説明

凸版反転オフセット印刷用凸版およびその製造方法、あるいはそれを用いた印刷物製造方法

【課題】凸版反転オフセット印刷法による印刷物の製造時に、生産性が高く、欠陥の少ない印刷物が製造できる凸版反転オフセット印刷用除去版を提供する。
【解決手段】インキをインキ膜形成基材上に塗布してインキの膜を形成するインキ膜形成工程と、該インキ膜に対し所定形状の凸版10を接触させて凸版10の凸部14に該インキ膜の不要部を転写してインキ膜形成基材から除去する除去工程と、該インキ膜形成基材上に残った該インキ膜の要部を被印刷基板に転写する転写工程とを備える凸版反転オフセット印刷法に使用する凸版10であって、該凸版10のインキ膜接触面にインキ剥離性処理がされている凸版反転オフセット印刷用凸版とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反転オフセット印刷法に用いる除去版として凸版を使用する凸版反転オフセット印刷法に関し、特に凸版及びその製造方法、さらにそれを用いた印刷物製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の低コスト化および微細化に対応するため、電子部品が備える配線や絶縁層などのパターン状の皮膜を印刷法により形成することが試みられている。
【0003】
印刷法のなかでも、微細な画像パターンを形成可能な印刷法として、反転オフセット印刷法が挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
反転オフセット印刷法に用いる装置50の模式図を図5に示す。なお、図5及び図6中の白抜き矢印は移動方向を示している。図5には、通称ブランケット52と呼ばれる筒状のインキ膜形成基材と、ブランケットにインキを供給しインキ膜53とするインキ供給手段51と、ブランケット上に形成されたインキ膜から不要部53bを除去する除去版54と、ブランケット上に残された要部53aを転写されて印刷物となる被印刷基板55と、被印刷基板を印刷に適切な位置へ搬送する搬送手段56が示されている。ブランケットには通常インキ膜が剥がれ易いような処理がなされ、例えばシリコーンゴムが用いられる。また、ここではインキ膜形成基材は筒状に、除去版は板状に描かれているが、均一なインキ膜が形成可能であればインキ膜形成基材の形状は筒状であっても板状であってもよく、例えばたわみを持たせた円弧状を選択することもできる。また除去版も適切にインキ膜の不要部を除去可能であればいずれの形状を選択してもよい。
【0005】
図6により印刷工程を順を追って説明する。
まず、インキ供給手段61からインキをインキ膜形成基材62上に塗布してインキ膜63を形成する(図6(a))。このとき、インキはインキ膜形成基材上で予備乾燥状態に置かれ、多少の溶媒を失ってインキ膜となる。ついで、該インキ膜に対し所定形状の除去版64を接触させて該インキ膜の不要部63bを転写してインキ膜形成基材から除去する(図6(b))。ここでは除去版として要部に対応する部位が凹部、不要部に対応する部位が凸部となった凸版を使用している。次に、該インキ膜形成基材上に残った該インキ膜の要部63aを被印刷基板65に転写して、印刷物を得ることができる(図6(c))。
【0006】
このような凸版反転オフセット印刷法により画像パターンを形成する例として、基材上に導電性インキを用いて印刷を行い、電磁波シールドを作製することが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0007】
ここで、除去版は、印刷物の製造工程で再利用されるのが普通であるため、インキ膜形成基材から不要なインキ膜を除去した後、除去版自身の洗浄が必要となる。除去版の洗浄方法としては、薬品水溶液や有機溶剤で洗浄する方法が考えられるが、廃液の処理設備が必要で、除去版の乾燥に時間がかかって連続して使用・生産ができないという問題があった。また、除去版のレリーフの間にインキ膜の残骸が残留するという問題もあった。
【0008】
【特許文献1】特開2000−289320号公報
