説明

制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置

【課題】力行動作と回生動作を実現することが可能であるとともに、制動力と発生トルクを自在に制御することが可能なブラシレスDCモータの駆動装置を提供する。
【解決手段】ブラシレスDCモータ1の位置情報を元に励磁シーケンスを作成する励磁シーケンス作成器21と、指令電圧指示に比例したPWM信号を発生するPWM信号発生器23とを備え、前記励磁シーケンス作成器21によって作成された励磁シーケンスと前記PWM信号発生器23からのPWM信号を合成して前記スイッチング素子群5〜10のスイッチング素子をオン、オフして前記ブラシレスDCモータ1を駆動し、制動時に、直流電源3と前記スイッチング素子群5〜10とを切り離し、前記ブラシレスDCモータ1の誘起電圧を、前記スイッチング素子群5〜10を通じて前記ブラシレスDCモータ1で消費させることで制動力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラシレスDCモータの駆動装置と制動装置としては、例えば、スイッチング素子を直列に接続した複数のアームを電源に接続し、各アームのスイッチング素子間をモータの巻線に接続してモータ駆動回路を構成し、モータ駆動回路への電力供給を遮断手段によって遮断するようにした先行技術がある(特許文献1)。特許文献1では、誘導起電力が電源電圧を超えた場合、インバータの入力電圧を半導体スイッチにより切断し、上側アーム(あるいは下側アーム)をPWM制御にてオン、オフを繰り返すことで、制動力を制御するようにしている。
【0003】
また、電源遮断時のブラシレスDCモータの回生制動をおこなうため、電源遮断検出装置を設け、電源遮断時に上側アーム(あるいは下側アーム)をすべてオンして回生制動を行った後、あらかじめタイマーで設定した時間が経過した後に機械式ブレーキ機構によりたるみのないテープの巻き取りを行う方法(特許文献2)が知られている。
【0004】
一方、3相の電機子巻線に対応した3個の高電位側スイッチング素子と3個の低電位側スイッチング素子を有するインバータと、前記インバータの動作を制御する制御手段を設け、駆動時には、初期充電モード等を設け、スイッチングパターンを工夫することで回生制動を行う方法(特許文献3)が知られている。
【0005】
また、ブラシレスDCモータの減速時において、停止指令が与えられたときに電源から電気子に駆動電流が与えられるのを阻止するようにスイッチ回路を制御し、回転方向指令を制動力に応じたデューティー比で切り替えながら減速する方法(特許文献4)が知られている。
【0006】
さらに、ブラシレスDCモータによる交流発電電圧をダイオードブリッジで整流し直流に変換し、変換して得た直流電圧をチョッパ回路で電圧調整を行い、抵抗によりその電力を消費させることにより制動力を得る方法(特許文献5)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−115558号公報
【特許文献2】特開2001−157483号公報
【特許文献3】特開平11−206179号公報
【特許文献4】特開平08−066074号公報
【特許文献5】特開2001−186748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来のブラシレスDCモータの駆動装置あるいはブレーキ装置にあっては、次のような問題があった。
特許文献1の技術では、モータの誘起電圧が電源電圧より大きくなった場合、インバータを電源から切り離し回生制動を行うため、モータの誘起電圧が電源電圧より小さい場合に制動制御が不能となる。また、コンデンサがインバータの電源に接続されていないため、回生制動時に電流が連続しなくなり、大きな制動力を発生できない。
特許文献2の技術では、上側アーム(あるいは下側アーム)をすべてオンして回生制動を行うため、制動力を制御できない。
特許文献3の技術では、初期充電モード等を設け、スイッチングパターンを工夫することで回生制動を行う方法をとっているため、スイッチング素子の導通比率を所定のものとしなければならず、制動力を制御できない。
特許文献4の技術では、ブラシレスDCモータを減速するための発明であり、モータ出力軸が外部から回転させられた場合に制動力は得られない。
特許文献5の技術では、変換して得た直流電圧をチョッパ回路で電圧調整を行い、抵抗によりその電力を消費させることにより制動力を得る方法であるため、制動装置としての機能しかなく、同一の装置でブラシレスDCモータを駆動することができない。
