説明

加熱殺菌済み白色系乳入り食品、その乳風味を向上させる方法、及び白色系乳入り食品用乳風味向上剤

【課題】乳原料の使用量を所定量以下に抑えつつも、乳風味が向上された加熱殺菌済み白色系乳入り食品、加熱殺菌済み白色系乳入り食品の乳風味を向上させる方法、及び白色系乳入り食品用乳風味向上剤を提供すること。
【解決手段】乳及び/又は乳製品と、乳入り食品の乳風味を向上させるのに有効な量の味噌及び/又は酸とを含む加熱殺菌済み白色系乳入り食品は、乳入り食品の乳風味を向上させるのに有効な量の味噌及び/又は酸を含むので、乳及び/又は乳製品の含有量に関わらず、乳風味に優れたものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳及び/又は乳製品を含み、乳風味が改善された加熱殺菌済み白色系乳入り食品、例えば、ホワイトルウ、ベシャメルルウ、カルボナーラソース、チーズクリームソース、クリームシチュー、及びクラムチャウダー等のレトルト処理等を施した食品、それら加熱殺菌済み白色系乳入り食品の乳風味を向上させる方法、並びに白色系乳入り食品用乳風味向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
白色系乳入り食品の一例であるカルボナーラソースは、卵黄やクリーム類、チーズ類等の材料を用いて作られるクリーム状のソースであり、このカルボナーラソースはパスタと和えられてパスタ料理として提供される。一般に、カルボナーラソースは、卵黄、クリーム、チーズ、及びデンプン等の原料を均一に混合し、加熱することにより製造される(例えば、特許文献1参照)。
ここで、カルボナーラソース等の白色系乳入り食品には、より良好な乳風味を付与するために、比較的多くの量の乳及び/又は乳製品(例えば、クリーム類やチーズ類)を添加することが好ましい。しかしながら、一般に、乳及び乳製品は原価が高いため、これらを多量に配合することにより、白色系乳入り食品の価格が高くなってしまう。このため、乳及び乳製品の使用量を抑えつつ、良好な乳風味が付与された白色系乳入り食品を提供することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−109904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、乳原料の使用量を減らした場合でも、乳風味が向上された加熱殺菌済み白色系乳入り食品、加熱殺菌済み白色系乳入り食品の乳風味を向上させる方法、及び白色系乳入り食品用乳風味向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、乳及び/又は乳製品を含む白色系乳入り食品に、味噌及び/又は酸を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
本発明の第一の態様は、乳及び/又は乳製品と、乳入り食品の乳風味を向上させるのに有効な量の味噌及び/又は酸とを含む加熱殺菌済み白色系乳入り食品である。
本発明の第二の態様は、乳及び/又は乳製品を含む加熱殺菌済み白色系乳入り食品に、白色系乳入り食品の乳風味を向上させるのに有効な量の味噌及び/又は酸を配合する加熱殺菌済み白色系乳入り食品の乳風味を向上させる方法である。
本発明の第三の態様は、味噌及び/又は酸を含む、白色系乳入り食品用乳風味向上剤である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の加熱殺菌済み白色系乳入り食品は、乳入り食品の乳風味を向上させるのに有効な量の味噌及び/又は酸を含むので、乳及び/又は乳製品の含有量に関わらず、乳風味に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
<加熱殺菌済み白色系乳入り食品>
本発明の加熱殺菌済み白色系乳入り食品(以下、単に「乳入り食品」と言及することがある)は、乳及び/又は乳製品と、乳入り食品の乳風味を向上させるのに有効な量の味噌及び/又は酸とを含む。なお、本発明の乳入り食品は、必要に応じて、卵黄、及びデンプン等を含んでいてもよい。
なお、本発明において、「白色系乳入り食品」とは、乳及び/又は乳製品を原料として含み、白色系の外観を有する食品であって、具体的には、ホワイトルウ、ベシャメルルウ、カルボナーラソース、チーズクリームソース、クリームシチュー、及びクラムチャウダー等が挙げられる。
