説明

剛体電車線支持装置

【課題】 剛体電車線の延線方向の伸縮に伴う変位を円滑に許容してトロリ線の高さ変化を抑制する支持装置を提供すること。
【解決手段】 剛体電車線M,Mを支持する支持装置1を、トンネルの天井に取付部材Sを介して取り付けるように構成する。支持装置1は、取付部材Sに水平にボルト止めする支持枠2と、支持枠2の延線直交方向の両側下部にそれぞれ設けたフランジ支持部3と、フランジ支持部3上に固定され剛体電車線M,Mのフランジ部M11,M21を載せ受ける接触体7とを具備する。フランジ支持部3は、ブラケット5を介して互いに対向する水平の棚板6を備える。棚板6の段差部6a上にボルト8で接触体7を固定する。接触体7は固体潤滑剤を埋め込んだ高力黄銅系合金製で構成し、この上に支持する剛体電車線M,Mとの摩擦抵抗が小さく、円滑な相対変位を許容するので、トロリ線Tの高さ変化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、狭小なトンネルの内部などでトロリ線を把持する剛体電車線をトンネルの天井部から支持するための支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、剛体電車線を支持するものとして、特許文献1に記載の支持部材がある。この剛体電車線の支持部材は、トンネルの天井に軌道に沿って相互間隔をおいて複数固定され、左右に並行する二本の剛体電車線を同時に支持する。剛体電車線は長尺のアルミ型材で、下部にトロリ線を把持する把持部を有し、上部には水平方向のフランジ部を有する。支持部材は、各剛体電車線についてフランジ部の下部を支える一対の支持部を有する。剛体電車線は、この支持部上にフランジ部を載せ置くことにより支持され、延線方向への移動を妨げられない構造になっている。剛体電車線には、断面形状がΠ型のものとT型のものとがあるが、いずれも上部にフランジ部を有し、同様の支持方法で支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−008038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トロリ線を支持する剛体電車線は大きな自重を有するため、上記従来の支持装置におけるように、支持部上に剛体電車線のフランジ部を直接載せ置いて支持する構造であると、フランジ部と支持部との間の摩擦抵抗が過大になる。このため、温度変化に伴う伸縮による剛体電車線の延線方向の変位が支持部で妨げられることになり、その結果、支持部間で剛体電車線に撓みが生じ、トロリ線の高さ変化を大きくする原因となる。
したがって、この発明の課題は、剛体電車線の必要な変位を円滑に許容してトロリ線の高さ変化を抑制する支持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の剛体電車線支持装置は、支持構造物にほぼ水平に固定される支持枠2と、この支持枠2の延線直交方向の両側下部に取り付けられる一対のフランジ支持部3と、このフランジ支持部3上に取り付けられ剛体電車線M,Mのフランジ部M11,M21を載せ受ける接触体7とを具備する。接触体7は、剛体電車線M,Mのフランジ部M11,M21を相対転動又は低摩擦滑動させることにより、剛体電車線M,Mの延線方向への変位を円滑に許容する。
支持枠2の延線直交方向の両側に、剛体電車線M,Mのフランジ部M11,M21の側面に接触して相対転動又は低摩擦滑動させる副接触体を設けた。
フランジ部M11,M21の低摩擦滑動を許容する接触体7及び副接触体は、選択的に、固体潤滑剤を埋め込んだ高力黄銅系合金、フッ素樹脂、MCナイロン(登録商標)で構成する。
フランジ部M11,M21の円滑な相対転動を許容する接触体としては、フランジ部の下面を転動するように回転自在に軸支されたローラ14を用いる。
フランジ部M11,M21の円滑な相対転動を許容する副接触体としては、フランジ部M11,M21の側面を転動するように水平方向に回転自在に軸支された副ローラ20を用いる。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、この支持枠2の延線直交方向の両側下部に、一対のフランジ支持部3,11を設け、これに接触体7,14を設けることにより、剛体電車線M,Mのフランジ部M11,M21を接触体7,14上に、円滑に相対移動できるように載せ受けるから、剛体電車線M,Mの温度変化による変位の妨げにならず、トロリ線Tの高さ変化を抑制することができる。
また、支持枠2の延線直交方向の両側下部に副ローラ20のような副接触体を設け、剛体電車線M,Mのフランジ部M11,M21の側面に接触させるので、剛体電車線M,Mがさらに円滑に相対移動できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1実施形態に係る剛体電車線装置の縦断面図である。
【図2】第1実施形態に係る剛体電車線装置の側面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る剛体電車線装置の縦断面図である。
【図4】第2実施形態実施形態に係る剛体電車線装置の側面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る剛体電車線装置の縦断面図である。
【図6】第3実施形態に係る剛体電車線装置の側面図である。
【図7】第3実施形態に係る剛体電車線装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して本発明の第1の実施形態を説明する。
図1,図2において、支持装置1は、支持構造物であるトンネルの天井に電車の進行方向に相互間隔をおいて複数固定される。図1に実線で示す剛体電車線Mは断面形状がΠ型のもの、仮想線で示す剛体電車線Mは断面形状がT型のものであるが、いずれも上部に水平のフランジ部M11,M21を有する。支持装置1は、このフランジ部M11,M21を載せ受けて支持する構造であるため、両タイプの剛体電車線M,Mに共通に適用することができる。
【0009】
支持装置1の支持枠2は、トンネルの天井に碍子を介して固定される取付部材Sの下に固定される。支持枠2は、ほぼ水平に固定される矩形板状の部材であり、取付部材Sにボルト止めするためのボルト孔2aを備えると共に、両側下部に一対のフランジ支持部3を備える。
