説明

剛体電車線及びその腐食防止構造

【課題】 異種金属接触によるアルミニウム剛体電車線の腐食や塩分を含んだ環境下での孔食の発生範囲を狭める。
【解決手段】 剛体電車線のアルミニウム製架台1をレールに沿うように長尺に構成し、上片2から一対の脚片3を垂下させた断面略Π形に形成する。トロリ線Tには錫メッキを施す。脚片3の下端にはイヤ片4を連続して設け、両脚片3,3に挿通したボルト5,ナット6で締め付け、イヤ片4,4でトロリ線Tを把持させる。架台1は、接続板9,10と接触する非絶縁部7aを除く表面に絶縁処理を施した絶縁支持部7と、表面に絶縁処理を施さない導電支持部8とを延線方向に接続して構成する。接続板9,10は絶縁支持部7と導電支持部8との継目を渡るように脚片3にあてがい、ボルト11で締付け固定する。絶縁支持部7とトロリ線Tとの接触部で異種金属接触腐食や孔食を防止し、導電支持部8でトロリ線Tへの給電を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は剛体電車線の改良に関し、特にトロリ線との間の異種金属接触腐食や孔食を軽減するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、剛体電車線は、上片と、この上片から垂下させた一対の脚片とを有し、レールに沿って延び、250mm程度の等間隔で脚片間をボルト締めしてトロリ線を把持する長尺のアルミニウム製の架台を備えている(特許文献1参照)。この架台を通じてトロリ線に給電する剛体電車線は、高さ寸法が小さく、軽量であるため、保守の負担軽減及び運転保安面の利点があり、近年地下鉄や狭小トンネルにおいて導入されている。しかし、トロリ線には銅又はステンレスが用いられるため、剛体電車線のアルミニウム製架台とトロリ線との接触部に水滴が付着すると、異種金属接触腐食が生じ、架台は著しく腐食する。
これに対して、非特許文献1に記載のように、トロリ線の外周面にすずメッキを施すことが提案されている。しかし、このトロリ線を上記架台で支持する場合、塩分を含んだ水が付着すると、架台との接触部に介在するすずメッキが架台側に拡散し、架台に孔食が発生することがあり、海岸付近の環境下での異種金属接触腐食の対策として十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−9896号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】平成17年電気学会産業応用部門大会発表論文「剛体電車線用アルミニウム架台とすずめっきトロリ線間の腐食劣化進展機構の検証」III−237頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、上記従来の剛体電車線の問題を解決し、アルミニウム剛体電車線の異種金属接触腐食や孔食の発生範囲を可及的に減縮させて、給電性能を確保しつつ、アルミニウム剛体電車線の耐久性を向上させ、保守の負担軽減及び運転保安面での信頼性の向上を図る剛体電車線を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明においては、上記課題を解決するため、上片2と、この上片から垂下させた脚片3とを有し、レールに沿って延び、脚片3の下端に設けられたイヤ片4にトロリ線Tを把持可能なアルミニウム又はその合金からなる架台1を備え、この架台1を通じてトロリ線Tに給電するように剛体電車線を構成する。架台1は、延線方向に絶縁支持部7と導電支持部8とを接続して、電気的に導通させ、絶縁支持部7はトロリ線Tを電気的に絶縁しつつ支持し、導電支持部8はトロリ線Tを電気的に接続しつつ支持するようにした。
絶縁支持部7は、導電性の接続部材9,10を介して導電支持部8に接続し、この接続部材9,10との接触部を除いて、表面に絶縁処理を施した。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、絶縁支持部においてトロリ線との異種金属接触腐食や孔食を防止することができ、剛体電車線の耐久性を向上させることができ、また絶縁支持部と導電支持部は電気的に導通させるので、架台内部の導電性能を確保でき、導電支持部を通じてトロリ線へ確実に給電できる。また、異種金属接触腐食や孔食については導電支持部のみを重点的に点検すれば足りるので、必要に応じて導電支持部を交換する等により簡単かつ迅速に対応することができ、保守の負担を軽減することができる。
絶縁支持部の表面に絶縁処理を施すことにより、地下鉄のホームで誤って金属風船が放たれた場合などに、絶縁支持部によって地絡による電車の運行障害を回避でき、電車運行上の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】剛体電車線の斜視図である。
【図2】剛体電車線の正面図である。
【図3】剛体電車線の平面図である。
【図4】剛体電車線の側面図である。
【図5】剛体電車線の接続部の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1ないし図4において、剛体電車線の架台1は導電性金属であるアルミニウム又はアルミニウム合金で構成され、レールに沿って延びる長尺体である。架台1は横方向の板面を有する上片2から縦方向の板面を有する一対の脚片3を垂下させた断面略Π形をなす。
