説明

制振ダンパ

【課題】軸組材同士の接合部に確実に取り付けることができる制振ダンパを提供する。
【解決手段】一方の軸組材51に固定される第一板材11と、他方の軸組材53に固定される第二板材13と、第一板材11と第二板材13との間に充填される弾性材料15と、を備え、他方の軸組材53と第一取付部21との間に第一の隙間W1が形成されるとともに、一方の軸組材51と第二取付部29との間に第二の隙間W2が形成され、第一板材11が、第一取付部21から第二取付部29に指向するように形成された鋼板製の板材で構成されるとともに、第二板材13が、第二取付部29から第一取付部21に指向するように形成された鋼板製の板材で構成され、第一の隙間W1、第二の隙間W2、第一板材11および第二板材13とで構成される空間部50が、少なくとも根太57を挿通可能な大きさを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造構造体に用いる制振ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、木造家屋の耐震補強をきわめて簡単にかつ低コストで行えるようにした木造家屋の耐震補強構造において、木造家屋の軸組材どうしの接合部である仕口部に、二枚の変位板と変位板間の間隙に充填された粘弾性体とからなる粘弾性ダンパを取り付けて、粘弾性体のせん断変形により地震エネルギーが吸収されるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3667123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述の特許文献1のような従来のダンパは、柱と梁との接合部(仕口部)に取り付けることは可能であったが、例えば、柱と土台との接合部近傍には根太が配設されることがあるため、根太と干渉して取り付けられないという問題があった。
【0004】
そこで、この発明は、上述の事情を鑑みてなされたものであり、軸組材同士の接合部に確実に取り付けることができる制振ダンパを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、木造構造体の軸組材同士の接合部近傍に設置する制振ダンパにおいて、一方の軸組材に固定して突設される第一板材と、他方の軸組材に固定して突設される第二板材と、前記第一板材と前記第二板材との間に充填され、前記第一板材と前記第二板材とを接合する弾性材料と、を備え、前記他方の軸組材と前記第一板材における前記一方の軸組材との第一取付部との間に第一の隙間が形成されるとともに、前記一方の軸組材と前記第二板材における前記他方の軸組材との第二取付部との間に第二の隙間が形成され、前記第一板材が、前記第一取付部から前記第二取付部に指向するように形成された鋼板製の板材で構成されるとともに、前記第二板材が、前記第二取付部から前記第一取付部に指向するように形成された鋼板製の板材で構成され、前記第一の隙間、前記第二の隙間、前記第一板材および前記第二板材とで構成される空間部が、少なくとも根太を挿通可能な大きさを有していることを特徴としている。
【0006】
請求項2に記載した発明は、前記空間部に、前記接合部近傍における土台と基礎とを接合するためのアンカーボルトを配置可能に構成されていることを特徴としている。
【0007】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載の前記弾性材料が、0℃〜40℃環境下、かつ、0.125≦γ(せん断歪)≦3.0の領域下において、Heq(等価粘性減衰定数(等価減衰定数))が、Heq>0.24であり、γ=3とγ=1のGeq(等価せん断弾性率)の比が、0.40≦{Geq (γ=3.0)}/{Geq(γ=1.0)}<0.60であり、前記弾性材料の減衰性能が、一定の温度条件下で、ある周波数を基準として、その変化率が、0.1〜20Hzの範囲で±50%以内であり、20℃でのGeqを基準として、0℃のときのGeq(t=0℃)と20℃のときのGeq(t=20℃)との比が、Geq(t=0℃)/Geq(t=20℃)≦2.0、かつ、40℃のときのGeq(t=40℃)と20℃のときのGeq(t=20℃)との比が、Geq(t=40℃)/Geq(t=20℃)≧0.5であり、限界変形時の変形量(歪み率)が、0℃〜40℃の範囲で、歪み率≧400%であり、経年相当年数60年において、HeqおよびGeqの変化率が、Heq(60年)/Heq(0年)>0.8、Geq(60年)/Geq(0年)<1.2の範囲であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載した発明によれば、制振ダンパが第一板材および第二板材とそれらの間に充填された弾性材料とで構成されるため、軽量かつ小型化することができる。