分光器及びそれを用いた波長選択スイッチ
【課題】 温度変化があっても分散特性の変化が十分に小さい分光装置とそのような分光器を使用した波長選択スイッチを提供する。
【解決手段】 本発明に係る分光器は、分散素子と、温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、プリズムと分散素子の間に配置された入射光線の入射角度を比例拡大した角度で光線を出射する光線角度拡大光学系と、を備えることを特徴とする。また、本発明に係る波長選択スイッチは、上述した分光器を含んで構成されることを特徴とする。これにより、温度変化があっても分散特性の変化を十分に小さくすることができる。
【解決手段】 本発明に係る分光器は、分散素子と、温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、プリズムと分散素子の間に配置された入射光線の入射角度を比例拡大した角度で光線を出射する光線角度拡大光学系と、を備えることを特徴とする。また、本発明に係る波長選択スイッチは、上述した分光器を含んで構成されることを特徴とする。これにより、温度変化があっても分散特性の変化を十分に小さくすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光器及びそれを用いた波長選択スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、分光技術を用いた装置が数多く提案されている。
特許文献1には回折格子を用いた分光装置(分光計)が、特許文献2には回折格子を用いた内視鏡(分光内視鏡)がそれぞれ開示されている。また、特許文献3には、プリズムとデジタルマイクロミラーを用いて分光を行う顕微鏡(分光顕微鏡)が開示されている。
【0003】
また、特許文献4には光アドドロップ多重化装置という名称で、波長選択スイッチ(WSS:Wavelength Selection Switch)の基本的な構成が開示されている。
【0004】
ここで、波長選択スイッチとは、ROADM(大容量ネットワークに用いられる、波長多重化された光信号を、光信号のまま分岐/挿入が行えるシステムや技術)におけるノードにおかれるデバイスで、波長多重されている光信号の伝送経路の切換えを波長毎に行う光スイッチである。
【0005】
各ノードでは波長選択スイッチによって、波長多重された光信号から任意の波長の光信号を取り出すことや、波長多重された光信号に任意の波長の光を加えることが可能である。この波長選択スイッチにおいても回折格子が用いられている。
【0006】
また、特許文献5においては、光分散装置(分散素子)であって、プリズムに隣接して貼り付けられた回折素子を備えている。回折格子の膨張と隣接するプリズムの屈折率変化によって効果が相殺し、出射角度が変化を補正している。
【0007】
特許文献6、7は、光分散素子として回折格子を用いた波長選択スイッチ(WSS+補正プリズム)が開示されている。光路中にプリズムを配置することにより温度変化による分散角の変化を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−187550号公報
【特許文献2】特開2007−135989号公報
【特許文献3】特開2000−199855号公報
【特許文献4】特許第3937403号公報
【特許文献5】特表2003−509714号公報
【特許文献6】米国特許第7,058,251号明細書
【特許文献7】米国特許第7,630,599号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜4に記載の従来技術では、温度が変化した際の出射角度の変化についての記述がない。
【0010】
特許文献5〜7に記載の従来技術では、温度変化によって分散特性が変化することを課題としてあげその対策を行っている。しかし、温度変化によって分散特性が変化することの主たる原因を回折格子の基板の熱膨張に求めているが、大気の屈折率の変化や分散素子内を光線が通る場合は、温度変化による分散素子自身の屈折率の変化が、分散特性の変化の主たる原因となりうる。
【0011】
特に高い屈折率をもつ材料を分散素子に使用している場合はその変化が大きい。このような理由で、従来の分光器では、温度変化に対する安定した分散特性をもつことは困難であった。
【0012】
屈折率が高いシリコンを材料としたグリズムを分散素子として使用した分光計の例を図1に示す。
グリズム150は図16に示すようにプリズム152の斜辺に回折格子151を形成したものである。出射角度θ11が回折角θ9の約プリズムの屈折率倍になるので通常の回折格子より分散角を大きくできる。より分散角を大きくするには、プリズムの屈折率を大きくすれば良いので、赤外ではシリコンプリズムなどが使われている。図17に示すように、シリコンプリズム170に、回折格子171を形成したシリコンチップ172を接合したグリズムなどが使用されている。
【0013】
図1の分光計は、入射した光線はスリット101を通過し、コリメータ102で平行光になりシリコングリズム150に入射する。シリコングリズム150の回折格子面151で回折し、分光される。
【0014】
分光した光はコリメータ102により、受光素子アレイ105上に各波長ごとに集光される。受光素子105アレイの各素子の出力を見ることによりスペクトル強度を得ることができる。
【0015】
上記したようにグリズムは屈折率の高いシリコンを使用しているので、分散角を大きくとることができ分解能が高い。しかし、シリコンの屈折率は温度変化により大きく変化するため、温度によりグリズムから出射光線の角度が変化し、スペクトル分布が波長方向にシフトする。
【0016】
シリコンの屈折率と屈折率の温度係数を表1に示す。たとえば波長1.55μm、温度T°Cでの屈折率n(T, 1.55)は
n(T,1.55) = 0.00018 ×(T - 20) + 3.478
で計算できる。
【0017】
【表1】
【0018】
また、図3に示すように各角度を定義する。
θ7 = Asin( sin( θ6 ) / n)
θ8 = α2 - θ7
θ9 = Asin(λ / n / p - Sin( θ8 ) )
θ10 = θ9 - α2
θ11 = Asin( n sin( θ10 ) )
【0019】
ここで、
n:各波長各温度での屈折率、
p:グリズム回折格子面の格子ピッチ、
である。
【0020】
表2に示す値を使用して、グリズムからの出射角度(θ11)を計算すると表3に示すようになる。また、以下の数式に示すよう波長シフト量δλを計算した結果を、表4に掲げる。グラフにするとグラフ1(図18参照)のようになる。
