分析システム、分析用電気化学セルおよび分析方法
【課題】固体または準固体の電解質が用いられる電気化学セルの内部状態を分析すること。
【解決手段】本発明の分析システムにおいて、核磁気共鳴イメージング装置の磁石ボアB内に配置される分析用電気化学セル160aは、RFコイル130により囲繞され、固体または準固体の電解質および非磁性材料の電極を含む電気化学セル構造と、電気化学セル構造を両側から支持する非金属材料の支持部材168,172と、電気化学セル構造の電極と外部とを電気的に接続する接続構造とを含む。さらに、分析システムにおいては、電気化学測定装置の端子と接続構造との間には、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するフィルタ190aおよび190bが介装される。本分析システムは、これにより電気化学セル構造の電解質内の測定対象核種の空間分布を画像化する。
【解決手段】本発明の分析システムにおいて、核磁気共鳴イメージング装置の磁石ボアB内に配置される分析用電気化学セル160aは、RFコイル130により囲繞され、固体または準固体の電解質および非磁性材料の電極を含む電気化学セル構造と、電気化学セル構造を両側から支持する非金属材料の支持部材168,172と、電気化学セル構造の電極と外部とを電気的に接続する接続構造とを含む。さらに、分析システムにおいては、電気化学測定装置の端子と接続構造との間には、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するフィルタ190aおよび190bが介装される。本分析システムは、これにより電気化学セル構造の電解質内の測定対象核種の空間分布を画像化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルの分析技術に関し、より詳細には、固体または準固体の電解質が用いられる電気化学セルの内部状態を分析するための分析システム、分析用電気化学セルおよび分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やラップトップ・コンピュータなどのバッテリとして広く使用されており、今後、ハイブリッド自動車や電気自動車などの大型電源用途への応用が期待されている。しかしながら、液系のリチウムイオン二次電池は、その電解溶液の有機溶媒の可燃性により、火災等の安全面での懸念があり、その応用への障害となっている。
【0003】
種々のリチウムイオン二次電池の中でも、全固体リチウムイオンポリマー二次電池は、難燃性の高分子電解質を用いて構成できるため、安全性を確保する上で有利であり、固体材料で構成されているため、液漏れの心配が無くまた成形性も高く、注目されている。また、近年では、高分子電解質の分子設計を最適化することにより、比較的高出力な条件下でも、液系のリチウムイオン二次電池に匹敵する容量が達成できることが実証されている。しかしながら、リチウムイオンポリマー二次電池は、充放電サイクルに伴って電池容量が急速に劣化するという性質を有し、このことが実用化への障害となっている。
【0004】
これまで、リチウムイオンポリマー二次電池の劣化機構を解明することを目的として、交流インピーダンス法による電気化学測定、X線回折法や電子顕微鏡による構造分析などが行われている。交流インピーダンス法は、交流電気信号を電池に与え、その応答から固体内のイオン移動に関する情報を得る手法である。これまで、充放電サイクルを繰り返すことにより、電池容量の劣化に対応して、正極/電解質の界面による内部抵抗が顕著に増加することが明らかとなっている。X線回折法や電子顕微鏡では、所定の充放電サイクルを行った後で電池を解体し、それを分析することで、電極材料の結晶構造変化や、電池内におけるフッ素より原子番号の大きい元素の空間的分布の変化を観察することができる。
【0005】
しかしながら、X線回折法および電子顕微鏡観察は、破壊検査であるため、その場(in situ)情報を得ることが困難であり、また、軽金属であるリチウムを観察することができない。交流インピーダンス法によれば、非破壊的に高分子電解質内部のイオン移動に関する情報を得ることができるが、リチウムイオンと、その対アニオンとを区別してイオンの移動を捉えることができず、また得られた結果も間接的な推測であり、リチウムイオン二次電池の内部状態を充分に評価できるというものではない。
【0006】
本発明者等は、これまで、リチウムイオンポリマー二次電池内部のイオン輸送現象を分析するために、パルス勾配磁場NMR法(PGSE−NMR:Pulse Field-gradient Stimulated-echo Nuclear Magnetic Resonance)を用いて、リチウムイオンおよび対アニオンのフッ化物イオンの拡散係数を測定し、イオン種の運動性と電池特性との関係を議論することに成功している。その他、PGSE−NMRによるポリマー電解質の拡散係数を研究した報告として、非特許文献1が開示されている。これらの手法によれば、非破壊的に、リチウムイオンと、その対アニオンとを区別して電解質内部のイオン移動に関する情報を得ることができる。しかしながら、イオン種の拡散係数や塩解離度などの、限られた情報しか得られないため、リチウムイオン二次電池の内部状態を充分に評価できるものとは言えない。
【0007】
上述した劣化機構は、未だ充分に解明されてはいないが、これまでの分析結果から、容量劣化を回避し、より高性能なリチウムイオンポリマー二次電池を提供するためには、動作中の二次電池の内部、特に電極/電解質界面の反応場におけるイオン移動の詳細を把握し、それに対応して電池構成を最適化することが重要であると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H. Kataoka et al., ”Ionic Conduction Mechanism of PEO-Type Polymer Electrolytes Investigated by the Carrier Diffusion Phenomenon Using PGSE-NMR”, Macromolecules,35, 6239-6244(2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
すなわち、動作状態において、リチウムイオンポリマー二次電池などの電気化学セル内部の電解質中のイオン種の移動および空間的分布を、非破壊的かつリアルタイムに分析可能とする、新奇な分析技術の開発が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明は、動作状態において、電気化学セル内部の固体または準固体の電解質中のイオン移動現象および空間的分布を、イオン種を区別しながら、非破壊的かつリアルタイムに計測し、画像化することができる分析システムを提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、上記分析システムで使用する分析用電気化学セルを提供することである。本発明のさらに他の目的は、動作状態において、電気化学セル内部の固体または準固体の電解質中のイオン移動現象および空間的分布を、イオン種を区別しながら、非破壊的かつリアルタイムに計測し、画像化する分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、NMRイメージングを電気化学測定系に適用し、電気化学セル構造内の電解質におけるイオン移動現象および空間的分布を非破壊的にin situ測定すれば上記従来技術の問題点を解決することができるという着想の下、鋭意検討を加え、高磁場かつラジオ波検出領域に配置される電気化学セルの構造、および電気化学測定系との接続を検討することによって、上記着想した手法を実現可能であることを見出し、本発明に至ったのである。すなわち、本発明者等は、電極材料および接続構造を非磁性材料で構成し、かつ、ラジオ波検出領域内から金属要素を可能な限り排除し、さらに電気化学測定装置と電気化学セルとの間に、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯域の信号ノイズを遮断するローパスフィルタをラジオ波検出領域に近接して介装することによって、上記イオン移動現象および空間的分布のin situ計測が実現可能となることを見出し、本発明に至ったのである。
【0012】
本発明によれば、核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造を分析するための分析システムが提供される。本発明の分析システムでは、RFコイルにより囲繞され、固体または準固体の電解質および非磁性材料の電極を含む電気化学セル構造と、電気化学セル構造を両側から支持する非金属材料の支持部材のセットと、電気化学セル構造の電極と外部とを電気的に接続する接続構造とを含む分析用電気化学セルを用いる。
【0013】
分析システムでは、上記分析用電気化学セルを核磁気共鳴イメージング装置の磁石ボア内に配置し、電気化学測定装置の端子と接続構造との間に、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するフィルタを介装し、電気化学セル構造の電解質内の測定対象核種の空間分布を画像化する。
【0014】
上記構成によれば、ラジオ波検出領域内から金属要素が可能な限り排除され、さらに測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯域の信号ノイズが好適に遮断されるため、実用的な信号雑音比による電気化学セル構造の電解質内のイメージングを実現することが可能となる。
【0015】
さらに上記分析システムは、グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスを用いて、測定対象核種の空間分布を画像化することができる。グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスを用いることにより、電気化学セル構造の電解質内のイメージングの高速化が実現される。また本発明では、電気化学セル構造は、リチウムイオンを含有する高分子材料の電解質と、この電解質を挟んで両側に配置される第1電極および第2電極とを含んで二次電池を構成することができる。さらに本発明では、上記分析システムは、7Li、19F、31P、および1Hからなる群から選択された1以上の核種を測定対象核種とすることができる。したがって、固体または準固体の電解質中の種々の元素の空間分布を画像化することが可能となる。
【0016】
さらに本発明では、分析用電気化学セルは、フィルタに接続し、接続構造を構成し、かつシール部材とともに試料管内に前記電気化学セル構造を密封し、支持部材のセットを両側から挟持する、非磁性かつ導電性のブロックのセットをさらに含むことができる。この場合に、上記支持部材は、RFコイルの検出範囲からこのブロックを排除することができる。
【0017】
さらに本発明では、上記電気化学セル構造の電極は、それぞれ0.1mm以下の厚みを有する非磁性金属材料の集電体を含むことができ、接続構造は、集電体に接続し、0.5mm以下の直径を有する非磁性金属材料の引き出し線を含むことができる。上記サイズの部材を用いることにより、NMRイメージングに影響し得るノイズを良好に減少させることが可能となる。また、核磁気共鳴イメージング装置は、超伝導磁石、RFコイル、勾配コイル、磁場勾配制御機能を備えるNMR分光計および測定コンピュータを含むことができる。
【0018】
さらに、本発明によれば、核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造を分析するため分析用電気化学セルが提供される。また、本発明によれば、核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造を分析する分析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態による分析システムの概略を示す図。
【図2】本発明の実施形態の分析用電池セル・セットの概略を示す図。
【図3】本発明の実施形態の分析用電気化学セル内部の詳細な構造を示す図。
【図4】本実施形態の分析用電池セルの外観を示す写真。
【図5】本発明の他の実施形態における分析用電池セル・セット周辺の概略を示す図。