また、第一の隙間および第二の隙間を形成するように構成することで、制振ダンパを軸組材に取り付けた際に、中空の空間部が形成されるため、空間部に部材や部品を配置することができる。したがって、軸組材同士の接合部に確実に取り付けることができる効果がある。
【0009】
また、第一板材と第二板材とが鋼板で形成されているため、強度を確保することができ、制振ダンパとして確実に耐震性能を確保することができる。また、第一板材および第二板材により、必要最小限の面積で軸組材同士に対して斜めに架設することができるため、材料を削減でき、低コストで耐震性向上に寄与する制振ダンパを製造することができる効果がある。さらに、第一板材および第二板材により軸組材同士に対して斜めに架設するため、第一板材と第二板材との接合面の面積を増減させることで、耐震強度を容易に調整することができる効果がある。
【0010】
さらに、柱と土台との接合部に制振ダンパを取り付ける際に、根太が配置されていても根太と干渉することなく、取り付けることができる。したがって、軸組材同士の接合部に確実に取り付けることができる効果がある。
【0011】
請求項2に記載した発明によれば、柱と土台との接合部に制振ダンパを取り付ける際に、アンカーボルトが配置されていてもアンカーボルトと干渉することなく、取り付けることができる。したがって、軸組材同士の接合部に確実に取り付けることができる効果がある。
【0012】
請求項3に記載した発明によれば、制振ダンパとしての所望の性能を確実に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態を図1〜図4に基づいて説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1〜図3に示すように、制振ダンパ10は、正面視において略台形に形成された第一板材11と、第一板材11と線対称の形状に形成された第二板材13と、第一板材11と第二板材13との間に充填され、第一板材11と第二板材13とを接合している弾性材料15とを備えている。
【0014】
第一板材11は、例えばSS400などの鋼板で形成された板状部材である。第一板材11の平面部17は略台形状に形成されている。また、第一板材11は、平面部17の端部19において略直角に折曲し、さらに延設され、取付部21が形成されている。取付部21には、複数の貫通孔23が形成されており、ネジや釘などを挿通して軸組材に固定できるように構成されている。また、取付部21が形成されている側の反対側の端辺33は、その両端に形成される短辺43および長辺39に対して直角に交わるように形成されている。
【0015】
第二板材13は、第一板材11と略同等の構成であり、例えばSS400などの鋼板で形成された板状部材である。第二板材13の平面部25は略台形状に形成されている。また、第二板材13は、平面部25の端部27において略直角に折曲し、さらに延設され、取付部29が形成されている。取付部29には、複数の貫通孔31が形成されており、ネジや釘などを挿通して軸組材に固定できるように構成されている。また、取付部29が形成されている側の反対側の端辺37は、その両端に形成される短辺45および長辺35に対して直角に交わるように形成されている。
【0016】
また、第一板材11の端辺33の長さと第二板材13の端辺37とは、略同一の長さを有している。さらに、第一板材11と第二板材13とは、第一板材11の短辺43と第二板材13の短辺45とが面一になるように配置され、かつ、第一板材11の長辺39と第二板材13の長辺35とが面一になるように配置されている。つまり、第一板材11と第二板材13とが重なり合っている接合面41は、略長方形(矩形)に形成されている。
【0017】