【特許文献2】特開2005−175061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのため、粘着性の層を設けたフィルム(粘着性フィルム)に除去版を押し当て、除去版が保持するインキ膜を転移させる方法が考えられた。しかし、除去版はインキ膜形成基材からインキ膜をはがし取ることができる程度にインキ膜との親和性が高くなければならない。特に除去版の材料としてガラスを用いた場合、ガラスの純水に対する接触角は大きいことから、除去版からのインキ膜の除去(転移)はより一層困難となる。
さらに、印刷物である電子部品等の汎用性と、生産効率を向上させるために、被印刷基材としてロール状となった長尺のフレキシブルなフィルムを用い、連続して画像パターンを形成することが求められている。連続的に除去版の使用と洗浄を繰り返す場合、除去版が確実に洗浄されているか、そして洗浄後すぐに使用可能であるかどうかはその生産性に密接にかかわってくる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は洗浄が容易かつ確実になされ、かつ洗浄後すぐに使用が可能な除去版を提供する。すなわち、上記課題を解決するためになされた第1の発明は、インキをインキ膜形成基材上に塗布してインキの膜を形成するインキ膜形成工程と、該インキ膜に対し所定形状の凸版を接触させて凸版の凸部に該インキ膜の不要部を転写してインキ膜形成基材から除去する除去工程と、該インキ膜形成基材上に残った該インキ膜の要部を被印刷基板に転写する転写工程とを備える凸版反転オフセット印刷法に使用する凸版であって、該凸版の凹凸を有している面にインキ剥離性処理がされていることを特徴とする凸版反転オフセット印刷用凸版である。
【0011】
請求項2にかかる第2の発明は、前記インキ剥離性処理はシランカップリング剤による処理であることを特徴とする請求項1記載の凸版反転オフセット印刷用凸版である。
請求項3に係る第3の発明は、前記シランカップリング剤はアルキルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項2記載の凸版反転オフセット印刷用凸版である。
【0012】
請求項4に係る第4の発明は、前記凸版の備える凸部の頂部と、凸部側面及び凹部底面とでは異なるインキ剥離性処理がされていることを特徴とする請求項1記載の凸版反転オフセット印刷用凸版である。
【0013】
請求項5に係る第5の発明は、前記凸版の備える凸部側面及び凹部底面の純水に対する接触角が、前記凸版の備える凸部の頂部の純水に対する接触角よりも大きいことを特徴とする請求項4記載の凸版反転オフセット印刷用凸版である。
請求項6に係る第6の発明は、前記凸版の備える凸部側面及び凹部底面になされたインキ剥離性処理はフルオロアルキルシラン、フルオロアルキル基を含むオリゴマー、もしくは加水分解性基を含むシロキサンによる処理であることを特徴とする請求項4または5記載の凸版反転オフセット印刷用凸版である。
【0014】
請求項7に係る第7の発明は、インキをインキ膜形成基材上に塗布してインキの膜を形成するインキ膜形成工程と、該インキ膜に対し所定形状の凸版を接触させて凸版の凸部に該インキ膜の不要部を転写してインキ膜形成基材から除去する除去工程と、該インキ膜形成基材上に残った該インキ膜の要部を被印刷基板に転写する転写工程とを備える凸版反転オフセット印刷法に使用する凸版の製造方法であって、凸版基材となる基板表面の凸部に対応する位置をパターン状にマスクする工程、基板表面のマスクされていない領域をエッチングする工程、基板表面のエッチングされた領域に第2のインキ剥離性処理を施す工程、パターン状になされたマスクを剥離する工程、マスク剥離後に第1のインキ剥離性処理を施す工程、を備えることを特徴とする凸版反転オフセット印刷用凸版の製造方法である。
【0015】