【0021】
10°Cで0.75nm程度のシフト量になる。たとえばWDM等の光通信では、1チャンネルの波長幅が約0.8nmまたは0.4nm程度であるので、光通信用機器での計測等で使用する分光器としては、非常に大きなシフト量になる。
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
【表4】
【0025】
【数1】
【0026】
また、図2には特許文献6,7に記載されている方法と同様に補正プリズムを使用して補正する例を示している。グリズムに入射する角度を補正プリズムによって温度とともに変化させ、グリズムから出射する角度を温度によらず一定になるようにしている。
【0027】
図4に示すように各角度を定義する。スネルの法則と回折の法則から下記の関係がある。
θ2 = Asin( sin( θ1 ) / n )
θ3 = α1 - θ2
θ4 = Asin( n sin( θ3 ) )
θ6 = θ4 - θ5
θ7 = Asin( sin( θ6 ) / n)
θ8 = α2 - θ7
θ9 = Asin(λ / n / p - Sin( θ8 ) )
θ10 = θ9 - α2
θ11 = Asin( n sin( θ10 ) )
ここで、
n:各波長各温度での屈折率
p:グリズム回折格子面の格子ピッチ
θ5:基準波長、基準温度(ここでは20°C、1.55μm)のときのθ6が、グリズムの効率が高くなる値に定めている。
θ6=17度、θ5 = θ4(20°C、1.55μmのときの)−17度
となる。
【0028】
表5、表6に示す値を使用して、温度に対する、グリズムからの出射角度θ11を計算する。補正プリズムの入射角度θ1と頂角α1は、温度変化に対してグリズムからの出射角度θ11の変化が最小かつ補正プリズムの入射角θ1と出射角θ4がほぼ等しくなるように、設定している。
【0029】
【表5】
【0030】
【表6】
【0031】
結果を表7に示す。そして、上述の[数1]に示したように、波長シフト量δλを計算する。
【0032】
【表7】
【0033】
この結果として波長シフト量を表8に掲げる。グラフにするとグラフ2(図19参照)のようになる。-20から60°Cで0.05nm程度の波長シフト量となる。この分光装置を波長選択スイッチ等に使用した場合、波長シフトは一つのチャンネルの帯域を減少させることになる。1チャンネルが50GHz幅のWDMシステムの場合、波長に換算すると1チャンネルは0.4nm程度の幅になる。0.05nmのシフトは10%程度、帯域を制限することになる。
【0034】
【表8】
【0035】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたもので、温度変化があっても分散特性の変化が十分に小さい分光装置とそのような分光装置を使用した波長選択スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る分光器は、
分散素子と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
前記プリズムと分散素子の間に配置された入射光線の入射角度を比例拡大した角度で光線を出射する光線角度拡大光学系と、
を備えることを特徴とする。
なお、分散素子とは、光を分散させる素子で、屈折率が波長によって変化する素子(光をスペクトルに分ける機能を有する素子)であって、例えば、プリズム、回折格子、グリズム等の光学要素が一例として相当する。
【0037】
本発明において、前記分散素子がシリコングリズムであり、前記プリズムがシリコンプリズムであり、光線角度拡大光学系がアフォーカル光学系であることを特徴とすることができる。
【0038】
また、本発明に係る分光器は、
分散素子と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
補正光学系と分散素子の間に配置されたアフォーカル光学系と、
を備え、
前記分散素子、前記アフォーカル光学系、前記補正光学系をそれぞれ、前記プリズムからの出射する光線が温度変化によって出射角度が変化するときの回転中心と、分散素子に入射する光線が温度変化によって変化するときの回転中心と、が共役の関係になるように、配置したことを特徴とする。
【0039】
また、本発明において、前記分散素子がシリコングリズムであり、前記補正光学系がシリコンプリズムであることを特徴とすることができる。
【0040】
本発明に係る波長選択スイッチは、
波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
前記光を分散させる分散素子と、
前記プリズムと分散素子の間に配置されたアフォーカル光学系と、
分散された波長ごとに光を集光する集光要素と、
前記集光要素からの前記波長ごとの光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の偏向素子を有する光偏向部材と、
前記光偏向部材によって偏向された前記波長ごとの光を受光する出力部と、
を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、温度変化があっても分散特性の変化が十分に小さい分光器とそのような分光装置を使用した波長選択スイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】屈折率が高いシリコンを材料としたグリズムを分散素子として使用した分光計の一例を示す図である。
【図2】補正プリズムを使用して温度変化を補正する一例を示す図である。
【図3】グリズムの構成例と各角度を示す図である。
【図4】補正プリズムを含む構成例と各角度を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る分光装置の全体的な構成例を概略的に示す図である。
【図6】同上実施形態に係る分光部の構成例を示す図である。
【図7】同上実施形態において各角度を定義する図である。
【図8】同上実施形態に係るアフォーカル光学系を説明する図である。
【図9】波長シフト量δλの算出について説明する図である。
【図10】同上実施形態に係るアフォーカル光学系において回転中心(P1)と回転中心(P2)とが共役の関係にない場合に、温度変化があったとき、グリズムからの出射光線が角度変化はないが平行移動する様子を示す図である。