さらに、第一板材11の取付部21における短辺43側の端部と第二板材13の取付部29が形成されている面との間には第一の隙間W1が形成され、第二板材13の取付部29における短辺45側の端部と第一板材11の取付部21が形成されている面との間には第二の隙間W2が形成されている。なお、第一の隙間W1と第二の隙間W2とで形成される領域が空間部50として構成されている。空間部50は、正面視において直角三角形状に構成されている。
【0018】
そして、第一板材11と第二板材13との間には、弾性材料15が充填されている。弾性材料15は、例えば、アクリル系、シリコン系、アスファルト系、ゴム系などの高分子材料を原料とした材料またはそれらの複合材料で構成されている。弾性材料15により第一板材11と第二板材13とが接合されている。弾性材料15は、接合面41の略全面に充填されている。
【0019】
ここで、弾性材料15について詳細に説明する。
一般に、粘弾性体(弾性材料)は、振幅の増加に連れて剛性が増加して抵抗力が高くなる。振幅が大きくなるに連れて剛性が大きくなる性質を有する粘弾性体の場合、建物の加速度応答や各部応力の過大な上昇が生じる。したがって、制振ダンパ10用の粘弾性体としては、振幅が増加しても剛性の増加が頭打ちになる性質を有する粘弾性材料で形成されたものが好ましい。また、制振ダンパ10用の粘弾性体としては、交通振動などの環境振動から台風時の風揺れ、或いは、大地震に至るまでの幅広い振動領域で機能する必要があるため、歪み依存性は小さいことが好ましい。
【0020】
表1に示すように、本粘弾性体は、0.125≦γ(剪断歪)≦3.0の領域下において、Heq(等価粘性減衰定数(等価減衰定数))>0.24 と安定したエネルギー吸収能力を持ち、振幅が増加しても、γ=3とγ=1のGeq(等価剪断弾性率)の比が、0.40≦{Geq (γ=3.0)}/{Geq(γ=1.0)}<0.60と減少する。この比が、0.6を超えると、建物の加速度応答が上昇し、建物各部の部材に過大な応力負担が生じ、制振ダンパ10の最適化設計が難しくなる。また、この比が、0.4を下回ると、建物全体の剛性の一部を制振ダンパ10の剛性が負担する寄与が減り、建物部材のコストダウンが難しくなる。
ここで、Geq(等価剪断弾性率)=Keq/(S/D)で求められる。
なお、γは剪断歪であり、図5に示すように、粘弾性体の剪断変形量dを粘弾性体の厚さtで除したものである(γ=d/t)。また、Heq及びGeqは、粘弾性体を剪断変形させる正弦波加振を行い、その際の図6に示す履歴ループ(ヒステリシス曲線)を求め、次式に基づいて算出されるものである。
Heq=ΔW/2πW
W:剪断変形の弾性エネルギー(N・mm)(図6中の斜線部分の面積)
ΔW:剪断変形により吸収するエネルギーの合計(N・mm)(図6中の楕円部分の面積)
Geq=Keq/(S/D)=F/UBE/(S/D)
F:最大変位を与えるときの荷重(N)
BE:最大変位(mm)
S/D:試験体の形状係数(サンプル剪断面積/サンプル剪断隙間)
【0021】
【表1】

【0022】
また、表2に示すように、一般的な粘弾性体は、振動周波数の増加に伴ってGeq(N/mm2)が著しく大きくなる。例えば、20℃では、振動周波数0.1Hzのときと2.0HzのときとではGeqの値が2〜3倍となる。交通振動の卓越周波数は通常4〜7Hzに分布し、地震動は0.1〜20Hz程度に分布するため、制振ダンパ10用の粘弾性体としては、より入力周波数分布領域が広範囲に及ぶ地震動に対して、剛性や減衰性能の点で比較的安定した性質を備えていることが好ましい。
【0023】
一般的な粘弾性体の減衰性能は、概ねその剛性(ここでは、Geq)と減衰定数(ここではHeq)との積で表現することができる。
本粘弾性体は、一定の温度条件下で、この積の値が、ある周波数を基準として0.1〜20Hzの範囲で±50%以内となる。この範囲が±50%を超えると入力周波数分布領域が広範囲に及ぶ地震動(0.1〜20Hz程度の分布)に対して、剛性や減衰性能の点で安定した性質を発現することが難しい。
【0024】
【表2】

【0025】
また、表3に示すように、一般的な粘弾性体は、低温時に剛性が高くなり、高温時に剛性が低くなる。日本は一年を通じて気温の変化が大きく、制振ダンパ10用の粘弾性体としては、0〜40℃程度の温度範囲に対して、剛性や減衰性能の点で比較的安定した性質を備えていることが好ましい。
