説明

分析試料処理装置

【課題】分解ガスの発生に伴う分解効率の低下を防止することができる分析試料処理装置を提供する。
【解決手段】分析試料処理装置10は、マイクロウェーブ照射部12,分解容器14,薬液の導入管26,圧力センサ36,温度センサ38,ガス排出機構40,制御部50により構成されている。制御部50は、圧力センサ36及び温度センサ38によって圧力及び温度を監視し、分解容器14内の圧力が所定値を超えたときに、マイクロウェーブ照射部12による加熱を停止して温度を下げる。そして、温度が低い状態で所定圧力を超える場合は、ガス排出機構40を作動させて分解ガスを排出し、所定圧力まで低下させたのちに加熱を再開する。一方、前記所定圧力を超えない場合は、揮発成分が温度上昇時の圧力増加の原因であるものとして、ガスを排出することなく加熱を再開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析試料の前処理を行う分析試料処理装置に関するものであり、更に具体的には、分解効率の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体試料の液体化や均質化といった分析試料の前処理として、マイクロウェーブを熱源として用いた密閉容器による酸分解がある。この方法は、分析試料と酸を、分解容器に入れ、該容器の外側からマイクロウェーブを照射して容器内を加熱し、分析試料を分解するものであって、一般的に容器内の温度が上がるほど分解効率が上がる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上のような背景技術では、使用する酸の分解・蒸発や、試料の分解・蒸発によって分解ガスが発生する。反応は密閉容器内で行われるため、分解ガスが容器内に留まり、圧力が上昇してしまうために、それ以上温度を上げられなくなって分解効率が低下してしまう。そこで、発生した分解ガスを容器外に排出する必要がある。しかしながら、この反応によって生じるガスには、前記分解ガスの他に、揮発成分のガスが含まれていることもある。この揮発成分が分析対象の成分であった場合、そのまま容器内のガスを排出すると、分析対象まで排出されてしまうという不都合がある。
【0004】
本発明は、以上の点に着目したもので、その目的は、分解ガスの発生に伴う分解効率の低下を防止するとともに、分析対象の揮発成分を失うことなく前処理することができる分析試料処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明の分析試料処理装置は、マイクロウェーブ照射手段と、試料及び薬液を入れるための分解容器と、該分解容器を収納固定する保持容器と、前記分解容器の蓋と保持容器の間に設けられた圧力センサと、前記分解容器内の温度を検出する温度センサと、前記分解容器の蓋に設けられたガス排出機構と、前記圧力センサ及び温度センサをモニタリングし、かつ前記マイクロウェーブ照射手段及びガス排出機構を制御する制御部とを備えており、前記制御部は、前記分解容器内の温度が一定値に上昇する前に所定圧力に達したときに、前記マイクロウェーブ照射手段による加熱を停止させ、前記分解容器内が所定温度まで下がったら、前記ガス排出機構を作動させて分解容器内のガスを排出し、該分解容器内が所定の圧力まで下がったら、前記マイクロウェーブ照射手段を作動させて再度加熱を行う、ことを特徴とする。
【0006】
主要な形態の一つは、前記制御部は、前記マイクロウェーブ照射手段による加熱の停止によって前記分解容器内が所定温度まで下がったときに、前記圧力センサの検出結果から、前記分解容器内の圧力が所定値以上であると判断された場合のみ、前記ガス排出機構を作動させることを特徴とする。他の形態は、前記分解容器内に、薬液を導入する薬液導入手段を設けたことを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、分解容器に圧力センサ及び温度センサを設けて、該分解容器内の圧力及び温度を監視し、容器内の圧力が一定値を超えたときに加熱を停止して温度を下げる。そして、分解ガスによる圧力がかかっている場合は、容器内から余剰ガスを排出してから再加熱を行い、分解ガスによる圧力がかかっていない場合は、ガスを排出せずに再び加熱を行うように制御することとしたので、分析対象の揮発成分を失うことなく、測定対象ではない分解ガスを排出でき、効率的な分解を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0009】
最初に、図1〜図3を参照しながら、本発明の実施例1を説明する。図1は、本実施例の分析試料処理装置の全体構成を示す図である。図2(A)は本実施例の分解容器を示す断面図,図2(B)は保持容器を示す断面図である。図3は、本実施例の作用を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施例の分析試料処理装置10は、マイクロウェーブ照射部12,分解容器14,保持容器30,圧力センサ36,温度センサ38,ガス排出機構40,制御部50により構成されている。また、必要に応じて、薬液容器24と導入管26が設けられる。
【0010】