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題を解決し、ブラシレスDCモータをひとつの駆動装置で力行動作と回生動作を実現することが可能であるとともに、制動力と発生トルクを自在に制御でき、かつ、駆動回路に回生抵抗を有しないため、発熱する虞がない制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、ブラシレスDCモータを駆動する直流電源と、インバータ回路を構成して、該直流電源から前記ブラシレスDCモータの巻線に流す電流をオン、オフするスイッチング素子群と、該スイッチング素子群と並列に接続されたコンデンサと、前記直流電源と前記スイッチング素子群とを切り離し、ブラシレスDCモータを力行動作(負荷に機械エネルギーを供給)させるか、回生動作(負荷から機械エネルギーを吸収)させるかを切り替えるスイッチと、スイッチング素子群が、直流電源から切り離されても駆動できるようにするために、前記スイッチング素子群を駆動するための駆動回路用電源と、前記ブラシレスDCモータの位置情報を元に励磁シーケンスを作成する励磁シーケンス作成器と、指令電圧指示に比例したPWM信号を発生するPWM信号発生器と、を備えている。そして、前記励磁シーケンス作成器によって作成された励磁シーケンスと前記PWM信号発生器からのPWM信号を合成してインバータ回路を構成する前記スイッチング素子群のスイッチング素子をオン、オフして前記ブラシレスDCモータを駆動し、制動時に、前記直流電源と前記スイッチング素子群とを切り離し、前記ブラシレスDCモータの誘起電圧を、前記スイッチング素子群を通じて前記ブラシレスDCモータで消費させることで制動力を発生させる駆動装置である。
また、本発明は、前記駆動回路用電源として、前記スイッチング素子群の上アーム側が相数個、下アーム側が1個である駆動装置である。
さらに、本発明は、力行、回生動作をブラシレスDCモータの励磁シーケンスとPWM信号により制御し、かつ前記スイッチング素子群の上下アームでPWM変調による制動力の制御をする駆動装置である。
またさらに、本発明は、前記ブラシレスDCモータの回転子位置情報から回転方向を判別する回転方向判別回路を設け、回転方向に見合う励磁シーケンスを前記励磁シーケンス作成器により作成する駆動装置である。
また、本発明は、前記直流電源と前記スイッチング素子群との間に電流検出器を介装し、この電流検出器で検出された電流と電流指示との偏差を演算し、電流偏差を前記電流制御器に入力して電圧指示を算出し、この算出した電圧指示を前記PWM信号発生器に入力し、PWM信号を作成する駆動装置である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1によれば、ブラシレスDCモータ1をひとつの駆動装置で力行動作と回生動作を実現することが可能である。PWM信号のデューティー比により、制動力と発生トルクを自在に制御できる。駆動回路に回生抵抗を有しないため、駆動装置は発熱しない。
請求項2によれば、部品点数の削減を図ることができる。
請求項3によれば、上下のアームをPWM変調によりオン、オフし、PWM信号のデューティー比を変えることにより充放電の比率を変更し、電流を制御し、制動力と発生トルクを自在に制御することができる。
請求項4によれば、回転方向判別回路により回転方向を判別することができるので、回転方向に見合う励磁シーケンスを作成することができる。
請求項5によれば、電流検出器で検出された電流と電流指示との偏差を演算して電流偏差を電流制御器に入力することができるので、電流制御器でPWM信号発生器に入力する電圧指示を算出することができる。よって、的確な電圧指示をPWM信号発生器に入力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態における制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置のブロック回路図である。
【図2】指示回転方向と回転子位置検出器(ホールIC)による励磁シーケンスを示す要部電圧波形図で、(a)は時計回り(CW)の電圧波形図、(b)は反時計回り(CCW)の電圧波形図である。
【図3】回転方向指示が正回転、回転子の回転方向が正転であるとき、回転子位置検出器(ホールIC)による信号合成器が生成するUVW相上下アームのスイッチング指令とモータの誘起電圧の関係を示す波形図である。
【図4】回転方向指示が正転、回転子の回転方向が逆転であるとき、回転子位置検出器(ホールIC)による信号合成器が生成するUVW相上下アームのスイッチング指令とモータの誘起電圧の関係を示す波形図である。
【図5】図1の動作説明を示す回路図である。
【図6】図1の動作説明を示す回路図である。
【図7】図1の動作説明を示す回路図である。
【図8】図1の動作説明を示す回路図である。
【図9】本発明の他の実施の形態における制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置のブロック回路図である。