請求項8に係る第8の発明は、少なくとも、インキをインキ膜形成基材上に塗布してインキの膜を形成するインキ膜形成工程と、該インキ膜に対し所定形状の凸版を接触させて凸版の凸部に該インキ膜の不要部を転写してインキ膜形成基材から除去する除去工程と、該インキ膜形成基材上に残った該インキ膜の要部を被印刷基板に連続的に転写する転写工程とを繰り返す凸版反転オフセット印刷法による印刷物製造方法であって、さらに、前記除去工程後に凸版の凸部と粘着性フィルムの粘着面とを接触させて凸版の凸部が保持するインキ膜を粘着性フィルムへ転移させ凸版を洗浄する洗浄工程を備え、該凸版として請求項1乃至6記載の凸版反転オフセット印刷用凸版を用いることを特徴とする印刷物製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の凸版反転オフセット印刷用凸版は、その表面にインキ剥離性の処理がなされているので、容易に不要なインキ膜を取り除くことができる。特に、粘着性フィルムを用いたドライ環境での洗浄によっても、確実にインキ膜を除去できるので、迅速に次の印刷に用いることができ、特に連続的な印刷に向いている。また、凸部頂部に第2のインキ剥離性処理を、凸部側面及び凹部底部に第1のインキ剥離性処理を施した本発明の凸版反転オフセット印刷用凸版は、洗浄液による洗浄によっても、凹部にインキ膜の残骸が残らず良好に洗浄できる。
また、本発明の印刷物製造方法は、洗浄が容易で確実かつ洗浄後にすぐに次の印刷が可能な凸版を除去版として用いているので、印刷を停止することなく連続的に印刷物の生産を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<凸版>
本発明の凸版について、図1及び図2を用いて説明する。
本発明の凸版の材料は、ガラス、ステンレスなどの金属、各種材料あるいはそれらを組み合わせたものをなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。堅牢で加工が容易であることから、ガラスが好ましい。
【0018】
本発明の凸版10、20は、インキ膜形成基材上のインキ膜から不要部を除去し、要部を残すために、不要部に対応した部位が凸部(レリーフパターン)となるように形成されている。図1を用いて説明すると、本明細所中では凸版表面の最も高い部位を凸部頂部14、最も低い部位を凹部底面16とし、凸部の側面、あるいは凹部の側面でもある部位は凸部側面15とする。凸部頂部14と凹部底面16の差を版深dとし、その許容される範囲は製造される印刷物によって選択される。
【0019】
また、本発明の凸版はその表面にインキ剥離性処理がなされている(図1、図2)。ここで図1及び図3中の太線はインキ剥離性処理がされた面を表し、図2及び図4中の太破線は第1のインキ剥離性処理がされた面を、太線は第2のインキ剥離性処理がされた面を表す。インキ剥離性処理としてはシリコーンやシランカップリング剤を用いた化学的処理、フッ素プラズマなどの物理的処理などが挙げられるが、長期安定性などを考慮するとガラスや金属表面に対するシランカップリング処理が好ましい。
【0020】
インキ剥離性処理をするために選択するカップリング剤は用いるインキによって異なるが、メチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシランなどのアルキルシランカップリング剤が好ましい。インキ剥離性処理後の凸版表面は、純水に対する接触角が小さい方が好ましいが、上述のインキ膜形成基材であるブランケットのインキ膜形成面よりは純水に対する接触角が大きい方が好ましい。
【0021】
凸版の凸部及び凹部には同じインキ剥離性処理がなされていてもよい(図1)。凸部頂部に第2のインキ剥離性処理がなされ、凸部側面及び凹部底面には第1のインキ剥離性処理がなされ(図2)、凸部頂部よりも凸部側面及び凹部底面の純水に対する接触角が小さいことがより好ましい。第2のインキ剥離性処理には先に挙げたカップリング剤を好ましく用いることができる。また、凸部側面および底面の表面処理剤としては、撥インキ性の表面処理剤が好ましく、上述の観点から、第1のインキ剥離性処理にはシランカップリング剤の中でもフッ素元素やシロキサン基が含まれるシランカップリング剤を用いるのが好ましい。第1の剥離性処理に好ましく用いることのできる化合物としては例えば、長鎖フルオロアルキルシラン、加水分解性基含有シロキサン、フルオロアルキル基含有オリゴマーなどが挙げられる。
【0022】