【図6】本発明のさらに他の実施形態における分析用電池セル・セット周辺の概略を示す図。
【図7】本発明の実施形態による分析方法を示すフローチャート。
【図8】グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスの波形を模式的に示す図。
【図9】作製した電池セル構造の充放電特性を示すグラフ。
【図10】リチウムイオンポリマー二次電池におけるフッ素イオンのz軸に水平な平面上の分布を示す画像。
【図11】リチウムイオンポリマー二次電池におけるフッ素イオンのz軸に垂直な平面上の分布を示す画像。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体的な実施形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態による分析システム100の概略を示す。図1に示す分析システム100は、超伝導磁石110と、核磁気共鳴(以下、NMRと参照する。)分光計120と、測定用コンピュータ140と、電気化学測定装置150とを含んで構成される。測定用コンピュータ140には、NMRイメージング測定を実行するための測定アプリケーションがインストールされており、測定用コンピュータ140は、NMR分光計120の動作を制御して、計測されるNMR信号からn次元の画像データを構成し、ハードディスクなどの記憶領域に記録する。
【0022】
NMR分光計120は、勾配磁場制御ユニットを備え、超伝導磁石110のボアB内には、x軸、y軸およびz軸の3軸方向の勾配コイル132x,y,zが配置されている。NMR分光計120は、スライス選択勾配磁場制御信号、位相エンコード勾配磁場制御信号および周波数エンコード勾配磁場制御信号を生成し、勾配コイル132z、勾配コイル132yおよび勾配コイル132xに駆動電流を出力して、被測定対象の空間に印加する傾斜勾配磁場を制御し、これによりNMR信号に位置情報を付加している。ここで、z軸は、超伝導磁石110が発生する静磁場方向の軸であり、y軸およびx軸は、z軸に垂直な平面内の2軸である。
【0023】
超伝導磁石110のボアB内には、さらに、勾配コイル132のセットの内側にRF(Radio Frequency)コイル130が配置され、RFコイル130の内側には、本発明の実施形態のNMRイメージング分析用電池セル(以下、単に分析用電池セルと参照する。)160aが配置される。
【0024】
またNMR分光計120は、RFコイル130を接続するための照射チャンネルを備え、所定のパルス・シーケンスに従って、上記勾配磁場制御信号に対応するRFパルス波形を生成し、RFコイル130に駆動電流を出力し、ラジオ波パルスを照射する。またNMR分光計120は、分析用電池セル160aからRFコイル130に誘起されたNMR信号を受信する。測定用コンピュータ140は、NMR信号と、勾配磁場制御により付加された位置情報と合わせて、投影再構成法またはフーリエ変換法などにより画像データを再構成する。本実施形態において、超伝導磁石110、NMR分光計120、RFコイル130、勾配コイル132および測定用コンピュータ140がNMRイメージング装置を構成する。
【0025】
本発明の実施形態による分析用電池セル160aは、その内部に電池セル構造が配置されており、電池セル構造が本分析システム100の被測定対象となる。内部の電池セル構造の電極は、配線を介して電気化学測定装置150の接続端子へ接続される。電気化学測定装置150は、ポテンショスタットやガルバノスタット、充放電試験装置として動作し、例えば、サクリック・ボルタンメトリー測定やポテンショメトリー、充放電試験などの直流分極測定を行うことが可能とされる。例えば、充放電試験では、指定された測定シーケンスに従って、分析用電池セル160aの電池セル構造の電極間に一定電圧または一定電流を印加して充放電し、充電容量など蓄電容量を計測することができる。
【0026】
また電気化学測定装置150には、周波数応答アナライザ(Frequency Response Analyzer:FRA)またはロックイン・アンプを組み込むことができ、これにより、交流インピーダンス測定を行うことができる。電気化学測定装置150は、GPIB(General Purpose Interface Bus)などの適切なインタフェースを介して測定用コンピュータ140に接続することができ、NMRイメージング測定と協働して、電池セル構造を測定対象としたその場(in situ)NMRイメージング測定を実行することができる。あるいは、電気化学測定装置150は、独立した他のコンピュータや制御ユニットにより制御することもできる。
【0027】
以下、本発明の実施形態によるNMRイメージング分析用電気化学セルの構造について説明する。図2は、本発明の実施形態の分析用電池セル・セット160の概略を示す。なお、図2は、分析用電池セル・セット160を模式的に示すものであり、縦および横の縮尺比は、必ずしも一致していないことに留意されたい。
【0028】
図2に示す分析用電池セル・セット160は、分析用電池セル160aと、該分析用電池セル160aの外部端子に接続されるノイズカット・フィルタ190a,190bとを含んで構成される。分析用電池セル160aは、より詳細には、両端開放の筒形状の試料管162と、試料管162内に装入される、スペーサ168,172のセットと、ブロック164,166,174のセットとを含む。試料管162は、RFコイル130内に配置可能な形状とされ、例えば、円筒形状のパイレックス(登録商標)ガラス管や石英ガラス管を用いることができる。なお、図2に示す分析用電池セル・セット160aは、試料管162が伸びる方向が超伝導磁石110のボアBの方向に沿うように配置される。
【0029】
上下のスペーサ168,172の間には、被測定対象の電池セル構造を格納するための電池室170が構成され、RFコイル130は、この電池室170を囲繞するように配置される。なお、図2に示すRFコイル130は、サドル型コイルである。スペーサ168,172は、電池室170に格納された電池セル構造を両側から支持している。スペーサ168,172は、非磁性かつ非金属の材料から形成され、RFコイル130が囲繞するラジオ波検出範囲から、ノイズを発生させ得る金属材料を可能な限り排除している。スペーサ168,172は、本実施形態の支持部材を構成する。スペーサ168,172の具体的な厚みは、使用するRFコイル130のサイズおよび形状などを考慮して適宜設定することができる。例えば試料管162内に金属を挿入し、ノイズレベルをモニタしながら、RFコイル130の位置に対する金属との位置を変化させ、ノイズレベルが実用に耐え得る程度に減少される距離を採用することができる。
【0030】
このような、非磁性かつ非金属の材料としては、耐薬性や取り扱い容易性の観点からは、テフロン(登録商標)やダイフロン(登録商標)などのフッ素系樹脂が好ましく用いられ、その他、アクリル樹脂などの他の樹脂材料や、ガラス材料や、セラミクス材料などを用いることができる。またスペーサ168,172は、試料管162に適合する形状に加工されており、円筒形状の試料管を用いる場合には、その円筒形状の内径未満の直径を有する円柱形状に加工される。
【0031】
試料管162のスペーサ168およびスペーサ172の外側には、それぞれ、ブロック164,166およびブロック174が装入され、スペーサ168,172およびその内側の電池セル構造が両側から挟持される。ブロック164,166,174は、試料管162に適合する形状に加工され、円筒形状の試料管を用いる場合には、その円筒形状の内径未満の直径を有する円柱形状に加工される。
【0032】
ブロック164,174の側面周方向には、溝が切られ、Oリング180が嵌め込まれ、試料管162とともに内部の電池セル構造を密封し、外気から遮断する。ブロック164とブロック166との間には、空間が形成されているが、これは、ブロック164,174により密封する際の空気の逃げ場として働く。
【0033】
ブロック164,166,174は、非磁性かつ導電性を有する材料を含み、内部に配置される電池セル構造と、外部の電気化学測定装置150との電気的接続を与える。このような、非磁性かつ導電性の材料としては、真鍮、非磁性ステンレス鋼、アルミニウム、銅などの非磁性金属材料(単体金属および合金を含む。)を用いることができ、また適切な導電性が得られる限り、グラファイトやグラッシーカーボンなど炭素材料や導電性かつ非磁性であるセラミックスなどの導電性非金属材料を用いることができる。
【0034】
ブロック164には、ネジ穴が貫通して形成され、ブロック166にも、適切な深さのネジ穴が形成される。ブロック164,166のネジ穴には、ネジ176が螺嵌され、このネジ176によりスペーサ168を押さえるよう構成されている。ブロック164,166およびネジ176の構成により、電池セル構造を実用的な使用環境と近い加圧状態下に置くことができる。またブロック174にも、適切な深さのネジ穴が切られ、そこにネジ178が挿入される。これらのネジ176,178は、非磁性かつ導電性材料から形成され、分析用電池セル160aの外部端子を構成している。
【0035】
分析用電池セル160aの外部端子に接続されるノイズカット・フィルタ190は、ローパスフィルタやバンドパスフィルタなどのフィルタ回路を用いて構成され、測定対象の核種の共鳴周波数を含む周波数帯域の信号を遮断する。ノイズカット・フィルタ190により、電気化学測定装置150や、その端子と分析用電池セル160aとを結ぶ配線から発生する高周波ノイズを遮断し、NMR分光計120側の測定に悪影響を与えることを好適に防止することができる。
【0036】
ノイズカット・フィルタ190は、ノイズを低減する観点からは、測定対象の電池セル構造に近接して介装されることが好ましい。すなわち、ノイズカット・フィルタ190と電池セル構造内の電極とを結ぶ接続距離が短くなる方がより好ましい。電気化学測定装置150と、超伝導磁石110内の分析用電池セル160aとは、通常、比較的長い配線を引き回して接続されるため、外部環境から大きなノイズを拾ってしまう蓋然性があるが、上記ノイズカット・フィルタ190を用いることにより、電気化学測定系とNMR分光系とを組み合わせる際に問題となるノイズを良好に低減することができる。
【0037】
ノイズカット・フィルタ190は、例えば、共鳴周波数に対応したインダクタンスおよび静電容量のコイルLおよびコンデンサCを用いて作製することができるが、これまで知られた如何なる回路構成のフィルタ回路を用いることができる。以下、代表的な核種の共鳴周波数を例示する。200MHz級(プロトンの共鳴周波数に対応する。)、300MHz級、400MHz級の超伝導磁石では、7Liの共鳴周波数は、それぞれ、77.7MHz、116.6MHz、155.5MHzである。19Fの共鳴周波数は、188.1MHz(200MHz級)、282.2MHz(300MHz級)、376.3MHz(400MHz級)である。31Pの共鳴周波数は、80.9MHz(200MHz級)、121.4MHz(300MHz級)、161.923MHz(400MHz級)である。電気化学交流インピーダンス測定が、10mHz〜1MHz程度の範囲で行われるため、ノイズカット・フィルタ190は、例えば5MHz以上の信号を遮断するローパスフィルタとして構成することができる。
【0038】
図3は、本発明の実施形態の分析用電気化学セル内部の詳細な構造を示す図である。図3についても、縦および横の縮尺比は、必ずしも一致していないことに留意されたい。図3には、スペーサ168,172、ブロック164,166,174、ネジ176,178など、分析用電気化学セル内部構造160bを構成する要素が示されている。
【0039】
スペーサ168,172の間には、負極202、電解質204および正極206を含む電池セル構造200が配置されている。電池セル構造200は、リチウムイオンポリマー二次電池(金属リチウムを負極に用いるものも含む。)などの電気化学セルを構成する電極材料および電解質材料が含まれる。電池セル構造200をリチウムイオンポリマー二次電池として構成する場合には、負極202は、金属リチウム、ポリアセチレン、グラファイト、チタン酸リチウムなどの負極活物質を含み、正極206は、LiFePO4、LiMn2O4、LiCoO2などの正極活物質を含む。
【0040】