また、本発明において、「乳風味」とは、乳のコク及び濃厚感からなる風味をいう。ここで、乳風味には、(1)チーズが持つ自然なコク及び濃厚感からなるチーズ風味(具体的には、香り、コク、及び濃厚感)、(2)クリームが持つ自然なコク及び濃厚感からなるクリーム風味(具体的には、まろやかさ、及びコク)が含まれる。
更に、本発明において、「加熱殺菌済み食品」とは、(1)食品を気密性のある包装容器に充填し、密封した後に加熱殺菌したもの、(2)殺菌処理された食品を、殺菌処理された容器に、無菌環境下で充填密封する無菌充填密封食品をいう。
なお、乳入り食品においては、一般に、高温で行われる殺菌により乳原料が褐変しやすいが、本発明では、乳及び/又は乳製品を多く含まない場合でも優れた乳風味が得られるため、乳入り食品の褐変を低減することができる。
【0008】
[乳及び/又は乳製品]
本発明の乳入り食品は、乳及び/又は乳製品を含む。ここで、「乳」及び「乳製品」とは、乳及び乳製品の成分規格に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号;乳等省令)に規定される乳及び乳製品を含み、具体的には、乳として、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌生山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、及び加工乳を、乳製品として、クリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、たんぱく質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調整粉乳、はっ酵乳、乳酸菌飲料、及び乳飲料を含む。また、「乳」及び「乳製品」には、植物質の原料等を用いて上記に列挙したものに近づけた食品、即ち疑似乳(豆乳等)や疑似乳製品(チーズアナログ等)を含む。
なお、本明細書において、乳及び/又は乳製品は上記に列挙したものを示すが、これらの中でも特に重要な、チーズ及びクリームについて、以下に詳細に説明する。
【0009】
(チーズ)
本発明の乳入り食品に添加されるチーズとしては、特に限定されるものではなく、乳入り食品において目的とされる風味に応じて、適宜選択すればよいが、具体的には、クリームチーズ、カッテージチーズ、クワルクチーズ、モッツァレラチーズ、ハントチーズ、カマンベールチーズ、ブリーチーズ、チルジットチーズ、ミュンスターチーズ、ブリックチーズ、ロックホールチーズ、ブルーチーズ、ゴロゴンゾーラチーズ、スチルトンチーズ、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、プロボロンチーズ、エダムチーズ、エメンタールチーズ、バルメザンチーズ、ロマーノチーズ、ホエーチーズ、及びヌシャーテルチーズ等、従来公知のチーズを挙げることができる。これらのチーズ類は、必要に応じて、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
本発明の乳入り食品におけるチーズ類の添加量は、好ましくは、乳入り食品が以下に示す乳固形分含量の条件を充足する範囲内のものとすればよいが、具体的には、乳固形分換算で0.1質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上0.7質量%以下であることが更に好ましい。チーズ類の添加量を上記の範囲内のものとすることにより、味噌及び/又は酸の添加効果と相まって、チーズの良好な風味に優れた乳入り食品を調製することができる。
(クリーム類)
本発明の乳入り食品に添加されるクリームとしては、乳等省令に記載されたクリームであって、生乳、牛乳、又は特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したものをいい、上記省令におけるクリームの成分規格としては、乳脂肪分18.0%以上、酸度0.20%以上であることが規定されている。
生乳等からクリームを得る方法としては、乳脂肪と脱脂肪との比較差を利用して遠心力により機械的に分離する遠心分離法が一般的であり、遠心分離法に使用される遠心分離機としては、ディスク型の遠心分離機が使用されている。
なお、本発明の乳入り食品には、上記乳等省令に規定されるクリームに代えて、還元クリーム、コンパウンドクリーム、合成クリーム等を用いることもできる。
上記還元クリームとは、バターやバターオイル等の乳脂肪分に脱脂粉乳等の無脂乳固形分、乳化剤、及び水等を添加することにより製造したものをいう。
上記コンパウンドクリームとは、乳脂肪分及び植物性脂肪分に、脱脂粉乳等の無脂乳固形分、乳化剤、安定剤、及び水等を添加することにより製造したものをいう。
