説明

凹版の製造方法および印刷方法

【課題】表示品位の高い液晶カラーフィルターの印刷に使用する硝子凹版において、硝子のエッチングのマスク材に使用する金属膜の制御により、高精細のかつ印刷性の高い版深をもつ刷版を、技術的に容易に且つ安価に提供すること。
【解決手段】反転印刷用の凹版であって、この凹版に十分な印刷性を与える為に、硝子基板をウェットエッチングして形成する凹版において、マスキング層を制御することで硝子凹版の欠陥の発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷法、特に、反転印刷法(「反転印刷法」については後述。)により液晶カラーフィルターのような微細パターンを形成する為に使用する凹版の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイとして、液晶ディスプレイ(LCD)が注目されており、その薄型、軽量、小消費電力、フリッカーレスといった特徴から、ノート型のパーソナルコンピューター(PC)、PC用のモニターを中心に市場が急速に拡大した。また最近は、従来からCRTが主流であったTV向けにも大型のLCDが利用されるようになってきた。
液晶カラーフィルターは、パターン化された赤・緑・青の3色、及びこれに黒を加えた4色からなる着色層が透明基板上に形成されたものである。この着色層は、従来より感光性顔料分散レジストをフォトリソ処理によって形成されているが、近年、液晶カラーフィルター(CF)の低コスト化を実現する為、印刷法によって形成することが提案されている。
印刷法には、凹版にインキを塗布、スキージで不要なインキを除去し、凹版内に残ったインキをオフセットブランケットに転写し、被印刷基板に印刷する方法(例えば、特許文献1参照。)や、オフセットブランケットにインキを塗布、凹版で不要なインキを除去し、オフセットブランケットに残ったインキを被印刷基板に印刷する印刷法(本明細書では、この印刷法を「反転印刷法」と称す。)が提案されている。(例えば、特許文献2参照。)
【0003】
反転印刷法の凹版の形態としては硝子基板を、クロム膜のようなフッ酸等の硝子エッチング液に対し難溶性の金属薄膜をマスキング材として使用し、硝子をエッチング液で溶解して形成する方法が知られている。
【0004】
カラーフィルターのパターン寸法は、高精細のモバイルPCから比較的画素サイズの大きい液晶TVまで多岐に渡っている。
画面が大型化する中でカラーフィルター内に配置されているパターンサイズも、BMやRGBの画素パターン・合わせ基準マークの様な数μm程度の細線から、遮光用額縁パターンのような数mm程度の大パターンまで混在するようになっており、反転印刷用の凹版を製版する上で様々な寸法のパターンを同一の刷版上に配置する必要がある。
これらの様々な寸法のパターンをオフセットブランケットから凹版へ転写する場合、版深が浅いとオフセットブランケットのニップ圧により凹部の底にオフセットブランケットが接触する現象が認められる。この現象を回避する方策として、凹部の開口寸法が大きいパターンでは版深を深く設計する方法をとっている。
【0005】
現状カラーフィルターに使用されているパターンは、数μmから十数μm程度からなる高精細パターン、十数μmから数百μm程度の細線パターン、数mm程度の大パターンが混在している。
硝子凹版のウェットエッチングによる製造方法では、硝子のウェットエッチング時のサイドエッチ量に対する深さ方向の削れ量の比(=EF)が1である為、所望の版深を形成する際、ウェットエッチング時のサイドエッチにより、金属マスクの端部がオーバーハングし、フッ酸等の硝子エッチング液の液流により硝子と金属マスクの界面で剥離し、形成された硝子凹版のトップ形状が悪化する現象が認められる。
(EF:エッチングファクター)=(深さ方向の削れ量)/(サイドエッチ量)
【特許文献1】特開昭62−85202号公報
【特許文献2】特開平7−140314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点になされたもので、その目的とするところは、表示品位の高い液晶カラーフィルターの印刷に使用する硝子凹版において、硝子のエッチングのマスク材に使用する金属膜の制御により、高精細のかつ印刷性の高い版深をもつ刷版を、技術的に容易に且つ安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、
硝子基板をウエットエッチングして形成する凹版の製造方法において、