負極202を金属リチウムで構成する場合には、NMRイメージングに対するノイズを低減する観点からは、0.2mm以下の厚みの金属リチウム箔を用いることが好ましく、金属リチウム箔の厚みが0.1mm以下となると、ノイズレベルを相当に抑えられることができるため、より好ましい。正極206は、例えば、上記正極活物質と、アセチレンブラックやファーネスブラックなどの導電性剤と、リチウム塩含有のポリエチレンオキサイド(PEO)やポリフッ化ビニリデン(PVdF)などの結着剤との混合物を用いることができる。その他、負極202および正極206には、他の非磁性の集電体材料が含まれてもよい。集電体にAl箔やPt箔などの非磁性金属材料が含まれる場合には、NMRイメージングに対するノイズを低減する観点からは、0.2mm以下の膜厚とすることが好ましく、0.1mm以下の膜厚とすることがより好ましく、0.02mm以下の膜厚となると、ノイズレベルを相当に抑えられることができるため、より好ましい。
【0041】
電池セル構造200をリチウムイオンポリマー二次電池として構成する場合には、電解質204は、リチウムイオンを含有する固体ないしゲル状態(準固体)の高分子電解質を用いることができる。より具体的には、電解質204は、例えば、LiTFSI(LiN(SO2CF3)2)などのリチウム塩を含む、ポリエチレンオキシド系、ポリフッ化ビニリデン系、ポリアクリロニトリル系、ポリメチルメタクリレート系の高分子電解質を用いることができる。
【0042】
電解質204中のリチウム塩としては、その他、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiCl、LiBrなどの無機塩や、LiCF3SO3、LiN(SO2C2F5)2、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3などの有機塩、その他、非水電解液の電解質として知られる如何なる塩を用いることができる。
【0043】
なお、電池室170に格納される負極202、電解質204および正極206の材料構成は、リチウムイオンポリマー二次電池を用いる場合には、リチウムイオンを輸送しかつ電荷の授受により充放電可能であり、電解質が準固体または固体であり、かつ非磁性材料から構成されている限り、如何なる組み合わせのものを採用することができる。
【0044】
スペーサ168には、電池室170内の負極202に接続される引き出し線を挿通するための貫通穴168aが形成され、この貫通穴168aを通る引き出し線により、負極202とブロック166とが接続される。同様にスペーサ172には、電池室170内の正極206からの引き出し線を挿通するための貫通穴172aが形成され、この貫通穴172aを通る引き出し線により、正極206とブロック174とが接続される。
【0045】
ブロック164,166およびブロック174には、それぞれ、外部端子のネジ176およびネジ178が螺嵌されるネジ穴164a,166aおよびネジ穴174aが形成されている。本実施形態の分析用電池セル160aにおいて、貫通穴168a内を通る引き出し線、導電性のブロック166,164、およびネジ176が、電池セル構造から分析用電池セル外部への接続構造を構成する。同様に貫通穴172a内を通る引き出し線、ブロック174およびネジ178が、他方の接続構造を構成する。
【0046】
上記引き出し線は、非磁性かつ導電性を有する部材から形成され、内部に配置される電池セル構造と、外部の電気化学測定装置150との電気的接続を与える。このような部材としては、非磁性金属線を用いることができ、化学的安定性の観点からは、白金線など貴金属の金属線を用いることが好ましい。NMRイメージングに対するノイズを低減する観点からは、0.5mm以下の直径の金属線を用いることが好ましく、0.2mm以下の直径の金属線を用いることがより好ましい。
【0047】
図4は、本実施形態の分析用電池セル160aの外観を示す写真である。図4に示す写真には、図2および図3に示した分析用電池セル160aの対応する要素が符号により示されている。図4を参照すると、分析用電池セル160a内において、電池セル構造200がスペーサ168,172により両側から支持されている様子がわかる。
【0048】
以下、本発明の他の実施形態による分析用電気化学セル周辺の構成について説明する。図5は、本発明の他の実施形態における分析用電池セル・セット210周辺の概略を示す。図5についても、縦および横の縮尺比が必ずしも一致しないことに留意されたい。図5に示す実施形態では、分析用電池セル・セット210は、分析用電池セル210aと、該分析用電池セル210aの外部端子に接続されるノイズカット・フィルタ220a,220bとを含んで構成される。分析用電池セル・セット210は、試料管の方向を超伝導磁石110のボアBの方向に素直に配置されている。図5に示すように、分析用電池セル210aの長手方向(試料管方向)の長さが超伝導磁石110のボアBの直径未満であれば、横置きで備え付け、さらに、ソレノイド型のRFコイル212を用いることにより、NMR分光の感度を向上させることもできる。
【0049】
図6は、本発明のさらに他の実施形態における分析用電池セル・セット230周辺の概略を示す。図6に示す分析用電池セル・セット230は、分析用電池セル230aと、該分析用電池セルaの端子に接続されるノイズカット・フィルタ240a,240bとを含んで構成される。
【0050】
図6に示す分析用電池セル230aは、図2に示した試料管162を内管232として、さらにその外側に外管234が設けられている。図2に示した分析用電池セル160aでは、下方の端子からの配線がそのまま下方に引き回され、超伝導磁石110のボアBの下方から引き出される構成とされているが、図6の分析用電池セルaでは、下方の端子からの配線が、内管232と外管234との間の空間を通って上方に引き回されている。なお、実験上制約によっては、図6に示すような態様を採用することができるが、引き回された配線がRFコイル236内を通過してしまうため、NMRイメージングに対するノイズを低減する観点からは、図2および図5に示す態様の方が好ましい。
【0051】
以下、本発明の実施形態の分析システム100における、核磁気共鳴イメージング法による電池セル構造を分析する分析方法について説明する。図7は、本発明の実施形態による分析方法を示すフローチャートである。図7に示す分析方法は、ステップS100から開始され、ステップS101では、分析用電池セル160a内に電池セル構造、スペーサ、ブロックなどを装入し、分析用電池セル160aをセットし、超伝導磁石110のボアB内の所定の位置にその分析用電池セル160aを準備する。
【0052】
ステップS102では、電気化学測定およびNMRイメージング測定における種々の測定条件を設定する。電気化学測定条件としては、電池の充放電測定を行う場合には、定電流充電方式、定電圧充電方式、定電流定電圧制御充電方式、パルス充電方式などの充電方式の指定や、定電流放電方式、定電力放電方式、パルス放電方式などの放電方式の指定や、休止時間の有無の指定などが含まれる。その他、電気化学測定の測定条件としては、例えば、サイクリック・ボルタンメトリーを行う場合には、開始電位、走引電位範囲、走引速度などが含まれる。
【0053】
NMRイメージング測定の測定条件としては、測定対象核種の指定、パルス・シーケンスの指定、測定範囲(2次元画像の場合には、測定平面の選択など)、解像度の指定などが含まれる。測定対象核種としては、使用する超伝導磁石が発生可能な静磁場強度等にもよるが、分析対象の電池セル構造に含まれる元素の、比較的天然存在比が高く、半整数または整数の核スピン量子数の核種を挙げることができ、より具体的には、7Li、19F、31P、1Hなどを挙げることができる。そして、NMRイメージングでは、測定対象核種の空間的な分布が定量され、2次元または3次元のリアルタイムビデオ画像として、あるいは任意のタイミングの静止画として、画像化することができる。
【0054】
また発明の実施形態による分析方法では、高い信号雑音比(SN比)を達成し、高い精度および時間分解能を得る観点からは、FLASH、SPGR、GRASS、FISPなどのグラジェント・エコー法を基本とするパルス・シーケンスを用いて、測定対象核種の空間分布、ひいては測定対象元素の空間分布を画像化することが好ましい。グラジェント・エコー法では、スピン・エコー法の180°パルスに代えて、勾配磁場を反転させることにより、エコー信号を発生させる。図8は、グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスの波形を模式的に示す。図8には、RFコイルに接続するチャンネルの信号(RF)、スライス選択勾配磁場制御信号(G(スライス))、周波数エンコード勾配磁場制御信号(G(読み出し))の波形が模式的に示されている。なお、RF信号は、照射される90°パルス波形および誘導されるエコー信号波形が含まれる。
【0055】
ステップS103では、ステップS102で設定された電気化学測定条件に従って、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するノイズカット・フィルタを介して、電池セル構造に通電し、電気化学測定を開始する。ステップS104では、ステップS102で設定されたNMRイメージング測定条件に従って、NMR分光測定を開始し、電池セル構造の電解質内を観測位置とし、測定対象核種の空間分布を画像化する。そして、所望のデータを記録した後、ステップS105で分析を終了させる。なお、ステップS104のNMR分光測定は、電気化学測定を動作させたまま行うことができる。
【0056】
上述した分析用電池セル160a,210a、230aによれば、電極集電体および接続構造が非磁性材料で構成されるため、超伝導磁石内でも安全かつ安定に取り扱うことが可能とされる。さらに、RFコイル130のラジオ波検出領域から金属材料が可能な限り排除されるため、測定対象領域内の金属材料に起因してNMRイメージング測定に作用するノイズが好適に低減される。さらに、分析用電池セル160a,210a、230aの外部端子は、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯域のノイズ信号を遮断するノイズカット・フィルタ190を介して、電気化学測定装置150の接続端子に接続される。このため、電気化学測定装置150や、その端子間の配線などが拾うノイズがNMR分光計側へ伝達してしまうことが効果的に防止される。上述特徴により、高い信号雑音比が達成され、動作中の電気化学セル構造を観測対象としたNMRイメージングが実現される。
【0057】
なお、上述までの説明では、内部に電池セル構造が配置された分析用電池セルを分析用電気化学セルの例として説明してきたが、分析用電気化学セルの内部に配置可能な電気化学セル構造は、特に限定されるものではない。電気化学セル構造は、被測定対象核種のイオン種を含有する固体または準固体の電解質を用いた他の電気化学セル構造とすることができる。また、上述までの説明では、電気化学セル構造は、いわゆる2極セルとして構成されているが、他の実施形態では、より精度の高い電位制御を行うために、電池室170の適切な箇所に参照極を配置して、3極セルとして構成することもできる。また上記RFコイルは、上述したサドル型、ソレノイド型の他、鳥かご型などの他のRFコイルを採用することもできる。
【0058】
以下、本発明の分析システムおよび分析方法について、実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明は特定の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
(分析システム)
Bruker社製のマイクロイメージング・アクセサリを実装するNMR分光計(Avance300)をNMR分光計120として用いた。Bruker社製のUltraShield(登録商標)、300MHz、ボア径89mmの超伝導磁石を超伝導磁石110として用いた。また、Bruker社製のマイクロイメージングプローブのグラディエント・システムを使用して勾配コイル132を構成した。Solartron社製のポテンショスタット(1287型)を電気化学測定装置150として用いた。また、2.66GHzのCPU、2GBメモリを搭載したヒューレット・パッカード・カンパニー社製のパーソナル・コンピュータを測定用コンピュータ140として用いた。