本粘弾性体は、20℃でのGeqを基準として、低温側は0℃のときのGeq(t=0℃)と20℃のときのGeq(t=20℃)との比が、Geq(t=0℃)/Geq(t=20℃)≦2.0 であり、且つ、高温側は40℃のときのGeq(t=40℃)と20℃のときのGeq(t=20℃)との比が、Geq(t=40℃)/Geq(t=20℃)≧0.5となる。
【0026】
また、建物を設計する際の剛性は、低温時に高くなる粘弾性体のGeq(t=0℃)に耐えうる剛性が必要である。ここで、Geq(t=0℃)/Geq(t=20℃)が、上記の2.0を越える場合は、建物の剛性が過大な設計となり大幅なコストアップとなる。また、Geq(t=40℃)/Geq(t=20℃)が、上記の0.5を下回る場合、40℃における減衰性能(剛性と減衰定数の積)が、小さくなり、安定した減衰性能を得ることが出来ない。このように温度によって、粘弾性体の剛性が大きく変化すると、建物への取り付け位置も内壁等の温度変化の少ない場所に限定され、設計の自由度も減る。
【0027】
【表3】

【0028】
さらに、表4に示すように、一般的な粘弾性体は、建物の変形に追随し、安定した性能を発現するためには、0℃〜40℃の環境下、γ(剪断歪)≦3.0の領域下において、水平力の低下がないことが必要である。本粘弾性体は、限界変形時の変形量(歪み率)が、0℃〜40℃の範囲で、歪み率≧400%を発現する。歪率が400%を下回るような粘弾性体は、大地震時の建物変形に追随出来ず粘弾性体の破断が起こる。
【0029】
【表4】

【0030】
そして、一般的に粘弾性体の経年変化は、表5に示すように、アレニウス則により得られた20℃での経年に相当する老化条件にて加熱促進劣化を行ったあと、粘弾性体の厚みに対して100%の正負の水平変位を、周波数0.1Hz、温度20℃の環境下で与え、Heq、Geqを求める。なお、アレニウス則から展開して得られる温度と時間の関係式は、下記で与えられる。
ln(L20/L)=(1/t20−1/t)・(Ea / R)
ここで、
20・・・20℃における老化時間(hr)
・・・任意の温度における老化時間(hr)
20・・・温度20℃
・・・任意の温度(℃)
Ea ・・・活性化エネルギー(粘弾性体材料固有の値)
R ・・・気体定数
以上より促進劣化試験条件:80℃×7日とした。
本粘弾性体の経年変化は、一般的な建物に求められる耐久年数に相当する。経年相当年数60年の促進劣化試験において、Heq、Geqの変化率が、Heq(60年)/Heq(0年)>0.8、Geq(60年)/Geq(0年)<1.2の範囲となり、経年相当年数60年を経過しても、充分に制振性能を保持している。しかしながら、Heq、Geqの変化率が、上記の範囲を外れる場合は、制振ダンパ10の機能が落ちているため、経年相当年数60年以前に交換が必要となる。
【0031】
【表5】

【0032】
以上のように本制振ダンパ10に用いられる粘弾性体が、好ましい歪依存性、周波数依存性、温度依存性、限界性能、及び経年変化のいずれをも備え、これにより優れた制振性能を発現する。
これらの制振ダンパ10に用いられる粘弾性体は、特に、主鎖にC−C結合を有するポリマーからなる基材ゴムに、該基材ゴム100質量部に対して100〜150質量部のシリカと、該シリカの10〜30質量%のシラン化合物と、が添加されて架橋されたゴム組成物で形成されている。
なお、ゴム組成物(粘弾性体)は、上記各成分を、例えば密閉式混練機などを用いて混練することによって得られる。そして、制振ダンパ10に用いる場合には、例えば得られたゴム組成物をローラヘッド押出機などを用いてシート状に成形するとともに、成形したシートを所定の形状に打ち抜いた後、そのシートを所定の厚みを有するように複数枚積層した状態で、所定の型内で加熱して、例えば加硫成形することによって製造することができる。
【0033】
また、上述した各特性値の測定は、制振ゴム試験体を用いて実施した。この制振ゴム試験体は、例えば自己粘着性のものや一般的な接着剤を用いて一対の鋼板と接着することにより形成することができるが、接着への信頼性の観点から加硫接着により接合した。例えば、未加硫の制振ゴム(粘弾性体)を所定の形状を有するように押出した後、切断し、予備成形した状態で所定の型内で加熱して加硫成形するとともに、このプレス加硫と同時に加硫接着させることにより、制振ゴム試験体を製造した。