上記合成クリームとは、植物性脂肪分に、脱脂粉乳等の無脂乳固形分、乳以外に由来するタンパク質、乳化剤、安定剤、及び水等を添加することにより製造したものをいう。
以上のクリーム類の含有量としては、乳入り食品の全量に対して、乳固形分換算で0.2質量%以上5.5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることが更に好ましい。クリーム類の含有量を上記の範囲内のものとすることにより、乳風味の良好な乳入り食品を得ることができる。
【0010】
(乳固形分含量)
本発明の乳入り食品は、乳及び/又は乳製品の含有量が、乳固形分換算で0.1質量%以上6質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上4質量%以下であることが更に好ましい。ここで、乳及び/又は乳製品の含有量が上記の範囲内のものでも少量である場合、従来公知の乳入り食品では、十分な乳風味が発現しない場合があるが、本発明の乳入り食品は、後述するように味噌及び/又は酸を含むので、乳固形分が上記の範囲内のものでも、十分な乳風味を発現できる。疑似乳や疑似乳製品の場合は、乳等省令に規定される乳及び乳製品を、上記の乳固形分換算の含有量で用いた場合に得られる乳風味が達成される程度の量で含有すればよい。
なお、乳固形分とは、乳及び/又は乳製品に含まれる水分を除いた固形分の含有量を指す。
【0011】
[味噌]
本発明の乳入り食品は、味噌を含有する。本発明の乳入り食品に添加可能な味噌は、従来公知の任意の味噌であればよく、その性状は、液状、ペースト状、粉末状、及び顆粒状等、特に限定されるものではない。
また、本発明の乳入り食品における味噌の含有量は、乳入り食品の乳風味を向上させるのに有効な量であれば特に限定されるものではないが、味噌に含まれる水分を除いた固形分換算で0.2質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上0.7質量%以下であることが更に好ましい。味噌の添加量を上記の範囲内のものとすることにより、乳入り食品に、味噌特有の風味を与えることなく、乳入り食品の乳風味を効果的に向上させることができる。
[酸]
本発明の乳入り食品は、酸を含有する。乳入り食品に使用可能な酸としては、一般に食品製造の分野で使用可能な任意の酸を使用することができ、特に限定されるものではない。具体的には、グルコン酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、乳酸、フマル酸、リン酸、酒石酸、アジピン酸、マレイン酸、ソルビン酸、及びコハク酸等を挙げることができる。これらの酸は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
また、本発明の乳入り食品における酸の添加量は、乳入り食品の乳風味を向上させるのに有効な量であれば特に限定されるものではないが、乳入り食品のpHが5.6以上6.4以下となる量であることが好ましい。酸の添加量を上記の範囲内のものとすることにより、乳入り食品の乳風味を効果的に向上させることができる。なお、乳入り食品のpHを5.6以上6.4以下とする量としては、具体的には、クエン酸換算で0.002質量%以上0.04質量%以下となる量であることが好ましく、0.004以上0.02以下となる量であることが更に好ましい。添加量は酸の種類によって調整すればよい。
なお、ここで、「クエン酸換算」とは、乳入り飲料のpHを所定の値にするために必要な酸の量を、同じpHにするために必要なクエン酸の質量で表した数値をいう。
【0012】
[卵黄]
本発明の乳入り食品には卵黄を添加しても良い。本発明の乳入り食品に使用される卵黄は、一般に流通している卵の卵黄であればいずれの卵黄であってもよい。そのような卵黄としては、具体的には、鶏、鶉、及びアヒル等の家禽類から得られる生卵の卵黄、又はこれを殺菌したもの、冷蔵若しくは冷蔵したもの、酵素処理したもの、フリーズドライ法等により乾燥させたもの、脱糖処理したもの、脱コレステロール処理したもの、若しくは食塩若しくは糖類を加配したものを挙げることができる。本発明の乳入り食品における卵黄の含有量は、乳入り食品全体に対して、生卵換算で0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上8質量%以下であることが更に好ましい。卵黄の含有量を上記の範囲内とすることにより、卵黄のコク味に優れ、且つ滑らかな乳入り食品を得ることができる。
