脱塩バグフィルタ工程
3:第1の塩化ナトリウム生成工程
4:第2の塩化ナトリウム生成工程
5:固形塩化ナトリウム生成工程
6:第3の塩化ナトリウム生成工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウムを主成分とする凍結防止剤の製造方法において、
ごみ焼却施設などから発生する少なくとも塩化水素と重金属微粒子を含む排ガスを、除塵バグフィルタで処理して該重金属微粒子を除去する除塵バグフィルタ工程と、
前記除塵バグフィルタ工程で分離された排ガスに、炭酸水素ナトリウムを噴霧し、排ガス中の塩化水素ガスと反応させると共に、反応生成物である塩化ナトリウム、及び、未反応の炭酸水素ナトリウムが熱分解して生成した炭酸ナトリウムを含む脱塩残渣を固相に捕集する脱塩バグフィルタ工程と、
前記脱塩バグフィルタ工程で捕集された脱塩残渣を水に溶解して水溶液を生成すると共に塩酸を添加して酸性とし、塩酸と炭酸ナトリウムの反応生成物として塩化ナトリウムを生成する第1の塩化ナトリウム生成工程と、
前記第1の塩化ナトリウム生成工程で生成された水溶液に、pH6〜7となるように水酸化ナトリウムを添加して、塩酸と水酸化ナトリウムの反応生成物として塩化ナトリウムを生成する第2の塩化ナトリウム生成工程と、
前記第2の塩化ナトリウム生成工程で生成された水溶液から、固形の塩化ナトリウムを製造する固形塩化ナトリウム生成工程と、
を有することを特徴とする凍結防止剤の製造方法。
【請求項2】
排ガスがフッ素ガスを含み、前記第2の塩化ナトリウム生成工程と前記固形塩化ナトリウム生成工程との間に、前記水溶液に塩化カルシウムを添加して、下記反応により塩化ナトリウムを生成すると共に、フッ化カルシウムを固相に捕捉してフッ素の除去を行う第3の塩化ナトリウム生成工程を有することを特徴とする請求項1記載の凍結防止剤の製造方法。
2NaF(可溶)+CaCl→2NaCl+CaF(沈殿)
【請求項3】
前記第3の塩化ナトリウム生成工程における塩化カルシウムの添加量が、凍結防止剤中の塩化ナトリウムの純度が95%以上を保持できる範囲で、上記反応に必要な当量以上の過剰量とすることを特徴とする請求項2記載の凍結防止剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−184312(P2012−184312A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47824(P2011−47824)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】