そして、製造した制振ゴム試験体を、(株)島津製作所製 EHF-EV020K2-040-1 A型サーボパルサー耐久試験機に、2個の試験体が鋼板を介して挟持されるようにセットし、上述のGeqなどの測定を実施した。
【0034】
次に、制振ダンパ10を木造構造体に設置した場合について、図4に基づいて説明する。
図4に示すように、木造構造体の1階床面の外周にはコンクリートなどで形成された図示しない基礎の上方に、木製の角材で構成された土台51が略水平に略全周に亘って設けられている。また、土台51の上方には適宜間隔をおいて略垂直方向に木製の角材で構成された柱53が立設されている。土台51と柱53とは互いの接合部55に形成された図示しない嵌合部を嵌め合わせることにより接合されている。
【0035】
また、1階床面を構成する図示しない大引や根太が略碁盤目状に適宜配設されている。根太57は、土台51上に端部が載置されるように配置される。ここで、図4に示すように、根太57の一部が、土台51と柱53との接合部55近傍に配置されている。
【0036】
上述のような構成の箇所に制振ダンパ10が設けられている。制振ダンパ10は、第一板材11の取付部21が土台51の上面59に接するように配置され、取付部21の貫通孔23に釘などを打ち込むことにより第一板材11と土台51とが接合されている。また、第二板材13の取付部29が柱53の表面61に接するように配置され、取付部29の貫通孔31に釘などを打ち込むことにより第二板材13と柱53とが接合されている。このように木造構造体に制振ダンパ10を簡単に取りつけることができる。このとき、制振ダンパ10は、土台51と柱53との間を斜めに架設するようになる。
また、制振ダンパ10を土台51と柱53との間を架設するように取り付けると、土台51、柱53および制振ダンパ10に囲われた位置に空間部50が位置するように構成される。
【0037】
このとき、制振ダンパ10に形成された空間部50に根太57が位置しており、制振ダンパ10と根太57とが干渉することなく取り付けられている。
なお、柱53と図示しない梁との接合部など、軸組材同士の接合部にも同様に制振ダンパ10が適宜取り付けられている。
【0038】
また、土台51と基礎とを接合するには土台51の上面59から基礎に向かってアンカーボルト63を打設して接合する。このアンカーボルト63は木造構造体の1階外周に沿って適宜間隔を空けながら土台51側から基礎に向かって打設されている。アンカーボルト63を打設すると、その頭部が土台51の上面59から突出する。ここで、制振ダンパ10の空間部50内にアンカーボルト63が打設されても、アンカーボルト63の頭部が空間部50内に配置できるように構成されている。
【0039】
このような構成において、木造構造体を構成する土台51と柱53との接合部55は完全な剛構造にならないため、地震時などに接合部55近傍が変形する。
接合部55近傍が変形すると、制振ダンパ10の第一板材11と第二板材13とがその地震力を受けて、第一板材11の平面部17および第二板材13の平面部25が互いに相反する方向に回転し、これに伴って弾性材料15がせん断変形することにより、地震エネルギーが吸収され、結果として木造構造体の耐震強度を向上することができる。
【0040】
本実施形態によれば、木造構造体の軸組材同士の接合部近傍に設置する制振ダンパ10において、土台51に固定して突設される第一板材11と、柱53に固定して突設される第二板材13と、第一板材11と第二板材13との間に充填され、第一板材11と第二板材13とを接合する弾性材料15と、を備え、柱53と第一板材11の取付部21における短辺43側の端部との間に第一の隙間W1が形成されるとともに、土台51と第二板材13の取付部29における短辺43側の端部との間に第二の隙間W2が形成されるように構成した。
【0041】
このように構成したため、制振ダンパ10が第一板材11および第二板材13とそれらの間に充填された弾性材料15とで構成され、軽量かつ小型化することができる。また、第一の隙間W1および第二の隙間W2を形成するように構成することで、制振ダンパ10を土台51や柱53などの軸組材に取り付けた際に、中空の空間部50が形成されるため、空間部50に根太57などの部材や部品を配置することができる。したがって、土台51と柱53との接合部55などの軸組材同士の接合部に制振ダンパ10を確実に取り付けることができる。