【0060】
(分析用電池セル)
加工精度±0.5mm、外径9mm、内径7mm、長さ100mmの両端開放のパイレックス(登録商標)製の直管を試料管162として使用した。直径6mm、高さ30mm、中央に0.8mmφの貫通穴が形成されたテフロン(登録商標)製の円柱をスペーサ168として作製した。また、直径6mm、高さ11mm、中央にφ0.8mmの貫通穴を有するテフロン(登録商標)製の円柱をスペーサ172として作製した。
【0061】
ブロック164は、直径6mm、高さ20mm、中央にφ3mmのネジ穴が貫通され、側面略中央にOリング用の溝が切られた真鍮製の円柱を作成して用いた。また直径6mm、高さ5mm、中央に深さ3mm、φ3mmのネジ穴が形成された真鍮製の円柱をブロック166として作成した。直径6mm、高さ20mm、一方の面の中央に深さ5mm、φ3mmのネジ穴が形成され、側面略中央に5mmの間隔で2つのOリング用溝が切られた真鍮製の円柱をブロック174として作成した。また、φ0.2mmの白金線をスペーサ168,172の貫通穴に挿通させ、引き出し線として用いた。なお、外部端子として用いるネジ176は、3mmφ、50mmの非磁性材料のものを用いた。
【0062】
1.1μHのコイルLと、680pFのコンデンサCとにより構成したローパスフィルタ(5.8MHz以上の高周波を遮断する。)をノイズカット・フィルタ190として用いた。なお、300MHz級のNMR分光システムにおいて、7Liを測定対象核種とした場合、その共鳴周波数は、116.6MHzである。
【0063】
(電池セル構造)
正極活性剤としてアルドリッチ社製のLiFeP04と、導電性剤として電気化学工業株式会社製のアセチレンブラックと、結着剤としてアルドリッチ社製のポリエチレンオキシドPEO(粒子結着剤+リチウム伝導剤)とを、88:6:6(質量%)の比で混合し、正極を作製した。アルドリッチ社製の純度99.9%、0.37mm厚の金属リチウム箔を0.2mm以下に圧延して負極として用いた。高分子電解質は、電解塩にLiN(SO2CF3)2(重量比0.23)が用いられ可塑剤に下記一般式(1)で表される日油株式会社製のホウ酸(トリ(オキシアルキレン))エステル(n=6〜12、重量比0.38)を、モノマーであるポリエチレングリコール・モノメタクリレート(分子量400、日油株式会社製、重量比0.29)とポリエチレングリコール・ジメタクリレート(分子量600、日油株式会社製、重量比0.10)溶液に混合し、紫外線により光重合することで製作したポリエチレンオキシド系ポリマー電解質を用いた。そして、上記構成のリチウムイオンポリマー二次電池を作成し、分析用電池セル内に密封した。なお、リチウムイオンポリマー二次電池および分析用電池セルの準備は、グローブボックス内で、水分10ppm以下、アルゴン雰囲気下で行った。
【0064】
【化1】
【0065】
(充放電測定およびNMRイメージング測定)
作成したリチウムイオンポリマー二次電池に対して、温度60℃下、電流密度1Cの条件下(つまり、LiFePO4の理論容量170mAhg−1に対して1時間で満充電または満放電できるような条件)で、100サイクルの充放電試験を実施した。図9(A)は、各充放電サイクルにおける充放電容量に対する電圧変化を示すグラフである。図9(B)は、電池容量の充放電サイクルによる変化を示すグラフである。図9に示すように、放電平均電圧が概ね3.5V程度であり、通常のLiFePO4を用いた電池と同等の電気化学挙動が確認された。
【0066】
NMRイメージング測定では、図8に示すグラジェント・エコー法のパルス・シーケンスを用いた。なお、撮像パラメータは、繰り返し時間(TR)=503ms、エコー時間(TE)=6ms、撮像時間(TA)=1:4[min]、NEX(Number of Excitations)=1とした。上記構成の電池セル構造を測定対象とし、充放電サイクルを開始する前、および50サイクル後に測定したNMRイメージング結果を図10〜12に示す。図10は、リチウムイオンポリマー二次電池におけるフッ素イオンのz軸に水平な平面(高分子電解質の断面方向)上の分布を示す。図10(A)は、充放電サイクル前の画像を示し、図10(B)は、50サイクル後の画像を示し、図10(C)は、測定平面を図示する。図11は、リチウムイオンポリマー二次電池におけるフッ素イオンのz軸に垂直な平面(高分子電解質の水平方向)上の分布を示す。図11(A)は、50サイクル後の画像を示し、図11(B)は、測定平面を図示する。
【0067】
図10および図11を参照すると、充放電サイクル前に高分子電解質全体に均一に分布していたフッ素イオンが、50サイクル後では、正極側に偏析した様子が示されている。また50サイクル後では、高分子電解質の水方向の平面上においても、特定の箇所に集中して偏析が発生していることが示された。
【0068】
(まとめ)
図10〜12に示すように、上述のように構成した分析用電池セルを用いることにより、フッ素イオンの空間分布のNMRイメージングのin situ測定が実現可能であることが実証され、これにより、固体または準固体の電解質を用いた電気化学セル構造において、天然存在比が比較的高い半整数または整数の核スピン量子数の核種の元素の空間分布を、リアルタイムに画像化することが可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、動作状態において、電気化学セル内部の固体または準固体の電解質中のイオン移動現象および空間的分布を、イオン種を区別しながら、非破壊的かつリアルタイムに計測し、画像化することができる分析システムを提供することができる。また、本発明によれば、上記分析システムで使用する分析用電気化学セルを提供することができる。本発明によれば、さらに、動作状態において、電気化学セル内部の固体または準固体の電解質中のイオン移動現象および空間的分布を、イオン種を区別しながら、非破壊的かつリアルタイムに計測し、画像化する分析方法を提供することができる。本発明の分析システム、分析用電気化学セルおよび分析方法により、種々の条件下の電気化学セル内部の電解質中の各イオン種の移動および空間分布をリアルタイムに把握することが可能となり、ひいては、より高性能な電気化学セル(例えば容量劣化が起こらないリチウムイオンポリマー二次電池)の開発を支援することができる。
【0070】
これまで本発明の実施形態および実施例について説明してきたが、本発明の実施形態は、上述した実施形態および具体的な実施例に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
100…分析システム、110…超伝導磁石、B…ボア、120…NMR分光計、130…RFコイル、132…勾配コイル、160…分析用電池セル、140…測定用コンピュータ、150…電気化学測定装置、160a…分析用電池セル、160…分析用電池セル・セット、190…ノイズカット・フィルタ、162…試料管、164…ブロック、166…ブロック、168…スペーサ、170…電池室、172…スペーサ、174…ブロック、176…ネジ(外部端子)、178…ネジ(外部端子)、180…Oリング、200…電池セル構造、202…負極、204…電解質、206…正極、210…分析用電池セル・セット、210a…分析用電池セル、212…RFコイル、220…ノイズカット・フィルタ、230…分析用電池セル・セット、230a…分析用電池セル、232…内管、234…外管、236…RFコイル、240…ノイズカット・フィルタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルの分析技術に関し、より詳細には、固体または準固体の電解質が用いられる電気化学セルの内部状態を分析するための分析システム、分析用電気化学セルおよび分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やラップトップ・コンピュータなどのバッテリとして広く使用されており、今後、ハイブリッド自動車や電気自動車などの大型電源用途への応用が期待されている。しかしながら、液系のリチウムイオン二次電池は、その電解溶液の有機溶媒の可燃性により、火災等の安全面での懸念があり、その応用への障害となっている。
【0003】
種々のリチウムイオン二次電池の中でも、全固体リチウムイオンポリマー二次電池は、難燃性の高分子電解質を用いて構成できるため、安全性を確保する上で有利であり、固体材料で構成されているため、液漏れの心配が無くまた成形性も高く、注目されている。また、近年では、高分子電解質の分子設計を最適化することにより、比較的高出力な条件下でも、液系のリチウムイオン二次電池に匹敵する容量が達成できることが実証されている。しかしながら、リチウムイオンポリマー二次電池は、充放電サイクルに伴って電池容量が急速に劣化するという性質を有し、このことが実用化への障害となっている。
【0004】
これまで、リチウムイオンポリマー二次電池の劣化機構を解明することを目的として、交流インピーダンス法による電気化学測定、X線回折法や電子顕微鏡による構造分析などが行われている。交流インピーダンス法は、交流電気信号を電池に与え、その応答から固体内のイオン移動に関する情報を得る手法である。これまで、充放電サイクルを繰り返すことにより、電池容量の劣化に対応して、正極/電解質の界面による内部抵抗が顕著に増加することが明らかとなっている。X線回折法や電子顕微鏡では、所定の充放電サイクルを行った後で電池を解体し、それを分析することで、電極材料の結晶構造変化や、電池内におけるフッ素より原子番号の大きい元素の空間的分布の変化を観察することができる。
【0005】
しかしながら、X線回折法および電子顕微鏡観察は、破壊検査であるため、その場(in situ)情報を得ることが困難であり、また、軽金属であるリチウムを観察することができない。交流インピーダンス法によれば、非破壊的に高分子電解質内部のイオン移動に関する情報を得ることができるが、リチウムイオンと、その対アニオンとを区別してイオンの移動を捉えることができず、また得られた結果も間接的な推測であり、リチウムイオン二次電池の内部状態を充分に評価できるというものではない。
【0006】
本発明者等は、これまで、リチウムイオンポリマー二次電池内部のイオン輸送現象を分析するために、パルス勾配磁場NMR法(PGSE−NMR:Pulse Field-gradient Stimulated-echo Nuclear Magnetic Resonance)を用いて、リチウムイオンおよび対アニオンのフッ化物イオンの拡散係数を測定し、イオン種の運動性と電池特性との関係を議論することに成功している。その他、PGSE−NMRによるポリマー電解質の拡散係数を研究した報告として、非特許文献1が開示されている。これらの手法によれば、非破壊的に、リチウムイオンと、その対アニオンとを区別して電解質内部のイオン移動に関する情報を得ることができる。しかしながら、イオン種の拡散係数や塩解離度などの、限られた情報しか得られないため、リチウムイオン二次電池の内部状態を充分に評価できるものとは言えない。
【0007】
上述した劣化機構は、未だ充分に解明されてはいないが、これまでの分析結果から、容量劣化を回避し、より高性能なリチウムイオンポリマー二次電池を提供するためには、動作中の二次電池の内部、特に電極/電解質界面の反応場におけるイオン移動の詳細を把握し、それに対応して電池構成を最適化することが重要であると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H. Kataoka et al., ”Ionic Conduction Mechanism of PEO-Type Polymer Electrolytes Investigated by the Carrier Diffusion Phenomenon Using PGSE-NMR”, Macromolecules,35, 6239-6244(2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