【0010】
脚片3の下端には対向する他方側へ斜め下方に延出するイヤ片4が連続している。イヤ片4はトロリ線Tの上部両側の把持溝に係合してトロリ線Tを把持する。上片2の中央には肉薄部を設け、可撓性をもたせている。両脚片3,3の下部のボルト挿通孔3aに挿通したボルト5にナット6を締め込むと、両脚片3,3間を締め付け、イヤ片4,4でトロリ線Tを把持する。
【0011】
架台1は、表面に絶縁処理を施した絶縁支持部7と、表面に絶縁処理を施さない導電支持部8とが延線方向に接続されて構成される。絶縁支持部7は、架台1を構成する型材の表面に一部を除いて絶縁材を塗布したもので、イヤー片4でトロリ線Tを把持するが電気的に直接接触しない。絶縁支持部7における接続板9,10との接触部分にはマスキングして絶縁材を塗布しない非絶縁部7aを形成する。導電支持部8はイヤー片4でトロリ線Tを把持することによりトロリ線Tに電気的に接続して架台1を通じて給電することができる。絶縁支持部7と導電支持部8との継目には接続板9,10を用いて接続する。接続板9,10は短冊状のアルミニウム又はアルミニウム合金材で、絶縁支持部7と導電支持部8との継目を跨るように脚片3に当てがわれ、脚片3をそれぞれ挟み込んで、ボルト11を貫通させて締付け固定される。接続板9,10は、絶縁支持部7と導電支持部8とを機械的に接続すると共に、非絶縁部7aを介して絶縁支持部7と導電支持部8とを電気的に接続することにより、架台1を通じたトロリ線Tへの電力供給に必要な通電容量を確保する。接続板9,10及び脚片3にはボルト孔9a、10a,3bが穿ってある。接続板9,10の下辺は脚片3の鍔上に載り、上辺は前後端部で傾斜し、上片2の下面とイヤ片4の上面との間の方形空間への挿入を容易にするほか、圧入により上片2の下面とイヤ片4の上面に強く当接させて、継目部の剛性を高め、継目部における下方への撓みを防ぎ、トロリ線の継目に段差が生じないようになっている。
【0012】
この剛体電車線においては、架台1を構成する絶縁支持部7におけるイヤ片4とトロリ線Tとの接触部で異種金属接触腐食や孔食を防止するので、剛体電車線の耐久性が向上する。また、絶縁支持部7と導電支持部8とは、非絶縁部7a及び接続板9,10を介して電気的に接続し、架台1の導電性能を確保でき、導電支持部8のイヤ片4を通じてトロリ線Tに確実に給電する。架台1に対する異種金属接触腐食や孔食の点検作業については、導電支持部8とトロリ線Tとの接触部を重点的に行えば足り、必要に応じて導電支持部8のみを交換する等により簡単かつ迅速に対応することができるので、保守の作業負担を大幅に軽減する。しかも、地下鉄のホームで誤って放たれた金属風船が架台1に接触しても、架台1の大半を占める絶縁支持部7によって地絡を防ぎ、運転障害を未然に防止する。
【0013】
なお、上記実施形態では架台に断面形状がΠ形のものを適用したが、本発明はこれに限定されることはなく、単一の脚片に別体のイヤ片をボルト止めするT形のものについても、絶縁支持部と導電支持部とで構成して同様に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明はトロリ線との接触部における剛体電車線の異種金属接触腐食及び孔食の発生範囲を減縮するのに有効である。
【符号の説明】
【0015】
1 架台
2 上片
3 脚片
4 イヤ片
5 ボルト
7 絶縁支持部
8 導電支持部
9 接続板
10 接続板
11 ボルト
T トロリ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上片と、この上片から垂下させた脚片とを有し、レールに沿って延び、脚片の下端に設けられたイヤ片にトロリ線を把持可能なアルミニウム又はアルミニウム合金からなる架台を具備し、架台を通じてトロリ線に給電する剛体電車線において、
前記架台は、延線方向に接続され電気的に導通する絶縁支持部と導電支持部とを具備し、前記絶縁支持部はトロリ線を電気的に絶縁しつつ支持し、前記導電支持部はトロリ線を電気的に接続しつつ支持することを特徴とする剛体電車線。
【請求項2】
前記絶縁支持部は、導電性の接続部材を介して導電支持部に接続され、この接続部材との接触部を除いて、表面に絶縁処理が施されることを特徴とする請求項1に記載の剛体電車線。
【請求項3】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、上片と、この上片から垂下させた脚片とを有し、レールに沿って延ばし、脚片の下端に設けられたイヤ片にトロリ線を把持可能な架台を具備し、この架台を通じてトロリ線に給電する剛体電車線の構造であって、
前記架台は、トロリ線を電気的に絶縁しつつ支持する絶縁支持部に、トロリ線を電気的に接続しつつ支持する導電支持部を、延線方向に介在させることを特徴とする剛体電車線の腐食防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−195247(P2010−195247A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43499(P2009−43499)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)