【図11】同上実施形態に係るアフォーカル光学系において回転中心(P1)と回転中心(P2)とを共役の関係にセットした場合に、温度変化があっても、グリズムからの出射光線が角度変化や平行移動なく出射する様子を示す図である。
【図12】同上実施形態に係るアフォーカル光学系において回転中心(P1)と回転中心(P2)とが共役の関係にない場合に、温度変化があったとき、受光素子アレイに対して角度を持って入射する様子を示す図である。
【図13】同上実施形態に係るアフォーカル光学系において、回折レンズを組み合わせた場合の構成例を示す図である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係る波長選択スイッチの構成を示す斜視図である。
【図15】同上実施形態に係る波長選択スイッチのミラーアレイの構成を示す斜視図である。
【図16】グリズムの構成例と各角度を示す図である。
【図17】シリコンプリズムに、回折格子を形成したシリコンチップを接合したグリズムの構成例と各角度を示す図である。
【図18】グラフ1を示す図である。
【図19】グラフ2を示す図である。
【図20】グラフ3を示す図である。
【図21】グラフ4を示す図である。
【図22】グラフ5を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、本発明に係る実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお、全図を通して同一の符号は同一または相当部分を示すものとする。また、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0044】
<第1の実施形態>
(構成)
本実施形態のプリズム(分光装置)300は、図5に示すように、以下の構成を備えている。
すなわち、光線が入力する入射スリット101と、入射スリット191より入射する複数波長の光線を略平行光にするコリメータ102と、後述の分光部103と、分光された光をそれぞれ集光するコリメータ104と、予め分割された、それぞれの波長帯の光を受光する受光素子アレイ105と、を含んで構成されている。
【0045】
分光部は、図6に示すように、以下の構成を備えている。
屈折率nの媒質からなる、頂角α1の補正プリズム140と、屈折率nの媒質からなる、頂角α2、ピッチp、回折次数1のグリズム150と、補正プリズム140とグリズム150の間にアフォーカル倍率mのアフォーカル光学系ALと、を含んで構成されている。
【0046】
アフォーカル光学系ALは以下の構成を備えている。
焦点距離f1を持つレンズL1と、焦点距離f2を持つレンズL2と、を含んで構成されている。アフォーカル倍率mは図8に示す構成において、以下の数式により、m=f1/f2となる。
【0047】
【数2】
【0048】
アフォーカル光学系ALの光軸は基準温度、基準波長のときの光線としている。ここでは、基準温度20°C、基準波長1.55μmとしている。温度が変化すると光線が光軸から傾く。その傾きをアフォーカル光学系ALへ入射するときをθ41、出射するときをθ61としている。
【0049】
θ41は補正プリズム140から出射するときの出射角の、基準光線からの変化量である。変化量は、非常に小さいのでsinθをθで近似できる。アフォーカル光学系ALは通常の光学ガラスを材料としている。通常の光学ガラスの屈折率の温度係数はシリコンと比較すると2桁小さく無視できる。
【0050】
光通信でのシステムでの測定または、装置として使用する場合、波長帯域も狭いので、通常の光学ガラスでは屈折率はほとんど変化しない。ここでは、屈折率はほとんど変化しないと考えて、アフォーカル光学系ALに使用しているレンズの焦点距離fは一定として計算している。
【0051】
補正プリズム140には図5のコリメータ102から出た光が入射する。プリズム140は入射光25(図6)の当たる順に第1面、第2面を持つ。補正プリズム140を出た光はアフォーカル光学系ALに入射する。
【0052】
グリズム150はアフォーカル光学系を通過した後の光が当たる順に、第1面、回折格子面である第2面、第1面と共通の第3面23(図7)を持つ。グレーティング第3面を出た光は、主に第2面により分光されていて、図5のコリメータ102に向かう。
【0053】
図7に示すように角度を定義するとスネルの法則と回折の法則から下記の関係がある。
θ2 = Asin( sin( θ1 ) / n )
θ3 = α1 - θ2
θ4 = Asin( n sin( θ3 ) )
θ41 = θ4(T°C、λのときの) - θ4(基準温度、基準波長のとき(ここでは20°C、1.55μm))
θ61 = m θ41
θ6 = 180-θ61 - θ4(基準温度、基準波長のとき)- θ5
θ7 = Asin( sin( θ6 ) / n)
θ8 = α2 - θ7
θ9 = Asin(λ / n / p - Sin( θ8 ) )
θ10 = θ9 - α2
θ11 = Asin( n sin( θ10 ) )
【0054】
ここで、
n:各波長各温度での屈折率、
p:グリズム回折格子面の格子ピッチ、
θ5は基準波長、基準温度(ここでは20°C、1.55μm)のときのθ6が、グリズムの効率が高くなる値に定めている。
ここではθ6=17度、基準温度、基準波長ではθ61 = 0 だから
θ5 = 180 - θ4(20°C、1.55μmのときの) - 17
補正プリズム140の入射角θ1、頂角α1とアフォーカル倍率mを適当な値にすることにより、グリズム150からの光線の出射角度θ11を温度によらず一定にできる。
【0055】
表9、表10、表11の値を使用して、グリズムから光線の出射角度を計算すると表12のようになる。上述の[数1]に示すように波長シフト量を計算した結果を表13に示す。グラフをグラフ3(図20参照)に示す。
【0056】
【表9】
【0057】
【表10】
【0058】
【表11】
【0059】
【表12】
【0060】
【表13】
【0061】
波長シフト量は0.003nm程度である。この分光装置をチャンネル幅50GHzのWDMシステムに使用する波長選択スイッチに応用した場合、波長シフトによる1チャンネルの制限は1%程度に抑えることができる。
【0062】
(作用効果)
補正プリズムのみで、温度補償した場合、グラフ2(図19)に示すように、温度と波長シフトの関係が上に凸のグラフになる。補正プリズムとアフォーカル光学系を使用した場合、グラフ3、4、5(図20、21、22)に示すように、アフォーカル倍率によって、形状が異なる。アフォーカル光学系に入射する光線角度は1度に満たない角度なので、図8に示すように線形に角度変化を拡大している。倍率を低くすれば、補正プリズムのみの場合に近づく。倍率を大きくするとグリズムに入射する光線の角度変化が温度に対して線形に変化することになる。