【図10】本発明の他の実施の形態における制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置のブロック回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って詳細に説明する。
【0014】
図1において、1は3相ブラシレスDCモータ、2は前記3相ブラシレスDCモータ1に内蔵され、該ブラシレスDCモータ1の回転子位置を検出するロータリーエンコーダあるいはホールIC等を使った回転子位置検出器である。3は前記3相ブラシレスDCモータ1を駆動するモータ駆動用直流電源で、このモータ駆動用直流電源3には、モータ駆動用電源用スイッチ4が直列接続されて、モータ駆動用電源3のオン(ON),オフ(OFF)を行うものである。
【0015】
5〜10は、NchパワーMOSFETからなるスイッチング素子であり、これらスイッチング素子5〜10は、スイッチング素子5と8,スイッチング素子6と9,スイッチング素子7と10がそれぞれ直列接続されて各アーム1〜3を構成し、これらアーム1〜3の直列回路が互いに並列接続されてモータ駆動回路Cを構成している。
前記モータ駆動回路Cのスイッチング素子5,6,7は3相モータ1の上アーム側主スイッチング素子を構成し、これら上アーム側主スイッチング素子5,6,7のゲートにはゲート駆動回路(駆動回路)11,12,13がそれぞれ接続されて上アーム側主スイッチング素子5,6,7のオン(ON),オフ(OFF)が行われる。
前記モータ駆動回路Cのスイッチング素子8,9,10は3相モータの下アーム側主スイッチング素子を構成し、これら下アーム側主スイッチング素子8,9,10のゲートにはゲート駆動回路(駆動回路)14,15,16がそれぞれ接続されて下アーム側主スイッチング素子8,9,10のオン(ON),オフ(OFF)が行われる。
【0016】
17,18,19は3相モータの上アーム側主スイッチング素子5,6,7のゲート駆動回路用電源、20は3相モータの下アーム側主スイッチング素子8,9,10のゲート駆動回路用電源である。前記各アーム1〜3のスイッチング素子5と8間,スイッチング素子6と9間,スイッチング素子7と10間がモータ1に接続される出力端子P1,P2,P3となる。出力端子P1は、ブラシレスDCモータ1のモータ巻線のU相に接続され、出力端子P2は、モータ巻線のV相に接続され、出力端子P3はモータ巻線のW相に接続されている。
21は励磁シーケンス作成器であり、これはブラシレスDCモータ1の回転子位置が回転子位置検出器2から入力され、この回転子位置から励磁シーケンスが作成される。22は励磁シーケンス作成器21から励磁シーケンスが入力される信号合成器であり、この信号合成器22は、励磁シーケンスと、PWM信号発生器23から入力されるPWM信号によって、主スイッチング素子のON/OFF指令を作成する。
前記モータ駆動用電源3回路およびモータ駆動回路Cには、制動用に平滑コンデンサ(以下制動用コンデンサと略称する。)24が並列接続されている。25は励磁シーケンス作成器21に回転方向の指示を与える回転方向指示である。
【0017】
次に、上記の実施の形態の作用を説明する。
初めに、力行動作(負荷に機械エネルギーを供給)について説明する。
ブラシレスDCモータ1を120度通電方式により負荷を駆動する(力行動作)場合、ブラシレスDCモータ1に取り付けられた位置検出器2から出力される回転子位置情報をもとに、励磁シーケンス作成器21により、励磁シーケンスを作成する。
前記回転子位置検出器2にホールICを使用した場合、正回転と逆回転の方向指示に対する励磁シーケンスは図2に示すように正回転の場合と(a)逆回転の場合(b)のようになる。各相A,B,CごとのホールICの回転子位置情報によるU相、V相、W相の励磁シーケンスを示している。
【0018】
指令電圧指示に比例したPWM信号をPWM信号発生器23で作成し、励磁シーケンスとPWM信号を信号合成器22で合成し、それぞれの主スイッチング素子のON/OFF指令を作成する。上アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源17,18,19と下アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源20から電源供給を受けた上アーム側主スイッチング素子駆動回路11,12,13と下アーム側主スイッチング素子駆動回路14,15,16は信号合成器22で合成された主スイッチング素子のON/OFF指令により、上アーム側主スイッチング素子5、6、7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10のON/OFFをおこない、ブラシレスDCモータ1を駆動する。
【0019】
このときモータ駆動用電源用スイッチ4をONとして、モータ駆動用電源3からブラシレスDCモータ1に上アーム側主スイッチング素子5、6、7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10を通じて電力供給を行う。