なお、卵黄を乳入り食品に添加する際には、卵黄を含まない粘性液への卵黄の混合を容易にするため、卵黄を水等の希釈剤で希釈してから添加してもよい。
[デンプン類]
本発明の乳入り食品には、デンプン原料として、馬鈴薯デンプン、小麦粉デンプン、コーンスターチ、タピオカデンプン、及びもち米でんぷん等のデンプン、並びにこれらの加工デンプン等を使用してもよいし、小麦粉等、デンプンを含有する食品原料等を添加しても良い。
デンプン類の含有量は、乳入り食品全体に対して、2質量%以上20質量%以下となる量であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下となる量であることが更に好ましい。デンプン類の含有量を上記の範囲内とすることにより、滑らかな食感の乳入り食品を得ることができる。
[水]
本発明の乳入り食品における水の含有量は、乳入り食品全体に対して、50質量%以上98質量%以下であることが好ましく、75質量%以上95質量%以下であることが更に好ましい。
[その他の添加剤]
なお、本発明の乳入り食品には、上記の各原料のほか、食塩、砂糖、又はグルタミン酸ナトリウム等の調味料、グアガム等のガム類、乳化剤、乳化補助剤、各種エキス、食用油脂、黒こしょう等の香辛料、着色料等、公知の添加剤を添加してもよい。これらの各添加剤の添加量は、上記添加剤における通常の添加量を採用すればよい。
以上の卵黄、デンプン類等の原料に係る構成は、乳入り食品がカルボナーラソースの場合に特に好適となる。
【0013】
<加熱殺菌済み白色系乳入り食品の製造方法>
本発明の加熱殺菌済み乳入り食品の製造方法は、上述した本発明の加熱殺菌処理を施した乳入り食品が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、製造方法の一例として以下に、カルボナーラソースの製造方法を例として挙げる。
即ち、カルボナーラソースの製造方法においては、まず(A)デンプン類と水とを含み、卵黄を含まない原料組成物を所定温度以上で加熱して、デンプン類をα化させる卵黄未含有粘性液の調製工程、(B)当該卵黄未含有粘性液の温度を上記所定温度に保持した状態で、卵黄未含有粘性液に卵黄を添加混合する卵黄含有粘性液の調製工程、味噌及び酸の添加工程、並びに充填工程を有し、必要に応じて、ストック工程及びレトルト処理工程を有する。
[(A)卵黄未含有粘性液の調製工程]
まず、卵黄未含有粘性液の調製工程においては、デンプン類と水とを含み、卵黄を含まない原料組成物を所定温度以上で加熱することにより、卵黄未含有粘性液を調製する。上記原料組成物を加熱する際の温度としては、特に限定されるものではないが、70℃以上100℃以下であることが好ましく、85℃以上98℃以下であることが更に好ましい。なお、卵黄未含有粘性液の調製において、原料組成物を加熱する際の加熱手段としては、従来公知の加熱手段を採用すればよく、例えば撹拌手段を備えた加熱釜等を用いて、撹拌しながら加熱してもよい。
ここで、上記卵黄未含有粘性液の調製工程において加熱される原料組成物は卵黄を含まないため、卵黄に含まれる酵素等によりデンプン類が分解されることが無く、デンプン類が適度にα化された、適度な粘度を有する卵黄未含有粘性液を得ることができる。
[(B)卵黄含有粘性液の調製工程]
卵黄含有粘性液の調製工程においては、卵黄未含有粘性液の温度を上記所定温度に保持した状態で、卵黄未含有粘性液に卵黄を添加混合する。卵黄を混合する際、卵黄未含有粘性液の温度が上記所定温度以上に保持されているため、卵黄中に含まれる各種酵素が失活し、デンプン類が分解されることを防止できる。これにより、卵黄含有粘性液においても粘性を十分に維持することができると共に、油浮きやタンパク質の凝集のない均質なカルボナーラソースを得ることができる。なお、卵黄含有粘性液の調製において、卵黄未含有粘性液の温度を所定温度以上に保持する手段としては、従来公知の加熱・保温手段を採用すればよく、例えば撹拌手段を備えた加熱釜等を用いて、撹拌しながら加熱・保温してもよい。
【0014】
[味噌及び酸の添加工程]
カルボナーラソースに味噌及び/又は酸を添加する場合、その添加時期は特に限定されるものではなく、原料の混合時に添加しても、カルボナーラソースの加熱調理中に混合してもよく、充填工程で容器に充填密封されるまでの任意の時期に添加することができ、添加する味噌及び/又は酸の性状に応じて、添加時期を適宜選択することが好ましい。
[ストック工程]