各フランジ支持部3は、支持枠2の下部にボルト4で直角に固定されたブラケット5と、ブラケット5の下部から、他方のブラケット5に向かって水平に固着された棚板6と、棚板6上に固定された接触体7とを具備する。棚板6は、内方の縁に段差部6aを有し、この段差部6a上に接触体7が、ボルト8で固定される。接触体7は、固体潤滑剤を埋め込んだ高力黄銅系合金プレートで構成され、剛体電車線M,Mとの接触抵抗が小さく、剛体電車線M,Mの円滑な相対変位を許容する。なお、接触体7は、フッ素樹脂やMCナイロン(登録商標)で構成するものでもよく、要するに剛体電車線Mの円滑な相対変位を妨げない摩擦抵抗の小さい材料であればよい。
【0010】
この支持装置1は、剛体電車線M,Mのフランジ部M11,M21を接触体7に載せ受けて支持する。摩擦抵抗の小さい接触体7は、剛体電車線M,Mの変位を妨げることなくその温度伸縮を許容するので、トロリ線Tの高さ変化を抑制することができる。
【0011】
本発明の第2の実施形態を図3,図4に示す。なお、以下において、図中、先の実施形態と同一の構成部分については同一符号を付して説明を省略する。
同図において、支持装置10は、支持枠2の両側下部にそれぞれ固定された一対のフランジ支持部11を有する。フランジ支持部11は、支持枠2にボルト12で固定されたブラケット13を有する。ブラケット13に、接触体としての高剛性ローラ14が回転自在に支持されている。ブラケット13には、軸受け15が組み込まれ、ローラ14の軸14aを回転自在に支持する。
【0012】
この支持装置10においては、剛体電車線M,Mのフランジ部M11,M21をローラ14上に支持する。ローラ14は、剛体電車線M,Mの延線方向の伸縮に伴って転動し、その伸縮を円滑に許容する。
【0013】
本発明の第3の実施形態を図5ないし図7に示す。
同図において、支持装置16には、支持枠2にフランジ支持部11を電車線延線方向前後に挟んで隣接する副接触体である高剛性の副ローラ20を具備する。各副ローラ20は、支持枠2を間に対向し皿ねじ18で固定される上下一対のブラケット板17,17間に組み込まれた軸受け19に抜け止めされつつ水平方向に回転自在に軸支される。ローラ14上に支持された剛体電車線M,Mが延線方向に伸縮すると、その変位の途上で副ローラ20が剛体電車線M,Mのフランジ部M11,M21の側面に接触しても、抵抗なく自由に転動するので伸縮を円滑に許容する。
【0014】
なお、本発明の第3の実施形態において剛体電車線M,Mのフランジ部M11,M21の側面に接触する副接触体は副ローラ20で構成したが、これに代えて、第1の実施形態における接触体である固体潤滑剤を埋め込んだ高力黄銅系合金プレート、又はフッ素樹脂やMCナイロンを採用してもよく、要するに副接触体は接触体と同じく剛体電車線Mの円滑な相対変位を妨げない摩擦抵抗の小さい材料であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0015】
この発明は、狭小なトンネルの内部などでトロリ線を支持する剛体電車線を伸縮可能に支持するのに有効な剛体電車線支持装置である。
【符号の説明】
【0016】
1 支持装置
2 支持枠
2a ボルト孔
3 フランジ支持部
5 ブラケット
6 棚板
7 接触体
10 支持装置
11 フランジ支持部
13 ブラケット
14 ローラ
16 支持装置
17 ブラケット
20 副ローラ
S 取付部材
剛体電車線
11 フランジ部
剛体電車線
21 フランジ部
T トロリ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部にトロリ線を把持する把持部を有し、上部に水平方向のフランジ部を有する延線方向に長尺の剛体電車線を、鉄道線路の上方の支持構造物に、延線方向に相互間隔をおいて支持する剛体電車線支持装置であって、
前記支持構造物にほぼ水平に固定される支持枠と、
この支持枠の延線直交方向の両側下部に取り付けられる一対のフランジ支持部と、
このフランジ支持部上に取り付けられ、剛体電車線のフランジ部を載せ受ける接触体とを具備し、
前記接触体は、剛体電車線のフランジ部を相対転動又は低摩擦滑動させることにより、剛体電車線の延線方向への変位を円滑に許容することを特徴とする剛体電車線支持装置。
【請求項2】
前記支持枠の延線直交方向の両側には、剛体電車線のフランジ部の側面に接触して相対転動又は低摩擦滑動させる副接触体を具備することを特徴とする請求項1に記載の剛体電車線支持装置。
【請求項3】
前記接触体又は副接触体の少なくとも一方は、固体潤滑剤を埋め込んだ高力黄銅系合金で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の剛体電車線支持装置。
【請求項4】
前記接触体又は副接触体の少なくとも一方は、フッ素樹脂で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の剛体電車線支持装置。
【請求項5】
前記接触体又は副接触体の少なくとも一方は、MCナイロン(登録商標)で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の剛体電車線支持装置。
【請求項6】
前記接触体は、フランジの下面を相対転動するように、回転自在に軸支されたローラであることを特徴とする請求項1に記載の剛体電車線支持装置。
【請求項7】
前記副接触体は、フランジの側面を相対転動するように、回転自在に軸支されたローラであることを特徴とする請求項2に記載の剛体電車線支持装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−168029(P2010−168029A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183353(P2009−183353)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年12月1日 財団法人研友社発行の「鉄道総合技術論文誌「鉄道総研報告」(第22巻第12号)」に発表
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)