凸版の表面にインキ剥離性処理を施す方法としては、上述のカップリング剤を凸版表面に化学的に結合させて固定する方法を挙げることができる。例えば、シランカップリング剤を使用した公知のガラス表面処理方法を用いることができる。すなわち、シランカップリング剤を水、酢酸水、水−アルコール混合液、あるいはアルコールに溶解させてカップリング剤溶液を調製する。次いで、前記カップリング剤溶液を公知の塗工方法であるスピンコート、ロールコート、アプリケータなどを用いてガラス表面に塗工する。最後に乾燥して溶媒を除くことでシランカップリング剤をガラスなどの凸版表面に固定できる。この方法は第2のインキ剥離性処理、第1のインキ剥離性処理ともに使用することができる。
【0023】
凸部頂部の純水に対する接触角は30度以上90度以下が好ましい。凸部側面及び凹部底面の純水に対する接触角はこれより大きく、90度以上180度以下が好ましい。凸版の全面に同じインキ剥離性処理を施した後、マスクをかけてUV照射等を行うことで、照射部と非照射部との純水に対する接触角に差を与えることもできる。
【0024】
<凸版の製造>
本発明の凸版の製造工程の一例を図3を用いて、他の例を図4を用いて説明する。図4では図3と共通する工程は省略してある。
まず、凸版基材31となる基板表面の凸部に対応する位置をパターン状にマスク32する(図3(a))。マスクは次に行われるレリーフ形成工程において基材表面を保護できればよく、例えば金属や感光性樹脂を用いることができる。金属の場合は蒸着の後、必要な部分を覆うようレジストを形成し、金属のみをエッチングする条件でエッチングを行うことでパターン状に形成できる。
【0025】
こうして得られた、マスク済みの基材33のマスクで覆われていない領域を彫り込んでレリーフ34を形成する(図3(b))。レリーフの形成方法は選択した基材に応じて適宜選択することができ、例えばサンドブラスト、ウエットブラストなどのブラスト法、FIB(収束イオンビーム)による切削、ナノインプリンティング法、ドライエッチング、ウエットエッチング等を挙げることができる。
【0026】
レリーフ形成法として例えば、ガラス基材上にクロム蒸着を行い、このクロム皮膜上にフォトリソグラフィー法によってレジストを形成、不要部(すなわち要部に対応する領域)を開口させ、エッチングを行う。次いでクロム皮膜上のレジストを剥離し、クロム皮膜をマスクとしてガラス基材のウエットエッチングを行い、ガラス基材に所定の深さのレリーフパターンを形成する。
【0027】
ここで、凸版頂部と、凸版側面及び凹部(すなわちエッチングによって新たに形成された面)とで異なるインキ剥離性処理を施す場合は、クロム皮膜のマスクを剥離する前に第1のインキ剥離性処理45aを行う(図4(a))。
【0028】
レリーフ形成後、凸版基材31からマスク32を除去し(図3(c))、凸版全面にインキ剥離性処理35を施すことで本発明の凸版30を得ることができる(図3(d))。マスク剥離前に第1のインキ剥離性処理45aが施されている場合はマスク42剥離後(図4(b))に第2のインキ剥離性処理45bを施し、本発明の他の実施形態である凸版40を得ることができる(図4(c))。後者の場合は、第1のインキ剥離性処理45aが施されている部分は既にカップリング処理が施されているため(表面がSiOではなくなっているため)、第2のインキ剥離性処理液が反応できず、マスクされていた部分だけに第2のインキ剥離性処理45bが施されることとなる。
【0029】
<印刷物の製造>
こうして得られた本発明の凸版を用いた凸版反転オフセット印刷法による印刷物の製造について図5及び図6を用い説明する。なお、既に説明したものについては説明を省略する。
本発明の凸版は、凸版反転オフセット印刷法の除去版として使用される。
【0030】
凸版反転オフセット印刷法に用いられるインキ膜形成基材は通称ブランケット52と呼ばれ、この材料としてはインキ膜の形成、凸版による非画像部(不要部53b、63b)のインキ膜除去及び被印刷基板55、65への画像部(要部53a、63a)インキ膜の転写が可能なものが用いられる。また、変形の少ない材料が好ましいが、ある程度の柔軟性が求められる。このような材料として、シリコーン系エラストマー、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴムなどを用いることができる。また、ブランケット表面の濡れ性を調整するため、ブランケット表面にフッ素樹脂およびシリコーンの塗布、プラズマ処理、UVオゾン洗浄処理などの表面処理を施しても良い。このようなインキ膜形成部材は通常可とう性の板として供給されるので、これを円筒形の版胴に巻きつけて用いたり(図5参照)、強度のある平板に固定して用いたりすることができる。