該ウエットエッチングのマスキング用の金属膜の応力を6×10N/m以下となるよう該硝子基板上に形成することを特徴とする凹版の製造方法である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、
(1)硝子基板に金属膜をスパッタにて形成する工程
(2)前記硝子基板に感光性材料層を形成し、フォトリソ処理により金属膜をパタニング
する工程
(3)前記金属膜の開口部にたいし前記硝子基板のウエットエッチングを加工版深の途中迄行う工程
(4)前記硝子基板のウエットエッチングによる生じた前記金属膜のオーバーハング部を、
前記金属膜のパタニング液で溶解除去する工程
(5)前記硝子基板を加工版深までウエットエッチングする工程
(6)前記感光性材料層、前記金属膜を除去する工程
上記(1)〜(6)の工程を具備することを特徴とする請求項1に記載の凹版の製造方法である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、
請求項1あるいは2の凹版の製造方法で製造した凹版を使用する印刷方法であって、
前記凹版のベースとなる基材の熱膨張率と印刷パターンを転写される基板の熱膨張率との差が15×10-7cm/cm/℃以下であることを特徴とする印刷方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の技術を用いることにより、容易に且つ欠陥の無い印刷用刷版を提供することにより、高品位の画像表示が可能な液晶カラーフィルターを安価に生産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1に従来工法で製版した際の、金属膜の引っ張り応力により金属膜が界面剥離し、硝子の異常エッチングの進行している図と、こうして形成された硝子凹版の俯瞰で見た部分断面図を示す。
図2にオフセットブランケットと刷版及びカラーフィルター用硝子基板の反転印刷CFの印刷プロセスの説明図を示す。
図3に応力調整した金属膜を用い、硝子のウェットエッチング処理で硝子凹版を形成した製版工程を示す。金属膜にスパッタCr膜を使用し、版深が浅い為 1回の硝子のウェットエッチング処理により硝子凹版を形成した製版工程の説明図である。
図4に応力調整した金属膜を用い、硝子のウェットエッチング処理で硝子凹版を形成した製版工程を示す。金属膜にスパッタCr膜をマスキング層を使用し、硝子のウェットエッチング処理の途中でオーバーハングしたCr膜を溶解除去したのち再度硝子のウェットエッチング処理することにより硝子凹版を形成した製版工程の説明図である。
【0012】
金属膜としては、硝子のエッチャントに使用されるフッ酸に難溶性のクロム、モリブデンや金属酸化膜の透明導電膜(ITO)などが使用可能である。成膜装置としては蒸着法、スパッタ法、などが使用可能であるが、樹脂膜層と密着性の高いスパッタ法が望ましい。金属膜の応力は成膜時のガス種や導入量により圧縮から引っ張りまで制御することが可能であり、且つ成膜後の熱処理により調整することが可能である。
金属膜の応力が引っ張り応力が強くなると、オーバーハングした金属膜と硝子の界面で金属膜が剥離し、剥離した金属膜の下で硝子の異常エッチが進行する現象が認められる。
またマスキング層の形成膜厚としては、マスキング性、結晶性の観点より2000Å以上が望ましい。
下表にクロム膜の応力と硝子凹版の形状の関係をしめす。
【0013】
【表1】

【0014】
応力が6×10N/mより大きくなると、形成された硝子凹版の形状が悪化する現象が認められる。また、6×10N/m以下で−1.5×10N/m程度の圧縮応力であれば良好な硝子凹版の形状が確保できた。
【0015】
金属膜の応力制御により硝子との界面剥離を抑えることが可能であるが、金属膜のパタニングに使用する感光性樹脂膜の形成条件による感光性樹脂膜/金属膜を総合した応力の変動や、オーバーハング量の増加や、硝子エッチャントの液流によるオーバーハング部のダメージなどの、その他の要因による硝子と金属膜界面のダメージを低減することが必要となる。
請求項2の発明はこれに係るもので、硝子エッチングによりオーバーハング状になった金属膜を硝子エッチングの途中で溶解除去することにより、硝子と金属膜の界面で膜剥離の発生を抑制することを目的とするもので、加工版深が深くなるに伴い、金属膜のオーバーハング量が増加する為、硝子エッチング途中のオーバーハングした金属膜の溶解除去は必要により1回以上行えば良い。
【0016】