すなわち、動作状態において、リチウムイオンポリマー二次電池などの電気化学セル内部の電解質中のイオン種の移動および空間的分布を、非破壊的かつリアルタイムに分析可能とする、新奇な分析技術の開発が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明は、動作状態において、電気化学セル内部の固体または準固体の電解質中のイオン移動現象および空間的分布を、イオン種を区別しながら、非破壊的かつリアルタイムに計測し、画像化することができる分析システムを提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、上記分析システムで使用する分析用電気化学セルを提供することである。本発明のさらに他の目的は、動作状態において、電気化学セル内部の固体または準固体の電解質中のイオン移動現象および空間的分布を、イオン種を区別しながら、非破壊的かつリアルタイムに計測し、画像化する分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、NMRイメージングを電気化学測定系に適用し、電気化学セル構造内の電解質におけるイオン移動現象および空間的分布を非破壊的にin situ測定すれば上記従来技術の問題点を解決することができるという着想の下、鋭意検討を加え、高磁場かつラジオ波検出領域に配置される電気化学セルの構造、および電気化学測定系との接続を検討することによって、上記着想した手法を実現可能であることを見出し、本発明に至ったのである。すなわち、本発明者等は、電極材料および接続構造を非磁性材料で構成し、かつ、ラジオ波検出領域内から金属要素を可能な限り排除し、さらに電気化学測定装置と電気化学セルとの間に、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯域の信号ノイズを遮断するローパスフィルタをラジオ波検出領域に近接して介装することによって、上記イオン移動現象および空間的分布のin situ計測が実現可能となることを見出し、本発明に至ったのである。
【0012】
本発明によれば、核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造を分析するための分析システムが提供される。本発明の分析システムでは、RFコイルにより囲繞され、固体または準固体の電解質および非磁性材料の電極を含む電気化学セル構造と、電気化学セル構造を両側から支持する非金属材料の支持部材のセットと、電気化学セル構造の電極と外部とを電気的に接続する接続構造とを含む分析用電気化学セルを用いる。
【0013】
分析システムでは、上記分析用電気化学セルを核磁気共鳴イメージング装置の磁石ボア内に配置し、電気化学測定装置の端子と接続構造との間に、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するフィルタを介装し、電気化学セル構造の電解質内の測定対象核種の空間分布を画像化する。
【0014】
上記構成によれば、ラジオ波検出領域内から金属要素が可能な限り排除され、さらに測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯域の信号ノイズが好適に遮断されるため、実用的な信号雑音比による電気化学セル構造の電解質内のイメージングを実現することが可能となる。
【0015】
さらに上記分析システムは、グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスを用いて、測定対象核種の空間分布を画像化することができる。グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスを用いることにより、電気化学セル構造の電解質内のイメージングの高速化が実現される。また本発明では、電気化学セル構造は、リチウムイオンを含有する高分子材料の電解質と、この電解質を挟んで両側に配置される第1電極および第2電極とを含んで二次電池を構成することができる。さらに本発明では、上記分析システムは、7Li、19F、31P、および1Hからなる群から選択された1以上の核種を測定対象核種とすることができる。したがって、固体または準固体の電解質中の種々の元素の空間分布を画像化することが可能となる。
【0016】
さらに本発明では、分析用電気化学セルは、フィルタに接続し、接続構造を構成し、かつシール部材とともに試料管内に前記電気化学セル構造を密封し、支持部材のセットを両側から挟持する、非磁性かつ導電性のブロックのセットをさらに含むことができる。この場合に、上記支持部材は、RFコイルの検出範囲からこのブロックを排除することができる。
【0017】
さらに本発明では、上記電気化学セル構造の電極は、それぞれ0.1mm以下の厚みを有する非磁性金属材料の集電体を含むことができ、接続構造は、集電体に接続し、0.5mm以下の直径を有する非磁性金属材料の引き出し線を含むことができる。上記サイズの部材を用いることにより、NMRイメージングに影響し得るノイズを良好に減少させることが可能となる。また、核磁気共鳴イメージング装置は、超伝導磁石、RFコイル、勾配コイル、磁場勾配制御機能を備えるNMR分光計および測定コンピュータを含むことができる。
【0018】
さらに、本発明によれば、核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造を分析するため分析用電気化学セルが提供される。また、本発明によれば、核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造を分析する分析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態による分析システムの概略を示す図。
【図2】本発明の実施形態の分析用電池セル・セットの概略を示す図。
【図3】本発明の実施形態の分析用電気化学セル内部の詳細な構造を示す図。
【図4】本実施形態の分析用電池セルの外観を示す写真。
【図5】本発明の他の実施形態における分析用電池セル・セット周辺の概略を示す図。
【図6】本発明のさらに他の実施形態における分析用電池セル・セット周辺の概略を示す図。
【図7】本発明の実施形態による分析方法を示すフローチャート。
【図8】グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスの波形を模式的に示す図。
【図9】作製した電池セル構造の充放電特性を示すグラフ。
【図10】リチウムイオンポリマー二次電池におけるフッ素イオンのz軸に水平な平面上の分布を示す画像。
【図11】リチウムイオンポリマー二次電池におけるフッ素イオンのz軸に垂直な平面上の分布を示す画像。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体的な実施形態をもって説明するが、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態による分析システム100の概略を示す。図1に示す分析システム100は、超伝導磁石110と、核磁気共鳴(以下、NMRと参照する。)分光計120と、測定用コンピュータ140と、電気化学測定装置150とを含んで構成される。測定用コンピュータ140には、NMRイメージング測定を実行するための測定アプリケーションがインストールされており、測定用コンピュータ140は、NMR分光計120の動作を制御して、計測されるNMR信号からn次元の画像データを構成し、ハードディスクなどの記憶領域に記録する。
【0022】
NMR分光計120は、勾配磁場制御ユニットを備え、超伝導磁石110のボアB内には、x軸、y軸およびz軸の3軸方向の勾配コイル132x,y,zが配置されている。NMR分光計120は、スライス選択勾配磁場制御信号、位相エンコード勾配磁場制御信号および周波数エンコード勾配磁場制御信号を生成し、勾配コイル132z、勾配コイル132yおよび勾配コイル132xに駆動電流を出力して、被測定対象の空間に印加する傾斜勾配磁場を制御し、これによりNMR信号に位置情報を付加している。ここで、z軸は、超伝導磁石110が発生する静磁場方向の軸であり、y軸およびx軸は、z軸に垂直な平面内の2軸である。
【0023】
超伝導磁石110のボアB内には、さらに、勾配コイル132のセットの内側にRF(Radio Frequency)コイル130が配置され、RFコイル130の内側には、本発明の実施形態のNMRイメージング分析用電池セル(以下、単に分析用電池セルと参照する。)160aが配置される。
【0024】
またNMR分光計120は、RFコイル130を接続するための照射チャンネルを備え、所定のパルス・シーケンスに従って、上記勾配磁場制御信号に対応するRFパルス波形を生成し、RFコイル130に駆動電流を出力し、ラジオ波パルスを照射する。またNMR分光計120は、分析用電池セル160aからRFコイル130に誘起されたNMR信号を受信する。測定用コンピュータ140は、NMR信号と、勾配磁場制御により付加された位置情報と合わせて、投影再構成法またはフーリエ変換法などにより画像データを再構成する。本実施形態において、超伝導磁石110、NMR分光計120、RFコイル130、勾配コイル132および測定用コンピュータ140がNMRイメージング装置を構成する。
【0025】
本発明の実施形態による分析用電池セル160aは、その内部に電池セル構造が配置されており、電池セル構造が本分析システム100の被測定対象となる。内部の電池セル構造の電極は、配線を介して電気化学測定装置150の接続端子へ接続される。電気化学測定装置150は、ポテンショスタットやガルバノスタット、充放電試験装置として動作し、例えば、サクリック・ボルタンメトリー測定やポテンショメトリー、充放電試験などの直流分極測定を行うことが可能とされる。例えば、充放電試験では、指定された測定シーケンスに従って、分析用電池セル160aの電池セル構造の電極間に一定電圧または一定電流を印加して充放電し、充電容量など蓄電容量を計測することができる。
【0026】
また電気化学測定装置150には、周波数応答アナライザ(Frequency Response Analyzer:FRA)またはロックイン・アンプを組み込むことができ、これにより、交流インピーダンス測定を行うことができる。電気化学測定装置150は、GPIB(General Purpose Interface Bus)などの適切なインタフェースを介して測定用コンピュータ140に接続することができ、NMRイメージング測定と協働して、電池セル構造を測定対象としたその場(in situ)NMRイメージング測定を実行することができる。あるいは、電気化学測定装置150は、独立した他のコンピュータや制御ユニットにより制御することもできる。
【0027】
以下、本発明の実施形態によるNMRイメージング分析用電気化学セルの構造について説明する。図2は、本発明の実施形態の分析用電池セル・セット160の概略を示す。なお、図2は、分析用電池セル・セット160を模式的に示すものであり、縦および横の縮尺比は、必ずしも一致していないことに留意されたい。
【0028】
図2に示す分析用電池セル・セット160は、分析用電池セル160aと、該分析用電池セル160aの外部端子に接続されるノイズカット・フィルタ190a,190bとを含んで構成される。分析用電池セル160aは、より詳細には、両端開放の筒形状の試料管162と、試料管162内に装入される、スペーサ168,172のセットと、ブロック164,166,174のセットとを含む。試料管162は、RFコイル130内に配置可能な形状とされ、例えば、円筒形状のパイレックス(登録商標)ガラス管や石英ガラス管を用いることができる。なお、図2に示す分析用電池セル・セット160aは、試料管162が伸びる方向が超伝導磁石110のボアBの方向に沿うように配置される。
【0029】
上下のスペーサ168,172の間には、被測定対象の電池セル構造を格納するための電池室170が構成され、RFコイル130は、この電池室170を囲繞するように配置される。なお、図2に示すRFコイル130は、サドル型コイルである。スペーサ168,172は、電池室170に格納された電池セル構造を両側から支持している。スペーサ168,172は、非磁性かつ非金属の材料から形成され、RFコイル130が囲繞するラジオ波検出範囲から、ノイズを発生させ得る金属材料を可能な限り排除している。スペーサ168,172は、本実施形態の支持部材を構成する。スペーサ168,172の具体的な厚みは、使用するRFコイル130のサイズおよび形状などを考慮して適宜設定することができる。例えば試料管162内に金属を挿入し、ノイズレベルをモニタしながら、RFコイル130の位置に対する金属との位置を変化させ、ノイズレベルが実用に耐え得る程度に減少される距離を採用することができる。