【0031】
凸版反転オフセット印刷法に用いられるインキは、製造する印刷物の種類に応じて調整すればよく、金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウムなどの金属微粒子分散液に必要に応じて各種添加剤を加えた導電性インキや、有機エレクトロルミネッセンス(EL)材料を有機溶媒に溶解または分散させたインキ、カラーフィルタ用顔料分散液などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ブランケット材料の膨潤などを考慮すると、水またはアルコール系溶媒を用いて調整することが好ましい。
【0032】
インキ膜形成基材上へのインキの供給手段51、61としては、均一なインキ膜が形成できればよく、バーコート、ダイコート、キャップコート、スピンコート、スリットコート法等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
インキ膜の転写によって画像が形成される被印刷基板55、65は、目的とする印刷物に応じて適宜選択することができる。電子部品を製造する場合は通常、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネートなどのフレキシブルなプラスチック材料、石英などのガラス基板やシリコンウェハーなどを挙げることができる。印刷物が使用される環境に合わせてフィルム等のフレキシブルな基材を選択することも可能である。この場合は生産効率の向上のために長尺の基材を用い、連続して印刷を行うことが好ましく、本発明の凸版を用いて印刷を行えば、ロール状の長尺基材に対しても効率よく印刷を行うことができる。
【0034】
本発明の凸版54、55を用いた製造方法により製造される印刷物としては、例えば、薄膜トランジスタ基板、カラーフィルタ、プリント配線板、有機エレクトロルミネッセンス素子等を挙げることができる。薄膜トランジスタ基板は、複数の薄膜トランジスタを画素に対応してアレイ状に備え、液晶ディスプレイ等各種画素毎のオン−オフが必要なディスプレイの部材として使用することができる。
【0035】
本発明の凸版を用いて印刷される画像パターンとしては、例えば、薄膜トランジスタ基板の備える電極、キャパシタ電極、配線等を、また、カラーフィルタの備える着色層、有機エレクトロルミネッセンス素子の備える電極や有機エレクトロルミネッセンス層、プリント配線板の備える配線や、素子内蔵型のプリント配線板である場合はキャパシタ電極や誘電体層、抵抗素子電極や抵抗体、インダクタ、トランジスタ構成部材等の受動素子・能動素子を挙げることができる。
【0036】
インキ膜形成基材からの不要インキ膜除去後に、凸版の凸部が保持するインキ膜は洗浄工程によって洗浄される。凸版の洗浄方法としては、薬液や有機溶剤によって洗浄する方法と、粘着剤を担時した粘着性フィルムにインキ膜を押し当てて取り除く方法とを挙げることができる。洗浄に使用することのできる薬液としては、例えばアルカリ性の洗浄液を挙げることができる。有機溶媒としては例えばトルエン等を挙げることができる。インキ膜の組成によって適宜選択することができ、凸版を構成する材料を侵さない液を選べばよい。洗浄時には超音波により振動を与えることもできる。洗浄に用いることのできる粘着性フィルムとしては、市販の粘着性フィルムを使用することができ、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体を基材フィルムとし、アクリル系粘着剤を塗布することによって粘着性の付与された粘着性フィルムを用いることができる。洗浄時に粘着剤が凸版側に転移しなければよい。粘着性フィルムによる洗浄は、洗浄後即時印刷に用いることができるので、特に連続的に同じ凸版を用いて印刷を行う場合に適している。そのため、粘着性フィルムもロール状状態で供給され、使用に応じて必要な部分を凸版に押し当て、使用後のフィルムは巻き取られるようになっていてもよい。