【0063】
倍率が低いとき(-3倍)グラフ4(図21参照)に示すように上に凸のグラフとなり、補正プリズムと同じ形状になっている(シフト量は小さい)。
【0064】
倍率が大きいとき(5倍)グラフ5(図22参照)に示すように下に凸の形状をしている。補正プリズムでは上に凸になり、グリズムでは下に凸になる。補正プリズムのみでは、線形成分と非線形成分を独立して動かすことができないため、線形成分を補正すると非線形成分が残り、非線形成分を補正すると線形成分が残る。
【0065】
補正プリズムとアフォーカル光学系を組み合わせると、アフォーカル倍率と補正プリズムの頂角を動かすことで、線形成分と非線形成分を独立して動かすことができるため、一つの波長に対しては完全に補正することができる。波長に対して、独立して補正をかけることはできないので、基準波長、中心波長の線形成分を補正することでバランスをとることができる。
【0066】
以上のことから、補正プリズムとアフォーカル光学系で温度補正をすることで、温度変化に対する波長シフトを補正プリズムなしの1/1000、補正プリズムのみの1/10にすることができる。
【0067】
(変形例)
アフォーカル光学系は図13に示すように回折レンズ160を組み合わせてもよい。レンズは球面で光線を曲げるのに対して、回折格子160は、平面で光線を曲げている。このため、同じ光束径でも焦点距離を短くできるので、アフォーカル光学系の全長を短くできる利点がある。
【0068】
図11に示すように、補正プリズム140から射出する光線が温度変化によって回転する回転中心(P1)と、グリズム150に入射する光線が温度変化によって回転する回転中心(P2)が、アフォーカル光学系で共役の関係になるように構成する。
【0069】
共役の関係でないと、図10に示すように、温度変化があったとき、グリズム150からの出射光線は、角度変化はないが平行移動する。これに対して、図12に示すように角度変化が無いので、波長シフトはないが、受光素子アレイ105に対して角度を持って入射することになる。PD(フォトダイオード)の感度は角度依存性があるためスペクトル分布を正しく測定できない。共役にしてあれば、平行移動もないので、受光素子アレイ105に対して角度を持つことはなく、スペクトル分布を正しく測定できる。
【0070】
<第2の実施形態>
(構成)
第2の実施形態の波長選択スイッチは、図14に示すように、以下の構成を備えている。
すなわち、ファイバアレイ502と、レンズアレイ501と、分光部103と、コリメータ504と、ミラーアレイ505と、を含んで構成されている。
【0071】
ミラーアレイ505は図15に示すように、任意のミラーMをY軸周りに回転することができる。
【0072】
図14に示したように、1本のファイバから出力された複数の波長を持つ光線は、レンズアレイ502で平行光にされ、分光部103へ入射する。分光部103から分光されて光が出射され、コリメータ504によりミラーアレイ505上に各波長ごとに集光する。
【0073】
ミラーアレイ505で反射した光線は、コリメータ504で平行光にされ、分光部103へ戻る。ミラーアレイ505を回転させることにより、戻りの光線の高さを変えることができて、任意のレンズアレイ502に入射することができる。レンズアレイ502によって、ファイバー501に光線を結合し任意のファイバ501に任意の波長の光線を伝達することができる。
【0074】
分光部103には、第1の実施形態で説明した分光部を利用することができる。
すなわち、温度が変化しても分光部103から出射する光線の角度はほとんど変化しない。従って同一波長の光は、ミラーアレイ505上に固定されシフトしない。光線がミラーアレイ505上でシフトすると、その分帯域が狭くなるが、本実施形態では、ほとんど帯域が狭くならない。
【0075】
(作用効果)
温度変化によって、射出光線の射出角度がほとんど変化しない分光器を使用することによって、1チャンネルの帯域の広い波長選択スイッチを実現することができる。
【0076】
本発明は、上述した発明の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明は、温度変化があっても分散特性の変化が十分に小さい分光器とそのような分光装置を使用した波長選択スイッチを提供することができ、例えば光学系の分野において有用である。
【符号の説明】
【0078】
101 スリット
102 コリメータ
103 分光部
104 コリメータ
105 受光素子アレイ
140 補正プリズム
150 グリズム
151 光学回折面
160 回折レンズ
300 分光器
Lλ1、Lλ2 光束
AL アフォーカス光学系
L1、L2 レンズ
M ミラー
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光器及びそれを用いた波長選択スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、分光技術を用いた装置が数多く提案されている。
特許文献1には回折格子を用いた分光装置(分光計)が、特許文献2には回折格子を用いた内視鏡(分光内視鏡)がそれぞれ開示されている。また、特許文献3には、プリズムとデジタルマイクロミラーを用いて分光を行う顕微鏡(分光顕微鏡)が開示されている。
【0003】
また、特許文献4には光アドドロップ多重化装置という名称で、波長選択スイッチ(WSS:Wavelength Selection Switch)の基本的な構成が開示されている。
【0004】
ここで、波長選択スイッチとは、ROADM(大容量ネットワークに用いられる、波長多重化された光信号を、光信号のまま分岐/挿入が行えるシステムや技術)におけるノードにおかれるデバイスで、波長多重されている光信号の伝送経路の切換えを波長毎に行う光スイッチである。
【0005】
各ノードでは波長選択スイッチによって、波長多重された光信号から任意の波長の光信号を取り出すことや、波長多重された光信号に任意の波長の光を加えることが可能である。この波長選択スイッチにおいても回折格子が用いられている。
【0006】
また、特許文献5においては、光分散装置(分散素子)であって、プリズムに隣接して貼り付けられた回折素子を備えている。回折格子の膨張と隣接するプリズムの屈折率変化によって効果が相殺し、出射角度が変化を補正している。