【0020】
次に、回生動作(負荷から機械エネルギーを吸収)について説明する。
ブラシレスDCモータを120度通電方式により負荷を制動する(回生動作)場合、ブラシレスDCモータ1に取り付けられた位置検出器2から出力される回転子位置情報をもとに、励磁シーケンス作成器21により、励磁シーケンスを作成する。励磁シーケンスは負荷を駆動する場合と同一である(図2参照)。
制動を行う場合には回転子の回転方向と逆方向の回転指示を与える。制動力指示に比例したPWM信号をPWM信号発生器23で作成し、励磁シーケンスとPWM信号を信号合成器22で合成し、それぞれの主スイッチング素子のON/OFF指令を作成する。上アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源17,18,19と下アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源20から電源供給を受けた上アーム側主スイッチング素子駆動回路11,12,13と下アーム側主スイッチング素子駆動回路14,15,16は信号合成器22で合成された主スイッチング素子のON/OFF指令により、上アーム側主スイッチング素子5、6、7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10のON/OFFをおこない、ブラシレスDCモータ1を駆動する。
このときモータ駆動用電源スイッチ4をOFFとして、モータ駆動用電源3を切り離す。ブラシレスDCモータ1の誘起電圧を上アーム側主スイッチング素子5、6、7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10を通じてブラシレスDCモータ1で消費し制動力を発生させる。
【0021】
次に、モータ駆動用電源用スイッチの動作について説明する。
モータ駆動用電源スイッチ4によりモータ駆動用電源3を切り離すことなく制動を行おうとすると、前記した[特許文献5]で提案されているようなチョッパ回路を別に付加しなければならない。
本願発明では、回路構成を簡単にし、かつ回生抵抗を不要とするため、制動時にはモータ駆動用電源スイッチ4によりモータ駆動用電源3を切り離すこととしている。
【0022】
次に、主スイッチング素子駆動回路電源の動作について説明する。
一般に回路構成を簡単にするために、低電圧でのインバータ主スイッチング素子の駆動回路には[特許文献3]で提案されているようなチャージポンプ方式、上アームにPchのFETを使用する。
しかしながら、モータ駆動用電源スイッチ4によりインバータの入力電圧がブラシレスDCモータの誘起電圧とスイッチングに左右され確定しない。
そこで、本願発明では、上アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源17,18,19と下アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源20を設けている。
【0023】
次に、制動力の発生と制動用コンデンサの動作について説明する。
説明の順序として、まず制動用コンデンサ24が無い場合の動作について図5および図6を参照して説明する。
ブラシレスDCモータ1は誘起電圧と同位相で電流を流せば力行動作のトルクを発生することができる。制動力は逆位相の電流を流すことで制動力が発生する。ホールICの出力信号と誘起電圧と各アームのスイッチング信号の関係を表したものが図3となる。
図3において各アームのオン指令は灰色の部分である。この信号は指令電圧指示に比例したPWM信号をPWM信号発生器23で作成し、励磁シーケンスとPWM信号を信号合成器22で合成した波形となる。
【0024】
制動用コンデンサ24なしで、モータ駆動用電源用スイッチ4をOFFとする。回転指示方向は正転、回転子の回転方向は正転であり、回転子位置検出器(ホールIC)による信号合成器22が生成するUVW相上下アームのスイッチング指令とモータの誘起電圧の関係が図3における状態6であったとき、UV相の主スイッチング素子と誘起電圧の関係は図5となる。
図5は図1に示すブロック図中の制動用コンデンサ24が接続されておらず、モータ駆動用電源用スイッチ4を切り、回転方向指示を正転方向、回転子の回転方向を正回転とし、U相上アーム素子5とV相下アーム素子9がON、U相下アーム素子8とV相上アーム素子6がOFFで、U相の誘起電圧が正、V相誘起電圧が負である場合のUV相のみのスイッチング素子に流れる電流を示す図である。
図5に示すように、主スイッチング素子5,9がONであっても電流経路はなく、電流は流れることができないため制動力は発生することができない。
【0025】