【0030】
このような、非磁性かつ非金属の材料としては、耐薬性や取り扱い容易性の観点からは、テフロン(登録商標)やダイフロン(登録商標)などのフッ素系樹脂が好ましく用いられ、その他、アクリル樹脂などの他の樹脂材料や、ガラス材料や、セラミクス材料などを用いることができる。またスペーサ168,172は、試料管162に適合する形状に加工されており、円筒形状の試料管を用いる場合には、その円筒形状の内径未満の直径を有する円柱形状に加工される。
【0031】
試料管162のスペーサ168およびスペーサ172の外側には、それぞれ、ブロック164,166およびブロック174が装入され、スペーサ168,172およびその内側の電池セル構造が両側から挟持される。ブロック164,166,174は、試料管162に適合する形状に加工され、円筒形状の試料管を用いる場合には、その円筒形状の内径未満の直径を有する円柱形状に加工される。
【0032】
ブロック164,174の側面周方向には、溝が切られ、Oリング180が嵌め込まれ、試料管162とともに内部の電池セル構造を密封し、外気から遮断する。ブロック164とブロック166との間には、空間が形成されているが、これは、ブロック164,174により密封する際の空気の逃げ場として働く。
【0033】
ブロック164,166,174は、非磁性かつ導電性を有する材料を含み、内部に配置される電池セル構造と、外部の電気化学測定装置150との電気的接続を与える。このような、非磁性かつ導電性の材料としては、真鍮、非磁性ステンレス鋼、アルミニウム、銅などの非磁性金属材料(単体金属および合金を含む。)を用いることができ、また適切な導電性が得られる限り、グラファイトやグラッシーカーボンなど炭素材料や導電性かつ非磁性であるセラミックスなどの導電性非金属材料を用いることができる。
【0034】
ブロック164には、ネジ穴が貫通して形成され、ブロック166にも、適切な深さのネジ穴が形成される。ブロック164,166のネジ穴には、ネジ176が螺嵌され、このネジ176によりスペーサ168を押さえるよう構成されている。ブロック164,166およびネジ176の構成により、電池セル構造を実用的な使用環境と近い加圧状態下に置くことができる。またブロック174にも、適切な深さのネジ穴が切られ、そこにネジ178が挿入される。これらのネジ176,178は、非磁性かつ導電性材料から形成され、分析用電池セル160aの外部端子を構成している。
【0035】
分析用電池セル160aの外部端子に接続されるノイズカット・フィルタ190は、ローパスフィルタやバンドパスフィルタなどのフィルタ回路を用いて構成され、測定対象の核種の共鳴周波数を含む周波数帯域の信号を遮断する。ノイズカット・フィルタ190により、電気化学測定装置150や、その端子と分析用電池セル160aとを結ぶ配線から発生する高周波ノイズを遮断し、NMR分光計120側の測定に悪影響を与えることを好適に防止することができる。
【0036】
ノイズカット・フィルタ190は、ノイズを低減する観点からは、測定対象の電池セル構造に近接して介装されることが好ましい。すなわち、ノイズカット・フィルタ190と電池セル構造内の電極とを結ぶ接続距離が短くなる方がより好ましい。電気化学測定装置150と、超伝導磁石110内の分析用電池セル160aとは、通常、比較的長い配線を引き回して接続されるため、外部環境から大きなノイズを拾ってしまう蓋然性があるが、上記ノイズカット・フィルタ190を用いることにより、電気化学測定系とNMR分光系とを組み合わせる際に問題となるノイズを良好に低減することができる。
【0037】
ノイズカット・フィルタ190は、例えば、共鳴周波数に対応したインダクタンスおよび静電容量のコイルLおよびコンデンサCを用いて作製することができるが、これまで知られた如何なる回路構成のフィルタ回路を用いることができる。以下、代表的な核種の共鳴周波数を例示する。200MHz級(プロトンの共鳴周波数に対応する。)、300MHz級、400MHz級の超伝導磁石では、7Liの共鳴周波数は、それぞれ、77.7MHz、116.6MHz、155.5MHzである。19Fの共鳴周波数は、188.1MHz(200MHz級)、282.2MHz(300MHz級)、376.3MHz(400MHz級)である。31Pの共鳴周波数は、80.9MHz(200MHz級)、121.4MHz(300MHz級)、161.923MHz(400MHz級)である。電気化学交流インピーダンス測定が、10mHz〜1MHz程度の範囲で行われるため、ノイズカット・フィルタ190は、例えば5MHz以上の信号を遮断するローパスフィルタとして構成することができる。
【0038】
図3は、本発明の実施形態の分析用電気化学セル内部の詳細な構造を示す図である。図3についても、縦および横の縮尺比は、必ずしも一致していないことに留意されたい。図3には、スペーサ168,172、ブロック164,166,174、ネジ176,178など、分析用電気化学セル内部構造160bを構成する要素が示されている。
【0039】
スペーサ168,172の間には、負極202、電解質204および正極206を含む電池セル構造200が配置されている。電池セル構造200は、リチウムイオンポリマー二次電池(金属リチウムを負極に用いるものも含む。)などの電気化学セルを構成する電極材料および電解質材料が含まれる。電池セル構造200をリチウムイオンポリマー二次電池として構成する場合には、負極202は、金属リチウム、ポリアセチレン、グラファイト、チタン酸リチウムなどの負極活物質を含み、正極206は、LiFePO4、LiMn2O4、LiCoO2などの正極活物質を含む。
【0040】
負極202を金属リチウムで構成する場合には、NMRイメージングに対するノイズを低減する観点からは、0.2mm以下の厚みの金属リチウム箔を用いることが好ましく、金属リチウム箔の厚みが0.1mm以下となると、ノイズレベルを相当に抑えられることができるため、より好ましい。正極206は、例えば、上記正極活物質と、アセチレンブラックやファーネスブラックなどの導電性剤と、リチウム塩含有のポリエチレンオキサイド(PEO)やポリフッ化ビニリデン(PVdF)などの結着剤との混合物を用いることができる。その他、負極202および正極206には、他の非磁性の集電体材料が含まれてもよい。集電体にAl箔やPt箔などの非磁性金属材料が含まれる場合には、NMRイメージングに対するノイズを低減する観点からは、0.2mm以下の膜厚とすることが好ましく、0.1mm以下の膜厚とすることがより好ましく、0.02mm以下の膜厚となると、ノイズレベルを相当に抑えられることができるため、より好ましい。
【0041】
電池セル構造200をリチウムイオンポリマー二次電池として構成する場合には、電解質204は、リチウムイオンを含有する固体ないしゲル状態(準固体)の高分子電解質を用いることができる。より具体的には、電解質204は、例えば、LiTFSI(LiN(SO2CF3)2)などのリチウム塩を含む、ポリエチレンオキシド系、ポリフッ化ビニリデン系、ポリアクリロニトリル系、ポリメチルメタクリレート系の高分子電解質を用いることができる。
【0042】
電解質204中のリチウム塩としては、その他、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiCl、LiBrなどの無機塩や、LiCF3SO3、LiN(SO2C2F5)2、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3などの有機塩、その他、非水電解液の電解質として知られる如何なる塩を用いることができる。
【0043】
なお、電池室170に格納される負極202、電解質204および正極206の材料構成は、リチウムイオンポリマー二次電池を用いる場合には、リチウムイオンを輸送しかつ電荷の授受により充放電可能であり、電解質が準固体または固体であり、かつ非磁性材料から構成されている限り、如何なる組み合わせのものを採用することができる。
【0044】
スペーサ168には、電池室170内の負極202に接続される引き出し線を挿通するための貫通穴168aが形成され、この貫通穴168aを通る引き出し線により、負極202とブロック166とが接続される。同様にスペーサ172には、電池室170内の正極206からの引き出し線を挿通するための貫通穴172aが形成され、この貫通穴172aを通る引き出し線により、正極206とブロック174とが接続される。
【0045】
ブロック164,166およびブロック174には、それぞれ、外部端子のネジ176およびネジ178が螺嵌されるネジ穴164a,166aおよびネジ穴174aが形成されている。本実施形態の分析用電池セル160aにおいて、貫通穴168a内を通る引き出し線、導電性のブロック166,164、およびネジ176が、電池セル構造から分析用電池セル外部への接続構造を構成する。同様に貫通穴172a内を通る引き出し線、ブロック174およびネジ178が、他方の接続構造を構成する。
【0046】
上記引き出し線は、非磁性かつ導電性を有する部材から形成され、内部に配置される電池セル構造と、外部の電気化学測定装置150との電気的接続を与える。このような部材としては、非磁性金属線を用いることができ、化学的安定性の観点からは、白金線など貴金属の金属線を用いることが好ましい。NMRイメージングに対するノイズを低減する観点からは、0.5mm以下の直径の金属線を用いることが好ましく、0.2mm以下の直径の金属線を用いることがより好ましい。
【0047】
図4は、本実施形態の分析用電池セル160aの外観を示す写真である。図4に示す写真には、図2および図3に示した分析用電池セル160aの対応する要素が符号により示されている。図4を参照すると、分析用電池セル160a内において、電池セル構造200がスペーサ168,172により両側から支持されている様子がわかる。
【0048】
以下、本発明の他の実施形態による分析用電気化学セル周辺の構成について説明する。図5は、本発明の他の実施形態における分析用電池セル・セット210周辺の概略を示す。図5についても、縦および横の縮尺比が必ずしも一致しないことに留意されたい。図5に示す実施形態では、分析用電池セル・セット210は、分析用電池セル210aと、該分析用電池セル210aの外部端子に接続されるノイズカット・フィルタ220a,220bとを含んで構成される。分析用電池セル・セット210は、試料管の方向を超伝導磁石110のボアBの方向に素直に配置されている。図5に示すように、分析用電池セル210aの長手方向(試料管方向)の長さが超伝導磁石110のボアBの直径未満であれば、横置きで備え付け、さらに、ソレノイド型のRFコイル212を用いることにより、NMR分光の感度を向上させることもできる。
【0049】
図6は、本発明のさらに他の実施形態における分析用電池セル・セット230周辺の概略を示す。図6に示す分析用電池セル・セット230は、分析用電池セル230aと、該分析用電池セルaの端子に接続されるノイズカット・フィルタ240a,240bとを含んで構成される。
【0050】
図6に示す分析用電池セル230aは、図2に示した試料管162を内管232として、さらにその外側に外管234が設けられている。図2に示した分析用電池セル160aでは、下方の端子からの配線がそのまま下方に引き回され、超伝導磁石110のボアBの下方から引き出される構成とされているが、図6の分析用電池セルaでは、下方の端子からの配線が、内管232と外管234との間の空間を通って上方に引き回されている。なお、実験上制約によっては、図6に示すような態様を採用することができるが、引き回された配線がRFコイル236内を通過してしまうため、NMRイメージングに対するノイズを低減する観点からは、図2および図5に示す態様の方が好ましい。
【0051】
以下、本発明の実施形態の分析システム100における、核磁気共鳴イメージング法による電池セル構造を分析する分析方法について説明する。図7は、本発明の実施形態による分析方法を示すフローチャートである。図7に示す分析方法は、ステップS100から開始され、ステップS101では、分析用電池セル160a内に電池セル構造、スペーサ、ブロックなどを装入し、分析用電池セル160aをセットし、超伝導磁石110のボアB内の所定の位置にその分析用電池セル160aを準備する。