【0007】
特許文献6、7は、光分散素子として回折格子を用いた波長選択スイッチ(WSS+補正プリズム)が開示されている。光路中にプリズムを配置することにより温度変化による分散角の変化を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−187550号公報
【特許文献2】特開2007−135989号公報
【特許文献3】特開2000−199855号公報
【特許文献4】特許第3937403号公報
【特許文献5】特表2003−509714号公報
【特許文献6】米国特許第7,058,251号明細書
【特許文献7】米国特許第7,630,599号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜4に記載の従来技術では、温度が変化した際の出射角度の変化についての記述がない。
【0010】
特許文献5〜7に記載の従来技術では、温度変化によって分散特性が変化することを課題としてあげその対策を行っている。しかし、温度変化によって分散特性が変化することの主たる原因を回折格子の基板の熱膨張に求めているが、大気の屈折率の変化や分散素子内を光線が通る場合は、温度変化による分散素子自身の屈折率の変化が、分散特性の変化の主たる原因となりうる。
【0011】
特に高い屈折率をもつ材料を分散素子に使用している場合はその変化が大きい。このような理由で、従来の分光器では、温度変化に対する安定した分散特性をもつことは困難であった。
【0012】
屈折率が高いシリコンを材料としたグリズムを分散素子として使用した分光計の例を図1に示す。
グリズム150は図16に示すようにプリズム152の斜辺に回折格子151を形成したものである。出射角度θ11が回折角θ9の約プリズムの屈折率倍になるので通常の回折格子より分散角を大きくできる。より分散角を大きくするには、プリズムの屈折率を大きくすれば良いので、赤外ではシリコンプリズムなどが使われている。図17に示すように、シリコンプリズム170に、回折格子171を形成したシリコンチップ172を接合したグリズムなどが使用されている。
【0013】
図1の分光計は、入射した光線はスリット101を通過し、コリメータ102で平行光になりシリコングリズム150に入射する。シリコングリズム150の回折格子面151で回折し、分光される。
【0014】
分光した光はコリメータ102により、受光素子アレイ105上に各波長ごとに集光される。受光素子105アレイの各素子の出力を見ることによりスペクトル強度を得ることができる。
【0015】
上記したようにグリズムは屈折率の高いシリコンを使用しているので、分散角を大きくとることができ分解能が高い。しかし、シリコンの屈折率は温度変化により大きく変化するため、温度によりグリズムから出射光線の角度が変化し、スペクトル分布が波長方向にシフトする。
【0016】
シリコンの屈折率と屈折率の温度係数を表1に示す。たとえば波長1.55μm、温度T°Cでの屈折率n(T, 1.55)は
n(T,1.55) = 0.00018 ×(T - 20) + 3.478
で計算できる。
【0017】
【表1】
【0018】
また、図3に示すように各角度を定義する。
θ7 = Asin( sin( θ6 ) / n)
θ8 = α2 - θ7
θ9 = Asin(λ / n / p - Sin( θ8 ) )
θ10 = θ9 - α2
θ11 = Asin( n sin( θ10 ) )
【0019】
ここで、
n:各波長各温度での屈折率、
p:グリズム回折格子面の格子ピッチ、
である。
【0020】
表2に示す値を使用して、グリズムからの出射角度(θ11)を計算すると表3に示すようになる。また、以下の数式に示すよう波長シフト量δλを計算した結果を、表4に掲げる。グラフにするとグラフ1(図18参照)のようになる。
【0021】
10°Cで0.75nm程度のシフト量になる。たとえばWDM等の光通信では、1チャンネルの波長幅が約0.8nmまたは0.4nm程度であるので、光通信用機器での計測等で使用する分光器としては、非常に大きなシフト量になる。
【0022】
【表2】
【0023】
【表3】
【0024】
【表4】
【0025】
【数1】
【0026】
また、図2には特許文献6,7に記載されている方法と同様に補正プリズムを使用して補正する例を示している。グリズムに入射する角度を補正プリズムによって温度とともに変化させ、グリズムから出射する角度を温度によらず一定になるようにしている。
【0027】
図4に示すように各角度を定義する。スネルの法則と回折の法則から下記の関係がある。
θ2 = Asin( sin( θ1 ) / n )
θ3 = α1 - θ2
θ4 = Asin( n sin( θ3 ) )
θ6 = θ4 - θ5
θ7 = Asin( sin( θ6 ) / n)
θ8 = α2 - θ7
θ9 = Asin(λ / n / p - Sin( θ8 ) )
θ10 = θ9 - α2
θ11 = Asin( n sin( θ10 ) )
ここで、
n:各波長各温度での屈折率
p:グリズム回折格子面の格子ピッチ
θ5:基準波長、基準温度(ここでは20°C、1.55μm)のときのθ6が、グリズムの効率が高くなる値に定めている。
θ6=17度、θ5 = θ4(20°C、1.55μmのときの)−17度
となる。
【0028】
表5、表6に示す値を使用して、温度に対する、グリズムからの出射角度θ11を計算する。補正プリズムの入射角度θ1と頂角α1は、温度変化に対してグリズムからの出射角度θ11の変化が最小かつ補正プリズムの入射角θ1と出射角θ4がほぼ等しくなるように、設定している。
【0029】
【表5】
【0030】
【表6】
【0031】
結果を表7に示す。そして、上述の[数1]に示したように、波長シフト量δλを計算する。
【0032】
【表7】
【0033】
この結果として波長シフト量を表8に掲げる。グラフにするとグラフ2(図19参照)のようになる。-20から60°Cで0.05nm程度の波長シフト量となる。この分光装置を波長選択スイッチ等に使用した場合、波長シフトは一つのチャンネルの帯域を減少させることになる。1チャンネルが50GHz幅のWDMシステムの場合、波長に換算すると1チャンネルは0.4nm程度の幅になる。0.05nmのシフトは10%程度、帯域を制限することになる。
【0034】
【表8】