つぎに、制動用コンデンサ24なしで、モータ駆動用電源用スイッチ4をOFFとする。回転指示方向は正転、回転子の回転方向は逆転であり、回転子位置検出器(ホールIC)による信号合成器22が生成するUVW相上下アームのスイッチング指令とモータの誘起電圧の関係が図4における状態3であったとき、UV相の主スイッチング素子と誘起電圧の関係は図6となる。
図6は図1に示すブロック図中の制動用コンデンサ24が接続されておらず、モータ駆動用電源スイッチ4を切り、回転方向指示を正転方向、回転子の回転方向を逆回転とし、U相上アーム素子5とV相下アーム素子9がOFF、U相下アーム素子8とV相上アーム素子6がONで、U相の誘起電圧が正、V相誘起電圧が負である場合のUV相のみのスイッチング素子に流れる電流を示す図である。
【0026】
図6に示すように、電流経路はブラシレスDCモータ1の誘起電圧がプラスとなるところから主スイッチング素子5の寄生ダイオードkと主スイッチング素子6を通じる経路と、ブラシレスDCモータ1の誘起電圧がプラスとなるところから主スイッチング素子8を通じて主スイッチング素子9の寄生ダイオードkを通じて流れる電流経路の2通りが考えられる。電流経路を矢印で示す。この電流により制動力が発生する。したがって、制動力を得るためには回転子の回転方向と逆の回転指示となる励磁シーケンスを与えればよい。しかしながらPWM信号がOFFとなったときに全アームの主スイッチング素子はOFFとなり、電流が流れることができなくなり制動トルクはゼロとなる。このため、制動トルクはオン、オフを繰り返すこととなり、大きな制動力を得ることができない。
【0027】
そこで、本願発明では制動用コンデンサ24を付加し、モータ駆動用電源スイッチ4をOFFとする。回転指示方向は正転、回転子の回転方向は逆転であり、回転子位置検出器(ホールIC)2による信号合成器22が生成するUVW相上下アームのスイッチング指令とモータの誘起電圧の関係が図4における状態3であったとき、UV相の主スイッチング素子と誘起電圧の関係は図7となる。
図7は図1に示すモータ駆動用電源用スイッチ4を切り、回転方向指示を正転方向、回転子の回転方向を逆回転とし、U相上アーム素子5とV相下アーム素子9がOFF、U相下アーム素子8とV相上アーム素子6がONで、U相の誘起電圧が正、V相誘起電圧が負である場合のUV相のみのスイッチング素子に流れる電流を示す図である。
電流経路はブラシレスDCモータ1の誘起電圧がプラスとなるところから主スイッチング素子8を通じて主スイッチング素子9の寄生ダイオードを通じる経路により電流が流れ、制動用コンデンサ24に蓄えられた電荷は主スイッチング素子6を通じて放電される。この電流により制動力が発生する。
【0028】
さらに、PWM信号がOFFとなったときに全アームの主スイッチング素子はOFFとなる。このとき図8に示す状態となる。
図8は図1に示すモータ駆動用電源スイッチ4を切り、回転方向指示を正転方向、回転子の回転方向を逆回転とし、U相上下アーム素子5、8とV相上下アーム素子6、9すべてOFFで、U相の誘起電圧が正、V相誘起電圧が負である場合のUV相のみのスイッチング素子に流れる電流を示す図である。
図8で、主スイッチング素子5,6,8,9はOFFであるが、主スイッチング素子5,9の寄生ダイオードkがONしブラシレスDCモータ1の発生する誘起電圧で制動用コンデンサ24が充電されるため電流は連続し、制動トルクを発生することができる。
【0029】
次に、PWM変調の方法について説明する。
ブラシレスDCモータ1の駆動では、PWM信号による変調は上アームあるいは下アームのみ行う方法が一般である。
しかし、本願発明の手法で上アームあるいは下アームのみPWM変調を行うと、図8に示す全アームOFFの期間が存在しなくなり、制動用コンデンサ24を充電できなくなる。さらにONしている主スイッチング素子と寄生ダイオードにより電流が流れ、制動力を制御することができない。したがって、常に上下のアームをPWM変調によりON/OFFし、PWM信号のデューティー比を変えることにより充放電の比率を変更し、電流を制御し、制動力を制御する。
【0030】
図9および図10は本発明の他の実施の形態で、図1と同一部分は同符号を付してその説明を省略して説明する。
図9は、位置検出器2から回転方向を判別し制動力を発生する方法のブロック図である。
構成を説明すると、1は3相ブラシレスDCモータ(以下、3相モータと略称する。)、2はロータリーエンコーダやホールIC等を使った回転子位置検出器、3はモータ駆動用電源、4はモータ駆動用電源スイッチ、5,6,7は3相モータ1の上アーム側主スイッチング素子(Nch パワーMOSFET)、8,9,10は3相モータ1の下アーム側主スイッチング素子(Nch パワーMOSFET)、11,12,13は3相モータ1の上アーム側主スイッチング素子駆動回路、14,15,16は3相モータ1の下アーム側主スイッチング素子駆動回路、17,18,19は3相モータ1の上アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源、20は3相モータ1の下アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源、21は励磁シーケンス作成器、22は信号合成器、23はPWM信号発生器、24は制動用コンデンサ、25は回転方向指示、26は回転子位置検出器2と励磁シーケンス作成器21の間に接続された回転方向判別回路で、この回転方向判別回路26は、回転子位置検出器2の回転子位置情報から、回転方向を判別して、励磁シーケンス作成器21に回転方向を指示するものである。