【0052】
ステップS102では、電気化学測定およびNMRイメージング測定における種々の測定条件を設定する。電気化学測定条件としては、電池の充放電測定を行う場合には、定電流充電方式、定電圧充電方式、定電流定電圧制御充電方式、パルス充電方式などの充電方式の指定や、定電流放電方式、定電力放電方式、パルス放電方式などの放電方式の指定や、休止時間の有無の指定などが含まれる。その他、電気化学測定の測定条件としては、例えば、サイクリック・ボルタンメトリーを行う場合には、開始電位、走引電位範囲、走引速度などが含まれる。
【0053】
NMRイメージング測定の測定条件としては、測定対象核種の指定、パルス・シーケンスの指定、測定範囲(2次元画像の場合には、測定平面の選択など)、解像度の指定などが含まれる。測定対象核種としては、使用する超伝導磁石が発生可能な静磁場強度等にもよるが、分析対象の電池セル構造に含まれる元素の、比較的天然存在比が高く、半整数または整数の核スピン量子数の核種を挙げることができ、より具体的には、7Li、19F、31P、1Hなどを挙げることができる。そして、NMRイメージングでは、測定対象核種の空間的な分布が定量され、2次元または3次元のリアルタイムビデオ画像として、あるいは任意のタイミングの静止画として、画像化することができる。
【0054】
また発明の実施形態による分析方法では、高い信号雑音比(SN比)を達成し、高い精度および時間分解能を得る観点からは、FLASH、SPGR、GRASS、FISPなどのグラジェント・エコー法を基本とするパルス・シーケンスを用いて、測定対象核種の空間分布、ひいては測定対象元素の空間分布を画像化することが好ましい。グラジェント・エコー法では、スピン・エコー法の180°パルスに代えて、勾配磁場を反転させることにより、エコー信号を発生させる。図8は、グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスの波形を模式的に示す。図8には、RFコイルに接続するチャンネルの信号(RF)、スライス選択勾配磁場制御信号(G(スライス))、周波数エンコード勾配磁場制御信号(G(読み出し))の波形が模式的に示されている。なお、RF信号は、照射される90°パルス波形および誘導されるエコー信号波形が含まれる。
【0055】
ステップS103では、ステップS102で設定された電気化学測定条件に従って、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するノイズカット・フィルタを介して、電池セル構造に通電し、電気化学測定を開始する。ステップS104では、ステップS102で設定されたNMRイメージング測定条件に従って、NMR分光測定を開始し、電池セル構造の電解質内を観測位置とし、測定対象核種の空間分布を画像化する。そして、所望のデータを記録した後、ステップS105で分析を終了させる。なお、ステップS104のNMR分光測定は、電気化学測定を動作させたまま行うことができる。
【0056】
上述した分析用電池セル160a,210a、230aによれば、電極集電体および接続構造が非磁性材料で構成されるため、超伝導磁石内でも安全かつ安定に取り扱うことが可能とされる。さらに、RFコイル130のラジオ波検出領域から金属材料が可能な限り排除されるため、測定対象領域内の金属材料に起因してNMRイメージング測定に作用するノイズが好適に低減される。さらに、分析用電池セル160a,210a、230aの外部端子は、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯域のノイズ信号を遮断するノイズカット・フィルタ190を介して、電気化学測定装置150の接続端子に接続される。このため、電気化学測定装置150や、その端子間の配線などが拾うノイズがNMR分光計側へ伝達してしまうことが効果的に防止される。上述特徴により、高い信号雑音比が達成され、動作中の電気化学セル構造を観測対象としたNMRイメージングが実現される。
【0057】
なお、上述までの説明では、内部に電池セル構造が配置された分析用電池セルを分析用電気化学セルの例として説明してきたが、分析用電気化学セルの内部に配置可能な電気化学セル構造は、特に限定されるものではない。電気化学セル構造は、被測定対象核種のイオン種を含有する固体または準固体の電解質を用いた他の電気化学セル構造とすることができる。また、上述までの説明では、電気化学セル構造は、いわゆる2極セルとして構成されているが、他の実施形態では、より精度の高い電位制御を行うために、電池室170の適切な箇所に参照極を配置して、3極セルとして構成することもできる。また上記RFコイルは、上述したサドル型、ソレノイド型の他、鳥かご型などの他のRFコイルを採用することもできる。
【0058】
以下、本発明の分析システムおよび分析方法について、実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明は特定の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0059】
(分析システム)
Bruker社製のマイクロイメージング・アクセサリを実装するNMR分光計(Avance300)をNMR分光計120として用いた。Bruker社製のUltraShield(登録商標)、300MHz、ボア径89mmの超伝導磁石を超伝導磁石110として用いた。また、Bruker社製のマイクロイメージングプローブのグラディエント・システムを使用して勾配コイル132を構成した。Solartron社製のポテンショスタット(1287型)を電気化学測定装置150として用いた。また、2.66GHzのCPU、2GBメモリを搭載したヒューレット・パッカード・カンパニー社製のパーソナル・コンピュータを測定用コンピュータ140として用いた。
【0060】
(分析用電池セル)
加工精度±0.5mm、外径9mm、内径7mm、長さ100mmの両端開放のパイレックス(登録商標)製の直管を試料管162として使用した。直径6mm、高さ30mm、中央に0.8mmφの貫通穴が形成されたテフロン(登録商標)製の円柱をスペーサ168として作製した。また、直径6mm、高さ11mm、中央にφ0.8mmの貫通穴を有するテフロン(登録商標)製の円柱をスペーサ172として作製した。
【0061】
ブロック164は、直径6mm、高さ20mm、中央にφ3mmのネジ穴が貫通され、側面略中央にOリング用の溝が切られた真鍮製の円柱を作成して用いた。また直径6mm、高さ5mm、中央に深さ3mm、φ3mmのネジ穴が形成された真鍮製の円柱をブロック166として作成した。直径6mm、高さ20mm、一方の面の中央に深さ5mm、φ3mmのネジ穴が形成され、側面略中央に5mmの間隔で2つのOリング用溝が切られた真鍮製の円柱をブロック174として作成した。また、φ0.2mmの白金線をスペーサ168,172の貫通穴に挿通させ、引き出し線として用いた。なお、外部端子として用いるネジ176は、3mmφ、50mmの非磁性材料のものを用いた。
【0062】
1.1μHのコイルLと、680pFのコンデンサCとにより構成したローパスフィルタ(5.8MHz以上の高周波を遮断する。)をノイズカット・フィルタ190として用いた。なお、300MHz級のNMR分光システムにおいて、7Liを測定対象核種とした場合、その共鳴周波数は、116.6MHzである。
【0063】
(電池セル構造)
正極活性剤としてアルドリッチ社製のLiFeP04と、導電性剤として電気化学工業株式会社製のアセチレンブラックと、結着剤としてアルドリッチ社製のポリエチレンオキシドPEO(粒子結着剤+リチウム伝導剤)とを、88:6:6(質量%)の比で混合し、正極を作製した。アルドリッチ社製の純度99.9%、0.37mm厚の金属リチウム箔を0.2mm以下に圧延して負極として用いた。高分子電解質は、電解塩にLiN(SO2CF3)2(重量比0.23)が用いられ可塑剤に下記一般式(1)で表される日油株式会社製のホウ酸(トリ(オキシアルキレン))エステル(n=6〜12、重量比0.38)を、モノマーであるポリエチレングリコール・モノメタクリレート(分子量400、日油株式会社製、重量比0.29)とポリエチレングリコール・ジメタクリレート(分子量600、日油株式会社製、重量比0.10)溶液に混合し、紫外線により光重合することで製作したポリエチレンオキシド系ポリマー電解質を用いた。そして、上記構成のリチウムイオンポリマー二次電池を作成し、分析用電池セル内に密封した。なお、リチウムイオンポリマー二次電池および分析用電池セルの準備は、グローブボックス内で、水分10ppm以下、アルゴン雰囲気下で行った。
【0064】
【化1】
【0065】
(充放電測定およびNMRイメージング測定)
作成したリチウムイオンポリマー二次電池に対して、温度60℃下、電流密度1Cの条件下(つまり、LiFePO4の理論容量170mAhg−1に対して1時間で満充電または満放電できるような条件)で、100サイクルの充放電試験を実施した。図9(A)は、各充放電サイクルにおける充放電容量に対する電圧変化を示すグラフである。図9(B)は、電池容量の充放電サイクルによる変化を示すグラフである。図9に示すように、放電平均電圧が概ね3.5V程度であり、通常のLiFePO4を用いた電池と同等の電気化学挙動が確認された。
【0066】
NMRイメージング測定では、図8に示すグラジェント・エコー法のパルス・シーケンスを用いた。なお、撮像パラメータは、繰り返し時間(TR)=503ms、エコー時間(TE)=6ms、撮像時間(TA)=1:4[min]、NEX(Number of Excitations)=1とした。上記構成の電池セル構造を測定対象とし、充放電サイクルを開始する前、および50サイクル後に測定したNMRイメージング結果を図10〜12に示す。図10は、リチウムイオンポリマー二次電池におけるフッ素イオンのz軸に水平な平面(高分子電解質の断面方向)上の分布を示す。図10(A)は、充放電サイクル前の画像を示し、図10(B)は、50サイクル後の画像を示し、図10(C)は、測定平面を図示する。図11は、リチウムイオンポリマー二次電池におけるフッ素イオンのz軸に垂直な平面(高分子電解質の水平方向)上の分布を示す。図11(A)は、50サイクル後の画像を示し、図11(B)は、測定平面を図示する。
【0067】
図10および図11を参照すると、充放電サイクル前に高分子電解質全体に均一に分布していたフッ素イオンが、50サイクル後では、正極側に偏析した様子が示されている。また50サイクル後では、高分子電解質の水方向の平面上においても、特定の箇所に集中して偏析が発生していることが示された。
【0068】
(まとめ)
図10〜12に示すように、上述のように構成した分析用電池セルを用いることにより、フッ素イオンの空間分布のNMRイメージングのin situ測定が実現可能であることが実証され、これにより、固体または準固体の電解質を用いた電気化学セル構造において、天然存在比が比較的高い半整数または整数の核スピン量子数の核種の元素の空間分布を、リアルタイムに画像化することが可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、動作状態において、電気化学セル内部の固体または準固体の電解質中のイオン移動現象および空間的分布を、イオン種を区別しながら、非破壊的かつリアルタイムに計測し、画像化することができる分析システムを提供することができる。また、本発明によれば、上記分析システムで使用する分析用電気化学セルを提供することができる。本発明によれば、さらに、動作状態において、電気化学セル内部の固体または準固体の電解質中のイオン移動現象および空間的分布を、イオン種を区別しながら、非破壊的かつリアルタイムに計測し、画像化する分析方法を提供することができる。本発明の分析システム、分析用電気化学セルおよび分析方法により、種々の条件下の電気化学セル内部の電解質中の各イオン種の移動および空間分布をリアルタイムに把握することが可能となり、ひいては、より高性能な電気化学セル(例えば容量劣化が起こらないリチウムイオンポリマー二次電池)の開発を支援することができる。
【0070】
これまで本発明の実施形態および実施例について説明してきたが、本発明の実施形態は、上述した実施形態および具体的な実施例に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