以下、本発明の実施の形態を例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0037】
凸版の材料として、100mm×100mm、0.7mm厚のガラス板を用いた。このガラス板の片面にクロムを蒸着により50nm製膜した。このクロム皮膜上にポジレジストを用いたフォトリソグラフィー法によってレジストパターンを形成し、露出したクロム皮膜をエッチングした。レジストを剥離してクロムの画像パターンが形成されたガラス板を得た。
このクロム皮膜をマスクとし、フッ酸を用いたガラスエッチングにより、凹部の深さが5μmになるように凹凸を形成後、クロムパターンをエッチングにより剥離して不要部に対応する部位が凸部、要部に対応する部位が凹部となった反転オフセット印刷用凸版を作製した。
【0038】
次いで、シランカップリング剤としてn−ヘキシルトリメトキシシラン(日本ユニカー社製:商品名AZ−6177)をイソプロピルアルコールに0.5重量%で溶解させた溶液をこの除去版の凹凸形成面上にスピンコートし、120℃で10分乾燥させることにより凸版の凹凸形成面全体にシランカップリング剤を化学的に結合させ、インキ剥離性の処理を施した本発明の反転オフセット用凸版を作製した。こうして得られた凸版表面(凹凸を有している面)の純水に対する接触角は79.8度である。
【0039】
こうして得られた本発明の凸版を実際に凸版反転オフセット印刷法に供し、性能を評価した。テストに用いるインキとして、カラーフィルタ用の着色インキを用いた。着色インキの組成を以下に示す。
【0040】
まず、赤色顔料分散液を下記の組成で調整した。
<赤色顔料分散液>
・赤色顔料
C.I. Pigment Red 254(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 「イルガーフォーレッド B−CF」)…18重量部
C.I. Pigment Red 177 (チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 「クロモフタールレッド A2B」)…2重量部
・アクリルワニス(固形分20%)…108重量部
【0041】
<赤色着色インキ>
その後、下記組成の混合物を均一になるように攪拌混合した後、5μmのフィルタで濾過して赤色着色インキを得た。
・上記赤色顔料分散液…100重量部
・メチル化メチロールメラミン(三洋化成工業株式会社製:商品名MW−30)…20重量部
・レベリング剤(大日本インキ化学工業株式会社製:商品名メガファック F−483SF)…1重量部
・プロピレングリコールモノメチルエーテル…85重量部
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート…45重量部
【0042】
こうして調整した赤色着色インキをブランケット(GE東芝シリコーン社製:商品名TSE3455T)上に#6のバーコーターを用いて塗布、室温で約2分乾燥させた後、インキ剥離性の処理を施した本発明実施例1の凸版をブランケット上の乾燥したインキ膜に接触させ非画像部のインキ膜を除去した。次いで、画像部が残されたブランケットと被印刷基板であるガラス基板を接触させてブランケットから画像部のインキ膜をはがすことでガラス基板上にインキパターンを得た。
ブランケットから転移した凸版上のインキ膜は、粘着フィルムと当該凸版のインキ膜転移面を接触させることで、凸版上からすべて取り除くことができた。ここで用いた粘着フィルムはエチレン酢酸ビニル共重合体のフィルムにアクリル系粘着剤が塗布してあるものである。
【実施例2】
【0043】
実施例1と同様にガラス板のエッチングまでを行い、不要部に対応する部位が凸部、要部に対応する部位が凹部となり、凸部頂部にはクロム皮膜を残したガラス板を得た。