【0031】
図9において、ブラシレスDCモータ1を120度通電方式により負荷を駆動する(力行動作)場合、ブラシレスDCモータ1に取り付けられた位置検出器2から出力される回転子位置情報をもとに、励磁シーケンス作成器21により、励磁シーケンスを作成する。指令電圧指示に比例したPWM信号をPWM信号発生器23で作成し、励磁シーケンスとPWM信号を信号合成器22で合成し、それぞれの主スイッチング素子のON/OFF指令を作成する。上アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源17,18,19と下アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源20から電源供給を受けた上アーム側主スイッチング素子駆動回路11,12,13と下アーム側主スイッチング素子駆動回路14,15,16は信号合成器22で合成された主スイッチング素子のON/OFF指令により、上アーム側主スイッチング素子5,6,7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10のON/OFFをおこない、ブラシレスDCモータ1を駆動する。このときモータ駆動用電源スイッチ4をONとして、モータ駆動用電源3からブラシレスDCモータ1に上アーム側主スイッチング素子5,6,7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10を通じて電力供給を行う。
【0032】
続いて、図9において、ブラシレスDCCモータ1を120度通電方式により負荷を制動する(回生動作)場合、ブラシレスDCモータ1に取り付けられた位置検出器2から出力される回転子位置情報から、回転方向判別回路26により回転方向を判別し、回転方向に見合う励磁シーケンスを励磁シーケンス作成器21により作成する。制動力指示に比例したPWM信号をPWM信号発生器23で作成し、励磁シーケンスとPWM信号を信号合成器22で合成し、それぞれの主スイッチング素子のON/OFF指令を作成する。上アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源17,18,19と下アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源20から電源供給を受けた上アーム側主スイッチング素子駆動回路11,12,13と下アーム側主スイッチング素子駆動回路14,15,16は信号合成器22で合成された主スイッチング素子のON/OFF指令により、上アーム側主スイッチング素子5,6,7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10のON/OFFをおこない、ブラシレスDCモータ1を駆動する。このときモータ駆動用電源スイッチ4をOFFとして、モータ駆動用電源3を切り離す。ブラシレスDCモータ1の誘起電圧を上アーム側主スイッチング素子5,6,7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10を通じて、ブラシレスDCモータ1で消費し制動力を発生させる。
【0033】
図10は、電流制御を行い所望の制動力を発生する方法のブロック図である。
構成を説明すると、1は3相ブラシレスDCモータ(以下、3相モータと略称する。)、2はロータリーエンコーダやホールIC等を使った回転子位置検出器、3はモータ駆動用電源、4はモータ駆動用電源用スイッチ、5,6,7は3相モータ1の上アーム側主スイッチング素子(Nch パワーMOSFET)、8,9,10は3相モータ1の下アーム側主スイッチング素子(Nch パワーMOSFET)、11,12,13は3相モータ1の上アーム側主スイッチング素子駆動回路、14,15,16は3相モータ1の下アーム側主スイッチング素子駆動回路、17,18,19は3相モータ1の上アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源、20は3相モータ1の下アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源、21は励磁シーケンス作成器、22は信号合成器、23はPWM信号発生器、24は制動用コンデンサ、25は回転方向指示、27は電流検出器、29は電流制御器、30は電流指示である。