また、硝子エッチャント耐性の高い金属膜を選定しているが、微小なピンホールを起点とした硝子エッチングの欠陥を避ける為に、感光性材料層を被覆した状態で硝子エッチングを行うのが望ましい。感光性材料としては、ノボラック系やエポキシ系の感光性樹脂材料の使用が可能であるが、硝子エッチャント耐性を上げる為に熱処理を行う必要がある。この際、過度な熱処理を行うと膜収縮の原因となり、金属膜と硝子界面の剥離を促進する要因となりうる。この様に最終製品の硝子凹版として感光性樹脂膜は剥離して使用する為にも、感光性樹脂膜が剥離し易い熱条件で処理すべきで、150℃以下望ましくは130℃以下で熱処理するのが望ましい。
【0017】
カラーフィルター基板は、対向電極基板とのセルの位置精度を保証する為に、トータルピッチは±3ミクロン以下で制御することが求められている。現在カラーフィルター基板と対向電極基板は熱膨張率の同じ硝子材料を使用し、露光も熱膨張率の低いクウォーツ製のフォトマスクを使用して、トータルピッチの制御を行っている。
印刷CFでは、カラーフィルター基板と対向電極基板のトータルピッチの制御方法はフォトリソ処理の場合と同じである。
カラーフィルター基板のトータルピッチの制御には、刷版のトータルピッチの制御が重要となってくる。
刷版のトータルピッチを制御する方法としてはカラーフィルター基板に近い熱膨張率の材料を使用することが望ましい。現状、液晶カラーフィルターに使用される硝子基板熱膨張率は3×10-6cm/cm/℃程度であり、1000mmの基板サイズで1℃温度が変化すると3ミクロン硝子基板の長さが変化する。液晶ディスプレイの要求仕様である±3ミクロンを保証する為には、刷版のベース基材とカラーフィルター基板トータルピッチの差は±1.5ミクロン以下で制御する必要があり、熱膨張率の差として15×10-7cm/cm/℃以下であることが望ましい。
熱膨張率がカラーフィルター基板に近い材料としては、液晶ディスプレイに使用されている低膨張硝子を選定すれば良い。
【0018】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図3に、応力調整した金属膜を用い、硝子のウェットエッチング処理で硝子凹版を形成した製版工程を示す。画素部パターンはライン巾20μm、周囲のアライメントマークは40μmの線幅で設計した。
刷版用基材として、低膨張硝子基板620×750×0.7mmt(コーニング社製1737硝子熱膨張率:3.8×10−6cm/cm/℃)を使用した。
図3(a)DCマグネトロンスパッタ、DC800W、Ar/N=10/5sccmにて応力は4.2×108N/mのCr膜32を厚さ2000Åで形成した。Cr膜32を形成した基板31に、ポジ形感光性レジスト33を1.5μmのスピンレスコーターにて塗布形成した。
図3(b)前記ポジ型感光性レジスト33を露光用フォトマスク37にて、±0.5℃に温度制御された露光機(トプコン社製)を用いて露光処理した。
図3(c)露光後、アルカリ系の現像液でポジ型感光性レジスト33現像処理し、凹パターンに相当する開口部34を形成した。現像後 感光性レジストの密着性を向上させる為にホットプレートにて130℃×3min追加熱処理を行った。
図3(d)ポジ型感光性レジスト33の開口部34より、硝酸セリウムアンモニウムを主成分とするCr用エッチング液で処理し凹パターンに相当する開口部35を形成した。
図3(e)前記基板をフッ酸を主成分とする硝子エッチング液で処理し、凹形状36を形成した。
図3(f)凹形状形成後、アルカリ系の処理液で感光性レジストを除去した後、Cr用エッチング液でCr膜を溶解除去し硝子凹版30を得た。
【0020】
こうして得られた刷版は、パターン寸法の面内バラツキが±0.5μm、版深8μm、トータルピッチ±2μmで形成できた。
また、この刷版を用いて低膨張硝子基板550×650×0.7mmt(コーニング社製1737硝子熱膨張率:3.8×10−6cm/cm/℃)に印刷した色パターンは、パターン寸法の面内バラツキが±0.5μm、ラインパターンの中抜け無く、トータルピッチ±2μmで制御することが出来た。
【実施例2】
【0021】
図4に、応力調整した金属膜を用い、硝子のウェットエッチング処理で硝子凹版を形成した製版工程を示す。画素部パターンはライン巾80μm、周囲のアライメントマークは50μmの線幅で設計した。
刷版用基材として、低膨張硝子基板620×750×0.7mmt(コーニング社製1737硝子熱膨張率:3.8×10−6cm/cm/℃)を使用した。
図4(a)DCマグネトロンスパッタ、DC800W、Ar/N=10/3sccmにて成膜した後、150℃×30min熱処理を行い応力0.7×10N/m2のCr膜42を厚さ2000Åで形成した。Cr膜42を形成した基板41に、ポジ形感光性レジスト43を1.5μmのスピンレスコーターにて塗布形成した。