【0042】
また、第一板材11を取付部21から取付部29に指向するように形成された鋼板製の板材で構成し、第二板材13を取付部29から取付部21に指向するように形成された鋼板製の板材で構成した。
【0043】
このように構成したため、第一板材11と第二板材13とが鋼板で形成され、強度を確保することができ、制振ダンパ10として確実に耐震性能を確保することができる。また、第一板材11および第二板材13により、必要最小限の面積で軸組材同士に対して斜めに架設することができるため、材料を削減でき、低コストで耐震性向上に寄与する制振ダンパ10を製造することができる。さらに、第一板材11および第二板材13により軸組材同士に対して斜めに架設するため、接合面41の面積を増減させることで、耐震強度を容易に調整することができる効果がある。
【0044】
また、第一の隙間W1、第二の隙間W2、第一板材11および第二板材13で構成される空間部50が、少なくとも根太57を挿通可能な大きさを有するように構成した。
【0045】
このように構成したため、土台51と柱53との接合部55に制振ダンパ10を取り付ける際に、根太57が配置されていても根太57と干渉することなく、取り付けることができる。したがって、土台51と柱53との接合部55などの軸組材同士の接合部に確実に取り付けることができる。
【0046】
さらに、空間部50に、接合部55近傍における土台51と基礎とを接合するためのアンカーボルト63を配置可能に構成した。
【0047】
このように構成したため、土台51と柱53との接合部55に制振ダンパ10を取り付ける際に、アンカーボルト63が配置されていてもアンカーボルト63と干渉することなく、取り付けることができる。したがって、土台51と柱53との接合部55などの軸組材同士の接合部に確実に取り付けることができる。
【実施例】
【0048】
上述の制振ダンパ10を用いた実施例について説明する。実施例の説明には、適宜図1〜図4を用いながら説明を行う。
第一板材11および第二板材12は、厚さ3.2mmのSS400からなる鋼板で形成した。それぞれの平面部17および25は、短辺240mm、長辺430mm、高さ92mmの大きさで形成した。それぞれの取付部21および29は、130mm×43mmの大きさで形成した。また、それぞれの貫通孔23および31はφ6mmの孔で形成され、それぞれ11個(6個+5個の2列)ずつ均等配置になるように形成した。
【0049】
このように形成された第一板材11および第二板材13を、第一板材11の短辺43と第二板材13の短辺45とが面一になるように配置し、かつ、第一板材11の長辺39と第二板材13の長辺35とが面一になるように配置した。つまり、第一板材11と第二板材13とが重なり合っている接合面41が、略長方形(矩形)になるように配置した。
ここで、接合部41の大きさは、162mm×92mmになるように第一板材11と第二板材13とを配置した。
【0050】
このように構成することで、空間部50は、正面視において第一の隙間W1および第二の隙間W2がそれぞれ170mmの直角二等辺三角形の大きさで形成される。
また、弾性材料15は、第一板材11と第二板材13との間に充填され、厚さ3mmのゴム系材料で形成した。弾性材料15は、接合面41において、正面視で150mm×80mmの大きさで形成した。
そして、第一板材11の取付部21を土台51に固定設置し、第二板材13の取付部29を柱53に固定設置した。
【0051】
このように制振ダンパ10を木造構造体に設置した状態で加振実験などを実施し、耐震性の向上に寄与することが確認された。
【0052】
尚、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な材料や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態では、第一板材と第二板材の取付部の折曲方向が同じ向きになるようにして配置構成したが、取付部の折曲方向が反対の向きになるように配置構成してもよい。
また、本実施形態では、空間部に根太とアンカーボルトが配置可能な大きさを有する場合の説明をしたが、根太のみが配置可能な大きさであってもよい。