【0034】
図10において、ブラシレスDCモータ1を120度通電方式により負荷を駆動する(力行動作)場合、ブラシレスDCモータ1に取り付けられた位置検出器2から出力される回転子位置情報をもとに、励磁シーケンス作成器21により、励磁シーケンスを作成する。指令電流指示30と電流検出器27で検出した電流の偏差を演算する。電流偏差を電流制御器29に入力し電圧指示を算出する。算出した電圧指示に比例したPWM信号をPWM信号発生器23で作成し、励磁シーケンスとPWM信号を信号合成器22で合成し、それぞれの主スイッチング素子5,6,7,8,9,10のON/OFF指令を作成する。
【0035】
上アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源17,18,19と下アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源20から電源供給を受けた上アーム側主スイッチング素子駆動回路11,12,13と下アーム側主スイッチング素子駆動回路14,15,16は信号合成器22で合成された主スイッチング素子のON/OFF指令により、上アーム側主スイッチング素子5、6、7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10のON/OFFをおこない、ブラシレスDCモータ1を駆動する。このときモータ駆動用電源スイッチ4をONとして、モータ駆動用電源3からブラシレスDCモータ1に上アーム側主スイッチング素子5、6、7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10を通じて電力供給を行う。
【0036】
続いて図10において、ブラシレスDCモータを120度通電方式により負荷を制動する(回生動作)場合、ブラシレスDCモータ1に取り付けられた位置検出器2から出力される回転子位置情報から、回転方向判別回路26により回転方向を判別し、回転方向に見合う励磁シーケンスを励磁シーケンス作成器21により作成する。指令電流指示30と電流検出器27で検出した電流の偏差を演算する。電流偏差を電流制御器29に入力し電圧指示を算出する。算出した電圧指示に比例したPWM信号をPWM信号発生器23で作成し、励磁シーケンスとPWM信号を信号合成器22で合成し、それぞれの主スイッチング素子5,6,7,8,9,10のON/OFF指令を作成する。
【0037】
上アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源17,18,19と下アーム側主スイッチング素子駆動回路用電源20から電源供給を受けた上アーム側主スイッチング素子駆動回路11,12,13と下アーム側主スイッチング素子駆動回路14,15,16は信号合成器22で合成された主スイッチング素子のON/OFF指令により、上アーム側主スイッチング素子5、6、7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10のON/OFFをおこない、ブラシレスDCモータ1を駆動する。このときモータ駆動用電源スイッチ4をOFFとして、モータ駆動用電源3を切り離す。ブラシレスDCモータ1の誘起電圧を上アーム側主スイッチング素子5、6、7と下アーム側主スイッチング素子8,9,10を通じて、ブラシレスDCモータ1で消費し、制動力を発生させる。
【0038】
以上説明してきたように、上記実施の形態による制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置によれば、以下に列挙する効果が得られる。
励磁シーケンス作成器21によって作成された励磁シーケンスと前記PWM信号発生器23からのPWM信号を合成してインバータ回路Cを構成する前記スイッチング素子群5〜10のスイッチング素子をオン、オフして前記ブラシレスDCモータを駆動し、制動時に、前記直流電源と前記スイッチング素子群とを切り離し、前記ブラシレスDCモータ1の誘起電圧を、前記スイッチング素子群5〜10を通じて前記ブラシレスDCモータ1で消費させることで制動力を発生させるので、ブラシレスDCモータ1をひとつの駆動装置で力行動作と回生動作を実現することが可能であるとともに、PWM信号のデューティー比により、制動力と発生トルクを自在に制御できる。また、駆動回路に回生抵抗を有しないため、駆動装置は発熱しない。
また、駆動回路用電源17〜20として、前記スイッチング素子群5〜10の上アーム側が相数個、下アーム側が1個であるので、部品点数の削減を図ることができる。
さらに、力行、回生動作をブラシレスDCモータ1の励磁シーケンスとPWM信号により制御し、かつ前記スイッチング素子群5〜10の上下アームでPWM変調による制動力の制御をするので、上下のアームをPWM変調によりオン、オフし、PWM信号のデューティー比を変えることにより充放電の比率を変更し、電流を制御し、制動力と発生トルクを自在に制御することができる。