前記分解容器14は、図2(A)に示すように、図示しない分析試料及び薬液(酸など)を入れる容器本体16と、該容器本体16に着脱可能な蓋18によって構成されている。前記蓋18は、筒部20と排気管22を備えており、前記筒部20は、容器内のガスが逃げない程度に前記容器本体16と密接し、かつ、図2(A)に矢印で示す方向にスライド可能となっている。前記筒部20と排気管22は、蓋18の本体内で接続しており、前記排気管22は、ガス排出機構40に接続されている。そして、該ガス排出機構40によって、前記排気管22を介して分解容器14内の排気が可能となっている。前記容器本体16及び筒部20は、例えば、テフロン(登録商標)等で構成されており、蓋18の本体部分は、例えば、フッ素樹脂によって構成されている。
【0011】
また、前記分解容器14には、容器内部の温度を検出するための温度センサ38が設けられており、該温度センサ38は、後述する制御部50に配線などによって接続されている。更に、前記分解容器14には、酸などの薬液を追加導入するための導入管26が、前記蓋18を貫通するように設けられており、薬液容器24に接続されている。なお、前記導入管26には、図示しない弁機構が設けられており、薬液の導入及び導入停止が切り替え可能となっている。このような薬液容器24及び導入管26は、必要に応じて取り付け・使用するようにすればよい。
【0012】
保持容器30は、前記分解容器14を収納固定するものであって、容器本体32に対して蓋34が着脱可能な構成となっている。前記蓋34と、分解容器14の蓋18の間には、圧力センサ36が設けられている。該圧力センサ36は、蓋18の上昇しようとする圧力を検知するものであって、前記制御部50に接続されている。前記制御部50は、前記マイクロウェーブ照射部12,圧力センサ36,温度センサ38,ガス排出機構40に接続されており、前記圧力センサ36及び温度センサ38をモニタリングしながら、前記マイクロウェーブ照射部12及びガス排出機構40を制御する。
【0013】
次に、図3も参照して、本実施例の作用を説明する。まず、分解容器14に、分析試料と酸(薬液)を入れて蓋18を閉じ、該分解容器14を保持容器30によって収納固定して、マイクロウェーブ照射部12からマイクロウェーブの照射を開始する(ステップS10)。照射開始時点では、ガス排出機構40によるガス排出は行われず、分解容器14は密閉状態となっている。前記制御部50は、圧力センサ36及び温度センサ38によって、分解容器14内部の温度・圧力を監視し、その結果に応じて、次のような制御を行う。
【0014】
まず、分解容器14内が所定温度を超え、かつ、所定圧力を超えない場合は、マイクロウェーブの照射量を減少させ、ある程度温度が落ちたらマイクロウェーブの照射量を元に戻すことによって所定の温度範囲内で分解を継続して行う。
【0015】
次に、分解容器14内が所定温度に達する前に、所定圧力を超える場合(ステップS12でYes)は、分解反応の効率が低下するため、マイクロウェーブの照射を停止する(ステップS14)。そして、前記分解容器14内の温度が、あらかじめ設定された容器開放温度まで低下したことを確認したのち(ステップS16でYes)、分解容器14内の圧力が所定値まで下がっているか否か圧力センサ36の検出結果により判断する(ステップS18)。
【0016】
ここで、温度が下がった状態で圧力が所定値以上の場合(ステップS18でNo)は、分解ガスが原因であるから、ガス排出機構40により分解容器14内の圧力が所定以下になるまでガスを排出する(ステップS20)。また、温度が下がった状態で圧力が所定値(例えば大気圧)以下の場合(ステップS18でYes)は、加熱時の圧力上昇の原因は揮発成分であるから、ガスの排出は行わない。そして、この時点で反応が終了していれば(ステップS22でYes)、試料の前処理を終了する(ステップS24)。反応が終了していない場合(ステップS22でNo)は、ステップS10に戻り、再びマイクロウェーブ照射部12を作動させて加熱を行い、処理を続行する。このようにすると、分析試料の揮発成分を排気することなく、試料の分解処理が可能となる。前記ステップS20で反応生成ガスを排出して、所定圧力まで下がったあとも、同様に前記ステップS22へ進む。
【0017】
上述した加熱処理の再開の際には、(1)単に分解容器14を密閉してマイクロウェーブを再照射し酸分解を再開するか、あるいは、(2)予め決められた分量の酸を、導入管26から分解容器14内に導入してから密閉して、マイクロウェーブを再照射し、酸分解を再開するか、いずれかの方法で処理を続行する。なお、前記(1)又は(2)の方法は、1回に限定されず、ステップS10〜ステップS22の処理が繰り返されるたびに、いずれかの方法を選択するようにしてよい。
【0018】
<実験例>・・・次に、本実施例の実験例について説明する。上述した本実施例の分解容器と、従来のガス排出機構が付いていない容器を用いて、エポキシ樹脂を主成分とする試料について分解実験を行った。酸としては硝酸を用いた。また、加熱条件は、マイクロウェーブ照射部12のパワーを徐々に上げていき、10分間で800Wまで上げ、その後60分間800Wを維持したのち、マイクロウェーブ照射を停止し、常温になるまで空冷することを1サイクルとした。いずれの場合も、安全装置により、容器内圧力が予め設定された60気圧または容器温度240℃を超えた場合は、マイクロウェーブの出力が抑えられることとなっている。なお、前記設定圧力及び温度は、分解する試料により異なるものである。条件1(従来の容器使用)では、1サイクル終了後、そのまま続けて1サイクルの加熱を行い実験終了とする。条件2(本実施例の分解容器14使用)では、1サイクル終了後、ガス排出機構を用いてガスを排出し、その後、更に1サイクル加熱を行い、実験終了とした。
【0019】