【0035】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたもので、温度変化があっても分散特性の変化が十分に小さい分光装置とそのような分光装置を使用した波長選択スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る分光器は、
分散素子と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
前記プリズムと分散素子の間に配置された入射光線の入射角度を比例拡大した角度で光線を出射する光線角度拡大光学系と、
を備えることを特徴とする。
なお、分散素子とは、光を分散させる素子で、屈折率が波長によって変化する素子(光をスペクトルに分ける機能を有する素子)であって、例えば、プリズム、回折格子、グリズム等の光学要素が一例として相当する。
【0037】
本発明において、前記分散素子がシリコングリズムであり、前記プリズムがシリコンプリズムであり、光線角度拡大光学系がアフォーカル光学系であることを特徴とすることができる。
【0038】
また、本発明に係る分光器は、
分散素子と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
補正光学系と分散素子の間に配置されたアフォーカル光学系と、
を備え、
前記分散素子、前記アフォーカル光学系、前記補正光学系をそれぞれ、前記プリズムからの出射する光線が温度変化によって出射角度が変化するときの回転中心と、分散素子に入射する光線が温度変化によって変化するときの回転中心と、が共役の関係になるように、配置したことを特徴とする。
【0039】
また、本発明において、前記分散素子がシリコングリズムであり、前記補正光学系がシリコンプリズムであることを特徴とすることができる。
【0040】
本発明に係る波長選択スイッチは、
波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
前記光を分散させる分散素子と、
前記プリズムと分散素子の間に配置されたアフォーカル光学系と、
分散された波長ごとに光を集光する集光要素と、
前記集光要素からの前記波長ごとの光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の偏向素子を有する光偏向部材と、
前記光偏向部材によって偏向された前記波長ごとの光を受光する出力部と、
を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、温度変化があっても分散特性の変化が十分に小さい分光器とそのような分光装置を使用した波長選択スイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】屈折率が高いシリコンを材料としたグリズムを分散素子として使用した分光計の一例を示す図である。
【図2】補正プリズムを使用して温度変化を補正する一例を示す図である。
【図3】グリズムの構成例と各角度を示す図である。
【図4】補正プリズムを含む構成例と各角度を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る分光装置の全体的な構成例を概略的に示す図である。
【図6】同上実施形態に係る分光部の構成例を示す図である。
【図7】同上実施形態において各角度を定義する図である。
【図8】同上実施形態に係るアフォーカル光学系を説明する図である。
【図9】波長シフト量δλの算出について説明する図である。
【図10】同上実施形態に係るアフォーカル光学系において回転中心(P1)と回転中心(P2)とが共役の関係にない場合に、温度変化があったとき、グリズムからの出射光線が角度変化はないが平行移動する様子を示す図である。
【図11】同上実施形態に係るアフォーカル光学系において回転中心(P1)と回転中心(P2)とを共役の関係にセットした場合に、温度変化があっても、グリズムからの出射光線が角度変化や平行移動なく出射する様子を示す図である。
【図12】同上実施形態に係るアフォーカル光学系において回転中心(P1)と回転中心(P2)とが共役の関係にない場合に、温度変化があったとき、受光素子アレイに対して角度を持って入射する様子を示す図である。
【図13】同上実施形態に係るアフォーカル光学系において、回折レンズを組み合わせた場合の構成例を示す図である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係る波長選択スイッチの構成を示す斜視図である。
【図15】同上実施形態に係る波長選択スイッチのミラーアレイの構成を示す斜視図である。
【図16】グリズムの構成例と各角度を示す図である。
【図17】シリコンプリズムに、回折格子を形成したシリコンチップを接合したグリズムの構成例と各角度を示す図である。
【図18】グラフ1を示す図である。
【図19】グラフ2を示す図である。
【図20】グラフ3を示す図である。
【図21】グラフ4を示す図である。
【図22】グラフ5を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に、本発明に係る実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお、全図を通して同一の符号は同一または相当部分を示すものとする。また、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0044】
<第1の実施形態>
(構成)
本実施形態のプリズム(分光装置)300は、図5に示すように、以下の構成を備えている。
すなわち、光線が入力する入射スリット101と、入射スリット191より入射する複数波長の光線を略平行光にするコリメータ102と、後述の分光部103と、分光された光をそれぞれ集光するコリメータ104と、予め分割された、それぞれの波長帯の光を受光する受光素子アレイ105と、を含んで構成されている。
【0045】
分光部は、図6に示すように、以下の構成を備えている。
屈折率nの媒質からなる、頂角α1の補正プリズム140と、屈折率nの媒質からなる、頂角α2、ピッチp、回折次数1のグリズム150と、補正プリズム140とグリズム150の間にアフォーカル倍率mのアフォーカル光学系ALと、を含んで構成されている。
【0046】
アフォーカル光学系ALは以下の構成を備えている。
焦点距離f1を持つレンズL1と、焦点距離f2を持つレンズL2と、を含んで構成されている。アフォーカル倍率mは図8に示す構成において、以下の数式により、m=f1/f2となる。
【0047】
【数2】
【0048】