次いで、シランカップリング剤としてフルオロアルキルシラン(GE東芝シリコーン社製:商品名TSL8233)をイソプロピルアルコールに0.5重量%となるよう溶解させた溶液にこの凸版を10分間浸漬後、120℃で10分乾燥させることにより凸部側面および底面に第1のインキ剥離性処理として撥インキ性処理を施した。その後、エッチングによりクロムパターンを剥離し、次いで、n−ヘキシルトリメトキシシラン(日本ユニカー製AZ−6177)をイソプロピルアルコールに0.5重量%で溶解させた溶液を凸版上にスピンコートし、120℃で10分乾燥させることにより第2のインキ剥離性処理を凸版頂部に施した。こうして本発明の他の形態の凸版反転オフセット印刷用凸版を作製した。この他の実施形態の凸版の、凸部頂部の純水に対する接触角は79.8度、凸部側面及び凹部底面の純水に対する接触角は101.1度である。
【0044】
こうして得られた本発明の他の形態の凸版を実施例1と同様に凸版反転オフセット印刷法に供し、性能を評価した。印刷法及び評価に用いたインキは実施例1と同様である。
ブランケットから転移した凸版上のインキ膜を、メチルエチルケトンを用いて洗浄し、凸版を圧縮エアーにより乾燥した。結果、本発明の他の実施形態である凸版からインキは除去でき、且つ凹部にもインキは残っていなかった。
【実施例3】
【0045】
実施例1で製造した、本発明の実施形態である凸版を用い、実施例1と同様に評価を行った。印刷法及び評価に用いたインキは実施例1と同様であり、かつ、凸版の洗浄方法も実施例1と同様とした。但し、評価は一回の印刷毎に実施例1の方法で凸版を洗浄するほかはなにも凸版に手を加えずに、100枚連続で印刷を行い、得られた印刷物を評価した。
その結果、得られた印刷物に欠陥や汚れはなく、100枚すべて良好に印刷されていた。
【実施例4】
【0046】
実施例2で製造した、本発明の他の実施形態である凸版を用いた他は実施例3と同様に連続して印刷を行い、印刷物を評価した。その結果、得られた印刷物に欠陥や汚れはなく、100枚すべて良好に印刷されていた。
【実施例5】
【0047】
実施例1で製造した、本発明の実施形態である凸版を用い、実施例1と同様に評価を行った。印刷法及び評価に用いたインキは実施例1と同様とした。但し、評価は一回の印刷毎に実施例2の方法で凸版を洗浄し、乾燥するほかはなにも凸版に手を加えずに、100枚連続で印刷を行い、得られた印刷物を評価した。
その結果、洗浄不良(インキ膜除去不良)によると見られる汚れが100枚中3枚に付着していた。
【実施例6】
【0048】
実施例2で製造した、本発明の他の実施形態である凸版を用いた他は実施例5と同様に連続して印刷を行い、印刷物を評価した。その結果、得られた印刷物に欠陥や汚れはなく、100枚すべて良好に印刷されていた。
【0049】
以上の結果から、表面にインキ剥離性処理を施した本発明の凸版はその洗浄を容易に行うことができる。表面に一律にインキ剥離性処理を施した凸版でも十分確実に洗浄できるが、特に、凸版の凸部頂部と、凸部側面及び凹部底面との処理を異なる処理とした場合は、連続的に印刷物を製造し、洗浄液による洗浄を行っても洗浄不良を起こさず、従って印刷物に欠陥を出さない、優れた凸版であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の凸版反転オフセット印刷用凸版は、インキ膜形成基材から除去され凸版の凸部に担持される不要なインキ膜の除去が容易かつ確実になされるため、薄膜トランジスタ、薄膜トランジスタアレイ、カラーフィルタなどのデバイスを印刷物として製造する際に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の凸版反転オフセット印刷法用凸版の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の凸版反転オフセット印刷法用凸版の他の例を示す断面図である。
【図3】本発明の凸版の製造工程の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の凸版の製造工程の他の例を示す模式図である。
【図5】反転オフセット印刷法に用いる装置の模式図である。
【図6】反転オフセット印刷法を説明する工程の模式図である。
【符号の説明】
【0052】
10:凸版
11:インキ剥離性処理面
14:凸部頂部
15:凸部側面
16:凹部底面
20:凸版
21:第1のインキ剥離性処理面
22:第2のインキ剥離性処理面
30、40:凸版
31、41:凸版基材
32、42:マスク
33:マスク済みの基材