また、本実施形態では、第一板材と第二板材との接合面が長方形になるように互いの板材を配置した場合の説明をしたが、第一板材と第二板材との位置関係をずらして、接合面が正方形になるように配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態における制振ダンパの斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における制振ダンパの正面図である。
【図3】本発明の実施形態における制振ダンパの側面図である。
【図4】本発明の実施形態における制振ダンパを木造構造体に設置した一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態における弾性材料(粘弾性体)のせん断歪を求める概略図である。
【図6】本発明の実施形態における弾性材料(粘弾性体)の履歴ループ(ヒステリシス曲線)である。
【符号の説明】
【0054】
10…制振ダンパ 11…第一板材 13…第二板材 15…弾性材料 21…取付部(第一取付部) 29…取付部(第二取付部) 50…空間部 51…土台(軸組材) 53…柱(軸組材) 55…接合部 57…根太 63…アンカーボルト W1…第一の隙間 W2…第二の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造構造体の軸組材同士の接合部近傍に設置する制振ダンパにおいて、
一方の軸組材に固定して突設される第一板材と、
他方の軸組材に固定して突設される第二板材と、
前記第一板材と前記第二板材との間に充填され、前記第一板材と前記第二板材とを接合する弾性材料と、を備え、
前記他方の軸組材と前記第一板材における前記一方の軸組材との第一取付部との間に第一の隙間が形成されるとともに、前記一方の軸組材と前記第二板材における前記他方の軸組材との第二取付部との間に第二の隙間が形成され、
前記第一板材が、前記第一取付部から前記第二取付部に指向するように形成された鋼板製の板材で構成されるとともに、
前記第二板材が、前記第二取付部から前記第一取付部に指向するように形成された鋼板製の板材で構成され、
前記第一の隙間、前記第二の隙間、前記第一板材および前記第二板材とで構成される空間部が、少なくとも根太を挿通可能な大きさを有していることを特徴とする制振ダンパ。
【請求項2】
前記空間部に、前記接合部近傍における土台と基礎とを接合するためのアンカーボルトを配置可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の制振ダンパ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の前記弾性材料が、
0℃〜40℃環境下、かつ、0.125≦γ(せん断歪)≦3.0の領域下において、
Heq(等価粘性減衰定数(等価減衰定数))が、Heq>0.24であり、
γ=3とγ=1のGeq(等価せん断弾性率)の比が、0.40≦{Geq (γ=3.0)}/{Geq(γ=1.0)}<0.60であり、
前記弾性材料の減衰性能が、一定の温度条件下で、ある周波数を基準として、その変化率が、0.1〜20Hzの範囲で±50%以内であり、
20℃でのGeqを基準として、
0℃のときのGeq(t=0℃)と20℃のときのGeq(t=20℃)との比が、Geq(t=0℃)/Geq(t=20℃)≦2.0、かつ、
40℃のときのGeq(t=40℃)と20℃のときのGeq(t=20℃)との比が、Geq(t=40℃)/Geq(t=20℃)≧0.5であり、
限界変形時の変形量(歪み率)が、0℃〜40℃の範囲で、歪み率≧400%であり、
経年相当年数60年において、HeqおよびGeqの変化率が、Heq(60年)/Heq(0年)>0.8、Geq(60年)/Geq(0年)<1.2の範囲であることを特徴とする制振ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−13775(P2009−13775A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149930(P2008−149930)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000010065)フクビ化学工業株式会社 (150)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】