100…分析システム、110…超伝導磁石、B…ボア、120…NMR分光計、130…RFコイル、132…勾配コイル、160…分析用電池セル、140…測定用コンピュータ、150…電気化学測定装置、160a…分析用電池セル、160…分析用電池セル・セット、190…ノイズカット・フィルタ、162…試料管、164…ブロック、166…ブロック、168…スペーサ、170…電池室、172…スペーサ、174…ブロック、176…ネジ(外部端子)、178…ネジ(外部端子)、180…Oリング、200…電池セル構造、202…負極、204…電解質、206…正極、210…分析用電池セル・セット、210a…分析用電池セル、212…RFコイル、220…ノイズカット・フィルタ、230…分析用電池セル・セット、230a…分析用電池セル、232…内管、234…外管、236…RFコイル、240…ノイズカット・フィルタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造を分析するための分析システムであって、前記分析システムは、
核磁気共鳴イメージング装置の磁石ボア内に配置され、RFコイルにより囲繞されるとともに、固体または準固体の電解質および非磁性材料の電極を含む電気化学セル構造と、前記電気化学セル構造を両側から支持する非金属材料の支持部材のセットと、前記電気化学セル構造の前記電極を外部に電気的に接続する接続構造とを含む、分析用電気化学セルと、
電気化学測定装置の端子と前記接続構造との間に介装され、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するフィルタと
を含み、前記電気化学セル構造の前記電解質内の前記測定対象核種の空間分布を画像化する、分析システム。
【請求項2】
前記分析システムは、グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスを用いて、前記測定対象核種の空間分布を画像化する、請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記電気化学セル構造は、リチウムイオンを含有する高分子材料の前記電解質と、前記電解質を挟んで両側に配置される第1電極および第2電極とを含んで二次電池を構成し、前記分析システムは、7Li、19F、31P、および1Hからなる群から選択された1以上の核種を前記測定対象核種とする、請求項1または2に記載の分析システム。
【請求項4】
前記分析用電気化学セルは、非磁性かつ導電性のブロックであって、前記フィルタに接続され、前記接続構造を構成し、かつシール部材とともに試料管内に前記電気化学セル構造を密封し、前記支持部材のセットを両側から挟持する該ブロックのセットをさらに含み、前記支持部材は、前記RFコイルの検出範囲から前記ブロックを排除する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析システム。
【請求項5】
前記電気化学セル構造の電極は、それぞれ0.1mm以下の厚みを有する非磁性金属材料の集電体を含み、前記接続構造は、前記集電体に接続し、0.5mm以下の直径を有する非磁性金属材料の引き出し線を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析システム。
【請求項6】
核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造の電解質内の測定対象核種の空間分布を画像化するための分析用電気化学セルであって、
固体または準固体の電解質および非磁性材料の電極を含む電気化学セル構造が装入される試料管と、前記試料管内に装入され、前記電気化学セル構造を両側から支持する非金属材料の支持部材のセットと、外部の測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するフィルタに前記電気化学セル構造の前記電極を電気的に接続する接続構造と
を含む、分析用電気化学セル。
【請求項7】
非磁性かつ導電性のブロックであって、前記フィルタに接続されるとともに、前記接続構造を構成し、かつシール部材とともに試料管内に前記電気化学セル構造を密封し、前記支持部材のセットを両側から挟持する該ブロックのセットをさらに含み、前記支持部材は、RFコイルの検出範囲から前記ブロックを排除する、請求項6に記載の分析用電気化学セル。
【請求項8】
核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造を分析する分析方法であって、前記分析方法は、
RFコイルにより囲繞されるとともに、固体または準固体の電解質および非磁性材料の電極を含む電気化学セル構造と、前記電気化学セル構造を両側から支持する非金属材料の支持部材のセットと、前記電気化学セル構造の前記電極を外部に電気的に接続する接続構造とを含む分析用電気化学セルを、核磁気共鳴イメージング装置の磁石ボア内に準備するステップと、
測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するフィルタを介して、電気化学セル構造に通電するステップと、
前記電気化学セル構造の前記電解質内の前記測定対象核種の空間分布を画像化するステップと
を含む、分析方法。
【請求項9】
前記画像化するステップでは、グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスを用いて、前記測定対象核種の空間分布を画像化する、請求項8に記載の分析方法。
【請求項10】
前記準備するステップは、リチウムイオンを含有する高分子材料の前記電解質と、前記電解質を挟んで両側に配置される第1電極および第2電極とを含んで構成される二次電池を前記電気化学セル構造として、前記分析用電気化学セルの試料管内に装入するステップを含み、前記画像化するステップでは、7Li、19F、31P、および1Hからなる群から選択された1以上の核種を前記測定対象核種とする、請求項8または9に記載の分析方法。
【請求項11】
前記準備するステップは、非磁性かつ導電性のブロックのセットを前記分析用電気化学セルの試料管内に装入し、前記ブロックでシール部材とともに試料管内に前記電気化学セル構造を密封し、前記支持部材のセットを両側から挟持するステップを含み、前記支持部材は、前記RFコイルの検出範囲から前記ブロックを排除する、請求項8〜10のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項1】
核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造を分析するための分析システムであって、前記分析システムは、
核磁気共鳴イメージング装置の磁石ボア内に配置され、RFコイルにより囲繞されるとともに、固体または準固体の電解質および非磁性材料の電極を含む電気化学セル構造と、前記電気化学セル構造を両側から支持する非金属材料の支持部材のセットと、前記電気化学セル構造の前記電極を外部に電気的に接続する接続構造とを含む、分析用電気化学セルと、
電気化学測定装置の端子と前記接続構造との間に介装され、測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するフィルタと
を含み、前記電気化学セル構造の前記電解質内の前記測定対象核種の空間分布を画像化する、分析システム。
【請求項2】
前記分析システムは、グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスを用いて、前記測定対象核種の空間分布を画像化する、請求項1に記載の分析システム。
【請求項3】
前記電気化学セル構造は、リチウムイオンを含有する高分子材料の前記電解質と、前記電解質を挟んで両側に配置される第1電極および第2電極とを含んで二次電池を構成し、前記分析システムは、7Li、19F、31P、および1Hからなる群から選択された1以上の核種を前記測定対象核種とする、請求項1または2に記載の分析システム。
【請求項4】
前記分析用電気化学セルは、非磁性かつ導電性のブロックであって、前記フィルタに接続され、前記接続構造を構成し、かつシール部材とともに試料管内に前記電気化学セル構造を密封し、前記支持部材のセットを両側から挟持する該ブロックのセットをさらに含み、前記支持部材は、前記RFコイルの検出範囲から前記ブロックを排除する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分析システム。
【請求項5】
前記電気化学セル構造の電極は、それぞれ0.1mm以下の厚みを有する非磁性金属材料の集電体を含み、前記接続構造は、前記集電体に接続し、0.5mm以下の直径を有する非磁性金属材料の引き出し線を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の分析システム。
【請求項6】
核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造の電解質内の測定対象核種の空間分布を画像化するための分析用電気化学セルであって、
固体または準固体の電解質および非磁性材料の電極を含む電気化学セル構造が装入される試料管と、前記試料管内に装入され、前記電気化学セル構造を両側から支持する非金属材料の支持部材のセットと、外部の測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するフィルタに前記電気化学セル構造の前記電極を電気的に接続する接続構造と
を含む、分析用電気化学セル。
【請求項7】
非磁性かつ導電性のブロックであって、前記フィルタに接続されるとともに、前記接続構造を構成し、かつシール部材とともに試料管内に前記電気化学セル構造を密封し、前記支持部材のセットを両側から挟持する該ブロックのセットをさらに含み、前記支持部材は、RFコイルの検出範囲から前記ブロックを排除する、請求項6に記載の分析用電気化学セル。
【請求項8】
核磁気共鳴イメージング法により電気化学セル構造を分析する分析方法であって、前記分析方法は、
RFコイルにより囲繞されるとともに、固体または準固体の電解質および非磁性材料の電極を含む電気化学セル構造と、前記電気化学セル構造を両側から支持する非金属材料の支持部材のセットと、前記電気化学セル構造の前記電極を外部に電気的に接続する接続構造とを含む分析用電気化学セルを、核磁気共鳴イメージング装置の磁石ボア内に準備するステップと、
測定対象核種の共鳴周波数を含む周波数帯の信号ノイズを遮断するフィルタを介して、電気化学セル構造に通電するステップと、
前記電気化学セル構造の前記電解質内の前記測定対象核種の空間分布を画像化するステップと
を含む、分析方法。
【請求項9】
前記画像化するステップでは、グラジェント・エコー法によるパルス・シーケンスを用いて、前記測定対象核種の空間分布を画像化する、請求項8に記載の分析方法。
【請求項10】
前記準備するステップは、リチウムイオンを含有する高分子材料の前記電解質と、前記電解質を挟んで両側に配置される第1電極および第2電極とを含んで構成される二次電池を前記電気化学セル構造として、前記分析用電気化学セルの試料管内に装入するステップを含み、前記画像化するステップでは、7Li、19F、31P、および1Hからなる群から選択された1以上の核種を前記測定対象核種とする、請求項8または9に記載の分析方法。
【請求項11】
前記準備するステップは、非磁性かつ導電性のブロックのセットを前記分析用電気化学セルの試料管内に装入し、前記ブロックでシール部材とともに試料管内に前記電気化学セル構造を密封し、前記支持部材のセットを両側から挟持するステップを含み、前記支持部材は、前記RFコイルの検出範囲から前記ブロックを排除する、請求項8〜10のいずれか1項に記載の分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−230355(P2010−230355A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75680(P2009−75680)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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