またさらに、ブラシレスDCモータ1の回転子位置情報から回転方向を判別する回転方向判別回路26を設け、回転方向に見合う励磁シーケンスを前記励磁シーケンス作成器21により作成するので、回転方向に見合う励磁シーケンスを作成することができる。
また、直流電源3と前記スイッチング素子群5〜10との間に電流検出器27を介装し、この電流検出器27で検出された電流と電流指示との偏差を演算し、電流偏差を電流制御器29に入力して電圧指示を算出し、この算出した電圧指示をPWM信号発生器23に入力し、PWM信号を作成するので、電流制御器29でPWM信号発生器23に入力する電圧指示を算出することができる。よって、的確な電圧指示をPWM信号発生器23に入力することができる。
【0039】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、例えば、モータは3相ブラシレスDCモータ1を用いたが、3相以外でも良く、単相あるいは3相以上でも良い。また、インバータ回路Cを構成するスイッチング素子5〜10としては、NchパワーMOSFETに限らず、トランジスタ、サイリスタなど他の半導体素子を用いることもできる。さらに、ゲート駆動回路11〜16としては、スイッチング素子5〜10をON/OFFさせることができる回路であれば、どのような回路でも用いることができるなど、その他、本発明の要旨を変更しない範囲内で適宜、変更して実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0040】
1 3相ブラシレスDCモータ
2 回転子位置検出器
3 モータ駆動用(直流)電源
4 モータ駆動用電源スイッチ
5〜10 スイッチング素子
11〜16 ゲート駆動回路(駆動回路)
17〜20 ゲート駆動回路用電源
21 励磁シーケンス作成器
22 信号作成器
23 PWM信号発生器
24 制動コンデンサ
25 回転方向指示
26 回転方向判別回路
27 電流検出器
29 電流制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスDCモータを駆動する直流電源と、
該直流電源から前記ブラシレスDCモータの巻線に流す電流をオン、オフするスイッチング素子群と、
該スイッチング素子群と並列に接続されたコンデンサと、
前記直流電源と前記スイッチング素子群とを切り離すスイッチと、
前記スイッチング素子群を駆動するための駆動回路用電源と、
前記ブラシレスDCモータの位置情報を元に励磁シーケンスを作成する励磁シーケンス作成器と、
指令電圧指示に比例したPWM信号を発生するPWM信号発生器と、
を備え、
前記励磁シーケンス作成器によって作成された励磁シーケンスと前記PWM信号発生器からのPWM信号を合成して前記スイッチング素子群のスイッチング素子をオン、オフして前記ブラシレスDCモータを駆動し、
制動時に、前記直流電源と前記スイッチング素子群とを切り離し、前記ブラシレスDCモータの誘起電圧を、前記スイッチング素子群を通じて前記ブラシレスDCモータで消費させることで制動力を発生させることを特徴とする
制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置。
【請求項2】
前記駆動回路用電源は、前記スイッチング素子群の上アーム側が相数個、下アーム側が1個であることを特徴とする請求項1に記載の制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置。
【請求項3】
力行、回生動作をブラシレスDCモータの励磁シーケンスとPWM信号により制御し、かつ前記スイッチング素子群の上下アームでPWM変調による制動力の制御をすることを特徴とする請求項2に記載の制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置。
【請求項4】
前記ブラシレスDCモータの回転子位置情報から回転方向を判別する回転方向判別回路を設け、回転方向に見合う励磁シーケンスを前記励磁シーケンス作成器により作成することを特徴とする請求項1に記載の制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置。
【請求項5】
前記直流電源と前記スイッチング素子群との間に電流検出器を介装し、この電流検出器で検出された電流と電流指示との偏差を演算し、電流偏差を前記電流制御器に入力して電圧指示を算出し、この算出した電圧指示を前記PWM信号発生器に入力し、PWM信号を作成することを特徴とする請求項4に記載の制動力制御機能を有するブラシレスDCモータ駆動装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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