アフォーカル光学系ALの光軸は基準温度、基準波長のときの光線としている。ここでは、基準温度20°C、基準波長1.55μmとしている。温度が変化すると光線が光軸から傾く。その傾きをアフォーカル光学系ALへ入射するときをθ41、出射するときをθ61としている。
【0049】
θ41は補正プリズム140から出射するときの出射角の、基準光線からの変化量である。変化量は、非常に小さいのでsinθをθで近似できる。アフォーカル光学系ALは通常の光学ガラスを材料としている。通常の光学ガラスの屈折率の温度係数はシリコンと比較すると2桁小さく無視できる。
【0050】
光通信でのシステムでの測定または、装置として使用する場合、波長帯域も狭いので、通常の光学ガラスでは屈折率はほとんど変化しない。ここでは、屈折率はほとんど変化しないと考えて、アフォーカル光学系ALに使用しているレンズの焦点距離fは一定として計算している。
【0051】
補正プリズム140には図5のコリメータ102から出た光が入射する。プリズム140は入射光25(図6)の当たる順に第1面、第2面を持つ。補正プリズム140を出た光はアフォーカル光学系ALに入射する。
【0052】
グリズム150はアフォーカル光学系を通過した後の光が当たる順に、第1面、回折格子面である第2面、第1面と共通の第3面23(図7)を持つ。グレーティング第3面を出た光は、主に第2面により分光されていて、図5のコリメータ102に向かう。
【0053】
図7に示すように角度を定義するとスネルの法則と回折の法則から下記の関係がある。
θ2 = Asin( sin( θ1 ) / n )
θ3 = α1 - θ2
θ4 = Asin( n sin( θ3 ) )
θ41 = θ4(T°C、λのときの) - θ4(基準温度、基準波長のとき(ここでは20°C、1.55μm))
θ61 = m θ41
θ6 = 180-θ61 - θ4(基準温度、基準波長のとき)- θ5
θ7 = Asin( sin( θ6 ) / n)
θ8 = α2 - θ7
θ9 = Asin(λ / n / p - Sin( θ8 ) )
θ10 = θ9 - α2
θ11 = Asin( n sin( θ10 ) )
【0054】
ここで、
n:各波長各温度での屈折率、
p:グリズム回折格子面の格子ピッチ、
θ5は基準波長、基準温度(ここでは20°C、1.55μm)のときのθ6が、グリズムの効率が高くなる値に定めている。
ここではθ6=17度、基準温度、基準波長ではθ61 = 0 だから
θ5 = 180 - θ4(20°C、1.55μmのときの) - 17
補正プリズム140の入射角θ1、頂角α1とアフォーカル倍率mを適当な値にすることにより、グリズム150からの光線の出射角度θ11を温度によらず一定にできる。
【0055】
表9、表10、表11の値を使用して、グリズムから光線の出射角度を計算すると表12のようになる。上述の[数1]に示すように波長シフト量を計算した結果を表13に示す。グラフをグラフ3(図20参照)に示す。
【0056】
【表9】
【0057】
【表10】
【0058】
【表11】
【0059】
【表12】
【0060】
【表13】
【0061】
波長シフト量は0.003nm程度である。この分光装置をチャンネル幅50GHzのWDMシステムに使用する波長選択スイッチに応用した場合、波長シフトによる1チャンネルの制限は1%程度に抑えることができる。
【0062】
(作用効果)
補正プリズムのみで、温度補償した場合、グラフ2(図19)に示すように、温度と波長シフトの関係が上に凸のグラフになる。補正プリズムとアフォーカル光学系を使用した場合、グラフ3、4、5(図20、21、22)に示すように、アフォーカル倍率によって、形状が異なる。アフォーカル光学系に入射する光線角度は1度に満たない角度なので、図8に示すように線形に角度変化を拡大している。倍率を低くすれば、補正プリズムのみの場合に近づく。倍率を大きくするとグリズムに入射する光線の角度変化が温度に対して線形に変化することになる。
【0063】
倍率が低いとき(-3倍)グラフ4(図21参照)に示すように上に凸のグラフとなり、補正プリズムと同じ形状になっている(シフト量は小さい)。
【0064】
倍率が大きいとき(5倍)グラフ5(図22参照)に示すように下に凸の形状をしている。補正プリズムでは上に凸になり、グリズムでは下に凸になる。補正プリズムのみでは、線形成分と非線形成分を独立して動かすことができないため、線形成分を補正すると非線形成分が残り、非線形成分を補正すると線形成分が残る。
【0065】
補正プリズムとアフォーカル光学系を組み合わせると、アフォーカル倍率と補正プリズムの頂角を動かすことで、線形成分と非線形成分を独立して動かすことができるため、一つの波長に対しては完全に補正することができる。波長に対して、独立して補正をかけることはできないので、基準波長、中心波長の線形成分を補正することでバランスをとることができる。
【0066】
以上のことから、補正プリズムとアフォーカル光学系で温度補正をすることで、温度変化に対する波長シフトを補正プリズムなしの1/1000、補正プリズムのみの1/10にすることができる。
【0067】
(変形例)
アフォーカル光学系は図13に示すように回折レンズ160を組み合わせてもよい。レンズは球面で光線を曲げるのに対して、回折格子160は、平面で光線を曲げている。このため、同じ光束径でも焦点距離を短くできるので、アフォーカル光学系の全長を短くできる利点がある。
【0068】
図11に示すように、補正プリズム140から射出する光線が温度変化によって回転する回転中心(P1)と、グリズム150に入射する光線が温度変化によって回転する回転中心(P2)が、アフォーカル光学系で共役の関係になるように構成する。
【0069】
共役の関係でないと、図10に示すように、温度変化があったとき、グリズム150からの出射光線は、角度変化はないが平行移動する。これに対して、図12に示すように角度変化が無いので、波長シフトはないが、受光素子アレイ105に対して角度を持って入射することになる。PD(フォトダイオード)の感度は角度依存性があるためスペクトル分布を正しく測定できない。共役にしてあれば、平行移動もないので、受光素子アレイ105に対して角度を持つことはなく、スペクトル分布を正しく測定できる。
【0070】
<第2の実施形態>
(構成)
第2の実施形態の波長選択スイッチは、図14に示すように、以下の構成を備えている。
すなわち、ファイバアレイ502と、レンズアレイ501と、分光部103と、コリメータ504と、ミラーアレイ505と、を含んで構成されている。
【0071】