以下の表1には、条件1及び2について、1回目及び2回目の加熱サイクル時の容器の最高温度(℃)と、実験終了後の有機物残渣(重量%)が示されている。
【表1】

表1の結果が示すように、1回目の加熱時の最高温度は、条件1よりも条件2のほうが若干高い程度であるが、2回目の加熱時には、本実施例の分解容器14を用いた条件2では、目標温度の240℃を達成し、反応終了後の有機物残渣も0.9%と、非常に高い分解効率を達成している。これに対して、反応生成ガスを排出しなかった条件1では、1回目の加熱時よりも2回目の方が最高温度が低下しており、有機物残渣も15.5%程度にとどまっている。
【0020】
このように、実施例1によれば、次のような効果がある。
(1)分解容器14に温度センサ38と圧力センサ36を設けて、その検出結果を制御部50により監視し、分解ガスによる圧力がかかっている場合はガス排出機構40を作動させて分解容器14内からガス排出を行い、分解ガスによる圧力がかかっていない場合は、ガスを排出せずに再び加熱を行うように制御することとした。このため、分析対象の揮発成分を失うことなく、測定対象ではない分解ガスを排出でき、効率的な分解を行うことができる。
(2)分解容器14に薬液容器24及び導入管26を設けることとしたので、圧力上昇によって試薬の一部が分解しても、試薬を追加導入することにより、分解効率の低下を防ぐことができる。
【0021】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した形状,寸法,材質は一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。
(2)前記実施例では、試薬として酸を用いたが、試料に応じて他の公知の各種の試薬が利用可能である。
(3)前記作用も一例であり、設定温度や設定圧力は、試料に応じて適宜変更可能である。また、実験例で示した加熱サイクル回数も一例であり、必要に応じて適宜増減してよい。
(4)ガス排出機構40も一例であり、同様の効果を奏するように適宜設計変更してよい。また、薬液容器24及び導入管26による薬液導入機構も一例であり、同様の効果を奏するように適宜変更可能である。
(5)本発明の分析試料処理装置は、特に、有機物が主成分である物質(例えばプラスチック)の分解処理に好適であるが、他の公知の各種の分析試料の処理に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によれば、分解容器に設けた圧力センサ及び温度センサによって圧力及び温度を監視し、分解容器内の圧力が一定値を超えたときに加熱を停止して温度を下げる。そして、分解ガスによる圧力がかかっている場合は、容器内の余剰ガス排出を行ってから再加熱し、分解ガスによる圧力がかかっていない場合は、ガスを排出せずに再加熱するように制御することとしたので、分析試料の前処理装置の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1の全体構成を示す図である。
【図2】前記実施例1の分解容器及び保持容器を示す断面図である。
【図3】前記実施例1の作用を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0024】
10:分析試料処理装置
12:マイクロウェーブ照射部
14:分解容器
16:容器本体
18:蓋
20:筒部
22:排気管
24:薬液容器
26:導入管
30:保持容器
32:容器本体
34:蓋
36:圧力センサ
38:温度センサ
40:ガス排出機構
50:制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロウェーブ照射手段と、試料及び薬液を入れるための分解容器と、該分解容器を収納固定する保持容器と、前記分解容器の蓋と保持容器の間に設けられた圧力センサと、前記分解容器内の温度を検出する温度センサと、前記分解容器の蓋に設けられたガス排出機構と、前記圧力センサ及び温度センサをモニタリングし、かつ前記マイクロウェーブ照射手段及びガス排出機構を制御する制御部とを備えており、
前記制御部は、
前記分解容器内の温度が一定値に上昇する前に所定圧力に達したときに、前記マイクロウェーブ照射手段による加熱を停止させ、前記分解容器内が所定温度まで下がったら、前記ガス排出機構を作動させて分解容器内のガスを排出し、該分解容器内が所定の圧力まで下がったら、前記マイクロウェーブ照射手段を作動させて再度加熱を行う、
ことを特徴とする分析試料処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記マイクロウェーブ照射手段による加熱の停止によって前記分解容器内が所定温度まで下がったときに、前記圧力センサの検出結果から、前記分解容器内の圧力が所定値以上であると判断された場合のみ、前記ガス排出機構を作動させることを特徴とする請求項1記載の分析試料処理装置。
【請求項3】
前記分解容器内に、薬液を導入する薬液導入手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の分析試料処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−139542(P2007−139542A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332681(P2005−332681)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】