カルボナーラソースを調製した後、充填密封工程の前にストックタンク内でカルボナーラソースを70℃以上の温度で保持するストック工程を有していてもよい。即ち、ストックタンク内でカルボナーラソースを70℃以上の温度で保持することが好ましい。これにより、前工程までに味噌及び他の原料に含まれる各種酵素が完全に失活していなかったとしても、ストック工程で各種酵素を完全に失活させることができ、カルボナーラソースにおける油浮きやタンパク質の凝固を防止できる。
ストック工程におけるカルボナーラソースの保持時間は、例えば1分以上であって、工業的生産であることを考慮すれば、20分から120分程度とすることができる。ストック工程におけるカルボナーラソースの保持温度は、好ましくは70℃以上90℃以下であり、更に好ましくは70℃以上80℃以下である。
なお、ストック工程において使用するストックタンクとしては、特に限定されるものではないが、例えば、保温ジャケット等の保温手段を備えたストックタンクを挙げることができる。このストックタンクには、撹拌手段が備えられていてもよく、カルボナーラソースを容器に充填する充填機と一体となっていてもよい。また、カルボナーラソースを加熱するための加熱釜をストックタンクとして使用してもよい。
[充填工程]
更に、カルボナーラソースを容器に充填密封する充填密封工程を含む。カルボナーラソースの容器への充填は、常法により行えばよい。
[加熱殺菌処理工程(レトルト処理工程)]
本発明のカルボナーラソースの製造方法は、更に、容器に充填密封されたカルボナーラソースをレトルト処理するレトルト処理工程を含んでいてもよい。レトルト処理工程においては、充填密封されたカルボナーラソースに、通常のレトルト処理を施せばよい。レトルト処理の処理条件としては、115℃から125℃で10分から60分の間、加熱する条件を挙げることができる。本発明は、上記のレトルト処理より低温の条件で加熱殺菌処理が施される加熱殺菌済み食品に適用することもできる。
なお、レトルト食品とは別に、無菌充填密封食品を製造する場合には、前記のように製造され、必要によりストック工程を経たカルボナーラソースを、連続式の加熱殺菌機等に通して殺菌処理し、これを殺菌処理された容器に無菌環境下で充填密封すればよい。以上のレトルト処理や連続式の加熱殺菌処理による加熱が、カルボナーラソースを調理する機能を兼ねてもよい。
本発明は、風味劣化や褐変の起こりやすいレトルト処理やのUHT(ultra-high temperature)での無菌充填処理においても、乳入り食品の優れた乳風味が得られ、褐変を低減することができるため、これらに好適である。
【0015】
<加熱殺菌済み白色系乳入り食品の乳風味を向上させる方法>
本発明は、乳及び/又は乳製品を含む食品に、乳入り食品の乳風味を向上させるのに有効な量の味噌及び/又は酸を配合する加熱殺菌済み乳入り食品の乳風味を向上させる方法(以下、単に「乳入り食品の乳風味を向上させる方法」と言及することがある)にも関する。乳及び/又は乳製品を含む食品に、味噌及び/又は酸を配合する際の条件については、乳入り食品の乳風味が向上する範囲で、乳入り食品の製造方法等に記載された条件をそのまま適用することができる。
本発明の乳入り食品の乳風味を向上させる方法によれば、乳及び/又は乳製品を含む食品の乳風味を向上させることができる。
<白色系乳入り食品用風味向上剤>
本発明の乳入り食品に用いられる味噌及び酸は、乳入り食品の乳風味を向上させる効果を有する。このため、味噌及び/又は酸を含む組成物は、白色系乳入り食品用風味向上剤(以下、単に「乳風味向上剤」と言及することがある)として使用することができる。
なお、使用できる味噌及び酸としては、上述した乳入り食品に用いられる味噌及び酸を挙げることができ、乳風味向上剤におけるこれらの成分の含有量も、乳入り食品の乳風味を向上させるという本発明の目的を損なわない範囲で、適宜設定することができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0017】
<実施例1から11、比較例1>
各実施例、及び比較例について、表1又は2に示した原料(数値は原料の質量部を示す)のうち、小麦粉ルウ、チーズペースト、増粘液、ベーコン、調味原料、味噌、クエン酸、香辛料液、及び水を斜軸撹拌加熱機で混合し、95℃達温まで加熱撹拌した。次いで、この温度を保持した状態で、撹拌しながら、卵黄液を添加して得たカルボナーラソースをレトルトパウチに充填密封し、レトルト処理を施した。
得られたレトルトカルボナーラソースのpHを測定すると共に、以下の基準に従って、「チーズの香り」、「チーズのコク及び濃厚感」、「クリームのまろやかさ」、及び「クリームのコク及び濃厚感」を10名のパネリストの官能評価により5段階で評価し、平均値を0.5刻み(少数点以下は繰上げ)にした。