図4(b)前記ポジ型感光性レジスト43を露光用フォトマスク48にて、±0.5℃に温度制御された露光機(トプコン社製)を用いて露光処理した。
図4(c)露光後、アルカリ系の現像液でポジ型感光性レジスト43現像処理し、凹パターンに相当する開口部44を形成した。現像後 感光性レジストの密着性を向上させる為にホットプレートにて130℃×3min追加熱処理を行った。
図4(d)ポジ型感光性レジスト43の開口部44より、硝酸セリウムアンモニウムを主成分とするCr用エッチング液で処理し凹パターンに相当する開口部45を形成した。
図4(e)前記基板をフッ酸を主成分とする硝子エッチング液で、狙い版深の1/2迄 処理し凹形状46を形成した。
図4(f)ポジ型感光性レジスト46の開口部より、硝酸セリウムアンモニウムを主成分とするCr用エッチング液で処理し、硝子エッチングで生じたCr膜のオーバーハング部を溶解除去した。
図4(g)前記基板をフッ酸を主成分とする硝子エッチング液で処理し、狙い版深の凹形状47を形成した。
図4(h)凹形状形成後、アルカリ系の処理液で感光性レジストを除去した後、Cr用エッチング液でCr膜を溶解除去し硝子凹版40を得た。
【0022】
こうして得られた刷版は、パターン寸法の面内バラツキが±0.5μm、版深20μm、トータルピッチ±2μmで形成できた。
また、この刷版を用いて低膨張硝子基板550×650×0.7mmt(コーニング社製1737硝子熱膨張率:3.8×10−6cm/cm/℃)に印刷した色パターンは、パターン寸法の面内バラツキが±0.5μm、ラインパターンの中抜け無く、トータルピッチ±2μmで制御することが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0023】
ELディスプレイの発光層の印刷や、回路基板の配線パターンの印刷に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来製法にて製版され欠陥の生じた刷版の部分断面図である。
【図2】本発明の刷版を用いた印刷工程の説明図である。
【図3】本発明の実施例1を示す工程説明図である。
【図4】本発明の実施例2を示す工程説明図である。
【符号の説明】
【0025】
11、21、31、41・・・刷版用基材
12,32,42・・・金属膜
13,33、43・・・感光性材料層
34、35,44,45、46・・・開口部パターン
36、47・・・凹形状
10、20,30、40・・・印刷用刷版
22・・・印刷インキ
23・・・オフセットブランケット
24・・・オフセットブランケット胴
25・・・インキパターン
26・・・硝子基板
37、48・・・露光用フォトマスク
14・・・硝子異常エッチ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝子基板をウエットエッチングして形成する凹版の製造方法において、
該ウエットエッチングのマスキング用の金属膜の応力を6×10N/m以下となるよう該硝子基板上に形成することを特徴とする凹版の製造方法。
【請求項2】
(1)硝子基板に金属膜をスパッタにて形成する工程
(2)前記硝子基板に感光性材料層を形成し、フォトリソ処理により金属膜をパタニング
する工程
(3)前記金属膜の開口部にたいし前記硝子基板のウエットエッチングを加工版深の途中迄行う工程
(4)前記硝子基板のウエットエッチングによる生じた前記金属膜のオーバーハング部を、
前記金属膜のパタニング液で溶解除去する工程
(5)前記硝子基板を加工版深までウエットエッチングする工程
(6)前記感光性材料層、前記金属膜を除去する工程
上記(1)〜(6)の工程を具備することを特徴とする請求項1に記載の凹版の製造方法。
【請求項3】
請求項1あるいは2の凹版の製造方法で製造した凹版を使用する印刷方法であって、
前記凹版のベースとなる基材の熱膨張率と印刷パターンを転写される基板の熱膨張率との差が15×10-7cm/cm/℃以下であることを特徴とする印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−69553(P2007−69553A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261765(P2005−261765)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】