34、44:レリーフ
35:インキ剥離性処理
45a:第1のインキ剥離性処理
45b:第2のインキ剥離性処理
36:インキ剥離性処理面
46a:第1のインキ剥離性処理面
46b:第2のインキ剥離性処理面
50:凸版反転オフセット印刷装置
51、61:インキ供給手段
52:ブランケット
62:インキ膜形成基材
53、63:インキ膜
53a、63a:インキ膜の要部
53b、63b:インキ膜の不要部
54:除去版
64:凸版
55、65:被印刷基板
56:搬送手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキをインキ膜形成基材上に塗布してインキの膜を形成するインキ膜形成工程と、
該インキ膜に対し所定形状の凸版を接触させて凸版の凸部に該インキ膜の不要部を転写してインキ膜形成基材から除去する除去工程と、
該インキ膜形成基材上に残った該インキ膜の要部を被印刷基板に転写する転写工程とを備える凸版反転オフセット印刷法に使用する凸版であって、
該凸版の凹凸を有している面にインキ剥離性処理がされていることを特徴とする凸版反転オフセット印刷用凸版。
【請求項2】
前記インキ剥離性処理はシランカップリング剤による処理であることを特徴とする請求項1記載の凸版反転オフセット印刷用凸版。
【請求項3】
前記シランカップリング剤はアルキルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項2記載の凸版反転オフセット印刷用凸版。
【請求項4】
前記凸版の備える凸部の頂部と、凸部側面及び凹部底面とでは異なるインキ剥離性処理がされていることを特徴とする請求項1記載の凸版反転オフセット印刷用凸版。
【請求項5】
前記凸版の備える凸部側面及び凹部底面の純水に対する接触角が、前記凸版の備える凸部の頂部の純水に対する接触角よりも大きいことを特徴とする請求項4記載の凸版反転オフセット印刷用凸版。
【請求項6】
前記凸版の備える凸部側面及び凹部底面になされたインキ剥離性処理はフルオロアルキルシラン、フルオロアルキル基を含むオリゴマー、もしくは加水分解性基を含むシロキサンによる処理であることを特徴とする請求項4または5記載の凸版反転オフセット印刷用凸版。
【請求項7】
インキをインキ膜形成基材上に塗布してインキの膜を形成するインキ膜形成工程と、
該インキ膜に対し所定形状の凸版を接触させて凸版の凸部に該インキ膜の不要部を転写してインキ膜形成基材から除去する除去工程と、
該インキ膜形成基材上に残った該インキ膜の要部を被印刷基板に転写する転写工程とを備える凸版反転オフセット印刷法に使用する凸版の製造方法であって、
凸版基材となる基板表面の凸部に対応する位置をパターン状にマスクする工程、
基板表面のマスクされていない領域をエッチングする工程、
基板表面のエッチングされた領域に第2のインキ剥離性処理を施す工程、
パターン状になされたマスクを剥離する工程、
マスク剥離後に第1のインキ剥離性処理を施す工程、
を備えることを特徴とする凸版反転オフセット印刷用凸版の製造方法。
【請求項8】
少なくとも、
インキをインキ膜形成基材上に塗布してインキの膜を形成するインキ膜形成工程と、
該インキ膜に対し所定形状の凸版を接触させて凸版の凸部に該インキ膜の不要部を転写してインキ膜形成基材から除去する除去工程と、
該インキ膜形成基材上に残った該インキ膜の要部を被印刷基板に連続的に転写する転写工程とを繰り返す凸版反転オフセット印刷法による印刷物製造方法であって、
さらに、前記除去工程後に凸版の凸部と粘着性フィルムの粘着面とを接触させて凸版の凸部が保持するインキ膜を粘着性フィルムへ転移させ凸版を洗浄する洗浄工程を備え、
該凸版として請求項1乃至6記載の凸版反転オフセット印刷用凸版を用いることを特徴とする印刷物製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−253344(P2007−253344A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76792(P2006−76792)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】