結果を表1及び2にまとめた。
[評価]
(A)チーズの香り
5:食べた瞬間に一口目からチーズの芳醇な香りが広がる
4:5ほど瞬間的には香りが広がらないが、一口目からチーズの芳醇な香りが広がる
3:何口か食べるにつれ、チーズの香りを感じることが出来る
2:チーズの香りと特定出来ない程度にしか香りを感じない
1:チーズの香りを全く感じない
(B)チーズのコク及び濃厚感
5:食べた瞬間に一口目からチーズ特有のコクと濃厚さが感じられる
4:5ほど瞬間的には感じられないが、一口目からコクと濃厚さが感じられる
3:何口か食べるにつれ、チーズのコクと濃厚さが感じられる
2:旨味のような味は感じられるが、チーズのコクと濃厚さは感じない
1:チーズのコクと濃厚さ、旨味のような味も感じない
(C)クリームのまろやかさ
5:クリームのまろやかさで全体がまとまっており、味に一体感がある
4:5ほど全体的にまとまっていないが、味に一体感がある
3:味はほぼまとまっているが、各素材の属性(味噌を含む場合は味噌の臭味、酸を含む場合は酸味が含まれる)が感じられる
2:味のまとまりがよわく、各素材の属性(味噌を含む場合は味噌の臭味、酸を含む場合は酸味が含まれる)がバラバラに感じられる
1:味にまとまりがなく、各素材の属性(味噌を含む場合は味噌の臭味、酸を含む場合は酸味が含まれる)がバラバラに感じられる
(D)クリームのコク及び濃厚感
5:食べた瞬間に一口目からクリームのまったりしたコクと濃厚さが感じられる
4:5ほど瞬間的には感じられないが、一口目からコクと濃厚さが感じられる
3:何口か食べるにつれ、コクと濃厚さが感じられる
2:旨味のような味は感じられるが、クリームのコクと濃厚さは感じない
1:クリームのコクと濃厚さも、旨味のような味も感じない
【0018】
【表1】

【表2】

【0019】
本発明の乳入り食品に該当する実施例のレトルトカルボナーラソースでは、チーズペーストを比較的少量しか使用していないにも関わらず、チーズ風味及びクリーム風味等の乳風味に優れたものであった。
【0020】
<実施例12から14>
各実施例について、表3に示した原料(数値は原料の質量部を示す)の小麦粉ルウ、チーズペースト、調味原料、味噌、クエン酸、クリーム、香辛料液及び水を斜軸撹拌加熱機で混合し、95℃達温まで加熱撹拌して得たクリームシチューをレトルトパウチに充填密封し、レトルト処理を施した。
得られたレトルトクリームシチューのpHを測定すると共に、前記の基準に従って同様に評価した。
結果を表3にまとめた。
【表3】

【0021】
本発明の乳入り食品に該当する実施例のレトルトクリームシチューでは、チーズペーストを比較的少量しか使用していないにも関わらず、チーズ風味及びクリーム風味等の乳風味に優れたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳及び/又は乳製品と、乳入り食品の乳風味を向上させるのに有効な量の味噌及び/又は酸とを含む加熱殺菌済み白色系乳入り食品。
【請求項2】
前記乳及び/又は乳製品の含有量が、乳固形分換算で0.1質量%以上6質量%以下である請求項1の加熱殺菌済み白色系乳入り食品。
【請求項3】
前記味噌の含有量が固形分換算で0.2質量%以上1質量%以下である請求項1又は2の加熱殺菌済み白色系乳入り食品。
【請求項4】
前記酸の含有量が乳入り食品のpHを5.6以上6.4以下にする量である請求項1又は2の加熱殺菌済み白色系乳入り食品。
【請求項5】
前記酸の含有量がクエン酸換算で0.002質量%以上0.04質量%以下である請求項4の加熱殺菌済み白色系乳入り食品。
【請求項6】
前記乳及び/又は乳製品として、チーズを含む請求項1から5のいずれかの加熱殺菌済み白色系乳入り食品。
【請求項7】
前記チーズの含有量が固形分換算で0.1質量%以上1質量%以下である請求項6の加熱殺菌済み白色系乳入り食品。
【請求項8】
乳及び/又は乳製品を含む加熱殺菌済み白色系乳入り食品に、該白色系乳入り食品の乳風味を向上させるのに有効な量の味噌及び/又は酸を配合する加熱殺菌済み白色系乳入り食品の乳風味を向上させる方法。
【請求項9】
味噌及び/又は酸を含む、白色系乳入り食品用乳風味向上剤。

【公開番号】特開2013−85505(P2013−85505A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228054(P2011−228054)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】