ミラーアレイ505は図15に示すように、任意のミラーMをY軸周りに回転することができる。
【0072】
図14に示したように、1本のファイバから出力された複数の波長を持つ光線は、レンズアレイ502で平行光にされ、分光部103へ入射する。分光部103から分光されて光が出射され、コリメータ504によりミラーアレイ505上に各波長ごとに集光する。
【0073】
ミラーアレイ505で反射した光線は、コリメータ504で平行光にされ、分光部103へ戻る。ミラーアレイ505を回転させることにより、戻りの光線の高さを変えることができて、任意のレンズアレイ502に入射することができる。レンズアレイ502によって、ファイバー501に光線を結合し任意のファイバ501に任意の波長の光線を伝達することができる。
【0074】
分光部103には、第1の実施形態で説明した分光部を利用することができる。
すなわち、温度が変化しても分光部103から出射する光線の角度はほとんど変化しない。従って同一波長の光は、ミラーアレイ505上に固定されシフトしない。光線がミラーアレイ505上でシフトすると、その分帯域が狭くなるが、本実施形態では、ほとんど帯域が狭くならない。
【0075】
(作用効果)
温度変化によって、射出光線の射出角度がほとんど変化しない分光器を使用することによって、1チャンネルの帯域の広い波長選択スイッチを実現することができる。
【0076】
本発明は、上述した発明の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明は、温度変化があっても分散特性の変化が十分に小さい分光器とそのような分光装置を使用した波長選択スイッチを提供することができ、例えば光学系の分野において有用である。
【符号の説明】
【0078】
101 スリット
102 コリメータ
103 分光部
104 コリメータ
105 受光素子アレイ
140 補正プリズム
150 グリズム
151 光学回折面
160 回折レンズ
300 分光器
Lλ1、Lλ2 光束
AL アフォーカス光学系
L1、L2 レンズ
M ミラー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散素子と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
前記プリズムと前記分散素子の間に配置された入射光線の入射角度を比例拡大した角度で光線を出射する光線角度拡大光学系と、
を備えることを特徴とする分光器。
【請求項2】
前記分散素子がシリコングリズムであり、
前記プリズムがシリコンプリズムであり、
光線角度拡大光学系がアフォーカル光学系であることを特徴とする請求項1に記載の分光器。
【請求項3】
分散素子と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
補正光学系と分散素子の間に配置されたアフォーカル光学系と、
を備え、
前記分散素子、前記アフォーカル光学系、前記補正光学系をそれぞれ、前記プリズムからの出射する光線が温度変化によって出射角度が変化するときの回転中心と、分散素子に入射する光線が温度変化によって変化するときの回転中心と、が共役の関係になるように、配置したことを特徴とする分光器。
【請求項4】
前記分散素子がシリコングリズムであり、
前記補正光学系がシリコンプリズムであることを特徴とする請求項3に記載の分光器。
【請求項5】
波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
前記光を分散させる分散素子と、
前記プリズムと分散素子の間に配置されたアフォーカル光学系と、
分散された波長ごとに光を集光する集光要素と、
前記集光要素からの前記波長ごとの光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の偏向素子を有する光偏向部材と、
前記光偏向部材によって偏向された前記波長ごとの光を受光する出力部と、
を備えていることを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項1】
分散素子と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
前記プリズムと前記分散素子の間に配置された入射光線の入射角度を比例拡大した角度で光線を出射する光線角度拡大光学系と、
を備えることを特徴とする分光器。
【請求項2】
前記分散素子がシリコングリズムであり、
前記プリズムがシリコンプリズムであり、
光線角度拡大光学系がアフォーカル光学系であることを特徴とする請求項1に記載の分光器。
【請求項3】
分散素子と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
補正光学系と分散素子の間に配置されたアフォーカル光学系と、
を備え、
前記分散素子、前記アフォーカル光学系、前記補正光学系をそれぞれ、前記プリズムからの出射する光線が温度変化によって出射角度が変化するときの回転中心と、分散素子に入射する光線が温度変化によって変化するときの回転中心と、が共役の関係になるように、配置したことを特徴とする分光器。
【請求項4】
前記分散素子がシリコングリズムであり、
前記補正光学系がシリコンプリズムであることを特徴とする請求項3に記載の分光器。
【請求項5】
波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、
温度変化に対して出射光線の角度が変化するプリズムと、
前記光を分散させる分散素子と、
前記プリズムと分散素子の間に配置されたアフォーカル光学系と、
分散された波長ごとに光を集光する集光要素と、
前記集光要素からの前記波長ごとの光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の偏向素子を有する光偏向部材と、
前記光偏向部材によって偏向された前記波長ごとの光を受光する出力部と、
を備えていることを特徴とする波長選択スイッチ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−145402(P2012−145402A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3021(P2011−3021)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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